80年代カルト・ホラー セレクション

〜PART3〜

 

 

悪魔のいる渚/サイレントスクリーム
Silent Scream (1980)
日本では劇場未公開・ビデオ発売のみ
VHSは日本発売済/DVD・BDは日本未発売

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(P)2011 Scorpion Releasing (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.78:1/音声: 5.1 ch Dolby Surround/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/87分/制作国:アメリカ

<特典>
・メイキング・ドキュメンタリー「Scream of Success: 30 Years Later」
・メイキング・ドキュメンタリー「Silent Scream: The Original Script」
・メイキング・ドキュメンタリー「The Wheat Bros: A Look Back」
・女優レベッカ・ボールディング インタビュー
・デニー・ハリス監督 音声インタビュー
・脚本家ケン・ウィート,ジム・ウィート、女優レベッカ・ボールディングによる音声解説
・オリジナル劇場予告編
・テレビ・スポット
監督:デニー・ハリス
製作:ジム・ウィート
   ケン・ウィート
脚本:ジム・ウィート
   ケン・ウィート
   ウォーレス・C・ベネット
撮影:マイケル・D・マーフィ
   デヴィッド・ショア
音楽:ロジャー・ケラウェイ
出演:レベッカ・ボールディング
   イヴォンヌ・デ・カーロ
   キャメロン・ミッチェル
   アヴェリィ・シュレイバー
   バーバラ・スティール
   スティーヴ・ドゥーベ
   ブラッド・リアデン
   ジュリ・アンデルマン
   ジョン・ワイドロック

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下宿先を捜す女子大生スコッティ(R・ボールディング)

丘の上の古い屋敷エンゲルス邸へとたどり着く

同年代の学生たちが部屋を借りていた

<Review>
 アメリカでは「13日の金曜日」や「プロム・ナイト」などと並んで、初期スラッシャー映画の一本とされているが、正直なところあまり正しいとは言えない。確かに、下宿屋に暮らす若者たちが何者かによって一人また一人殺されるというプロットは、スラッシャー映画の原点である「暗闇にベルが鳴る」を彷彿とさせる。とはいえ、作品の雰囲気やストーリーはヒッチコックの「サイコ」に極めてよく似ており、どちらかというと猟奇サスペンスの部類に属するだろう。
 主人公は女子大生のスコッティ。学生寮の入居申込にあぶれてしまった彼女は、海岸にほど近い下宿屋に部屋を借りることとなる。同じく部屋を借りる3人の学生たちと仲良くなったものの、屋敷の持ち主であるエンゲルス夫人と息子メイソンはどことなく怪しい。そんなある日、酒に酔って帰りの遅くなった学生ピーターが、屋敷の目の前の海岸で殺されてしまう。エンゲルス一家について調べ始める警察。やがて、不幸な出来事から狂人となった長女ヴィクトリアが屋敷のどこかに潜んでいることが判明し、残された学生たちの身にも危険が迫る…。
 振り下ろされるナイフと飛び散る血糊、揺れる裸電球などの細かいカットをスピーディな編集で見せる殺人シーンは明らかに「サイコ」のパクリなのだが、それ以外にも古い屋敷のどことなく薄気味悪いムード、バーナード・ハーマンそっくりの音楽スコアなど、全編に渡って「サイコ」からの引用とコピーが散りばめられている。自室にこもったまま滅多に出てこないエンゲルス夫人、下宿屋を切り盛りする挙動不審の息子メイソンってのも、まさにベイツ母子そのものだ。
 犠牲なる学生は2人だけだし、血みどろのゴア描写もほとんどない。当時としてもかなり古めかしいタイプのホラーだと言えよう。どう見てもどこかの事務所を改装しただけの警察署など、低予算ゆえの安っぽさも否めない。しかしその一方で、CMディレクター出身のデニー・ハリス監督の演出は、これが処女作とは思えないくらいの風格があり、直接的なショックシーンで怖がらせるのではなく、屋敷の陰鬱な雰囲気と些細なディテールの積み重ねによってジワジワと恐怖を高めていく。総じてよく出来たB級ホラーだ。

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一家の息子で管理人のメイソン(B・リアデン)は人付き合いが苦手らしい

家主であるエンゲルス夫人(Y・デ・カーロ)は自室からほとんど出てこない

ジャック(右端/S・ドゥーベ)らと意気投合するスコッティ

<Story>
 大学の新学期シーズン。女子大生スコッティ(レベッカ・ボールディング)は、学生寮の入居申込に遅れてしまったため、自分で下宿先を探さねばならなくなってしまう。とはいえ、なかなか部屋は見つからず。近隣を探し回った挙句、ようやく見つけた海岸近くの下宿屋に住むこととなった。
 屋敷の持ち主はエンゲルス夫人(イヴォンヌ・デ・カーロ)。だが、夫人は屋根裏の自室にこもって滅多に出てくることがなく、下宿人たちの面倒は息子メイソン(ブラッド・リアデン)が見ている。そのメイソンも内気でおどおどとした若者で、一日の大半を部屋でテレビを見て過ごしていた。
 一方、自由奔放で気さくなドリス(ジュリ・アンデルマン)にお調子者の御曹司ピーター(ジョン・ワイドロック)、そして爽やかでハンサムなジャック(スティーヴ・ドゥーベ)と、同じく下宿している他の学生たちは気のいい連中ばかりで、スコッティはすぐに意気投合する。中でも紳士的で優しいジャックとは、なんとなくいい雰囲気になった。
 ある晩、海辺のレストランで食事をした4人だったが、ヘベレケになったピーターだけが海岸で寝込んでしまう。明け方、そんな彼に近づく不気味な影。ウトウトと目を覚ましたピーターは、ナイフでメッタ刺しにされて殺されてしまう。早朝のランニングに出たドリスがピーターの死体を発見。通報を受けた警察のマクガイバー警部(キャメロン・ミッチェル)と相棒のラギン警部補(アヴェリィ・シュレイバー)が捜査を始める。
 警察が来たことに不安を隠せないエンゲルス夫人。メイソンはそんな母親に不満を募らせている様子だ。実は、2人は重大な秘密を隠していた。屋敷の中にはもう一人、隠し部屋に匿われている人物がいたのだ。そうとは知らないスコッティたち。事件のショックから抜け出せないスコッティは、精神的に支えてくれるジャックとついに結ばれる。ドリスは地下室で洗濯をして気を紛らわせていたが、そんな彼女もまた殺人鬼の犠牲となってしまう。
 その頃、エンゲルス家が怪しいと睨んでいたマクガイバー警部は、長女ヴィクトリア(バーバラ・スティール)が過去に傷害事件を起こしていたことを知る。しかも、メイソンの説明では東海岸の方へ移り住んでいるとのことだったが、その形跡は全くなかった。今もあの屋敷のどこかに潜んでいるに違いない。そう確信したマクガイバー警部とラギン警部補は、すぐさまエンゲルス邸へと向かう。
 一方、ドリスの姿が見当たらないことに気づいたスコッティは、地下室の隅っこに秘密の階段があることに気付く。恐る恐る階段を上り、屋根裏の隠し部屋へとたどり着いた彼女が、そこで目にしたものとは…!?

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海辺で居眠りしたピーター(J・ワイドロック)が何者かに殺される

捜査を担当するマクガイバー警部(C・ミッチェル)とラギン警部補(A・シュレイバー)

エンゲルス夫人とメイソンはなにか秘密を隠している様子だった

<Information>
 先述した通り、監督のデニー・ハリスはテレビのCMディレクター出身。もともと熱心なホラー映画ファンだった彼は、CMの仕事で貯めた資金で撮影機材や編集機材を購入して自らの製作会社を設立。その第一回作品として手がけたのが本作だった。で、実は撮影が行われたのは1977年の夏。その年の暮れには編集まで完成していたのだが、これがとても劇場公開できるような代物ではなかったのだという。
 困り果てた監督は、知り合いのつてを頼って映画関係者の意見を求めて回っていたらしいのだが、その過程で知り合ったのが当時まだ無名だったジムとケンのウィート兄弟だった。後に「ザ・フライ2」や「ピッチブラック」の脚本で知られるようになる2人は、当初の完成版を見て手がつけられないと判断。いっそのこと撮り直しした方が早いとハリス監督に助言し、脚本のリライトはもとよりプロデューサーとして全面的にサポートすることとなった。
 かくして、もともとキャスティングされていた学生役の若手俳優4人に声をかけ、さらにイヴォンヌ・デ・カーロやキャメロン・ミッチェルなどの有名ベテラン俳優を客寄せのために起用した。不自然だった登場人物の設定やストーリー展開も大幅に修正。ただでさえ撮り直しで余計なコストがかかっているため、製作費を抑えるために様々な工夫がなされた。
 舞台となる屋敷の外観はロサンゼルスの歴史的建造物であるスミス邸を使用しているのだが、レンタル代が高いので必要なショットを1日で撮りだめ。また、1日単位でギャラを支払うベテラン俳優たちも、キャメロン・ミッチェルが4日、それ以外は2日と拘束時間を必要最小限に設定し、出演シーンをまとめて一気に撮影。後から足りないショットなどが出てきたら、スタッフが顔を隠して代役を務めたという。
 かくして、最初に撮影されたフィルムで最終的に残ったのはたった12分だけ。なんとか'78年の秋頃には最終版が完成した本作だが、それでも配給先を探すのに苦労したらしく、アメリカで公開されたのは'79年の暮れから'80年の初頭にかけてだった。しかも、興行成績はイマイチ。この結果に落胆したハリス監督は、再びCMの世界に戻って2度と映画を手がけることはなかった。
 なお、「フィラデルフィア・エクスペリメント」('84)や「ショー・コスギ'88/復讐遊戯」('86)などの脚本を書いたウォーレス・C・ベネットが脚本に参加しているが、どの段階で…つまり、初稿版かリライト版のどちらで加わったのかは不明。ただ、彼のキャリアから考えると撮り直しが必要なほど酷い出来だったという初稿版とは考えにくいだろう。

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今度は地下室でドリス(J・アンデルマン)が殺される

屋敷には気の狂った長女ヴィクトリア(B・スティール)が隠れていた

屋根裏へ続く秘密の通路を発見したスコッティは…

 主演はテレビを中心に活躍してきた女優レベッカ・ボールディング。これが映画デビュー作だった。実は当時、人気ドラマ「事件記者ルー・グラント」のレギュラーに決まったばかりで、本作の出演を一度は断念したのだそうだ。ところが、3話目で番組をクビに。そのおかげで、こちらの仕事を受けることができたというわけだ。本作に続いてクリーチャー・ホラー“The Boogens”('81)に主演。その後は有名なテレビ製作者ジェームズ・L・コンウェイと結婚。最近では夫が製作した人気ドラマ「チャームド〜魔女3姉妹」にセミ・レギュラーを務めている。
 エンゲルス夫人役のイヴォンヌ・デ・カーロは、「君知るや南の国」('53)や「十戒」('56)、そしてTVドラマ「マンスターズ」('64〜'66)で知られる往年の人気スター。マクガイバー警部役のキャメロン・ミッチェルは「セールスマンの死」('51)や「回転木馬」('55)で売れっ子となり、その後はマリオ・バーヴァの「モデル連続殺人」('63)などイタリア映画にも出演、'80年代には「必殺コマンド」('85)や「スペース・ミューティニー」('89)など数え切れない程の低予算映画に出演したタフガイ俳優。その相棒のラギン警部補役のアヴェリィ・シュレイバーは、「エアポート'80」('79)などにも顔を出していた有名なスタンダップ・コメディアンだ。
 そして、エンゲル家の長女ヴィクトリア役を演じているのは、マリオ・バーヴァの傑作「血ぬられた墓標」('60)の主演で一躍ホラー映画の女王となったバーバラ・スティール。'70年代初頭にヨーロッパからアメリカへ戻り、クローネンバーグ監督の「シーバース」('74)などに出演していた。当時は既に過去の人だったこともあってか、主演のレベッカ・ボールディングは本作で共演するまでバーバラの名前すら聞いたことがなかったらしい。
 そのほか、「ハイライダーズ」('78)や「アースライト/君は星になった」('80)などグレイドン・クラーク監督作品の常連ブラッド・リアデン、本作をさらに下回る超低予算ホラー「ブラッド・カルト/悪魔の殺人集団」('85)でヒロイン役を務めたポッチャリ女優ジュリ・アンデルマンが脇を固めている。

 

 

墓場の館
Funeral Home (1980)
日本では劇場未公開・ビデオ発売のみ
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2012 CFS Releasing (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/画面比: 1.33:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/92分/制作国:カナダ

<特典>
なし
監督:ウィリアム・フリュエ
製作:バリー・アレン
   ウィリアム・フリュエ
脚本:アイダ・ネルソン
撮影:マーク・アーウィン
音楽:ジェリー・フィールディング
出演:ケイ・ホートリー
   レスリー・ドナルドソン
   ディーン・ガーベット
   スティーブン・E・ミラー
   アルフ・ハンフリーズ
   ペギー・マホン
   ハーヴェイ・エイトキン
特別出演:バリー・モース

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田舎にやって来た16歳の少女ヘザー(L・ドナルドソン)

