70年代カルト映画セレクション
PART 2

 

呪われたジェシカ
Let's Scare Jessica To Death (1971)
日本では1972年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売


LETS_SCARE_JESSICA-DVD.JPG
(P)2006 Paramount Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/88分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:ジョン・ハンコック
製作:チャールズ・B・モス・ジュニア
脚本:ノーマン・ジョナス
   ラルフ・ローズ
撮影:ロバート・M・ボールドウィン
音楽:オーヴィル・ストーバー
出演:ゾーラ・ランパート
   バートン・ヘイマン
   ケヴィン・オコナー
   マリクレア・コステロ
   グレッチェン・コーベット
   アラン・マンソン

LETS_SCARE_JESSICA-1.JPG LETS_SCARE_JESSICA-2.JPG

精神病院を出たばかりの女性ジェシカ(Z・ランパート)

コネチカット州の田舎へと向かう

 劇場公開当時は全く話題にならなかったものの、その後テレビ放送を重ねるうちに口コミで評判が広がっていく・・・というのは、カルト映画の王道とも言える法則だが、本作もまさにそんな運命を辿った一本。特に、ここ日本では未だにビデオ化もDVD化もされておらず、ホラー映画ファンの間では長いこと幻の名作として語り継がれている作品だ。
 主人公は精神病院から出てきたばかりの女性ジェシカ。夫とその親友と共に静かな田舎へ移り住んだ彼女は、傍目からはすっかり回復したように見える。しかし、その一方で本人は自分の精神状態に未だ不安を抱えていた。
 そんな彼女の前に現れる謎の少女、そしてどこからか語りかけてくる幻聴。そこへ、放浪の旅を続けている女性エミリーが共同生活に加わる。やがてジェシカの周囲で次々と起きる不可解な出来事。移り住んだ村には忌まわしい吸血鬼伝説が残っていた。果たして、彼女が目の当たりにしているのは邪悪な力のなせる技なのか?それとも、精神を病んだ彼女の単なる妄想なのか・・・?
 日常の些細な出来事の中に潜んでいる不自然な現象を丹念に積み重ねることで、徐々に恐怖を盛り上げていく。脚本も演出も一見すると非常に地味だが、実はとても手が込んでいる。全編を通して主人公ジェシカの視点で語られており、それが本物の怪現象なのか、それとも彼女の思い込みや幻覚なのか、最後まで観客の想像に委ねるという語り口が実に巧妙で上手い。自分の精神状態に対するヒロインの不安がきっちりと描きこまれているだけに、大変説得力があるのだ。
 さらに、舞台となる田舎ののどかで豊かな田園風景、相反するように混沌としたヒロインの心の闇を、まさに表裏一体のものとして捉えたカメラワークの美しさも特筆に価する。丘の上にたたずむ謎めいた少女、湖の中から浮かび上がる女吸血鬼などのファンタジックなシーンも効果的で、安易なショック演出に一切頼らないという製作側の姿勢も高く評価したいところだ。
 演出を手掛けたのは、これが初の劇場用長編映画だったというジョン・ハンコック。後に、無名だったロバート・デ・ニーロを主演に起用した野球映画『バング・ザ・ドラム・スローリー』(73)で高く評価され、日本でも話題になった青春映画の傑作『カリフォルニア・ドリーミング』(79)をヒットさせた監督である。当時は、前年に発表した処女作の短編映画がアカデミー賞にノミネートされたばかりだった。
 演出力が単刀直入に試されるホラー映画は新人監督の登竜門とされるが、本作の場合もそうした意味合いが強いように感じられる。一歩間違えるとオーソドックスなバンパイア映画となるべきところを、演出の妙によってサイコロジカルな心理サスペンスとして仕上げたところに、ハンコック監督のアーティスティックな野心と意気込みが垣間見えるはずだ。それだけに、カンニバリズムという題材を心理サスペンス・ドラマへと昇華させた異色作『カンニバル・シスターズ』(01)まで、この種の作品を一切手掛けることがなかったというのも納得できるところだろう。

LETS_SCARE_JESSICA-3.JPG LETS_SCARE_JESSICA-4.JPG

ジェシカと夫ダンカンは人里離れた農家に移住する

幻聴に悩まされるジェシカ

LETS_SCARE_JESSICA-5.JPG LETS_SCARE_JESSICA-6.JPG

エミリー(M・コステロ)という女性が同居することに

骨董屋の店主から農家にまつわる忌まわしい伝説を聞く

 田舎道を車で旅する3人の男女。ジェシカ(ゾーラ・ランパート)は精神病院を出てきたばかりだった。彼女の健康状態を心配した夫ダンカン(バートン・ヘイマン)は、ニューヨークの喧騒を離れて田舎暮らしをするため、コネチカット州のブルックフィールド島にある古い農場を購入。夫婦とは長い付き合いである親友ウッディ(ケヴィン・オコナー)を連れて、新居へと向かう途中だった。
 6ヶ月間という入院生活を経て、久々に大自然の豊かさと新鮮な空気を満喫するジェシカ。その穏やかな笑顔からは、彼女が精神病だったことなど微塵も感じられない。だが、本人は未だに自分の精神状態に不安を抱えていた。そんな彼女の前に現れる青白い顔をした少女、耳元に囁きかける謎の声。病気が再発する兆候なのか?内心大きくうろたえるジェシカだったが、つとめて平静を装っていた。
 やがて、一行は農場へと到着。暗闇の奥に動く影を見て驚くジェシカ。だが、それは幻覚でもなんでもなかった。影の主はエミリー(マリクレア・コステロ)という若い女性。家出をして放浪中の彼女は、この農場が空き家だと思って勝手に寝泊りしていたのだ。ジェシカの強い勧めもあって、エミリーは暫らくのあいだ彼らと同居することとなった。
 こうして、無邪気で楽しい共同生活が始まる。だが、相変わらずジェシカは正体不明の少女(グレッチェン・コーベット)の存在や幻聴に悩まされていた。さらに、エミリーの存在も徐々に暗い影を投げかけていく。独身のウッディが彼女に惹かれているのは明らかだったが、夫のダンカンまでもが彼女に興味を持っているように思えてきたのだ。
 そんなある日、彼らは家の中にある骨董品を売りに出すことにした。生活費が底を尽きてしまい、即金が必要になったのだ。なにか金目のものがないかと屋根裏を探していたジェシカは、銀製の額縁に飾られた家族写真を発見する。どうやら、100年ほど前にこの家に住んでいたというビショップ一家のものらしい。
 めぼしい物を集めたジェシカとダンカンは、二人で村へと向かう。ジェシカは村人のよそよそしい態度が気になった。しかも、村人の誰もが奇妙な包帯をしている。そんな彼女の不安をさらにかき立てたのは、まだこの村に引っ越してきたばかりだという骨董品店の店主(アラン・マンソン)の語った言い伝えだ。
 かつてあの家に住んでいたビショップ一家にはアビゲイルという一人娘がいたが、結婚式の日に湖で溺死してしまった。まだ20歳になったばかりだった。言い伝えによると、この世に未練を残したアビゲイルは吸血鬼となって甦ったのだという。何かを感じたジェシカは、例の銀製の額縁を手元に残すことにした。
 現金を手に入れて帰宅したジェシカとダンカンは、近くの墓地を散策していた。偶然捕まえたモグラをペットとして飼いたいというジェシカ。ダンカンはモグラを飼うのに適した容器を探すために家へ戻った。すると、あの少女が再びジェシカの目の前に現れ、今度は彼女を誘うように手招きする。少女の後を追ったジェシカは、森の中で骨董品店の店主の死体を発見した。
 しかし、ダンカンを連れて森へ戻ると、店主の死体は跡形もなく消えている。やはり幻覚だったのか?肩を落として帰路についた彼女の目に、またもや例の少女の姿が映った。それは幻覚などではなかった。必死で逃げる少女に追いついたジェシカとダンカン、ウッディの3人。だが、少女は口がきけなかった。しかも、そこへ現われたエミリーの姿を見た彼女は恐怖にも似た表情を浮かべ、逃げるようにして走り去ってしまう。
 その晩、妻の病気が再発したのではないかと考えたダンカンは、町へ戻ろうとジェシカに切り出す。そんな夫に強い不満を示すジェシカ。気まずい雰囲気となってしまった二人は、別々に寝ることにする。一人でソファへ横になったダンカンのもとへ、エミリーが歩み寄る。
 翌朝、モグラが血まみれで死んでいた。夜中に紛れ込んだ野生動物にでも殺されたのだろうというダンカンだったが、ジェシカの激しい動揺は収まらない。そんな妻の様子を心配したダンカンは、医者を呼ぶために村へと向かった。その間、屋根裏でビショップ一家の写真を見ていたジェシカは、アビゲイルとエミリーが瓜二つであることに気付く。そんな彼女の疑問を一笑に付したエミリーは、ジェシカを水遊びに誘った。
 湖でジェシカにじゃれつくエミリー。他愛のない遊びのようだったが、エミリーに不信感を募らせたジェシカは過剰に反応する。エミリーを突き放して、足早に湖を去ろうとするジェシカ。ふと振り返ると、アビゲイルに姿を変えたエミリーが水の中から浮かび上がってくる。やはり、エミリーの正体は吸血鬼となったアビゲイルだったのか?それとも、今見ているのは精神に異常をきたしたジェシカの幻覚なのか・・・?

