70年代カルト映画セレクション

 

悪魔の植物人間
The Mutations (1972)
日本では75年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2005 Subversive Cinema (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル・ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/
92分/製作:イギリス

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー(J・カーディフ監督、R・ワインバック、ブラッド・ハリス出演)
オリジナル劇場予告編集
スチル・ギャラリー
音声解説(J・カーディフ監督、R・ワインバック、B・ハリス)
監督:ジャック・カーディフ
製作:ロバート・ワインバック
脚本:ロバート・ワインバック
   エドワード・マン
撮影:ポール・ビーソン
音楽:ベイジル・カーチン
出演:ドナルド・プレザンス
   トム・ベイカー
   ブラッド・ハリス
   ジュリー・エーゲ
   マイケル・ダン
   スコット・アントニー
   ジル・ヘイワース
   オルガ・アンソニー
   リサ・コリングス

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動物と植物の融合を研究するノルター教授(D・プレザンス)

学生たちは教授の突飛な発想に懐疑的だ

 人間と植物のハイブリッド研究に勤しむ頭のイカれた大学教授が若い学生たちを次々と実験台にし、出来損ないのモンスターをカーニバルの見世物小屋へと送り込むという前代未聞の罰当たりなフリークス映画。しかも、これをデボラ・カー主演の『黒水仙』(46)でオスカーを受賞し、『赤い靴』(48)や『アフリカの女王』(51)、『戦争と平和』(56)、『王子と踊子』(57)など数多くの名作を手掛けた大御所中の大御所カメラマン、ジャック・カーディフが監督を手掛けたという、いろいろな意味で驚愕すべき一本と言えるだろう。
 下敷きとなったのはトッド・ブラウニング監督によるフリークス映画の古典『怪物團(フリークス)』(32)。教授の片腕として働く“世界で一番醜い男”リンチは見世物小屋の共同経営者だが、自らの醜い容姿に対する強烈なコンプレックスからフリークスたちを嫌悪している。彼が“俺はお前らみたいな怪物とは違う”と怒鳴り散らすシーンや、復讐に燃えるフリークスたちによって殺されるクライマックスなどは、明らかにブラウニング作品に対するオマージュ。そこへ、いわゆる『フランケンシュタイン』的なマッド・サイエンティスト物のエッセンスを盛り込んだのが、この『悪魔の植物人間』というわけだ。
 教授の作り出す植物人間は特殊メイクを使った着ぐるみだが、見世物小屋のフリークスたちは本物の身体障害者。そもそも、植物人間の特殊メイク・デザインもグロテスクでシュールだし、後味の悪いストーリー展開も一種独特のイヤ〜な雰囲気を漂わせる。原色を強調したテクニカラーの映像もかなり不気味だ。
 必ずしも良く出来た映画とは言い難いし、正直なところ非常に観客を選ぶ作品ではある。人によっては、かなり気分を害することだろう。なので、おいそれと人様にオススメなんぞ出来ないものの、カルト映画と呼ばれるジャンルの中でも極めて異色かつ奇妙な怪作であることは間違いない。

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醜い大男に誘拐されるブリジット(O・アンソニー)

大男はノルター教授の右腕リンチ(T・ベイカー)だった

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ノルター教授は既に動物と植物の融合実験を行っていた

アメリカ人のバイオ科学者メドフォード博士(B・ハリス)

 地球上の生物は太古の時代から突然変異を繰り返しながら進化してきた。もちろん、我々人類も例外ではない。近い将来の劇的な環境変化によって、新たなタイプの人類が誕生することになるだろう。全ての生き物はお互いに密接な関わりを持っている。それぞれに優れたDNAを持っている動物と植物が融合すれば、どんな環境にも対応できる完璧な生命体が誕生するに違いない。それが、大学で教鞭を執るノルター教授(ドナルド・プレザンス)の持説だった。
 そんな教授の講義を悪趣味な夢物語だとして笑い飛ばすヘイディ(ジュリー・エーゲ)、トニー(スコット・アンソニー)、ローレン(ジル・ヘイワース)、ブリジット(オルガ・アンソニー)ら学生たち。ところが、仲間と別れて一人で帰路に着いたブリジットが、醜い顔をした大男に誘拐されてしまう。
 大男の正体はリンチ(トム・ベイカー)というカーニバルの見世物小屋を経営する男。彼は誘拐したブリジットをノルター教授のもとへ届ける。実は、ノルター教授は動物と植物の融合実験に成功しており、次はそのDNAを人間の体に注入して新たな生命体を作ろうと考えていたのだ。
 リンチは“世界で一番醜い”と呼ばれる己の醜く歪んだ顔に猛烈なコンプレックスを抱いていた。教授はその心理を巧みに操り、実験が成功すればその醜い容姿も治療することが出来るとそそのかし、自分の手先としていいように利用していた。
 だが、実験は教授の思うように上手くはいかない。そこで、教授は失敗作として生まれた奇形ミュータントをリンチの経営する見世物小屋へと送り込んで金儲けに使っていた。しかし、失敗作は生命力が弱いためにすぐ死んでしまう。その死体を密かに棄てるのもリンチの役割だった。
 その翌日、トニーたちは空港へ客人を迎えに出かける。その客人とは、バイオ科学の権威であるアメリカ陸軍のメドフォード博士(ブラッド・ハリス)。学生たちと共にノルター教授の講義に参加したメドフォード博士は強い感銘を受け、教授の実験室も見学させてもらった。だが、トニーは教授の研究は邪悪であると強い嫌悪感を抱く。
 そんなある日、トニーやヘイディはメドフォード博士を連れてカーニバルへと遊びに出かける。興味本位で見世物小屋に足を踏み入れた彼らは、ヒゲ女やサル女、プレッツェル男にワニ肌女、目玉の飛び出すポップアイといったフリークスたちを目の当たりにして度肝を抜かれる。
 一座の目玉は、最近になって発見されたというトカゲ女。別料金を払ってトカゲ女のいる特別室へ入ろうとした一行は、入り口に立っている小人バーンズ(マイケル・ダン)の首からぶら下がっているメダリオンを目にして驚く。それは、行方不明のブリジットがしていたものと全く同じだった。まずいと感じたバーンズは、適当な理由をつけてトニーたちを追い返してしまう。
 そう、このトカゲ女こそ、実は融合実験に失敗したブリジットの成れの果てだったのだ。見世物小屋を怪しいと睨んだトニーは一人で引き返し、こっそりと中へ潜入するが、リンチに発見されて捕えられてしまった。
 見世物小屋のフリークスたちも、リンチの不審な行動や何処からか現れては消えていく正体不明の奇形人間の存在に、普段から大きな疑問を抱いていた。そればかりか、自分たちを見下す横暴なリンチの存在そのものに強い憤りを感じている。また、小人のバーンズは見世物小屋の共同経営者で、ノルター教授やリンチの秘密を唯一知っている人物だが、本心では関わりあいたくないと考えていた。
 その頃、捕らわれたトニーはノルター教授の新たな実験台となっていた。ヘイディやローレンたちは、彼の姿が見えなくなったことを心配している。中でも、恋人のローレンは心配でいてもたってもいられなかった。そこへ、ノルター教授の実験室から逃げ出したトニーがやって来る。喜びいさんで玄関のドアを開けるローレン。しかし、彼女の目に飛び込んできたのは異形のミュータントと化したトニーだった・・・!