ヘザーは祖母(K・ホートリー)の経営する民宿を手伝う

屋敷の地下室では夜な夜な祖母が誰かと口論をしている

知恵遅れの使用人ビリー(S・E・ミラー)がヘザーを怖がらせる

<Review>
 やはりヒッチコックは偉大だと言うべきか、もしくはいつの時代も映画界には安易なコピーがまかり通っていると言うべきか、こちらも「サイコ」('60)からの影響が濃厚すぎるくらい濃厚な一本。ただし、監督はカナダ映画界の名職人ウィリアム・フリュエ、撮影監督はクローネンバーグ映画の常連マーク・アーウィン、そして音楽はサム・ペキンパーやクリント・イーストウッドの作品でお馴染みの名匠ジェリー・フィールディングという低予算ホラーらしからぬ面々が揃っており、なかなか手堅い作品に仕上がっている。
 舞台は片田舎の葬儀屋を改装した民宿。16歳の少女ヘザーは、夏休みを利用して宿を切り盛りする祖母モードの手伝いにやって来る。普段は信心深くて心優しい祖母だが、その一方で保守的かつ頑固な一面も。また、地下室からは夜な夜な不気味な声が聞こえてくる。やがて、一人また一人と消えていく宿泊客たち。行方不明の祖父の忌まわしい過去を知ったヘザーは、屋敷の中に恐ろしい秘密が隠されているのではと疑うのだが…。
 要は、「サイコ」のノーマン・ベイツとノーマ・ベイツのキャラを祖母一人に集約してみました、といった感じ。とりあえず、行方不明の祖父が実は犯人なのでは…と疑わせるように様々な伏線が散りばめられているものの、ホラー映画ファンならばたちどころにバアさんが怪しいと気付くはずだ。なので、スリルもサスペンスもイマイチだし、ましてや怖がる要素など皆無に等しい。
 しかしながら、ステディカム風のスピード感あふれる流麗なカメラワークを駆使したマーク・アーウィンの撮影は素晴らしい。植民地時代風のアメリカン・ゴシックな建物や緑豊かな大自然など、ノスタルジックであると同時に禍々しい雰囲気を醸し出すロケーションの魅力も十二分に活かされている。クラシカルで厳粛な音楽スコアも効果的。カナダ版オスカーのジェニー賞でも3部門にノミネートされており、少なくとも見栄えは立派な映画だと言えよう。

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若い保安官ジョー(A・ハンフリーズ)は失踪事件を調べていた

祖母は不倫旅行の宿泊客を嫌悪する

デイヴィス医師(B・モース)は行方不明の妻を探していた

リック(D・ガーベット)から祖父の過去を聞いてショックのヘザー

<Story>
 都会から田舎へとやってきた16歳の少女ヘザー(レスリー・ドナルドソン)。夏休みを祖母の家で過ごすためだ。バス停を降りたものの、誰も出迎えはない。仕方なく歩き出した彼女の前に黒猫が現れ、ヘザーは不吉な予感に眉をひそめる。そこへ、地元の若者リック(ディーン・ガーベット)の運転するトラックが通りがかり、ヘザーは祖母の家まで送ってもらうことにした。
 ヘザーの祖母モード(ケイ・ホートリー)は敬虔なクリスチャンで、家庭的な明るい女性だ。しかし、葬儀屋を営んでいた夫が1年ほど前に行方不明となり、生計を立てるため民宿を始めたばかりだった。ヘザーはその手伝いを兼ねて祖母を訪ねてきたのだ。嬉しそうに孫娘を出迎えるモード。若者のモラルに厳しい彼女だが、好青年のリックはお気に入りらしい。
 その頃、村の農場で乗り捨てられた車が発見された。リックの兄である保安官ジョー(アルフ・ハンフリーズ)が調べたところ、以前にこの近所の土地を買い叩こうとしていた地上げ屋のものだった。だが、ある日ぷっつりと姿を消してしまい、その消息は誰も知らない。モードの夫といい、地上げ屋といい、こんなド田舎でなぜ行方不明が相次ぐのか?
 モードの民宿はなかなかの評判だった。ただ、彼女はクリスチャンの価値観に沿わないような顧客には厳しく、旅回りのセールスマン、ハリー(ハーヴェイ・エイトキン)と連れの女性フローリー(ペギー・マホン)が夫婦ではなく愛人関係だと知って嫌悪感を顕にする。すぐさま宿を出ていくよう叱りつけるが、2人は宿泊費を前払いしていることを理由に居座るのだった。
 一方、ヘザーは大好きな祖母の手伝いをしながら楽しい毎日を過ごすが、しかし皆が寝静まった後の屋敷は怖くて苦手だった。知恵遅れの使用人ビリー(スティーブン・E・ミラー)も不気味で近寄りがたい。そんなある日、リックとデートをした帰りに、彼女は地下室で祖母が誰かと話をしている声を聞く。相手は行方不明の祖父のようだったが、しかし祖母は知らぬ存ぜぬを貫くのだった。
 その夜、盛り場へ遊びに出かけたハリーとフローリーは、その帰り道にトラックに追突され、崖から湖へと突き落とされてしまう。翌朝、2人がいないことに気づいたヘザーだったが、祖母は厄介払いができたと喜ぶのだった。さらに、ヘザーはリックから祖父が飲んだくれの乱暴者だったという事実を聞かされショックを受ける。
 しかも、祖母が入院中に出来た愛人と駆け落ちしたのが行方不明の理由だという。祖父はいい人だと聞かされていた彼女は、リックの言葉を信用せず腹を立てる。ところが、お気に入りの宿泊客デイヴィス医師(バリー・モース)が実は行方不明の妻を探しており、それがどうやら祖父の愛人らしいことを、デイヴィス医師と祖母の会話を立ち聞きして知ってしまう。祖母は事実無根だと激しく否定するが、近所の老人は事実であると証言する。その晩、デイヴィス医師は何者かに撲殺されてしまった。
 さらに、湖の底からハリーとフローリーの遺体、そして彼らの車が発見され、村は騒然となる。疑惑の目は民宿へと向けられた。モードの秘密に気づいたビリーは地下室へ足を踏み入れるが、何者かに背中をメッタ刺しにされて殺される。何も知らずにリックと地下室へ降りていったヘザー。そこで彼女は恐るべき真実を知ることとなる…。

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屋敷に響き渡る声に気づいたヘザー

デイヴィス医師が何者かに殺される

湖の底から不倫旅行客の遺体が

地下室へ降りていったヘザーは祖母の恐るべき真実を知る

<Information>
 監督のウィリアム・フリュエは、ブレンダ・ヴァッカロ主演のレイプ復讐映画「ウィークエンド」('76)でシチェス国際映画祭の審査員賞と脚本賞を獲得した人物。ほかにも「ナイヤガラ殺人事件」('81)や「危険な覗き/ベッドルーム・アイズ」('84)など、サスペンスやミステリーを中心に良質な低予算映画を撮っていた。ただ、ヘザー役のレスリー・ドナルドソンによると、かなり気難しく移り気な性格だったらしく、本作の撮影ではスタッフもキャストも終始振り回されたらしい。'90年代以降は主にテレビ・シリーズを演出している。
 脚本のアイダ・ネルソンについては詳細不明。これが唯一の劇映画だった様子。撮影監督のマーク・アーウィンは、「ザ・ブルード」('79)や「スキャナーズ」('81)、「ヴィデオドローム」('82)、「デッド・ゾーン」('83)、「ザ・フライ」('86)などデヴィッド・クローネンバーグ監督の作品で有名になったカメラマン。「スクリーム」('96)や「メリーに首ったけ」('97)など'90年代までは売れっ子だったが、最近はあまり良い仕事に恵まれていないようだ。
 音楽スコアのジェリー・フィールディングは、「ワイルド・バンチ」('69)や「わらの男」('71)、「ガルシアの首」('74)など一連のサム・ペキンパー作品、そして「アウトロー」('76)や「ガントレット」('77)、「アルカトラズからの脱出」('79)など監督作を含むクリント・イーストウッド作品で知られる作曲家。「わらの犬」と「アウトロー」ではアカデミー賞にもノミネートされている。
 そのほか、美術デザインは「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」('75)や「ミュータント・タートルズ」('90)のロイ・フォージ・スミス、メイクはアーウィンと同じくクローネンバーグ組のショナー・ジャブールが担当している。

 祖母モードを演じたケイ・ホートリーは、'50年代からテレビや映画で脇役を務めているカナダの女優で、クローネンバーグの「ヴィデオドローム」にも顔を出している。孫のヘザーを演じているレスリー・ドナルドソンは、当時ホラー映画に相次いで出演していた女優で、「誕生日はもう来ない」('81)の最初に駐車場で殺される女子学生役が印象深い。
 そのほか、「刑事マローン」('86)や「告発の行方」('88)に出ていたスティーブン・E・ミラー、大人気ドラマ「女刑事キャグニー&レイシー」('81〜'88)のトボけたコールマン刑事役で親しまれたハーヴェイ・エイトキンらが出演。また、往年の名作ドラマ「逃亡者」('63〜'67)のジェラード警部や「スペース1999」('75〜'76)のバーグマン教授で有名な名脇役バリー・モースが、デイヴィス医師役でゲスト出演している。

 

 

 

ジャンボ・墜落/ザ・サバイバー
The Survivor (1981)
日本では劇場未公開・テレビ放送あり
VHS・DVD共に日本発売済
※ただし日本盤DVDは短縮バージョン

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(P)2012 Scorpion Releasing (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:2.35:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/99分/制作国:オーストラリア

<特典>
・製作者トニー・ギネインの音声解説
・オリジナル劇場予告編
・カトリーナ・リー・ウォーターズによる解説映像
監督:デヴィッド・ヘミングス
製作:アントニー・I・ギネイン
原作:ジェームズ・ハーバート
脚本:デヴィッド・アンブローズ
撮影:ジョン・シール
音楽:ブライアン・メイ
出演:ロバート・パウエル
   ジェニー・アガター
   ジョセフ・コットン
   アンジェラ・パンチ・マクレガー
   ピーター・サムナー
   ローナ・レスリー
   ラルフ・コッテリル

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ボーイング747の機内で離陸直後に異常が発生する

暴走の末に爆発を起こして大破してしまった機体

生存者は機長のケラー(R・パウエル)だけだった

<Review>
 当時、オーストラリア映画史上最高額の予算(110万豪ドル)を投じて製作されたパニック・ホラーである。しかも、監督は映画俳優としても知られるデヴィッド・ヘミングス、主演にはロバート・パウエルにジェニー・アガターと、イギリスから国際的なネームバリューのある面々を招聘。今で言うブロックバスター級の大作として、世界的なヒットが期待されたオーストラリア映画であったろうことは想像に難くない。
 事の始まりは旅客機の爆発炎上事件。乗員乗客300人の命は絶望視されたが、たった一人だけ、機長のケラーがほとんど無傷のまま生還した。事故の原因は何だったのか。真相の究明は困難を極め、唯一の生存者であるケラーも当時の記憶が定かでない。責任を感じたケラーは独自に調査を始めるのだが、そんな彼の前にホッブスという女性霊能者が現れる。しかも、彼らの周囲では犠牲者たちの亡霊が出没し、原因究明の鍵を握る人物が次々と怪死を遂げていた。事故前後の状況をつぶさに辿っていくケラーとホッブスが、最終的に突き止めた恐るべき真実とは…!?
 ってなわけで、航空パニックあり、オカルトあり、推理サスペンスありのてんこ盛りはいいのだが、かえって欲張ったせいで焦点の定まらない映画になってしまったという印象も強い。結局、これはホラーなのか、サスペンスなのか、スペクタクルなのか。どの要素も不完全燃焼で、どうにも中途半端なのである。恐らく衝撃のどんでん返しを狙ったであろうクライマックスも、言ってみれば「恐怖の足跡」('61)のパクリ。子供の頃にテレビのロードショー番組で見た時は結構怖いと思ったものだが、改めて見直してみるとまるでM・ナイト・シャマランの失敗作みたいな感じだ。
 また、先述したようにオーストラリア映画史上最大の予算が投じられた本作。確かに、冒頭の旅客機クラッシュは良く出来ており、実物大の模型ジェットが通行人の頭上をかすめ、巨大な翼が建物と衝突し、機体が轟音をあげて爆発炎上するシーンは見応えも迫力もある。ただ、どうやらこのオープニングで予算の大半を使い果たしてしまったのか、それ以降の展開はとーっても地味。どんどんと尻つぼんでいくのである。
 とはいえ、後に「イングリッシュ・ペイシェント」('96)でオスカーを獲得する名カメラマン、ジョン・シールによる撮影は賞賛に値する。幻想的なムードを高める絶妙なライティングや、神秘性すら感じさせるオーストラリアの自然風景を巧みに生かしたビジュアルは、それこそ格調高いほどに美しい。残酷シーンや官能シーンの一切を排したのは、ジャンル映画的なB級感を避けるためのヘミングス監督の意図であろう。
 確かに全体として見栄えはよろしい。ブライアン・メイによる実験音楽的なスコアの使い方も緻密に計算されており、独特のシュールな世界を作り上げている。そう考えると、演出家としてのヘミングス監督の力量もそれなりに認められて然るべきだとは思うが、だからといって面白いかどうかはまた別の話だ。

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罪の意識に苛まれるケラーだったが、事故当時の記憶が全くなかった

