エレイン・ペイジ Elaine Paige
〜英国ミュージカル界のファースト・レディ〜

 

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 イギリスを代表するミュージカル女優にしてポップ・シンガー。『エヴィータ』の初演でエヴァ・ペロン役を演じて一躍スターダムにのし上がり、『キャッツ』の初演でもグリザベラを演じて“メモリー”を大ヒットさせた。さらに、アバのビヨルンとベニーの2人が手掛けたミュージカル『チェス』にも主演し、バーバラ・ディクソンとデュエットした“I Know Him So Well”は全英チャートで1位を獲得。さらに、エディット・ピアフの生涯を描いたミュージカル『ピアフ』でも大絶賛され、『サンセット大通り』のノーマ・デズモンド役ではアメリカのブロードウェイにも進出した。“英国ミュージカル界のファースト・レディー”と呼ばれ、これまでにローレンス・オリヴィエ賞を筆頭に数多くの演劇賞を受賞。95年には英国王室から勲章まで授与されている。
 その一方で、レコーディング・シンガーとしても活躍。これまでに20枚のアルバムをリリースし、そのうち4枚がプラチナ・ディスクを獲得。残念ながら日本では1枚も発売されたことがないものの、イギリスでは大御所中の大御所として知られているスターだ。
 個人的にミュージカル出身の女性ボーカリストというのは生理的に苦手で、ジュリー・アンドリュースやジュディ・ガーランドなんかもダメ。あの大仰な歌いまわしや“正統派”の歌唱法というのが、どうも胡散臭く感じられてしまう。優等生的というか、学校の先生みたいというか。とにかくナチュラルではないのだ。
 その点で、エレイン・ペイジのボーカルは、ミュージカル・スターとしては意外なくらいに気取りがない。実にナチュラルで瑞々しいのである。もちろん演劇的な表現力は達者なのだが、それをほとんど意識させないさりげなさ、嫌味のなさこそが表現者として彼女の最も優れた点なのではないだろうかと思う。アバのビヨルンとベニーが惚れ込んだのも納得。そのフェミニンで浮遊感と透明感のある歌声は、確かにアグネッタのボーカルを彷彿とさせるものがあると言えるだろう。

 1948年3月5日、ロンドン北部に生まれたエレイン・ペイジは、幼い頃に出会ったミュージカル映画『ウェストサイド物語』に強い影響を受けたという。そんな彼女の才能と熱意を最初に買ったのが小学校時代の教師で、学芸会の舞台ではモーツァルトやヘンデルの歌劇を披露。父親も娘の才能に気付き、演劇学校に進学させた。
 演劇学校を卒業した彼女はモデルの仕事を経て、64年に舞台デビューを果たす。68年にはロンドンのウェストエンドでミュージカルの舞台に立つようになり、『ヘアー』や『ジーザス・クライスト・ザ・スーパースター』などに出演した。次第に大きな役を貰うようになった彼女だったが、本人も“自分のキャリアを操作するのは得意ではない”と語っているように、不器用な性格が災いしてなかなかスターダムにのし上がることが出来なかった。
 そんな彼女に白羽の矢を立てたのが、演劇プロデューサーのハル・プリンス。当時無名だった彼女を、ミュージカル『エヴィータ』の主人公エヴァ・ペロン役に大抜擢したのだ。1978年6月21日、ロンドンのプリンス・エドワード劇場で開演した『エヴィータ』は大絶賛され、エレインはローレンス・オリヴィエ賞など数多くの演劇賞を受賞。たちまちトップ・スターへと躍り出る。当時既に30歳という遅咲きだった。
 さらに、81年にはリハーサル中にアキレス腱を切って降板したジュディ・デンチの代役として、ミュージカル『キャッツ』のグリザベラ役に起用され、彼女が歌う“メモリー”は全英チャート5位にランクされる大ヒットとなった。これでミュージカル・スターとしての地位を不動のものにする。
 84年にはアバのビヨルンとベニー、そして当時恋人だった戯曲家ティム・ライスの組んだミュージカル『チェス』のコンセプト・アルバムに参加。ここからシングル・カットされたバーバラ・ディクソンとのデュエット曲“I Know Him So Well”が全英チャート1位を獲得し、年間チャートでも2位をマーク。女性デュオのシングルとしては史上最高のセールスを記録した。この曲は、後にホイットニー・ヒューストンとシシー・ヒューストン母娘のデュエットでもヒットし、バーブラ・ストレイサンドもカバーしている。
 86年には舞台版『チェス』のステージにも立ち、89年からは自ら製作にも乗り出したコール・ポーターのミュージカル『エニシング・ゴーズ』に出演。93年には『ピアフ』に主演し、批評家に大絶賛された。94年にはミュージカル『サンセット大通り』のノーマ・デズモンド役に抜擢され、そのアメリカ公演で念願のブロードウェイにも進出。その後一時的にミュージカルの世界から離れたが、2000年には『王様と私』のアンナ役で復帰した。
 2004年にはニューヨーク・シティ・オペラの舞台『スウィーニー』に主演して再びブロードウェイへ。その後しばらくはコンサート活動やレコーディング活動に専念していたが、2007年には「ドロウジー・シャペロン」のウェストエンド公演でカムバックを果たしている。

