カルト・アクション映画セレクション

 

最後の手榴弾
The Last Grenade (1969)
日本では1971年劇場公開
VHS・DVD・BDいずれも日本未発売

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(P) 2010 Scorpion Releasing (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:2.35:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード: ALL/94分/製作:イギリス

<特典映像>
オリジナル劇場予告編
監督:ゴードン・フレミング
製作:ジョセフ・シャフテル
原作:ジョン・シャーロック
脚色:ジョン・シャーロック
   ジェームズ・ミッチェル
脚本:ケネス・ウェア
撮影:アラン・ヒューム
音楽:ジョン・ダンクワース
出演:スタンリー・ベイカー
   アレックス・コード
   オナー・ブラックマン
   リチャード・アッテンボロー
   アンドリュー・キアー
   レイファー・ジョンソン
   ジュリアン・グローヴァー
   ジョン・ソウ
   レイ・ブルックス

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傭兵部隊を率いるグリスビー少佐(S・ベイカー)

敵に寝返った一匹狼トンプソン(A・コード)は仲間に銃弾を浴びせる

トンプソンの襲撃でグリスビーの仲間は大半が殺されてしまった

<Review>
 傭兵といえば、金銭的な利益のために戦争で雇われる兵士のこと。大義名分を持たず、報酬を貰えるのであればどこへでも行くプロの戦争屋である。そんな彼らにとって、超えてはいけない一線とは何なのか。果たして戦争とは彼らにとってただの仕事なのか、それとも人生そのものなのか。これは、まるで対照的な2人の傭兵の凄まじい対決を通して、戦争を生業とする男たちの光と影を描いたアクションドラマだ。
 主人公は昔気質で仁義に厚いグリスビー少佐と、金のためなら平気で仲間をも裏切る一匹狼のトンプソン。大勢の仲間をトンプソンの裏切りによって殺されたグリスビーは、その恨みを晴らすべく執拗に彼の命を狙う。無骨ながらも仲間を大切にし、戦うことに生涯を捧げてきた誇り高き男グリスビー。一方のトンプソンは仁義や忠誠心など一切持たず、己の利益のためだけに行動する。一見するとグリスビーが正義でトンプソンが悪のようにも思えるが、よくよく考えれば金で雇われて人を殺すという時点でどちらも同じ穴の狢。かえって、トンプソンの方がプロとして潔いとも考えられるだろう。そもそも、戦争に正義やモラルが存在するのかどうかということ自体が疑問。そんな2人のほとんど執念とも呼ぶべき宿命の戦いを通じて、戦争が日常となってしまった人間の狂気と深い
心の闇が浮き彫りにされていく。
 とりあえず原作小説があるようだが、実は登場人物の名前を借りただけでストーリーはほとんど別物なのだという。脚本の切り口はとても面白い。傭兵を題材にした映画は数あれど、ここまで個人レベルの生き様に焦点を当てた作品は珍しいのではないだろうか。戦場でのモラルを重んじるがゆえに苦悩と怒りを抱えた男グリスビー、戦場でのモラルを捨てたがゆえに怪物となった男トンプソン。それぞれに扮するスタンリー・ベイカーとアレックス・コードの演技も鬼気迫る。
 ただ、テレビドラマ出身のゴードン・フレミング監督の演出は力量不足だった。因縁の発端を描く冒頭のバトルシーンだけは迫力満点なのだが、本題に入ってからの人間ドラマが少々アッサリし過ぎ。これは、冷静で淡々としたフレミング監督の語り口のせいだろう
。アクションも全体的にかなり地味だ。残念ながら、この生々しい男同士のぶつかり合いを十分に描ききっているとは言えない。
 また、グリスビーと人妻キャサリンのロマンスもちょっと余計だった。初めて女性を本気で愛することにより己の人生を振り返った彼が、その虚しさを改めて痛感するという意味で重要なエピソードではある。だが、途中からこちらの方に比重が置かれてしまったのは本末転倒。そのせいで、クライマックスの展開がやけにメロドラマチックになってしまった。これがサム・ペキンパーやドン・シーゲルであれば、恐らくこの恋愛ドラマパートを必要最小限までバッサリと切って、徹底的に男気溢れる戦争アクション映画へと仕上げたことだろう。そう考えると実に惜しまれる。

