キャロル・ロンバード Carole Lombard

 

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 粋でエレガント、それでいてキュートでコケティッシュ。ガルボやディートリッヒのごとき美貌とルシール・ボールも顔負けのコメディ・センスを持ち合わせた女優キャロル・ロンバード。マック・セネットの水着美人から、'30年代のハリウッドで最高額のギャラを取る大スターへと成長した人だった。
 中でも、気は良いけどドジでわがままな大金持ちのはねっかえりお嬢様や、美人だけど気が強くて変わり者のエキセントリックな女性を演じさせたら天下一品。それでいて、恋愛に一途な女の可愛らしさや純朴さも同時に兼ね備えていた。さすがは“スクリューボールコメディの女王”である。
 私生活でも、歯に衣着せぬ物言いと大雑把で大らかな性格から男女問わず多くの人々に愛された彼女。ハリウッド大通りに建てられた自宅豪邸では贅の限りを尽くしたパーティがたびたび開かれ、映画界でも屈指の“パーティ・ガール”としても親しまれた。
 もちろん、恋愛遍歴も華やか。中でも有名なのは、ハリウッドの帝王クラーク・ゲイブルとのロマンスであろう。プレイボーイとして鳴らしたゲイブルにとって、同じように恋愛の酸いも甘いも噛み分けたキャロルは人生最高のパートナーだった。それだけに、彼女が33歳という若さで非業の死を遂げたことのショックは大変なものだったと伝えられている。

 1908年10月6日にインディアナ州はフォート・ウェインで生まれた彼女、本名をジェーン・アリス・ピータースという。父方はドイツ系、母方はイングランド系で、上には二人の兄がいた。しかし、キャロルがまだ幼い頃に両親は離婚。母親は子供たちを連れてロサンゼルスへと移った。
 そんな彼女の映画デビューは12歳の時。近所で草野球をしていたところ、通りがかった映画監督アラン・ドワンにスカウトされたのだ。これをきっかけに学業と並行しながら、ジェーン・ピータースの名前で映画の端役を務めるようになった。
 やがてキャロル・ロンバードを名乗るようになった彼女は、'25年に高校を中退して20世紀フォックスの前身フォックス映画と専属契約を結ぶ。ところが、その直後に交通事故で顔に傷を作ってしまい、フォックスでは2本の作品に出演しただけで契約を打ち切られてしまった。なお、後の作品でも、クロースアップ・シーンなどでその傷跡を確認することが出来る。
 その後、マック・セネットのコメディ映画に水着美人として顔を出すなどしたキャロル。サイレントからトーキーへの以降も無事に終えた彼女は、'30年にパラマウント映画と契約する。1作目に当たるのが『令嬢暴力団』(30)という作品。それまで彼女の名前はCarolと表記されていたのだが、この作品の宣伝用ポスターで間違って最後に“e”が付けられてしまい、以降はCaroleと表記されるようになった。
 さて、パラマウントは当初から彼女の売り出しに力を入れ、ゲイリー・クーパーやウィリアム・パウエル、クラーク・ゲイブルといった大物男性スターの相手役を次々と演じさせる。そのおかげでたちまち売れっ子となったキャロル。しかし、彼女を名実共にハリウッドのトップへと押し上げたのは、アメリカ演劇史に燦然と輝く伝説的名優ジョン・バリモアと共演した傑作『特急二十世紀』(34)であろう。
 巨匠ハワード・ホークスが演出を手がけ、同年に製作された『或る夜の出来事』(34)と並んで“スクリューボール・コメディの元祖”と呼ばれるこの作品。キャロルは下着モデル出身の我がままで傲慢な大女優に扮し、天才肌のエキセントリックな舞台製作者を演じるジョン・バリモアとの猛烈にクレイジーでハイ・テンションな演技バトルを繰り広げて絶賛された。
 さらに、翌年の『襤褸と宝石』(35)では我がままだけど純粋で不器用でドジな富豪令嬢を大熱演。この作品で初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされ、文字通り押しも押されぬ大女優へと成長した。
 また、彼女の人気は映画ファンだけでなく裏方関係者の間でも高かったという。今も昔もハリウッドではスターに豪華な専用トレーラーが与えられるのは当たり前。だが、キャロルはこの階級制度みたいなシステムを嫌い、スタッフや大部屋俳優たちと一緒に和気藹々と仕事することを好んだ。男性スタッフたちの下ネタ・トークなんかも全く平気。ミッチェル・ライゼン監督曰く、“私の知る限り、彼女は女性らしさを失わずに下品な話を出来る唯一の女性だった”そうだ。
 一方、キャロルは『街の紳士』(31)などで共演した16歳年上の大物俳優ウィリアム・パウエルと'32年に結婚。当初は年齢差なんて関係ないとラブラブぶりをアピールしていた彼女だったが、控えめなインテリ・タイプのパウエルとは価値観の違いがあまりにも多く、約2年で結婚生活に終止符を打つこととなった。

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ゲイブルとは結婚する遥か以前に『心の青空』(32)で初共演

 他にも、一時期恋人だったジョージ・ラフトと共演のダンス映画『ボレロ』(34)、ビング・クロスビーと共演したミュージカル・コメディ『恋と胃袋』(34)、殺人ミステリーとコメディを合体させたユニークな作品『姫君海を渡る』(35)、虚言癖のある貧乏主婦が殺人事件に巻き込まれるナンセンス・コメディ『真実の告白』(37)、キャロルにとって唯一のカラー作品となった『無責任時代』(37)などの主演作がヒット。
 しかし、マーヴィン・ルロイ監督と組んだコメディ映画『婚約リレー』(38)が興行的に大失敗してしまい、それから暫らくはシリアスなストレート・ドラマへの路線変更を試みるようになった。だが、やはりキャロル・ロンバードといえばスクリューボール・コメディ。夫婦喧嘩の可笑しさを巨匠ヒッチコックが描いた『スミス夫妻』(41)で久々に名コメディエンヌぶりを発揮した彼女は、こちらも巨匠のエルンスト・ルビッチがナチス・ドイツを痛烈に風刺した傑作コメディ『生きるべきか死ぬべきか』(42)に主演。浮気性の人妻舞台女優をコケティッシュに演じて絶妙だったのだが、結果的にこれが最後の出演作となってしまった。
 '39年にクラーク・ゲイブルと結婚し、ロサンゼルス近郊に購入した牧場で円満な夫婦生活を送っていたキャロル。やがてアメリカが第2次世界大戦に突入すると、ハリウッド・スターたちも戦意高揚や銃後支援のための活動を積極的に行うようになる。当然、キャロルも全米各地でチャリティに参加した。
 '42年1月6日、インディアナポリスで行われた国債公募運動に参加したキャロルは、ロスへ戻るため実母エリザベス、夫ゲイブルのマネージャーと共に小型旅客機DC3へと乗り込んだ。ところが、その飛行機がラスヴェガス近郊の山に激突。乗員乗客合わせて21人全員の死亡が確認された。
 夫ゲイブルの受けたショックは相当なものだったらしく、この事故からほどなくして彼は俳優業を一時引退してアメリカ空軍へ入隊。60年に亡くなった際も、本人の遺言でキャロルの墓の隣へ葬られた。
 その悲劇的な死から70年近くの時を経て、今なおアメリカでは多くの映画ファンから愛されているキャロル・ロンバード。親友の一人だったオスカー女優バーバラ・スタンウィックは、後に彼女の人柄をこう語っている。“彼女はとても活発で、モダンで、気さくで、自然だった。このハリウッドという奇奇怪怪な場所を明るく照らす灯台船のような存在だったわ”と。

