クラシック・カートゥーン大好き!
〜パート2〜
シリー・シンフォニーとディズニー短編映

 

MICKEY.JPG

「蒸気船ウィリー」より

 

 ディズニーは間違いなく世界最大のアニメーション製作会社であり、数多くの技術的革新を成し遂げてきた偉大なるパイオニアである。しかし、その一方で芸術的革新という意味において、アメリカン・アニメーションの多様性と可能性を妨げてしまったという事実も否定しきれない。ディズニーのアニメーションでは芸術作品ではなく商品であり、その事はウォルト・ディズニー自身の意図したものであった。ゆえに、個性の強い作家性や芸術性は極力削ぎ落とされ、一人でも多くの観客が楽しい・美しい・可愛いと感じることの出来る最大公約数が優先されることとなった。その当たり障りのない大衆娯楽性と徹底した職人技術こそがディズニーを世界最大のアニメ・スタジオに成長させたのであり、幅広い人々に受け入れられたという点で、ディズニーの方向性は決して間違ってはいなかったのだろうと思う。しかし、その保守的で制約の多い美意識によって、大衆のアニメに対する価値観を画一化させてしまったのもまた事実だ。ゆえに、多くのアニメ作家や芸術家に多大な影響を与える一方で、“ディズニー的”なものに対する強い反発というのも招いてしまっている。
 もちろん、ディズニーの全ての作品が芸術的な革新性に乏しいとは言わない。アニメーションにおけるリアリズムとファンタジーの融合とその可能性を追求した長編第1弾「白雪姫」('37)、必ずしも100%成功したとは言えないもののクラシック音楽と実験アニメーションの融合に挑戦した大作「ファンタジア」('40)など、幾つかの作品はディズニー・スタジオの芸術的なレベルの高さを証明するに十分なものだった。しかし、ウォルト・ディズニーがアニメ製作よりも実写映画やアミューズメント・パークなどのプロジェクトに力を入れるようになった頃から、工場生産的な画一化が徐々に進められ、彼の死によってその傾向は決定的なものとなった。そして、「リトル・マーメイド」('88)や「美女と野獣」('90)辺りからマーチャンダイズ化に拍車がかかり、一時期低迷していたディズニー・アニメの地位を復活させることになったものの、その作風はより低年齢を対象としたサッカリン菓子へと退化して行った。多くの熱心なアニメ・ファンにとって、もはやディズニーは商業主義の権化以外の何者でもなくなってしまったとも言える。

SILLY_SYMPHONIES-1.JPG SILLY_SYMPHONIES-2.JPG

「三匹の子ぶた」('33)より

「アリとキリギリス」('34)より

SILLY_SYMPHONIES-3.JPG SILLY_SYMPHONIES-4.JPG

「子守歌」('33)より

「子供の夢」('38)より

 しかし、そんなディズニー作品の中で、積極的に実験的な試みがなされていたのが“シリー・シンフォニー”と呼ばれる短編シリーズである。これは、初期のミッキー・マウス・シリーズの音楽を手掛けていた音楽家カール・ストーリングの発案によるもので、アニメーションに音楽を乗せるのではなく、音楽のイメージをアニメーションによって表現するという画期的な企画だった。いわゆるミュージック・ビデオと同じ発想である。
 その第1弾が「骸骨の踊り(The Skeleton Dance)」('29)だった。ストーリングのコミカルな音楽に乗せて、墓場で骸骨たちが踊るという非常にシュールでユーモラスな作品。ディズニー・アニメというイメージからはほど遠い、実に辛口のユーモアが効いた楽しい一本だった。このシリー・シンフォニー・シリーズは1939年までに76本が製作されているが、その全てが実験的であったり芸術的であったりするわけでは勿論ない。
 その初期の作品は作画的に非常に荒削りなものが少なくなく、アニメーションとしては大分原始的だと言わざるを得ないだろうまた、黒人のステレオタイプ的なイメージをカリカチュアした「人喰い族の踊り(Cannibal Capers)('30)や中国文化を著しく誤解した「桃源の夢(The China Plate)」のように、アニメ作品という以前に表現内容自体に問題のある作品もある。が、これに関しては当時のアメリカの一般的な価値観が反映されたものであり、決して悪意があったわけではない。また、シリーズの中でも最も有名な作品と言える「三匹の子ぶた(Three Little Pigs)」('33)にしても、そのキャラクター造形は今見ると少々いびつにも感じる。
 その一方で、閉店後の時計店で大小様々な時計が賑やかで楽しいダンスを繰り広げるというロマンティックな「夜の時計店(The Clock Store)」('31)辺りからアニメートの技術が著しく向上し、世界で初めてテクニカラーを導入した名作「花と木(Flowers and Trees)」('32)でアカデミー賞短編アニメ部門を受賞するに至る。夢うつろな子供の眠りの世界をファンタジックに表現した「子守歌(Lullaby Land)」('33)や「子供の夢(Wynken,Blynken and Nod」('38)のドリーミーな美しさは、後の「ピーター・パン」を彷彿とさせる。また、見方によってはかなりキッチュなキャラクター・デザインを施した赤ちゃん人魚の世界をカラフルに描いた「人魚の踊り(Marbabies)」('38)や擬人化した蛾のデザインが後の「みつばちハッチ」に酷似している「モスの消防隊」('38)など、ポップな色彩感覚を駆使した作品も今見ると非常に新鮮である。さらに、マルチ・プレーン・カメラを駆使し、動物たちを擬人化することなく風車小屋の光景を詩情豊かに描いた「風車小屋のシンフォニー」('37)の徹底的なリアリズムも圧巻。
 改めてシリー・シンフォニー・シリーズを見ていくと、後のディズニー・アニメの原点を随所に発見すると同時に、30年代当時のディズニー・スタジオの豊かな創造性とチャレンジ精神を垣間見る事が出来る。