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トンプソンに復讐を果たすため香港へ到着したグリスビー

連絡役のホワイトリー将軍(R・アッテンボロー)は傭兵を毛嫌いしていた

グリスビーはマッケンジー(A・キアー)ら気心の知れた仲間を集める

<Story>
 プロの傭兵であるハリー・グリスビー少佐(スタンリー・ベイカー)とキップ・トンプソン(アレックス・コード)は、かつてコンゴの内戦で共に戦った仲間だった。しかし、最後の最後でトンプソンが敵へと寝返り、ヘリコプターで迎えに来たフリをして仲間たちに機関銃の弾を浴びせた。その結果、グリスビーは部下の大部分を殺されてしまったのだ。
 その後、イギリスで結核の療養をしていたグリスビーのもとへ政府高官が訪れる。中国に雇われたトンプソンが香港の領海を荒らし、国境を巡るイギリスとの対立を故意に煽っているというのだ。トンプソンを抹殺して欲しいという政府高官の要請を引き受けたグリスビーは、コンゴの生き残りである仲間マッケンジー(アンドリュー・キアー)、ジョー(レイファー・ジョンソン)、アンディ(ジュリアン・グローヴァー)、テリー(ジョン・ソウ)に声をかけ、一路香港へと向かう。
 現地での連絡役を務めるホワイトリー将軍(リチャード・アッテンボロー)は、傭兵に対して偏見を持つ役人気質の退屈極まりない男だった。また、その妻キャサリン(オナー・ブラックマン)も粗野でズケズケとものを言うグリスビーに反発する。しかし、本人はそんなこと
一切気に留めず。宿敵トンプソンを倒すために猪突猛進するのみだった。だが、その鼻息の荒さがかえって彼の足元をすくってしまう。
 なりふり構わずトンプソンの尻尾をつかもうとするグリスビーの目立つ行動は、相手方にすっかり筒抜けだった。ジャングルでトンプソン一味をおびき出そうとしたグリスビーだったが、反対に捕らえられた挙句、ジョーを殺されてしまう。その異常な執念にトンプソンは呆れ顔だった。自分は金で雇われる傭兵として当たり前のことをしているまでだと。そのことを恨まれる筋合いはないというのだ。しかし、その言葉はグリスビーの復讐心にさらなる火を注ぐだけだった。
 なんとか命からがら逃げ出したグリスビーは、トンプソン一味が根城にする地域に詳しい中国人をガイドに雇い、再びマッケンジーたちを率いて罠を仕掛けようとする。だが、これもまた相手に見抜かれてしまった。トンプソンを仕留めるべく躍起になればなるほど空回りしてしまう現実。無理がたたったせいでグリスビーは結核を再発させてしまった。
 そんな彼に同情を寄せたのは、意外にもキャサリンだった。ルールや常識に縛られた優等生の夫に物足りなさを感じていた彼女は、無骨だが信念に従って生きているグリスビーにいつしか惹かれていたのだ。グリスビーもまた、聡明で芯の強いキャサリンに愛情を感じるようになっていた。療養のためグリスビーを別荘へ招くキャサリン。2人の恋心はたちまち燃え上がっていく。
 一方、グリスビーが病に倒れたことを知ったトンプソンは、マッケンジーらを自分の仲間に引き入れようと画策していた。だが、グリスビーに忠誠を誓った彼らはその申し出を断る。トンプソン一味との争いでアンディが命を落としてしまった。改めて復讐を訴えるマッケンジーだったが、もはやグリスビーにその意欲はなかった。
 戦いに明け暮れた自分の人生はなんと虚しいものだったのか、これからは愛する女性と共に満ち足りた生活を送りたい。そう考えた彼は打倒トンプソンを諦め、傭兵生活にピリオドを打つ決心を固めていたのだ。キャサリンもまた、夫と別れてグリスビーと一緒になるつもりだった。ところがその矢先、ホワイトリー将軍を狙ったトンプソン一味のテロ攻撃によってキャサリンが命を落としてしまう…。

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まんまとトンプソン一味の罠に引っかかってしまったグリスビー

トンプソンはグリスビーの義理人情や仲間への忠誠心をバカにしていた

処刑されるところを脱走に成功したグリスビー

<Information>
 監督のゴードン・フレミングは先述したようにテレビドラマの出身で、イギリスの国民的SFドラマ“ドクター・フー”シリーズの映画版「Dr.フーinダレクの惑星」('65)と「地球侵略戦争2150」('66)を手がけた人物としても知られる。その後も劇場用映画よりはテレビ映画やドラマが多く、どちらかというと渋い作風のスパイドラマや文芸ドラマを得意とした監督だったようだ。
 原作者シャーロックと共に脚色を手がけたジェームズ・ミッチェルは、主にスパイ小説や犯罪小説で有名なベストセラー作家。イギリスではテレビドラマの製作者・脚本家としても活躍していた。脚本を書いたケネス・ウェアもテレビ畑の人で、劇場用映画はこれ1本のみ。なるほど、全体的にテレビサイズへ収まってしまった理由も分からないではない。
 製作はケン・アナキンの「大泥棒」('68)やジョセフ・ロージーの「暗殺者のメロディ」('72)を手がけたジョセフ・シャフテル。さらに、「007/ユア・アイズ・オンリー」('81)や「007/オクトパシー」('83)、「スターウォーズ/ジェダイの復讐」('83)などでお馴染みの大物カメラマン、アラン・ヒュームが撮影監督を務めている。また、ジョセフ・ロージー監督に愛されたジャズ・ミュージシャン、ジョン・ダンクワースが音楽スコアを手がけている点も要注目かもしれない。
 そのほか、「戦場の小さな天使たち」('87)や「オペラ座の怪人」('04)でオスカーにノミネートされたアンソニー・プラットが美術監督を、「わらの女」('64)や「人形の家」('73)で英国アカデミー賞候補になったビアトリス・ドーソンが衣装デザインを手がけている。

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グリスビーは将軍の妻キャサリン(O・ブラックマン)と惹かれあうように

トンプソンはマッケンジーたちを買収しようとするのだが…

将軍のリムジンに仕掛けられた時限爆弾でキャサリンが命を落としてしまう

 主人公グリスビー少佐を演じているのは、'50〜'60年代の戦争映画や歴史大作には欠かせない名優だったスタンリー・ベイカー。ローレンス・オリヴィエに大抜擢された「リチャード三世」('55)で脚光を浴び、たちまち「トロイのヘレン」('55)や「アレキサンダー大王」('56)、「ナバロンの要塞」('61)、「ズール戦争」('63)など、イギリスとハリウッドを股にかけて続々と大作映画に出演した。ただ、やはり主演を張るには少々地味。重厚なバイプレイヤーとして光る人だった。
 一方、その宿敵であるトンプソンを演じているアレックス・コードは、日本でも話題を呼んだテレビドラマ「超音速攻撃ヘリ エアーウルフ」('84〜86)のアークエンジェル役でお馴染みであろう。主演を務めたリメイク版「駅馬車」('65)やカーク・ダグラスの弟を演じた「暗殺」('68)などで売り出された二枚目俳優だったが、どことなく軟派で軽いところが仇になったのか、映画スターとしてはほとんど芽が出なかった。ただ、本作なんかを見るとその軽薄そうな持ち味がサイコ野郎スレスレのトンプソン役にピッタシ。本人も水を得た魚のように嬉々として暴れまくる。二枚目路線よりも性格俳優として売り出すべきだった人なのかもしれない。
 さらに、「007/ゴールドフィンガー」('64)のプッシー・ガロアー役で名高いオナー・ブラックマンがキャサリン役に扮し、相変わらずの上品な色香溢れる大人の女を演じて絶品。また、ハマー・プロの「凶人ドラキュラ」('66)や「火星人地球大襲撃」('67)などで有名な怪優アンドリュー・キアーが、グリスビーの右腕マッケンジーを演じて渋い魅力を発揮している。出てくるだけで作品に重厚感を増す優れた役者だ。
 また、グリスビーの仲間として「007/ユア・アイズ・オンリー」の悪役で有名なジュリアン・グローヴァー、「ロンドン特捜隊スウィーニー」('75〜'78)や「モース警部」('87〜'93)などの人気ドラマに主演したジョン・ソウ、オリンピックの金メダリストである元陸上選手のレイファー・ジョンソンが顔を出しているが、特にこれといった見せ場がなかったのは少々勿体ない。
 なお、映画監督としても有名な大御所名優リチャード・アッテンボローも、役柄としては特別ゲスト+αくらいの出番はあるものの、キャラクターそのものに深みがないため、なんとなく損な役回りだったように思う。その助手には「ナック」('65)のプレイボーイ役が印象深いレイ・ブルックスが扮しているものの、こちらも単なる顔見せに終始してしまったという印象だ。