 ちなみに、筆者が独断と偏見で選ぶキャロル・ロンバード主演作ベスト3は、『襤褸と宝石』『生きるべきか死ぬべきか』そして『特急二十世紀』である。ご参考までに・・・。

 

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街の紳士
Man Of The World (1931)
日本での劇場公開年不明
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Universal Studios (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/72分
/製作:アメリカ
※『恋と胃袋』『春を手さぐる』『処女散歩』『姫君海を渡る』『真実の告白』を同時収録

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:リチャード・ウォーレス
脚本:ハーマン・J・マンキーウィッツ
撮影:ヴィクター・ミルナー
出演:ウィリアム・パウエル
   キャロル・ロンバード
   ウィン・ギブソン
   ローレンス・グレイ
   ガイ・キッビー
   ジョージ・チャンドラー

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パリ在住の不良アメリカ人マイケル(W・パウエル)

美しい令嬢メアリー(C・ロンバード)に一目惚れする

メアリーのフィアンセ、フランク(L・グレイ)とも意気投合

 スクリーンにおけるキャロルのベスト・パートナーの一人であり、私生活でも短い期間ながら夫婦であった名優ウィリアム・パウエルとの初共演作。恋の都パリを舞台に、ヤクザな不良アメリカ人と金持ちの美人令嬢との許されざる恋をシニカルな語り口で描いたラブ・ロマンスである。
 主人公はパリ在住のアメリカ人作家マイケル・トレヴァー。しかし、作家というのはあくまでも隠れ蓑で、その正体はアメリカ人観光客を狙ってはユスりタカりを繰り返すヤクザみたいな男だ。そんな彼が美しい富豪令嬢メアリーと知り合い、こともあろうか本気で恋に落ちてしまう。ヤクザ稼業から足を洗おうと考えるマイケルだったが、愛人のアイリーンは“アンタの正体をばらしてやる”と黙っていない。果たして、悩み抜いたマイケルの下した決断とは・・・?
 旅の恥はかき捨てとばかりに、夜遊びやアバンチュールにうつつを抜かすアメリカ人観光客たちを茶化した前半は結構面白かったりする。良識をふりかざす保守的なアメリカ市民も、一皮剥けばどうってことない俗物そのもの。そんな彼らの偽善を逆手にとって金をまきあげるマイケルは、さながらアンチ・ヒーローみたいな存在と言えるだろう。
 ただ、そんな彼が善悪の狭間で悩み、結果的として自己犠牲の道を選ぶ後半は、ありきたりな道徳物語の域を出るものではない。なんだか予定調和な美談に落ち着いてしまったという感じで、映画的な意外性や面白味に欠けるのがちょっと残念。
 当時23歳のキャロルもまだまだ平均的な美人女優といった感じ。かえって、すれっからし女アイリーンの健気な純情を演じたウィン・ギブソンの方が、演技力と存在感の両方で勝っているような印象を受ける。とりあえず、キャロルの初期出演作はなかなか見る機会がないので、若くて初々しい彼女の美貌を堪能するにはもってこいの一本と言えるかもしれない。

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マイケルにはアイリーン(W・ギブソン)という愛人がいる

いつしか本気で愛し合うようになったマイケルとメアリー

嫉妬深いアイリーンは二人の仲を裂こうとする

 パリに移り住んで4年目になるアメリカ人作家マイケル・トレヴァー(ウィリアム・パウエル)。実は、彼は本名をジョー・パワーズという元新聞記者だ。かつては正義感の強い若手ジャーナリストとして有望視されていた彼だったが、ある詐欺事件に巻き込まれて忽然と姿を消してしまった。
 正直者はバカを見る。そう達観してしまった彼は、恐喝まがいのヤクザな商売で生計を立てるようになった。ターゲットはパリを訪れる裕福なアメリカ人観光客。彼らの多くはアバンチュールを目的にパリへ来る。若くてハンサムなジゴロに金を貢ぐ老マダム、ブロンドの売春婦と一夜のお楽しみに興じる中年紳士。保守的で世間体を重んじるアメリカからやって来た彼らは、ここぞとばかりに己の鬱積した欲望を発散させる。マイケルは、その代償を払わせるのだ。
 彼は自らが経営する観光客向けナイトクラブで情報を集め、同じく自らが発行する英字新聞でスキャンダル記事を書く。そして、印刷される前の記事原稿を持ってカモのところを訪れ、善意の第三者を装ってその記事を高額買い取りさせるわけだ。
 男やもめのテイラー氏(ガイ・キッビー)もそんなカモの一人。事前に偶然を装ってテイラー氏と知遇を得ていたマイケルは、たまたま友人から教えてもらったと偽り、来週発行される予定の新聞記事を持参してテイラー氏の泊まるホテルを訪れる。そこには、テイラー氏が素性の怪しげな女と一緒にナイトクラブを後にする様子が書かれていた。驚いたテイラー氏は、その“友人”に記事を削除するよう頼んでくれとマイケルに懇願し、その場で2000ドルの小切手を切った。
 そこへ、テイラー氏の姪メアリー(キャロル・ロンバード)が戻ってくる。メアリーの美しさに目を奪われるマイケル。どこかおススメのナイトスポットはないかと訊かれた彼は、自分が経営するクラブを紹介した。
 その晩、マイケルのクラブを訪れたメアリーとフィアンセのフランク(ローレンス・グレイ)。知的でウィットに富んで親切なマイケルのことを、若い二人はいたく気に入った様子だ。フランクは翌日から仕事でロンドンへ行かねばならず、留守中のメアリーの遊び相手をマイケルに頼むのだった。
 マイケルには二人のヤクザな仲間がいた。一人は愛人でもある女性アイリーン(ウィン・ギブソン)。もう一人は、観光ガイドのフレッド(ジョージ・チャンドラー)。アイリーンはメアリーを次のターゲットにしようと主張する。あまり乗り気ではないマイケルだったが、押しの強いアイリーンに説得されて渋々承知した。
 メアリーを競馬やオペラ鑑賞に連れ出すマイケル。彼は天真爛漫で素直なメアリーに強く惹かれ、メアリーも包容力のあるマイケルに恋心を抱く。マイケルはヤクザ稼業から足を洗おうと考えるが、嫉妬深いアイリーンが黙っているはずもなかった。洗いざらいばらしてやると凄んでみせるアイリーン。
 悩みに悩みぬいたマイケルは、思い切ってメアリーに全てを打ち明けた。すると、意外にもメアリーはそんな彼の告白を優しく受け止める。過去のあなたよりも、未来のあなたを信じたいと。その言葉を聞き、仲間との関係を絶ってメアリーと結婚することを決意したマイケル。
 だが、それでもアイリーンは引き下がらなかった。必要とあらば警察にタレこんでやる。アンタはメアリーを犯罪者の妻にして平気なのか?と。一晩思い悩んだマイケルは、自分なりの方法でメアリーとの関係に決着をつけることにした・・・。