女性霊能者ホッブス(J・アガター)は何かを感じ取っている様子だった

真相究明の鍵を握る人物たちの前に現れる犠牲者の少女の亡霊

<Story>
 オーストラリア南部の空港で、離陸しかけたボーイング747の機内で爆発が発生。バランスを失った機体は滑走路付近の施設をなぎ倒し、辛うじて地上に不時着したものの、その直後に機体が大爆発してしまう。直前に霊感で事故を察知し、すぐさま現場へ駆けつけた女性霊能者ホッブス(ジェニー・アガター)は、燃え上がる炎の中を朦朧としながら彷徨う生存者の男性を目撃する。
 男性はボーイングの機長ケラー(ロバート・パウエル)だった。乗客乗員300人が犠牲となる中、唯一生き残ったケラーは、奇跡的にもほとんど無傷だった。同僚で友人のチューソン(ピーター・サムナー)は彼の生還を喜ぶが、しかし本人は気が重い。事故はなぜ起きたのか、どうして自分だけが助かったのか。精神的ショックのためなのか、ケラーは前後の記憶が殆どなかった。
 犠牲者の遺族から人殺し呼ばわりされても返す言葉がなく、自分の無力さを痛感し、罪の意識に苛まれるケラー。唯一の慰めは最愛の妻ベス(アンジェラ・パンチ・マクレガー)の存在だったが、特ダネを狙うフリーランスの報道写真家グッドウィン(エイドリアン・ライト)が自宅まで押しかけ、プライベートでも気持ちの休まる暇などなかった。
 そんな彼の前にホッブスが現れる。犠牲者たちの声が聞こえるという彼女を訝しく感じるケラー。今の貴方には私が必要、私にも貴方が必要と語るホッブスだったが、ケラーはにわかには彼女の言葉を信じることはできなかった。事故の原因調査は一向に進まず、上司スレイター(ラルフ・コッテリル)の不平不満にも辟易したケラーは、自ら事故の真相を究明しようと乗り出す。
 その頃、ケラーやホッブスの知らないところで奇妙な出来事が起きていた。犠牲者の亡霊らしき人々が姿を現し、事故の原因究明の鍵を握る人物たちが不可解な死を遂げていたのだ。最初は報道写真家のグッドウィン。少女の霊によって鉄道線路へ連れ出された彼は、貨物列車に轢かれて命を落とした。さらに、事故現場を荒らそうとした男が湖で溺死し、グッドウィンの恋人スーザン(ローナ・レスリー)も現像室でポルターガイスト現象に遭って殺される。
 一方、事故直前からの記憶を辿るうち、ホッブスの霊感が本物であることに気付いたケラーは、彼女の協力を得て真相へと近づいていたのだが…。

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ホッブスは犠牲者たちの叫び声に悩まされていた

上司スレイター(R・コッテリル)と反りの合わないケラー

事故の現場写真を現像していたスーザン(L・レスリー)も殺される

<Information>
 '60年代に巨匠アントニオーニの「欲望」('66)やロジェ・ヴァディムの「バーバレラ」('67)などに出演して時の人となり、アルジェントの傑作「サスペリアPART2」('75)の主演でも知られる英国俳優デヴィッド・ヘミングスだが、監督としても「別れのクリスマス」('73)や「ジャスト・ア・ジゴロ」('78)などコンスタントに作品を発表していた。数々の巨匠と仕事をしてきた人だけあって、演出は器用だし見せ方も上手いのだが、決定的な個性やスタイルに欠けていたように思う。
 製作を手がけたアントニー・I・ギネインは、当時「パトリック」('78)や「吸血の館」('79)などの低予算ホラー映画を立て続けに欧米でヒットさせ、ちょっとしたオズプロイテーション(オーストラリア産エクスプロイテーション映画のこと)・ブームを仕掛けた人物。それらの成功を受けて、サイモン・ウィンサー監督の「ハーレクイン」('80)の主演にロバート・パウエルとデヴィッド・ヘミングスをイギリスから招いたことが、本作の企画が立ち上がる要因の一つとなったわけだ。
 原作はイギリスの有名なホラー作家ジェームス・ハーバート。ルイス・ギルバート監督のゴシック調怪奇ロマン「月下の恋」('95)も彼の小説の映画化だ。脚本を手がけたのは、自身もイギリスの小説家であり、「ファイナル・カウントダウン」('80)や「いやー・オブ・ザ・ガン」('91)などハリウッドでの脚本の仕事も多いデヴィッド・アンブローズ。本作ではシチェス国際映画祭の脚本賞を獲得している。
 そして先述した通り、撮影監督を担当したのは「イングリッシュ・ペイシェント」でオスカーに輝いたジョン・シール。ハリウッド進出作「刑事ジョン・ブック/目撃者」('85)でいきなりオスカー候補となり、その後も「レインマン」('88)や「いまを生きる」('89)、「ザ・ファーム/法律事務所」('93)、「リプリー」('99)、「ハリー・ポッターと賢者の石」('01)、「コールド・マウンテン」('03)など代表作は枚挙に暇ない大物カメラマン。'15年は母国オーストラリアに戻って撮った「マッドマックス 怒りのデスロード」の公開が控えている。
 さらに、音楽は「マッドマックス」('79)シリーズで有名になったブライアン・メイ。編集のトニー・パターソンや特殊効果のクリス・マレーも「マッドマックス」組だ。なお、本作はオーストラリア版アカデミー賞で最優秀主演女優賞(J・アガター)や最優秀撮影賞など4部門にノミネートされている。
 ちなみに、オーストラリア公開版は99分だったものの、インターナショナル版は87分にカットされてしまった本作。日本でDVD発売されたバージョンもインターナショナル版だ。上記の米Scorpion Releasingから発売されたDVDには、オリジナルのフルバージョンが収録されている。

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助言を求められた牧師(J・コットン)はケラーに聖書を手渡す

真相を突き止めるために旅客機の残骸を訪れたケラーとホッブス

遺留品を調べていた同僚チューソン(P・サムナー)までもが殺害される

 主演は巨匠ケン・ラッセルの「マーラー」('74)と「Tommy/トミー」('75)で有名になった俳優ロバート・パウエル。ただし、一般的にはフランコ・ゼフィレッリ監督の手がけた超大作ミニシリーズ「ナザレのイエス」('77)のキリスト役で認知されるようになったらしいのだが。オーストラリア映画への出演は「ハーレクイン」に続いて2作目。'90年代以降は鳴かず飛ばずとなり、近年は舞台や声優の仕事をしているようだ。
 女性霊能者ホッブス役のジェニー・アガターにとっても、これは傑作「美しき冒険旅行」('71)に続く2本目のオーストラリア映画。「若草の祈り」('70)の美少女スターとして注目され、「鷲は舞いおりた」('76)や「エクウス」('77)などの名作でも活躍した彼女は、当時「狼男アメリカン」('81)や本作など立て続けにホラー映画へ出演していた。最近では「アベンジャーズ」シリーズの世界安全保障委員会のハウリー委員役でお馴染みかもしれない。
 さらに、ケラーとホッブスに助言する牧師役で「市民ケーン」('41)や「第三の男」('49)の名優ジョセフ・コットンが登場。ほとんどゲスト出演のような扱いなのだが、これを最後に映画界の第一線を退き、'94年に亡くなった。そのほか、マイケル・ケイン主演の「アイランド」('78)でヒロインを演じたアンジェラ・パンチ・マクレガー、フィリップ・ノイス監督の「ニュースフロント/時代を撮り続けた男たち」('78)のローナ・レスリーなどオーストラリアの中堅俳優たちが出演しているものの、どうやら編集の段階で大幅に出番が削られてしまったらしく、アンジェラに至ってはキャスト・クレジットが3番目であるにも関わらず、本編での登場はたったの2シーンだけ、時間にしても5分程度なのだから気の毒だ。

 

 

 

アメリカン・ナイトメア/夜の切り裂き魔
American Nightmare (1983)

日本では劇場未公開・ビデオ発売のみ
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2012 Scorpion Releasing (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/画面比: 1.33:1/音声:ドルビー・デジタル・モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/87分/制作国:カナダ

<特典>
・カトリーナ・リー・ウォルターズによる解説映像
・製作総指揮ポール・リンチのビデオインタビュー
・脚本家ジョン・シェパードのオーディオ・インタビュー
・製作総指揮ポール・リンチの音声解説
監督:ドン・マクブリーティ
製作:レイ・セイガー
製作総指揮:ポール・リンチ
脚本:ジョン・シェパード
撮影:ダニエル・ヘイニー
音楽:ポール・ザザ
出演:ローレンス・デイ
   ローラ・スタンレイ
   マイケル・アイアンサイド
   ニール・ダイナード
   レノーア・ザン
   ポール・ブラッドレイ
   クローディア・ウディ
   ペイジ・フレッチャー
   ラリー・オーブリー
   アレクサンドラ・ポール

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ターニャという偽名を使って売春を行う若い娘イザベル(A・ポール)

有名ピアニストのエリック(L・デイ)は家出した妹イザベルの行方を探していた

エリックとイザベルの父親は傲慢で冷酷な大物実業家

<Review>
 トロントで撮影されたカナダ映画なので、本来ならば「カナディアン・ナイトメア」とすべきなのかもしれないが、まあ、同じ北米なので細かいことはいいだろう(笑)。ジャンルとしては、フェミニズム的な社会派メッセージを盛り込んだスラッシャー映画。しかも、ストーリーの構成やビジュアルの雰囲気は当時のブライアン・デ・パルマ作品、特に「ミッドナイト・クロス」('81)からの影響がかなり濃厚だ。
 とある若い女性ストリッパーが失踪する。実は、彼女は有名な大物実業家の娘だったが、厳格で冷淡な父親に愛想を尽かして家出をしていたのだ。彼女の行方を捜す有名なピアニストの兄エリックは、妹の仕事仲間だったルイーズと親しくなり、社会の底辺で様々な事情を抱えながら自分の体を売りものにするしか生きる術のない女性たちの姿を目の当たりにしていく。そんな彼女たちを一人また一人と血祭りにあげていく姿なき殺人者。警察の捜査が難航する中、ルイーズの協力で独自の調査を続けたエリックは、やがて予想もしなかった衝撃の真実にたどり着く…。
 連続殺人事件の背後に深く関わる権力の陰謀、カモフラージュのために虫けらのごとく殺されていく商売女たち。恐らく切り裂きジャック伝説にまで遡ることのできる設定なのだろうが、本作の場合は先述したように「ミッドナイト・クロス」の影響下にあると考えるのが妥当だろう。荒涼とした真冬の大都会、うらぶれたスラム街での連続殺人、犠牲となるストリッパーや売春婦たち、権力者の差し向けた残忍な暗殺者、そして事件の真相に迫る男と女。かように、「ミッドナイト・クロス」と共通する要素が多いのだ。
 一方で、本作が「ミッドナイト・クロス」と決定的に違うのは、連続殺人事件の謎解きを通じて現代アメリカの残酷な現実、つまり男性社会に搾取される不幸な女性たちの怒りと悲しみを浮き彫りにするというメッセージ性を隠し味にしている点であろう。そのためもあってか、殺人シーンのグロテスク描写はわりと控えめなのだが、その代わりにストリッパーやポン引きなどの暗く荒んだ日常の描写は生々しい。場末感の漂う露骨なエロも満載だ。
 ある意味、社会派を装ったB級エクスプロイテーション映画と見ることもできる。というか、基本姿勢は恐らくそちら側寄りなのだろう。必要以上にストリップシーンが多いのも、いわゆるグラインドハウス市場を意識してのものであり、決してアートシアター向けを狙った作品ではない。とはいえ、社会の底辺にたむろす日陰者たちの人間模様は殺伐としつつも悲哀に満ちているし、お互いの社会的立場や価値観の違いを乗り越えて理解を深めていく主人公男女の心のひだもなかなか丁寧に描かれている。単に安上がりなキワモノ映画として片付けるには惜しい作品だ。

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エリックはイザベル(L・スタンレイ)から妹がストリッパーだったことを知る