 

The Big Game (1973)
日本では劇場未公開・TV放送なし
VHS・DVD・BDいずれも日本未発売

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(P)2010 VCI Entertainment (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/94分/製作:アメリカ・南アフリカ

<特典映像>
なし
監督:ロバート・デイ
製作:スタンリー・ノーマン
原作:ラルフ・アンダース
脚本:ラルフ・アンダース
   ロバート・デイ
   スタンリー・ノーマン
撮影:マリオ・フィオレッティ
音楽:フランチェスコ・デ・マージ
出演:スティーブン・ボイド
   フランス・ニュイエン
   レイ・ミランド
   キャメロン・ミッチェル
   ジョン・ヴァン・ドリーレン
   ブレンドン・ブーン
   マイケル・カーナー
   ジョン・ステイシー

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ローマで謎めいた美女アタンガ(F・ニュイエン)と恋に落ちた若者ジム(B・ブーン)

外交官であるジムは次の出張先である香港へと到着する

ジムの父親ハンドリー博士(R・ミランド)は世界的に有名な科学者だった

<Review>
 「泥棒株式会社」('60)や「炎の女」('65)などで知られるイギリスの中堅職人監督ロバート・デイの手がけたスパイ・アクション。冷戦時代における熾烈な武器開発競争を背景に、アメリカが新たに開発した最新鋭兵器を破壊すべく暗躍する国際軍需産業組織の陰謀と、その抗争に巻き込まれた若者の悲劇を国際色豊かに描いた作品である。
 主人公は若きエリート外交官のジム。世界各地を渡り歩きながら、仕事に恋に遊びにと人生を謳歌する彼だったが、あるとき謎の秘密組織に拉致されてしまう。実は彼の父親ハンドリー博士は世界的に有名な科学者で、米軍の依頼で新たな兵器を完成させたばかりだった。それは、コンピューター制御によるレーダー装置で兵士を無敵の殺人マシンに変えてしまうというシステム。それを各国に配備すれば戦争抑止効果が期待される。これに危機感を持った国際軍需産業が秘密結社を組織し、ジムを利用してこのシステムを葬り去ろうと画策していたのだ。
 最愛の女性アタンガを見せしめに殺され、協力を拒めば家族をひとり残らず抹殺すると脅されたジムは、仕方なく敵に手を貸すことに。南アフリカ経由で武器を輸送する大型貨物船のハイジャックを手引きすることになる。しかし、良心の呵責に耐えかねた彼は、信頼する元傭兵の軍事顧問ヴァン・ダイクとカールステンに真相を告白。彼らはあえて船の進路を変えずに敵をおびき寄せ、一網打尽にしようと考えるのだったが…。
 製作当時もヨーロッパの数カ国でしか劇場公開されず、アメリカやイギリス、日本などの主要国ではお蔵入りとなってしまった本作。なんとなくそれも分からないではない。まず、問題の最新兵器というヤツが荒唐無稽。兵士の脳にレーダーでコンピューター信号を送り込むことで個人の人格を支配し、それによってどんな敵をも恐れない無敵の殺人マシンになるというのだが、そもそも兵士の思考をコンピューター制御したところで最強の軍隊になるとは限らないだろう。どのみち生身の人間であることに変わりはないのだから、爆弾や銃弾を撃ち込まれれば死ぬに決まっている。しかも、このシステムに戦争抑止効果があるとは到底考えられない。あまりにも説得力不足だ。
 また、陰謀工作に絡んだ筋運びはまずまずの面白さとはいえ、主人公ジムと恋人アタンガのアバンチュールであったり、ハンドリー博士一家とヴァン・ダイクたちの交流であったりといった人間ドラマ部分で余計な時間稼ぎをしすぎ。もっとスッキリまとめることもできたのではないかと思う。また、何をやらせても最悪の選択や間抜けな判断しか出来ないお坊ちゃんジムにも終始イライラさせられる。ストーリー展開上、彼がバカであればあるほど都合いいのだろうが、そのようなキャラクターを用いなければ先へ進めないようでは片手落ちだ。
 ただ、イタリアや香港、南アフリカなど世界各地で撮影された風光明媚なロケーションの華やかさ、イタリア映画界のマエストロ、フランチェスコ・デ・マージによるゴージャスでスウィートな音楽スコアなど、'70年代スパイ映画ならではの魅力は存分に楽しめる。名監督と豪華キャストの携わった珍品バカ映画という点も含め、なんとなく嫌いになれない作品ではある。

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ハンドリー博士の顧問を務める元傭兵のヴァン・ダイク(S・ボイド)

博士の発明した最新兵器を米軍関係者に説明するカールステン(C・ミッチェル)

