HOLLYWOOD HORROR CLASSICS
ヴァンパイア篇

 

魔人ドラキュラ
Dracula (1931)
日本では1931年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2004 Universal Studios (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:フランス語・スペイン語/地域コード:1/75分/製作:アメリカ
※ユニヴァーサル製作ドラキュラ映画5本収録のボックス・セット

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
『ヴァン・ヘルシング』監督・キャストのインタビュー集
オリジナル劇場予告編
ポスター&フォト・モンタージュ
映画評論家による音声解説
フィリップ・グラスによる新スコア
監督:トッド・ブラウニング
製作:カール・レムリ・ジュニア
   トッド・ブラウニング
原作:ブラム・ストーカー
戯曲:ハミルトン・ディーン
   ジョン・L・バルダーストン
脚本:ギャレット・フォート
撮影:カール・フロイント
出演:ベラ・ルゴシ
   デヴィッド・マナーズ
   ヘレン・チャンドラー
   ドワイト・フライ
   エドワード・ヴァン・スローン
   ハーバート・バンストン
   フランセス・デイド
   ジョーン・スタンディング
   チャールズ・K・ジェラード

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ヴァンパイア伝説の残るトランシルヴァニア

村人の反対を無視して旅するレンフィールド(D・フライ)

ボルゴ峠でドラキュラ伯爵の馬車へと乗り換える

 言わずと知れたハリウッド・ホラーの金字塔。あらゆるドラキュラ映画の原点であり、アメリカで最初の本格的なヴァンパイア映画だ。黒いタキシードに黒いマントを羽織ったダンディで不気味なドラキュラ像は、現在に至るまでコピーされ続けるほどの強烈なインパクトを世間に与え、演じるベラ・ルゴシはこれ一本でトップ・スターに上りつめた。そればかりか、製作元のユニバーサル映画は本作と『フランケンシュタイン』(31)の大成功で一躍ホラー映画ブームを巻き起こし、いわゆる“ユニバーサル・ホラー”の黄金期を築くこととなったのである。
 原作はご存知の通り、イギリスの作家ブラム・ストーカーの書いた怪奇小説『吸血鬼ドラキュラ』。トランシルヴァニアからイギリスへ渡ってきた吸血鬼ドラキュラ伯爵が若く美しい娘たちを次々と毒牙にかけ、宿敵となる科学者ヴァン・ヘルシング博士と対決するという物語である。
 ただし、本作はそのブラム・ストーカーの小説をそのまま映画化したわけではなく、当時ブロードウェイで大評判となっていた舞台版を基にしたもの。それゆえに、原作小説とはいくぶん違った内容になっている。例えば、物語の冒頭でトランシルヴァニアのドラキュラ伯爵を訪ねるのは、ジョナサン・ハーカーではなくてレンフィールド。原作では最初から狂人として登場するレンフィールドだが、この映画版ではドラキュラに血を吸われたことから気が狂ってしまう。
 それ以外にも、ヴァンパイアと化したルーシーが子供を襲うシーンなど抜け落ちているエピソードも多く、原作をかなり簡略化してしまったという印象。拍子抜けしてしまうくらいに呆気ないクライマックスも含めて、原作のファンにはかなり不満の残る内容といわざるを得ないだろう。
 そう、本作はホラー映画史に残る大ヒット作ではあるものの、客観的に見ればかなり完成度に疑問の残る作品だ。脚本はセリフが多くて説明過多だし、役者の演技だってあまりにも舞台演劇的過ぎる。しかも呆れるくらいにテンポが遅いので、75分というコンパクトな上映時間が非常に長く感じられる。その上、オープニングのクレジット・シーン以外は音楽スコアが一切使われていないため、セリフのないシーンなどはかなり苦痛に感じられるだろう。
 もちろん、80年近く前に作られた映画であることは考慮しないわけにいかない。とはいえ、その9年前に作られたドイツのサイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(22)が今見ても十分に怖いということを考えれば、やはり本作に対する評価もおのずと辛口にならざるを得ないように思う。
 ただ、当時のヨーロッパとアメリカでは事情が大きく違っていたということも忘れてはなるまい。ヨーロッパではサイレント時代から数多くのホラー映画が作られていたものの、アメリカにはそのような伝統はまだなかったのである。
 中でも、ヴァンパイアのようにスーパーナチュラルな題材を扱ったホラー映画というのは極めて稀だったと言えよう。それまでのハリウッドにおけるホラー映画といえば、『オペラの怪人』や『ノートルダムの傴男』みたいに容姿の醜い人間による復讐劇か、もしくは『猫とカナリヤ』のような怪奇仕立ての犯罪スリラーというのが主流。つまり、この『魔人ドラキュラ』はハリウッドにおいて最初の本格的なホラー映画だったとも言えるわけだ。
 そう考えれば、本作が当時のアメリカの一般的な観客に与えた衝撃と影響力の大きさもおのずと理解できよう。ベラ・ルゴシの演じるドラキュラ伯爵も、確かに今見れば滑稽なくらいに陳腐で大仰だが、それゆえに伝説的なホラー・アイコンになったという側面も否定できまい。

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半ば廃墟と化していたドラキュラ城

怪しげに目を光らせるドラキュラ伯爵(B・ルゴシ)

闇にうごめく3人の女ヴァンパイアたち

 物語の始まりは、まだハンガリー領だった頃のトランシルヴァニア。イギリス人の法務官レンフィールド(ドワイト・フライ)はドラキュラ城を目指して旅していたが、地元の人々は口々に反対する。ドラキュラ城には人間の血を吸う恐ろしいヴァンパイアが棲んでいるというのだ。
 村人の警告を迷信だと一笑に付したレンフィールドは、嫌がる御者に無理を言って馬車でボルゴ峠へと向かい、そこでドラキュラ城から派遣された馬車へと乗り換えた。無人で走る馬車に驚き、まるで廃墟のようなドラキュラ城に面食らったレンフィールドは、その主であるドラキュラ伯爵(ベラ・ルゴシ)の薄気味悪さにも不安を覚える。イギリスへ移り住む伯爵のために、レンフィールドは新たな住居となる物件の契約書を携えてきたのだ。
 契約書の確認を済ませ、勧められたワインを飲んで落ち着きを取り戻したレンフィールド。だが、その直後に体調の異変を覚えて失神してしまった。その様子を見て物陰から現われた3人の女ヴァンパイアたち。彼女らの行く手をさえぎったドラキュラ伯爵は、ゆっくりとレンフィールドの首筋から血をすするのだった。
 ドラキュラ伯爵の棺を乗せた船は嵐に見舞われ、イギリスへ到着した頃には乗組員全員が変死を遂げていた。船内に立ち入った調査員たちは、船底から気の狂ったレンフィールドを発見。彼はセワード博士(ハーバート・バンストン)の運営するロンドン郊外の精神病院へ入れられることになる。
 それから数日後、ロンドンで観劇をしていたセワード博士一家の前にドラキュラ伯爵が現われる。その奇妙な話しぶりを怪訝に思う娘ミーナ(ヘレン・チャンドラー)と婚約者ハーカー(デヴィッド・マナーズ)だったが、ミーナの親友ルーシー(フランセス・デイド)はすっかり伯爵に魅了されてしまった。
 その晩、セワード博士宅に泊まったルーシーがドラキュラ伯爵に襲われ、翌朝になって死体で発見される。検視の結果、彼女の体からは大量の血が抜き取られていた。しかも、首筋には小さい傷が2つ。この数日間ロンドン市内や近郊で発生している連続怪死事件と酷似していた。
 セワード博士はスイスで行われた学会でこの奇妙な事例を報告。すると、ヴァン・ヘルシング教授(エドワード・ヴァン・スローン)という専門家がヴァンパイアの仕業ではないかと疑い、博士と一緒にイギリスへやって来る。
 当初はレンフィールドが犯人ではないかと疑ったヴァン・ヘルシング教授。一連の事件が始まったのはレンフィールドがイギリスへ戻ってきてからだし、彼が蝿や蜘蛛などの昆虫を食べたがるのは吸血嗜好の兆候だと考えられるからだ。だが、話をしてみるとどうやら彼には“ご主人様”と呼ぶ存在がいるらしい。その“ご主人様”こそが、事件の犯人であるヴァンパイアだと教授は考えた。
 その晩、今度はミーナがドラキュラ伯爵に襲われた。彼女の首筋の傷を教授が診ていると、そこへドラキュラ伯爵が訪れる。何かに取りつかれたかのごとく伯爵に魅了されるミーナ。その様子を見ていたヴァン・ヘルシング教授は、伯爵の姿がシガレット・ケースの鏡に映っていないことに気付く。
 そのことを指摘すると、ドラキュラ伯爵はシガレット・ケースを床に叩きつけて去っていった。彼こそがヴァンパイアであると指摘する教授の言葉に、思わず耳を疑うセワード博士とハーカー。その頃、夢遊病のように屋敷の外へとさまよい出たミーナが再びドラキュラの毒牙にかかり、意識を失った状態で発見された。
 ミーナの命が危ないと警告するヴァン・ヘルシング教授。一方、ヴァンパイアの存在など信じないハーカーは、教授の妄想がミーナに悪影響を与えていると考えていた。さらに、ドラキュラ伯爵が教授を催眠術で操ろうとする。なんとか十字架の力で伯爵を追い払った教授だったが、ミーナは既に伯爵の虜となりつつあった・・・。

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セワード博士の家族に接近するドラキュラ伯爵

ヴァン・ヘルシング(E・V・スローン)は伯爵の正体を見抜く

ドラキュラに命を狙われるミーナ(H・チャンドラー)