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メドフォード博士はノルター教授の研究に感銘を受ける

カーニバルへとやって来た学生たちとメドフォード博士

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生まれつき両足が湾曲したプレッツェル男

目玉が飛び出すポップアイ

 製作と脚本を担当したロバート・ワインバックは、60年代からスペインやイギリスなどで低予算映画を手掛けたアメリカ人プロデューサー。トッド・ブラウニングの『怪物團(フリークス)』の熱烈なファンで、これまでに50回以上は見ているという。本作もブラウニング作品へのオマージュとして企画されたものだったらしい。
 そのワインバックと共に脚本を手掛けたエドワード・マンは、テレンス・フィシャー監督の『血に飢えた島』(66)やオリバー・ストーン監督の処女作『邪悪の女王』(74)などにも参加していた脚本家。もともとはマンガ家の出身だったらしく、監督としても幾つかの作品を残している。
 撮影監督のポール・ビーソンは、ディズニーの『放浪の王子』(62)や『クレタの風車』(64)、シドニー・ポワチエ主演の『いつも心に太陽を』(67)などの名作を幾つも手掛けたイギリスの名カメラマン。また、音楽を手掛けたベイジル・キーチンは、“アンビエント・ミュージックの父”とも呼ばれる実験音楽の大家。本作ではアバンギャルド・ジャズに環境音のサンプリングや電子楽器で作った不協和音などをコラージュした独特のスコアを披露しており、より一層のことビザールな雰囲気を高めている。
 ちなみに、本作の製作費はたったの41000ドル。当時の貨幣価値に換算してみても、映画の製作費とは思えないような金額だ。監督のジャック・カーディフ以下、一流のスタッフやキャストの顔ぶれを考えれば、これだけの低予算で作ることが出来たこと自体が半ば奇跡と言っても良かろう。まさに、ロバート・ワインバック恐るべしである。

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見世物小屋へと忍び込むトニー(S・アンソニー)

そこにいたのは実験台にされたブリジットの成れの果てだった

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行方不明になったトニーを心配するヘイディ(J・エーゲ)

恋人ローレン(J・ヘイワース)のもとへ帰って来たトニーだったが・・・

 ノルター教授役を演じているのは、『007は二度死ぬ』(67)の悪漢ブロフェルド役や『ハロウィン』シリーズのルーミス医師役でもお馴染みの名優ドナルド・プレザンス。彼自身が捉えどころのない個性を持った役者ゆえ、常軌を逸したマッド・サイエンティストというのは見事なハマリ役だ。
 逆に意外なキャスティングだったのは、メドフォード博士役を演じているブラッド・ハリス。『ヘラクレスの怒り』(64)など、イタリアのスペクタクル史劇やマカロニ・ウェスタンで活躍したアメリカ人マッチョ俳優だ。どこからどう見ても科学者という雰囲気ではないのだが、この役柄自体が科学者らしからぬ肉体派ゆえ、意外と違和感はない。そもそも、結局はヒロインを助けるために活躍するヒーロー的な役回りなので、別に科学者という設定にする必要もなかったようにも思うのだが(笑)なお、ハリスはロバート・ワインバックの古い親友だったらしく、本作では共同製作者としても名を連ねている。
 ノルター教授の右腕である異形の巨人リンチ役を演じているのは、『ニコライとアレクサンドラ』(71)の怪僧ラスプーチン役でゴールデン・グローブ賞候補になったトム・ベイカー。イギリスでは人気テレビ・シリーズ『ドクター・フー』(74-81)のドクター・フー役でもお馴染みのスターだ。
 そのほか、『女王陛下の007』(69)のボンド・ガールとしても有名なジュリー・エーゲ、『愚か者の船』(65)でオスカー候補になった有名な小人俳優マイケル・ダン、悲劇的な運命を辿るユダヤ人少女を演じた『栄光への脱出』(60)で脚光を浴びたジル・ヘイワースなど、低予算映画らしからぬ豪華なキャストが揃っている。

 

 

恐怖と戦慄の美女
Trilogy of Terror (1975)

劇場未公開テレビ映画
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2006 Dark Sky Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:
ALL/79分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
カレン・ブラック インタビュー
K・ブラックと脚本家の音声解説
監督:ダン・カーティス
製作:ダン・カーティス
脚本:ウィリアム・F・ノーラン
   リチャード・マシスン
撮影:ポール・ローマン
音楽:ロバート・コバート
出演:カレン・ブラック
   ロバート・バートン
   ジョン・カーレン
   ジョージ・ゲインズ
   ジム・ストーム
   グレゴリー・ハリソン
   キャスリン・レイノルズ

 60年代のテレビの有名なホラー・アンソロジー・シリーズ“Dark Shadows”(66-71)の監督兼脚本家として知られ、『凄惨!狂血鬼ドラキュラ』(73)や『残酷・魔性!ジキルとハイド』(73)などのテレビ映画を数多く手掛け、一部のホラー・マニアの間でカルト的な人気を得ているダン・カーティス監督。そのフィルモグラフィーの中でも特に根強い人気を誇る作品が、この『恐怖と戦慄の美女』である。
 物語は全3話からなるオムニバス形式。それぞれ何らかの問題を抱えた女性を巡る恐怖譚を描いており、一応は平凡な女性の中に潜む魔性というものをテーマにしているようだ。とはいえ、いずれも設定はごくありふれたもので、皮肉を利かせたどんでん返しも残念ながら意外性に乏しい。SFミステリー小説の大家としても有名な脚本家リチャード・マシスンが絡んでいるとはいえ、どうにも平凡な印象は否めない仕上がりだ。
 恐らく、本作がカルト映画と呼ばれる理由は主に2つあると考えられる。1つめは全てのエピソードでヒロイン役を務める女優カレン・ブラックの怪演。もともとアクの強い個性的なタイプの女優さんだが、本作でのやり過ぎとも言える過剰演技はなかなかインパクト強烈で、彼女の存在そのものがある種のホラーと言えよう。呪術人形に襲われる最後のエピソードの恐怖演技なんぞは、人形よりもアンタの顔の方が怖いよ!と言いたくなるような迫力だ。
 そして2つめが、その最後のエピソードに登場するインディアンの呪術人形。作りそのものはかなりチャチなのだが、ロングヘアの気色悪い顔立ちとぎこちない動きはやけにシュールでビザール。これまたなかなかインパクトの強いヤツで、あのチャッキーの元ネタとも言われている。
 あくまでもテレビ映画なので、残酷描写やバイオレンス描写は限りなくゼロに等しい。個人的にはそれほど面白いとも思えないような作品だが、カルト映画マニアであれば一度くらい見ておいても損はないかな、とも思う。

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地味な大学講師ジュリー(K・ブラック)

しつこくジュリーを口説く学生チャド(R・バートン)

チャドはジュリーのドリンクに睡眠薬を混ぜた

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ジュリーのあられもない格好を写真に撮るチャド

その写真を使ってジュリーを脅迫する

次第に恐るべき本性を現すジュリー

第1話「Julie」
 ジュリー・アルドリッチ(カレン・ブラック)は大学で文学を教える地味で堅物のオールド・ミス。そんな彼女に、軟派なプレイボーイのチャド(ロバート・バートン)が遊び半分で接近する。しつこくデートに誘おうとするチャドだったが、ジュリーはなかなか守りが固い。
 ようやく、ジュリーとドライブイン・シアターで映画を見ることになったチャド。彼は差し入れたドリンクに睡眠薬を混ぜ、ジュリーを近くのモーテルへと連れ込んだ。そして、意識を失った彼女の赤裸々な写真を撮影した上で、肉体を陵辱する。やがてジュリーは車の中で目を覚まし、チャドは何事もなかったかのように彼女を自宅へと送り届けた。
 その翌朝、ジュリーはチャドから呼び出される。そこで彼女が見せられたのは昨夜のあられもない写真だった。チャドは、この写真をばら撒かれたくなければ今後は自分の奴隷となるよう脅迫する。ジュリーは渋々うなづく。
 かくして、ジュリーの前では我がもの顔で振舞うようになるチャド。しかし、彼は地味で大人しいジュリーの恐るべき本性を思い知らされることとなる・・・。

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地味で根暗な女性ミリセント(K・ブラック)

ファミリー・ドクターのラムゼイ医師(G・ゲインズ)

双子のテレーズ(K・ブラック)がラムゼイを出迎える

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ラムゼイ医師を誘惑しようとするテレーズ

ミリセントから不可解な電話が

怪訝に思ったラムゼイ医師が見たものとは・・・

第2話「Millicent and Therese」
 裕福な家庭に生まれた双子の姉妹ミリセント(カレン・ブラック)とテレーズ(カレン・ブラック)。明るくて社交的なブロンドのテレーズは幼い頃から誰からも愛されていたが、地味で根暗なブルネットのミリセントはいつも貧乏くじばかり引かされていた。
 それゆえに、ミリセントはテレーズのことを心の底から忌み嫌っている。だが何よりも、彼女はテレーズの本性を嫌というほど知り尽くしていた。表向きはチャーミングなテレーズだが、それはあくまでも全て計算づくのこと。周囲の人間を騙して奈落の底へと突き落とす魔性の女なのだ。
 テレーズの邪悪な振る舞いに我慢も限界に達したミリセントは、ファミリー・ドクターのラムゼイ医師(ジョージ・ゲインズ)へ相談を持ちかける。ミリセントからの連絡を受けて屋敷へと向かったラムゼイ医師だったが、彼を出迎えたのはテレーズだった。彼女はその微笑と肉体で彼を誘惑しようとするが、理性的なラムゼイ医師には全く通用せず、ジュリーは地団太を踏んで悔しがる。
 その翌日、ラムゼイ医師はミリセントから“もう何も心配することはない”という一方的な電話を受け取った。その声の様子にただならぬものを感じた彼は、姉妹の住む屋敷へと急行する。そこで彼はテレーズの死体を発見するのだったが・・・。