それは兵士をレーダー装置でコントロールして無敵の軍隊を作るというシステムだった

<Story>
 イタリアはローマのナイトクラブ。お坊ちゃん育ちの若き外交官ジム・ハンドリー(ブレンドン・ブーン)は、アタンガ(フランス・ニュイエン)と名乗る謎めいた美しいアジア人女性と知り合い恋に落ちた。後ろ髪を引かれつつ、次の出張先である香港へと向かうジム。思いがけないロマンスに浮き足立つ彼は、自分を秘かに尾行する男たちの存在など知る由もなかった。
 ジムの父親は高名な科学者ハンドリー博士(レイ・ミランド)。軍事顧問として雇った元傭兵ヴァン・ダイク(スティーブン・ボイド)やカールステン(キャメロン・ミッチェル)、そして次男マーク(マイケル・カーナー)の協力を得て、博士は究極の最新兵器を開発していた。それは、兵士をコンピューター制御によるレーダー装置でコントロールし、無敵の軍隊を作り出すという画期的なシステム。これが世界各地で実用化されれば戦争抑止の効果が期待できる。その威力をまざまざと見せつけられたストライカー将軍(ジョン・ステイシー)ら米軍幹部は、システムの実用化と同盟国への配備へ向けて動き出すことになった。
 その頃、香港まで彼を追ってきたアタンガと再会したジムは、ホテルで見知らぬ男に声をかけられる。警戒することなく男を自室へ招いたジム。このリー(ジョン・ヴァン・ドリーレン)と名乗る男は、ジムがNATOの最高機密書類を隠し持っているという
。全く身に覚えのない話だったが、実際にジムのアタッシュケースから書類が出てきた。彼はハメられたのだ。リーはとある秘密組織の幹部だった。脅迫されたジムは彼らに協力せざるを得なくなる。
 一方、米軍はハンドリー博士の最新兵器をオーストラリアへ輸送することにした。ヴァン・ダイクとカールステンは海産物の貿易船を隠れ蓑としてチャーターし、アメリカ東海岸から南アフリカのケープタウンを経てオーストラリアへ向かう計画を立てた。だが、その情報はすぐに外部へ漏れてしまう。航海経路を入手したのは多国籍の巨大軍需企業。例の秘密組織の正体は彼らだったのだ。
 組織に協力せざるを得なくなったとはいえ、優柔不断で決心の定まらないジム。リーたち幹部は彼の目の前でアタンガを射殺し、覚悟を決めなければ家族をも皆殺しにすると迫る。ジムに選択の余地はなかった。実家へ戻った彼は父親を説得してオーストラリアへの輸送を中断させようとするが、彼の首尾一貫しない言動はかえって両親を不安にさせるばかり。しかも、ハンドリー博士には軍へ意見するほどの発言権などなかった。
 そこで、ジムは一路ケープタウンへと向かい、弟マークやヴァン・ダイクらを乗せた貿易船と合流することにする。組織の差し向けた武装集団を手引きして船を占拠させようというのだ。しかし、仲間たちの姿を見ているうちにジムは良心の呵責を感じて、精神的にどんどんと追い詰められていく。そんな彼の変化を察したヴァン・ダイク。もはや耐えられなくなったジムは、信頼できる彼に事実を打ち明けた。
 早速、ストライカー将軍らと計画を練り直したヴァン・ダイクは、あえて航海経路を変えずに出航することにする。秘かに仲間の傭兵部隊へ出動を要請した彼は、罠にはまったフリをして武装集団を迎え撃とうと考えたのだ。ところが、ジムの甘い判断で事態は予想外の方向へ…。

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米軍のストライカー将軍(J・ステイシー)は実用化にゴーサインを出す

秘密組織の幹部リー(J・ヴァン・ドリーレン)に脅迫されるジム

組織は見せしめとしてジムの前でアタンガを処刑する

<Information>
 これが最後の劇場用映画となったロバート・デイ監督。恐らく、僅かに公開された地域でも興行的に奮わなかったのであろう。以降はハリウッドで「警部マクロード」や「ダラス」などのテレビシリーズを手がけたほか、数え切れないほどのテレビムービーを監督している。ハル・ホルブルック主演の「謎の完全犯罪」('78)やジョージ・C・スコット主演の「チャイナ・ローズ」('83)などはなかなかの秀作だった。
 脚本と製作に携わったスタンリー・ノーマンは、本作とスタッフ・キャストの大部分が被っているイタリア製スリラー“African Story”('71)のプロデューサーだが、それ以外の詳細はよく分かっていない。同じく脚本を手がけたラルフ・アンダースはその“African Story”の原作者だったが、こちらもまた同様に素性は分からず。撮影監督は「アッパー・セブン/神出鬼没」('66)などのマリオ・フィオレッティが携わっている。
 さらに、「アラベスク」('66)や「メカニック」('72)などで知られるフレデリック・ウィルソンが編集を、「ワーテルロー」('69)や「怒りのガンマン/銀山の大虐殺」('69)のジュリオ・モリナーリがアクション・シーンの特殊効果を、「レイダース/失われた聖櫃<アーク>」('82)や「レッド・ソニア」('85)のセルジョ・ミオーニがスタント・コーディネーターを担当。
 そして、マカロニウェスタンやポリス・アクションなどでお馴染みのフランチェスコ・デ・マージが音楽スコアを手がけており、チプリアーニも顔負けの甘いメロディが秀逸なテーマ曲からラロ・シフリンばりにファンキーでカッコいいアクションスコアまで、とにかく素晴らしいサウンドを全編に渡って堪能させてくれる。これは彼の代表作の一つといって差し支えないだろう。サントラ盤CDもリリースされているので、興味のある方は是非!

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良心の呵責に耐え切れなくなったジムはヴァン・ダイクに真実を打ち明ける

最新兵器を積んだ貿易船がケープタウンを出港する

秘密組織の送り込んだ武装グループによって船は襲撃されるのだが…

 主人公ジムを演じているブレンドン・ブーンは、日本でも人気を博した戦争ドラマ「特攻ギャリソン・ゴリラ」('67〜'68)で注目されたハリウッド俳優。その後も主にテレビで活躍した人だったらしく、本作が唯一の映画出演作だったようだ。線の細さが玉に瑕ではあるものの、ドジを踏んでばかりで頼りないお坊ちゃん役にはピッタリだったかもしれない。
 クレジット上で主演扱いとなっているのは、「ベン・ハー」('59)のメッサーラ役でスターダムに躍り出た名優スティーブン・ボイド。当時は既にハリウッドでも落ち目で、ぼちぼちイタリア映画へ出稼ぎに行き始めた時期だったが、それでもなお大物らしい存在感はさすがといったところだろうか。
 ヒロインのアタンガ役には「南太平洋」('58)や「ダイヤモンド・ヘッド」('63)などで知られるベトナム系フランス人女優フランス・ニュイエンが登場。彼女もまた当時は人気下り坂といった感じだったが、その美貌は文句なしに健在。これだけの類希な美貌と安定した実力でトップスターになれなかったというのは、まだまだハリウッドでアジア系にチャンスが少なかった時代のせいと言わざるを得ないだろう。
 さらに、低予算映画のタフガイ俳優と言えばこの人のキャメロン・ミッチェル、「失われた週末」('45)や「ダイヤルMを廻せ!」('54)のオスカー俳優レイ・ミランドという大ベテランが登場。また、「脱走特急」('65)や「トパーズ」('69)で知られるオランダ人俳優ジョン・ヴァン・ドリーレンが、秘密組織の幹部リー役で顔を出している。
 そのほか、イタリアを拠点に「唇からナイフ」('66)や「スキャンダル」('76)などに出演したイギリス人俳優ジョン・ステイシー、マカロニ・ウェスタンの中国人役でお馴染みの台湾人俳優ジョージ・ワン、スタントマンとしても有名なイタリアの二枚目マッチョ俳優ロマーノ・プッポなどが脇を固める。