 もともと大作映画として製作されるはずだった本作だが、折からの世界大恐慌で予算が大幅に削られてしまった。原作に出てくるエピソードの多くがセリフの説明だけで片付けられていることや、尻つぼみに終ってしまったクライマックスなどには、そうした裏事情が大きく影響していたという。
 それに加えて、トッド・ブラウニング監督自身にも当時はいろいろな問題があったようだ。まず、本作はもともと“千の仮面を持つ男”と呼ばれた名優ロン・チャニーがドラキュラ役を演じる予定だったという。チャニーはサイレント時代からたびたびブラウニング監督と組んでおり、お互いに気心をよく知る親友でもあった。ところが、残念なことにそのチャニーが撮影前に癌で亡くなってしまったのである。これは監督にとって大きな痛手だった。
 さらに、ブラウニング監督はベラ・ルゴシの起用に当初から反対していたらしいのだが、予算の都合などでスタジオ側からごり押しされてしまった。しかも、当時の彼はアルコール中毒でボロボロ。現場でもまるでやる気がない様子で、演出はほとんど撮影監督のカール・フロイントに任せきりだったという。
 脚本の出来栄えにも不満があったらしく、気に食わない部分はバンバン削ってしまい、時にはスタッフやキャストの前でページを破り捨てることもあったらしい。実際、同じ脚本を使って同時に撮影されたスペイン語版『ドラキュラ』に存在して本作に存在しないシーンも幾つかあるので、恐らく事実なのだろう。
 その脚本を手掛けたのは、『法の外』(30)や『悪魔の人形』(36)でもブラウニング監督と組んだギャレット・フォート。先述したように、ブラム・ストーカーの原作をそのまま脚色したのではなく、ハミルトン・ディーンとジョン・L ・バルダーストンによる舞台版をアレンジしたわけだが、原作小説の大きな見せ場の多くを登場人物のセリフで説明させてしまっているため、著しく起伏に欠けた脚本に仕上がってしまっている。
 さらに、撮影にはドイツ表現主義の重要人物である名カメラマン、カール・フロイントが参加。彼のカメラワークがまた著しくアクションに乏しく、しかも一つ一つのショットが無駄に長い。ムードを重視したであろうことは分るのだが、いかんせん音楽スコアが一切使われていないため、盛り上がるものも全く盛り上がらないのだ。ホラー映画らしいこけおどしのショック演出もほぼ皆無。犠牲者の首筋の傷跡すら見せないのだから、これはなんとも味気がない。
 ただ、当時のアメリカの観客にはヴァンパイアという存在そのものが目新しかったため、セリフで説明しなくてはならないことが多かったというのも理解せねばならない。また、この種の純粋なホラー映画というのは初めての試みだったことから、どこまで見せていいのかという部分で苦慮したであろうことも想像に難くない。恐らく観客のリアクションが想像できなかったのだろう。
 ヴァンパイアが首筋に噛みつくシーンもなければ、もちろん血糊だって一切使われていないし、そもそもヴァンパイアに必要不可欠な牙だって存在しない。ホラー・ファンには物足りないことこの上ないのだが、少なくとも本作がなければハリウッド・ホラーの現在もなかったはずだ。

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狂人となったレンフィールド

十字架でドラキュラの魔力を払うヴァン・ヘルシング

ミーナはドラキュラの虜となってしまった

 ドラキュラ伯爵役のベラ・ルゴシは、もともと舞台版でも同役を演じて一世を風靡した役者だった。東欧訛りの強いアクセントと大仰な演技はなかなかインパクト強烈。その後様々な役者にコピーされたり、パロディのネタにされたりしたのも大いにうなづける。だが、その一方で映画的リアリズムからは程遠く、舞台演技的な印象を強く受けることは否めないだろう。ブラウニング監督から嫌われたのも、その辺が大きな理由だったのかもしれない。これ一本でトップ・スターの仲間入りを果たしたルゴシだったが、その反面ドラキュラ役のイメージに終生縛られることとなったのは、やはり不幸なことだったのではないだろうか。
 そのドラキュラの宿敵であるヴァン・ヘルシング教授を演じたエドワード・ヴァン・スローンも、舞台版で同じ役を演じていた俳優。これが本格的な映画デビュー作だったらしく、以降も同じような研究者や科学者役を演じることになる。ハマー版でピーター・カッシングが演じたヴァン・ヘルシングはある種のヒーロー的存在だったわけだが、本作でのヴァン・ヘルシングはヴァンパイア退治のご意見番的存在。あくまでもドラキュラを倒すメンバーの一人、という位置づけなのが興味深い。
 一方、ドラキュラ伯爵に匹敵するほどの強烈なインパクトを残すのが、レンフィールド役を演じている怪優ドワイト・フライ。冒頭シーンを見れば分るように本来はハンサムでスマートな役者なのだが、いったん狂人スイッチが入るとまるで別人のように変貌。本作の怪演があまりにも印象的だったことから、引き続き『フランケンシュタイン』(31)でも傴男フリッツ役に起用され、すっかり化物役者のイメージが定着してしまった。
 そのほか、当時2枚目トップ・スターだったデヴィッド・マナーズがハーカー役を、ブロードウェイの人気女優だったヘレン・チャドラーがミーナ役を演じているが、どちらもすっかりルゴシやフライ、ヴァン・スローンの強烈な演技に存在負けしてしまっている。

 

魔人ドラキュラ<スペイン語版>
Dracula (1931)
日本では劇場未公開・テレビ放送あり
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2004 Universal Studios (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:スペイン語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/104分/製作:アメリカ
※ユニヴァーサル製作ドラキュラ映画5本収録のボックス・セット

特典映像
女優L・トヴァールのインタビュー
監督:ジョージ・ミルフォード
製作:カール・レムリ・ジュニア
   ポール・コーナー
原作:ブラム・ストーカー
戯曲:ハミルトン・ディーン
   ジョン・L・バルダーストン
脚本:ギャレット・フォート
翻訳:フェルナンデス・キュー
撮影:ジョージ・ロビンソン
出演:カルロス・ヴィリャリアス
   ルピタ・トヴァール
   パブロ・アルヴァレス・ルビオ
   バリー・ノートン
   カルメン・ゲレーロ
   マヌエル・アルボ
   エドゥアルド・アロザメーナ

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トランシルヴァニアの田舎道を走る馬車

ドラキュラ城へ向かうレンフィールド(P・A・ルビオ)

ボルゴ峠でドラキュラ伯爵の馬車に乗り換える

 ハリウッドはその草創期から世界各国に映画を輸出してきた。サイレント時代は字幕カードを取り替えるだけで外国語版を作ることが出来たので便利だったが、当然のことながらトーキーの場合そういうわけにはいかない。当時はまだアフレコの技術が未熟だったため、セリフを入れ替えるわけにもいかなかった。そこで考えられたのが、別キャスト・別スタッフによる外国語バージョンを別撮りすることだったのである。
 幸い、ハリウッドには世界各国から映画人が集まってきていた。特に、当時重要なマーケットだったドイツ語やスペイン語、フランス語を話せる人材には事欠かない。そこで、ハリウッドの各スタジオは必要に応じて特定の外国語に堪能な役者やスタッフを集め、オリジナル英語版と同じ脚本、同じセット、同じ衣装などを使って、同時進行で外国語バージョンを別撮りさせていたのだ。そして、当時ユニヴァーサル映画にとって南米が重要なマーケットであったことから、同社の目玉作品『魔人ドラキュラ』も別チームによるスペイン語版が作られることとなったわけである。
 ずばり、このスペイン語版はオリジナル英語版とほぼ全く別の作品と呼んでいいくらい、極めて印象が異なる作品だ。エネルギッシュでパワフルな役者の演技、スピーディで躍動感のあるカメラ・ワーク、エンターテインメントのツボを心得たショック演出。まさしく、ブラウニング版『魔人ドラキュラ』に欠けている要素が全て揃った作品と言えるだろう。
 しかも、ブラウニング版ではセリフで処理されていたシーンもちゃんと映像で見せてくれるし、ヴァンパイアと化したルーシーをヴァン・ヘルシングとハーカーが退治する下りなど、ブラウニング版ではそっくり抜け落ちていたエピソードもしっかり残されている。音楽スコアがないのは英語版と一緒だが、あちらがやけに長い75分であったのに対し、こちらはあっという間に終ってしまう104分。同じ脚本をもとに撮影されているにも関わらず、オリジナルの英語版よりも遥かに面白い傑作となっている。

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ドラキュラ城は荒れ果てていた

突然姿を現したドラキュラ伯爵(C・ヴィリャリアス)