LETS_SCARE_JESSICA-7.JPG LETS_SCARE_JESSICA-8.JPG

ジェシカの前に姿を見せる謎の少女

少女の後を追ったジェシカが見たものとは

LETS_SCARE_JESSICA-9.JPG LETS_SCARE_JESSICA-10.JPG

ビショップ一家の写真を見ていたジェシカ

死んだアビゲイルはエミリーと瓜二つに見えた

 物語そのものがジェシカの回想というスタイルで語られるため、観客はいかようにでも解釈出来るというのが大きなミソ。細かいディテールにまで及ぶ現実と非現実の微妙なバランスには唸らされる。実に上手い。
 脚本を手掛けたのはノーマン・ジョナスとラルフ・ローズというコンビだが、実は二人とも偽名だ。ノーマン・ジョナスの正体は、70年代の人気ファミリー・ドラマ“All in the Family”でエミー賞を獲得した脚本家リー・カルチェイム。一方のノーマン・ローズとは、ジョン・ハンコック監督自身のことだ。
 二人はシェリダン・レ・ファニュの有名なバンパイア小説『吸血鬼カーミラ』を下敷きにして、本作の脚本を書いたと言われる。また、ヒロインのパラノイアを一人称で捉えるというスタイルには、ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』からの影響も感じられることだろう。
 撮影を手掛けたロバート・M・ボールドウィンは、『エクスタミネーター』(80)や『マクベイン』(91)などジェームズ・グリッケンハウス監督とのコンビで知られるカメラマン。グリッケンハウスが製作総指揮を手掛けたフランク・ヘネンロッター監督の『フランケンフッカー』(90)や『バスケット・ケース2』(90)にも参加していた人物だ。
 また、ハンコック監督の友人でもある音楽家オーヴィル・ストーバーがスコアを担当。ヒロインの精神状態を的確に表現したアンビエントで実験的なサウンドが強烈な印象を残す。
 ちなみに、本作の舞台となる古い農場だが、外観と内部は別々の建物で撮影されている。外観ショットに使用された農場は、今もコネチカット州のオールド・セイブルックという町に現存しているそうだ。

LETS_SCARE_JESSICA-11.JPG LETS_SCARE_JESSICA-12.JPG

じゃれつくエミリーに恐怖心を抱くジェシカ

やはりエミリーの正体は吸血鬼となったアビゲイルなのか・・・?

 そして、本作が数多のホラー映画と一線を画する出来栄えとなった要因の一つに、ヒロインのジェシカ役を演じている女優ゾーラ・ランパートの存在を挙げることが出来るだろう。なによりもまず、彼女は声がいい。深みのある落ち着いた低音で、なおかつ言葉の発音が大変に美しい。その台詞回しにも、独特の味わいがある。
 それだけに、ジェシカのモノローグに始まるオープニングから、一気に物語の世界へと引き込まれてしまうのだ。その後の、随所に挿入される彼女の心の声にも説得力がある。俳優にとって言葉や声がいかに重要であるかということを、改めて思い知らされるはずだ。
 そのゾーラ・ランパートは、ブロードウェイの舞台で脚光を浴びた女優。トニー賞にノミネートされたことをきっかけに映画でも活躍し、ウォーレン・ビーティ扮する主人公の妻となるイタリア移民の娘アンジェリーナを演じた『草原の輝き』(61)で注目を集めたが、なぜかスター街道に乗ることが出来なかった。他にも、ベン・ギャザラの妻役を演じたジョン・カサヴェテスの『オープニング・ナイト』(77)や、ジョージ・C・スコットの妻を演じた『エクソシスト3』(90)などが印象に残る。
 一方、謎めいた女性エミリー役を演じるマリクレア・コステロも独特の存在感を持った女優だ。決して美人というわけではないものの、どこかエキセントリックで危なげな自由奔放さが、このエミリーという女性の掴みどころのない雰囲気をよく表現している。当時はまだ無名だったマリクレアだが、この翌年に出演したテレビのファミリー・ドラマ『わが家は11人』(72〜81)の隣人ローズマリー役でお茶の間に親しまれることとなる。
 そのほか、『エクソシスト』(73)のドクター役や『デッド・マン・ウォーキング』(95)の刑事役が印象的だった俳優バートン・ヘイマンが夫ダンカン役を、ハンフリー・ボガートの伝記TV映画“Bogie”(80)でボギー役を演じたケヴィン・オコナーがウッディ役を演じている。
 また、70年代の人気テレビ・ドラマ『ロックフォードの事件ファイル』(74〜78)の美人女性弁護士ベス役で有名なグレッチェン・コーベットが、謎の美少女役として登場するのも見逃せない。

 

 

女子大生悪魔の体験入学
Satan's School For Girls (1973)

日本では劇場未公開・TV放送のみ
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済

SATANS_SCHOOL-DVD.JPG
(P)2009 Cheezy Flicks (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/78分/製作:アメリカ

映像特典
予告編集
ドライブ・インCM集
監督:デヴィッド・ローウェル・リッチ
製作:レナード・ゴールドバーグ
   アーロン・スペリング
脚本:アーサー・A・ロス
撮影:ティム・サウスコット
音楽:ローレンス・ローゼンタール
出演:パメラ・フランクリン
   ロイ・シネス
   ケイト・ジャクソン
   ジョー・ヴァン・フリート
   ロイド・ボックナー
   ジェイミー・スミス=ジャクソン
   シェリル・ラッド
   フランクリン・マース
   テリー・ラムレイ
   グウィン・ギフォード

SATANS_SCHOOL-1.JPG SATANS_SCHOOL-2.JPG SATANS_SCHOOL-3.JPG

何者かに追いつめられた女性マーサ(T・ラムレイ)

マーサの死体を発見した妹エリザベス(P・フランクリン)

ルーシー(G・ギフォード)は何かに怯えていた

 当時のオカルト・ブームに便乗する形で製作されたテレビ・ムービー。姉の不可解な死の真相を探るために全寮制の私立女子大へ入学した女性が、学園内に暗躍する悪魔崇拝のカルト教団の存在を暴くというもの。
 学園が炎に包まれるクライマックスを含め、後の『サスペリア』(77)を彷彿とさせるような雰囲気があることは確かだが、そこはやはりいろいろと表現に規制の多いテレビ映画。肝心の恐怖描写の演出なんかも非常に甘く、ホラー映画としては及第点の出来栄えと言わざるを得ない。
 しかし、本作がカルト映画と呼ばれる本当の理由は、その出来不出来とはあまり関係のないところにある。ずばり、キャスティングだ。ヒロインと親しくなる女子大生ロバータ役を演じているケイト・ジャクソン、学長の助手を務める優等生ジョディ役を演じているシェリル・ラッド。そう、後の『チャーリーズ・エンジェル』(76〜81)で一世を風靡することになる女優2人が、初めて顔を合わせた作品なのだ。
 本作の製作を手掛けたのは、その『チャーリーズ・エンジェル』や『ビバヒル』シリーズで有名なテレビ界の大御所アーロン・スペリング。ケイト・ジャクソンは彼の秘蔵っ子だった。そもそも、『チャーリーズ・エンジェル』自体が、ケイト・ジャクソンを売り出すために企画された番組だったのは有名な話だ。
 それ以前から、スペリングは彼女のために様々なテレビ・ムービーやテレビ・シリーズを企画しており、本作もそのうちの一つだった。なので、一応はネーム・バリューのあるパメラ・フランクリンを主演に据えているものの、中盤からの見せ場は明らかにケイト・ジャクソン寄り。
 一方のシェリル・ラッドは、ファラ・フォーセットの後釜としてエンジェル入りするわけだが、その人選には本作での実績も考慮されていたに違いない。ちなみに、当時はまだシェリル・ストッペルモーアという芸名だった。
 というわけで、まだ若くて初々しいケイトとシェリルの姿が見られるというだけでも一見の価値のある作品、としておこう(笑)

SATANS_SCHOOL-4.JPG SATANS_SCHOOL-5.JPG SATANS_SCHOOL-6.JPG

全寮制の女子大へ編入したエリザベス

ルーシーの自殺を伝えるジョディ(C・ラッド)