 

新ドミノ・ターゲット/恐るべき相互殺人
The Internecine Project (1974)
日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD・BDいずれも日本未発売

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(P)2010 Scorpion Releasing (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.78:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード: ALL/89分/製作:イギリス・西ドイツ

<特典映像>
脚本家ジョナサン・リンのインタビュー
女優リー・グラントのインタビュー
リサ・コバーンの音声インタビュー
オリジナル劇場予告編
監督:ケン・ヒューズ
製作:アンドリュー・ドナリー
   バリー・レヴィンソン
原作:モート・W・エルキンド
脚本:バリー・レヴィンソン
   ジョナサン・リン
撮影:ジェフリー・アンスワース
音楽:ロイ・バッド
出演:ジェームズ・コバーン
   リー・グラント
   ハリー・アンドリュース
   イアン・ヘンドリー
   マイケル・ジェイストン
   クリスチャン・クリューガー
   キーナン・ウィン
   テレンス・アレクサンダー
   ジュリアン・グローヴァー

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ロンドン在住のアメリカ人経済学者エリオット教授(J・コバーン)

女性ジャーナリストのジーン(L・グラント)はかつての恋人だった

<Review>
 まったく日本のテレビ局は紛らわしい邦題を付けたもんだが、あのスタンリー・クレイマー監督の「ドミノ・ターゲット」('76)とはもちろん一切関係ない。なにしろ、こちらの方が2年も前の作品だし。まあ、当時は知名度の低い日本未公開作の視聴率を上げるため、各テレビ局が勝手に続編や関連作に仕立て上げてしまうことはよくあったのだが。それはさておき、こいつは「007/カジノロワイヤル」('67)や「チキ・チキ・バン・バン」('68)などで知られる英国の名匠ケン・ヒューズの手がけた、知る人ぞ知るエスピオナージ映画。それも、かなりの異色作である。
 主人公は著名な経済学者のエリオット教授。テレビのコメンテーターとしても顔が売れ、アメリカ政府の経済対策会議でも委員を務める人物だ。そんな彼に、今度は米大統領直属の経済対策顧問という重要なポストがオファーされる。民間人としては最高の栄誉とも言えよう。ところが、教授には世間に絶対知られてはならない秘密の顔があった。実は、CIAのスパイとしてイギリス国内で違法な諜報活動を行っていたのである。そのことを知るのは、4人の情報提供者たち。そこで教授は綿密に計画された巧妙な罠を仕掛け、口封じのため彼らに殺し合いをさせようとする…。
 まず、脚本の出来がいい。スパイものとはいえ余計な陰謀やら秘密工作やらの一切を排除し、自分の関与を誰にも悟られることなく、いかにして邪魔者を首尾よく抹殺するかというプロットにポイントを絞ったのは賢明だ。しかも、その過程で日常と隣り合わせなスパイ活動のリアルな内情、人命すらも使い捨てにされる国際政治の非情さなどをさりげなく浮き彫りにしていく。
 決して政治色を全面に押し出すわけでもなく、それでいて現代社会の闇を生々しく描いてみせる語り口が見事だ。そうやすやすとは計画通りに事が運ばないスリルと緊張感、なんとも皮肉なクライマックスのどんでん返しにもニンマリ。一貫してダークなリアリズムに徹したケン・ヒューズ監督の演出も堂々としている。全体的に地味な作品なので“やっぱり映画はスケールや!”とか“ドンパチのないスパイ映画なんてクソ食らえじゃ!”という映画ファンには向かないかもしれないが、大人向けの良質なスリラーを好む方にはオススメだ。

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財界の黒幕ファーンズワース(K・ウィン)が教授に出世話を持ちかける

しかし、エリオット教授には世間に知られてはまずい秘密があった…

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英国政府の機密情報を提供する外務省の役人アレックス(I・ヘンドリー)

教授のため秘密工作道具を開発する科学者デヴィッド(M・ジェイストン)

<Story>
 イギリス在住のアメリカ人経済学者ロバート・エリオット教授(ジェームズ・コバーン)は、テレビ番組の対談でかつての恋人ジーン・ロバートソン(リー・グラント)と再会する。米政府の経済対策会議委員を務めるまでになったエリオットに対し、権力の不正を追及する硬派な女性ジャーナリストのジーン。かつて愛し合った二人は今や全く対極な立場にあった。ジーンは権力へ近づきつつある彼の人柄が変わってしまったことを感じる。
 そんな折、米国財界の大物E・J・ファーンズワース(キーナン・ウィン)がロンドンへやって来る。目的のためなら手段を選ばない野心家のファーンズワースは、国際経済を裏で操る黒幕として悪評高い人物だった。そんな男がなぜ急にロンドンへ来るのか。情報を得たジーンは訝しく思う。ファーンズワースの目的はエリオット教授だった。自分の意のままに動かせる人間として、彼はエリオットを大統領直属の経済対策顧問に推薦したのだ。
 しかし、エリオット教授には大きな問題があった。というのも、彼にはCIAスパイという裏の顔があったのである。イギリスの政府や財界の機密情報を得るため、これまで様々な違法行為に手を染めてきた。大統領のアドバイザーに就任するに当たって、その過去は完全に葬り去らねばならない。ファーンズワースから強く念を押された教授は、自分の秘密を知る4人の人物を抹殺することにする。
 まずは英国外務省の役人アレックス・ヘルマン(イアン・ヘンドリー)。エリオットは彼から英国政府の外交に関する機密情報を得ていた。過去に関わった秘密工作の情報が漏れて恐喝されている、君がうかつにも口を滑らせたのではないかと因縁をつけたエリオットは、恐喝者である男アルバートを殺すようアレックスに迫る。
 そのアルバート(ハリー・アンドリュース)というのは、政界や財界の要人が愛用する高級サウナのマッサージ師。そこで見聞きした情報を秘かにエリオットへ流していた。退役軍人で愛国心が強く、大の女性嫌いというアルバート。エリオットはそんな彼の性格を利用し、二重スパイの女性クリスティーナ・ラーソンを始末して欲しいと相談する。案の定、アルバートは自ら進んで引き受けた。
 クリスティーナ(クリスチャン・クリューガー)の職業は高級娼婦。部屋に仕掛けたカメラや録音機で政界・財界の重要人物たちとの会話を録音し、それを逐一エリオットに渡していたのである。妙な形をした小型の機械を取り出したエリオット教授は、それがラジオ通信機であると説明し、とある人物の部屋に仕掛けてきてほしいと頼む。だが、彼の説明はもちろんウソ。その機械とは、超音波によって物体を破壊する最新鋭の科学兵器だったのだ。
 そのある人物というのが、科学者のデヴィッド・ベイカー(マイケル・ジェイストン)。エリオット教授の秘密工作のために様々な機械を開発してきた人物だ。もちろん、超音波兵器を開発したのも彼。良心の呵責に耐えられなくなった情報屋が自分を告発しようとしている、このままでは仲間である君も破滅だ。そううそぶくエリオット教授は、その男の自宅へ忍び込んで彼の持病薬に細工をして欲しいと頼む。その男とはアレックスのことだ。
 かくして、相互殺人の計画が動き出す。流れはこうだ。こっそりと忍び込んだデヴィッドがアレックスの持病薬を致死量に増やし、その間にクリスティーナがデヴィッドの部屋に超音波兵器を仕掛ける。デヴィッドが帰宅するタイミングで機械のタイマーが作動し、破壊的な超音波によって彼は死亡。一方、何も知らずに帰宅したクリスティーナをアルバートが殺害し、職場へ戻ったアルバートを待ち伏せしたアレックスが殺す。そして、自宅へ戻ったアレックスが持病薬を服用して絶命するというわけだ。時間通りにキッチリと行動すること、公衆電話を使って随時報告すること、その際に鳴らすベルの数まで事細かく指示を出したエリオット教授。だが、全てが計画通りに進むはずもなく…。

