エリッサ Elissa
ナワール・エル・ズグビー、ナンシー・アジュラムと並び、アラブ音楽界で最も人気の高い女性ボーカリスト。1998年のデビュー以来、これまでにリリースしてきたCD・カセットのトータル・セールスは約1800万枚にも上るという。アラベスクやライといったアラブの伝統音楽だけでなく、フラメンコのようなラテン音楽からの影響も強く、アイルランド出身のシンガー・ソングライターであるクリス・デ・バーとの共演や、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたチャリティー・コンサートへの出演など、非常にインターナショナルなイメージの強いアーティストでもある。エレガントで大人の色香を漂わせた歌声が特徴で、情熱的なフラメンコ風オリエンタル・ハウスやヨーロッパ風のセンチメンタルなラブ・ソングを歌わせたら天下一品。アラビアン・ポップスという枠に囚われない豊かな音楽性が大きな魅力だ。
1972年10月27日、古代遺跡でも有名なレバノンはベッカー高原に位置する町デイル・エル・アーマルに生まれたエリッサは、本名をエリッシアール・M・コウリーという。国立レバノン大学で政治科学を学んだ後、1992年にテレビのオーディション番組“Studio
el
Fan”へ出場。この番組は数多くの有名歌手を輩出している事で知られており、彼女は見事に銀賞を獲得した。
その後、数年間の下積み時代を経たエリッサは、1998年にシングル“Baddy
Doub(溶けて消えてしまいたい)”でデビュー。スパニッシュ・ギターと男性のカンタ・フラメンコをフューチャーした哀愁系ラテン風オリエンタル・ダンス・ナンバーで、たちまちレバノンのヒット・チャートで1位を獲得した。翌年には同名アルバムもリリースされ、レバノン国内だけで15万枚を売り上げるという大ヒットとなった。
さらに、2000年にはラゲーブ・アラメーとのデュエット“Betghib
Betrouh”が大ヒットし、アルバム“W'akherta
Ma'ak”が160万枚というセールスを記録。2002年のサード・アルバム“Ayshalak”はアラブ語圏だけでなくヨーロッパでもリリースされ、365万枚を売り上げている。また、クリスチャン・ディオールの全面サポートによるプロモーション・ビデオも製作されて話題になった。その他、この年は先述したようにアイルランドのアーティスト、クリス・デ・バーのアルバム“Time
Is Everything”の収録曲“Lebanese
Nights”にゲスト・ボーカルとして参加している。
2003年にはロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたチャリティー・コンサート“ホープ・ガラ”に、サラ・ブライトマン、ホアキン・コルテスらと共に出演。2004年にはアラブ一の資産家として有名なアル・ワリード王子が経営するロターナ・レーベルに移籍。その第一弾に当たるアルバム“Ahla
Donya(最も美しい世界)”は530万枚という驚異的なセールスを記録し、翌年のワールド・ミュージック・アワードを受賞している。また、2006年にリリースされたアルバム“Bastanak(あなたを待っている)”はさらに上を行く620万枚という売り上げで、再びワールド・ミュージック・アワードに輝いている。
最近では、今年に入ってリリースされたライの大御所チェブ・マミとの共演シングル“Halili”が大ヒット。その他、2003年以降はペプシ・コーラのイメージ・キャラクターを務めており、2006年にはクリスティナ・アギレラと共演したCMがアラブ語圏で放送されて話題になったという。
Baddy Doub
(1999) Ayshalak
(2002) Ahla Donya
(2004) Bastanak
(2006) 1,Baddy Doub ビデオ ロターナへの移籍第一弾。正統派のアラブ歌謡をベースに、アラベスクからフラメンコ、ミュゼットなど様々なジャンルのエッセンスを盛り込んだ、ゴージャスでエレガントなアルバムに仕上がっています。レコーディングもロンドンとパリで行われていて、かなりお金がかかっているようですね。70年代のフレンチ・ポップスを思わせる美しいバラード#4や、爽やかで賑やかなミュゼット風ナンバー#7、勇壮でスケールの大きいフラメンコ・ハウス#13がオススメ。
(P)1999 Virgin/EMI Arabia
(UAE)
(P)2002 Music Master
(Lebanon)
(P)2004 Rotana/EMI Arabia
(EU)
(P)2006 Rotana (Saudi
Arabia)
2,Dalolak
3,Hilm
Al Ahlam
4,Waynak Abibi
5,Elissa
6,Chou Ma
Sar
7,Zaalan
8,Ghali
9,Dalolak (Oriental Mix)
10,Hilm Al Ahlam
(French Mix)
produced by Lido Musique
featuring Gerard
Ferrer1,Ayshalak ビデオ
2,Ah Min
Hawak
3,Ajmal Ihssas ビデオ
4,Shaghilni
5,Shiltak
Min Albi
6,Million Ahibbak
7,Baada
8,Kilmit Hob
9,La
Trouh
10,Shou El Hal
produced by Jean-Marie Riachi1,Irjaa Lilshwok
2,Ahla
Donya
3,Koul Youm Fee Oumri ビデオ
4,Khalini
Alish
5,Bein Il Ein
6,Hobak Wajaa (Inta Lameen) ビデオ
7,Kad Ma
Bishtakiak
8,Kan Nafsee Aaraf
9,Zekra
10,Irham Albi
11,Gouwaya
Leik
12,Karibli
13,Law Nirjaa Sawa
produced by
Rotana
executive producer Jean-Marie Riachi1,Bastanak ビデオ ライブ
2,Kermalak ビデオ
3,Fatet
Sineen
4,Zanbi Ana ビデオ
5,Baaich Ala
Hissak
6,Tlob Itmana
7,Taa
8,Matkhafch Minni
9,Hikayti
Maak
10,Law Basset Eddamak
11,Law Kan
12,Law Taarafou ビデオ
executive
producer Dergham Owainati
エリッサのファースト・アルバム。なんだか顔の印象が全然違いますよね(笑)。全編に渡ってフラメンコ歌手兼ギタリストのジェラール・フェレールをフューチャーし、ジプシー・キングス・ミーツ・アラブ歌謡といった雰囲気の作品に仕上がってます。歌詞もアラブ語とスペイン語が入り混じっていて、エキゾチックなムードを高めていますね。ラテン的な哀愁感を漂わせた美しいメロディが魅力で、アラブ音楽初心者でも入りやすい1枚だと思います。
トレードマークであるフラメンコ・スタイルを踏襲しつつ、よりアラブ歌謡の世界に近づいたサード・アルバム。ダンス・ナンバーだけでなく、バラードも素晴らしい仕上がりです。個人的には、華やかでロマンティックな哀愁系フラメンコ・ハウス#5や、超キャッチーでポップなメレンゲ風のラテン・ダンス・ナンバー#8が大好き。中でも、#8はスペインの人気女性デュオ、ソニア&セレナがカバーして大ヒットしたナンバーです。
全体的に、妖艶で官能的なアラビアン・エレクトロ・ポップといった感じに仕上がった最新作。エレクトリックでありながらも、アラブ歌謡独特のオーガニックな叙情性を残しており、非常に耽美的で洗練された音世界を作り上げています。その一方で、レゲトン風のポップでキャッチーなダンス・ナンバー#1やジャジーで退廃的なムードを漂わせたバラード#8など、かなりバラエティに富んだ楽曲が揃っています。600万枚の大ヒットも納得、完成度の高い傑作です。