警察のスカイラー警部(M・アイアンサイド)は渋々ながら捜査を引き受ける

ストリッパーのアンドレア(C・ウディ)が殺人鬼のターゲットとなる

<Story>
 とある寂れたホテルの一室。ターニャ(アレクサンドラ・ポール)という若い女性が、バスルームでシャワーを浴びている男をベッドで待っている。どうやら彼女は売春婦、男はその客であるらしい。バスルームから出てきた男をベッドへ誘うターニャ。だが、その次の瞬間、男は隠し持ったナイフで彼女の喉を掻っ切る。
 スラム街の殺風景な古いアパートに、身なりの良い若い男性が訪れる。彼の名前はエリック(ローレンス・デイ)。ミリオンセラーを幾つも放つ有名なピアニストである彼は、家出をした17歳の妹イザベルの行方を探していた。2人の父親は巨大企業グループを経営する大物実業家ハミルトン(トム・ハーヴェイ)。しかし、金と権力の亡者で冷血漢の父親を、子供たちは心底憎んでいた。音楽で成功したエリックは父親と縁を切って生活していたが、まだ未成年の妹イザベルはそういうわけにはいかず、しかし実家での生活に耐えられなくなって家出をしてしまったのだ。
 ようやく突き止めた妹の住むアパートで、エリックは彼女がターニャと名前を変えてストリッパーになっていたことを知る。しかし、同居人のルイーズ(ローラ・スタンレイ)や隣人の女装売春婦ドリー(ラリー・オーブリー)らによると、この数日間アパートには帰ってきておらず、連絡も全くないという。警戒心は強いが知的で聡明なルイーズに、なぜこのような生活をしているのか、思わず訊ねてしまったエリック。弱者の立場を知らない彼にルイーズは怒りを露にする。
 警察へ妹の捜索願を出したエリックだったが、担当のスカイラー警部(マイケル・アイアンサイド)はやる気がなさげだ。警察は彼女のような境遇の女性の行方探しには乗り気じゃない。どうせろくでもない人間だろういうわけだ。その露骨な態度にエリックは憤慨し、スカイラー警部は渋々と重い腰を上げることにする。
 その頃、ルイーズやイザベルの仕事仲間で同じアパートに住むストリッパー、アンドレアが自宅の浴室で殺害される。エリックは事件が妹の失踪と何らかの関係があると直感する。だが、警察は頼りにならない。そこで、彼は唯一の頼みの綱であるルイーズに協力を願い出る。当初は頑なに拒んでいたルイーズだったが、イザベルのためを考えて力を貸すことにする。
 エリックが妹の行方を捜索していることを知り、父親の右腕であるトニー(ニール・ダイナード)が警告に訪れる。失踪したままにしておけばいい。余計なことをほじくり返せば、父親の地位と名声に傷が付くと。それでもエリックの決意は変わらなかったが、その直後にイザベルが死体で発見される。ストリッパーたちの間にさらなる動揺が広がった。しかも、自宅へ戻ったルイーズが待ち伏せをしていた殺人者に襲われ、なんとか逃げ切ったものの、あと一歩で殺されそうになる。もはやここでは暮らせない。そう考えたドリーはよその町へ移ることを決めるが、やはり何者かによって殺害されてしまった。
 エリックの泊まるホテルに身を寄せることにするルイーズ。いつしか2人はお互いに惹かれあっていた。イザベルが利用していた通信会社の記録から、彼女があるホテルを利用して売春を行っていたらしいことを突き止める2人。イザベルには心当たりがあった。映画館を根城にする麻薬の売人フィクサー(マイケル・コープマン)がそこで売春を仕切り、その行為を録画したテープを裏ビデオとして販売していたのだ。
 その頃、やはりルイーズの仲間であるストリッパーのティナ(レノーア・ザン)が閉店後に殺害され、彼女の愛人マーク(ペイジ・フレッチャー)が容疑者として警察の尋問を受けていた。しかし、録画テープの所在を突き止めて片っ端からチェックしていたエリックは、そこに信じられない光景が映っているのを発見する…。

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エリックの妹探しに協力を頼まれるルイーズだったが…?

ストリッパーや娼婦たちに不安と動揺が広がる

間一髪で殺人鬼の魔手から逃れるルイーズ

<Information>
 '81年から翌年にかけて撮影されたという本作。後に「冒険野郎マクガイバー」や「ロボコップ/THE SERIES」などのテレビシリーズで知られるようになる脚本家ジョン・シェパードは、たったの1日で本作の脚本を書き上げたそうだ。もともと「プロムナイト」('80)や「猟獣人ヒューモンガス」('81)のポール・リンチが監督を手掛ける予定だったが、スケジュールの都合から不可能となり、当時まだ駆け出しだったドン・マクブリーティが演出することに。その代わり、ポール・リンチは製作総指揮に回ることとなった。
 その後、ポール・リンチ監督は「新スター・トレック」を機にテレビへと活躍の場を移すことになるわけだが、本作で親しくなったジョン・シェパードとは「ロボコップ/THE SERIES」など幾つもの作品で組むことになる。また、マクブリーティ監督も「刑事マードックの捜査ファイル」など、数々のテレビシリーズを演出している。
 本作の製作を手がけたレイ・セイガーは元俳優。しかも、あのスプラッター映画の元祖ハーシェル・ゴードン・ルイス監督作品の常連で、中でも「血の魔術師」('70)の魔術師モンタグ役で知られる人物だ。本作がプロデューサーとしての初仕事で、以降は「プロムナイト3」('88)や「クロス・ヒート」('93)などの低予算映画やテレビの製作者として活躍している。
 撮影監督は「レポマン」('84)のカメラ・オペレーターを務めていたダニエル・ヘイニー。音楽は「プロムナイト」以降のポール・リンチ監督作品常連であり、'80年代のカナダ産B級映画には欠かせない作曲家ポール・ザザ。先述したように、'82年にはすべての撮影を終えていたものの、配給先がなかなか決まらなかったのか、本国での劇場公開は'83年。アメリカでは'84年までお蔵入り扱いだった。

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街を出ていこうとした女装売春婦ドリー(L・オーブリー)も殺される

閉店後のクラブに残ったティナ(L・ザン)までもが餌食に

ビデオをチェックしていたエリックは衝撃的な映像を目にする…

 主人公エリック役のローレンス・デイは、これが唯一の大役となったカナダの俳優。インテリな雰囲気を漂わせた美形俳優だが、本作以外の出演作は極めて少なく、詳しい素性もよくわからない。ルイーズ役のローラ・スタンレイも本作が代表作で、その後は「特攻野郎Aチーム」や「L.A.ロー/七人の弁護士」などの人気ドラマにゲスト出演している。
 本作で要注目なのは、カナダ産B級映画で馴染み深い顔ぶれが揃った脇役だ。まず、スカイラー警部役には「スキャナーズ」('81)や「面会時間」('82)で“カナダのジャック・ニコルソン”と呼ばれた怪優マイケル・アイアンサイド。なかなか意外なキャスティングだが、もしかしたらこいつが犯人かも…?と観客の推測を弄ぶという意味ではまさに適役だと言えよう。
 さらに、最後に殺されるストリッパーのティナ役には、「誕生日はもう来ない」('81)や「面会時間」などの殺され役専門で有名な女優レノーア・ザン。だいたい尻軽の不良娘やストリートガールなどの役柄が多い人だが、本作では本格的なストリップシーンまで披露してくれる。今では政治家として活動しているそうだ。
 その愛人マークには、人気ドラマ「ザ・ヒッチハイカー」('83〜'91)のタイトルロールで知られるペイジ・フレッチャー。最近ではミニシリーズ「ロボコップ プライム・ディレクティヴ」('01)のロボコップ役に起用されていた。また、最初に殺されるアンドレア役として、'80年代の「エマニエル夫人」として当時大々的に公開されたソフト・ポルノ「JOY ジョイ」('83)の主演で注目されたセクシー女優クローディア・ウディが登場するのも興味深い。
 そして、エリックの妹イザベル役として冒頭にチラリと顔を出すのは、ジョン・カーペンター監督の「クリスティーン」('83)のヒロイン役で脚光を浴び、'90年代には人気ドラマ「ベイウォッチ」のステファニー役でトップスターとなるアレクサンドラ・ポール。これが映画初出演だ。どうやら、当時は主演俳優ローレンス・デイの恋人だったらしく、その繋がりで役をもらったとも言われている。

 

 

 

モーチュアリー
Mortuary (1983)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2012 Scorpion Releasing (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.78:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/93分/制作国:アメリカ

<特典>
・カトリーナ・リー・ウォーターズによる解説映像
・作曲家ジョン・カカヴァスのインタビュー
・オリジナル劇場予告編

監督:ハワード・アヴェディス
製作:ハワード・アヴェディス
   マーリーン・シュミット
脚本:ハワード・アヴェディス
   マーリーン・シュミット
撮影:ゲイリー・グレイヴァー
音楽:ジョン・カカヴァス
出演:メアリー・マクドノー
   デヴィッド・ウォーレス
   ビル・パクストン
   リンダ・デイ・ジョージ
   クリストファー・ジョージ
   アルヴィ・ムーア
   デニス・マンデル

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自宅プールで父親が溺死する現場を目撃したクリスティーン(M・マクドノー)

友人と葬儀屋へ盗みに入った若者グレッグ(D・ウォーレス)

そこで彼はカルト教団の秘密の儀式を目撃する

<Review>
 「アポロ13」('95)や「ツイスター」('96)、「タイタニック」('97)でお馴染みの名優ビル・パクストンが、初めて主要キャストにクレジットされた映画としても知られる'80年代のインディーズ・ホラー。これまた「サイコ」や「ハロウィン」、「暗闇にベルが鳴る」など様々な名作・傑作のエッセンスをごっそり寄せ集め、当時のホラー・ブームに便乗すべく即席で作られた低予算映画だ。
 主人公は女子大生のクリスティーン。最愛の父がプールで溺死して以来、彼女は悪夢に苛まれていた。警察は父親の死を事故と断定したが、クリスティーンは納得していない。そんな彼女の周囲に不気味な影が付きまとうようになり、何者かが自分の命を狙っていると訴えるクリスティーンだったが、義母をはじめ周囲の人々はトラウマが原因の妄想を疑う。しかし、やがて一人また一人と関係者が殺されていき…。
 地域の信頼も厚い葬儀屋が実はカルト教団の教祖だったり、その根暗な息子がクリスティーンに横恋慕していたり、義母が実はカルト教団のメンバーだったりと、怪しげなキャラクターを配しているのはいいのだけど、いずれの設定もご都合主義的な無理矢理感は否めず。そもそも、中盤でヒロインの死んだ父親が実は精神科医で、ある患者とトラブルを抱えていたことが義母から明かされるのだが、そんなことが分かっていながら事故死で処理する警察も無能なら、その判断を微塵も疑わない義母もノンキ過ぎ。いや、犯人はそいつしかいないじゃんよ!と突っ込みたくなるってもんだ。しかもその殺人鬼、最初の出番からキテレツなメイクで顔を晒すのだけれど、一目瞭然で誰か分かってしまうのだよね。いやはや、顔面白塗りで目にクマでも塗っておけば観客にバレないとでも思ったのだろうか。脇が甘すぎるっちゅーの(笑)。
 そんなグデグデな脚本なので、サスペンスも恐怖も一向に盛り上がらず。照明と移動カメラを巧みに使ったナイトシーンの幻想的な映像美はなかなか悪くないのだけれど、正直なところ見どころはそれくらい。サービス的な濡れ場シーンはほんの申し訳程度だし、スプラッターに至ってはほとんど皆無に等しい。アメリカでは一部でカルト映画扱いされているようだが、ぶっちゃけ過大評価だと言えよう。

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クリスティーンの周囲に暗躍する謎の人物

クリスティーンは悪夢に悩まされていた

葬儀屋のアンドリュース氏(C・ジョージ)はカルト教団の教祖


<Story>
 最愛の父親が自宅プールで溺死したクリスティーン(メアリー・マクドノー)は、それ以来ずっと悪夢に悩まされていた。父親は何者かによって殺された。そう固く信じている彼女だったが、警察は事故死と断定しており、継母イヴ(リンダ・デイ・ジョージ)もストレスから来る妄想だとして取り合ってくれない。
 その頃、クリスティーンの彼氏グレッグ(デヴィッド・ウォーレス)は、友達のジョシュ(デニス・マンデル)に連れられてアンドリュース氏(クリストファー・ジョージ)の葬儀屋を訪れる。バイトをクビになったジョシュが、その腹いせに盗みを働こうというのだ。そこでグレッグは、アンドリュース氏が主催するカルト教団の儀式を目撃する。メンバーにはクリスティーンの継母イヴも含まれていた。ところが、いつの間にかジョシュが姿を消してしまい、そのまま行方不明になってしまう。グレッグは保安官事務所に捜索願を出すものの、ダンカン保安官(ビル・コンクリン)は若者の悪戯だと考えて真面目に取り合ってはくれなかった。
 やがて、クリスティーンの周囲で黒い人影が暗躍するようになる。何者かに付け回されている。不安を覚えるクリスティーンだったが、グレッグもイヴも考えすぎだと諭すばかり。そんな彼女にアンドリュース氏の息子ポール(ビル・パクストン)が近づく。暗く内向的なポールは周囲から変わり者扱いされているが、実は昔からクリスティーンに横恋慕しており、彼女とグレッグの間柄を密かに嫉妬していた。
 そうこうしているうちに、クリスティーンの自宅では不可解な出来事が相次ぐ。イヴは死んだ夫の亡霊が彼女に付きまとっているのではないかと考え、アンドリュース氏やダンカン保安官らと共に交霊会を行っていた。そんなある日、クリスティーンは自宅で何者かに襲われる。ようやくイヴも彼女の言葉を信じるようになった。イヴによると、精神科医だったクリスティーンの父親は死の直前にある患者を看ていた。それがポールだった。彼の娘へ対する異様な執着心を危険視した父親は、アンドリュース氏に相談して彼を精神病院に入れようとしていたのだという。その夜、イヴが寝室で何者かによって惨殺され、逃げようとしたクリスティーンも捕らえられてしまった…。

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アンドリュース氏の息子ポール(B・パクストン)はクリスティーンに横恋慕している

クリスティーンの自宅では次々と不可解な出来事が起きる

黒い人影に襲われるクリスティーン

 