デビー(J・スミス=ジャクソン)は言葉少なかった

 ひと気のない田舎道を走る一台の車。運転する女性マーサ(テリー・ラムレイ)は、何かにひどく怯えている様子だ。途中でガソリンスタンド脇の電話ボックスを見つけた彼女は、そこから妹の家へ電話をかけるが不在だった。
 ふと見ると、無人のガソリンスタンドから出てくる一人の男が。恐怖に顔を引きつらせたマーサは、急いで車に飛び乗ってその場を去る。ようやく妹の住む家へ到着したものの、やはり誰もいない。管理人に鍵を開けてもらって中へ入った彼女は、道路に面した窓際のカーテンを閉める。ようやくホッと一息をついた彼女に、何者かが近づく。断末魔の悲鳴をあげるマーサ。
 買い物を済ませて帰宅したエリザベス(パメラ・フランクリン)は、自宅の前にパトカーが停まっているのを見て驚く。ドアは内側からチェーンがかけられていて開かない。警官と共にチェーンを壊して家へ入ったエリザベスは、姉マーサの首吊り死体を発見する。
 警察はマーサの死を自殺と断定したが、エリザベスは納得がいかない。自殺する理由がないし、そもそも遠路はるばる自殺するために来たとは到底思えない。エリザベスとマーサは腹違いの姉妹。マーサは遠く離れた全寮制大学の寮で暮らしていた。突然連絡があってやってきたのだから、何か重要な用事があったに違いない。捜査の続行を訴えるエリザベスだったが、グライムス刑事(フランクリン・マース)は聞く耳を持たなかった。
 腑に落ちないエリザベスは、マーサと親しかった女性ルーシー(グウィン・ギフォード)のもとを訪れる。彼女は大学を休学して一人暮らしをしていた。大学でのマーサの様子などを尋ねたエリザベスは、ルーシーが何かを恐れていることに気付く。
 こうなったら直接、事の真相を確かめるしかない。エリザベスは自らの身分を偽り、姉の通っていたフォールブリッジ女子大学へと編入することにした。そこで、彼女はロバータ(ケイト・ジャクソン)、デビー(ジェイミー・スミス=ジャクソン)、ジョディ(シェリル・ラッド)という3人の学生と親しくなる。彼女たちはマーサの友人だった。
 美術教師クランペット(ロイ・シネス)の授業を受けたエリザベスは、マーサをモデルにした油絵を発見する。それはとても奇妙な絵で、デビーが描いたものだった。夜中にデビーの部屋を訪れ、それとなく油絵の話を振ってみるエリザベス。だが、デビーはあまり多くを語ろうとはしなかった。
 さらに、休学中のルーシーが自殺したことが判明。エリザベスは何か手がかりが掴めればと、油絵を片手に描かれた場所を探そうと真夜中の構内を歩き回る。すると、どうやら地下室がその場所であることを突き止める。地下室を探索していた彼女は、動く人影と物音に気付いて足早に逃げ出した。物陰から現われたのは、科学教師デラクロワ(ロイド・ボックナー)だった。
 デラクロワが姉やルーシーの自殺に関与していると考えたエリザベスは、唯一頼りになるロバータに協力を願い出る。エリザベスの言葉に半信半疑のロバータだったが、一緒に地下室を調べることを約束する。夜中になって、地下室へと降りていった二人。すると、彼女たちはそこでデビーの死体を発見する。
 急いで学長のウィリアムス(ジョー・ヴァン・フリート)に事態を報告するエリザベスとロバータ。ひどくうろたえた様子の学長は急いで警察へ電話する。だが、彼女はエリザベスたちから見えないように通話を切っていた。何かを隠しているのだ。
 学長の様子が不自然なことに気付いたエリザベスとロバータは、こっそりと学生ファイルを収めた棚を調べてみる。すると、マーサやルーシーなど自殺した学生のファイルが見当たらない。そればかりか、先ほど死んだばかりのデビーのファイルまで抜き取られている。
 何か恐るべきことが学園内で進行していると考えた二人は、再び地下室へと行ってみた。すると、デビーの死体が消えている。さらに、物影からデラクロワが飛び出してきて、夜の闇の中へと消えていった。
 デラクロワがデビーを殺したものと考えたエリザベスとロバータは、美術教師クランペットに事のあらましを説明。すぐさま、クランペットはデラクロワの行方を捜す。しかし、その頃デラクロワは、ジョディら女学生たちによって殺害されていた。さらに、なぜかクランペットはエリザベスとロバータ以外の学生たちを学校から避難させる。学長も彼のことを恐れている様子だ。
 果たして、クランペットの目的とは?その正体とは?ジョディたちの行動の理由とは?そして、エリザベスとロバータの運命は・・・!?

SATANS_SCHOOL-7.JPG SATANS_SCHOOL-8.JPG SATANS_SCHOOL-9.JPG

エリザベスは学校の地下室を調べる

物陰から現われた教師デラクロワ(L・ボックナー)

地下室へやって来たエリザベスとロバータ(K・ジャクソン)

 監督のデヴィッド・ローウェル・リッチは、本作と同じくパメラ・フランクリンが主演したサスペンス『小さな逃亡者』(64)やベティ・デイヴィス主演のスリラー『黒薔薇の女』(72)など、60年代から80年代にかけて数多くのテレビ・ムービーを手掛けた人物。これといった特徴のある演出家ではないものの、映画並みの予算をかけた大作や話題作を任されることも多かった。劇場用映画でも、大女優ラナ・ターナー主演のメロドラマ『母の旅路』(65)や、オールスター・キャストのパニック映画『エアポート'80』(79)などを手掛けており、良くも悪くも商業主義的な職人監督だったと言えるだろう。
 脚本を書いたアーサー・A・ロスは、ブレイク・エドワーズ監督の『グレートレース』(65)やスチュアート・ローゼンバーグ監督の『ブルベイカー』(80)などを手掛けた脚本家。撮影監督のティム・サウスコットは、70年代にサミー・デイヴィス・ジュニア主演の『追跡者』(71)やジョン・フォーサイス主演の『クライパニック/悪夢を操る影』(74)といったテレビ映画を幾つか手掛けたカメラマンだ。
 また、名作『奇跡の人』(62)やオスカー候補になった『ベケット』(64)、『タイタンの戦い』(81)などで知られるローレンス・ローゼンタールが音楽スコアを担当している。

SATANS_SCHOOL-10.JPG SATANS_SCHOOL-11.JPG SATANS_SCHOOL-12.JPG

ジョディの死を知って動揺する学長(J・V・フリート)

美術教師クランペット(R・シネス)

クランペットに助けを求める二人だったが・・・

 ヒロインのエリザベスを演じているパメラ・フランクリンは、デボラ・カー主演の『回転』(61)やマギー・スミス主演の『ミス・ブロディの青春』(68)などの子役スターとして一世を風靡した女優。ホラー映画ファンには、オカルト映画の傑作『ヘルハウス』(73)や巨大動物パニック映画『巨大生物の島』(76)のヒロインとしてもお馴染みだろう。
 ドラマの鍵を握るミステリアスでハンサムな美術教師クランペットを演じるのは、60年代の人気SFドラマ『インベーダー』のロイ・シネス。また、アーロン・スペリング作品には欠かせない名脇役ロイド・ボックナーが、怪しげな化学教師デラクロワを演じている。彼は、『スーパーガール』(84)などで活躍した80年代のイケメン俳優ハート・ボックナーの父親だ。
 さらに、『エデンの東』(55)でジェームズ・ディーンの母親役を演じ、アカデミー助演女優賞に輝いた名女優ジョー・ヴァン・フリートが学長役で登場。どちらかというとゲスト出演的な扱いだが、悪魔からいいように利用される臆病な老婆という役柄はちょっと異色かもしれない。
 そのほか、『燃える昆虫軍団』(75)にも出ていたブロンド美女ジェイミー・スミス=ジャクソン、カルト映画『フェイドTOブラック』(80)の女性警官役が印象的だったグウィン・ギフォードなどが顔を出している。

 ちなみに、本作は後に『ビバヒル』のシャナン・ドハーティと『デクスター』のジュリー・ベンツ主演で、テレビ・ムービー『サタン・スクール/美しき悪魔』(00)としてリメイクされており、ケイト・ジャクソンが学長役を演じていた。

 

 

フェイズW/戦慄!昆虫パニック
Phase W (1974)

日本では劇場未公開・テレビ放送有り
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

PHASE_IV-DVD.JPG
(P)2008 Legend Films/Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/84分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:ソウル・バス
製作:ポール・B・ラディン
脚本:メイヨ・サイモン
撮影:ディック・ブッシュ
昆虫撮影:ケン・ミドルハム
音楽:ブライアン・ガスコーン
出演:ナイジェル・ダヴェンポート
   マイケル・マーフィ
   リン・フレデリック
   アラン・ギフォード
   ロバート・ヘンダーソン
   ヘレン・ホートン

PHASE_IV-1.JPG PHASE_IV-2.JPG

環境の変化によって知性を持った蟻

高度に組織された蟻の世界

PHASE_IV-3.JPG PHASE_IV-4.JPG

ホッブス博士(N・ダヴェンポート/右)と助手レスコ(M・マーフィ/左)