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政府や財界の要人の秘密を収集する高級娼婦クリスティーナ(C・クリューガー)

高級サウナで見聞きした情報を流す元軍人アルバート(H・アンドリュース)

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何も知らないジーンは再会した教授に再び惹かれていくのだが…

教授は自分の秘密を知る4人がお互いに殺し合うよう仕向ける

<Information>
 日本では恐らく「チキ・チキ・バン・バン」の監督という程度の知名度しかないケン・ヒューズだが、地元イギリスでは'50年代から数多くのフィルムノワールやスパイ・スリラーを手がけてきた職人。ハマー・プロで撮った日本未公開のノワール・サスペンス“The House Across The Lake”('54)や女の執念と怖さを描いた“Wicked As They Come“('56)など、小粒ながらもピリッとした印象の佳作を幾つも残している。本作もそんな彼の良さが生かされた作品と言えよう。
 製作を手がけたバリー・レヴィンソンという人物は、あの「レインマン」('88)や「バグジー」('91)などでお馴染みの映画監督とは同姓同名の別人。アメリカの出身ではあったものの、主にイギリスやヨーロッパで映画の製作を行っていたようだ。ジョナサン・リンによると相当なやり手の商売人だったらしく、世間一般でクレジットカードの存在が認知されてくるやいなや、まだ商標登録されていないVISAの名前を冠した制作会社を勝手に立ち上げ、しまいには本家VISAをスポンサーに取り込んでしまったという。
 また、ジョナサンがハリウッド映画「殺人ゲームへの招待」('85)で有名になると、ヒッチコックの名作「断崖」のリメイクを依頼。しかし、ヒッチコックを崇拝するジョナサンはオリジナルに敬意を払って、その申し出を断った。すると、レヴィンソンはおもむろにジョナサンとその妻をディナーへ招待。その席でリメイクに関するアイディアの相談を持ちかけ、それくらいならと気を許したジョナサンは幾つか提案をしたのだそうだ。すると、完成した「サスピション/断崖の恐怖」('87)にはしっかりとジョナサンの名前が(笑)。勝手にクレジットされたジョナサンは、怒るというよりも“彼らしい”と苦笑いしてしまったそうだ。もちろん、ギャラは一銭も受け取っていないという。
 で、そのジョナサン・リンがレヴィンソンと共同で本作の脚本を担当。当時の彼はテレビのコメディドラマの脚本家として大変な売れっ子だった。クレジットでは元CIA職員のモート・W・エルキンドなる人物の書いた小説が原作ということになっているが、実はこれ、正味10ページ程度の草案みたいなもので、ちゃんとした小説として出版されたものではなかったのだという。そのエルキンドという人物も確かに存在はしたらしいが、脚本執筆の過程でも本編撮影の過程でも一切関わっていなかったらしい。なので、実際に原案を書いたのはレヴィンソンなのではないか、私生活がヴェールに包まれたレヴィンソンこそが元CIA職員なのではないかと、ジョナサンは推測しているのだという。
 なお、その原案もジョナサンが書いた初稿も、エリオット教授がソビエトの二重スパイという設定だったのだそうだ。脚本が完成してから撮影に入るまで2〜3年空いており、恐らくその間にレヴィンソンないしヒューズ監督が脚本をリライトしたものと思われる。
 撮影監督を手がけたのは、「2001年宇宙の旅」('68)や「スーパーマン」('78)などで有名なカメラマン、ジェフリー・アンスワース。「キャバレー」('72)と「テス」('80)で2度のオスカーに輝く大御所だ。また、「狙撃者」('71)や「シンジケート」('73)など'70年代アクション映画には欠かせない作曲家ロイ・バッドが音楽を担当。同時期のモリコーネを彷彿とさせる、スリリングかつ味わい深い実験的ジャズスコアを聴かせてくれる。
 そのほか、007シリーズを手がけたジョン・シャーリーが編集を、「戦争と冒険」('72)でオスカー候補になったジェフリー・ドレイクが美術デザインを担当。低予算ながら一流のスタッフが揃えられている。