レンフィールドは女ヴァンパイアたちの餌食に

 トランシルヴァニアの田舎道を走る一台の馬車。イギリス人の法務官レンフィールド(パブロ・アルヴァレス・ルビオ)は、ドラキュラ城を目指して旅をしていた。途中で立ち寄った旅館の人々はそれを聞いて猛反対。あの城にはヴァンパイアが棲んでいるというのだ。しかし、村人たちの言葉を迷信と笑い飛ばすレンフィールドは、五社にチップをはずんで馬車を走らせた。
 ボルゴ峠でドラキュラ城から派遣された馬車へと乗り換えたレンフィールド。ようやくたどり着いた城は廃墟同然だった。戸惑いながら周囲をキョロキョロする彼がふと見上げると、それまで誰もいなかった階段の上に不気味な人物が立っている。この城の主ドラキュラ伯爵(カルロス・ヴィリャリアス)だ。
 イギリスへ移り住む伯爵のために、レンフィールドは契約書を携えてきていた。豪勢な夕食をご馳走になり、貴重なワインを振舞われて上機嫌となったレンフィールド。しかし、突然息苦しさを覚えて窓を開けようとしたところ気を失ってしまい、物陰に潜んでいた3人の女ヴァンパイアたちの餌食となってしまう。
 嵐に見舞われた船上で、ドラキュラ伯爵は次々と船員たちを毒牙にかける。イギリスの港に着いた頃には乗組員全員が殺され、船底から発狂したレンフィールドが発見された。調査員たちは彼をセワード博士(ホセ・ソリアーノ・ヴィオスカ)の精神病院へ入れることにする。
 ロンドンの劇場でバレエを鑑賞していたセワード博士一家の前に、ドラキュラ伯爵が現れる。その風変わりな人柄を笑い話にするセワード博士の娘エヴァ(ルピタ・トヴァール)と婚約者ハーカー(バリー・ノートン)だったが、エヴァの親友ルシア(カルメン・ゲレーロ)はすっかり魅了されてしまった様子。その晩、ベッドでうとうととするルシアの部屋にコウモリが紛れ込む。その場で人間の姿に変身したドラキュラ伯爵は、ルシアを毒牙にかけるのだった。
 翌朝、ルシアが死体となって発見される。検視の結果、彼女の体からは血液が大量に抜き取られていた。しかも、その首筋には小さな傷が2つ。これは、この数日間ロンドンやその周辺で続発している怪死事件と酷似している。
 セワード博士はスイスで行われた学会でこの奇妙な事例を報告。すると、ヴァン・ヘルシング教授(エドゥアルド・アロザメーナ)という専門家がヴァンパイアの仕業ではないかと疑い、博士と一緒にイギリスへやって来る。
 当初はレンフィールドが犯人ではないかと疑ったヴァン・ヘルシング教授。一連の事件が始まったのはレンフィールドがイギリスへ戻ってきてからだし、彼が蝿や蜘蛛などの昆虫を食べたがるのは吸血嗜好の兆候だと考えられるからだ。だが、話をしてみるとどうやら彼には“ご主人様”と呼ぶ存在がいるらしい。その“ご主人様”こそが、事件の犯人であるヴァンパイアだと教授は考えた。
 その晩、今度はエヴァがドラキュラ伯爵に襲われた。彼女の首筋の傷を教授が診ていると、そこへドラキュラ伯爵が訪れる。何かに取りつかれたかのごとく伯爵に魅了されるエヴァ。その様子を見ていたヴァン・ヘルシング教授は、伯爵の姿がシガレット・ケースの鏡に映っていないことに気付く。
 そのことを指摘すると、ドラキュラ伯爵はシガレット・ケースを床に叩きつけて去っていった。彼こそがヴァンパイアであると指摘する教授の言葉に、思わず耳を疑うセワード博士とハーカー。その頃、夢遊病のように屋敷の外へとさまよい出たエヴァが再びドラキュラの毒牙にかかり、意識を失った状態で発見された。
 エヴァの命が危ないと警告するヴァン・ヘルシング教授。一方、ヴァンパイアの存在など信じないハーカーは、教授の妄想がエヴァに悪影響を与えていると考えていた。さらに、ドラキュラ伯爵が教授を催眠術で操ろうとする。教授は十字架の力で伯爵を追い払った。
 だが、エヴァは既にドラキュラ伯爵の影響下にあり、血を吸いたいという欲望を抑えきれなくなっている。思わずハーカーの首筋に襲いかかり、自らを強く恥じるエヴァ。この一件でようやくヴァンパイアの存在を信じるようになったハーカーは、ヴァン・ヘルシング教授と協力してヴァンパイア退治に乗り出すのだった・・・。

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セワード博士一家の前に現れたドラキュラ伯爵

伯爵はヴァンパイアであることを見抜かれて怒る

ドラキュラの虜となるエヴァ(L・トヴァール)

 イギリスが舞台であるはずなのに、登場人物の名前がことごとくスペイン風に変えられているのはご愛嬌。そればかりではなく、冒頭のドラキュラ伯爵の登場シーンからして、ブラウニング監督による英語版とは全く違うことに驚かされるだろう。
 スクリーンの奥から抜き足差し足といった按配で静かに歩み寄ってくる英語版とは対照的に、スペイン語版ではレンフィールドが振り返ると誰もいなかった階段の上にドラキュラ伯爵が恐ろしげなポーズで立っている。しかも、その瞬間にカメラがググッと一気に階段を駆け上り、伯爵の姿を間近で捉えるというモダンなショック演出が実に絶妙。このケレン味の効いた刺激の強さは、まさにラテンの血が騒ぐといった感じだろうか。
 それ以外にも、ドラキュラ伯爵が棺の中から起き上がるシーンやコウモリから人間に変身するシーンなど、英語版にはない特殊効果をふんだんに使った恐怖シーンが盛りだくさん。伯爵がシガレット・ケースを床に叩きつけるシーンだって、英語版では単に素手で払い落とすだけだったが、スペイン語版ではステッキを使って木っ端微塵に破壊してしまう。レンフィールドがドラキュラ伯爵に殺されるシーンでは激しいバイオレンス描写が用いられているし、ヒロインのエヴァが着用するドレスも英語版のミーナより遥かに露出度が高い。いったい、この違いは何なのだろうか?
 実は、製作費を最小限に抑えるという目的もあって、同じセットで昼間は英語版の撮影が行われ、夜はスペイン語版の撮影が行われた。しかも、撮影スケジュールが一緒なので、撮らなくてはならないシーンも全く一緒。つまり、スペイン語版のスタッフは昼間行われた英語版の撮影内容を把握することが出来たのである。
 そこで、英語版よりも面白い作品を撮りたいとライバル心を燃やしていたスペイン語版スタッフは、昼間の撮影内容を参考にしながら、より面白くなるアイディアを模索。要は、英語版の演出に改良を重ねながら撮影を進めていったのである。そう考えると、スペイン語版撮影班の方が恵まれた環境にあったと言えるだろう。
 監督のジョージ・ミルフォードはトッド・ブラウニングと同じくサイレント期から活躍してきたベテラン監督。ルドルフ・ヴァレンチノの主演作『シーク』(21)の監督として知られる名匠だが、スペイン語が話せることから当時はユニヴァーサル作品のスペイン語版の仕事を任されることも多かった。とはいえ、主演女優のルピタ・トヴァールによれば、彼のスペイン語能力はほとんど話せないに等しいくらいのものだったらしいのだが(笑)。
 一方、撮影を手掛けたジョージ・ロビンソンは、当時まだ駆け出しの若手カメラマンだった。本作での仕事が高く評価され、その後も『透明光線』(35)や『女ドラキュラ』(36)、『フランケンシュタインの復活』(39)など数多くのユニヴァーサル・ホラーを手掛けることになる。50年代SFホラーの傑作『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』(55)も彼の仕事だ。

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狂人となったレンフィールド

十字架はドラキュラの大きな弱点だ

ついにエヴァを連れ去ったドラキュラ伯爵だが・・・

 ドラキュラ伯爵役のカルロス・ヴィリャリアスはスペイン出身の俳優で、当時はメキシコ映画の脇役として活躍していた。恐らく、顔立ちがベラ・ルゴシに似ているからという理由で起用されたのだろう。決して演技が上手いとは言えないものの、暴力的で野獣的なドラキュラ像はルゴシ版よりも迫力があるように感じる。
 一方、そのドラキュラに狙われる美女エヴァ役を演じているルピタ・トヴァールはメキシコの人気スターで、当時はユニヴァーサル映画製作のスペイン語版に何本も起用されていた女優さん。この翌年に、本作の製作を務めたポール・コーナーと結婚している。
 また、エヴァの婚約者ハーカーには、ラオール・ウォルシュ監督の名作『栄光』(26)で注目された2枚目スター、バリー・ノートンが登場。実は彼、本名をアルフレド・カルロス・ビラビェンという生粋のアルゼンチン人で、当然のことながらスペイン語はペラペラだった。そのため、当時は各メジャー・スタジオのスペイン語版映画で引っ張りだこだったという。
 そのほか、ヴァン・ヘルシング役にはメキシコ人俳優エドゥアルド・アロザメーナ、レンフィールド役にはスペイン人俳優パブロ・アルヴァレス・ルビオが扮している。どちらも、残念ながら英語版のエドワード・ヴァン・スローン、ドワイト・フライの強烈な存在感と演技力には敵わなかった。

 

 

古城の妖鬼
Mark of the Vampire (1935)

日本では1935年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Warner (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/製作:アメリカ
※『成吉斯汗の仮面』とのカップリング収録

特典映像
オリジナル劇場予告編
映画評論家による音声解説
監督:トッド・ブラウニング
製作:トッド・ブラウニング
原作:トッド・ブラウニング
脚本:ガイ・エンドア
   バーナード・シューバート
撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ
出演:ライオネル・バリモア
   エリザベス・アラン
   ベラ・ルゴシ
   ライオネル・アトウィル
   ジーン・ハーショルト
   ヘンリー・ワッズワース
   ドナルド・ミーク
   キャロル・ボーランド
   ホームズ・ハーバート

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舞台は中央ヨーロッパの小さな村

裕福な貴族サー・カレルが変死体で発見される

サー・カレルの愛娘イレーナ(E・アラン)