砂漠にそびえ立つ7本の砂の塔は蟻が作ったものだった

 まるで『燃える昆虫軍団』のような昆虫パニック映画を連想させる邦題だが、実際の内容はさにあらず。地球環境の変化によって知性を持った蟻とそれを研究する科学者たちのサバイバルを軸に、高度に組織された昆虫の世界と個々のエゴが対立する人間の世界を対比しながら、地球における生物体系の未来を圧倒的なビジュアル・イメージによって示唆していく映像叙事詩と言うべき作品だ。
 演出を手掛けたのは、アメリカを代表する天才的グラフィック・デザイナー、ソウル・バス。ヒッチコックの『めまい』(58)や『北北西に進路を取れ』(59)、『サイコ』(60)、キューブリックの『スパルタカス』(60)、スコセッシの『グッドフェローズ』(90)や『カジノ』(95)など、数多くの映画でオープニングのスタイリッシュなタイトル・デザインを手掛け、『ウェストサイド物語』(61)や『シャイニング』(80)などのポスター・デザインも担当した人物だ。ユナイテッド航空やコンチネンタル航空、日本の京王デパートや紀文、ミノルタなどのロゴ・マークも彼の作品である。
  その一方で、映画監督としても短編ドキュメンタリー『なぜ人間は創造するのか』(68)で見事にオスカーを受賞。そんな彼にとって、本作は初の長編劇映画に当たる。物語のアイディアそのものは多分に非現実的でありながら、その中で昆虫と人間という全く異なる生物の生態を巧みに対比していく語り口は、さながらドキュメンタリー映画を見ているようなリアリズムだ。
 組織の目的のためにはいかなる自己犠牲も厭わない昆虫の世界。全てが完璧にオーガナイズされており、そこには“個の意志”というものが入り込む隙など全くない。一見すると無機質で非情とも思えるが、それゆえに種族が一致団結して平和な社会を築き上げていく。
 その一方で人類はというと、それぞれに異なった意志や目的を持つがゆえにエゴがぶつかり合い、おのずと不和や争いごとが生まれていく。組織として一切のブレがない昆虫と、人間的であるがゆえにまとまりに欠ける人類が対峙することになったら、果たして生き残ることが出来るのはどちらか?そして、その行き着く先に待っている未来とは?これは、言うなればソウル・バス版『2001年宇宙の旅』なのだ。
 グラフィック・デザイナーならではの近未来的で洗練された映像は、まさしくモダン・アートの世界。さらに、知性を持った蟻の生態を緻密に捉えたケン・ミドルハムのカメラ・ワークにも驚かされる。このような昆虫の進化が本当にあり得るのかどうか、果たして娯楽映画として純粋に楽しめるのかどうかという話はさておいて、芸術作品としては紛れもない傑作だろう。
 ただ、やはり当時の観客にはなかなか理解されなかったようで、残念ながら興行的には惨敗を喫してしまった。なにしろ、配給元のパラマウント映画は、昆虫軍団が人間を襲うパニック・ホラーとして本作を売り出してしまったのだから。『黒い絨毯』(54)や『燃える昆虫軍団』のような阿鼻叫喚のSFホラー・スペクタクルを期待して見に行った観客は、それとは対極にあるようなアート・シネマを見せられて憤慨したに違いない。これは間違ったマーケティングの責任だ。
 さらに、本作のエンディングそのものも、実はパラマウントによって勝手に変えられてしまったという。ソウル・バスは編集に関する最終的な決定権そのものを与えられていなかったらしい。そうしたこともあってか、これが彼にとって最初で最後の長編監督作となってしまった。なお、その未使用のエンディング・シーンは、当時の劇場用予告編の中で見ることが出来る。

PHASE_IV-5.JPG PHASE_IV-6.JPG

蟻の大群に襲われたエルドリッジ一家

一家は研究施設に助けを求めようとするが・・・

PHASE_IV-7.JPG PHASE_IV-8.JPG

殺虫剤で死亡したエルドリッジ一家を発見するホッブス博士ら

一人娘ケンドラ(L・フレデリック)だけが難を逃れていた

 地球環境の大きな変化に伴ない、アリゾナの砂漠で奇妙な現象の起きていることが報告される。砂漠に棲息する蟻が群をなして天敵を攻撃するようになったというのだ。そのため、蜘蛛など蟻を餌とする生物が激減し、その結果として蟻が大量発生しているという。どうやら、彼らは環境の変化が原因で何らかの知性を持つようになったようなのだ。
 大学の研究機関から派遣されたホッブス博士(ナイジェル・ダヴェンポート)と助手のレスコ(マイケル・マーフィ)は、現地で蟻が建てたと思われる7つの砂の塔を発見する。調査に当たっては蟻からの攻撃も考えられるため、彼らは近隣に住むエルドリッジ一家に安全のための退去を願い出た。しかし、この地に長年住み続けている一家は、その唐突な申し出に戸惑い躊躇する。
 いざ蟻の生態を調査しようとしたホッブスらだが、近辺でそられしき生物の動きは全く見られない。そこで彼らは砂の塔を片っ端から破壊し、相手の動きを見ることにした。すると、その晩になって蟻が動き始める。彼らは塔が破壊された復讐として、エルドリッジ家への総攻撃を開始したのだ。
 崩れ落ちる家屋。一家はジープに乗って逃げ出し、ホッブスたちの研究施設に助けを求めようとした。ところが、施設も同じように蟻からの攻撃を受けており、危険を感じたホッブスは周辺に大量の殺虫剤を撒く。エルドリッジ一家は、その殺虫剤のシャワーに巻き込まれてしまった。
 翌日、ホッブス博士とレスコは、施設の近くで息絶えているエルドリッジ一家を発見する。深い罪悪感を覚えるレスコだったが、博士はそんなことよりも自らの命を投げ打ってジープのエンジンを破壊した蟻の集団の結束力と統率力に感嘆する。そんな博士に、レスコは強い憤りを感じる。
 すると、すぐ傍の扉が開き、一人の少女が中から出てきた。少女はエルドリッジ家の娘ケンドラ(リン・フレデリック)。一人だけ、殺虫剤のシャワーを逃れて生き延びることが出来たのだ。
 ケンドラを施設内に保護したレスコは、大学の本部へ連絡して救援隊を要請しようと主張する。だが、ホッブス博士は反対だった。近隣住民が巻き込まれて死んだということが分かれば、調査そのものが中止されてしまうからだ。その場では救援隊の要請をレスコに約束した博士だが、結局は本部に報告すらしなかった。
 一方、家族を失ったショックから徐々に立ち直りつつあるケンドラだが、調査用に捕獲した蟻を見て逆上し、ビーカーを破壊してしまう。複数の蟻が逃げ出してしまうが、研究室を封鎖して殺虫剤を撒き、なんとか事なきを得る。だが、ホッブス博士が蟻に手を噛まれてしまった。
 しかも、殺虫剤で死んだはずの蟻の中の一匹が生き延び、秘かに施設を抜け出していた。殺虫剤を運びながら。途中で息絶えた蟻だが、すぐに別の蟻が交代して殺虫剤の塊を運ぶ。それを繰り返しながら、蟻たちは女王のもとへと殺虫剤を届けるのだ。そして、その殺虫剤の塊を食べた女王は、新たに抗体を持った蟻を生んでいく。
 さらに、蟻たちは施設の周辺に新しく砂の塔を建てていた。それはまるで反射鏡のような造りで、一斉に太陽熱を施設へと当てている。施設内部の気温は一気に上昇した。たまらなくなったホッブス博士とレスコは、超音波を使って塔を次々と木っ端微塵にする。だが、施設内に紛れ込んだ一匹の蟻によって電気系統が破壊され、超音波攻撃は中断されてしまった。
 破壊された塔の中から仲間の亡骸を集め、厳かな葬儀を行って復讐を誓う蟻たち。その結束力は揺るぎないものだ。一方の施設では、ホッブス博士とレスコの間の不信感が頂点に達していた。しかも、手を蟻に噛まれたホッブス博士は傷口が悪化し、次第に精神のバランスを崩していく・・・。

PHASE_IV-9.JPG PHASE_IV-10.JPG

蟻の生態研究にのめり込んでいくホッブス博士

殺虫剤を食べて抗体を持った幼虫を産む女王蟻

PHASE_IV-11.JPG PHASE_IV-12.JPG

新たに蟻の作った砂の塔は反射鏡の役目を果たしていた

ホッブス博士と激しく対立する助手のレスコ

 この独創的で示唆に富んだ脚本を手掛けたのは、グレゴリー・ペック主演のSFサスペンス『宇宙からの脱出』(69)やユル・ブリンナーの怪演が光る近未来サスペンス『未来世界』(76)で知られるメイヨ・サイモン。文明批判的なタッチは彼の個性なのだろう。ただ、『宇宙からの脱出』や『未来世界』では、脚本のスケールの大きさに演出や撮影技術が追いついていないという印象を受けたが、本作の場合は逆に脚本の荒唐無稽さを監督の演出力やスタッフの技術力が十分すぎるくらいにカバーしている。
 ドラマ・パートの撮影を手掛けたのは、『狂えるメサイア』(72)や『マーラー』(74)、『トミー/Tommy』(75)などケン・ラッセル監督とのコラボレーションで有名なカメラマン、ディック・ブッシュ。そして、一番の見どころである蟻のクロースアップ撮影を担当したのは、昆虫の生態を追ったモッキュメンタリー映画の傑作『大自然の闘争/驚異の昆虫世界』(71)で知られるケン・ミドルハム。中でも、言葉のないドラマとして蟻の行動や生態を見事なまでに演出したミドルハムの仕事は特筆に価するだろう。
 また、『スター・ウォーズ』でオスカーを獲得したジョン・バリーが研究施設や砂の塔などの近未来的な美術デザインを、ジョン・ブアマン監督の『エメラルド・フォレスト』(84)で英国アカデミー賞候補になったブライアン・ガスコーンがアンビエントでシュールな音楽スコアを手掛けている。