SILLY_SYMPHONIES2-1.JPG SILLY_SYMPHONIES2-2.JPG SILLY_SYMPHONIES2-3.JPG

「北極の道化者」('30)より

「夜の時計店」('31)

「人喰い族の踊り」('30)より

SILLY_SYMPHONIES2-4.JPG SILLY_SYMPHONIES2-5.JPG SILLY_SYMPHONIES2-6.JPG

「春の女神」('34)より

「人魚の踊り」('38)より

「モスの消防隊」('38)より

 さて、先述したように1939年に終了してしまった“シリー・シンフォニー”シリーズ。その他、ディズニーの短編というと、どうしてもミッキーやドナルド、グーフィーといったキャラクター物シリーズの印象が強いが、その原点とも言える“アリス”シリーズの存在も忘れてはならないだろう。これはアリスという少女を主人公にした「漫画の国のアリス(Alice's Wonderland)」('23)に始まる、実写とアニメを合成させたシリーズで、1927年までの間に47本が製作されている。ディズニーによる実写とアニメの合成というと、後の「南部の唄」('46)で知られるようになるが、この“アリス”シリーズこそが最初の試みだった。そして、ディズニーにとって最初の成功をもたらしたのも、このシリーズだったのである。とはいえ、アニメの作画も合成の技術もまだ原始的で、今見るとお世辞にも上手くできているとは言いがたい。しかし、新しいものにチャレンジしようというディズニーの意気込みは十分に感じられ、歴史的な価値も含めて非常にユニークな作品群である。
 さらに、ディズニーは“シリー・シンフォニー”シリーズ終了後も、キャラクター物以外の短編アニメをコンスタントに発表しており、中には非常に芸術的で興味深い作品を作っている。つまり、ディズニー・スタジオの芸術性や革新性を語るには、キャラクター物以外の短編を見るべきと言えるだろう。
 その中でも特に際立っているのは、C・オーガスト・ニコルズとウォード・キンボールが監督を手掛けた「メロディ(Adventures in Music:Melody)」('53)と「プカドン交響曲(Toot, Whistle, Plunk and Boom)」('53)。どちらもポップ・アートやミニマリズムの影響を受けたディズニー作品らしからぬアート志向の高い作品で、幾何学的な線やポップなコラージュ、カラフルな色彩のペインティング、自由自在で不条理な展開など非常に刺激的でアバンギャルドな作風に仕上がっている。その感性は同時期のUPA作品とも相通ずるものがあり、ディズニーが時代の空気を呼吸しながら試行錯誤を重ねていたことを窺わせる。また、「不思議の国のアリス」や「ピーター・パン」のウィルフレッド・ジャクソンが監督を手掛けた「小さい家」('52)も、同じようにポップ・アート的な趣向を凝らしながら、ほのぼのとした温かいタッチの世界を描き出して秀逸。一方で、アカデミー賞短編アニメ部門を受賞した「牡牛のフェルナンド(Ferdinand the Bull)」('38)や「ポール・バニヤン(Paul Bunyan)」('58)といった、オーソドックスなディズニー・カラーからいま一つ抜け出せていない作品も少なくはないのだが。
 いずれにせよ、意外にも奥が深いのがディズニー・アニメの世界。僕自身がもともと“ディズニー的なもの”に対してとても懐疑的だっただけに、こうした過去の作品を知れば知るほど新たな発見が出てきて面白い。ミッキーやドナルドばかりがディズニーじゃないのだ。

 

RARITIES-1.JPG RARITIES-2.JPG

「漫画の国のアリス」('23)より

「漫画の国のアリス」('23)より

RARITIES-3.JPG RARITIES-4.JPG

「牡牛のフェルナンド」('38)より

「小さい家」('52)より

RARITIES-5.JPG RARITIES-6.JPG

「メロディ」('53)より

「メロディ」('53)より

RARITIES-7.JPG RARITIES-8.JPG

「プカドン交響楽」('53)より

「プカドン交響楽」('53)より

 