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精神的なトラウマを抱えた女性アメリア(K・ブラック)

ズーニー族の戦士を模った人形が届く

母親と口論になり気が動転するアメリア

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リビングの方から物音が・・・

邪悪な魂を持った人形が襲いかかる

恐怖に逃げまどうアメリアだったが・・・

第3話「Amelia」
 高層マンションに一人で暮らすアメリア(カレン・ブラック)は、過保護な母親からの干渉に長いこと悩まされ続け、精神的なトラウマを抱えた女性。最近になってようやく親元を離れ、自立した女性としての第一歩を踏み出したばかりだった。
 そんな彼女のもとへインディアンの人形が届く。それはズーニー族の戦士をかたどったもので、実際に死んだ戦士の魂が封印されているという。人形に架けられた黄金のチェーンは、その魂を鎮めるためのお守りだった。
 ところが、恋人の存在を巡って母親と電話で激しく言い争いをしたアメリアは気が動転し、黄金のチェーンが外れてしまったことに気付かなかった。リビングへと戻ってきた彼女は、人形の姿が見えないことに気付く。すると、キッチンの方から妙な物音がする。行ってみると包丁が一本消えていた。
 さらに、今度はリビングから物音が聞こえ、恐る恐る様子をうかがうアメリア。そんな彼女に、なんとあのインディアン人形が襲い掛かってきた・・・!

 一応、第1話と第2話がウィリアム・F・ノーランの脚本で、第3話はリチャード・マシスンの短編小説を彼自身が脚色したもの。ノーランもマシスンと同じようにSFミステリー小説やファンタジー小説で知られるベスト・セラー作家。『2300年未来への旅』(76)として映画化もされた“Logan's Run”シリーズが最も有名だ。また、脚本家としても幾つかの作品に関わっており、中でもダン・カーティス監督とは本作以外にもテレビ映画『マシンガン・ケリー』(73)や劇場用映画『家』(76)で組んでいる。
 撮影監督を担当したポール・ローマンは、ロバート・アルドリッチ監督の『ナッシュビル』(75)や『ビッグ・アメリカン』(76)、メル・ブルックス監督の『サイレント・ムービー』(76)や『新サイコ』(77)などの名作・ヒット作を数多く手掛けたカメラマン。また、“Dark Shadows”時代から度々ダン・カーティス監督と組んでいる作曲家ロバート・コバートが音楽スコアを担当している。
 ちなみに、本作はもともとホラー・アンソロジー・シリーズのパイロット版として製作されたものの、当時の視聴率はあまり芳しくなかったらしく、シリーズそのものはキャンセルされてしまった。その一方で、ホラー・ファンや評論家からは概ね好評だったらしく、口コミで評判が広まったことからカルト的な人気を得るようになったようだ。

 4人のヒロイン役を演じているのは、当時ハリウッドでもトップ・クラスの人気スターだった女優カレン・ブラック。『ファイブ・イージー・ピーセス』(70)の下品だけど一途で可愛いウェイトレス役で大評判となり、『エアポート'75』(74)や『イナゴの日』(75)、『ファミリー・プロット』(76)などの大作に続々と主演。お世辞にも美人とは言えない個性的なルックスが、あの時代の空気とマッチしていたのかもしれない。『スペース・インベーダー』(86)辺りからB級路線まっしぐらとなり、すっかりホラー系のカルト女優に。最近ではロブ・ゾンビ監督『マーダー・ライド・ショー』(03)で演じた殺人鬼一家のママ役が印象深い。アメリカン・ニュー・シネマの生み出した徒花的な女優だ。
 そんな彼女の脇を固めているのは、当時カレンの夫だったロバート・バートン、『ポリス・アカデミー』シリーズのラサール校長役でもお馴染みの名優ジョージ・ゲインズ、ハリー・クーメル監督の傑作バンパイア映画“Les Levres Rouges”(71)で吸血美女に魅せられる若者を演じたジョン・カーレンなどなど。とはいえ、殆んどカレン・ブラックの独擅場とも言うべき作品である。

 

 

センチネル
The Sentinel (1977)
日本では1977年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 Universal (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/92分/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:マイケル・ウィナー
製作:マイケル・ウィナー
   ジェフリー・コンヴィッツ
原作:ジェフリー・コンヴィッツ
脚本:マイケル・ウィナー
   ジェフリー・コンヴィッツ
撮影:ディック・クラティナ
特殊メイク:ディック・スミス
音楽:ギル・メレ
出演:クリス・サランドン
   クリスティナ・レインズ
   マーティン・バルサム
   ジョン・キャラダイン
   ホセ・ファーラー
   エヴァ・ガードナー
   アーサー・ケネディ
   バージェス・メレディス
   シルヴィア・マイルズ
   デボラ・ラフィン
   イーライ・ウォラック
   ジェフ・ゴールドブラム
   ジェリー・オーバック
   クリストファー・ウォーケン
   ビヴァリー・ダンジェロ
   ハンク・ギャレット
   ウィリアム・ヒッキー
   トム・ベレンジャー

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トップ・モデル、アリソンの父親が急死した

アリソン(C・レインズ)は父の死を悲しむことができない

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父親は女好きの堕落した暴君だった

少女時代から自殺未遂を繰り返したアリソン

 『エクソシスト』(74)や『オーメン』(76)の大ヒットで空前のオカルト映画ブームに沸いた70年代。ブームに便乗した亜流映画も湯水のごとく大量に作られた。その中でも個人的に最も好きな作品が、この『センチネル』である。
 センチネルとは“見張り番”という意味。主人公のトップ・モデル、アリソンはニューヨークの古いアパートメントに引っ越してくる。次々と起きる怪現象、不気味で風変わりな隣人たち、そして最上階に住む盲目の老神父。実は、このアパートは悪魔を封印する場所であり、盲目の老神父はそのセンチネル(見張り番)なのだ。
 そして、アリソンがこのアパートに住むことになったのは決して偶然ではなかった。数百年に渡って代々受け継がれてきたセンチネルたち。その共通点は、キリスト教で大罪とされている“自殺”未遂の経験者ということ。実は、アリソンも過去に自殺未遂を2度起こしている。教会は死期の迫った老神父の代わりとして、アリソンを次のセンチネル候補にと考えていたのだ。
 そうはさせまいと、アリソンを自殺へ追い込もうとする隣人たち。彼らは生前に殺人を犯した大罪人で、悪魔の手先として甦ったのだ。視力を奪われた上に外へ一歩も出ることが出来ないセンチネルになるか、それとも自殺を遂げて永久に地獄へと堕ちるか。果たして、アリソンに残された道は本当にこの二つだけなのか!?
 ニューヨークの古いアパートに不気味な隣人たち、現代社会の片隅に息づく悪魔の恐怖など、『ローズマリーの赤ちゃん』(68)や『エクソシスト』を多分に意識したと思われる作品。しかし、そこへ“代々受け継がれる悪魔の見張り番”という、いわゆる都市伝説的な要素を盛り込んだのが本作のすこぶる面白い独創性だ。
 また、当時のメジャー映画としては異例中の異例とも言えるほどの過激な性描写、暴力描写、残酷描写の数々にも驚かされる。確かに、70年代のアメリカ映画界は大いなる表現の自由を謳歌し、今見てもビックリするほどの直接的なセックスやゴアの描写が目立った。
 とはいえ、インディペンデント映画やヨーロッパ映画に比べると、ハリウッド・メジャー作品における性描写や残酷描写にはまだまだ制限が多かったのも事実。ところが、本作では醜悪な娼婦たちと老人によるセックス・シーンからニンフォマニアのレズビアンによる変態オナニー、ナイフでそぎ落とされる鼻やグジャグジャに潰れる眼球など、露骨なエログロ描写がこれでもかと盛りだくさん。しかも、クライマックスでは本物の身体障害者たちが悪魔の下僕としてゾロゾロ出てくる。当時としては、相当な罰当たりぶりだ、つまり、本作は独立系のエクスプロイテーション映画的な性質を持ったメジャー・スタジオ作品だったと言えよう。
 その一方で、豪華絢爛たるオールスター・キャストにゴシック・ムード溢れる重厚なプロダクション・デザイン、流麗なカメラワークによる美しいビジュアルなど、メジャー映画らしい堂々たる作風も大変魅力的だ。ショッキングなクライマックスへ向けて謎の一つ一つが論理的に結び合わさっていく脚本も見事だし、コマ割りを巧みに使ったスプラッター・シーンも実に効果的でスタイリッシュ。低予算のB級映画とは一線を画するような風格を感じさせる立派な大作だ。
 そういえば、往年の大物ハリウッド・スターを配した豪華なキャスティングからは、当時のパニック映画ブームの影響も少なからず感じ取ることが出来る。つまり、これは70年代という時代にしか生まれ得ることの出来ないホラー映画だったとも言えよう。いずれにせよ、ホラー映画ファン及びカルト映画ファンならば絶対に見ておかなくてはならない傑作だ。

