Driving Lessons (2006)

 

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Driving Lessons (2006)

(P)2007 Sony Pictures (USA)
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:フランス語・スペイン語/地域コード:1/98分/製作:イギリス

映像特典
メイキング映像
NG映像集
未公開映像集
監督:ジェレミー・ブロック
脚本:ジェレミー・ブロック
製作:ジュリア・チャスマン
撮影:デヴィッド・カッツネルソン
音楽:ジョン・レンボーン
    クライヴ・キャロル
出演:ジュリー・ウォルターズ
    ルパート・グリント
    ローラ・リニー
    ニコラス・ファレル
    ジム・ノートン
    ミシェル・ダンカン

 

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内気な文学少年ベン

自由奔放な元舞台女優イーヴィ

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完璧主義で過保護な母親ローラ

司祭を務める心優しい父親ロバート

 

 ハリー・ポッター・シリーズのロン役で知られるルパート・グリントが、複雑な家庭に育った内気な少年を演じるイギリス映画。「Queen Victoria 至上の恋」('97)や「ラストキング・オブ・スコットランド」('06)で高く評価された脚本家ジェレミー・ブロックの監督デビュー作に当たる。昨年のモスクワ映画祭で最優秀主演女優賞(ジュリー・ウォルターズ)と審査員特別賞を受賞した小品佳作だ。
 主人公の少年ベン(ルパート・グリント)は文学と詩を愛する17歳の少年。学校は夏休みを迎えたが、ベンには遊びまわる自由がない。なぜなら、彼の生活は母親ローラ(ローラ・リニー)によって完全にコントロールされているからだ。教会の司祭の妻であり、非の打ちどころのない完璧な母親ローラは、ベンにとって最大の悩みの種でもある。いつも笑顔を絶やさず、教会の演劇活動や地域のボランティア活動などでリーダー的役割を果たす敬虔なカトリックのローラだが、その一方で聖書の教え以外は絶対に認めないという堅物でもある。彼女のベンに対する盲目的な愛情は明らかに行き過ぎだ。しかし、そんな母親をたしなめる立場の父親ロバート(ニコラス・ファレル)は、物腰が優しすぎて押しが弱い。ゆえに、
ベンは常に束縛を強要する母親に服従せざるを得ないのだ。
 すっかり自分の殻の閉じこもってしまい他人と上手くコミュニケーションの取れないベンを心配したローラは、彼に夏休みのアルバイトをさせることにする。アルバイトの募集広告を見ながらベンが向かった先は、往年の名舞台女優イーヴィ・ウォルトン(ジュリー・ウォルターズ)の屋敷。鼻っ柱が強く、頑固で自由奔放なイーヴィは、ベンが今までに出会ったことのない種類の人間だった。母親の宗教的な価値観を押し付けられて育ったベンに、イーヴィは聖書に書かれていることではなく、自分の目で見て肌で感じたことを信じるべきだと教える。急速に親しくなっていくベンとイーヴィ。型破りなイーヴィの言動に翻弄されながらも、ベンは人生を貪欲に楽しもうとする彼女から生きることの意味を学んでいく。何も知らない無垢な少年だったベンは、今まさに一人の大人へと成長しようとしていた。しかし、ローラはそんな息子の姿を快く思わなかった・・・。