PHASE_IV-13.JPG PHASE_IV-14.JPG

レスコは超音波を使って砂の塔を破壊する

整然と厳かに執り行われる蟻の葬儀

PHASE_IV-15.JPG PHASE_IV-16.JPG

偵察役の蟻がケンドラに接近する

通信手段まで奪われ、砂漠の真ん中で孤立してしまった3人

 マッド・サイエンティスト的な気質を持った科学者ホッブス博士を演じるのは、『わが命つきるとも』(66)や『クイン・メリー/愛と悲しみの生涯』(71)などの重厚な歴史劇やコスチューム・プレイで重宝されたイギリスの名優ナイジェル・ダヴェンポート。
 その助手であるレスコ役には、ウディ・アレンやロバート・アルトマン作品の常連スターとして知られるマイケル・マーフィ。最近では、『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(06)においてミュータント治療薬を開発する大企業の社長役が印象的だった俳優だ。
 この玄人受けする渋い役者二人とは対照的に、眩いばかりの美少女ぶりを遺憾なく発揮しているのが、ケンドラ役のリン・フレデリック。この3年後に29歳年上のピーター・セラーズと結婚して世間を驚かせることになるわけだが、いや、本当に文句のつけようがないくらいに美しい。
 ちなみに、ケンドラの母親役を演じているヘレン・ホートンは、『エイリアン』(79)のコンピューター、マザーの声を担当した女優さんだ。

 なお、後に“Phase W(邦題『ハード・アライブ』)”(01)という同名のアクション映画が作られているが、本作とは何の関連性もない。

 

 

ザ・ギャル狩り〜ターゲットは7月の女〜
The Centerfold Girls (1974)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

CENTERFOLD_GIRLS-DVD.JPG
(P)2009 Dark Sky Films (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/93分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編集
TV&ラジオ・スポット集
サウンド・ドラック集
監督:ジョン・ペイサー
製作:チャールズ・ストラウト
脚本:アーサー・マークス
   ボブ・ピート
撮影:ロバート・マクスウェル
音楽:マーク・ウォリン
出演:アンドリュー・プライン
   ティファニー・ボーリング
   アルド・レイ
   レイ・ダントン
   フランシーヌ・ヨーク
   ジェイミー・リン・バウアー
   ジェレミー・スレイト
   マイク・マザーキ
   ジェニファー・アシュレイ
   ジョン・デノス
   キティ・カール
   デニス・オリヴィエリ
   ルーシー・ロス
   ジャネット・ウッド

CENTERFOLD_GIRLS-1.JPG CENTERFOLD_GIRLS-2.JPG

砂浜に運ばれた女性の死体

白い部屋に住むサイコ青年クレメント(A・プライン)

 70年代といえばフリー・セックス。ハードコア・ポルノが市民権を得、巷の雑誌やテレビ、映画などのメディアには露骨な性描写が一気に溢れた。つまり、セックスが表舞台のビジネスとして大手を振るうようになった時代と言えるだろう。もちろん、そうしたトレンドに対する反発も強かったわけで、欧米では保守的な宗教団体や倫理団体がモラルの低下を声高に糾弾。中には、イギリスの悪名高い啓蒙家メアリー・ホワイトハウスのように、過激で狂信的なモラリストまで現われた。
 この『ザ・ギャル狩り〜ターゲットは7月の女〜』は、そんな時代背景を色濃く浮き彫りにした作品と言えるかもしれない
。主人公は性的に抑圧された、保守的な潔癖症の青年クレメント。セックスを汚れたものだと信じて疑わないイカれたサイコなこの男が、男性誌のヌード・カレンダーであられもない姿を披露する美しいモデルたちを次々と血祭りにあげていく、というお話である。
 基本的なプロット自体はありきたりなようにも思えるが、本作が真に傑出しているのは、性の解放を謳歌する社会の孕む危険性と負の側面を、これでもかと言わんばかりに徹底したバイオレンスとシニカルな語り口で描いていく点だ。
 主人公のターゲットとなる女性が3人いることから、物語は3つのパートに分けられている。一人目は“ミス3月”こと看護婦のジャッキー。山奥の田舎へ出張看護に出かけた彼女は、ふとしたことからマンソン・ファミリーのようなヒッピー集団に監禁され、暴行されてしまう。なんとか逃げ出して、近隣の住人に助けを求めるものの、一見親切そうに保護してくれた男も結局は彼女の肉体が目的だった。その一部始終をストーカーしながら見ていたクレメント。心も体もボロボロに傷ついたジャッキーに優しい言葉をかけて近づき、手にした剃刀で彼女の喉を切り裂く。それが、雑誌に裸を晒して男を惑わすような汚れた女の魂を救う唯一の方法だと、彼は信じているのだ。
 次のターゲットとなるのは、“ミス5月”こと女子大生のチャーリー。ヌード・カレンダーの撮影隊と共に無人島へ向かった彼女の後を、クレメントが秘かに尾行する。ヌード・モデルたちを仕切るのはパワフルな敏腕女社長。男性スタッフに頭越しで檄を飛ばすその姿は、さながらウーマン・リブの象徴だ。クレメントは一人また一人と血祭りに上げ、チャーリーを含む撮影隊の全員を殺害する。
 そして、最後が“ミス7月”ことキャビン・アテンダントのヴェラ。クレメントからの執拗なストーカー行為に悩まされた彼女は逃亡し、2人組の若い水兵に守ってもらおうとする。だが、やはり彼らもヴェラの美しさに欲情し、ビールに媚薬を混ぜてレイプしてしまう。そして、同じように善意の第三者を装ってヴェラに近づいたクレメントは、彼女の魂を救うためにその息の根をとめようとするのだが・・・。
 このように、本作ではフリーセックスのムーブメントによって逆に貶められてしまった女性の性というものが描写されている。かといって、ここではフリーセックスそのものを否定するような意図は見られない。逆に、そのような時代の流れについていくことの出来ない人々が露わにする残虐性、自由を手にすることと引き換えに社会が背負わなくてはいけない危険性というものを描いているのだと言えよう。
 監督のジョン・ペイサーは、往年の人気TVドラマ『アンタッチャブル』や『コンバット』の演出家として知られるベテラン。原案を手掛けたアーサー・マークスも、往年の傑作法廷ドラマ『弁護士ペリー・メイスン』の監督兼プロデューサーを務めた人物だ。それだけに、インディペンデントの低予算映画にしては、脚本も演出も非常にしっかりとしている。その一方で、今見てもかなり過激なバイオレンス描写や性描写も盛りだくさん。いろいろな意味で、70年代という時代の特異性を実感させてくれるはずだ。
 いずれにせよ、これは単なるエクスプロイテーション映画として片付けることの出来ない社会性を持った、非常にユニークなバイオレンス映画。タランティーノ作品などで70年代のカルト映画に興味を持ったというファンには、是非ともおススメしたい一本である。

CENTERFOLD_GIRLS-3.JPG CENTERFOLD_GIRLS-4.JPG

嫌がらせ電話に悩まされている看護婦ジャッキー(J・L・バウアー)