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メアリーに真実を打ち明けたマイケル

マイケルは善と悪の狭間で思い悩む

自らメアリーとの関係に決着をつけようとするが・・・

 監督はモーリス・シュヴァリエ主演の『レヴューの巴里っ子』(29)やダグラス・フェアバンクス・ジュニア主演の『船乗りシンドバッドの冒険』(46)などで知られるリチャード・ウォーレス。いわゆるプログラム・ピクチャー専門の職人監督だ。
 また、脚本には『市民ケーン』(41)でオスカーを獲得するハーマン・J・マンキーウィッツ、撮影監督にはセシル・B・デミルの『クレオパトラ』(34)で同じくオスカーを受賞するヴィクター・ミルナーが参加。意外にも豪華な顔合わせだったりする。
 そして、主人公マイケル役には、当時ハリウッドきってのベスト・ドレッサーだった俳優ウィリアム・パウエル。『カナリヤ殺人事件』(29)や『影なき男』(35)の探偵役で一世を風靡し、そのダンディで粋でエレガントな魅力が全米の女性を虜にしたトップ・スターだ。年上の紳士マイケルに思いを寄せる若いお嬢様メアリーというのは、そのまんま当時のキャロルの姿そのものだったのかもしれない。
 そんな二人の間に立ちはだかる悪女アイリーン役には、『市街』(31)や『鉄窓と花束』(31)などで知られる鉄火肌の女優ウィン・ギブソン。また、後に『四十二番街』(33)や『スミス都へ行く』(39)などワーナー作品の名脇役として親しまれるガイ・キッビー、往年の人気ドラマ『名犬ラッシー』でお馴染みとなるジョージ・チャンドラーなどが共演している。

 

特急二十世紀
Twentieth Century (1934)
日本では1934年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2005 Sony Pictures (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・日本語/地域コード:1/91分/製作:アメリカ

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ハワード・ホークス
製作:ハワード・ホークス
戯曲:チャールズ・ブルース・ミルホランド
脚色:チャールズ・マッカーサー
   ベン・ヘクト
撮影:ジョセフ・H・オーガスト
出演:ジョン・バリモア
   キャロル・ロンバード
   ウォルター・コノリー
   ロスコー・カーンズ
   ラルフ・フォーブス
   チャールズ・レイン
   エティエンヌ・ジラルド

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下着モデルあがりの新人女優リリー(C・ロンバード)

天才肌の舞台製作者オスカー(J・バリモア)

見事に女優として開花したリリー

 巨匠ハワード・ホークスの手掛けた元祖スクリューボール・コメディである。天才肌の舞台製作者と彼が育てた大女優を主人公に、いずれ劣らぬくらいに傲慢で我がままでエキセントリックな男女の壮絶な恋愛バトルを描いたハチャメチャな作品。天下の名優ジョン・バリモアを相手にパワフルでハイテンションなパフォーマンスを見せるキャロルだが、これはまさしく彼女にとって女優開眼を果たした作品とも言えるだろう。
 下着モデルあがりの新人リリー・ガーランドを大女優へと育てたブロードウェイの舞台製作者オスカー・ジャッフェ。しかし、偏執的なまでに嫉妬深いオスカーの理不尽な束縛や、傲慢すぎるほどの芸術至上主義に嫌気がさしたリリーは、逃げるようにしてハリウッドへと去ってしまう。
 映画界へ転身したリリーがさらなる成功を収める一方、残されたオスカーは失敗作続きでドサ周りを強いられることに。そんな二人が、ニューヨーク行きの特急列車二十世紀号にたまたま乗り合わせてしまったことから、野心と愛憎入り乱れる男女のドタバタ劇が繰り広げられることとなるわけだ。
 原作戯曲を手掛けたチャールズ・ブルース・ミルホランドは、ブロードウェイの伝説的製作者デヴィッド・ベラスコをヒントにストーリーを書いたのだという。恐らく、本作のオスカーやリリーのような人物は当時の演劇界で決して珍しくはなかったのだろう。
 天才肌の芸術家であるがゆえに傲慢で自己顕示欲が強く、我がままで身勝手な男オスカー。そして、押しも押されぬ大女優であるがゆえにプライドが高く、気が強くてヒステリックな女リリー。このいずれ劣らぬ社会不適合者の男女がお互いに意地を張り合うことで、可笑しくも哀しい演劇人の性が浮き彫りとなる。
 ゆえに、本作はその比較的他愛ないストーリーよりも、破天荒なキャラクターや機関銃のように飛び出すウィットに富んだセリフ、過剰なまでにテンションの高い役者の演技を楽しむべき映画と言えよう。オスカーの気まぐれにいつも振り回される部下たちや、列車内でビラを貼って回る精神病患者の老人など、脇を固める登場人物たちも一様にクセが強くて魅力的だ。
 また、これをきっかけに『赤ちゃん教育』(38)や『ヒズ・ガール・フレイデー』(40)といったスクリューボール・コメディの傑作を生み出すホークス監督の演出も、なかなか軽快なテンポで小気味がいい。ただ、登場人物たちの濃すぎるキャラや全体的な演劇的要素の強さは、やはり好き嫌いの別れるところではあるかもしれない。