<Information>
 監督・製作・脚本の3役をこなすハワード・アヴェディスは、主に低予算の官能映画やロマンス映画を得意としていたB級職人。エンジェル・トンプキンス主演の「インモラル個人教師」('74)や、シビル・ダニング主演の「ラブレッスン殺人事件」('85)など、いわゆるセクシー美人教師もので知られる人物だ。本作を見る限りでは、ホラーというジャンルにあまり愛情がないのではと思える。
 共同製作と共同脚本を手がけているのは、監督の奥さんでもあるマーリーン・シュミット。もともとドイツの出身で、アヴェディス監督がパリに住んでいた頃に知り合ったようだ。撮影を担当したのは、オーソン・ウェルズ監督の「フェイク」('75)やロン・ハワード監督の「バニシングIN TURBO」('76)などで知られ、後にハードコア・ポルノの監督しても活躍するゲイリー・グレイヴァー。また、テレビドラマ「刑事コジャック」のテーマ曲、「エアポート'75」('74)や「エアポート'77」('77)の音楽などで有名なジョン・カカヴァスがスコアを担当している。
 そのほか、「サイレント・ムービー」('76)や「ロッキー2」('79)のスタンフォード・C・アレンが編集を、「パッコン学園」('86)や「ダークマン」('90)のランディ・サーが美術監督を担当。撮影はカリフォルニア州のマリブおよびロサンゼルス周辺で行われたようだ。

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継母イヴ(L・デイ・ジョージ)がある秘密を打ち明ける

そのイヴもまた謎の男によって惨殺される

警察を呼ぼうとしたクリスティーンだったが…

 主人公クリスティーン役には、アメリカの国民的長寿ファミリードラマ「わが家は11人」('72〜'81)で、快活な次女エリンを演じてお茶の間に親しまれた女優メアリー・マクドノー。番組終了を機に映画界へ活躍の場を移したものの、残念ながらあまり成功はしなかった。
 その恋人グレッグ役のデヴィッド・ウォーレスは、同じく低予算のB級ホラー「猟獣人ヒューモンガス」('82)に主演していたブロンドの爽やか系俳優。その父親役を往年の人気ドラマ「農園天国」('65〜'71)で有名なアルヴィ・ムーアが演じている。
 さらに、クリスティーンの母親役をドラマ「スパイ大作戦」の2代目ヒロイン、ケイシー役で親しまれた女優リンダ・デイ・ジョージ。葬儀屋のアンドリュース氏には、同じく人気ドラマ「ラット・パトロール」やルチオ・フルチ監督の「地獄の門」('80)で有名なクリストファー・ジョージ。2人はおしどり夫婦としても知られ、「アニマル大戦争」('77)や「ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー」('73)などでも共演している。
 そして、アンドリュース氏の息子ポール役を怪演するのは、当時まだ無名の若手だったビル・パクストン。主要キャストにクレジットされた映画はこれが初だったわけだが、その後「エイリアン2」('86)や「ニア・ダーク」('87)、「アポロ13」などで高く評価され、遂には「ツイスター」でメジャー大作初主演を果たしたのはご存知の通り。一般的にはタフガイ俳優として知られているが、本作では全く違ったダークな一面を垣間見せている。

 

 

 

トロル
Troll (1986)
日本未公開・ビデオ発売のみ
VHSは日本発売済み・DVDは日本未発売

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(P)2004 MGM Home Entertainment (UK)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(英国PAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:ドルビー・サラウンド/言語:英語・ドイツ語・ポーランド語/字幕:英語・ドイツ語・オランダ語・スウェーデン語・ギリシャ語/地域コード:2/79分/制作国:アメリカ

<特典>
なし
監督:ジョン・カール・ビュークラー
製作:アルバート・バンド
製作総指揮:チャールズ・バンド
脚本:エド・ナハ
撮影:ロマーノ・アルバーニ
音楽:リチャード・バンド
出演:ノア・ハサウェイ
   マイケル・モリアーティ
   シェリー・ハック
   ジェニー・ベック
   ジューン・ロックハート
   ソニー・ボーノ
   フィル・フォンダカーロ
   ブラッド・ホール
   アン・ロックハート
   ジュリア・ルイス=ドレイファス
   ゲイリー・サンディ

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引越し先のアパートで地下室に迷い込んだ少女ウェンディ(J・ベック)

毛むくじゃらの妖精トロルがウェンディと入れ替わってしまう

食欲旺盛で暴れん坊の偽ウェンディ=トロル

<Review>
 '80年代B級エンターテインメントの殿堂といえばエンパイア・ピクチャーズ。社長のチャールズ・バンドはどうやらミニ・クリーチャー物にことさら愛着があったらしく、エンパイア時代には「グーリーズ」('85)や「ドールズ」('87)など、フルムーン・ピクチャーズでも「パペットマスター」('89シリーズや「デモーニック・トイ」('91)シリーズ、「ジンジャーデッドマン」('05)シリーズなどを作っているわけだが、その中でも「ドールズ」と並んで高いカルト人気を誇る作品がこれだ。
 トロルとは北欧伝説に出てくる毛むくじゃらの妖精のこと。当初は巨人として描かれていたらしいが、いつしか小人サイズの凶暴なモンスターへと変貌した。本作では後者の設定を採用。現代のサンフランシスコのアパートメントになぜかトロルが現れ、住民たちを次々と妖怪に変えて自分の帝国を築き上げようとする。で、妹をトロルにさらわれた少年ハリー・ポッター・ジュニアが、世界をトロルから守る魔女ユーニスの力を借りて、その企みを阻止しようと立ち上がるというわけだ。
 「グーリーズ」や「ドールズ」が大人向けの残酷なダークファンタジーであったのに対し、本作は小さなお子様でも安心して楽しめるファミリー向け仕様。醜悪なモンスターは沢山出てくるし、ホラー風味の特殊メイクもふんだんに盛り込まれているものの、いわゆる血みどろのゴア描写は一切なく、全体的にノンビリとしたコメディ・タッチが貫かれている。それどころか、病で余命幾ばくもない小人の大学教授とトロルの友情ドラマなんか、思いがけず感動的で心温まったりするのだから侮れない。
 また、監督のジョン・カール・ビュークラー自身が手がけたクリーチャー・エフェクトもなかなか秀逸。まあ、今から30年以上も前の低予算映画なので、現代のVFX技術に比べたら作りは原始的なのだが、意外にもモンスターたちの表情は豊かで動作も芸が細かい。チープで粗雑なデザインも朴訥とした味わいがあるし、なによりも顔つきがバラエティ豊富で茶目っ気がある。個人的には、つぶらな瞳のマッシュルームみたいな妖精ガルウィンがお気に入り。
 そんなこんなで、バカバカしくも憎めないB級ホラーファンタジー。こういう他愛のなさは嫌いじゃない。なお、お気づきの方も多いとは思うが、主人公はハリー・ポッター・ジュニア。その父親はハリー・ポッター。チャールズ・バンドやビュークラー監督は本作が「ハリー・ポッター」シリーズの元ネタだ、J・K・ローリングにパクられた!と一時期騒いでいたらしいが、恐らく偶然の一致。悪いけど、そんなこたあないだろう(笑)。

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兄のハリー・ジュニア(N・ハサウェイ)は妹の変化に気付いていた

父ハリー(M・モリアーティ)と母アン(S・ハック)は娘の変化に鈍感

アパートの住人たちは次々と妖怪や妖精に変えられていく

<Story>
 サンフランシスコの古いアパートメントに、仲の良いポッター一家が引っ越してきた。父親ハリー(マイケル・モリアーティ)はロックをこよなく愛する、子供っぽいけど優しい会社員。母親アン(シェリー・ハック)は美人でシッカリ者の専業主婦。長男のハリー・ジュニア(ノア・ハサウェイ)は大の「スター・トレック」ファンで、甘えん坊の妹ウェンディ(ジェニー・ベック)の良きお兄ちゃんだ。
 そのハリー・ジュニアが荷物運びを手伝っている合間に、妹ウェンディが一人で地下室へ迷い込んでしまう。そこへ現れたのは、毛むくじゃらの小さな妖精トロル。ウェンディをどこかへ隠したトロルは、魔法のリングを使ってウェンディに化けてしまう。お昼にパパが買ってきてくれたハンバーガーを家族揃って食べたところ、まるで獣のようにムシャムシャと食い散らかすウェンディを見て一家はビックリ。こんな美味いもん初めて食べた!もっとよこせ!と叫びながら大暴れする彼女はまるで別人だった。両親は新しい家に引っ越して興奮したんだろう、と論理的に納得しようとするが、ハリー・ジュニアは何かがおかしいと直感していた。
 それ以来、両親の前では努めていい子を演じる偽ウェンディだったが、ハリー・ジュニアに対してはトロルの本性を垣間見せ、なにかにつけて乱暴を働いたり嘘を付いたりする。そればかりか、アパートのよその部屋へずかずかと勝手に入っていき、魔法のリングを使って住人たちを次々と妖精や妖怪に変えていくのだった。
 女好きで子供嫌いの中年男ピーター(ソニー・ボーノ)、筋肉マニアで単細胞の元軍人バリー(ゲイリー・サンディ)、明るくて気のいいウェイトレスのジャネット(ジュリア・ルイス=ドレイファス)とその恋人ウィリアム(ブラッド・ホール)などなど。唯一の例外は小人の大学教授マルコム(フィル・フォンダカーロ)。子供よりも背の低いマルコムに強い親近感を抱いたらしい偽ウェンディは、彼を夕飯に招いて親交を深める。だが、彼が病気で余命幾ばくもないと知った偽ウェンディは、魔法のリングを使って彼をエルフに生まれ変わらせるのだった。
 一方、妹の様子がおかしいだけでなく、アパートの住人たちまで一人また一人と姿を消していることに気づいたハリー・ジュニアは、最古参の住人である謎めいた老女ユーニス(ジューン・ロックハート)のもとを訪れる。実は、彼女の正体は中世の時代から生き長らえる魔女だった。かつて人間界に危害を加えようとしたトロルの復活を防ぐため、このアパートに住み続けているのだという。
 ユーニス曰く、トロルはアパートの住人たちを妖精や妖怪に変えて手下にすることで、自らの帝国を作り上げようとしているのだという。本物のウェンディは、アパートの扉から通じる異空間のどこかで捕われているはずだと。トロルの野望を打ち砕くべく、若き日の姿に戻って戦いを挑むユーニス(アン・ロックハート)。だが、彼女までもが切り株の妖怪に変えられてしまった。
 意を決して異空間へ通じる扉を開き、たった一人で本物の妹を探すハリー・ジュニア。そんな彼の前に、トロルの最終兵器である巨大なモンスターが立ちはだかる…。

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魔女ユーニス(J・ロックハート)はトロルの復活を察知する

トロルによってニンフへ変えられたジャネット(J・ルイス=ドレイファス)

ユーニスはトロルの由来をハリー・ジュニアに語って聞かせる

<Information>
 監督のジョン・カール・ビュークラーは、もともと特殊効果マンとして活躍してきた人物。中でも、「死霊のしたたり」('85)や「フロム・ビヨンド」('86)、「ドールズ」('87)など、一連のスチュアート・ゴードン監督とのコラボレーションで知られる。「グーリーズ」のクリーチャー効果を担当したのも彼。オムニバス映画「SFダンジョン・マスター/魔界からの脱出」('85)以降は、映画監督としても精力的に作品を発表しており、「13日の金曜日PART7/新しい恐怖」('88)やトニー・トッド主演の「ダーク・シャドウ」('06)などを手がけている。ただ、特殊効果の世界では一流かもしれないが、演出家としてはいまひとつ。監督2作目に当たる本作では、なおさらのこと素人臭さが目立つことは否めないだろう。
 で、エンパイアの社長チャールズ・バンドは製作総指揮に名を連ね、プロデュースはその父親のアルバートが担当。もちろん、音楽スコアは弟リチャード。この親子3人の共同作業というのも、エンパイア・ピクチャーズの習わしみたいなもんだった。
 脚本を手がけたエド・ナハは、大ヒットしたファミリー向けSFコメディ「ミクロキッズ」('89)で有名な脚本家。もともとはSF映画雑誌「スターログ」の編集者兼ライターで、本作への参加を機にエンパイア・ピクチャーズ作品の脚本を書くようになり、次回作「ドールズ」でスチュアート・ゴードン監督と意気投合したことから、共同で「ミクロキッズ」の脚本を書いたというわけだ。
 撮影監督はダリオ・アルジェントの「インフェルノ」('80)や「フェノミナ」('85)でお馴染みのロマーノ・アルバーニ。当時、エンパイアはイタリアのローマを製作拠点にしており、本作もローマ市内のスタジオで撮影されているため、美術デザインのジョヴァンニ・ナタルッチや助監督のマウロ・サクリパンティなど、現場スタッフの多くはイタリア人だ。
 そのほか、「ボーイズ・ドント・クライ」('99)や「アメリア 永遠の翼」('09)のリー・パーシーが編集を、「ビルとテッドの大冒険」('89)や「アリゾナ・ドリーム」('92)のジル・M・オハネンソンが衣装デザインを、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀」('90)や「ダークハーフ」('93)のジョン・ヴリックが特殊メイクを担当。そして、ビュークラー監督自らがクリーチャー効果およびデザインを手がけている。

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若返ったユーニス(A・ロックハート)はトロルとの戦いに挑むのだが…

