「エリザベス ゴールデン・エイジ」
Elizabeth The Golden Age (2007)

 

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英国黄金時代を築いたエリザベス一世の苦悩と葛藤を
CGとアクション満載で描く壮大な歴史エンターテインメント

 あの「エリザベス」に続編が出来ると最初に聞いた時は、そりゃいかがなもんですか・・・というのが正直な感想だった。確かに「ゴッドファーザーPARTU」のように、続編が一作目と肩を並べる傑作だったという実例はあるものの、「明日に向って撃て」然り、「スティング」然りで、失敗した続編の方が圧倒的に多いというのが事実。だいたい続編が面白いのは、「エイリアン」や「スピーシーズ」みたいに、オリジナルのコンセプトをアレンジしやすいSFやホラーだったりするわけだし。
 ましてや、「エリザベス」みたいな歴史劇でシリーズ化なんて聞いたことない・・・なんて思ってたのだが、よくよく考えれば続編ではないにしろ、その昔ベティ・デイヴィスが「女王エリザベス」と「ヴァージン・クィーン」(共に日本では劇場未公開・DVD発売)でエリザベス一世を2回演じているという前例もあるにはある。やはりエリザベス一世のような興味深いキャラクターは、女優としてキャリアの節目に演じてみたくなるものなのかもしれない。
 主演のケイト・ブランシェットにとっても、前回の「エリザベス」は出世作になったわけだし、それから10年近くを経て、その後のエリザベス一世の人間的成長を演じるというのは、己の女優としての成長を確認するという重要な意味を持つのだろう。それに、前作の「エリザベス」は従来の歴史劇の持つかしこまった様式をことごとく排除し、スリルとサスペンスを盛り込んだ宮廷版「ゴッドファーザー」的な作品だったとも言える。そうした側面から見れば、純粋な娯楽作品としてのシリーズ化というのは、別に不自然ではないのかもしれない。

 イングランド女王として即位し、内外の政治に辣腕を振るうエリザベス一世(ケイト・ブランシェット)。しかし、国内の情勢は混沌としており、常に一触即発の状態だった。亡き父ヘンリー8世の遺志を継いでプロテスタントの女王となったエリザベスだったが、依然としてカトリック勢が国家の転覆を狙って暗躍している。しかも、カトリックの総本山であるスペインの国王フェリペ2世(ジョルディ・モリャ)はプロテスタントを神への冒涜であると憎悪しており、その象徴であるエリザベス一世の統治するイングランドの打倒を聖戦と位置づけていた。
 イングランド国内ではフェリペ2世の命を受けた敬虔なカトリック信者たちが、エリザベス一世の暗殺を画策していた。エリザベスの側近であるウィルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)はスパイ網を張り巡らせ、そうした暗殺計画を未然に阻止するため尽力している。宮廷内ではカトリックへの弾圧などの強硬策も提案されたが、エリザベスは“私は民を行いで罰しても、信念では罰しない”と一蹴する。
 このように、エリザベスを取り巻く状況は大変厳しいものがあったが、彼女は揺るぎない信念と威厳でイングランドを一つにまとめようとしていた。また、妹のように可愛がっている侍女ベス(アビー・コーニッシュ)はエリザベスにとって大きな心の支えであり、彼女との無邪気な戯れが日々の不安や苦労を束の間だけでも忘れさせてくれていた。
 そんなエリザベスの前に、ウォルター・ローリー(クライヴ・オーウェン)という男が現れる。彼は新大陸から帰ってきたばかりの探検家だったが、次の航海に必要な資金を提供してもらおうとエリザベスに近づいてきたのだった。その目的を見抜きながらも、ウォルターの歯に衣着せぬ率直さと男らしい逞しさに魅力を感じるエリザベス。ウォルターの方も、女王の聡明さと意志の強さに畏敬の念を覚える。
 その頃、宮廷の周辺ではカトリック勢によるエリザベス一世暗殺へ向けた計画準備が大詰めを迎えていた。彼らは、イングランドに軟禁されている元スコットランド女王メアリー・スチュアート(サマンサ・モートン)を後継者に据えるつもりだった。メアリーもそのつもりで、城に出入りする荷物の中に隠した書簡で事細かく指示を出し、報告を受けていた。そんな中、暗殺団の一員がウィルシンガムのスパイによって捕らえられ、拷問の末に処刑された。その男はベスの従兄弟だった。人知れず悲しみに暮れるベス。そんな彼女に同情を寄せるウォルター。もともとお互いに意識しあっていた二人は、この事件を機に結ばれることとなる。
 一方、仲間が逮捕されたことで危機感を募らせた暗殺団は、いよいよ計画を実行に移すことにする。朝の礼拝に教会を訪れたエリザベスを襲う暗殺者。しかし、その手に握られた銃はなぜか空砲で、エリザベスは無傷だった。以前から内偵を進めていたウィルシンガムは、暗殺団の一味を一斉に検挙する。その中には、彼の実の弟も含まれていた。愛する弟の裏切りを知りつつも、敵を知るためにあえて泳がせていたのだ。さらに、軟禁されているメアリーの関与も実証され、処刑されることとなる。
 このメアリー処刑に憤慨したのが、スペインのフェリペ2世だった。ついに堪忍袋の緒が切れたとばかりに、世界最強の無敵艦隊をイングランドに向けて出航させるフェリペ2世。暗殺者の手にした銃が空砲だったのは、スペインに戦争の口実を与える罠だったのだ。
 その一方で、最後までメアリーの処刑に反対していたエリザベスは、依然として身内で殺しあわねばならないという現実に打ちひしがれていた。秘かに想いを寄せるウォルターの前で、一人のか弱い女としての素顔を見せるエリザベス。しかし、ウォルターとベスが彼女に秘密で結婚し、しかもベスのお腹に子供がいることを知ったエリザベスは激怒し、ウォルターを逮捕させてしまう。
 しかし、スペイン艦隊は既にイングランドの目前に迫っていた。スペインとの全面対決を力強く宣言するエリザベスだったが、その心中は不安と恐怖で今にも押しつぶされそうになっていた・・・。