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超音波で悶絶死するデヴィッド

アルバートがシャワールームでクリスティーナを絞殺する

 主人公エリオット教授を演じているのは、今さら説明する必要もないであろうハリウッドの大スター、ジェームズ・コバーン。決して二枚目とは言えない独特の風貌と、ニヒルでダンディなイメージは、女性よりも圧倒的に男性からの人気が高かった。ここではダーティな裏の顔を持つ寡黙なインテリ紳士をスタイリッシュに演じ、いつになくセクシーな魅力を漂わせている。
 そんな彼に惹かれつつも危険な臭いを嗅ぎとっていく女性ジャーナリスト、ジーン役に「シャンプー」('75)のオスカー女優リー・グラント。この顔合わせだけでもかなり渋いのだが、さらに「丘」('65)や「殺しのダンディー」('68)などの厳つい軍人役で親しまれたハリー・アンドリュース、「狙撃者」('71)のイアン・ヘンドリー、「ニコライとアレクサンドラ」('71)のロシア皇帝ニコライ役で有名なマイケル・ジェイストン、「アニーよ銃をとれ」('50)や「博士の異常な愛情」('64)など'50〜'70年代のハリウッド映画に欠かせない顔だったキーナン・ウィン、「007/ユア・アイズ・オンリー」('82)や「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89)の悪役で有名なジュリアン・グローヴァーといった玄人好みの名優が勢揃い。
 また、高級娼婦クリスティーナ役にはドイツの名優ハーディ・クリューガーの愛娘であるクリスチャン・クリューガーが扮しており、お色気担当として艶かしいヌードシーンも披露している。なお、主演のジェームズ・コバーンはポール・マッカートニー&ウィングスのサード・アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」のジャケット写真に参加しているが、そのフォト・セッションは本作の撮影の合間に行われたのだそうだ。

 

パワープレイ
Power Play (1978)
日本では1979年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済/BDは未発売

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(P)2010 Scorpion Releasing (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:1.85:1/音声:モノラル/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/102分/製作:イギリス・カナダ

<特典映像>
マーティン・バーク監督インタビュー
俳優ジョージ・トリアトス インタビュー
オリジナル劇場予告編
マーティン・バーク監督音声解説
監督:マーティン・バーク
製作:クリストファー・ダルトン
   デヴィッド・ヘミングス
脚本:マーティン・バーク
原作:エドワード・ルトワック
撮影:オウサマ・ラーウィ
音楽:ケン・ソーン
出演:ピーター・オトゥール
   デヴィッド・ヘミングス
   ドナルド・プレザンス
   バリー・モース
   ジョン・グラニック
   マーセラ・セイント・アマント
   ジョージ・トリアトス
   アルバータ・ワトソン
特別出演:ディック・キャヴェット

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ディック・キャヴェットのトーク番組に出演するカサイ大佐(ジョン・グラニック)

独裁政権下の母国で起きた軍事クーデターについて語り始める

<Review>
 一般的な知名度はともかく、映画マニアの間では非常に評価の高い作品である。日本でも熱烈なファンが多い。いわゆる軍事クーデターを題材にしたポリティカル・スリラー。「サンチャゴに雨が降る」('75)や「皇帝のいない八月」('78)などクーデター映画というのは意外に少なくないが、その計画から実行までの過程をこれほど克明に描いた作品は他にないだろう。しかも、政治的な駆け引きや諜報活動などのサスペンスフルな要素も織り交ぜ、さらには本物の軍隊を動員した戦闘アクションも用意されている。基本的にはコスタ=ガヴラスやフランチェスコ・ロージなどの政治告発映画の系譜に属する作品だとは思うが、同時にエンターテインメントとしてもしっかり成立させている点が見事だ。
 舞台は軍部の独裁政権下に置かれたヨーロッパ某国。革命軍によって政府要人が殺されたことから、大統領はテロリストの一掃を命じる。だが、それは秘密警察による事実上の粛清だった。政治活動とは無関係の一般市民まで巻き添えとなる事態を目の当たりにし、政府の強権政治に疑問を抱く一部の心ある愛国軍人たちが集結。現政権を倒すためのクーデターを計画する。
 原作は軍事戦略の専門家としても有名なアメリカの歴史学者エドワード・ルトワックが執筆した「クーデター入門 その攻防の技術」。タイトルから察せられるようにクーデターの戦略や計画、実行までを詳細に分析解説した研究書であり、厳密には原作というよりもネタ元と言うべきだろうか。つまり、原作本に記されたクーデターの実用ノウハウを参考にしつつ、オリジナルストーリーを構成していったというわけだ。
 ドキュメンタリー・タッチで描かれていることもあり、物語の展開は全体的にスローテンポ。しかし、不穏な動きを察知した秘密警察との諜報戦や心理戦、グループ内部の複雑な人間模様などは生々しい緊張感で描かれている。ハリウッド的な荒唐無稽の一切を排除しながらも、リアリズムに基づいた説得力のあるサスペンスで観客を惹きつけるのだ。
 さらに、クーデターというのは権力がまた別の権力に取って代わられるだけ…という皮肉なクライマックスにもズッシリとした重みがある。崇高な理想のもとに始まった軍事革命が、結局は旧の木阿弥となってしまうやるせなさ。権力に対する人間の底深い野心と欲望というものをまざまざと見せつけられる。

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反政府テログループによって大臣が誘拐・殺害されてしまう

カサイ大佐の友人ナリマン大佐(D・ヘミングス)は良心的な軍人だった

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秘密警察のブレア長官(D・プレザンス)はテロ根絶のため大規模な粛清を行う