仕事で山奥の田舎へ派遣されたジャッキーだったが・・・

CENTERFOLD_GIRLS-5.JPG CENTERFOLD_GIRLS-6.JPG

リンダ(J・ウッド)というヒッピー娘と親しくなる

リンダの仲間たちに暴行を受けるジャッキー

CENTERFOLD_GIRLS-7.JPG CENTERFOLD_GIRLS-8.JPG

親切そうに保護してくれたウォーカー氏(A・レイ)だったが・・・

秘かにジャッキーを尾行するクレメント

<ジャッキー>
 ひと気のないビーチに一台の車が停まる。助手席には女性の死体が。一人の青年がその死体を運び出し、砂浜に埋めた。青年の名前はクレメント(アンドリュー・プライン)。白い家具で統一された自室へ戻ったクレメントは、男性誌のヌード・カレンダーをめくって1月のモデルの顔をカッターで切り取る。被害者の女性だ。
 次のターゲットとなるのは3月のモデル、ジャッキー(ジェイミー・リン・バウアー)。看護婦として病院に勤務する彼女は、アルバイトのヌード・モデルで稼いだギャラで豪華なキャデラックを購入したばかり。
 だが、そんな彼女も実は見知らぬ男からの嫌がらせ電話に悩まされていた。もちろん、その主はクレメント。“イヤらしい電話はもうよして”と訴えるジャッキーに、クレメントは“人前で裸を見せて他人の心を汚すお前の方がよっぽどイヤらしいだろう”と吐き捨て、“お前を救うことが出来るのはボクだけだ”と不気味に呟くのだった。
 その日、ジャッキーは山奥の施設に応援の看護婦として派遣された。その途中に立ち寄ったガソリンスタンドで、彼女はリンダ(ジャネット・ウッド)という若いヒッピー娘と知り合う。すっかり意気投合した二人。落ち合う予定だったボーイフレンドに約束をすっぽかされたというリンダを、ジャッキーは車で送っていくことにした。物影から秘かにリンダの仲間が見ていること、そしてその様子をクレメントが遠巻きに眺めていることにも気付かず。
 ひとまず施設に到着したジャッキーだったが、関係者によると看護の仕事などないという。どうやら、連絡間違いだったようだ。夕暮が近づいてきたこともあり、ジャッキーはリンダを誘って近くにある叔母の別荘へ泊まることにした。
 その晩、ジャッキーが眠りについた隙を見計らって、リンダはヒッピー仲間を別荘へ招きいれた。彼らのドンちゃん騒ぎに気付いたジャッキーは出て行くよう抗議するが、若者たちは我がもの顔で居座ることに。翌日になっても彼らは別荘を出て行かないばかりか、ジャッキーに集団で暴行を加える。
 命からがら逃げ出したジャッキーは、施設の管理人であるウォーカー氏(アルド・レイ)とその妻(ポーラ・ショウ)に保護される。保安官に連絡し、親切にかくまってくれるウォーカー氏。だが、妻は若くてセクシーなジャッキーのことを“トラブルのもとだ”と毛嫌いする。
 一方、ジャッキーのことを付けまわしていたクレメントは、施設に忍び込んでジャッキーを殺そうと考えるが、ウォーカー氏に見つかって仕方なく退散した。その翌朝、ウォーカー氏に付き添われて別荘へ戻ったジャッキー。荒され尽くした現場を見て途方に暮れる。
 さらに、助けてやった感謝の印として彼女の肉体を求めるウォーカー氏。あまりの仕打ちに絶望したジャッキーは、観念して目をつむる。だが、その怯える様子に性欲をそがれたウォーカー氏は、男を惑わせるような女が悪いと口走りながら去っていった。
 それと入れ替わりにやって来たのがクレメント。親切な隣人のふりをして近づく彼に、安堵の表情を見せるジャッキー。だが、そんな彼女にクレメントは容赦なく襲い掛かるのだった・・・。

CENTERFOLD_GIRLS-9.JPG CENTERFOLD_GIRLS-10.JPG

天真爛漫な女子大生チャーリー(J・アシュレイ)

ヌード・カレンダー撮影のために無人島の豪邸へ

CENTERFOLD_GIRLS-11.JPG CENTERFOLD_GIRLS-12.JPG

激しく対立する女社長メリッサ(F・ヨーク)とペリー(R・ダントン)

グロリアの死体が発見される

CENTERFOLD_GIRLS-13.JPG CENTERFOLD_GIRLS-14.JPG

屋敷へ忍び込むクレメント

殺人鬼が潜んでいることに気付いたチャーリーたち

<チャーリー>
 次のターゲットは“ミス5月”の女子大生チャーリー(ジェニファー・アシュレイ)。彼女のもとにもクレメントからの嫌がらせ電話が頻繁にかかっていたが、チャーリーは全く相手にしていない。
 そんなある日、彼女は新しいヌード・カレンダーの撮影をするために、事務所スタッフやカメラマン、仲間のモデルらと一緒に無人島にある豪邸へと出かけた。もちろん、その後をクレメントが尾行する。
 撮影隊の陣頭指揮を執るのは事務所の女社長メリッサ(フランシーヌ・ヨーク)。業界でも有名なやり手の彼女は、スタッフやモデルにも手厳しい。中でも、アル中のマネージャー、ペリー(レイ・ダントン)とは犬猿の仲だった。実は、かつてメリッサとペリーは男女の仲だったのだが、公私に渡るメリッサの強引な姿勢にペリーは嫌気がさしてしまったのだ。それをメリッサは今も恨んでおり、二人の間にはわだかまりが燻っている。
 一方、ペリーがショウビズ業界に顔が利くと知ったモデルのグロリア(ルーシー・ロス)は、さっそく色仕掛けでペリーに言い寄る。その晩、気分転換に外へ散歩に出かけた彼女は、背後から忍び寄ったクレメントに殺害されてしまった。
 翌日、一行は崖の下に倒れているグロリアの死体を発見する。それでも撮影を中断するわけにはいかないと、強硬な姿勢を貫くメリッサ。それにペリーが強く反発し、撮影隊には気まずいムードが漂う。
 その晩、酔ってメリッサと口論になったペリーが、何者かによって刺し殺された。死体を発見して悲鳴を上げるチャーリー。さらに、シャワーを浴びていたメリッサまでもが殺されてしまう。何者かが屋敷内に潜んでいると気付いたチャーリーたち。付近を偵察に行ったカメラマンのサム(ジョン・デノス)までもが、物陰から近づいたクレメントに殺害されてしまった。
 サムから渡されたピストルを片手に、屋敷内で息をひそめるチャーリーとサンディ(キティ・カール)。ところが、チャーリーは恐怖に怯えるあまり、部屋へ入ってこようとしたサンディを射殺してしまった。パニックに陥って屋敷の外へ飛び出したチャーリー。そこには、剃刀を片手に持ったクレメントが待ち構えていた・・・。

CENTERFOLD_GIRLS-15.JPG CENTERFOLD_GIRLS-16.JPG

嫌がらせ電話を受けるフライト・アテンダントのヴェラ(T・ボーリング)

誤ってルームメイトのパッツィーを殺害するクレメント

CENTERFOLD_GIRLS-17.JPG CENTERFOLD_GIRLS-18.JPG

再びヴェラのもとに脅迫電話が・・・

行方をくらましたはずのヴェラだったが・・・

CENTERFOLD_GIRLS-19.JPG CENTERFOLD_GIRLS-20.JPG

2人組の水兵と親しくなったヴェラ

しかし、薬を飲まされた上にレイプされてしまう

<ヴェラ>
 次にクレメントが狙うのは、“ミス7月”のブロンド美女ヴェラ(ティファニー・ボーリング)。キャビン・アテンダントを務める彼女は、フライトを終えて自宅に帰ると黄色の大きな花束が届けられていることに気付く。ルームメイトのパッツィー(コニー・ストリックランド)に訊ねても、差出人が誰なのか分からない。
 そこへ、クレメントからの嫌がらせ電話がかかってきた。贈り主はこの男だと気付いたヴェラだが、よくいる変質者の一人だと考えて相手にしないようにした。ところが、その晩一人で部屋に戻ったパッツィーがクレメントに殺害されてしまう。同じブロンドな上に、暗がりでよく見えなかったこともあり、ヴェラと間違えられてしまったのだ。
 捜査に当たったギャレット警部(ジェレミー・スレート)は、ジャッキーやチャーリーの事件も担当しており、これがヌード・モデルばかりを狙った連続殺人事件であることに気付いていた。ヴェラが差出人不明の花束と不審な脅迫電話を受け取っていたことを知った警部だったが、犯人逮捕につながるような証拠はなかった。
 一方、自分が間違って他人を殺してしまったことに気付いたクレメントは、再びヴェラのもとに嫌がらせ電話をよこす。すぐさま警察に連絡するヴェラだったが、ギャレット警部は不在だ。いてもたってもいられなくなった彼女は、親友のパム(アンネカ・ディ・ロレンツォ)だけに行き先を告げ、しばらくの間行方をくらますことにする。
 ところが、ヴェラの親戚を装って電話をかけてきたクレメントに、パムはうっかり行き先を教えてしまう。そうとは知らずに、旅先で束の間の平和な時間を楽しむヴェラ。だが、モーテルの部屋へ戻った彼女は、黄色い花束が届けられているのを見て愕然とする。
 見知らぬ脅迫者がすぐ近くにいると感じたヴェラは、急いで車に飛び乗ってモーテルを後にした。その彼女を追いかけるクレメント。自分が尾行されていることに気付いたヴェラは、偶然知り合った2人組の水兵と行動を共にすることにした。屈強な男が二人も傍にいれば、相手もなかなか手を出すことはできないだろう。
 だが、水兵たちには下心があった。食事の最中にヴェラがトイレへ席を立った隙に、彼らはビールの中に媚薬を混ぜる。そして、すっかり薬が回って気分の高揚した彼女を、彼らはモーテルに連れ込んで代わる代わるレイプするのだった。
 翌朝、意識が戻った彼女の目の前には、隣の部屋に宿泊して事件に気付いたという男性とモーテルの支配人が立っている。そう、男性はクレメントその人。だが、彼の顔を知らないヴェラは全く気付かない。
 町まで車で送るという彼の申し出を受け入れたヴェラ。途中でドライブインに立ち寄ったクレメントは、売店で凶器のナイフを購入する。一方、車の中で待っていたヴェラは、ふと後部座席に置いてある雑誌をパラパラとめくる。ヌード・カレンダーのモデルの首が切り取られているのを見て、男の正体に気付いたヴェラだったが・・・。

 クレメントのターゲットとなる女性がなぜ奇数月のモデルばかりなのかというと、偶数月は奇数月の裏に印刷されているから。つまり、表のモデルの顔を切り取ってしまうと、おのずと裏のモデルも首ナシになってしまうのだ。ん〜、用意周到なワリに肝心なところがいい加減なのね(笑)
 アーサー・マークスの書いた原案を脚色したのは、これが処女作となる脚本家ボブ・ピート。この直後に、黒人一家を主人公にしたテレビのシットコム“Good Times”(74〜77)の脚本家に起用されてエミー賞を受賞し、以降はもっぱらテレビで活躍を続けたようだ。
 また、テッド・V・マイケルズのC級カルトSFホラー“Astro-Zombies”(68)やリー・フロスト監督のエロ・アクション『新・アニマル』(70)などのエクスプロイテーション映画でお馴染みのカメラマン、ロバート・マクスウェルが撮影を担当している。
 なお、マーク・ウォリンの手掛けている音楽スコアが素晴らしい。ジャズとリズム&ブルースを融合しながら、適度なラウンジ・テイストで仕上げたファンキーかつグルーヴィーなサウンド。サントラが欲しい!