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嫉妬深いオスカーの束縛に辟易するリリー

だが、情にほだされてなかなか別れることができない

ついに盗聴がばれてリリーは去ってしまった

 ブロードウェイの天才的舞台製作者オスカー・ジャッフェ(ジョン・バリモア)は、待望の新作『ケンタッキーの心』の準備を進めている。だが、彼が主役に起用した下着モデルあがりの新人リリー・ガーランド(キャロル・ロンバード)は全くの大根女優で、演出家のマックス(チャールズ・レイン)やマネージャーのオリバー(ウォルター・コノリー)もすっかりお手上げ状態だった。
 何度同じシーンを繰り返しても一向に上達しないリリー。ストレスで発狂寸前の彼女だったが、その気の強さにこそ大女優の可能性が秘められているとオスカーは考える。立ち位置の分らない彼女のために動く順番をチョークで指示し、悲鳴をあげるシーンでは安全ピンを彼女のお尻に刺すなど、あの手この手で自ら演技指導に当たるオスカー。その甲斐あって舞台は大成功し、リリーは一躍脚光を浴びることとなった。
 それから3年後。オスカーの優しい言葉にほだされて男女の関係となったリリーだったが、それが自分を繋ぎとめておくための演技だったことにようやく気付いた。これまでに3本の舞台劇をヒットさせたオスカーとリリー。しかし、嫉妬深いオスカーの束縛にリリーの我慢も限界寸前だ。
 自宅と劇場を往復する毎日。偉大な芸術家には世俗の付き合いなど不要とばかりに、あらゆる人付き合いを禁止するオスカーだったが、とどのつまりはリリーを他人に取られたくないだけ。リリーが反発すると自殺をほのめかしたり泣きついてみせたり。
 同情を引こうとする彼の手の内は分っていても、ついつい折れてしまうリリー。しかし、オスカーが私立探偵を雇ってリリーの行動を逐一監視したり、電話の会話を盗聴していることが発覚。さすがに堪忍袋の緒が切れたリリーは、探偵をボコボコに殴ってハリウッドへ去ってしまった。
 それから2年後。リリーは映画界でもトップ・スターとなったが、一方のオスカーは失敗作続き。今では地方巡業を余儀なくされ、実際のところ破産寸前にまで追い込まれている。にも関わらず、芸術を理解できない一般人など取るに足らんと豪語し、相変わらず金に糸目をつけないオスカーに、忠実な部下オリバーとオーウェン(ロスコー・カーンズ)もほとほと愛想が尽きかけていた。
 シカゴでの公演を終えたオスカー一座だったが、全くの不入りで莫大な借金だけが残ってしまう。ニューヨークへ戻らねばならないが、駅では債権者の代理人が待ち構えている。そこでオスカーは知恵を絞り、舞台メイクを使って老人に扮して特急列車二十世紀号へと乗り込んだ。
 とりあえず列車には乗れたが、ニューヨークへ帰っても次回作の打つ資金がない。2年前にクビにした演出家マックスがヒット作を連発しているので、彼に協力してもらおうと提案するオリバーだったが、かつての部下に頭を下げるなどプライドの高いオスカーには出来ない相談だ。
 あれこれと考えあぐねるオリバーとオーウェン。すると、途中の駅であのリリーが乗り込んできた。これは天の恵み!とばかりに、再び手を組まないかと申し出るオリバーたちだったが、オスカーの名前を聞いただけでリリーは逆上する。
 一方、リリーが列車に乗っていると知ったオスカーは、そんなことを言える立場でないにも関わらず、彼女が許しを請うてきたならば和解してもいいと偉そうな口ぶり。だが、彼女が自分の名前に拒絶反応を起こしたと聞いて憤慨、さらに彼女が恋人同伴であることを知って激怒。周囲の人間が右往左往する中、二人はお互いに維持の張り合いを続ける。
 そんな中、舞台への出資に興味があるという金持ちの老人クラーク氏(エティエンヌ・ジラルド)が登場。オスカーたちはいいカモが現れたと大喜びし、リリーへの説得材料に使おうとするのだが、この老人というのがまだとんでもない食わせものだった・・・。

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ハリウッドのトップ女優へと成長したリリー

リリーが列車に同乗していると知って激高するオスカー

リリーを説得しようとあの手この手を試みるが・・・

 先述したように、本作はチャールズ・ブルース・ミルホランドの書いた戯曲『Napoleon of Broadway』が原作となっている。だが、この戯曲は実際に舞台で上演されたことがなかったそうだ。その後、『犯罪都市』(31)や『生きているモレア』(35)で有名なアカデミー賞コンビ、チャールズ・マッカーサーとベン・ヘクトが脚色し、『Twentieth Century』というタイトルでブロードウェイにて上演されてヒット。それを映画化したのが本作だったというわけだ。
 映画化するに当たっては、当初プレストン・スタージェスが脚色を担当。しかし、一向に執筆が進まないことからクビになってしまい、ジーン・フォウラーが後を引き継いだのだそうだ。だが、本編の脚本クレジットにはマッカーサーとヘクトの名前しか記されておらず、スタージェスやフォウラーの書いたパートがどれくらい残されているのかは分らない。
 撮影監督を担当したのは、『ガンガ・ディン』(39)でオスカーを獲得した名カメラマン、ジョセフ・H・オーガスト。また、アイリーン・キャッスルやアンナ・パブロワといった舞踏家の衣装デザインでも有名なロバート・カロックが、キャロルのドレスをデザインしている。
 ちなみに、製作したコロムビア映画は、当初舞台版でリリー役を演じた女優ユージニー・レオントヴィッチを起用するつもりだったそうだ。グロリア・スワンソンやミリアム・ホプキンスも検討されたが、最終的にはホークス監督の推薦でパラマウントからキャロルを借りることになったとのこと。

 そして、アメリカ演劇界の歴史に燦然と輝く名優ジョン・バリモアと熾烈な演技合戦を繰り広げたキャロル。とにかくバリモアの大熱演が凄まじ過ぎるくらいに凄まじいのだが、それに刺激されるかのように大女優の滑稽なまでのエゴとプライドを身振り手振りを交えながら演じるキャロルの爆発ぶりも痛快だ。
 それまで綺麗どころのお嬢様役ばかりを演じてきた彼女だけに、本作の撮影ではかなり戸惑うことも多かったと言われる。ホークス監督もキャロルの演技指導には苦慮したそうだが、見事その期待に応えたと言えよう。
 一方、脇役の中ではオスカーがキレるたびにとばっちりを食うトホホなマネージャー、オリバー役を演じるウォルター・コノリーが絶品。同年の『或る夜の出来事』(34)ではクローデット・コルベールの父親役を演じていた俳優だ。また、いつもぼやいてばかりいる皮肉屋オーウェン役のロスコー・カーンズもいい味を出しているし、クラーク氏役のエティエンヌ・ジラルドの飄々とした演技も印象的。地味ながら個性溢れる役者が脇を固めているのもポイント高い。

 

春を手さぐる
Hands Across The Table (1935)
日本での劇場公開年は不明
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Universal Studios (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/81分
/製作:アメリカ
※『街の紳士』『恋と胃袋』『処女散歩』『姫君海を渡る』『真実の告白』を同時収録

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ミッチェル・ライゼン
製作:E・フロイド・シェルドン
原案:ヴィナ・デルマー
脚本:ノーマン・クラスナー
   ヴィンセント・ローレンス
撮影:テッド・テズラフ
出演:キャロル・ロンバード
   フレッド・マクマレイ
   アストリッド・オールウィン
   ラルフ・ベラミー
   ルース・ドネリー
   マリー・プレヴォー

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玉の輿を狙うマニキュリスト、レジー(C・ロンバード)

下半身不随の大富豪マックリン氏(R・ベラミー)

変わり者でお気楽なお坊ちゃんセオドア(F・マクマレイ)