 『魔人ドラキュラ』(31)の大成功で“ユニバーサル・ホラー”の礎を築いたトッド・ブラウニング監督。しかし、スタジオ上層部はスペイン語版に比べて明らかに劣る作品の完成度に大変失望し、メロドラマ『鉄青年』(31)を最後にブラウニングはユニバーサルをクビになってしまった。
 そんな彼を拾ったのが、ハリウッドで最大のメジャー・スタジオだったMGM。当時はどこのスタジオもブームに乗り遅れるなとばかりにホラー映画の製作に乗り出しており、その立役者であるブラウニングの起用はMGMにとって大きなメリットになると思われたのだろう。
 ところが、期待された移籍第一作目の『怪物團(フリークス)』(32)は興行的に惨敗。MGMはこれ1作でホラー映画から手を引いてしまい、ブラウニング監督も翌年の『街の伊達男』(33)を最後に1年以上も映画を撮らせてもらえないという不遇の時期を経験する。
 しかし、ユニバーサル・ホラーの人気は依然として衰える気配を見せず、ワーナーの『肉の蝋人形』(33)やパラマウントの『獣人島』(33)も大ヒット。そこで、MGMはブラウニング監督に再びホラー映画を撮るチャンスを与えた。それがこの『古城の妖鬼』という作品だ。
 舞台は現代の中央ヨーロッパ。金持ちの貴族が変死体で発見され、その状況から村の人々はヴァンパイアに殺されたものではないかと疑う。地元ではモーラ伯爵なるヴァンパイアの伝説が根強く信じられていたのだ。もちろん、警察はそんなもの迷信だとして取り合わない。
 しかし、その後も関係者が次々とヴァンパイアに襲われるという事件が発生。さらに、周辺ではモーラ伯爵とその娘がたびたび出没するようになり、死んだはずの貴族が墓地をさまよう姿まで目撃される。果たして、本当にヴァンパイアは存在するのか!?
 ・・・という推理サスペンス仕立てのホラー映画・・・と思ったら、これが結果としては本当に純然たる推理サスペンスだった。以降はネタバレになるのでご注意願いたいが、要はヴァンパイア騒動の顛末というのは殺人事件の犯人を突き止めるために警察が仕組んだ茶番劇だったのである。
 このどんでん返しが、本作の評価や好き嫌いを大きく左右するポイントになるだろう。なぜここまで手の込んだ芝居をしなくてはならないのか?という疑問に加えて、辻褄の合わない点や設定的に無理のある点も非常に多い。脚本の出来栄えに関しては及第点と言わざるを得ないように思う。
 その一方で、前半の正統派ゴシック・スタイルにコメディやサスペンス、アクションを交えた賑やかなブラウニング監督の演出はなかなか悪くない。ベラ・ルゴシ扮するヴァンパイアも『魔人ドラキュラ』のドラキュラ伯爵より遥かに躍動感があって生き生きとしているし、なによりもストレートに怖い。女ヴァンパイアが宙を舞うシーンの幻想的な美しさも印象的。少なくとも、『魔人ドラキュラ』よりは遥かに娯楽性の高い作品に仕上がっていると言えよう。
 ちなみに、本作はブラウニングがロン・チャニーを主演に撮ったサイレント映画“London After Midnight”(27)のリメイクに当たる。だが、このサイレント版は1967年の倉庫火事によって唯一のネガ・プリントが焼失してしまい、今では世界中のホラー映画ファン垂涎の“失われた作品”となってしまった。

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イレーナの婚約者フェドール(H・ワッズワース)も襲われる

古城にうごめく妖しげなヴァンパイアたち

今度はイレーナがヴァンパイアに襲われた

 中央ヨーロッパのとある国。裕福な貴族のサー・カレル(ホームズ・ハーバート)が変死体で発見される。検視を担当した地元の医者ドスキル(ドナルド・ミーク)は、遺体から大量の血が抜き取られていること、その首筋に小さな傷が2つ残されていることから、これがヴァンパイアの仕業ではないかと疑う。
 というのも、この地方にはモーラ伯爵(ベラ・ルゴシ)とその娘ルーナ(キャロル・ボーランド)という2人のヴァンパイアにまつわる伝説が残されており、村人の間では根強く信じられていたのである。
 しかし、事件の捜査を担当するニューマン警部(ライオネル・アトウィル)は、当然のことながらヴァンパイアの存在など信じていない。サー・カレルの愛娘イレーナ(エリザベス・アラン)の婚約者フェドール(ヘンリー・ワッズワース)、イレーナの後見人であるオットー男爵(ジーン・ハーショルト)などの関係者に容疑がかけられた。
 ところが、その直後に今度はフェドールが何者かによって襲われ傷を負う。さらに、古城の廃墟で真夜中にヴァンパイアの姿が目撃された。モーラ伯爵と娘ルーナが甦ったに違いない、と村の人々は戦々恐々とする。そして、遂にはイレーナがヴァンパイアに襲われてしまった。
 事態を重く見たニューマン警部は、ヴァンパイア研究の第一人者であるゼリン教授(ライオネル・バリモア)を呼び寄せる。教授は一連の事件がヴァンパイアの仕業であると断言し、オットー男爵も吸血鬼モーラ伯爵が甦ったのだと警部に強く訴える。しかし、警部もそう簡単にヴァンパイアの存在を受け入れることはできない。
 そこで、オットー男爵はニューマン警部を連れて墓地へ確認しに行ったところ、サー・カレルの遺体が棺から忽然と消えてしまっていた。しかも、真夜中の古城に妖しげな明かりが灯り、モーラ伯爵やルーナ、そしてヴァンパイアと化したサー・カレルの姿を目撃する。
 ゼリン教授によれば、ヴァンパイアを倒すためにはまず彼らが寝所としている棺を特定しなくてはいけない。イレーナが再びヴァンパイアの毒牙にかかり、召使たちもモーラ伯爵に襲われた。もはや一刻の猶予もない。ゼリン教授はニューマン警部とオットー男爵を連れて、古城の捜索に取り掛かる。
 案の定、城の地下にはヴァンパイアの下僕が眠っていた。しかし、ヴァンパイアを倒すためには全員を同時に退治しなくてはならない。その頃、モーラ伯爵らに導かれたイレーナが古城へとやって来た。ところが、彼女はヴァンパイアたちと意外なやり取りを始める・・・。

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ヴァンパイアの研究者ゼレン教授(L・バリモア)が登場

教授たちの様子を伺うモーラ伯爵(B・ルゴシ)

死んだはずのサー・カレル(H・ハーバート)が甦る

 もともと80分の上映時間だった本作。しかし、モーラ伯爵と娘ルーナの伝説に近親相姦的な要素が含まれていたこと、必要以上にコミカルなシーンが多かったことから、20分もの大幅な削除を余儀なくされてしまった。失敗作の続いたブラウニング監督には決定権が与えられていなかったのである。
 なお、本作の重要なハイライトの一つである女吸血鬼ルーナの浮遊シーン。ルーナ役を演じる女優キャロル・ボーランドの代わりにスタントウーマンが翼を広げて飛んでいるのだが、その翼を動かすコツがなかなか掴めず、しかも撮影中に度々吐き気を催してしまったことから、このワン・シーンの撮影だけで丸々3週間が費やされてしまったという。
 ブラウニング監督自身の手によるオリジナル・ストーリーを脚色したのは、ホラー小説作家としても有名なガイ・エンドアと『ジャングルの妖女』(44)などのB級映画で知られる脚本家バーナード・シューバートの2人。また、後に『バラの刺青』(55)と『ハッド』(63)でオスカーを受賞するジェームズ・ウォン・ハウが撮影監督を務めている。
 そのほか、『若草物語』(49)や『巴里のアメリカ人』(51)などで11個のオスカーを獲得したセドリック・ギボンズが美術デザインを、グレタ・ガルボの専属デザイナーとして数多くの流行を生み出したエイドリアンが女優の衣装デザインを、『オズの魔法使い』(39)の特殊メイクで有名なジャック・ドーンがメイクを担当するなど、MGMの誇る超一流スタッフが携わっているのにも注目したい。

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事態を不安げに見守るオットー男爵(J・ハーショルト)

古城の地下でヴァンパイアの下僕を発見する

古城へと連れて来られたイレーナだったが・・・

 『魔人ドラキュラ』以来久々にブラウニング監督がベラ・ルゴシと組んだこの作品。ルゴシはエンディングまで一言もセリフがなく、それが逆にヴァンパイアらしい雰囲気を盛り上げているのは皮肉というかなんというか・・・(笑)そのメイクも含めて、ドラキュラ伯爵より遥かに凶暴なヴァンパイアという印象だ。
 ただ、本作の主演はゼリン教授役のライオネル・バリモア。言わずと知れた名門俳優一族バリモア家の一員であり、伝説の大スター、ジョン・バリモアの実兄に当たる名優だ。役柄的には準主演程度のポジションなのだが、他の出演者とは俳優としての格が違うため、キャスト・クレジットのトップを飾っている。やはり画面に登場するだけで風格の違いは歴然としており、珍しくライトな役柄を嬉々として演じているのは面白い。
 一方、捜査を担当するニューマン警部役のライオネル・アトウィルも、クラシック・ホラーのファンには馴染み深い名優。ワーナーで主演した『ドクターX』(32)や『肉の蝋人形』(33)のマッド・サイエンティスト役で親しまれたほか、ホラー映画以外でも刑事役や軍人役として数多くの作品に出演した名脇役だった。
 さらに、オットー男爵役にはエリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の名作『グリード』(24)で知られる名優ジーン・ハーショルトが登場。彼はアカデミー協会の経済危機を救ったり、数々の慈善事業に貢献するなど俳優活動以外でも多大な功績を残した人物だった。アカデミー賞の一部門であるジーン・ハーショルト友愛賞は、彼の名前を後世へ残すために設けられたものである。
 そのほか、イギリス出身の女優エリザベス・アランがイレーナ役、当時MGMのスター候補だったヘンリー・ワッズワースがフェドール役、飄々としたコミカルな演技で『駅馬車』(39)や『姉妹と水兵』(43)など数多くの名作に出演したドナルド・ミークが医師ドスキル役、シャーロック・ホームズ役者としても知られるホームズ・ハーバートがサー・カレル役、『魔人ドラキュラ』でレンフィールドに警告する宿屋の主人役を演じていたマイケル・ヴィサロフが本作でも旅人に警告する宿屋の主人役として登場。また、女吸血鬼ルーナ役で強烈な印象を残す女優キャロル・ボーランドは、その後映画界を引退して大学教授となった。

 

女ドラキュラ
Dracula's Daughter (1936)
日本では劇場公開済(公開年不明)
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2004 Universal Studios (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/72分
/製作:アメリカ
※ユニヴァーサル製作ドラキュラ映画5本収録のボックス・セット

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ランバート・ヒルヤー
製作:E・M・アッシャー
原作:ブラム・ストーカー
脚本:ギャレット・フォード
撮影:ジョージ・ロビンソン
出演:オットー・クルーガー
   グロリア・ホールデン
   マルゲリーテ・チャーチル
   エドワード・ヴァン・スローン
   ギルバート・エメリー
   アーヴィング・ピシェル
   ナン・グレイ
   ヘッダ・ホッパー
   ビリー・ビーヴァン

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殺人容疑で逮捕されたヴァン・ヘルシング(E・V・スローン)

ドラキュラ伯爵の遺体が盗まれてしまった

ドラキュラの娘マリヤ(G・ホールデン)