 

 

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Elaine Paige (1981)

Cinema (1984)

Centre Stage (2004)

(P)2005 Warner Music (UK) (P)1984 Pickwock/WEA (UK) (P)2004 Warner Music (UK)
1,If You Don't Want My Love
2,Far Side Of The Bay
3,So Sad (To Watch Good Love Go Bad)
4,Secrets ビデオ
5,I Want To Marry You
6,The Second Time (Theme from Bilitis)
7,The Last One To Leave
8,Hot As Sun
9,Falling Down To Earth
10,How The Heart Approaches What It Yearns
11,Miss My Love Today

produced by Tim Rice & Andrew Powell
1,The Windmills Of Your Mind
2,Out Here On My Own
3,The Prisoner
4,Sometimes
5,Theme From Mahogany
6,Up Where We Belong
7,Unchained Melody
8,Bright Eyes
9,Alfie
10,Missing
11,The Way We Were
12,The Rose

produced by Tony Visconti
1,Something In Red
2,Memory ビデオ
3,I Know Him So Well
 (duet with Barbara Dickson) ビデオ
4,Miss You Nights (Live with Cliff Richard)
5,The Perfect Year
6,September Song (Live)
7,Non, je ne regrette rien
8,Another Suitcase In Another Hall
9,Change The World
10,Cry Me A River (Live)
11,From The Heart
12,Wishin' On A Star
13,I Dreamed A Dream (Live)
14,Don't Cry For Me Argentina
15,One More Time
16,Hymne a l'amour (If You Love Me) ビデオ
17,On My Own
18,The Rose
19,Ave Maria
1,I Didn't Know I Was Saying Goodbye
2,Let It Be Me (Live with Cliff Richard)
3,La vie en rose
4,Somebody Make Me Laugh
5,As If We Never Say Goodbye ビデオ
6,With One Look ビデオ
7,How Long Has This Been Going On
8,This Is Where I Came In
9,Unchained Melody
10,Mon Dieu
11,For You
12,Alfie
13,I Only Have Eyes For You
14,Je sais comment (All This I Know)
15,Is It Me
16,All Things Considered
17,Shaking You
18,Kind To Animals
19,Les trois cloches (The Three Bells)
 ミュージカル『キャッツ』出演の直前にリリースされたセカンド・アルバム。往年のヒット・ポップスのカバーとオリジナル作品で構成されています。ユニークなのは、ポール・マッカートニーのインスト・ナンバーにティム・ライスが歌詞をつけた#8。また、アラン・パーソンズ・プロジェクトの元ボーカリスト、デイヴ・タウンセンドが書き下ろした#2やフランシス・レイの手掛けた映画『ビリティス』のテーマにティム・ライスが歌詞をつけた#6も貴重なトラックですね。しなやかで瑞々しいエレインのボーカルも魅力的。良質なポップ・アルバムです。  映画音楽の名曲ばかりを集めたカバー・アルバム。これが素晴らしい傑作に仕上がっているんですね。まず、多重録音で一人デュエットを聴かせる#1のアイディアは抜群。もともと歌詞を付けて歌うにはかなり無理のあるメロディなのですが、それを絶妙なテクニックで上手く処理しています。その他、どの楽曲もオリジナルを尊重しながら、独創的なアレンジを施しているのが秀逸。とても叙情的でイマジネーション豊かなアルバムに仕上がっています。しかも、プロデュースはTレックスやデヴィッド・ボウイで有名なトニー・ヴィスコンティ!