 1929年の株価暴落によって引き起こされた1930年代の世界大恐慌。一夜にして一文無しとなって路頭に迷う人々が続出し、多くのアメリカ国民が出口の見えない貧しさに苦しめられた。当時のハリウッドではそんな世相を色濃く反映させた作品が少なくなかったわけだが、本作なども大恐慌の時代ならではの風刺を込めたスクリューボール・コメディと言えるだろう。
 主人公はニューヨークの高級ホテルでマニキュリストとして働く女性レジー。貧しい家庭で苦労して育った彼女は、愛よりもお金が大切と公言してはばからない現実主義者だ。高級ホテルで働いているのも、大金持ちのダンナ様を見つけて玉の輿に乗るため。
 そんな彼女の前に、セアドル・ドルー三世という有名な資産家の息子が現れる。ここぞとばかり積極的にアピールするレジー。ところが、彼は株価暴落で全財産を失った一文無しだった。しかも、一向に働く気がないことから、財産目当てで大富豪令嬢と結婚するのだという。
 ある意味で同じ穴のムジナ、ということから妙に意気投合する二人。しかも、酔っ払ったセオドアが休暇旅行の船に乗り遅れてしまったことから、アリバイ作りのためしばらく共同生活を送ることとなる。
 やがて、お互いへの強い愛情を意識しあうようになる二人。だが、自分たちが結ばれたって幸せになれるはずがない。そうお互いに言いきかせて別れの言葉を交わした二人だったが、テオドアのフィアンセが彼らのことを嗅ぎつけてニューヨークへとやって来てしまう。
 愛とお金とどちらが本当に大切なのか?本当の豊かさとは何なのか?という、非常にシンプルな質問をストレートに投げかけてくる作品。物語自体もかなり単純明快で、それだけに食い足りなさが残ることは否めないが、裏表のない率直なヒロインのキャラクターが丁寧に描けている点は好感が持てる。
 ただ、大人になりきれないお気楽者セオドアを演じるフレッド・マクマレイに、いまひとつ魅力が足りなかった。マクマレイといえば、'40年代にクローデット・コルベールとのコンビでロマンティック・コメディに本領を発揮した名優。だが、当時の彼はまだ若かったせいもあってか、ただのありきたりな好青年でしかなく、存在そのものに観客を惹きつける何かが欠けているのだ。
 事実、それまでコメディをやったことのなかった彼は、なかなか演技のコツが掴めずに撮影で相当苦労をしたのだそうだ。どことなくぎこちないというか、居心地の悪さが感じられるのはそのせいかもしれない。
 監督は『絢爛たる殺人』(34)や『1936年の大放送』(35)、『街は春風』(37)などのミュージカルやコメディで鳴らした名匠ミッチェル・ライゼン。通勤ラッシュの地下鉄に揉まれて駅へと降り立ち、親友と世間話をしながら職場まで歩くという一連の流れの中で、ヒロインの性格や人生背景などを実に面白く分りやすく、しかもリズミカルに描いていくオープニングはなかなか見事。ライゼン監督ならではの洒落たセンスが光る。
 いずれにせよ、キャロルにとってもライゼン監督にとっても決して代表作とは言えないものの、チャーミングで憎めないところのある映画だ。

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セオドアに積極的なアピールを試みるレジー

初のデートですっかりいい感じになるのだが・・・

タクシーの中で酔いつぶれてしまったセオドア

 ニューヨークの高級ホテルでマニキュリストとして働く女性レジー・アレン(キャロル・ロンバード)。彼女にとって、この仕事は長年の夢を叶えるための手段だ。その夢とは、お金持ちの御曹司と結婚して玉の輿に乗ること。貧しい家庭で苦労しながら育った彼女は、お金がなければ幸せになれないことを思い知らされていた。
 そんな彼女は、ある日マックリン氏(ラルフ・ベラミー)という独身の大富豪の爪磨きを担当する。下半身不随のマックリン氏を見て初めは驚いたレジーだが、たちまち打ち解けるようになった。マックリン氏も歯に衣着せず率直にものを言うレジーのことを気に入り、すっかり魅了される。
 それからというもの、頻繁にレジーを呼ぶようになったマックリン氏。身の上話から愚痴まで、何も言わずに黙って聞いていてくれる彼に、レジーは大きな信頼を置くようになる。が、どうやら結婚相手の対象とは考えていないようだ。
 ある日、ホテル内で彼女を見かけた若い男性が爪磨きの予約を申し込んだ。男性の名はセオドア・ドルー三世(フレッド・マクマレイ)。どうやら資産家の息子らしい。千載一遇のチャンス到来とばかり、積極的なアピールを試みるレジー。集中できずに爪磨きは散々な結果だったが、デートの約束を取り付けることが出来た。
 お坊ちゃん育ちのセオドアは、かなりの変わり者だった。最初は少々戸惑ったレジーだが、その天真爛漫な人柄に居心地の良さを感じる。だが、そのデートの帰り道、彼女はセオドアに婚約者がいることを知ってしまう。ショックで泣き崩れるレジー。しかも、酔っ払ったセオドアはタクシーの中で眠り込んでしまった。仕方なく、レジーは彼を自宅へと担ぎこむ。
 翌日、酔いつぶれたままのセオドアを残して仕事へ出かけたレジー。昨夜のことをマックリン氏に打ち明けると、セオドアの婚約は社交界で話題になっているのだという。なにしろ、お相手はパイナップル・キングと呼ばれる大富豪の娘ヴィヴィアン(アストリッド・オールウィン)だからだ。金持ち同士が結婚するなんて理不尽だと悔しがるレジーだったが、到底敵いっこないことは分りきっていた。
 その晩、自宅に戻ったレジーは、セオドアがまだいることに驚く。しかも、なんと家に帰るお金がないというのだ。実は、彼の実家は株価暴落の煽りを受けて破産し、一文無しとなってしまったのである。なので、ヴィヴィアンとの結婚も財産が目当て。働く術も気力もない彼にとっては、嫁の持参金で食わしてもらう以外に生きる方法がないのである。
 な〜んだ、アンタもアタシと似たような仲間なのね。そうと分ったレジーはすっかり気が楽になった。が、重大な問題が残されている。というのも、セオドアはフィアンセの実家のお金で、独身最後の旅行ということでバミューダへ行く予定だったのだ。だが、船はとっくのとうに出てしまっている。改めてチケットを買うお金もない。そこで、彼は旅行から帰る予定日までレジーの家に居候することとなった。
 こうして気楽な同居生活が始まったものの、とりあえずアリバイ工作をせねばならない。そこで、レジーが電話交換手のふりをして、バミューダからの長距離電話ということでヴィヴィアンに到着報告をすることにした。だが、ついつい調子に乗って変な演出をしたところ、ヴィヴィアンが不審に思ってバミューダへ電話をかけ直してしまう。電話の発信地がニューヨークだと知ったヴィヴィアンは、驚きと戸惑いを隠せなかった。
 そんなこととは露知らず、短くも楽しい日々を過ごしたレジーとセオドア。だが、明日には出て行かねばならないという時になって、二人は言いようのない寂しさを感じる。お互いに愛し合っているのは確かだ。だが、二人が結ばれたって幸せにはなれない。セオドアは黙ってレジーのもとを去る。
 翌日、ヴィヴィアンの自宅へ戻ったセオドアだが、彼女はニューヨークへ出かけたという。彼は嫌な予感がした。その頃、ヴィヴィアンは自分の名前を伏せてレジーにマニキュアを頼んでいた。ふしだらな女呼ばわりされたレジーは気丈に振舞ってみせるものの、内心では深く傷つけられてしまう。
 マックリン氏のもとへ駆け込み、その胸に抱きつきながら泣きじゃくるレジー。この日、マックリン氏は彼女にプロポーズするつもりだったが、その姿を見てレジーのセオドアに対する愛情が本物であることを察する。その頃、ホテルに着いたセオドアはヴィヴィアンと対面。思い切って別れを切り出すのだが・・・。

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実は、セオドアの家族は株価暴落で無一文だった

ウソの長距離電話で悪ふざけをする二人

セオドアの婚約者ヴィヴィアン(A・オールウィン)