 『魔人ドラキュラ』の大成功から5年後、ユニバーサルが満を持して製作したオフィシャルな続編映画が、この『女ドラキュラ』という作品である。主人公はドラキュラ伯爵の娘マリヤ。父親が殺されたことで一族の呪いが解け、普通の女性として人生を歩むことが出来ると思っていたマリヤだったが、その期待は空しくも裏切られる。彼女がヴァンパイアであることに変わりはなかったのだ。
 悩みぬいたマリヤは有名な精神科医ガースに相談しようとするが、なかなか協力を得ることができない。そこで、彼女はガースの恋人ジャネットを誘拐し、彼をトランシルヴァニアへおびき寄せようとする。
 一方、ヴァン・ヘルシング教授の友人であるガースもマリヤの正体がヴァンパイアであると気付き、彼女を退治してジャネットを救うべく、その行方を捜す・・・というのが大まかなストーリーだ。
 原作はブラム・ストーカーの短編小説『ドラキュラの招待客』。とはいっても、女吸血鬼が出てくるという設定以外に原作との関連性は一切なく、実質的には全くのオリジナル・ストーリーである。
 もともと原作小説の著作権を獲得していたのはMGM。舞台版「ドラキュラ」の戯曲を書いたジョン・L・バルダーストンに脚色を依頼したMGMだったが、ドラキュラという名前を使用することでユニバーサルから訴訟を起こされることを恐れ、具体的な映画化には踏み出せないでいた。
 一方、ユニバーサルの方では『魔人ドラキュラ』の続編となる題材を探しており、両者の利害が一致したことから、MGMはユニバーサルに高値で著作権を譲り渡したというわけだ。
 当初、ユニバーサルは『フランケンシュタインの花嫁』(35)を大ヒットさせたばかりのジェームズ・ホエールを監督に指名していたが、当のホエール自身は立て続けにホラー映画を撮ることに難色を示したという。
 次にコメディ映画の人気監督エドワード・サザーランドに白羽の矢を立てたものの、彼はホラー映画そのものに一切の興味がなく、最終的にはユニバーサルを離れてしまった。そこで、ボリス・カーロフ主演のSFホラー『透明光線』(35)を手掛けたばかりのランバート・ヒリヤー監督が起用されることとなったのである。
 本作のユニークな点は、女吸血鬼マリヤのキャラクターにレズビアン的なニュアンスを加えているところだろう。彼女が半裸のモデル、リリーを襲うシーンなどは一番分りやすい。また、誘拐したジャネットをじっと見つめながら顔を寄せていくシーンも、マリヤの彼女に対する同性愛的な欲望を色濃く伺わせる。
 そもそも、本作ではヴァンピリズムと同性愛を同一視し、それが精神治療を必要とする病気であると解釈しているような印象は受ける。その根底に同性愛=邪悪なものという作り手側の悪意と偏見を読み取る評論家も多いようだが、恐らくそこまでの深い意図はないだろう。あくまでも、作品全体に退廃的なムードを漂わせるための小道具の一つに過ぎないのではないだろうか。
 夜霧のロンドンの幻想的な街頭風景や、東ヨーロッパ特有の異教的ムードなども含め、かなり官能的でデカダンな雰囲気を持った作品だ。当時の保守的なプロダクション・コードを考えると、まさしくギリギリのラインで作られた映画だったのではないかと思う。
 いずれにしても、ストーリーそのものは至ってシンプル。しかし、ヒリヤー監督の作り出す退廃的な世界観はなかなか洗練されており、独特の妖しいムードを漂わせている。大人向けの小品佳作といったところだろうか。

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精神科医ガース(O・クルーガー)が教授の弁護を任される

ガースに悩みを打ち明けようとするマリヤ

若い女性リリー(N・グレイ)がマリヤの餌食に

 物語は『魔人ドラキュラ』のクライマックス直後から始まる。ドラキュラ伯爵とレンフィールドの死体が警察に発見され、その場に居合わせたヴァン・ヘルシング教授(エドワード・ヴァン・スローン)が逮捕されてしまう。スコットランドヤードの警視総監サー・バジル(ギルバート・エメリー)にドラキュラとレンフィールドがヴァンパイアであることや、事態のいきさつを説明したヴァン・ヘルシング教授だったが、当然のことながら信じてはもらえない。
 かくして、殺人容疑で起訴されることになった教授は、かつての教え子である精神科医ガース(オットー・クルーガー)に自分の弁護を頼むことにする。彼ならば自分の主張を理解してくれるだろうと考えてのことだ。
 その頃、警察の死体安置所に謎めいた美女が現われ、宿直の警官に催眠術をかけてドラキュラ伯爵の遺体を持ち去って行った。彼女の名前はマリヤ・ザレスカ女伯爵(グロリア・ホールデン)。その正体は、ドラキュラ伯爵の娘である。
 父親が本当に死んだのかどうかを確認した彼女は、その死体を焼却して安堵の表情を浮かべる。父親の死によってドラキュラ一族の呪いが解け、ヴァンパイアとしての人生に終止符を打つことが出来ると考えていたのだ。しかし、執事のサンドー(アーヴィング・ピシェル)は懐疑的だった。
 事実、マリヤの吸血衝動が収まることはなかった。欲求を抑えきれなくなった彼女は、霧深い夜のロンドンの路上で通行人を物色し、催眠術で物陰に引きずり込んでは首筋から血をすすった。マリヤはそんな自分の呪われた嗜好に我慢ならなかった。
 一方、秘書で恋人のジャネット(マルゲリーテ・チャーチル)から恩師ヴァン・ヘルシングが窮地に立たされていると知ったガースだが、教授に説明されたヴァンパイアの存在をにわかに信じることはできなかった。それでも、尊敬する恩師の願いとあって、弁護を引き受けることを約束する。
 その晩、ガースは上流階級の花形レディ・ハモンド(ヘッダ・ホッパー)の晩餐会に招かれ、ジャネットを伴なって出席する。そこにはマリヤも招待されていた。ヴァン・ヘルシング教授の事件は社交界でも話題の的で、ガースは“ヴァンパイアとは精神的な病気で、本人の思い込みに起因するものだ”という持論を展開。その話を聞いていたマリヤは強い関心を示す。もしかしたら、この人なら自分をヴァンパイアの呪いから解放してくれるかもしれない、と。
 次の日の晩、マリヤはガースを自宅に招く。彼の理論によって自分の吸血嗜好を治療して欲しいと考えるマリヤだったが、なかなか真実を打ち明ける勇気がわかない。結局、ガースは急用が出来て帰らなくてはならなくなってしまった。
 再び吸血衝動に駆られたマリヤのため獲物を探しに出かけたサンドーは、投身自殺をしかけていた若い娘リリー(ナン・グレイ)を発見。画家のモデルのアルバイトと称して、彼女を秘密の隠れ家に招き入れる。半裸になったリリーに近づくマリヤ。スラム街の裏通りに断末魔の悲鳴が響き渡る。
 リリーは瀕死の状態で病院へ担ぎ込まれたものの、なんとか一命は取り留める。体からは大量の血液が抜き取られており、どうやら催眠状態にあるようだった。しかも、首筋には2つの小さな傷が。ヴァン・ヘルシング教授はドラキュラ伯爵がまだ生きているのではないかと主張するが、ガースは他に漠然と心当たりがあった。
 早速、彼は自ら開発した精神治療の機械をリリーに使用しようとする。そこへ、マリヤが急いだ様子でやって来た。何も聞かずに今すぐ自分とトランシルヴァニアへ来て欲しいという彼女だったが、ガースはそれを頑なに断り、リリーの治療へ向かう。焦ったマリヤはサンドーに命じ、たまたま居合わせたジャネットを誘拐して連れ去った。
 一方、ガースは機械を使ってリリーから何があったのかを聞き出すことに成功し、犯人がマリヤであることに確信を持つ。さらに、彼女がジャネットを誘拐したことを知ったガースは、ヴァン・ヘルシングとサー・バジルの協力を得て、マリヤたちの行方を追跡するのだった・・・。

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せっぱ詰まった様子でガースに助けを求めるマリヤ

居合わせたジャネット(M・チャーチル)が誘拐される

機械でリリーから真相を聞きだそうとするガース

 先述したように、もともとMGMが著作権を獲得して脚色を進めていた本作。しかし、その権利を買い取ったユニバーサルは一から新しい脚本を用意することにした。これが相当紆余曲折あったらしく、当初脚色を担当したイギリスの戯曲家R・C・シェリフは第3稿まで脚本を書かされた挙句に全て検閲で却下され、最終的にはクビを言い渡されてしまう。結局、ユニバーサルは『魔人ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』で実績のあるギャレット・フォートに改めて脚色を依頼し、なんとか最終版が出来上がったというわけだ。
 撮影監督には『魔人ドラキュラ』のスペイン語版で高く評価されたジョージ・ロビンソンが起用されたほか、後にRKOで『偉大なるアンバーソン家』(42)などの名作を手掛けることになるアルバート・S・ダゴスティーノが美術監督を、『フランケンシュタイン』の特殊メイクで知られるジャック・ピアースがメイクアップ・デザインを、『十戒』(56)などで2度のオスカーに輝くジョン・P・フルトンが特殊効果を手掛けている。
 ヒロインの女吸血鬼マリヤを演じているのは、これが映画初出演となった舞台女優グロリア・ホールデン。彼女はベラ・ルゴシと同じように自分もタイプキャストされるようになるのではないかと心配し、撮影中もこの仕事を引き受けてしまったことをずっと後悔していたという。ここでは情緒不安定なマリヤの心情をとてもリアルに演じていて秀逸なのだが、その演技の背景にはそうした不安や焦りが隠されていたのかもしれない。結局、彼女の心配は杞憂に終わり、その後も『ゾラの生涯』(37)の母親役や『無法者の群』(39)の叔母役など、個性的な脇役女優として息の長い活躍を続けた。
 一方、精神科医ガース役を演じているのは、ヒッチコックの『逃走迷路』(42)などで有名なオットー・クルーガー。主に上流階級の冷酷な悪人を演じることが多かった人だが、ここでは珍しくヒーロー役を演じている。
 また、その恋人ジャネットには『ビッグ・トレイル』(30)でジョン・ウェインの相手役を演じたマルゲリーテ・チャーチル。今でも十分に通用するコケティッシュな美人で、はねっかえり娘のジャネットを嬉々として演じているのは好印象だ。
 そのほか、『魔人ドラキュラ』に引き続いてエドワード・ヴァン・スローンがヴァン・ヘルシング教授を、『猟奇島』(32)や『洞窟の女王』(32)などの名作を手掛けた映画監督として有名なアーヴィング・ピシェルがサンドー役を、『湾岸警備隊』(36)でジョン・ウェインの相手役を演じたナン・グレイがリリー役を、後にハリウッドの悪名高いゴシップ・ライターとなるヘッダ・ホッパーがレディ・ハモンド役を演じている。また、サイレント時代の人気コメディアン、ビリー・ビーヴァンが小さな役で顔を出しているのにも注目したい。