SILLY_SYMPHONIES_DVD.JPG SILLY_SYMPHONIES2_DVD.JPG RARITIES_DVD.JPG

シリー・シンフォニー 限定保存版
Silly Symphonies

More Silly Symphonies

Disney Rarities

(P)2004 Buena Vista (Japan) (P)2006 Disney DVD (USA) (P)2005 Disney DVD (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆ 画質★★★★☆ 音質★★★★☆ 画質★★★☆☆ 音質★★★★☆

DVD仕様(日本盤2枚組)
5000枚限定
カラー&モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語・日本語/字幕:日本語・英語/地域コード:2/353分/製作:アメリカ

映像特典
シリー・シンフォニーの名曲
スーベニア・コレクション
シリー・シンフォニー・ギャラリー

DVD仕様(北米盤2枚組)
65000枚限定 缶ボックス入り
カラー&モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/316分/製作:アメリカ

映像特典
ドキュメンタリー2編
ギャラリー
オーディオ・コメンタリー
DVD仕様(北米盤2枚組)
125000枚限定 缶ボックス入り
カラー&モノラル/スタンダード・サイズ(一部ワイドスクリーン)/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/ 326分/製作:アメリカ

映像特典
ヴァージニア・デイヴィス インタビュー
ドキュメンタリー1編
アート・ギャラリー
収録作品
DISC 1
The Tortoise and the Hare/The Country Cousin/Babes in the Woods/ Elmer Elephant/The Flying Mouse/ The Golden Touch/The Robber Kitten/Lullaby Land/Mother Goose Melodies/The Wise Little Men/Three Little Pigs/The Bid Bad Wolf/Three Little Wolves/Toby Tortoise Returns/ The Grashopper and the Ants/Wynken, Blynken and Nod
DISC 2
Mother Pluto/Peculiar Penguins/The Old Mill/Funny Little Bunnies/The Ugly Duckling (1939)/The Ugly Duckling (1931)/Father Noah's Ark/ Birds Of a Feather/The Busy Beavers /Just Dogs/Music Land / The China Plate/Egyptian Melodies / Flowers and Trees/The Cookie Carnival/The Skeleton Dance/Woodland Caf
収録作品
DISC 1
Hell's Bells/Springtime/Arctic Antics 
/Autum/Frolicking Fish/Monkey Melodies/Night/Playful Pan/Summer
/Winter/The Cat's Out/The Clock Store/The Fox Hunt/The Spider And The Fly/The Bears And The Bees/
The Bird Store/Bugs In Love/El Terrible Toreador/The Merry Dwarfs/ Cannibal Capers/Midnight In A Toy Shop
DISC 2
Birds In The Spring/The Night Before Christmas/Old King Cole/The Pied Piper/The Goddess Of Spring/Cock O'The Walk/Three Blind Mousketters
/Little Hiawatha/Marbabies/Moth And The Flame/King Neptune/Santa's Workshop/The China Shop/Broken Toys/Three Orphan Kittens/More Kittens/Mother Goose Goes Hollywood
収録作品
DISC 1
Alice's Wonderland/Alice's Wild West Show/Alice Gets In Dutch/Alice's Egg Plant/Alice In The Jungle/Alice's Mysterious Mystery/Alice The Whaler
/Ferdinand The Bull/Chicken Little/
The Pelican And The Snipe/The Brave Engineer/Morris, The Midget Moose/Lambert The Sleepish Lion/
The Little House/Adventures In Music:Melody/Football Now And Then
/Toot, Whistle, Plunk and Boom/Ben And Me
DISC 2
Pigs Is Pigs/Social Lion/Hooked Bear
/Jack And Old Mac/In The Bag/A Cowboy Needs A Horse/The Story Of Anyburg USA/The Truth About Mother Goose/Paul Bunyan/Noah's Ark/Goliath U/The Saga Of Windwag
on Smith/A Symposium On Popular Songs/A Feather In His Collar
 30年代のカラー作品を中心としたセレクションで、シリーズの代表作はだいたい揃っています。画質は概ね合格点なのですが、作品によっては映像のブレが激しくて気になります。しかし、日本のマーケットがアメリカほど大きくないとはいえ、5000枚の限定発売というのはちょっと少なすぎだったかも。アマゾンのマーケットプレイスで見たら、プレミアがついて15000円だそうです。なんだかなあ・・・。  日本では結局未発売のままに終わってしまった続編。初期のモノクロ作品など、過去に1度もビデオソフト化されてない作品も数多く収録されています。作品のクオリティ的には、こちらの方が断然勝っていると思いますね。画質も制作年代を考えればパーフェクト。パッケージ仕様も、日本盤がデジパックだったのに対して、アメリカ版はシルバーの缶ボックス入りと豪華。コレクターのツボを心得ています。  こちらも日本未発売の短編集。最初期のアリス・シリーズを筆頭に、ディズニーの誇る名作短編アニメが勢ぞろいしています。それだけでも貴重なコレクションなのに、何とここでは初代アリス役のヴァージニア・デイヴィスの特別インタビューが映像特典として収録されています。1918年12月生まれというから、インタビュー撮影当時86歳。草創期のディズニー・スタジオを知る、まさに歴史の生き証人ですね。必見!

戻る