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恋人のマイケル(C・サランドン)はやり手の弁護士

アリソンは一人暮らしを始める

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最上階に住むハロラン神父(J・キャラダイン)は盲目だった

変わり者の隣人チャールズ(B・メレディス)

 ニューヨークで活躍するトップ・モデル、アリソン・パーカー(クリスティナ・レインズ)は、恋人の弁護士マイケル(クリス・サランドン)と同棲生活を送っていた。マイケルは彼女との結婚を真剣に考えているが、アリソンはどうしても二の足を踏んでしまう。しばらく一人の時間が欲しいと考えた彼女は、市内で一人暮らし用のアパートを探していた。
 そんな折、故郷のボルチモアから連絡が入った。父親が亡くなったのだ。葬儀へ出席するために急きょ実家へ帰ったアリソン。しかし、彼女は父親の死を素直に悲しむことは出来なかった。彼女の父親は地元の名士で大富豪だったが、その一方で大変な暴君でもあった。家に娼婦たちを連れ込むような男で、そんな父親に傷つけられることの多かったアリソンは、過去に自殺未遂を2回も起こしている。父の理不尽と横暴に耐え続けてきた母親の姿を見ていると、彼女は結婚が素晴らしいことだとはあまり思えなかったのだ。
 ニューヨークへ戻ったアリソンは、新聞広告で良さそうな物件を見つけた。不動産屋のミス・ローガン(エヴァ・ガードナー)に案内されたそのアパートは、戦前のアール・デコ様式を残した趣のある建物で、アリソンは人目で気に入った。ただ、家賃が予算をかなりオーバーしていたので諦めようとしたのだが、なぜかミス・ローガンは即座に大幅な値下げを申し出る。
 その場で契約書にサインをしてアパートを出たアリソン。ふと上を見上げると、最上階の窓際から外を見つめている人影に気付く。ミス・ローガンによると、それはハロラン神父(ジョン・キャラダイン)という隠居人で、もう何十年もこのアパートに住み続けているのだという。誰も彼が外へ出てくる姿を見たことがなく、しかも全盲だというのだ。アリソンはふと疑問に思う。目が見えないのに、なぜ窓の外をじっと眺めているのか?
 そのハロラン神父以外の住人たちも変わり者ばかり。世話好きの老人チャールズ(バージェス・メレディス)は親切で人懐こいが、アリソンの私生活についてあれこれと詮索をしている様子。階下に住むゲルデ(シルヴィア・マイルズ)とサンドラ(ビヴァリー・ダンジェロ)はレズビアンのカップルで、どちらも相当にエキセントリックだ。目の前でオナニーに耽るサンドラや薄ら笑いを浮かべるゲルデに、アリソンは言いようのない不快感を覚える。他にも、ここには様々な人々が住んでおり、誰もが表向きは明るく親切なのだが、どうも薄気味悪い雰囲気を漂わせていた。
 さらに、アパートに越してきて以来、アリソンはたびたび原因不明の頭痛や目まいに襲われるようになる。また、夜な夜な誰も住んでいないはずの上階から不気味な物音が聞こえ、すっかり睡眠不足に悩まされてしまう。ミス・ローガンのもとへ相談に訪れたアリソンだったが、そこで信じられない事実を聞かされた。このアパートにはハロラン神父とアリソン以外には誰も住んでいないというのだ。
 そんなはずはないと、ミス・ローガンを連れてアパートの各階を確認するアリソン。だが、確かにどこも空き家で埃をかぶった状態。どうにも腑に落ちないまま、アリソンはアパートで夜を迎える。すると、再び上階から怪しげな物音が。ナイフを片手に確認に向かったアリソンは、暗闇の中から飛び出してくる亡き父親の姿を見た。パニックに陥った彼女は無我夢中で父親をメッタ刺しにし、血だらけのまま悲鳴を上げて外へ出たところを近隣の住民に保護される。

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レズビアンのゲルデ(S・マイルズ)とサンドラ(B・ダンジェロ)

どこか薄気味悪さを漂わせたアパートの住人たち

 病院の待合室でアリソンの回復を待つマイケル。そこへ警察のギャッツ刑事(イーライ・ウォラック)とリッツォ刑事(クリストファー・ウォーケン)がやって来る。実は、マイケルの前妻カレンは2年前に不可解な自殺を遂げていた。当時マイケルとカレンが離婚を巡って争っていたことから、ギャッツ刑事はマイケルの仕組んだ偽装自殺ではないかと考えていた。だが、裁判では残念ながら立証できなかったのだ。そして、今回の事件もマイケルがアリソンを自殺に追い込むために仕組んだ罠なのではないかと、ギャッツ刑事は疑っていたのである。
 その直後に、市内の廃棄場でブレナー(ハンク・ギャレット)という私立探偵の他殺体が発見された。死亡推定時刻はアリソンの事件とちょうど同じ頃。実は、マイケルは知人ブレナーに頼んでアパートの様子を探らせていたのだが、その事実を掴んだ警察はより一層のことマイケルに対する疑惑を深める。また、アリソンが証言しているアパートの住人についても調べていた警察は、彼らが既に処刑された凶悪犯であることを突き止めた。果たして、これらの意味することとは?
 一方、マイケルは回復したアリソンと共にアパートを訪れ、彼女の記憶を論理的に分析しようとしていた。その際、本棚に並べられた本をめくっていたアリソンは、どの本にも同じことしか書かれていないことに気付いて困惑する。ところが、マイケルの見る限りどれも何の変哲もない本ばかりだ。不審に思ったマイケルは、アリソンの目に映る文章をメモに書き取らせる。それは古いラテン語だった。
 メモを持ってルジンスキー教授(マーティン・バルサム)という専門家のもとを訪れるマイケル。教授に翻訳してもらったところ、その文字は“汝、この幸福な場所を邪悪な者から守るために見張るべし”という意味だった。アパートの所有者がカトリック団体であることを知ったマイケルは、教会とハロラン神父の関係、そしてこのラテン語の意味するところを突き止めようとする。
 その頃、心身ともに衰弱しきったアリソンは、8年ぶりに教会へと足を踏み入れた。自殺未遂を繰り返して以来、彼女は教会とキリストに対する不信感を持っていたのだ。そんな彼女に近づいてきた一人の牧師。彼の名はフランチーノ司祭(アーサー・ケネディ)といい、ある目的のためにバチカンから送り込まれた人物だった。
 カトリック教会の本部を訪れたマイケル。彼を出迎えたのもフランチーノ司祭だった。ハロラン神父と教会との関係を問いただすマイケルだったが、フランチーノ司祭は当たり障りのない言葉で受け流す。マイケルは去り際にラテン語の言葉に心当たりはないかと訊ねるが、やはり司祭は知らぬ存ぜぬを通した。だが、マイケルが帰ったと同時にフランチーノ司祭の表情には動揺が広がり、彼はあることを確信するのだった。
 その晩、フランチーノ司祭が怪しいと睨んだマイケルは泥棒ペリー(ウィリアム・ヒッキー)と共にカトリック団体の建物に忍び込む。ファイルをひっくり返していた彼は、やがて恐るべき真実を知るのだった。というのも、もともとハロラン神父はウィリアム・オロークという一般人で、自殺未遂を起こした直後に神父となってあのアパートに住むようになっていたのだ。彼の前にも全く同じような経歴の人々が、あのアパートの最上階に住んでいる。それも数百年に渡って受け継がれていた。
 さらに、最後のファイルをめくったマイケルは愕然とする。そこにはアリソンの名前と写真が貼り付けられていたのだ。彼女の身に危険が迫っている。アリソンの親友ジェニファー(デボラ・ラフィン)に彼女から目を放さないよう頼んだマイケルは、意を決してアパートへと乗り込むのだったが・・・。