 なお、本作はデヴィッド・リンチが製作総指揮を務めたヴァンパイア映画『ナディア』(94)としてリメイクされており、原作の『ドラキュラの招待客』は今年アメリカでテレビ・シリーズ化されることが決まっている。

 

吸血鬼甦る
The Return of the Vampire (1943)

日本では劇場未公開・TV放送あり
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2002 Columbia Pitctures (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語・日本語/地域コード:
1/70分/製作:アメリカ

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ルー・ランダース
製作:サム・ホワイト
原案:カート・ニューマン
脚本:ランドール・フェイ
   グリフィン・ジェイ
撮影:L・W・オコネル
   ジョン・スチュマー
音楽:マリオ・C・テデスコ
出演:ベラ・ルゴシ
   フリーダ・イネスコート
   ニナ・フォッシュ
   マイルス・マンダー
   ローランド・ヴァーノ
   マット・ウィリス
   ジャンヌ・ベイツ

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女性科学者レディ・ジェーン(F・イネスコート)

ミス・ノートン(J・ベイツ)は吸血鬼に襲われたのか・・・?

ヴァンパイアの隠れ家を探し当てたレディ・ジェーンたち

 こちらはコロンビア・ピクチャーズがベラ・ルゴシを招いて製作した低予算のヴァンパイア映画。もともとコロンビアは『魔人ドラキュラ』の続編と銘打って本作の企画を進めていたものの、ユニバーサルから著作権侵害の警告を受けたことから、急きょ脚本の一部を訂正して撮影に踏み切った。つまり、もともとはベラ・ルゴシの演じる吸血鬼=ドラキュラ伯爵というわけだったのである。
 主人公は200年以上も生き延びている吸血鬼アルマンド・テスラ。イギリスの科学者レディ・ジェーンとソンダース教授は謎の吸血事件の犯人がテスラだと見抜き、彼を退治することに成功。その下僕だった狼男アンドレアスを救う。
 それから22年後、呪いが解けて普通の人間となったアンドレアスはレディ・ジェーンの助手として働いていた。ところが、折からの戦争による空爆でテスラが甦り、アンドレアスは再び彼の下僕にされてしまう。そして、ドイツ人の亡命科学者を装ってレディ・ジェーンに近づいたテスラは、彼女の息子ジョンと婚約者ニッキーを餌食にせんと企むのだった・・・。
 まず、本作はホラー映画に戦争映画の要素を盛り込んでいる点がユニークと言えよう。当時は第2次世界大戦の真っ只中であったために、おのずと戦争という時代背景が絡んできて当たり前のように思われるが、意外にも当時作られたホラー映画で戦争の描写を含んでいるものはほとんどない。やはり、ホラー映画やファンタジー映画は現実逃避が身上。暗い現実を思い起こさせるような描写はあまり好まれなかったのである。
 さらに、ヴァンパイアは杭で心臓を刺しただけでは死なない、という独自の解釈を新たに加えた点にも注目したい。心臓を杭を打ち込めば一時的な仮死状態にはなるものの、その杭を引き抜いてしまえば簡単に甦ってしまうのだ。本当にヴァンパイアの息の根を止めたければ、太陽の光に晒さなくてはならないのである。
 本作のクライマックスでは太陽の光に晒されたテスラがドロドロ溶けていくというショッキングな描写
が用意されているのだが、恐らくヴァンパイアの溶解を具体的に描いたのはこれが映画史上初の試みだったのではないかと思う。
 そればかりではなく、有名ホラー・モンスターを共演させるというアイディアも、多分これが初めてのことだろう。ホラー・モンスターの抱き合わせ商法というのは、ユニバーサルの『フランケンシュタインの館』(44)と『ドラキュラとせむし女』(45)で有名になり、ホラー映画ブーム末期を象徴するムーブメントとなるわけだが、この『吸血鬼甦る』ではそれに先駆けてヴァンパイアと狼男を共演させたのである。
 作品の出来栄えとしてはまずまずといったところ。基本的なプロットはヴァンパイア映画によくありがちなもので目新しくはないが、上記のようにユニークなアイディアを盛り込んでいるおかげで、ひとまず最後まで飽きることなく楽しめる映画に仕上がっている。もちろん、突っ込みどころも満載だけど(笑)。

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ドイツ軍の空爆を受けるロンドン

ヴァンパイアとは知らずに杭を抜いてしまう管理人たち

ブルックナー博士を名乗る吸血鬼テスラ(B・ルゴシ)

 1918年のロンドン郊外。ミス・ノートン(ジャンヌ・ベイツ)という若い女性が瀕死の状態で発見される。治療に当たった科学者レディ・ジェーン(フリーダ・イネスコート)とソンダース教授(ギルバート・エメリー)は、彼女の体内から大量の血液が抜き取られていること、首筋に2つの小さな傷跡があることを発見して首を傾げる。
 だが、ソンダース教授には心当たりがあった。彼は18世紀のヴァンパイア研究者アルマンド・テスラが書いた本を読み、ミス・ノートンを襲った犯人がヴァンパイアであると確信を抱く。しかし、レディ・ジェーンはその意見に賛同することは出来なかった。
 ところが、その翌朝ソンダース教授の幼い一人娘ニッキーがベッドで気を失っていた。どうやらヴァンパイアに襲われたようだ。これは一刻の猶予も許さない。そう直感した教授とレディ・ジェーンは、近くにある墓地の廃墟がヴァンパイアの隠れ家であると判断する。
 案の定、彼らはそこで棺に眠るヴァンパイアを発見し、テスラの著書に記された通り、その胸に杭を打ち込んだ。すると、そこへヴァンパイアの下僕である狼男がやって来た。その場で倒れこんだ狼男は、教授とレディ・ジェーンの見ている前で人間の姿へと戻る。ヴァンパイアの呪いが解けたのだ。
 それから22年後。ソンダース教授は飛行機事故で死亡し、その娘ニッキー(ニナ・フォッシュ)とレディ・ジェーンの息子ジョン(ローランド・ヴァーノ)は許婚の仲だった。また、狼男にされていたアンドレアス(マット・ウィリス)はすっかり普通の人間となり、レディ・ジェーンの助手として働いている。
 ある日、ロンドンがドイツ軍の戦闘機による大規模な空爆を受けた。すっかりめちゃくちゃになった墓地を清掃していた管理人たちは、胸に杭を打ちつけられた死体を発見する。その杭が空爆によるものと勘違いした彼らは、何も知らずに抜いてしまった。
 一方、レディ・ジェーンはナチ政権を逃れてドイツから亡命してくる科学者ブルックナー博士を迎えるため、アンドレアスを向かわせることにする。しかし、その道すがらでアンドレアスはヴァンパイアと遭遇し、再び彼の下僕として狼男になってしまう。
 しかも、そのヴァンパイアの正体とはアルマンド・テスラ(ベラ・ルゴシ)だった。彼は自分を殺したソンダース教授とレディ・ジェーンに復讐を誓っていた。ソンダース教授が飛行機事故で死んだのも、実は彼の念力によるものだったのだ。
 かくして、テスラはブルックナー博士を装ってレディ・ジェーンに接近。美しく成長したニッキーを目の当たりにした彼は、彼女を毒牙にかけるところから復讐を始める。意識を失って発見されたニッキーの首筋に血を吸われた跡を発見したレディ・ジェーンは、すぐさま友人であるスコットランドヤードの警視総監フリート(マイルス・マンダー)に相談。しかし、フリートはヴァンパイアの存在など全く信じようとはしなかった。
 とはいえ、ニッキーが何者かに襲われたことは事実。フリートは部下に命じてアンドレアスを監視させたところ、彼らの前でアンドレアスは狼男に変身して襲いかかって来た。彼らはその事実をフリートに報告するが、バカにするなと逆に叱責されてしまう。
 その頃、レディ・ジェーンはニッキーの証言からヴァンパイアの正体がアルマンド・テスラであることを知る。さらに、今度は息子ジョンまでもが血を吸われてしまった。ブルックナー博士こそ実はアルマンド・テスラに違いないと睨んだ彼女は、フリートを伴なって一か八かの賭けに出る・・・。

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テスラに狙われる美女ニッキー(N・フォッシュ)

狼男に変身したアンドレアス(M・ウィリス)