本物のウェンディを救うために立ち上がるハリー・ジュニア

そんな彼の前に巨大なモンスターが立ちはだかる

 主人公のハリー・ジュニアを演じているのは、「ネバー・エンディング・ストーリー」('84)の勇者アトレーユ役で大ブレイクした美少年スター、ノア・ハサウェイ。日本でも映画雑誌で特集が組まれるほどの人気を博したものの、共演者バレット・オリバー君がその後も売れっ子となったのとは対照的に、凛々しくてハンサムなノアは忽然と姿を消してしまった。本作が劇場公開されたなかった日本では、彼の姿を見たいがためにビデオを借りたという女子ファンも少なくなかったはずだ。
 父親のハリー・ポッター役には、「空の大怪獣Q」('82)や「ザ・スタッフ」('85)、「新・死霊伝説」('87)など、ラリー・コーエン監督作品の主演スターとして知られるマイケル・モリアーティ。アメリカの国民的長寿ドラマ「LAW & ORDER」シリーズの名物検事ベンジャミン・ストーン役で記憶しているファンも少なくないかもしれない。
 一方、母親アンを演じているのは、'70年代〜'80年代に一世を風靡したドラマ「チャーリーズ・エンジェル」のティファニー役で有名なシェリー・ハック。トロルと入れ替わってしまうウェンディ役には、「タイトロープ」('85)でクリント・イーストウッドの娘役を演じていたジェニー・ベックが扮している。
 そして、トロルの野望を阻止しようとする魔女ユーニス役には、「名犬ラッシー」と「宇宙家族ロビンソン」のお母さん役で有名な往年の名女優ジューン・ロックハート。その実の娘であるアン・ロックハートが、若返ったユーニス役として顔を出している。
 そのほか、ソニー&シェールの片割れとして'60年代に全米ヒットを次々と放った人気歌手ソニー・ボーノ、大人気シットコム「となりのサインフェルド」でブレイクしてから現在まで映画にテレビに活躍するジュリア・ルイス=ドレイファス、後にその夫となるブラッド・ホール、「ウィロー」('88)で小人族の戦士を演じたフィル・フォンダカーロ、'70年代の人気ドラマ「WKRP in Cincinatti」の主演で有名なゲイリー・サンディらが、アパートの住人として脇を固めている。

 

 

 

トロル2/悪魔の森
Troll 2 (1990)
日本では劇場未公開・ビデオ発売のみ
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2004 MGM Home Entertainment (UK)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(英国PAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:ドルビー・デジタル・モノラル/言語:英語・ドイツ語/字幕:英語・ドイツ語・オランダ語・スウェーデン語・ギリシャ語/地域コード:2/91分/制作国:イタリア

<特典>
なし
監督:クラウディオ・フラガッソ
製作:ジョー・ダマート
   ブレンダ・ノリス
脚本:クラウディオ・フラガッソ
   ロッセラ・ドルディ
撮影:ジャンカルロ・フェランド
音楽:カルロ・マリア・コルディオ
出演:マイケル・スティーブンソン
   ジョージ・ハーディ
   マーゴ・プレイ
   コニー・マクファーランド
   ロバート・オームスビー
   デボラ・リード
   ジェイソン・ライト
   ダーレン・イーウィング
   ジェイソン・ステッドマン
   デヴィッド・マッコネル

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ゴブリンの存在を本気で信じている幼い長男ジョシュア(M・スティーブンソン)

憧れの田舎暮らしを体験するためにニルボーグへと向かうウェイツ一家

長女のボーイフレンドとその仲間たちも合流する

<Review>
 欧米では“史上最低の映画”として名高いクズ映画である。「トロル」の続編と銘打って公開された(日本では劇場未公開)ものの、前作と内容的にまるで関係がないのは勿論のこと、そもそもトロルすら出てこないという代物。しかも、アメリカ映画ではなくイタリア映画だ。もともと“Goblin”のタイトルで製作されていたものの、プロの俳優すら出演していない超低予算映画なのでセールスポイントがない。そこで、出てくるモンスターの姿形が似ていることもあり、熱心なファンの多い「トロル」のカルト人気に便乗してしまおうってことで、配給会社の判断で勝手に続編を名乗ってしまったというわけだ。
 ゴブリンとは中世ヨーロッパの民間伝承に出てくる邪悪な妖怪。とある一家が休暇を過ごすために田舎町を訪れたところ、そこは人間に姿を変えたゴブリンたちの帝国だった。ベジタリアンのゴブリンたちは、緑色の食べ物を与えることで人間を植物に変え、自分たちのご馳走にしてしまう。住民たちの正体にいち早く気づいた一家の幼い長男ジョシュアは、亡き祖父の幽霊の助けを借りて、愛する家族をゴブリンの魔手から守ろうとする。
 要は、世の中の健康志向に対する皮肉を込めたホラー・コメディってことなのだろう。実際、肉とパスタが大好きなフラガッソ監督と妻のロッセラ・ドルーディは、なにかと押し付けがましいベジタリアンの友人たちに辟易していたらしく、そんな彼らへ対する不満というのが本作の脚本を書く引き金になったと語っている。夫婦にしてみれば、口うるさくて偉そうなベジタリアンたちはモンスターそのものだったってことのようだ。
 そんな風刺的意味合いの強い作品ゆえに、荒唐無稽なお話になってしまうことは致し方ないのかもしれない。が、それにしてもズレているというか、全編に貫かれた底なしの安っぽさと下手っクソさ。それこそが、本作を“史上最低の映画”たらしめているのだと言えよう。
 当時ですら時代錯誤でトンチンカンなセリフ、素人丸出しの役者たちによる大げさな演技、あまりにもチープで粗雑なクリーチャー・デザイン、そして無頓着かつ投げやりな演出。そもそも脚本を書いたフラガッソ監督と妻の2人は英語がカタコトしか喋れなかったらしいので、恐らく辞書を片手にセリフを考えたのだろう。ゆえに、形式ばった遠まわしな表現や時代遅れな言葉遣いのオンパレード。アメリカ人の出演者たちは、意味もよく分からないままにセリフを喋っていた者も多かったらしい。中には、親切心で適切な表現に修正しようとした役者もいたそうだが、監督からはセリフの一字一句も変えてはならないと怒られたという。
 そんな役者陣も、実は全員がズブの素人。本作の撮影はアメリカのユタ州で行われたのだが、近隣住民の中からオーディションで出演者を選んだのだそうだ。恐らく予算の都合上、組合のルールで最低賃金の定められたプロのアメリカ人俳優は使えなかったのだろう。リキみ過ぎちゃって演技が過剰になっている者、緊張のせいか表情や言葉がコチコチに固い者、なんだか自己陶酔しちゃっている者などなど、役者によって演技の温度がバラバラ(笑)。お母さん役のマーゴ・プレイなんて、ビックリ顔以外はまるで無表情だ。
 珍品といえば確かに珍品。あまりにも出来が酷すぎて逆に笑えるってなわけで、アメリカでは本編中のバカバカしいセリフや歌を一緒になって大声で叫ぶマニアも多いらしく、あの「ロッキー・ホラー・ショー」と2本立てで上映するイベントなんかもあるそうだ。まあ、なんとなく分かる気はするのだけれど、英語の苦手な日本人には難しいかもねえ…(^^;

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森の中でゴブリンと遭遇したアーノルド(D・イーウィング)

魔女クリーデンス(D・リード)がゴブリンたちのボスだった

亡き祖父セス(R・オームスビー)の幽霊に助けを求めるジョシュア

<Story>
 都会暮らしのウェイツ一家。父親のマイケル(ジョージ・ハーディ)は子供の頃から農家に憧れており、その夢を叶えるため、夏休みを利用してニルボーグという田舎町の農民一家とホームエクスチェンジ、つまり自宅を交換して休暇を過ごす事になっていた。そんな一家の心配の種は幼い息子のジョシュア(マイケル・スティーブンソン)だ。
 半年前に亡くなった祖父セス(ロバート・オームスビー)の幽霊としばしば話をする息子に、マイケルと妻ダイアナ(マーゴ・プレイ)は多感な年頃だから仕方ないと思いつつ、祖父から教えられた妖怪ゴブリンの伝説を本気で信じているのには困っていた。また、自由奔放でおませな高校生の娘ホリー(コニー・マクファーランド)には、頭が悪くてお調子者のエリオット(ジェイソン・ライト)というボーイフレンドがおり、マイケルは2人の仲を絶対に認めようとはしなかった。
 そんなこんなで、ニルボーグへ向けて出発したウェイツ一家だったが、ジョシュアは悪い予感がして気が進まなかった。しかも、ドライブの途中で祖父セスの幽霊が現れ、ニルボーグに行っちゃいけないと警告される。なんとか家に引き返そうと両親を説得するジョシュアだったが、当然のことながら取り合ってはもらえない。
 かくして一家はニルボーグへ到着。ホリーの彼氏エリオットも、悪友のアーノルド(ダーレン・イーウィング)、ドリュー(ジェイソン・ステッドマン)、ブレント(デヴィッド・マッコネル)を引き連れ、キャンピングカーで先回りしていた。しかし、ホリーはそれが気に食わない。いつも友達とつるんでばかりで、アタシにはちっとも構ってくれない。あんたたちホモでしょ。じゃなけりゃ、あたしを愛していると証明して!と詰め寄っていたのに、相も変わらず仲間と一緒だからだ。
 ホームエクスチェンジの相手である農民一家は変わり者だった。何も言わずに無表情で去っていく彼らに、ウェイツ家の人々はビックリするが、家の中に入ってみると豪勢な食事が用意されている。なんだか妙な緑色の食べ物ばかりだけど、お腹がすいているし、これが地元の料理なんだろうからいいか!とばかりに口をつけようとする親子。そこへまたもや祖父セスの幽霊が現れ、食べちゃいかん!とジョシュアに警告する。緑色の食べ物はゴブリンの罠。それを食べたら植物に変えられてしまい、ベジタリアンであるゴブリンの餌食になってしまうからだ。なんとかして両親や姉を救おうと考えたジョシュアは、テーブルの上にオシッコをかけて食事を台無しにしてしまう。
 その頃、森を逃げまどう若い美女を目撃したアーノルドは、彼女を助けたら仲良くなれるかも!ということで、森の中へと一人で入っていく。すると、そこで醜悪なゴブリン軍団と遭遇。美女を連れて教会らしき建物へ逃げ込んだところ、そこにはグリーデンス(デボラ・リード)という魔女が待っていた。彼女から差し出された緑色のドリンクを飲み干した2人。すると、美女はたちまちドロドロに溶けてゴブリンに食い尽くされ、アーノルドも鉢植えの木にされてしまう。
 さらに、町へ食料の買出しに出かけたドリューも、保安官から差し出された緑色のハンバーガーを食べて気分が悪くなり、やはり教会のような建物へたどり着く。そこで、鉢植えの木になったアーノルドを発見したドリューは、彼を助けようとするものの、クリーデンスに見つかって頭を殴られてしまう。クリーデンスはアーノルドをジューサーにかけて緑色のドリンクを作り、それを意識のもうろうとするドリューに飲ませるのだった。
 一方、父親マイケルに連れられて町へ買い物に訪れたジョシュア。彼はそこで住人の集会を目撃する。なんと、彼らは人間に姿を変えたゴブリンだった。ニルボーグという町の名前も、GOBLINのアルファベットを逆にしたもの。そう、ここはゴブリンの帝国だったのだ。
 住民たちに見つかって捕らえられそうになったものの、異変に気づいた父親に救われたジョシュア。家に帰ってみると、さらに驚く事態が待っていた。町の人々が手作りの料理を持って大勢押しかけ、歓迎パーティをするというのだ。半ばむりやり座らせられ、緑色の料理を食べさせられそうになるウェイツ一家とエリオット。祖父の幽霊に助けられながらジョシュアは、ゴブリンたちの恐るべき正体を暴こうとするのだが…。

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アーノルドに続いてドリュー(J・ステッドマン)までも犠牲になってしまう

村人たちの手作り料理を強引に勧められるウェイツ家の人々

魔女クリーデンスがついに正体を現す!