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体調不良のアリソンを心配するジャックとジェニファー(D・ラフィン)

不動産屋ミス・ローガン(A・ガードナー)は住人などいないと言う

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怪しげな物音の正体を突き止めようとするアリソン

暗闇から現れたのは死んだはずの父親だった

 カトリック教会が悪魔と同じくらい、もしくはそれ以上に恐ろしい存在として描かれているのも本作の大きな特色。いかにも70年代的なニヒリズムやペシミズムに基づいた作品と言えるかもしれない。原作は74年に出版されてベスト・セラーとなったジェフリー・コンヴィッツのモダン・ホラー小説。そのコンヴィッツ自身が、本作でも脚色と製作に携わっている。
 そして、コンヴィッツと共に脚色及び製作を担当し、さらに演出も手がけたのがマイケル・ウィナー。チャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば』(74)を筆頭に、オリバー・リード主演の『脱走山脈』(68)やアラン・ドロンとバート・ランカスター主演の『スコルピオ』(73)など、主にアクション映画の監督として知られる名匠だ。マーロン・ブランドが『ラスト・タンゴ・イン・パリ』以前に大胆なセックス・シーンに挑んだSMサスペンス『妖精たちの森』(71)も衝撃的な作品だった。
 ハイテンションなスピード感と刺激的なエンターテインメント性というのがウィナー作品の身上。本作でも彼独特の賑々しさは十二分に発揮されている。そのいい意味での即物的な作家性は、ホラー映画との相性抜群と言っても良かろう。それだけに、これが彼にとって唯一の本格的なホラー映画だったというのが残念でならない。
 撮影監督を担当したディック・クラティナは『ハーレム愚連隊』(72)や『スーパー・コップス』(74)などのブラクスプロイテーション映画で知られるカメラマンで、ウィナー監督とはジェームズ・コバーン&ソフィア・ローレン主演の『リベンジャー』(79)でも組んでいる人物。
 また、特殊メイクには『ゴッドファーザー』(72)や『アマデウス』(84)で知られる大御所ディック・スミス、特殊効果には『大地震』(74)や『ヒンデンブルグ』(75)でオスカーを受賞したアルバート・ホイットロックが参加。『オール・ザット・ジャズ』(79)でオスカーを受賞したフィリップ・ローゼンバーグが、壮麗で重厚なプロダクション・デザインを手掛けている。

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無我夢中で父親をメッタ刺しにしたアリソンだったが・・・

半狂乱のまま表通りへと飛び出したアリソン

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ギャッツ刑事(E・ウォラック)はマイケルを疑っていた

アリソンの前に現れたフランチーノ司祭(A・ケネディ)

 ヒロインのアリソン役を演じているのは、白血病に冒された若妻を演じた『サンシャイン』(73)と『続サンシャイン』(75)で日本でもアイドル的人気のあった美人女優クリスティナ・レインズ。演技力はともかくとして、グレイス・ケリーを思わせる美貌と黒髪の親しみやすさは、今見ても全く時代に色褪せていない。
 その親友ジェニファー役を演じているデボラ・ラフィンも、爽やかな青春映画『ダブ』(74)やカーク・ダグラスの相手役を演じた『いくたびか美しく燃え』(75)などで活躍していた清楚な美人スター。日本でも日本語のレコードをリリースするなど人気が高かった。どうやら二人は私生活でも親しかったらしく、後にクリスティナはデボラの主演作『ラスト・レター』(79)にゲスト出演している。
 そして、アリソンの恋人マイケル役を演じているのは、『狼たちの午後』(75)のオカマ役でオスカー候補となった怪優クリス・サランドン。スーザン・サランドンの元ダンナで、『フライトナイト』(85)のバンパイア役や『チャイルド・プレイ』(88)の刑事役でも御馴染みだろう。そのニューロティックな個性は、いかにも裏のありそうな弁護士マイケルという役柄にピッタリだ。
 また、脇役の中で特に目立っているのが、奇妙な老人チャーリー役のバージェス・メレディス、不気味なレズビアンのオバさんゲルデ役のシルヴィア・マイルズ、そしてマイケルを執拗に追うギャッツ刑事役のイーライ・ウォラック。メレディスは『ロッキー』シリーズのミッキー役(オスカー候補)で、マイルズは『真夜中のカーボーイ』(69)の売春婦役(オスカー候補)で、ウォラックは『荒野の七人』(61)の悪漢カルヴェラ役で御馴染みの名優だ。
 さらに、出番こそ少ないものの盲目のハロラン神父役として強烈な印象を残すジョン・キャラダインも、ジョン・フォード監督の『駅馬車』(39)で名高い往年の名優。『結婚しない男』(81)や『ナショナル・ランプーン』シリーズで御馴染みの名コメディエンヌ、ビヴァリー・ダンジェロが、レズビアンのサンドラ役で過激なオナニー・シーンを披露するのもなかなかショッキングだった。
 そのほか、ハリウッド黄金期を代表する大女優エヴァ・ガードナーが不動産屋ミス・ローガン、『サイコ』(60)や『ティファニーで朝食を』(61)のオスカー俳優マーティン・バルサムがルジンスキー教授、『チャンピオン』(49)や『走り来る人々』(58)でオスカー候補になったアーサー・ケネディがフランチーノ司祭、『シラノ・ド・ベルジュラク』(50)でオスカー主演男優賞受賞のホセ・ファーラーがバチカン司祭役として登場。
 さらに、『ザ・フライ』(86)などで日本でも御馴染みのジェフ・ゴールドブラムが写真家ジャック、クリストファー・ウォーケンがリッツォ刑事、ウディ・アレン映画の常連ジェリー・オーバックがCMディレクター、『男と女の名誉』(85)でオスカー候補となったウィリアム・ヒッキーが泥棒ペリーをそれぞれ演じているほか、無名時代のトム・ベレンジャーがラスト・シーンでチラリと顔を出している。

 

 

マッド・フィンガーズ
Fingers (1978)

日本では1981年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2002 Warner Bros. Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・フランス語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/89分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー(J・トバック監督、H・カイテル出演)
監督とH・カイテルの音声解説
オリジナル劇場予告編
監督:ジェームズ・トバック
製作:ジョージ・バリー
脚本:ジェームズ・トバック
撮影:マイケル・チャップマン
出演:ハーヴェイ・カイテル
   ティサ・ファロー
   ジム・ブラウン
   マイケル・V・ガッゾ
   マリアン・セルデス
   ダニー・アイエロ
   トニー・シリコ
   レニー・モンタナ
   タニア・ロバーツ
   ジョルジェット・ミューア
   エド・マリナーロ
   ドミニク・チアネーゼ

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謎の美女キャロル(T・ファロー)に惹かれるジミー(H・カイテル)

