ディスコ・アーティスト列伝<3>
D-トレイン 〜D-Train〜
全世界を巻き込んだディスコ・ブームが去った後の、所謂ポスト・ディスコ時代を代表するディスコ・アーティストである。猫も杓子もディスコ、ディスコという時代が過ぎ去り、もともと大都会のアンダーグランドなカルチャーであったディスコが本来の姿に戻った1982年、D-トレインの“You're The One For Me”は、ディスコが大人のシックな遊びである事を再認識させてくれるハイ・クオリティーなダンス・ナンバーとして絶大な支持を得た。チャート・アクションこそ、ディスコ全盛期のようなビルボード・チャート上位に食い込むような派手さはなかったが、ダンス・チャート1位、UKのポップ・チャートでのトップ30入りというのは立派な成績だろう。来るべきブレイク・ダンスの時代を予感させるような程よいストリート感に、タイトでエレクトリックなサウンド・プロダクション、そしてスムースでソウルフルなグルーヴ。ディスコ全盛期からニューヨークのクラブ・シーンを引っ張ってきたDJであり、ミキサーであるフランソワーズ・ケヴォーキアンの天才的なミキシング・センスが遺憾なく発揮された傑作。80年代半ばに開花するブラック・コンテンポラリーの先駆的な作品であり、やはり80年代半ばにもてはやされるUKソウルにも多大な影響を与えた作品だった。
D-トレインはニューヨークのブルックリンに生まれ育った幼馴染、ジェームズ・ウィリアムスとヒューバート・イーヴスVの二人で結成されたグループで、ウィリアムスがボーカルと作曲を、イーヴスがキーボード、作曲、プロデュース、アレンジを担当していた。
二人はハイスクール時代から一緒に音楽活動を始め、地元のフットボール・チームで活躍していたウィリアムズのニックネーム、D-トレインをグループ名に冠した。D-トレインというのは、マンハッタンからブルックリンを経てフラットブッシュへと繋がるニューヨークの地下鉄の路線名に由来する。
サルソウル、イースト・ウェストと並んで、70年代からニューヨークを代表するディスコ系レーベルとして都会的で洗練された秀作を数多く世に送り出してきたプレリュード・レコードと契約した二人は、先述した“You're
The One For Me”で鮮烈なデビューを飾る。特にUKでの人気は高く、続く“Walk On
By”(ディオンヌ・ワーウィックのカバー)、“Music”、“Keep Giving Me
Love”もポップ・チャートに入るヒットを記録。85年には当時“19”の大ヒットでアーティストとしても注目されていたポール・ハードキャッスルによってリミックスされた“You're
The One For
Me”がUKチャート15位という、彼らにとって最大のヒットとなる。
しかし、その直後にウィリアムズがコロムビア・レコードとソロ契約を結び、グループは解散。イーヴスはアレサ・フランクリンやホイットニー・ヒューストン、ルーサー・ヴァンドロスらのアルバムに作曲、キーボーディスト、アレンジャーとして参加し、裏方として活躍するようになる。
“You're
The One For
Me”の人気は未だに根強く、ソロとしては長続きしなかったウィリアムズは近年再びD-トレインを名乗って、世界各地のイベントやコンサートに参加している。80年代のダンス・ミュージックを象徴する作品として絶対に外す事のできない名作と言えるだろう。
ただ、個人的にはD-トレインと言えば“The
Shadow Of Your
Smile”。そう、シナトラやアストラッド・ジルベルトが歌った映画「いそしぎ」のテーマ曲。これをグルーヴィーでアダルトなアーバン・ディスコとして仕上げた作品で、原曲の良さを最大限に引き出した素晴らしいカバー。スウィートでダンディーなウィリアムズのボーカルが冴え渡ります。
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You're The One For Me (1982) |
Music (1983) |
(P)1997 Deepbeats Records(UK) | (P)1992 Unidisc (Canada) |
1,You're The One For Me 2,Walk On By 3,Tryin' To Get Over 4,Lucky Day 5,D-Train Theme 6,Keep On 7,Love Vibrations 8,You're The One For Me (Reprise) bonus tracks 9,You're The One For Me (Dimitri Remix) 10,Keep On (Francoise Kevorkian Dum Mix) 11,D-Train Dub 12,You're The One For Me (Labour Of Love Remix) produced by Hubert Eaves V #9 mixed by Dimitri (P)1993 #12 remixed by Paul Hardcastle (P)1985 |
1,Keep Giving Me Love 2,The Shadow of Your Smile 3,Are You Ready For Me 4,Music (Remix) 5,Children of the World 6,Let Me Show You (A World of Wonder) 7,Don't You Wanna Ride (The D Train) 8,Keep Gicing Me Love (Remix) 9,Keep Giving Me Love (Radio Edit) 10,Are You Ready For Me (Radio Edit) 11,Music (Radio Edit) 12,Music (Dub Version) produced by Hubert Eaves V |
もともと“D-Train”のタイトルでリリースされた彼らのファースト・アルバムにボーナス・トラックを収録したUK盤CD。やはり最大の聴きものは大ヒットした#1だろう。カナダのUnidiscのお抱えミキサー、Dimitriによるリミックス#9は、原曲のアレンジをそのまま生かしながら、90年代初期の典型的なディープ・ハウスに仕上げた手堅い音作りが好感持てる。そして、リリース当時話題になったポール・ハードキャッスルによるリミックス#12は、今聴くと可もなく不可もなくといった印象。個人的には超ファンキーなパーティー・ナンバー#5の猥雑さが好き。バック・ボーカルには後にイーヴスが楽曲を提供する事になる女性シンガーリサ・フィシャーが参加している。 | ファースト・アルバムと比べるとヒット曲こそ少ないものの、アルバムとしてはこちらのセカンドの方がトータルでバランスが取れており、楽曲的にも粒ぞろい。“You're The One For Me”路線の#1、そして何度聴いても素晴らしいアーバン・メロウ・ディスコの傑作#2、いかにも80年代のニューヨーク・サウンドらしいタイトで硬質なシティ・ファンク#3、これまた“You're The One〜”路線バリバリの#4、メッセージ性の高いドラマチックなミディアム・ファンク#5・・・と、なかなか甲乙つけがたい作品が並ぶ。名盤です。このUnidisc盤CDはボーナス・トラックも充実しており、本作絡みでリリースされた音源を全て網羅している。 |