<Information>
 監督のクラウディオ・フラガッソは、「ラッツ」('83)や「モンスター・ドッグ」('85)、「ゾンビ4」('88)などの低予算ホラーを生み出し、マニアの間では知る人ぞ知る存在のイタリア人。イタリア産悪趣味映画の帝王ブルーノ・マッテイ(ヴィンセント・ドーン)の愛弟子として、「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」('80)や「ストライク・コマンドー」('85)、「サンゲリア2」('88)など数多くのB級娯楽映画の脚本を、妻ロッセラ・ドルーディと共に手がけたことでも知られる。
 師匠のマッテイに比べるとかなり良心的な職人監督で、実際に「ラッツ」や「バトル・ヘルハウス」('90)などは低予算のわりに良くできた作品だったが、本作は慣れないアメリカでの撮影やキャストとの言葉の壁など、様々な問題に悩まされたらしく、本来の力を発揮しているとは言い難い。正直、彼のフィルモグラフィーの中では最低の部類に属する映画だが、その出来の悪さがかえって評判となってしまったのは皮肉だ。
 なお、こうした'80年代当時の低予算映画をあくまでも修行の場と考えていたフラガッソだったが、どんどん予算が削られていく製作現場にやがて辟易するようになったそうだ。もはや、イタリア産のB級娯楽映画のクオリティは底打ちで、今のような環境ではいいものが作れるはずなどないし、市場もハリウッド映画に独占されてしまい、我々の映画など誰も見てくれない。そう考えた彼は、依然としてエログロ映画で勝負しようとする師匠マッテイを見限り、'90年代半ばには独立。近年は「ミラノ・コネクション」('07)や「G.I.S.特殊介入部隊」('10)など、社会派の良質なマフィア映画や犯罪映画を撮る監督してイタリアでは評価されている。
 また、本作は師匠ブルーノ・マッテイと、ある意味でライバル関係にあった、もう一人の悪趣味映画の帝王ジョー・ダマートがプロデュースを手がけ、彼の製作会社フィルミラージュからリリースされているのも興味深い。撮影監督は「影なき淫獣」('73)や「ドクター・モリスの島/フィッシュマン」('78)、「片腕サイボーグ」('86)など、名匠セルジョ・マルティーノ作品とのコンビで知られるジャンカルロ・フェランドが担当。さらに、「キリング・バード」('87)や「エクソシストの謎」('88)など、イタリア産娯楽映画終焉期に欠かせない存在だった作曲家カルロ・マリア・コルディオが音楽スコアを手がけ、いかにも彼らしいチープなシンセサウンドを聴かせる。
 そのほか、「さらばバルデス」('73)や「悪魔の教団レッド・モンクス」('88)などのヴァニオ・アミチが編集を、アルジェントの「インフェルノ」('80)やフルチの「ビヨンド」('80)、クラウス・キンスキーの「パガニーニ」('89)などのマッシモ・レンティーニが美術デザインを、「愛のエマニエル」('75)などで一世を風靡したセクシー女優ラウラ・ジェムサーが衣装デザインを、「サンゲリア」('79)や「ドクター・ブッチャー」('79)などのマウリツィオ・トラーニが特殊メイクを担当している。っていうか、低予算ホラーのみならずベルトルッチの「1900年」('76)やトルナトーレの「ニュー・シネマ・パラダイス」('88)などの名作をも手がけているトラーニをして、この悲惨なまでにチープな特殊メイクの仕上がりなわけだから、よっぽどお金がなかったんだろうな…(^^;

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ブレント(D・マッコネル)に色仕掛けでトウモロコシを食べさせるクリーデンス

ゴブリンの軍団がウェイツ家の人々を追い詰める

緑色のゼリーを無理矢理食べさせられそうになるジョシュアだったが…!?

 で、先述したようにキャストは全員ズブの素人。ロケ地であるユタ州の田舎町ポーターヴィルやモーガンの周辺でオーディションを行ったのだそうだ。父親役ジョージ・ハーディの本職は歯科医。それ以外の出演者も、演技経験がない地元住民で固められているのだが、娘ホリー役を演じたコニー・マクファーランドは、本作への出演を機にプロの女優となった。また、本作が“史上最低の映画”としてカルト的人気を集めるようになったため、近年になってその知名度を利用して俳優活動を始めたキャストも少なくない。
 なお、主人公ジョシュアを演じているマイケル・スティーブンソンだけは、本作の以前にフラガッソ監督の「バトル・ヘルハウス」に出演した経験がある。また、本作の撮影舞台裏エピソードを追ったドキュメンタリー映画「Best Worst Movie」('09)を監督し、シチェス国際映画祭などで賞を獲得しており、最近ではドキュメンタリー作家として活動しているようだ。

 

 

 

悪魔の改造人間
The Vindicator (1986)
日本では1987年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2013 20th Century Fox (Germany)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(ドイツPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.78:1/音声:ドルビー・デジタル・モノラル/言語:英語・ドイツ語/字幕:英語・ドイツ語・フィンランド語・デンマーク語・オランダ語・スウェーデン語・ノルウェー語/地域コード:2/92分/制作国:カナダ

<特典>
なし
監督:ジャン=クロード・ロード
製作:ドン・カーモディ
   ジョン・ダニング
脚本:イーディス・レイ
   デヴィッド・プレストン
撮影:ルネ・ヴェルジエ
音楽:ポール・ザザ
出演:テリ・オースティン
   デヴィッド・マキルレース
   パム・グリア
   リチャード・コックス
   モウリー・チェイキン
   キャサリン・ディシャー
   スティーブン・メンデル
   リンダ・メイソン・グリーン

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会社の理不尽を糾弾する科学者カール(D・マキルレース)

カールは研究所の事故を装って始末されてしまう

社長のアレックス(R・コックス)は植物状態のカールを実験台に使う

<Review>
 昔から一部で「ロボコップ」('87)のパクリなのでは…?とも言われてきた作品。確かに、顔は人間だけれどボディは殆どマシンというサイボーグ・デザインはロボコップと瓜二つだが、実はこちらの方が「ロボコップ」よりも1年半近く前に劇場公開されている。しかも、本編の著作権クレジットは1984年となっているので、少なくともその時点で撮影は完了していたはず。つまり、「ロボコップ」の方こそ本作をパクった可能性があるわけだ。
 とはいえ、恐らくはただの偶然。本作は「ターミネーター」('84)と「フランケンシュタイン」から強い影響を受けており、両者の要素を組み合わせて生まれたのが人造人間なわけだが、おのずとコンセプト的に共通項の少なくないロボコップと似たようなデザインになってしまったのであろう。
 主人公のカールはハイテク企業に勤める真面目で有能な科学者だったが、若き社長アレックスの不正を糾弾したために事故を装って始末され、サイボーグ開発研究の実験台にされてしまう。ところが、人造人間として蘇ったカールは関係者の予想を遥かに上回る破壊力を発揮し、自分を陥れた人々への復讐を始める。そこで、社長アレックスは冷酷非情な女殺し屋ハンター率いる傭兵軍団に人造人間の抹殺を命じるというわけだ。
 脳に埋め込まれたマイクロチップによって、近づくもの全てを反射的に破壊してしまうというのが一つのミソ。愛する妻のもとへ戻りたくても醜く変貌した姿は見せられない、彼女を抱きしめたくても近くへ寄ることすらできない。そんな主人公の葛藤を軸としたメロドラマ的な要素に加え、科学の進歩に目がくらんだ上司や同僚たちから受けた理不尽な仕打ちに対する復讐ドラマが絡むことで、ストーリー全体がエモーショナルな盛り上がりを見せる。この種の低予算SFホラーとしては意外なほど、見る者の感情に強く訴えるドラマ構成は悪くない。荒唐無稽を極力抑えた真面目な作風は、ナンセンスなB級エンターテインメントを期待すると肩透かしかもしれないが、個人的には好感が持てる。
 スタン・ウィンストンの手がけた人造人間の特殊メイクも、これが'80年代のカナダ産低予算映画であることを考えればまずまずの出来栄え。さほど安っぽさを感じさせないだけでも立派だ。また、主人公を陥れるハイテク企業社長がごく普通のインテリ青年だったり、彼に雇われた女殺し屋がやけに人間くさかったりと、悪役たちが単純なステレオタイプではないという点も面白い。
 もちろん、欠点だって沢山ある。主要キャスト以外の俳優たちの演技は学芸会並だし、アフレコの出来は決して良いとは言えないし、細かい設定には不自然な部分が幾つも見受けられる。なので、決して万人にオススメできるような映画ではないものの、筆者のような古い低予算娯楽映画マニアにとっては嫌いになれない作品。劇場公開時に池袋の映画館で「アメリカン忍者」との2本立てを見たのも懐かしい思い出だ。

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嘆き悲しむ妻ローレン(T・オースティン)を慰める親友バート(M・チェイキン)

サイボーグとして甦ったカール

脳に埋め込まれたチップによって攻撃性を備えたカールはチンピラを皆殺しに

<Story>
 ハイテク企業ARCコーポレーションに勤務する科学者カール(デヴィッド・マキルレース)は、自らの研究予算が一方的に削減されたばかりか、新たに開発したマイクロチップが勝手に持ち出されたことに疑問を抱く。ARCは政府からの委託で最新鋭の宇宙スーツを開発する一方、生き物の本能的な攻撃性を高めるという恐ろしい実験を秘密裏に行っていた。
 それは、プログラム化されたマイクロチップを脳に埋め込むことによって、至近距離の物体を反射的に破壊させるというもの。人間に適用すれば強力な軍隊を作り出すことが可能となる。そうとは知らず、社長のアレックス(リチャード・コックス)に不透明な資金の流れを糾弾するカール。そんな彼を危険視したアレックスは、右腕の科学者イアン(スティーブン・メンデル)に命じ、不慮の事故に見せかけてカールを抹殺する。
 カールの死に嘆き悲しむ妊娠中の妻ローレン(テリ・オースティン)は、夫の同僚で友人のバート(モウリー・チェイキン)に付き添われて帰宅するものの、何者かによって自宅が荒らされていて愕然とする。アレックスの部下たちが空き巣に見せかけ、事故に疑いの目が向くような資料を全て持ち去っていたのだ。そればかりか、アレックス一味は密かにカールの遺体を実験室で保存していた。実は、彼の脳はまだ生きていたのだ。
 そこで、アレックスは右腕のイアンを筆頭に、ゲイル(リンダ・メイソン・グリーン)やカート(ラリー・オーブリー)、ジョー(デニス・シンプソン)といったARCの主要科学者を集め、ある実験を行うことにする。新たに開発した宇宙スーツに同社のハイテク技術を融合させ、カールをサイボーグとして生まれ変わらせようというのだ。しかも、脳にマイクロチップを埋め込むことで思考や動作をコントロールし、いわゆるロボット兵士の試作品にしようと考えていた。
 ところが、なぜか思い通りに蘇生することができないばかりか、リモートコントロールも上手く作動しない。仕方なしにコンピューターの接続を外し、ゲイルがシステムの点検を行っていたところ、突然サイボーグが目覚める。驚いたゲイルはパニックを起こした実験用のサルたちに嬲り殺され、サイボーグとして甦ったカールは研究所を脱走した。
 ゴミ収集車に紛れ込んで外部へ出たカールは、そのまま焼却炉に入れられてしまう。しかし、サイボーグとなった彼は不死身の体。宇宙スーツは燃えてしまったものの、鋼鉄の肉体は無傷だった。そこへバイクで通りかかったチンピラ集団を皆殺しにするカール。ショーウィンドウに映る自らの姿に衝撃を受けた彼は、さらに自分の恐ろしいパワーと制御不可能の攻撃性を知って悲嘆に暮れる。
 その晩、眠りにつこうとしたローレンは死んだはずの夫カールの声を耳にする。変わり果てた姿を見られないよう庭の暗がりに隠れたカールは、愛用するシンセサイザーを通してローレンに語りかけた。自分が生きていること、そしてアレックスに陥れられたこと。翌日、彼女はARCへ乗り込んでいき、アレックスに真相を問いただすものの、もちろん相手にはされない。反対に事故当時の映像を見せられ、悲しみゆえの幻聴だと説得されてしまう。
 とはいえ、アレックスも黙っているわけではなかった。自身が知る限り最強の女殺し屋ハンター(パム・グリア)にカールの抹殺を依頼。先回りしたカールにイアンを殺されてしまうものの、追跡装置で彼が下水道に隠れていることを突き止めたハンターは、部下の傭兵軍団を引き連れて退治に向かう。しかし、サイボーグのカールは彼女の予想を遥かに超えるほど強力だった。
 同行した科学者カールはおろか、部下まで皆殺しにされた彼女は、実は裏切り者だったカールの親友バートをオトリに使って彼を生け捕りにするものの失敗。そこで妻ローレンを誘拐して研究所に彼をおびき寄せるのだったが…。

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夫が生きていることを確信したローレンはアレックスの説明に納得しない

自分を裏切った同僚のイアン(S・メンデル)に詰め寄るカール

アレックスに雇われた殺し屋ハンター(P・グリア)がカールを追う

<Information>
 監督のジャン=クロード・ロードは、猟奇ホラーの傑作「面会時間」('82)やマイケル・パレ主演のアクション「ストリート・オブ・ヒーロー」('88)などで知られるカナダの職人監督。カナダ産B級エンターテインメントの草創期を語る上で欠かすことのできない人物だ。
 製作を手がけたのは、「シーバース」('75)や「ラビッド」('77)など初期クローネンバーグ作品で知られるドン・カーモディと、「バイオハザード」シリーズで知られるジョン・ダニング。特にカーモディは、あの大ヒット下ネタコメディ「ポーキーズ」シリーズのプロデューサーとして、さらに「テラー・トレイン」('80)や「誕生日はもう来ない」('81)などのカナダ産スラッシャー映画の立役者として、当時はカナダ映画界随一のヒットメーカーだった。
 脚本はカルトなSF映画「スペースハンター」('83)のイーディス・レイとデヴィッド・プレストンの夫婦コンビ。撮影監督は「ゴースト/血のシャワー」('80)や「面会時間」のルネ・ヴェルジエ、音楽スコアを「プロムナイト」('80)や「血のバレンタイン」('81)などカナダ産ホラーでお馴染みのポール・ザザが担当。また、サイボーグの特殊メイクは「エイリアン2」('86)や「ターミネーター2」('92)などでアカデミー賞を獲得したスタン・ウィンストンが手がけている。
 そのほか、「スティーブン・キングのイット/IT」('90)や「ニードフル・シングス」('93)のダグラス・ヒギンズが美術デザインを、「ランボー」('82)のジョージ・アーシュベイマーが特殊効果を担当。撮影はモントリオール市内で行われた。