ジミーのことを受け入れたかのように思えたキャロルだったが・・・

 『熱い賭け』(74)や『バグジー』(91)の脚本家として知られるジェームズ・トバックの監督デビュー作。ニューヨークのダウンタウンに暮らすピアニスト志望の青年の、暴力と憎しみに満ちた孤独な日常を綴る異色のバイオレンス映画だ。
 主人公はピアニストを目指す青年ジミー・フィンガーズ。何よりも音楽や芸術を愛する彼は、普段は物静かでシャイな性格だ。社会適応能力に欠けており、極端なくらいの人見知り。どこへ行くにもラジカセを片手にオールディズ・ポップスを大音量でかけまくっているが、それも大好きな音楽によって自分の平常心を保つためだ。
 だが、その一方で彼はいったん感情が昂ぶると自分を抑えられなくなる凶暴な男でもある。怒りに火が付くと前後の見境がなくなってしまうのだ。父親は元マフィア幹部の高利貸しで、ジミーは借金の取立て役を任されている。本当は気の進まない仕事だが、いざとなると一切の躊躇はない。
 このように、繊細な芸術家と暴力的なマフィアの両方の顔を併せ持ったジミー。その極端に相反する二つの個性の狭間で、彼は本当の自分というものを見失ってしまっている。心の奥底では誰かに救いを求めたいが、弱肉強食の大都会では拠り所となる相手などいない。
 見せかけの愛情を餌に自分を利用するだけの父親、周囲から固く心を閉してしまった精神病の母親、そして金と快楽ばかりを求める刹那的な女たち。慢性的な孤独と不安に苦しむジミーは、次第に精神のバランスを失い、やがて自己の崩壊へと突き進んでいく。
 ニューヨークの裏町を舞台にしたロケーションや主演のハーヴェイ・カイテルなど、マーティン・スコセッシ作品を彷彿とさせる要素の多い映画ではある。しかし、その演出スタイルはゴダールやジャック・リヴェットといったフランスのヌーヴェル=ヴァーグ作家のものに近い。これといった明確なストーリーがあるわけでもなく、ある種のドキュメンタリー的なリアリズムを持った作品と言えるだろう。
 劇場公開当時はほとんど話題すらならなかったが、その後カルト映画として密かに高い評価を得るようになった。タランティーノやゴダールもお気に入りの作品だという。ことフランスでの評価は高いようで、後にジャック・オーディアール監督の『真夜中のピアニスト』(05)としてリメイクされた。
 確かに娯楽的な要素は希薄だが、そのアートとバイオレンスを繊細なタッチで織り交ぜた作家性には見るべきものがある。知らず知らずのうちに引き込まれていく不思議な魅力を持った作品だ。

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ジミーの父ベン(M・V・ガッゾ)は悪名高い高利貸しだ

ピザ屋の店主ルキノ(L・モンタナ)から借金を取り立てるジミー

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自宅でピアノの練習に没頭するジミー

マフィアのボスの愛人ジュリー(T・ロバーツ)

 ニューヨークはダウンタウンの、とあるアパートの一室。グランド・ピアノに向かって、一心不乱に音楽を奏でていたジミー・フィンガーズ(ハーヴェイ・カイテル)。ふと窓から外を見下ろすと、向かいのバス停に立っている女性の姿が目に入る。
 急いで女性の後を追うジミー。大切そうに握り締めたラジカセからは、大音量のオールディーズ・ポップスが。その姿を面白いと思った彼女は、ジミーの運転する車へ乗り込んでドライブを楽しむ。
 女性の名前はキャロル(ティサ・ファロー)。部屋は彫刻やデッサンで埋め尽くされているが、なにをやって生計を立てているのかは分からない。ジミーの求めに応じて口づけをする彼女だったが、いきなり素っ気ない態度をとり始める。かといって、彼のことを拒絶している風でもない。ジミーは大いに困惑する。
 ジミーの父親ベン(マイケル・V・ガッゾ)は元マフィアの幹部で、今では近隣でも悪名高い高利貸しだ。口が達者で厚かましい父親は、取立てのようにダーティな仕事を全て息子に任せている。本当は気の進まないジミーではあったが、父親の喜ぶ顔が見たくて仕事を引き受けていた。
 借金の返済が滞っているピザ屋の店主ルキノ(レニー・モンタナ)の店を訪れたジミー。最初は大人しく遠慮がちに返済を催促するが、ルキノの横柄で人を見下した態度に激怒。殴る蹴るの激しい暴行を加え、ピストルを構えて脅した。その迫力に圧倒されたルキノは、隠していたヘソクリを渋々と差し出す。
 次にジミーが訪れたのは、デトロイトからニューヨークへとやって来たマフィアのボス、リカモンザ(トニー・シリコ)。彼は鼻から借金など返すつもりもなく、それどころか父親ベンを中傷するような噂を流している張本人だった。しかし、取り巻きのボディガードが多く、ジミーは簡単に近づくことが出来ない。
 そんな彼の目に入ったのは、リカモンザのセクシーな愛人ジュリー(タニア・ロバーツ)。巧みに彼女を口説いて、女子トイレでセックスをしたジミーは、自分の名前を名乗ってリカモンザに伝えるよう言い残す。愛人を寝取られたとなれば、リカモンザも自分を無視はできまい。
 その後、こっそりとキャロルの後を付け回したジミー。彼女は元チャンピオン・ボクサーのドリームス(ジム・ブラウン)が経営する怪しげな店へ入っていくが、そこで何をしているのかは分からなかった。
 ルキノから回収した金を、行きつけのレストランで父親ベンに渡すジミー。父親はすっかり上機嫌で、そんな姿を見ているのがジミーは嬉しかった。しかし、店の中でもラジカセを大音量でかけている彼に、隣で食事をしていたビジネスマンがうるさいと注意する。大好きな音楽のことで文句を言われたジミーは逆上。汚い言葉で相手を罵りながら狂ったように殴りかかった。
 数日後、ジミーはリカモンザとの待ち合わせ場所へ向かう。だが、そこで待っていたのは手下のブッチ(ダニー・アイエロ)とジーノ(エド・マリナーロ)の二人だけ。怒り心頭のジミーだったが、近くを通りかかった警官に脅迫の現行犯で逮捕されてしまう。
 父親の弁護士によって保釈されたジミーは、急いでカーネギー・ホールへ向かった。有名なピアニストだった母親の恩師アーサー・フォックス(ドミニク・チアネーゼ)のオーディションを受けるのだ。しかし、普段自分の部屋で弾いている分には完璧なのだが、他人から見られていることを意識してしまうと、緊張して指が思うように動かない。
 オーディションの帰りに精神病院へ寄ったジミー。鬱病で入院している母親ルース(マリアン・セルデス)に、オーディションに失敗したことを伝える。本当は優しく慰めて欲しいジミーだったが、失望を隠せない母親は露骨に息子のことを拒絶。その憎しみと軽蔑に満ちた眼差しは、ジミーの心を深く傷つけた。
 さらに、リカモンザからの取立てが一向に進まないことに苛立った父親ベンが、ジミーのアパートへ怒鳴り込んでくる。いっそうのこと、ヤツを殺してしまえと命じる父親。だが、ジミーはそれだけは御免だった。父親は“お前なんか子供のうちに殺しておくべきだった”と捨てゼリフを残して去っていく。その心ない言葉に打ちのめされるジミー。
 誰かに愛されたい。ジミーはキャロルのアパートを訪ね、優しくして欲しいと懇願する。そんな彼を何も言わずに抱きしめるキャロル。しかし、セックスが終ると態度を変え、仕事があるから出て行って欲しいと冷たく言い放つのだった・・・。

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キャロルのあとを密かにつけ回すジミー

カーネギー・ホールのオーディションを受けるが・・・

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母親ルース(M・セルデス)は精神病院に入っていた

不安と孤独に打ちひしがれるジミー

 本作の製作を手がけたジョージ・バリーは、モハメッド・アリやハンク・アーロンなどをCMに起用して有名になった男性化粧品ブリュット・シリーズで知られる会社ファベルジェの創業社長だった人物。その傍らで『ウィークエンド・ラブ』(73)や『ダイアン・キートン/可愛い女』(75)などの映画を製作し、作曲家としても『ウィークエンド・ラブ』の主題歌でオスカー候補になるというマルチな才能の持ち主だった。
 ニューヨークの下町をスタイリッシュかつリアルな映像に収めたのは、スコセッシの『タクシー・ドライバー』(76)と『レイジング・ブル』(80)を手掛けたマイケル・チャップマン。『レイジング・ブル』と『逃亡者』(93)ではオスカーにもノミネートされ、近年でも『エボリューション』(01)や『テラビシアにかける橋』(07)などを手掛けている名カメラマンだ。
 また、編集には『スパルタカス』(60)や『ローマ帝国の崩壊』(64)、『屋根の上のバイオリン弾き』(71)などで有名なロバート・ローレンス、衣装デザインには『オール・ザット・ジャズ』(79)と『バグジー』(91)でオスカーを受賞したアルバート・ウォルスキー、美術デザインには『華麗なるギャツビー』(74)や『コンドル』(75)のジーン・ルドルフが参加している。