 どうしてレジーが金持ちでハンサムなマックリン氏をターゲットに入れないのか、というのが本作で一番の疑問。直接的には触れられていないものの、恐らく彼が下半身不随であることが理由なのだろう。今ならば考えられないことだが、当時は言わずもがなだったのかもしれない。
 その代わりに、彼が良き相談相手としてレジーを教え導くわけだが、やはりどうしてもその差別的な要素が気になってしまう。素直に、はいそうですかとは頷けないのである。時代によって価値観が大きく様変わりするのは当たり前。だが、古い映画を鑑賞する場合、時としてそれがネックになってしまうこともあるのだ。
 原作を書いたのは、都会に生きる現代女性をモデルにしたスキャンダラスな小説で当時ベストセラーを連発していた女流作家ヴィナ・デルマー。映画の脚本家としても活躍し、『新婚道中記』(36)ではアカデミー賞にもノミネートされた女性だ。
 脚色を担当したノーマン・クラスナーは、自ら監督も手掛けた恋愛コメディ『カナリヤ姫』(34)でオスカーを受賞した人。オスカー候補となった『世界一の金持ち娘』(34)やヒッチコックの『スミス夫妻』(41)、スタンリー・ドーネンの『無分別』(58)など、ロマンティック・コメディの分野を得意とした名脚本家だ。また、セシル・B・デミルの『クレオパトラ』(34)にも携わったヴィンセント・ローレンスも参加している。
 さらに、ルネ・クレールの『奥様は魔女』(42)やヒッチコックの『汚名』(46)で知られるテッド・テズラフが撮影監督を担当。そのほか、ディートリッヒとのコラボレーションで有名なトラヴィス・バントンがキャロルのドレス・デザインを、『サンセット大通り』(50)でオスカーを獲得したドイツ出身のハンス・ドライエルが美術デザインを手掛けている。

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結ばれても幸せにはなれないと諦めるレジー

ヴィヴィアンはレジーの居場所を突き止めていた

レジーがセオドアを本気で愛していると悟るマックリン氏

 さて、初のコメディ映画ということもあって実力を十分には発揮できなかったフレッド・マクマレイだが、初顔合わせとなったキャロルとの相性はすこぶる良かったようだ。二人はすっかり意気投合し、以降『姫君海を渡る』や『真実の告白』などでコンビを組むこととなる。
 そんな二人を陰で支えるのが、温厚な紳士マックリン氏を演じる俳優ラルフ・ベラミー。洒脱なジェントルマンから冷徹な悪人まで幅広く演じ、30〜40年代のハリウッド映画には欠かせない名優だ。『プリティ・ウーマン』(90)の老紳士モース氏役や『大逆転』(83)の会社社長役などで記憶している映画ファンも少なくないだろう。本作では出番こそ少なめながら、恐らく観客が一番感情移入できるであろうキャラクターを、本当にさり気ない感じで演じていて巧い。
 また、セオドアのフィアンセ、ヴィヴィアン役には、シャルル・ボワイエ主演の『邂逅』(39)でも主人公の不幸なフィアンセ役を演じていたアストリッド・オールウィン。そのほか、サイレント時代のトップ女優マリー・プレヴォーがレジーの親友ノナ役を、気風のいいオバさん役で親しまれた名脇役ルース・ドネリーがレジーの働く美容室の女主人役を演じている。

 

襤褸と宝石
My Man Godfrey (1936)
日本では1936年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 Legend Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ&カラライズ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/93分/製作:アメリカ
※オリジナル・モノクロ・バージョンとカラライズ・バージョンを同時収録

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:グレゴリー・ラ・カーヴァ
製作:チャールズ・R・ロジャース
原作:エリック・ハッチ
脚本:エリック・ハッチ
   モリー・リスキンド
撮影:テッド・テズラフ
出演:ウィリアム・パウエル
   キャロル・ロンバード
   アリス・ブレイディ
   ゲイル・パトリック
   ジーン・ディクソン
   アラン・モーブレイ
   ユージン・パレット
   ミーシャ・アウアー

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路上生活を送る浮浪者ゴッドフリー(W・パウエル)

アイリーン(C・ロンバード)の素直さに好感を持つ

金持ちの下品な遊びを痛烈に批判するゴッドフリー

 上記の『春を手さぐる』でも述べたように、1930年代は世界大恐慌の嵐が吹き荒れた過酷な時代。当然のことながら、社会における貧富の差も大きく広がった。働きたくても就職口がなくて路上生活を強いられるような人々が街に溢れる一方、働かずとも遊んで暮らせるような金持ち連中も存在したのである。
 これは、そんな理不尽で不公平な世相を背景にした作品。たまたま大富豪一家に執事として雇われた浮浪者が、自己中心的で我がままで甘やかされた上流階級の人々に様々な教訓を与えていく。言うなれば、大人向けの男性版メリー・ポピンズ。社会風刺を効かせた見事なスクリューボール・コメディである。
 主人公は路上生活者のゴッドフリー。偶然知り合った富豪令嬢アイリーンに気に入られたことから、彼は彼女の一家に執事として雇われることとなる。ところが、この一家というのが、苦労知らずな金持ちの悪例を絵に描いたような人々の集まりだった。
 時には好奇の目で見られ、時には冗談のネタにされ、時には理不尽な嫌がらせを受けるゴッドフリー。だが、そのたびに彼は知恵と機転を働かせ、富豪一家の人々に己の過ちを悟らせていく。やがて、一家の絶大な信頼を得るようになるゴッドフリーだったが、実は彼には誰も知らない意外な秘密があった・・・。
 とにかくまず脚本が素晴らしい。偉そうに社会道徳を説いたりするような押し付けがましさなど一切なく、スラップスティックなギャグやホロッとするような人情話、相当にオフビートなラブ・ロマンスなどを織り交ぜながら、働いてお金を得るということの意味、その得たお金をどのようにして使うのかということの大切さ、そして人々が互いに助け合うことによって初めて社会全体が良くなるのだというメッセージを、実にさり気なく教えてくれるのである。
 もちろん、役者の演技も最高だ。中でも、物事を達観したミステリアスな紳士ゴッドフリーを演じるウィリアム・パウエルと、素直で無邪気だが我がままで浅はかな令嬢アイリーンを演じるキャロルのコンビネーションは絶妙。なかなかゴッドフリーから相手にされないアイリーンが、彼の気を引こうとあの手この手を使うも失敗し、そのたびに地団太踏んで悔しがる姿は抱腹絶倒でもあり可愛らしくもあり。
 製作されてからすでに70年以上が経っているわけだが、今でも十分に通用する・・・というよりも、世界的な不況に出口の見えない今だからこそ感じるところの多い作品なのではないだろうか。こういう映画こそリメイクされるべきであろう。アカデミー賞6部門ノミネートも大いに納得の傑作である。

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ゴッドフリーはアイリーンに執事として雇われる

ゴッドフリーの気を引きたいアイリーン

気位が高くて意地悪な姉コーネリア(G・パトリック)