ANDREW_PRINE.JPG FRANCINE_YORK.JPG JENNIFER_ASHLEY.JPG

現在のアンドリュー・プライン

現在のフランシーヌ・ヨーク

現在のジェニファー・アシュレイ

 主人公のサイコ野郎クレメントを演じているのは、名作『奇跡の人』(62)のヘレンの意地悪な兄ジェームズ役で注目された俳優アンドリュー・プライン。この手のねちっこい変質者的な役柄を演じさせたら抜群に上手い人だ。だからというわけではないだろうが、当時は『悪魔の調教師』(74)や『グリズリー』(76)などのエクスプロイテーション映画に引っ張りだこだった。さながら、カルト映画界のアンソニー・パーキンスといったところか。
 そんなクレメントに真っ向から立ち向かうことになる“ミス7月”のヴェラを演じたティファニー・ボーリングも、当時は数多くのエクスプロイテーション映画に主演していた女優。清楚な美貌とは裏腹に脱ぎっぷりのいい人で、アメリカでは今でもカルト的な人気を誇っている。
 “ミス3月”のジャッキー役を演じているジェイミー・リン・バウアーも、なかなかゴージャスな感じの美人。もともとミス・フェニックスから水着モデル、そして女優へと転身した人だったようだが、その後はテレビの昼メロ・スターになったらしい。
 さらに、若さだけが取り得(?)の“ミス5月”チャーリー役を演じたジェニファー・アシュレイは、『悪魔の調教師』(74)や『悪魔の受胎』(79)などのB級カルト映画でマニアにはお馴染みの女優。彼女もいまだに根強い人気を持つ人だが、ヌードを披露したのはこれ一作だけ。なので、本作に出演したことを周囲に隠していた時期もあったという。
 そのほか、名作『雨に濡れた欲情』(55)で大女優リタ・ヘイワードの相手役を務めた往年のタフガイ俳優アルド・レイ、50年代のギャング映画スターで監督としても知られるレイ・ダントン、60年代のB級セクシー女優フランシーヌ・ヨーク、『エルダー兄弟』(65)や『勇気ある追跡』(69)など西部劇の脇役として活躍したジェレミー・スレートといったベテランが脇を固めている。

 

謎の完全犯罪
Psychic Killer (1974)

日本では1975年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

PSYCHIC_KILLER-DVD.JPG
(P)2008 Dark Sky Films (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/90分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
テレビ・スポット集
監督:レイモンド・ダントン
製作:グレイドン・クラーク
   ラリー・ヒューリー
   マーディ・ラスタム
   モハメッド・ラスタム
脚本:グレイドン・クラーク
   マイケル・エンジェル
   レイモンド・ダントン
撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド
音楽:ウィリアム・クラフト
出演:ポール・バーク
   ジム・ハットン
   ジュリー・アダムス
   ネヘマイア・パーソフ
   アルド・レイ
   ネヴィル・ブランド
   ロッド・キャメロン
   デラ・リース
   ジュディス・ブラウン
   メアリー・ウィルコックス
   グレイドン・クラーク
   ウィット・ビッセル

PSYCHIC_KILLER-1.JPG PSYCHIC_KILLER-2.JPG

無実の罪で精神病院へ入れられたアーノルド(J・ハットン)

アーノルドの復讐心に共感するエミリオ(S・ピアース)

PSYCHIC_KILLER-3.JPG PSYCHIC_KILLER-4.JPG

死んだはずのアーノルドだったが・・・

院長(R・キャメロン)から真犯人が捕まったことを知らされる

 『ザ・ギャル狩り〜ターゲットは7月の女〜』にも出ていたベテラン俳優レイ・ダントン(本作ではレイモンド・ダントン名義)が、自ら監督及び脚本を手掛けたB級オカルト・サスペンス。無実の罪で投獄され、さらに最愛の母親まで亡くしてしまった男性が、テレキネシスを使って関係者に次々と復讐を果たすというもの。物語そのものはかなり荒唐無稽だが、ことのほかしっかりしている脚本と演出のおかげもあって、なかなか良く出来た娯楽映画に仕上がっている。
 主人公は内気な男性アーノルド。殺人事件の犯人に仕立て上げられた彼は、無実の罪で有罪判決を受けてしまう。さらに、彼が精神病院へ入っている間に、医師や看護婦の不注意で病弱だった母親が死亡。そんな彼が、謎めいた黒人の患者から不思議な力を持ったメダリオンを貰う。このメダリオンを身につけると仮死状態に陥り、幽体離脱をすることが出来るのだ。その特殊な能力を使って無実を証明した彼は、さらに自分と母親を不幸のどん底に陥れた人々を次々と殺害していく。
 やがて、不可解な殺人事件の被害者たちが何らかの形で過去にアーノルドと関わりがあることに気付いた警察。しかし、彼には動かしがたいアリバイがある。果たして、警察はいかにしてこのオカルト完全犯罪を暴くのか・・・!?
 というわけで、この超自然的で非科学的な犯罪に対して警察が論理的かつ科学的な捜査でアプローチしていくわけなのだが、まあ、その辺りの信憑性に関しては大いに疑問の残るところではある(笑)
 また、他に手立てがないとはいえ、クライマックスの強引過ぎる解決方法なんぞも、はっきり言って警察にあるまじき行為だろう。そういった力技的なご都合主義も含めて、いかにも70年代のエクスプロイテーション映画らしい驚きと意外性に満ちた作品。ここぞ、という絶妙なタイミングで挿入されるブラック・ユーモアのセンスも気が利いている。

PSYCHIC_KILLER-5.JPG PSYCHIC_KILLER-6.JPG

エミリオから貰ったメダリオンを手にするアーノルド

人妻との不倫を楽しむ医師テイラー(W・ビッセル)

PSYCHIC_KILLER-7.JPG PSYCHIC_KILLER-8.JPG

軽薄で尻軽な看護婦マーサ(M・ウィルコックス)