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キャロルに心の拠り所を求めるジミーだが・・・

やがてジミーの瞳には狂気が宿っていく

 精神的に繊細かつアンバランスで、なおかつ凶暴な男ジミー・フィンガーズ役を演じているのは、当時スコセッシ映画の名脇役として注目されつつあったハーヴェイ・カイテル。善悪で割り切れない複雑な役柄を演じさせたら、やはり天下一品だ。ここでも、後の『コップキラー』(82)や『バット・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』(92)を彷彿とさせるような怪演ぶり。しかも、ふとした瞬間に少年のような純粋さや儚さを垣間見せるところが何とも素晴らしい。カイテルなしでは成立しない作品といっても過言ではあるまい。
 その父親ベンを演じるマイケル・V・ガッゾの、バイタリティ溢れる胡散臭さがまたまた絶品。ガッツォは『ゴッドファーザーPARTU』(74)のマイケル・コルレオーネを暗殺しようとするマフィア、ペタンジェッリ役でオスカー候補になった名脇役だ。
 また、ジミーを翻弄するファム・ファタール的な謎の美女キャロル役には、『サンゲリア』(79)や『猟奇!喰人鬼の島』(80)などのイタリアン・ホラーでもお馴染みのティサ・ファロー。姉のミア・ファローとあまりにも瓜二つで、なおかつ演技力という点では著しく劣っていたことから大成しなかった女優さんだが、本作でのアンニュイな美しさにはなかなか捨てがたいものがある。
 さらに、デトロイト出身のマフィア・ボス、リカモンザ役として、テレビの人気マフィア・ドラマ『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』(99〜07)で主人公トニーの腹心ポーリン役を演じていたトニー・シリコが登場。この頃はかなりダンディでハンサムなイタリア系伊達男だった。
 そのほか、『スーパー・ガン』(72)などのブラック映画や『マーズ・アタック!』(96)でお馴染みの元フットボール選手ジム・ブラウン、『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)や『レオン』(94)などで有名なダニー・アイエロ、トニー賞を受賞1回ノミネート5回というブロードウェイの大女優マリアン・セルデス、『ゴッドファーザー』(72)でドン・コルレオーネの忠実なボディ・ガードのルカを演じたレニー・モンタナ、後にテレビ『チャーリーズ・エンジェル』や『007/美しき獲物たち』(84)で有名になるタニア・ロバーツなど、なかなか通好みの顔ぶれが脇を固めている。
 また、トニー・シリコと同じく『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』のレギュラーで、主人公トニーとボスの座を争う狡猾な叔父ジュニア役を演じて親しまれた俳優ドミニク・チアネーゼが、カーネギー・ホールのディレクター、アーサー・フォックス役として顔を出しているのにも注目したい。

 

 

クローン・シティ/悪夢の無性生殖
The Clonus Horror (1979)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2005 Mondo Macabro (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/90分/製作:アメリカ

映像特典
ファイヴソン監督インタビュー
ファイヴソン監督の音声解説
オリジナル劇場予告編
監督:ロバート・S・ファイヴソン
製作:ロバート・S・ファイヴソン
   マーク・L・ローゼン
   マール・A・シュリーブマン
原案:ボブ・サリヴァン
脚本:ロン・スミス
   ボブ・サリヴァン
   マール・A・シュリーブマン
   ロバート・S・ファイヴソン
撮影:マックス・ボーフォート
音楽:ハッド・デヴィッド・シャドソン
出演:ティム・ドネリー
   ピーター・グレーヴス
   ディック・サージェント
   キーナン・ウィン
   ポーレット・ブリーン
   デヴィッド・フックス
   フランク・アシュモア
   ルレーン・タトル

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スポーツ訓練に励む特殊施設クロヌスの若者たち

そんな彼らを常に監視し続ける科学者たち

 ウォーターゲート事件の衝撃と影響から、政府や権力者に対するアメリカ国民の深刻な不信感が高まっていた70年代。映画界でも『大統領の陰謀』(76)や『ネットワーク』(76)など、権力の汚職や陰謀を扱った社会派の告発ドラマが大きな注目を集めた。この『クローン・シティ/悪夢の無性生殖』という作品も、そうしたトレンドの中から生まれた突然変異的なホラー・サスペンスだったと言えよう。
 舞台となるのはクロヌスと呼ばれる特殊施設。ここでは数多くの若者たちが、日々運動で体を鍛えながら暮らしている。クロヌスで生まれ育った彼らの目標は、夢の楽園アメリカへ行くこと。施設の定めた健康基準に達したものから優先的にアメリカへ行くことが出来る。そのために、彼らは頑張って鍛錬しているのだ。
 ところが、実はこのクロヌスという場所、クローン人間を育てる秘密施設なのだ。黒幕は政界や財界の大物たち。彼らは密かに自分たちのクローンを作り、その臓器を移植することによって寿命を延ばそうと企んでいた。つまり、施設を出た若者たちを待ち構えているのは夢の楽園アメリカではなく、臓器を提供するための残酷な“死”だったのである。
 その事実を知ったクローン人間の若者リチャードが施設を脱走し、世間に事実を公表しようとする。だが、次期アメリカ大統領と目される大物上院議員とその配下の巨大組織が背後で暗躍し、リチャードに協力する善意の人々を片っ端から闇へと葬り去っていく・・・。
 と、ここまでの粗筋を読んで“おやっ?”と思った人も多いだろう。そう、マイケル・ベイ監督のSF大作『アイランド』(05)とストーリーが殆んど一緒なのである。そればかりか、映像的にも酷似しているシーンがあまりにも多いのだ。
 実際、本作のロバート・S・ファイヴソン監督と製作者マール・A・シュレイブマンもその事実に気付き、制作会社のドリームワークスを相手に著作権侵害を申し立てた。ファイヴソン監督の訴えによると、本作と『アイランド』の酷似している点は90箇所以上にも及ぶらしい。
 当初ドリームワークス側は盗作疑惑を真っ向から否定していたものの、訴えが法廷に持ち込まれると知って多額の和解金を支払った。ただ、その和解内容は極秘扱いとなっているため、結局のところ盗作疑惑の真相に関してはうやむやになったままだ。
 いずれにせよ、両者を見比べると『アイランド』が本作のパクリであることは一目瞭然。とはいえ、いずれの作品にもそれぞれ長所と短所があり、どちらが映画として優れているかという判断は微妙なところかもしれない。
 まず、見栄えの良さについては明らかに『アイランド』の方に軍配が上がる。なにしろ、『アイランド』は製作費1億2千6百万ドルという超大作。片や、こちらの『クローン・シティ〜』は25万7千ドルという超低予算のB級映画だ。なので、話の内容に比べて映像のスケール感は遥かに小さいし、セットや衣装、小道具などの安っぽさはいかんともし難いものがある。撮影技術そのものの進歩を差し引いても、稚拙でアマチュア映画的な印象は拭えないだろう。
 その一方、安易なハリウッド的ハッピー・エンドへ逃げてしまった『アイランド』に比べて、国家権力の恐ろしさや非情さを徹底的に描いた『クローン・シティ〜』のペシミスティックなストーリー展開はとても説得力がある。随所に辻褄の合わないところやご都合主義的な展開も見られるが、低予算映画ゆえの限界と考えればさして気になるほどでもないだろう。特に、これから陰謀が暴かれることになるかもしれないという僅かな希望を残しつつ、主人公たちが無残な最期を遂げるショッキングなクライマックスはなかなかのインパクト。見終わった後も様々なことを考えさせられるはずだ。
 なお、本作も劇場公開当時は殆んど注目されることなく、一部の評論家やマニアからは概ね好評だったものの、興行成績そのものは散々な結果だったらしい。脚本家のボブ・サリヴァン曰く、“ドリームワークスからの和解金でようやく利益を出すことが出来た”とのこと(笑)しかし、その後のビデオ発売やテレビの深夜放送で徐々に評判が広まり、現在はカルト映画として多くのファンを獲得している。

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夢の楽園アメリカへ行くことが決まったジョージ(F・アシュモア)

ジョージに薬を勧めるジェイムソン博士(D・サージェント)

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ジョージは殺されて冷凍保尊されてしまう

施設のウソに気付き始めるリチャード(T・ドネリー)