 ニューヨークの掃き溜めで路上生活をする男性ゴッドフリー(ウィリアム・パウエル)は、貧しくも逞しい仲間たちを支えあいながら暮らしていた。そんなある晩、パーティの装いをした金持ちの男女が、馬鹿騒ぎをしながらこの貧民窟へとけたたましくやって来た。
 その中の一人、コーネリア(ゲイル・パトリック)という女性が前に進み出て、ゴッドフリーに“5ドル欲しくない?”と偉そうに話しかける。彼女の言うには、彼らは“ごみハンティング”なる遊びをしており、誰も気にとめることのない人=浮浪者を一番乗りで連れてきた者が優勝するというのだ。呆れたゴッドフリーは、強い口調でコーネリアたちを追い返す。
 すると、彼らの後ろで気まずそうにしていた若い女性が一人残された。彼女の名前はアイリーン(キャロル・ロンバード)。コーネリアの妹だ。姉の無礼を謝る彼女に好感を持ったゴッドフリーは、その“ごみハンティング”やらに一役買うことにする。それに、どんな連中がこんな馬鹿げた遊びに興じているのか見てみたかった。
 その頃、市内の高級ホテルでは暇を持て余した金持ちたちが、ヤギやら廃品やらを手にして“ごみハンティング”を楽しんでいる。そこへアイリーンがゴッドフリーを連れて来たもんだから、たちまち全員の目が二人に注がれた。優勝の感想を訊かれたゴッドフリーは金持ち連中の愚かさを痛烈に批判し、その場はブーイングの嵐となってしまう。だが、アイリーンはそんな彼の誇り高い態度に感心し、協力してくれたお礼にとゴッドフリーを執事として雇うことにした。
 翌朝、アイリーンに買ってもらった服を着て、大富豪ブロック一家の屋敷へとやって来るゴッドフリー。皮肉屋だが気のいい女中モリー(ジーン・ディクソン)によると、どうやらこの一家は大いに問題ありらしい。そして、その言葉の意味はすぐに理解が出来た。
 母親アンジェリカ(アリス・ブレイディ)は難しいことを考えるのが苦手な楽天家で、悪い人間ではないものの世間の常識というものを全く知らないおバカマダム。カルロ(ミーシャ・アウアー)という素性の怪しい自称詩人を屋敷に住まわせ、芸術家のパトロンを気取っているものの、はっきり言って単なる自己満足。ほとんどペットだ。カルロもカルロでブロック家に食わせてもらうのが目的なものだから、創作活動などそっちのけでマダムのご機嫌取りに精を出している。
 長女コーネリアは、気位が高くて気性の激しい意地悪な女。しかも、下手に頭がいいので余計に扱いづらい。ただの浮浪者に過ぎないゴッドフリーから説教されたことを根に持っており、一生後悔するくらいの復讐をしてやろうと敵意を燃やしている。
 ゴッドフリーを見初めた次女アイリーンは素直で無邪気、とても可愛げのある女性なのだが、なにしろ甘やかされて育ったのでこらえ性がない。自分の思い通りにならないことがあると、たちどころに泣いてわめいて暴れての大騒ぎを繰り広げる。ゴッドフリーのことが気になってしょうがないのだが、素っ気ない態度を取られると大ショック。彼の気を引こうと、悲劇のヒロインを演じてみせたり、悪い女のふりをしたり。かなり面倒くさい女性だ。
 そして、そんな家族に手を焼いて頭痛の絶えない父親ブロック氏(ユージン・パレット)。一家の中では唯一の常識人なのだが、妻や娘たちの破天荒さにはすっかりお手上げ状態で、もはや怒る気力すら残されていない。
 このトンデモ一家の日常に面食らいながらも、持ち前の冷静沈着さと的確な判断力でテキパキと仕事をこなしていくゴッドフリー。そんなある日、ブロック邸で開かれた社交パーティに招待されたトミー・グレイ(アラン・モーブレイ)は、そこで執事として働くゴッドフリーの姿を発見してビックリする。ゴッドフリーの方でも、トミーの姿を見て気まずそうな顔をした。二人は知り合いなのか?周囲の人々は一様にビックリする。
 なにか事情があるのだろうと察したトミーは、機転を利かせてゴッドフリーの言葉に調子を合わせ、彼が以前に自分のところで働いていたのだと言い訳をする。しかも、奥さんと5人の子供がいる既婚者なのだと話しが広がってしまった。それを聞いたアイリーンはパニック状態で、思わずその場にいた幼馴染みの男性との婚約を発表をしてしまう。当の婚約相手も家族も誰もが寝耳に水だったが、なんとなくノリで祝賀ムードに。アイリーンは自己嫌悪でわめき泣くのだった。
 実は、ゴッドフリーはボストンの名門パークス一族の御曹司だった。だが、失恋の痛手で生きる気力を失い、失踪と放浪の果てに路上生活者となってしまった。そこで貧しくも希望を捨てずに逞しく生きる人々と知り合い、それまでの自分がいかに甘かったのか、上流階級の人々がいかに浅はかなのかを思い知らされたのだという。全てをトミーに告白したゴッドフリーは、ある計画を彼に打ち明ける。
 その頃、ゴッドフリーへの復讐を虎視眈々と狙うコーネリアは、自分の首飾りをわざと彼の部屋に隠し、宝石が盗まれたと大騒ぎをする。通報を受けた警察が捜索を始め、ゴッドフリーの部屋もチェックされることとなった。だが、コーネリアの計略とは裏腹に、彼の部屋からは何も出てこない。そんなはずはない、ベッド・マットレスの下を探して御覧なさいといきり立つコーネリアの様子から、ブロック氏はこれが彼女の仕組んだ茶番劇だと察した。
 警察には通報内容を撤回して帰ってもらい、ゴッドフリーに深く謝罪するブロック氏。アイリーンの婚約も破綻したことから、彼は娘たちをしばらくヨーロッパ旅行へ行かせることにした。ところが、帰国したアイリーンの猛アタックは激しさを増す一方だし、コーネリアも今度は色仕掛けでゴッドフリーを罠にはめようとする。さらに追い討ちをかけるがごとく、長年の浪費と放蕩三昧が災いしてブロック家はついに破産してしまった・・・。

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母アンジェリカ(A・ブレイディ)とカルロ(M・アウアー)

破天荒な妻と娘たちにお手上げのブロック氏(E・パレット)

ゴッドフリーの素性を知る友人トミー(A・モーブレイ)