ナリマン大佐の友人の娘ドナ(A・ワトソン)も犠牲になってしまった

<Story>
 軍事独裁政権の敷かれたヨーロッパ某国からアメリカへ亡命したレイモンド・カサイ大佐(ジョン・グラニック)が、人気テレビ司会者ディック・キャヴェット(本人特別出演)のトークショーに出演。母国で自らが関わった軍事クーデターの顛末を、カメラの前で語り始める。
 政府の弾圧に抵抗するテロ事件が相次ぐ中、大臣が拉致された上に殺害されるという事件が発生。大統領は国内の反政府グループの一掃を命じる。しかし、冷酷な長官ブレア(ドナルド・プレザンス)の率いる秘密警察はテロの根絶を理由に無関係な市民までをも次々と逮捕。多くの人々が拷問の末に処刑されていった。
 以前から国民を苦しませる独裁政治に疑問を抱いていたカサイ大佐とルソー教授(バリー・モース)は、真面目で人望の厚いナリマン大佐(デヴィッド・ヘミングス)に政権打倒のクーデター計画を持ちかける。だが2週間後に引退を控え、幼い娘を男手一つで育てるナリマン大佐は、成功する見込みの薄い賭けに乗ることをためらわれた。
 そんな折、ナリマン大佐の友人の娘ドナ(アルバータ・ワトソン)が反政府活動の容疑で逮捕されてしまう。子供の頃から彼女を知る大佐はなんとか救い出そうと奔走するが、疑わしきは罰せよの方針を貫く秘密警察によって無残にも処刑されてしまった。強い憤りを抑えきれないナリマン大佐は、ルソー教授らのクーデター計画に加わることを決意する。
 ナリマン大佐をリーダーとして、国の行く末を憂う志の高い軍人たちがメンバーとして秘密裏に集められた。その中には、戦車大隊を率いるゼラー大佐(ピーター・オトゥール)の姿も。傲慢な側面のある彼の参加を疑問視する声もあったが、陸軍内で強い影響力を持つ彼を味方につけることは、旧知の仲でもあるナリマン大佐にとって必要不可欠だったのだ。
 その頃、秘密警察のブレアは軍内部に不穏な動きがあることを察知していた。独自の諜報活動によってルソー教授の周辺が怪しいと睨んだ彼は、教授の妻(マーセラ・セイント・アマント)をマークするよう部下に命じる。たとえ社会的地位の高い相手でも、家族が最大の弱点になることをブレアは熟知していたのだ。
 一方、極度のプレッシャーに耐えながらクーデター計画を進めるメンバーたちにも、徐々にほころびが出始める。様々な不安要素に危機感を募らせるナリマン大佐。さらに、ルソー教授の妻がゼラー大佐と愛人関係にあることを掴んだ秘密警察が、盗撮写真をネタに教授にゆすりをかけてきた。これ以上は待てないと判断したナリマン大佐は、ついにクーデターを実行へ移すのだったが…。

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ナリマン大佐はルソー教授(B・モース)のクーデター計画に参加を決意する

陸軍内の心ある軍人たちが同志として集まる

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戦車大隊を率いるゼラー大佐(P・オトゥール)も味方に加わった

激しいプレッシャーの中で仲間内にもほころびが出始める

<Information>
 監督は当時まだ26歳の若手だったマーティン・バーク。これが劇場用長編映画2作目だったわけだが、デビュー作の“The Clown Murders”は見るも無残なC級スラッシャー映画で、よくぞその後にこんな大作を任されたものだと不思議に思う。とはいえ、本作での仕事ぶりは立派。その後は主にテレビ映画の脚本家として活動しており、スタローン主演の「ザ・ボディガード」('02)なんていうポンコツ映画も演出しているが、一方で若き日のスティーヴ・ジョブスとビル・ゲイツを描いたテレビ映画「バトル・オブ・シリコンバレー」('99)なんて佳作も残していたりする。どうやら、題材によって出来不出来のムラが激しい人のようだ。
 製作を手がけたクリストファー・ダルトンはカナダのテレビCMプロデューサー。バーク監督の処女作「The Clown Murders」の製作も担当していた。さらに、出演を兼ねたデヴィッド・ヘミングスもプロデュースに参加。実は、フランスの大スター、アラン・ドロンもノー・クレジットで製作に携わっていたらしい。
 エドワード・ルトワックの原作本をヒントに脚本を書き上げたのはバーク監督自身。ビリー・ワイルダー監督作品の常連である喜劇俳優クリフ・オズモンドも脚本執筆に関わったとされている。そして、撮影監督は「スカイ・ライダース」('76)や「ズールー戦争」('79)などのアクション映画で知られるオウサマ・ラーウィ、編集は「HELP! 四人はアイドル」('65)や「スーパーマンU/冒険篇」('81)などリチャード・レスター監督作品に欠かせないジョン・ヴィクター=スミス、音楽は同じくリチャード・レスター監督作品の常連で「ローマで起った奇妙な出来事」('66)でオスカーを獲得したケン・ソーンが手がけた。
 なお、撮影はドイツとカナダで行われ、トロント近郊のカナダ軍基地でもロケされている。また、本作のオリジナルネガは消失してしまったらしく、上記のアメリカ盤DVDも日本盤DVDも上映用の35ミリプリントからデジタルリマスターをしている。そのため画質に少なからず不満が残るのは残念だ。

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ブレアは軍隊内部の不穏な動きを察知していた

ルソー教授の若妻(M・S・アマント)が秘密警察にマークされる

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出陣を前に部下たちへハッパをかけるゼラー大佐

いよいよクーデターが実行へ移されるのだが…

 クレジット上の主演は先ごろ亡くなった大スター、ピーター・オトゥールだが、実質的な主演はナリマン大佐役に扮しているデヴィッド・ヘミングスと言えよう。アントニオーニの「欲望」('66)やダリオ・アルジェントの「サスペリアPART2」('75)など、ちょっと優柔不断で悩み多きヒーローを演じることの多い彼だが、本作でも清廉潔白な真面目さと優しさが仇となってしまう人物にバッチリとハマっている。
 そんなナリマン大佐とは対照的で自信に満ち溢れたゼラー大佐を演じているのがオトゥール。当時はキャリア的に若干くすぶり気味だったものの、やはり大御所スターとしての存在感やオーラは別格。戦車から身を乗り出して颯爽と登場するシーンは画になるしカッコいい。クライマックスでは完全に共演者を圧倒する。
 脇役陣で光るのは秘密警察のブレア長官を演じている怪優ドナルド・プレザンスだろう。スクリーンに姿を見せるだけで得体の知れない怖さを醸し出すのはさすが。テレビドラマ「逃亡者」('63〜67)のジェラード警部役で有名なバリー・モースも、インテリ理想主義者ゆえの脆さを併せ持つルソー教授を好演している。
 そのほか、「ブルー・エクスタシー/官能の夜」('78)などに出ていたカナダ人俳優ジョン・グラニック、「リベンジャー」('79)や「レッド・スコルピオン2」('94)などで軍人や警官を演じることの多いジョージ・トリアトス、マイケル・ダグラスの親友を演じた「ランニング」('79)で知られるチャック・シャマタなどが出演。さらに、その後「ザ・ソルジャー」('82)や「ザ・キープ」('83)のヒロインで有名になるアルバータ・ワトソンがドナ役を演じている。
 なお、秘密警察の拷問官として前半と後半に1回づつ顔を出しているのは、「スキャナーズ」('81)の怪演で“カナダのジャック・ニコルソン”と呼ばれるようになるマイケル・アイアンサイドだ。

 

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