 過去のアルバムからのベスト・トラックと新曲を織り交ぜた2枚組ベスト盤。『キャッツ』の#2は98年の再演版バージョン。『エヴィータ』の#8と#14は83年のレコーディングです。#5は『サンセット大通り』から、#7と#16は『ピアフ』からの抜粋。#1と#9、#11、#15が新曲です。#9はクラプトンのバージョンが日本でも大ヒットしましたね。エレインのバージョンはとてもソフトでキュートな仕上がり。また、ジュリー・ロンドンの名曲をライブでカバーした#10の大熱唱は圧巻。ローズ・ロイスの名曲をラテン・バラード風にカバーした#12も秀逸です。

 こちらは#1と#4、#15、#18が新曲。また、#3と#10、#14、#19が『ピアフ』から、#5と#6が『サンセット大通り』からの抜粋になります。旧作の中では、UKの女性シンガー・ソングライター、ジュディ・ツークのカバー#11が素晴らしい出来栄え。トニー・ヴィスコンティの幻想的なアレンジは鳥肌の立つような美しさです。その他、エレイン自身がヴァンゲリス、ティム・ライスと共作した#16、オリヴィア・ニュートン・ジョンのカバー#17など、ヴィスコンティのプロデュース作品はいずれも秀逸な出来栄えだと思いますね。

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Sweet Memories (2008)

(P)2008 Demon Music Group (UK)
1,Memory
2,The Perfect Year
3,Another Suitcase Another Hall
4,I Don't Know How To Love Him
5,As If We Never Say Goodbye
6,Secrets
7,So Sad (To Watch Good Love Go Bad)
8,Hymne a l'amour (If You Love Me)
9,Tomorrow
10,The Second Time (Theme from Bilitis)
11,Send In The Clowns
12,How The Heart Approaches What It Yearns
13,Bright Eyes
14,The Last One To Leave
15,Non, je ne regrette riens
16,Be On Your Own
17,Hot As Sun
1,La vie en rose
2,Losing My Mind
3,Miss My Love Today
4,Mon dieu
5,Unchained Melody
6,Running Back For More
7,Far Side Of The Bay
8,If You Don't Want My Love
9,Wishing On A Star
10,I Want To Marry You
11,Good Morning Sunshine
12,What I Did For Love
13,One Night Only
14,Les trois cloches (The Three Bells)
15,The Windmills Of Your Mind
16,Les Amants dun jour (Lovers For Aday)
17,L'accordeoniste (The Accordionist)
 こちらは80〜90年代の音源からセレクトされた2枚組ベスト盤。“Centre Stage”とのダブリもありますが、入門篇としては最良のラインナップだと思います。『ジーザス・クライスト・ザ・スーパー・スター』の名曲#4をソフト・ロック風のバラードに仕上げたり、『アニー』のテーマ曲としてお馴染みの#9を爽やかなダンス・ロックとして仕上げた#9など、トニー・ヴィスコンティによる大胆なアレンジも必聴。  こちらもトニー・ヴィスコンティ関連の音源を中心に聴きどころ満載の1枚。中でも『コーラス・ライン』のハイライト・ソング#12と『ドリームガールズ』のテーマ曲#13はゴージャスな仕上がり。どちらも彼女は舞台版に出演したことはありませんが、完全に自分のものにしてしまっていますね。#1と#4、#14、#16、#17の5曲は『ピアフ』からの抜粋。"2は『フォリーズ』、#6は『ブロンデル』、#11は『ヘアー』の楽曲です。

 

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