レディ・ジェーンの前で本性を現したテスラ

 念力が使えるんだったらもっと他の方法で復讐が出来るじゃん?とか、ヴァンパイアを退治するときに顔を見ているはずなのになぜブルックナー博士の正体に気付かないの?とかいった素朴な疑問はあえて無視(笑)。そんなことにいちいち目くじらを立てていたら、この手のB級ホラーは楽しめない。
 ドイツ出身の名娯楽職人カート・ニューマンの原案を脚色したのは、ユニバーサルで『ミイラの復活』(40)や『ミイラの墓場』(42)などを手掛けたグリフィン・ジェイと、B級西部劇の脚本家として知られるランドール・フェイの2人。
 さらに、『暗黒街の顔役』(32)のL・W・オコネルと『鉄拳熱血紳士』(36)のジョン・スチュマーが撮影監督を、『スミス氏都へ行く』(39)などで7回のオスカー候補に輝くライオネル・バンクスが美術監督を、『ギルダ』(46)や『ジョルソン物語』(46)などを手掛けたクレイ・キャンベルが特殊メイクを担当している。中でも、キャンベルによる狼男の特殊メイクはなかなか良く出来ていると思う。
 今回、ベラ・ルゴシと対決する科学者レディ・ジェーンを演じているのは、ノエル・カワードの戯曲で知られるイギリスの有名な舞台女優フリーダ・イネスコート。その相方として活躍する警視総監フリートには、『ヘンリー8世の私生活』(33)や『嵐が丘』(39)などの古典劇でお馴染みの名優マイルズ・マンダーが扮している。
 さらに、テスラに狙われる美女ニッキー役には、当時まだデビューしたばかりだった19歳のニナ・フォッシュ。『重役室』(53)でアカデミー助演女優賞にノミネートされ、08年に亡くなるまでハリウッドでは長いこと尊敬され続けた名女優だったが、当時はこういったB級映画の仕事も結構やっていたのだ。なお、日本ではニナ・フォックと表記されることが多いが、フォッシュと発音するのが正しい。
 また、冒頭でヴァンパイアの餌食となる若い娘ノートン役で登場するジャンヌ・ベイツにも注目。彼女はデヴィッド・リンチ監督の『イレイザーヘッド』(77)でミセスX役を演じていた女優さんで、『マルホランド・ドライブ』(01)にも顔を出していた人である。当時はコロンビアの低予算映画部門専属で、連続活劇『ファントム』(43)ではヒロインのダイアナ・パーマー役を演じていた。

 

 

夜の悪魔
Son of Dracula (1943)
日本では1950年劇場公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2004 Universal Studios (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/81分
/製作:アメリカ
※ユニヴァーサル製作ドラキュラ映画5本収録のボックス・セット

特典映像
オリジナル劇場予告編

監督:ロバート・シオドマク
製作:フォード・ビーブ
原案:カーティス・シオドマク
脚本:エリック・テイラー
撮影:ジョージ・ロビンソン
音楽:ハンス・J・サルター
出演:ロン・チャニー・ジュニア
   ルイーズ・オルブリットン
   ロバート・ペイジ
   イヴリン・エンカーズ
   フランク・クレイヴン
   J・エドワード・ブロンバーグ
   サミュエル・S・ハインズ

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キャサリン(L・オルブリットン)と妹クレア(E・エンカース)

コールドウェル大佐が変死体で発見される

深夜に現われたアルカード伯爵(L・チャニー・ジュニア)

 ドラキュラの娘ときたら今度は息子だろう、とばかりにユニバーサルが放ったドラキュラ一族シリーズ第3弾。今度は舞台をヨーロッパからアメリカ南部のニューオーリンズへと移し、亜熱帯地方特有の湿った空気とヴードゥー教の蔓延る独特の異教的文化を背景に、アメリカン・ゴシック・スタイルの怪奇譚が描かれていく。
 主人公は大農園を経営する一家の長女キャサリン。黒魔術を研究するためにヨーロッパへ行っていた彼女は、その時に知り合った貴族アルカード伯爵をアメリカへ招く。ところが、このアルカード伯爵こそ呪われたヴァンパイアだったのだ。
 その直後にキャサリンの父親が変死をとげ、農園を相続したキャサリンはアルカード伯爵と結婚する。実は、彼女は最初からアルカード伯爵の正体を承知しており、自らもヴァンパイアとなって永遠の命を手に入れようと画策していたのだ・・・!
 一見するとヴァンパイアに狙われる犠牲者と思われたヒロインが、実は共犯の悪女だった・・・というのが今回のミソ。これまでのようなコミック・リリーフ的要素は極力排除され、かなりダークでシリアスなストーリーが展開する。救いのないペシミスティックなクライマックスも、当時のホラー映画には珍しいだろう。
 監督は『殺人者』(46)でオスカーにノミネートされたドイツ出身の名匠ロバート・シオドマク。純然たるホラー映画を撮ったのは恐らくこれ一本だけだと思うのだが、アメリカ南部特有の風土にヨーロッパ的なゴシック・ムードを上手く溶け込ませており、なかなか見応えのある作品に仕上げている。

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なぜかキャサリンは遺産の全額を妹に譲った

沼の底に隠れていたアルカード伯爵

キャサリンは伯爵と結婚する

 アメリカ南部のニューオーリンズ。大農園主コールドウェル大佐の娘キャサリン(ルイーズ・オルブリットン)は、ハンガリー貴族アルカード伯爵(ロン・チャニー・ジュニア)の到着を待ち焦がれている。黒魔術を研究するためにヨーロッパへ行っていた彼女は、あちらで親しくなった伯爵をアメリカへ招いたのだ。
 恋人のフランク(ロバート・ペイジ)と父の友人ブリュースター医師(フランク・クレイヴン)が駅へ伯爵を迎えに行くが、なぜか大量の荷物だけしか到着しなかった。心配になったキャサリンは沼地の小屋に住む呪術師クィーン・ジンバに祈祷してもらったところ、伯爵は人間ではなく魔物だという。そこへ一匹の吸血コウモリが迷い込み、クィーン・ジンバに噛み付いてショック死させてしまった。
 その晩、コールドウェル大佐の自室で火災が発生し、大佐が死体で発見される。二酸化炭素中毒かと思われたが、検視の結果、大佐の体からは大量の血が抜き取られており、首筋には奇妙な2つの小さい傷跡が発見される。
 結局、アルカード伯爵がコールドウェル邸に到着したのは深夜になってからだった。その不自然な現われ方、さらにアルカードという文字を逆さまに読むとドラキュラになることから、ブリュースター医師は伯爵の素性を怪しむようになる。
 それからほどなくして、コールドウェル大佐の遺言が発表される。キャサリンと妹クレア(イヴリン・エンカース)が均等に遺産を相続するはずだったが、なぜかキャサリンは遺産の全額をクレアに譲り、自分は農園ダーク・オークスだけを相続することにした。
 キャサリンの不可解な行動を心配するクレアとフランク。ブリュースターはアルカード伯爵が昼間になると姿を消すことを怪しんで、クレアと一緒に彼の客間を捜索する。すると、部屋の使われた形跡が一切ない上、トランクの中が空っぽであることが発覚。いったい彼は何者なのか・・・?
 一方、フランクはキャサリンの行動を監視していた。真夜中に沼地へと向かったキャサリンは、そこでアルカード伯爵と落ち合う。彼は沼の底に沈められた棺の中で眠っていたのだ。その足で2人は判事のもとへ行き、略式結婚を挙げる。実は、全て彼らが予め共謀計画した筋書き通りだったのだ。
 晴れて夫婦となり、ダーク・オークスの古い屋敷へ帰ってきたキャサリンとアルカード伯爵。そこへ、嫉妬に狂ったフランクが訪れる。感情の高まりを抑えきれなくなった彼は、手に持った拳銃で伯爵を射殺しようとしたところ、弾が伯爵の体をすり抜けて背後に隠れていたキャサリンに命中してしまう。
 わけが分らなくなったフランクは、錯乱状態でブリュースター医師のもとへ駆け込んだ。彼から話を聞いたブリュースター医師はダーク・オークスの屋敷へと向かうが、銃弾を受けたはずのキャサリンはピンピンとしている。だが、どこか精気がない様子だ。
 しかも、これから昼間は夫と研究に勤しむので外は出歩かないし誰とも会うつもりはない、用があるのならば陽が暮れてからにしてくれなどと不可解なことを言う。ブリュースター医師は狐に鼻をつままれた様子で帰路についた。
 その翌朝、フランクはキャサリン殺害を警察に自首した。ブリュースターは彼女が生きている姿をこの目で見たと主張するが、警察も自首してきた以上は調べないわけにもいかない。ところが、警察がダーク・オークスの敷地内を捜索したところ、墓地の棺からキャサリンの死体が発見された。フランクは殺人容疑で逮捕される。
 この展開を受けて、ブリュースター医師はハンガリー人のヴァンパイア研究者ラズロ教授(J・エドワード・ブロンバーグ)を呼び寄せる。教授に寄れば、ハンガリーにアルカードなどという伯爵家は存在しないという。やはりアルカード伯爵はドラキュラ一族の末裔、つまりヴァンパイアなのだ。キャサリンもヴァンパイアとなったに違いない。ブリュースター博士とラズロ教授は、伯爵とキャサリンを倒してフランクを救おうと考えるのだったが・・・。

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嫉妬に狂ったフランク(R・ペイジ)は伯爵に銃を向ける

屋敷を捜索するブリュースター医師(F・クレイヴン)

キャサリンは生きていたのだが・・・

 ヴァンパイア映画の歴史において本作が画期的だったのは、ドラキュラがコウモリに変身する様子を初めて具体的に映像化したこと。アニメーション技術を応用した原始的な特殊効果なのだが、これが意外と味があって面白い。前作『女ドラキュラ』にも参加していたジョン・P・フルトンの仕事だ。
 原案ストーリーを手掛けたのは、シオドマク監督の実弟カート・シオドマク。『狼男』(41)や『フランケンシュタインの館』(44)など、当時のユニバーサル・ホラーには欠かせない脚本家だった人物だ。本作ではカーティスとクレジットされている。
 そして、同じく『フランケンシュタインの幽霊』(42)や『オペラの怪人』(43)などユニバーサル・ホラーで知られるエリック・テイラーが脚色を手掛け、『女ドラキュラ』に続いてジョージ・ロビンソンが撮影を担当。『オペラの怪人』でオスカーを獲得したジョン・B・グッドマンが美術監督を、『スパルタカス』(60)でオスカーを獲得したラッセル・A・ガウスマンがセット・デザインを、特殊メイクのパイオニアであるジャック・ピアースがメイクアップ・デザインを手掛けている。
 主演はユニバーサルの『狼男』で一世を風靡したロン・チャニー・ジュニア。もっさりとした感じがヴァンパイアのイメージとは程遠いように思うのだが、なんとかまあギリギリ合格ラインといった感じだろうか。“千の顔を持つ男”と呼ばれた父親ロン・チャニーほどの才能に恵まれなかったのは不幸だった。
 悪女キャサリン役を演じているルイーズ・オルブリットンは、当時ユニバーサル専属のB級映画女優だったブルネット美人。その妹クレア役のイヴリン・エンカースも同じくユニバーサルのB級部門専属で、ロン・チャニー・ジュニアの相手役を演じた『狼男』や『フランケンシュタインの幽霊』など、ユニバーサル・ホラーには欠かせないブロンド女優だった。
 そのほか、当時の人気俳優ジョン・ペインのソックリさんが仇になって低予算映画ばかりあてがわれたロバート・ペイジ、後に赤狩りでハリウッドを追われたハンガリー人の名脇役J・エドワード・ブロンバーグ、数多くの映画で親しみやすい小市民を演じ続けたフランク・クレイヴンなどが脇を固めている。