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ついに妻ローレンに自らの変わり果てた姿を見せるカール

自分のことはもう忘れて欲しいとローレンに語りかける

ハンターはローレンを誘拐してカールをおびき出そうとする

 主人公のカールに扮するデヴィッド・マキルレースはカナダの中堅俳優で、「インビジブル2」('06)では逆に透明人間を生み出した研究所の所長を演じていた。キャストクレジット上の主演格は、カールの妻ローレンを演じている女優テリ・オースティン。日本ではほぼ無名に近いものの、アメリカでは14年間続いた長寿プライムタイムソープ「Knots Landing」の悪女ジル役で広く親しまれた人だ。
 悪役アレックスを演じているのは、「クルージング」('80)のゲイの連続殺人鬼役で知られるリチャード・コックス。どこか影のあるインテリ系のハンサムな俳優だったが、残念ながら大成はしなかった。さらに、カールの友達のふりをして実はローレンを横取りするために裏切っていたバート役には、カナダを代表する名脇役の一人モウリー・チェイキン。当時は本作のような低予算映画の脇役が多かったものの、「ダンス・ウィズ・ウルブス」('90)のファンブロー少将役を演じて評価され、以降は個性的な脇役として引っ張りだこになった。
 そして、カールを執拗に追い詰める殺し屋ハンターを演じるのが、今さら説明する必要もないであろう'70年代ブラック・ムービーの女王パム・グリア。「コフィー」('73)や「フォクシー・ブラウン」('74)で一世を風靡した彼女も、本作の当時はB級アクションやホラーの脇役に甘んじていたわけだが、その後タランティーノの「ジャッキー・ブラウン」('97)で再ブレイクしたことはご存知の通りだ。
 また、テレビのミニシリーズ「新・宇宙戦争」('88)でヒロインを演じたリンダ・メイソン・グリーンが、最初に殺される女性科学者役で登場していることも見逃せない。

 

 

 

サイコ・シンドローム/僕だけを見て
Pin...(1988)
日本では劇場未公開・ビデオ発売のみ
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2013 Arrow Films (UK)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(英国PAL盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:2.0 ドルビー・デジタル・ステレオ/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/98分/制作国:カナダ

<パッケージ仕様>
・ジャケット2種類(リバーシブル)
・フルカラーブックレット(8p)

<特典>
・オリジナル劇場予告編
監督:サンドール・スターン
製作:ルネ・マーロ
原作:アンドリュー・ネイダーマン
脚本:サンドール・スターン
撮影:ギュイ・ドゥフォー
音楽:ピーター・マニング・ロビンソン
出演:デヴィッド・ヒューレット
   シンディ・プレストン
   テリー・オクイン
   ジョン・ファーガソン
   ブロンウェン・マンテル
   へレーヌ・ウディ

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裕福な医者の家に生まれ育った兄レオンと妹アーシュラ

レオンにとって解剖標本人形ピンが唯一の友達だった

少年時代にトラウマを植えつけられてしまったレオン

<Review>
 どことなくお伽噺的な雰囲気を持ったサイコ・サスペンスである。主人公は解剖標本人形だけが唯一の友達という孤独な若者レオン。殻に閉じこもった青年が自分の理想とする世界に邪魔な人間を次々と殺していく…というのは比較的ありがちな話かもしれないが、一風変わっているのは共犯者が人形だということだ。
 ピノキオになぞらえてピンと名付けられた人形は、文字通り自分の意思を持って喋る…ように見えるのだが、実はレオンが傍で腹話術を使っているだけ。しかし彼にはその自覚が全くなく、ピンが生きていると本気で思い込んでいる。で、彼にはアーシュラという妹が居るのだが、外の世界と繋がりを持って大人へと成長していく彼女にレオンは固執する。
 というのも、レオンにとっての理想の世界は、いつまでも子供の頃のようにピンと妹と自分の3人で広い豪邸で暮らすこと。かつてはアーシュラもピンが生きていると信じていたが、それは2人の父親が子供たちの情操教育のために腹話術を使っていただけであり、当然のことながら成長するに従って彼女はその事実に気づく。また、父親も子供たちがある年齢に達したら腹話術をやめてしまった。
 だが、少年時代にあるトラウマを植えつけられ、大人になることに恐怖と嫌悪感を覚えてしまったレオンは、ピンがただの人形だという現実は到底受け入れることができない。そのせいで、いつしか無意識のうちに腹話術を使ってピンと対話するようになってしまったのだ。そんな彼は、妹が大人になって自立し、自分のもとを離れていってしまうことが耐えられない。ゆえに、彼女と外の世界の繋がりをことごとく妨害し、ピンと結託して邪魔者たちを消していくのである。
 原作はホラー小説「悪魔の弁護人」(キアヌ・リーヴス主演の「ディアボロス/悪魔の扉」として映画化)で有名なアンドリュー・ネイダーマン。幼少時のトラウマがセックスに関係している点を含めて、「サイコ」からの影響がかなり濃厚だと言えるだろう。明らかに強迫性障害や精神分裂症を患った主人公レオンは、まさにノーマン・ベイツそのもの。潔癖で厳格な両親を恨んでいた彼が、いつの間にか彼らと同じようになってしまうのも皮肉だ。
 また、美しき牢獄とも呼ぶべき広い豪邸を舞台にしたアメリカン・ゴシックなビジュアルは、V・C・アンドリュース原作の「屋根裏部屋の花たち」('87)をも彷彿とさせる。ネイダーマンがアンドリュースの死後に彼女のゴーストライターをしていたことを考えると、それもまた納得できるかも知れない。
 その一方で、サンドール・スターン監督の演出はかなり淡白で、いい意味でも悪い意味でもソツがない。サスペンスやショックよりもドリーミーなムードを重視。語り口も静かでゆったりとしているため、ホラー映画というよりもアート映画に近いような印象が強い。その点で好き嫌いは大きく分かれるように思う。

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高校生になったレオン(D・ヒューレット)は孤独で冷淡な若者

妹アーシュラ(C・プレストン)は妊娠しているかもしれないと告白する

兄がピンと話している姿を見て凍りつくアーシュラ

<Story>
 裕福な医師リンデン(テリー・オクイン)には息子レオンと娘アーシュラの2人の子供がいた。父親はいつも仕事で忙しく、母親(ブロンウェン・マンテル)は潔癖症で躾に厳しいことから、兄妹はいつも広い豪邸で2人だけで遊んでいた。そんな彼らが魅了されたのは、父親の診察室に置かれた解剖標本人形ピン。リンデン医師は腹話術を使ってピンが喋っているように見せかけ、子供たちの情操教育に役立てていたのだ。
 幼い頃は兄妹揃ってピンが本当に喋っていると信じ込んでいたものの、やがて思春期に差し掛かると、好奇心旺盛でませた妹アーシュラは父親の腹話術に気づき始める。だが、純粋で内気なレオンはピンが生きているものと頑なに信じ、家族の一員のように考えていた。そんなある日、レオンは診察室で看護婦がピンを使ってマスターベーションをする様子を目撃し、言い知れないほどのショックを受けてしまう。
 やがて高校生に成長したレオン(デヴィッド・ヒューレット)とアーシュラ(シンディ・プレストン)。周りを見下すようにして距離を置くレオンは変人扱いされていたが、その一方で男性経験の豊富なアーシュラは尻軽女と馬鹿にされていた。孤独ゆえに恋愛を求めてしまう彼女だったが、セックスを極端に嫌悪するレオンはそんな妹を理解できずに憤慨する。外へ出歩いたりせず、この家にいれば、ピンと自分と3人でいれば幸せなはずなのにと。
 ある日、アーシュラは妊娠したかもしれないと兄に告げる。どうすべきか迷ったレオンは、唯一の話し相手であるピンに相談した。いつの間にか兄が腹話術を習得していることに驚くアーシュラ。だが、レオンにはその自覚が全くなく、依然としてピンが生きているものと考えていた。そんな兄に不安を感じつつも、傷つけまいとして黙り込むアーシュラ。結局、父親に告白して検査してもらい、中絶することとなった。
 それからしばらくして、講演会に出席するために妻と出かけようとしたリンデン医師は、レオンがピンに向かって話しているところを目撃し、息子の精神状態が普通ではないことに気づく。人形を処分せねばと考えた彼は、ピンを車に乗せて出発するものの、その直後に交通事故で妻もろとも帰らぬ人となってしまった。警察に連れられて現場を訪れたレオンは、無傷のままのピンをこっそり持ち帰る。
 これで自分と妹とピンの3人だけで暮らせると喜ぶレオンだったが、叔母のドロシー(パトリシア・コリンズ)が後見人として同居するとに。なにかと口うるさいばかりか、アーシュラに友達付きあいやアルバイトを勧める叔母へ憎しみを募らせたレオンは、叔母の寝室にピンを連れ込んでショック死させてしまう。
 ところが、図書館でアルバイトを始めたアーシュラにスタン(ジョン・ファーガソン)というボーイフレンドが出来る。妹に嫌われたくないレオンは2人の交際を黙認し、スタンも変人のレオンに理解を示そうとするものの、夕食のテーブルにまでドレスアップしたピンを同席させるレオンの行動は常軌を逸していく。やはり我が家に他人は必要ない。そう考えたレオンはピンと結託し、嘘をついて自宅へ招いたスタンを殺そうとするのだが…。

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父親のリンデン医師(T・オクイン)は息子の精神状態がおかしいことに気づく

ピンを奪い去ろうとした両親が交通事故で死亡する

ピンと2人だけの世界を作っていくレオン

<Information>
 監督と脚本を手がけたサンドール・スターンは、実話の映画化として話題を呼んだ心霊ホラー「悪魔の棲む家」('79)の脚本家として有名な人物。シリーズ4作目に当たるテレビ映画「悪魔の棲む家・完結編」('89)では監督も兼ねている。ただ、脚本の仕事を含めてフィルモグラフィーのジャンルは極めて幅広く、必ずしもホラーに特化したフィルムメーカーだったというわけではない。
 製作のルネ・マーロは「スキャナーズ2」('90)以降のシリーズを生み出したカナダの低予算映画プロデューサー。また、製作総指揮には1作目の「スキャナーズ」('81)や「ザ・ブルード」('79)、「ビデオドローム」('82)などクローネンバーグ作品を手がけたピエール・デヴィッドが名を連ねている。
 撮影監督はカナダの名匠ドゥニ・アルカンの「アメリカ帝国の滅亡」('86)や「モントリオールのジーザス」('89)、「みなさん、さようなら」('03)などで知られるギュイ・ドゥフォー。音楽スコアは人気ドラマ「FBI:失踪者を追え!」など主にテレビで活躍するピーター・マニング・ロビンソン。そのほか、クローネンバーグの「シーバース」('75)のパトリック・ドッドが編集を、「モントリオールのジーザス」などで地元カナダの映画賞を数多く獲得しているフランソワーズ・セグンが美術デザインを、「死の愛撫」('95)や「バーニーズ・バージョン ローマと共に」('10)のニコレッタ・マッソーネが衣装デザインを担当している。

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後見人となった叔母のドロシー(P・コリンズ)をショック死させる

ピンを家族の一員とする兄に困惑を隠せないアーシュラ

アーシュラにスタン(J・ファーガソン)という恋人が出来る

 主人公レオンを演じているデヴィッド・ヒューレットは、人気SFドラマ「スターゲイト アトランティス」('04〜'08)のマッケイ博士役でお馴染みの脇役俳優。「キューブ」('97)や「スプライス」('09)など、ヴィンチェンゾ・ナターリ監督作品の常連俳優としても知られる。ちょっと冴えない3枚目の中年男というイメージの強い彼だが、本作の当時は冷たいルックスの美青年で、有名になってからの彼しか知らない人は少なからず驚かされるだろう。
 妹アーシュラ役のシンディ・プレストンは、当時「ブレイン」('88)や「プロムナイト3」('90)などのホラー映画で立て続けにヒロイン役を演じていた女優。その恋人スタンを演じているジョン・ファーガソンは、その後ジョン・パイパー=ファーガソンと名前を変え、イーストウッド監督「許されざる者」('92)にも出演。最近では人気ドラマ「ブラザーズ&シスターズ」のサラの元夫ジョー役で知られる。
 そして、レオンとアーシュラの父親役で顔を出しているのは、世界中でブームとなったドラマ「LOST」のジョン・ロック役でお馴染みの俳優テリー・オクイン。当時は「W/ダブル」('87)の殺人鬼パパ役で各映画賞の主演男優賞にノミネートされ、同じカナダ出身ということで“第二のマイケル・アイアンサイド”とも呼ばれる怪優として注目を集めていた。
 なお、レオンを誘惑しようとして痛い目にあう女性マーシアを演じているへレーヌ・ウディは、人気ドラマ「ドクター・クイン 大西部の女医物語」の娼婦マイラ役で知られるカナダのセクシー女優で、ソフトポルノ「JOY ジョイ」('84)で脚光を浴びた女優クラウディア・ウディの妹である。

 

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