スペル
Drag Me To Hell (2009)

 

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2009年11月6日よりロードショー

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 近頃では『スパイダーマン』シリーズの大成功で、すっかりハリウッドを代表するヒット・メーカーとなってしまったサム・ライミ監督。そんな彼が、『キャプテン・スーパーマーケット』(93)以来、久々に自らの原点ともいえるホラー映画の世界へ戻った、と話題になっているのが、この『スペル』という作品だ(※『ギフト』(00)もホラー的な要素を含んではいるが、厳密にはサスペンス・スリラーと呼ぶべきだろう)。
 主人公は銀行に勤める平凡な女性クリスティン。そんな彼女が、ジプシー風の老婆に頼まれたローン延長を断ったことから逆恨みされ、世にも恐ろしい呪いをかけられてしまうというお話。その呪いとは、悪魔による3日間の責め苦を味わされた末に、地獄へと引きずりこまれてしまうというもの。
 徐々に周囲で起きる奇怪な現象。精神的にも肉体的にも追いつめられていくクリスティン。生贄の儀式や悪魔祓いなど様々な方法を試してみるが、呪いのパワーは一向に衰える様子もなく、刻一刻とタイムリミットが迫ってくる。果たして、彼女は3日間で無事に呪いを解くことができるのだろうか・・・!?というわけだ。

 結婚を約束した恋人が名門一家出身なのに対して、自分はしがない農家の娘というコンプレックス。相手の両親を納得させるためになんとか出世をしたいという焦り。なぜ彼女が老婆のローン延長を断らねばならなかったのかという事情と背景を観客に十分納得させた上で、あとはジェットコースターのごとく派手なショック・シーンをたたみかけていくという語り口は、さすが百戦錬磨のベテラン職人ならではの巧さ。そのごむたいな地獄巡りのオンパレードは、すっかり“怖い”を通り越して“痛快”とも言うべき面白さだ。
 そう、ぶっちゃけ言ってしまうと、本作は決して“怖い”映画ではない。まあ、人によって“怖い”の境界線もまちまちなので、そう言いきってしまっていいのかどうか分からないが、少なくとも見終わった後も夢に出てくるようなタイプの映画でないことは確かだろう。
 それどころか、あまりにもテンションが高すぎてギャグへと昇華されてしまったショック・シーン、悪趣味すれすれ一歩手前のところで笑いを誘うグロ・シーンなど、ライミ監督一流のブラック・ジョークが効いた痛快なホラー・エンターテインメントに仕上がっている。
 老婆ガーナッシュ夫人がアリソンを襲うシーンの過激かつアクロバティックなアクションなんぞは、ほとんどスラップスティック・コメディ。勢い余ってガーナッシュ夫人の入歯が飛び出す瞬間なんか大爆笑必至だ。
 アリソンが恋人クレイの実家へディナーに招かれ、彼の両親の前で怪現象に襲われて大失態を繰り広げるシーンも、あまりに哀れすぎて思わず笑わなけりゃやってられない。また、占い師に動物を殺して生贄にするのが有効だと言われたアリソン。そんな残酷なことは出来ません!と拒絶したものの、悪霊に襲われてボコボコにされた次の瞬間、ペットの猫を探して“ネコちゃん♪ネコちゃん♪”と歩き回るという下りもブラックなユーモアが効いていて最高だ。

 ストーリーそのものはあくまでもシリアスだし、クライマックスも決してハッピー・エンドとは言えないものの、後味は極めてスッキリ爽快。遊園地のホラー・アトラクション的な感覚で、ハラハラドキドキを思う存分楽しめる作品と言えよう。
 そもそも、サム・ライミ監督のホラー映画というのは確信犯的なビジュアル・ギャグのつるべ打ちが身上。デビュー作『死霊のはらわた』(83)こそワリとストレートなホラーに仕上がっていたものの、続く『XYZマーダース』(85)や『死霊のはらわたU』(87)、『キャプテン・スーパーマーケット』(93)は、エンターテインメントのツボを押さえた見事なブラック・ユーモアで見せる極上のホラー・コメディだった。
 そういった点では、確かにこれは原点回帰なのかもしれない。しかし、どちらかと言えば勢いとパワーとアイディアで見せていた昔に比べると、当然のことかもしれないがストーリー・テリングの上手さは格段に上達しており、演出には大御所ならではの余裕と風格を感じることが出来る。
 つまり本作は、『クイック&デッド』(95)や『シンプル・プラン』(98)、『ギフト』(00)、そして『スパイダーマン』シリーズというハリウッドのメジャー作品で才能を思う存分開花させてきたライミ監督が、その経験と実績をもとに改めてホラーというジャンルに挑んだ作品なのだ。
 ただ逆に言うと、それはデビュー当初の無鉄砲さというか、定石や常套手段に縛られないアナーキズムが影を潜めてしまったことも意味する。なので、コアなホラー映画ファンにとっては、正直なところ新鮮味や刺激に欠けるような印象を与えることは否めまい。アメリカでは13歳以上なら保護者の注意必要なしというPG-13というレイティングで劇場公開されたというが、ある意味ではそれも納得だろう。
 ひとまず、お子様連れはどうか分からないけど、少なくともカップルで見に行っても安心してキャーキャーと楽しめる痛快なホラー・エンターテインメント作品。是非とも劇場の大画面と大音響で、友人や恋人とワイワイ騒ぎながら見ていただきたい。

 

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