 このドラマのメインはあくまでもベンとイーヴィの魂の交流にあるのだが、それを際立たせるのが母親ローラの存在だろう。母性愛と独占欲が人一倍強い彼女は、息子ベンが成長して自分の手を離れていく現実を受け入れる事が出来ない。それゆえに、息子の考え方に強い影響を及ぼすイーヴィを邪悪な存在として敵対視するようになる。また、聖書の教えを絶対視し、その信念に全く揺るぎのない彼女は、隣人愛の精神の大切さを説きながらも、相容れない価値観に対しては徹底的に不寛容である。つまり、偽善と矛盾の象徴とも言える存在がローラという人物なのだ。
 その行動は表面的には完璧に見えるものの、実際には憐れなくらいに滑稽である。既に夫との愛情は冷め切っており、息子も心を閉ざしてしまっている。しかし、彼女は彼らに幸福な家族を演じるよう強要する。なぜなら、神を信じる家族は幸福であるべきだからだ。彼女にとっては老人ホームでのボランティア活動も単なる自己満足にしか過ぎない。しかし、彼女自身はその真実に全く気付いていない。いや、常に真実から目を背けて生きていると言ったほうが正しいかもしれない。
 一方のベンとイーヴィは、ローラから見れば迷える子羊と言えるだろう。様々な価値観の中で揺れ動き、自分が何をしたいのかさえよく分からないでいる少年ベン。かつては名女優と謳われながらも、今では世間からすっかり忘れられてしまったイーヴィは、目の前の残酷な現実や幼い息子を失った過去の辛い記憶から逃れようとするかのようにアルコールに溺れている。どちらも傷つきやすい心を持った弱い人間だ。しかし、同時にがむしゃらになって目の前の現実に立ち向かおうともがき苦しんでいる。そういった意味では、一見して完璧に見えるローラこそが、実は一番脆くて弱い人間なのかもしれない。その弱さを隠すために宗教という鎧で身を固めているのだ。
 映画の冒頭で車の運転試験に落ちて免許を取れなかったベン。“Driving Lessons”という作品は、イーヴィというちょっと風変わりな教官によって、自分の人生のハンドルの握り方を学んでいくベンの成長物語である。と同時に、宗教というものの本来のあり方を考えさせられる映画でもあると思う。

 ジェレミー・ブロックの演出は過剰な装飾を避け、スコットランドの美しい風景とシンプルなセリフを織り交ぜながら、穏やかな語り口でドラマを紡いでいく。それだけに地味な印象を受ける作品だが、意外にカルト映画として長く愛されるようになるかもしれない。10年後、20年後にこそ真価が問われる作品だと思う。
 主演のルパート・グリントとジュリー・ウォルターズは、ハリー・ポッター・シリーズで親子を演じているだけあって非常に息が合っている。デビュー当初はコミカルな3枚目路線の子役だったルパートも、すっかりナイーブで繊細な少年役が似合う年頃になった。ふと垣間見せる寂しげな表情や眼差しもセクシーで、最近ちょっとオヤジっぽくなってきたダニエル・ラドクリフよりも、将来は魅力的な俳優になるかもしれない。
 また、
アカデミー主演女優賞にノミネートされた「リタと大学教授」('82)の頃から個人的に大ファンのジュリー・ウォルターズだが、本作でもやはりバツグンに上手い性格女優ぶりを見せてくれる。口うるさくて我がまま、少女のように天真爛漫で愛嬌があって、しかし頑固で傷つきやすい。工事現場の労働者のように荒々しい言葉で相手を罵るかと思えば、シェークスピアやチェーホフのセリフを引用してみせるロマンチストでもある。そんな破天荒でユニークなキャラクターを演じさせたら天下一品の女優だ。
 そして、予想外に良かったのがローラ・リニー。どちらかというと優等生的なタイプの地味な女優だが、それだけに完全無欠の母親ローラ役には説得力がある。アメリカの女優がイギリス人を演じるという違和感も全く感じさせなかった。
 さらに、特筆しておきたいのがサントラに参加しているサルサ・ケルティカ。ケルト音楽をキューバン・サルサ・スタイルで演奏するバンドで、本編中にもゲスト出演している。彼らの演奏する「ほたるの光」のサルサ・バージョンがクライマックスで効果的に使われており、爽やかな余韻を残すのが印象深い。

 

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星空の下で語り合うベンとイーヴィ

ベンにプラトニックな愛情を寄せるイーヴィ

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生まれて初めての夜遊びを経験するベン

少女のように傷つきやすい一面を見せるイーヴィ

 

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