 

 

ドラキュラとせむし女
House of Dracula (1945)

日本では1959年劇場公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

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(P)2004 Universal Studios (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/67分
/製作:アメリカ
※ユニヴァーサル製作ドラキュラ映画5本収録のボックス・セット

特典映像
なし
監督:アール・C・ケントン
製作:ポール・マルヴァーン
脚本:エドワード・T・ロウ
撮影:ジョージ・ロビンソン
音楽:ハンス・J・サルター
出演:ロン・チャニー・ジュニア
   マーサ・オドリスコル
   ジョン・キャラダイン
   ライオネル・アトウィル
   オンスロー・スティーヴンス
   グレン・ストレンジ
   ジェーン・アダムス
   ルドウィグ・ストッセル
   スケルトン・ナッグス

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エデルマン博士(O・スティーヴンス)を訪ねたドラキュラ

ドラキュラ(J・キャラダイン)は普通の人間になりたかった

せむし女ニーナ(J・アダムス)はエデルマン博士の助手

 ユニバーサル映画のドラキュラ・シリーズ4作目・・・ではなく、実はこれ、有名モンスターが一堂に会したお祭り(?)映画『フランケンシュタインの館』(44)の続編に当たる作品。当時はユニバーサル・ホラーの人気も下火となってしまい、スタジオはこうした抱き合わせ商法でなんとか挽回を図ろうとしていたのである。
 物語は科学者エデルマン博士のもとにドラキュラ伯爵がやって来るところから始まる。ドラキュラは自らの呪われた運命に辟易しており、なんとか普通の人間に戻りたいと博士に相談。輸血で全身の血を入れ替えることにより、少しづつ普通の人間の体に戻そうということになる。
 一方、同時期に狼男も博士の門を叩き、普通の人間に戻りたいと訴える。しかし、こちらの治療はなかなか難しい。失望した狼男は投身自殺を図るものの死ぬことが出来ず、救助に向かったエデルマン博士は偶然にもフランケンシュタインの怪物を発見して保護する。
 ところが、博士の助手である美女ミリツァに惚れてしまったドラキュラは、邪魔になる博士を吸血鬼にしてしまおうと自分の血液を逆流させてしまった。もう一人の助手であるせむし女ニーナに救われた博士は、なんとかドラキュラを退治することに成功。
 しかし、博士の体内には吸血鬼の血が混ざってしまい、“ジキル博士とハイド氏”のごとく、ヴァンパイアとしての別の人格に悩まされることとなる。さらに、フランケンシュタインの怪物まで甦ってしまい、博士の研究所は大パニックに。事態を収拾すべく動き出したのは狼男とせむし女だった・・・。
 ということで、正確には「狼男とせむし女」と呼ぶべき内容の作品。肝心のドラキュラ伯爵は物語の中盤で退治されてしまい、結局ヒーローとして活躍するのは狼男ローレンス・タルボット。そもそも、ドラキュラ伯爵もフランケンシュタインの怪物も前作で死んでしまっているはずなのに、平気な顔して出てくるという時点でかなりいい加減な作品であることは間違いない。まあ、それもご愛嬌なのだけれど(笑)。
 監督は低予算プログラムピクチャーの職人監督アール・C・ケントン。実は、もともとこの作品は“The Wolf Man vs Dracula(狼男対ドラキュラ)”というタイトルで脚本が書かれていたものの、内容が暴力的過ぎるという理由から検閲で却下され、最終的にはお子様向け妖怪祭りみたいな作品になってしまったのだそうだ。ちなみに、企画の段階ではドラキュラ役にベラ・ルゴシが予定されていたという。

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博士に助けを求めるタルボット(L・チャニー・ジュニア)

タルボットは狼男に変身する

洞窟でフランケンシュタインの怪物(G・ストレンジ)を発見

 どんな奇病でも治すことが出来ると評判のエデルマン博士(オンスロー・スティーヴンス)のもとに、ある晩アトス伯爵と名乗る人物が訪れる。しかし、彼の正体は悪名高き吸血鬼ドラキュラ伯爵(ジョン・キャラダイン)だった。
 ヴァンパイアとしての生活に嫌気がさした彼は、エデルマン博士の治療を受けて普通の人間になりたいと考えていたのである。様々な方法を模索した博士は、自らの血液にドラキュラの血液を正常に戻す不思議な力があることを発見。輸血を繰り返せばドラキュラが普通の人間と同じ体になることを突き止めた。
 その同じ頃、エデルマン博士のクリニックにローレンス・タルボット(ロン・チャニー・ジュニア)という男が現われる。彼は狼男だった。予約がないことで診療を後回しにされた彼は警察へ駆け込み、自分を留置所に入れて欲しいと懇願する。満月が迫っているからだ。
 警察からの連絡を受けて留置所へ駆けつけたエデルマン博士と助手ミリツァ(マーサ・オドリスコル)の目の前で、タルボットは狼男へと変身した。博士は彼を普通の人間の体に戻すべく、協力することを約束する。
 実は、博士はもう一人の助手であるせむし女ニーナ(ジェーン・アダムス)の背中を治療するために、ある特殊なカビを育てていた。そのカビには人間の骨を正常な形に戻す作用がある。タルボットが狼男に変身してしまう理由も、変形した彼の頭蓋骨が脳を圧迫していることが原因で、この特殊なカビが効果を発揮することが期待された。しかし、カビが育つまでには時間がかかる。失望したタルボットは崖の上から投身自殺を図ってしまった。
 タルボットを救出するため、エデルマン博士は崖の下の洞窟へ入っていく。彼は無事だった。洞窟の外へ出ようとした博士とタルボットは、土に半分埋まった状態のモンスターを発見する。それはフランケンシュタインの怪物だった。
 クリニックに戻った博士は怪物を甦らせようとするが、助手ニーナに反対されて諦める。かつて村人が大勢殺されたように、再び多くの犠牲者が出る可能性があるからだ。
 一方、治療のためクリニックに通うようになったドラキュラ伯爵は、助手ミリツァの美貌に惹かれていく。彼はミリツァに催眠術をかけ、我がものにしようと企むようになった。その事実をニーナから聞かされた博士は、伯爵の治療を早めようとする。
 だが、博士の対応を不自然に感じた伯爵は、博士に催眠術をかけて輸血用の管を入れ替える。翌朝、事態を察した博士はドラキュラを退治するしかないとの結論に達し、棺の中で眠る伯爵に太陽の光を浴びせて殺害する。
 その日から、博士は体調の変化を覚えるようになった。いきなり苦しみ始めた博士は、次第に怪物のような姿に変貌。鏡に姿が映らなくなってしまった。そう、彼の体内にはヴァンパイアの血が混ざってしまったのだ。そのため、普段は正常な人間なのだが、突如として凶悪な別人に変貌してしまう。
 凶暴化した博士は研究室でフランケンシュタインの怪物を甦らせてしまった。タルボットとニーナは、なんとか博士と怪物の暴走を食い止めようとするのだが・・・。

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怪物を甦らせようとする博士をニーナが止める

ミリツァ(M・オドリスコル)を狙うドラキュラ

エデルマン博士は体の異変を覚える・・・

 いやあ、改めて文字に書き起こしてみるとムチャクチャなお話だ(笑)。ただ、撮影のジョージ・ロビンソンや美術監督のジョン・B・グッドマン、セット・デザインのラッセル・A・ガウスマンなど、オスカー受賞者・候補者を含めた一流スタッフによる手堅い仕事のおかげで、とりあえずちゃんと見れる作品に仕上がっているのは立派。狼男や怪物の特殊メイクだって、ユニバーサルの誇るパイオニア、ジャック・ピアースが担当している。
 賑やかなだけがとりえの脚本を書いたのは、マッド・サイエンティストものの古典として有名な“The Vampire Bat”(33)を手掛けたエドワード・T・ロウ。34年間のキャリアで120本以上もの映画シナリオを書いたというツワモノだ。
 主人公エデルマン博士を演じているオンスロー・スティーヴンスは、30年代に『殺人光線』(34)や“Notorious Gentleman”(35)といったユニバーサルのB級映画でヒーロー役として活躍した俳優。『ナガナ』(33)や『武装せる市街』(35)といった大作でも印象的な脇役を演じていた。
 ヒロインのミリツァを演じているマーサ・オドリスコルは、バーバラ・スタンウィック主演の『レディ・イヴ』(41)などの脇役を務めていた人。女優としては大成せず、本作の2年後に25歳で映画界を引退して競走馬のブリーダーとなったそうだ。
 ドラキュラ役は前作『フランケンシュタインの館』に引き続いて、『駅馬車』(39)の名優ジョン・キャラダイン。これがなかなかスマートかつハンサムで色っぽい。また、狼男ローレンス・タルボットには、これが一番の当たり役だったロン・チャニー・ジュニア。フランケンシュタインの怪物には、これまた『フランケンシュタインの館』に続いてグレン・ストレンジが起用されている。
 そのほか、警察のホルツ捜査官役には名優ライオネル・アトウィル、せむし女ニーナ役には連続活劇版バットマン・シリーズの第2弾“Batman and Robin”(49)のヴィッキー・ヴェイル役で知られるジェーン・アダムス、使用人ジーグフリード役には『打撃王』(42)でゲイリー・クーパーの父親役を演じていたルドウィグ・ストッセルが扮している。

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