突然シャワーから熱湯が噴き出る

 身に覚えのない殺人事件で有罪判決を受け、精神病院へ入れられてしまった男性アーノルド・マスターズ(ジム・ハットン)。彼には年老いた病弱な母親がいた。殺人事件の被害者は、その母親の主治医。高額な治療費を巡って医師と口論になったアーノルドだったが、すぐに気を取り直して謝罪に向かった。そこで、彼は医師の他殺体を発見したのである。
 被害者と口論をしている現場を他人に見られていたということもあり、捜査は彼が犯人であることを前提に進められてしまった。さらに、弁護士の依頼を受けた精神科医によって、彼が重度の精神病であるとの結果が出される。もちろん、全く根拠のない嘘だ。しかし、それが決め手となり、アーノルドは殺人犯へと仕立て上げられてしまった。
 いくら無実を主張しても、誰も聞く耳を持ってくれない。精神病院での生活は彼の心を荒廃させていった。そこへ届いた最悪の知らせ。母親が亡くなったというのだ。しかも、発見されたときは死後数週間も経過していたという。治療に当たっていた医師と看護婦は何をしていたのか?
 隔離された病棟の中で怒りと憎しみを募らせていくアーノルド。そんな彼の話を聞いた黒人の患者エミリオ(スタック・ピアース)が、謎めいた言葉を口にする。“私が死ぬ前日に、私は娘を娼婦にした男を殺す。その後に、お前を助けてやろう”と。
 エミリオは娼婦に身を落とした自分の娘を殺害した罪で逮捕され、精神病院へ入れられていた。翌日、エミリオは病院の屋上から身を投げて自殺した。そして、奇妙な形をしたメダリオンを形見としてアーノルドに残す。新聞記事でエミリオの娘のヒモだったチンピラが謎の死を遂げたことを知った彼は、このメダリオンに何か不思議な力が宿っていると気付く。
 その晩、アーノルドはメダリオンを首にかけて就寝した。ところが、その直後に容態が急変。異常に気付いたスタッフが個室に駆けつけると、既に彼は死亡していた。すぐに、病院はアーノルドの検死を行う。すると、彼は医師の目の前で息を吹き返したのだ。
 不思議なことは立て続けに起る。なんと、アーノルドが有罪判決を受けた殺人事件の真犯人が、なぜか今になって自首したというのだ。だが、その知らせを聞いても全く驚いた様子を見せないアーノルド。予め知っていたかのような彼の口ぶりに、院長のコマンジャー医師(ロッド・キャメロン)は戸惑う。
 かくして、晴れて自由の身となったアーノルドは、懐かしい我が家へと戻ってくる。しかし、最愛の母はもういない。改めて悔しさと怒りがこみ上げてきた彼は、椅子に座りながらメダリオンを首にかけ、静かに目をつむった。
 とある郊外の別荘。初老の医師テイラー(ウィット・ビッセル)が、若い人妻アン(ジュディス・ブラウン)と週末を過ごすためにやって来る。彼女はテイラーの患者だが、同時に不倫相手でもあった。アンの若い肉体に興奮を抑えきれないテイラー。その時、周辺で不気味な声が響き渡る。どうやら、アンには全く聞こえないようだ。タチの悪いいたずらかと、ライフルを片手に外へ飛び出したテイラーだったが、目に見えない力によって殺されてしまう。
 捜査を担当するのは、元FBIの凄腕モーガン警部(ポール・バーク)と、相棒のベテラン刑事アンダーソン(アルド・レイ)。第一容疑者だったアンは嘘発見器によってシロだと判明し、彼女の夫にもアリバイがあった。事件は迷宮入りとなる。
 奇妙な事件は続く。マーサ・バーンソン(メアリー・ウィルコックス)という若い看護婦が、シャワーの熱湯で大火傷を負って死んでしまったのだ。だが、水道にもガスにもなんら異常は見られなかった。現場となったのは患者の自宅。しかし、その患者は寝たきりの老人で、動くことはおろか話すことすらできないような末期患者だった。
 さらに、モーガン警部の部下であるソワッシュ刑事(グレイドン・クラーク)の乗った車が、ハイウェイを暴走した挙句に崖から転落してしまう。ソワッシュ刑事は即死だった。現場を目撃したパトロール警官の話によると、車は操縦不能の状態だったという。パニックに陥ったソワッシュ刑事は、バックミラーに映るアーノルドの不気味な姿を目撃していた。
 連続する怪事件に頭を抱えるモーガン警部。だが、ソワッシュ刑事が過去に担当した事件を洗っていた彼は、アーノルド・マスターズという名前を見て、あることに気付く。アーノルドの裁判で証言した精神科医こそ、最初に不可解な死を遂げたテイラー医師だったのだ。
 さらに調べると、マーサ・バーンソンがアーノルドの母親を担当した看護婦だったことも判明。いずれの事件も、彼が精神病院を退院した直後から連続して起きている。警部はアーノルドをマークすることにした。
 しかし、アーノルドには動かしがたいアリバイがあった。それでも納得のいかないモーガン警部は、精神病院でアーノルドの主治医だった女医ローラ(ジュリー・アダムス)を呼び寄せる。だが、アーノルドに同情的なローラと警部は意見が全く噛み合わない。
 警察はアーノルドの自宅アパートを隣家から監視していた。モーガン警部の要請でローラも同席する。すると、どうやらアーノルドは死んだように眠っているようだ。試しに電話をかけても全く気付く様子がない。しばらくしてアーノルドが目を覚ましたことを確認した警部は、ローラに様子を見てきて欲しいと頼む。
 久しぶりの再会を喜ぶアーノルドとローラ。そこへ、モーガン警部が急いで駆け込んでくる。つい先ほど、サンダース(ジョセフ・デラ・ソルテ)という弁護士が不可解な死を遂げたというのだ。サンダースはアーノルドの担当弁護士だった。誰もいない工事現場で碑石の下敷きになったという。
 まるで事件を知っていたかのように不敵な微笑を浮かべるアーノルドを見て、モーガン警部は彼が犯人であると確信した。しかし、物理的にはあり得ない話だ。事件の起きた時間帯に彼が自宅にいたことは、その様子を見ていた警部たち自身が知っている。あの“眠り”に何か鍵があるに違いないと考えた警部だが、それが何なのかは皆目見当がつかなかった。
 その晩、モーガン警部の部屋に泊まったローラの前に、アーノルドが暗闇から不気味な姿を現す。そして、次の瞬間には消えてしまった。これは何を意味するのか?そこで、彼女は恩師であるグブナー博士(ネヘマイア・パーソフ)に助けを求めることにする。
 グブナー博士は超心理学の第一人者だった。彼によると、人間の精神や魂が肉体を離脱して自由に歩き回ることもあり得るという。デジャブや虫の知らせなども、そうした現象に起因するものと考えられるのだ。モーガン警部はグブナー博士にも捜査へ協力してもらうことにした。
 だが、その頃またしても凄惨な事件が起きてしまう。価格や衛生面で近所の住民に悪評の高い肉屋レモノフスキー(ネヴィル・ブランド)が、体を引き裂かれて殺されていた。そう、アーノルドはもはや単なる復讐鬼ではなく、恐るべき力を持った殺人鬼として暴走しつつあったのだ・・・。

PSYCHIC_KILLER-9.JPG PSYCHIC_KILLER-10.JPG

ソワッシュ刑事(G・クラーク)の車が暴走

ミラーにはアーノルドの不気味な姿が

PSYCHIC_KILLER-11.JPG PSYCHIC_KILLER-12.JPG

モーガン警部(P・バーク)はアーノルドをマークする

アーノルドの主治医ローラ(J・アダムス)

 『ザ・ギャル狩り〜ターゲットは7月の女〜』の解説でも紹介したように、本作の監督を手掛けたレイ・ダントンは50年代にギャング映画スターとして活躍した俳優。その一方、70年代から80年代にかけては、映画やテレビ・ドラマなどの演出にも腕を振るった。特に、映画では処女作『デスマスター』(72)や『ゾンパイア』(72)といった奇妙なテイストのカルト・ホラーで知られている。
 また、本作で注目したいもう一人の人物が、製作・脚本・役者として参加しているグレイドン・クラーク。彼ももともとは俳優の出身で、Z級映画の迷監督として知られるアル・アダムソンの作品などに出演していた。本作をきっかけに裏方へ回るようになり、その後は監督として『悪魔のチアリーダー』(77)や『死霊のかぼちゃ/13回目のハロウィン』(81)といったカルトなバカ映画を撮っている。ちなみに、脚本に加わったマイク・エンジェルも元俳優仲間らしい。
 そのほか、トビー・フーパーの怪作『悪魔の沼』(76)を手掛けたマーディ・ラスタムとモハメッド・ラスタムの兄弟とラリー・ヒューリーが製作を担当。また、『さよならコロンバス』(69)や『去年の夏』(70)、『ヤング・フランケンシュタイン』(74)、『パニック・イン・スタジアム』(76)など数多くの名作で知られるジェラルド・ハーシュフェルドが撮影監督として参加しているのはちょっと意外かもしれない。

PSYCHIC_KILLER-13.JPG PSYCHIC_KILLER-14.JPG

アーノルドを陥れた弁護士も謎の死を遂げる

ローラの前に現れたのはアーノルドの生霊か?

PSYCHIC_KILLER-15.JPG PSYCHIC_KILLER-16.JPG

超心理学の権威グブナー博士(N・パーソフ)がアーノルドを調べる

肉屋の強欲な店主レモノフスキー(N・ブランド)まで殺される

 主人公アーノルド役を怪演しているジム・ハットンは、あのティモシー・ハットンの父親としても知られる俳優。本作で初めて彼を知った人には想像もつかないかもしれないが、60年代にはポーラ・プレンティスとのコンビで数多くの青春映画に出演したスターだった。
 一方、そんな彼を執念で追うモーガン警部役を演じているのは、『華麗なる賭け』(68)でマックイーンとフェイ・ダナウェイを追う刑事マローン役を演じたことで有名なポール・バーク。古い海外ドラマファンには、戦争ドラマ『頭上の敵機』(64〜67)のギャラガー大佐役でお馴染みかもしれない。
 そして、アーノルドの身の上を案じる女医ローラ役には、ユニバーサル・ホラーの名作『大アマゾンの半魚人』(54)のヒロイン役として今だ根強い人気を誇る往年の美人女優ジュリー・アダムス。
 そのほか、『愛のイエントル』(83)でバーブラ・ストレイサンドの父親役を演じたユダヤ系俳優の重鎮ネヘマイア・パーソフ、往年のB級西部劇スターとして知られるロッド・キャメロン、ギャング映画の悪役としても有名な怪優ネヴィル・ブランド、往年のタフガイ俳優アルド・レイ、60年代の人気SFドラマ『タイム・トンネル』(66〜67)のカーク将軍役で知られるウィット・ビッセルなど、この手の低予算ホラーにしてはなかなか豪華な顔ぶれ。やはり、俳優としての実績のあるレイ・ダントン監督ならではの人脈か。
 ちなみに、ネヴィル・ブランド扮する肉屋の店主と漫才のような喧嘩を繰り広げる客の黒人主婦役として、ゴスペル歌手としても有名なデラ・リースがゲスト出演している。
 また、軽薄な看護婦マーサ・バーンソン役のメアリー・ウィルコックスは、ジョン・キャンディやリック・モラニス、マーティン・ショートなどを生んだ伝説的お笑い番組“SCTV”の脚本兼レギュラー芸人としてエミー賞を受賞したコメディエンヌ。アーノルドにメダリオンを渡す黒人の患者エミリオ役のスタック・ピアースは元フットボールのスター選手で、『ハンマー』(72)や『トレイダー・ホーン』(73)などのアクション映画で活躍した俳優だった。

 

戻る