 前作に引き続いて、監督を手掛けたのはインド人シェカール・カプール。宮廷内に暗躍する陰謀や殺人などをサスペンスフルに描いていくスタイルは、前作からそのまま踏襲されている。とにかく、そのテンポの小気味良いのなんのって、スパイ・アクション並みにスピーディーな展開を見せる。ともすると、歴史劇というのは史実を忠実に再現しようとするあまり退屈になってしまいがちだが、本作は2時間というラニング・タイムが短いとさえ感じるほどテンポが速い。それゆえに、歴史劇の醍醐味とも言える重厚さを感じられないというのが玉に瑕ではあるのだが、ターゲットとする客層が全く違うのだろう。
 そもそも、プロテスタントとカトリックの対立やメアリー・スチュアートの処刑、スペインの無敵艦隊との海戦など、描かれる事件のほとんどが学校の歴史教科書で習うことばかりなので、結果がどうなるのかは見る前から全て分りきっている。その上で、現代の観客に向けたエンターテインメントとしての面白さを出すのであれば、やはりこういうスタイルにならざるを得ないだろう。というよりも、このスタイルで正解なのだ。

 その一方で、登場人物たちの人間描写にも様々な工夫が凝らされている。中でも、個人的にはエリザベスとメアリーの描き方に興味を惹かれたのだが、過去の映画化作品とは一味違ったアプローチが面白かった。これまでに、「メアリー・オブ・スコットランド」でキャサリン・ヘプバーンが、「クイン・メリー/愛と悲しみの生涯」ではヴァネッサ・レッドグレーヴがメアリー・スチュアートを演じているが、いずれも彼女を悲劇のヒロインとして描いていた。しかし、本作でサマンサ・モートンが演じるメアリーは、物静かでストイックな反面で野心家的な顔も持ち合わせた強い女性。暗殺計画に加担していたことがバレた際に、地団太を踏んで悔しがる姿はとても強烈だった。それでも、信仰のために自ら進んで処刑台へと上がっていく様子には威厳が満ち溢れており、エリザベスと相通ずるような誇り高さを持った女性として描かれている。もしかしたら、エリザベスが最後まで彼女の処刑に反対したのは、メアリーの中に自分の姿を垣間見ていたからなのかもしれない。
 その他、ウィルシンガムと弟の関係、エリザベスとウォルターの関係、ベスと従兄弟の関係など、決して単純な善悪やモラルの価値観だけでは語りつくせない人と人のつながりを随所に織り込んでいき、単なる歴史事件の再現ドラマに終わっていないのは好感が持てる。
 また、スペインのフェリペ2世や国内のカトリック勢を狂信的なキリスト教原理主義者として捉え、彼らを現代のテロリストになぞらえて描いているのも面白い。彼らを相手にスパイ戦を繰り広げるウィルシンガムは、さながら中世のジェームズ・ボンド(というよりも立場的にはQ)とも言えるだろう。
 もちろん、当時の宮廷生活を再現した華麗な美術セットや豪華な衣装の数々も見応えたっぷり。また、本作ではスペイン艦隊との壮絶な海戦シーンが描かれていることもあって、CGを使った派手なアクションやスペクタクルも満載。前作以上にスケールの大きな歴史エンターテインメントに仕上がっている。

 

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