 広大な敷地を擁する特殊施設クロヌス。そこには多くの若者たちが暮らし、日々様々なスポーツ訓練を受けていた。彼らの目標は、夢の楽園アメリカへいくこと。そこは誰もが満ち足りた幸福な生活を送ることができる国だという。そして、クロヌスの責任者であるジェイムソン博士(ディック・サージェント)の健康チェックを受け、合格した者だけが優先的にアメリカへ行くことが出来るのだ。
 誰もがジェイムソン博士の言葉を疑うことなく信じ、ガイドと呼ばれる監視係たちの指示に素直に従っていた。しかし、その中で唯一リチャード(ティム・ドネリー)という若者だけが、博士やガイドたちの言動の矛盾に気付き始める。休日になると施設から姿を消すガイドたちは一体どこへ行っているのか?検査に合格してアメリカへ行った仲間たちから何の連絡もないのはなぜなのか?
 そんなある日、リチャードの親友ジョージ(フランク・アシュモア)のアメリカ行きが決定する。ようやく夢が叶うと喜ぶジョージを、仲間たちは心から祝福する。そして、荷物を片手にジェイムソン博士のもとを訪れたジョージ。博士は最終チェックと称して彼に薬を飲ませた。すると、ジョージはその場で発作を起こして硬直する。ジェムソン博士とスタッフはすぐさまジョージの体に薬品を注入し、ビニール袋を被せて急速冷凍させるのだった。
 実は、この施設で暮らす若者たちはクローン人間だったのだ。政界や財界の大物たちのクローンを育成し、病気や怪我などのいざと言う時に臓器や体の一部を移植するというのが、クロヌスという施設の役割。一定の健康状態に達した若者たちは無残にも殺され、来るべき移植の時に備えて冷凍保存されていたのだ。
 一方、リチャードは別グループに所属するリーナ(ポーレット・ブリーン)という女性と知り合う。彼女もリチャードと同じように、施設に対する疑問を抱えていた。しかし、ここでは疑問を持つこと自体が危険なこと。お互い他人には決して話せない悩みを打ち明けるうち、二人は急速に惹かれあっていく。
 そんなリチャードとリーナのことを、ジェイムソン博士たちは監視カメラを使って見張っていた。実は、この施設の若者たちは早い段階でロボトミー手術を受けている。それゆえに誰もが従順なのだ。しかし、リチャードとリーナだけは、あえてロボトミーを施さないまま育てられた実験ケースだったのである。
 施設への不信感を強めていったリチャードは、自分たちが監視カメラで常に見られているということに気付き、謎を解明するためにもアメリカへ行かねばと考えるようになる。当然リーナは猛反対するが、リチャードは必ず戻ってくると約束した。
 夜の闇に紛れて部屋を抜け出したリチャード。管理室に忍び込んで施設や近隣の地図を手に入れた彼は、偶然見つけたビデオテープを再生。そこで初めて、自分たちがクローン人間であることを知って驚愕する。ファイルを調べて、自分がリチャード・ナイト博士という人物のクローンであることを突き止めた彼は、地図を頼りに施設を脱走することに。いざという時の証拠として必要なビデオテープも持ち出すことにした。
 地下へと降りていった彼は、そこで冷凍保存された無数の死体を発見。その中には片目を抜き取られたジョージの姿もあった。やはり夢の楽園アメリカというのはウソだったのか。リチャードは怒りと悲しみ震える。
 警備員たちの執拗な追跡を逃れて、施設の外へ出ることに成功したリチャード。砂漠をひたすら走り続けた彼は、丘のふもとに広がる町を発見する。人ごみの中をあてもなく彷徨うリチャードだったが、施設から送り込まれたスパイによって命を狙われる。なんとか追っ手を巻いて逃げ切ったものの、力尽きた彼はとある民家の庭先で気を失ってしまった。
 そんなリチャードを保護してくれたのが、民家に住む老夫婦ジェイク(キーナン・ウィン)とアン(ルレーン・タトル)。ジャーナリストだったジェイクはリチャードの話に興味を引かれ、ナイト博士を探すために協力してくれることとなった。
 そのナイト博士(デヴィッド・フックス)のもとを訪れたジェイクとリチャード。リチャードの姿を見た博士と息子リッキー(ジェームズ・マンテル)は驚きを隠しきれなかった。若かりし頃の博士と瓜二つだからだ。しかも、博士と全く同じところに大きなアザがある。
 リチャードの話やビデオテープの内容からクローン施設の存在を確信したナイト博士。しかし、自分のクローンがなぜ存在するのか?博士には全く心当たりがなかった。とにかく、この恐るべき事実を見過ごすことは出来ない。
 そこで、博士は実の弟で次期アメリカ大統領の最有力候補と目されるジェフリー・ナイト上院議員(ピーター・グレーヴス)に相談をする。ところが、このナイト上院議員こそがクロヌス計画を影で操る張本人だった・・・。

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リーナ(ポーレット・ブリーン)も施設に疑問を持っている

自分たちが監視されていることに気付いたリチャード

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施設の地下には冷凍保存された仲間たちが

リチャードは決死の脱出を試みる

 原案と脚本を手掛けたのはボブ・サリヴァン。南カリフォルニア大学の学生だった頃に、ゼミの実習の一環としてこの作品のオリジナル脚本を書き上げたという。当初のオリジナル・タイトルは“Clonus”というシンプルなもの。
 ゼミの講師だった脚本家アーウィン・ブラッカーもその出来栄えを絶賛し、映画化を実現するために奔走してくれたという。しかし、当時は“クローン”という言葉自体が一般的に認知されておらず、SF映画そのものの人気も下火だったことから、興味を示すプロデューサーや製作会社は現れなかった。
 その後、脚本家への道を諦めて出版社に就職したサリヴァン。学生時代の親友だったファイヴソン監督から幾度となく“Clonus”の映画化を持ちかけられるが、そのたびに断り続けていたらしい。しかし、『スター・ウォーズ』のヒットをきっかけにSF映画ブームが到来し、クローンという言葉も知られるようになった。今ならもしかしたらいけるかもしれない、そう考えたサリヴァンは、ようやくファイヴソン監督からのオファーに応じる決心をしたという。
 そのロバート・S・ファイヴソン監督は、南カリフォルニア大学卒業後にユニヴァーサル映画の職員として働いていた人物。この作品が映画監督としてのデビューに当たる。当時ユニヴァーサル映画の会計を担当していたマール・A・シュレイブマンや自らの父親から製作資金を調達し、たったの18日間で撮影を終えたという。
 しかし、先述したように興行成績は全く奮わず、ファイヴソン監督にとっても脚本のボブ・サリヴァンにとっても、これが唯一の劇場用映画となってしまった。その後、ファイヴソン監督はテレビ界に活動の場を移し、サリヴァンは学術書や辞典の編纂に携わったのちテンプル大学の教育学科で教鞭を執っている。
 ちなみに、製作に携わったマーク・L・ローゼンは『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』(78)や『アリゲーター』(80)、『ヘルナイト』(81)などのB級映画を数多く手掛けたプロデューサー。また、『青い珊瑚礁』(80)や『バタリアン』(85)、『トイ・ストーリー』(95)などのロバート・ゴードンが編集を手掛けている。
 また、サリバン自身の話によると、もともとのオリジナル脚本では『アイランド』と同じく島が舞台となるはずだったらしい。しかし、それだと予算がかかり過ぎることから、砂漠の中の施設という設定に変更されたようだ。

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砂漠を走り抜けたリチャードは、とある町へたどり着く

リチャードを介抱してくれた老人ジェイク(K・ウィン)

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リチャードは遂にナイト博士(D・フックス)と対面する

博士の弟ナイト上院議員(P・グレーヴス)こそが黒幕だった

 主人公リチャード役を演じているティム・ドネリーは、70年代の人気ドラマ“Emergency!”(72〜79)の消防隊員チェスター役で親しまれたテレビ・スター。これが唯一の映画主演作だが、残念ながら映画スターとしての存在感やカリスマ性には著しく乏しい。知名度が低くても存在感のある若手俳優を起用すべきだったのではないかとも思う。
 その恋人リーナ役を演じるポーレット・・ブリーンは、これが初の映画出演作。なかなか綺麗な人だし、クライマックスの怪演も強烈な印象を残すが、女優としては大成しなかった。その後カナダで自らの制作会社を立ち上げ、テレビのプロデューサーとして活躍しているようだ。
 そのほか、テレビ『スパイ大作戦』(66〜73)のリーダー、フェルプス役で御馴染みのピーター・グレーヴスや、『アニーよ銃をとれ』(50)や『キス・ミー・ケイト』(53)など往年のハリウッド映画に欠かせない名脇役キーナン・ウィン、テレビ『奥さまは魔女』の2代目ダーリンとして有名なディック・サージェント、40年代〜50年代のハリウッド映画で可愛いオバサン役として親しまれた名傍役女優ルレーン・タトルといったベテランが脇を固めている。ちなみに、ピーター・グレーヴスの出演シーンはたったの1日で撮り終えたそうだ。

 

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