 監督のグレゴリー・ラ・カーヴァは、本作と『ステージ・ドア』(37)で2年連続アカデミー賞にノミネートされた名匠。サイレント時代から数多くのコメディ映画を手掛けた職人監督だったが、その代表作といえば間違いなくこの『襤褸と宝石』であろう。スタッフ・キャストのクレジットをネオン・サインに見立てたオープニングから実に洒脱なセンスが行き渡っており、さながら現代の御伽噺的な雰囲気さえ醸し出しているのが心憎い。
 ただ、このラ・カーヴァという監督、当時のハリウッドでは珍しくどこのスタジオにも属さないフリーランスの一匹狼で、かなり破天荒でクセのある人物だったらしい。なので、撮影現場では一触即発の緊迫ムードになることもあったのだそうだが、そんな時は我らがパーティ・ガール、キャロルの出番。セリフにアドリブで下ネタを滑り込ませ、わざとNGを出して現場の爆笑を誘ったのだそうだ。
 原作となったのは、『ニューヨーカー』誌の記者だったエリック・ハッチの書いたベストセラー小説“1101 Park Avenue”。そのハッチ自身と、一連のマルクス兄弟作品で有名なモリー・リスキンドが脚色を手掛けた。このリスキンドという人がまだクセのある人で、もともと舞台出身だからなのかもしれないが、撮影現場に張り付いてはその場でセリフやシーンを書き換えることが多かったらしい。
 そのほか、撮影監督のテッド・テズラフやドレス・デザインのトラヴィス・バントンなど、上記の『春を手さぐる』でもキャロルと顔を合わせたスタッフが参加。さらに、『魔人ドラキュラ』(31)や『フランケンシュタイン』(32)などユニヴァーサル・ホラーで知られるチャールズ・D・ホールが、ブロック邸のエレガントでスタイリッシュなセット・デザインを手掛けている。
 なお、先述したようにアカデミー賞の主要6部門にノミネートされた本作だが、残念ながら一つも獲得できず。しかし、ハリウッド史上最高のコメディ映画の一つと言われており、57年にはデヴィッド・ニーヴンとジューン・アリスン主演で『いとしの殿方』としてリメイクされた。
 ちなみに、どういう事情からそうなったのかは定かでないものの、本作はアメリカで現在パブリック・ドメインとなっている。そのため、画質の悪い廉価版DVDが様々な会社から好き勝手に出されている状態だ。そんな中、20世紀フォックスがオリジナル・ネガ・フィルムを提供した上記のレジェンド・フィルム版とクライテリオン版は、それぞれに丁寧な修復作業が施されている。レジェンド・フィルム版は最新技術を駆使したカラライズ・バージョンが同時収録されており、クライテリオン版は貴重な特典映像が満載。どちらも甲乙付けがたいものの、値段の安いレジェンド・フィルム版の方が手を出しやすいかもしれない。

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なかなか恋が成就できず悔し泣きするアイリーン

ゴッドフリーを貶めようと罠を仕掛けたコーネリアだが・・・

アイリーンの猛アタックはエスカレートするばかり

 主演のウィリアム・パウエルとキャロルはこの3年ほど前に離婚しているのだが、その演技はまさに息ピッタリといった感じ。実は、製作したユニバーサル映画は当初アイリーン役にコンスタンス・ベネットかミリアム・ホプキンスの起用を考えていたらしい。だが、先にゴッドフリー役に決まったパウエルが、元妻キャロルの起用に固執したため、パラマウントから彼女を借りることになったのだそうだ。
 そのパウエルがキャロルに固執した理由は、劇中のゴッドフリーとアイリーンの関係が、かつての自分とキャロルの関係そのものだったからとのこと。なるほど、やけに息が合っているわけだ(笑)。
 そのアイリーンの姉にしてゴッドフリーの強敵となる悪女コーネリア役を演じているのは、『ルンバ』(35)でもキャロルと共演したゲイル・パトリック。当時は恋愛映画でもっぱらヒロインの恋敵役として活躍していた女優さんだ。
 さらに、本作でアカデミー助演女優賞候補となり、『シカゴ』(38)で同賞を獲得する名女優アリス・ブレイディがトンチンカンな母親アンジェリカ役を好演。また、『上海特急』(32)や『スミス都へ行く』(39)、『天国は待ってくれる』(43)など数多くの名作で父親役や上司役などを演じた巨体の名脇役ユージン・パレットが、本作でも人間味溢れるブロック氏役でいい味を出している。
 また、アンジェリカのヒモ的存在であるカルロ役を演じたミーシャ・アウアーも秀逸だった。黙っていれば2枚目なのに、妙にクセのある演技をすることから、マッド・ドクターやら変質者やらエキセントリックな役ばかり演じた怪優。本作では、癇癪を起こして泣きわめくアイリーンをなだめるため、ゴリラのマネをしておどけてみせるシーンが抱腹絶倒。この役でオスカーの助演男優賞にノミネートされた。
 その他、『虚栄の市』(35)でミリアム・ホプキンスの相手役を演じたアラン・モーブレイ、『スイング』(36)でもキャロルと共演しているジーン・ディクソンなどが登場。また、後のオスカー女優ジェーン・ワイマンがパーティのゲストとして、プレストン・スタージェス作品の常連俳優フランクリン・パングボーンが“ごみハンティング”の審査員長として顔を出している。

 

処女散歩
Love Before Breakfast (1936)
日本での劇場公開年不明
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Universal Studios (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/70分
/製作:アメリカ
※『街の紳士』『恋と胃袋』『春を手さぐる』『姫君海を渡る』『真実の告白』を同時収録

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ウォルター・ラング
製作:エドマンド・グレインジャー
原作:フェイス・ボールドウィン
脚本:ハーバート・フィールズ
撮影:テッド・テズラフ
音楽:アーサー・モートン
   フランツ・ワックスマン
出演:キャロル・ロンバード
   プレストン・フォスター
   シーザー・ロメロ
   ジャネット・ビーチャー
   ベティ・ロウフォード
   リチャード・カール

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貿易会社を経営する大富豪スコット(P・フォスター)

ケイ(C・ロンバード)の恋人ビル(C・ロメロ)が日本へ転勤に

港ではなぜかスコットも見送りに来ていた

 スターの人気が盛り上がれば盛り上がるほど、似たような役柄や作品が増えていくのは仕方のないこと。本作ではキャロル扮する我がままで勝気な令嬢とプレストン・フォスター扮するこれまた殿様的なワンマン大富豪が、お互いに猛烈な意地の張り合いをしながら結ばれていくまでの様子をハイテンションなギャグの畳み掛けで描いていく。明らかに『特急二十世紀』を意識したスクリューボール・コメディである。
 主人公は社交界の花形ケイ・コルビー。彼女にはビジネスマンのビル、大富豪のスコットという二人の恋人がいる。ところが、ケイがビルと婚約したことを知ったスコットは、ビルの勤める会社を丸ごと買収し、彼を日本へ転勤させてしまった。
 もちろん、それを知ったケイは激怒。スコットはあの手この手を使ってケイを振り向かせようとするものの、そんな彼の権力を濫用したやりたい放題に我慢ならないケイは猛反発。そうかと思えば、彼が攻撃の手を緩めると妙に寂しくて仕方なくなる。果たして、このひねくれた駆け引きにハッピーエンドはあるのか?
 ということで、ストーリーは非常に他愛ないというか、まあ勝手にやってて頂戴なといったレベルのものなのだが、意地を張りすぎてしっぺ返しばかり食らうヒロインの猛烈なドタバタぶりはなかなか絶妙で面白い。
 監督は『ショウほど素敵な商売はない』(54)や『王様と私』(56)といったミュージカル映画で有名な名匠ウォルター・ラング。ストーリー運びのリズムや、笑いを起こす間の取り方などは非常に上手いものの、全体的にはワリとアッサリした演出に終始している。やはりこれは、素直にキャロルのコメディエンヌぶりを楽しむべき作品と言っていいだろう。

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ビルを転勤されたのがスコットだと知って激怒するケイ

乱闘で目にアザを作ったケイを見て大笑いするスコット

どこにでも先回りして現れるスコットに辟易するケイ

 ニューヨーク社交界の花形ケイ・コルビー(キャロル・ロンバード)は男性崇拝者が後を絶たないほどの美女だが、中でも彼女のお気に入りは二人。石油会社に勤めるビル・ワッズワース(シーザー・ロメロ)と、貿易会社を経営する大富豪スコット・ミラー(プレストン・フォスター)だ。最終的にケイはビルと婚約することにした。
 そんなある日、突然ビルが日本へ転勤することとなる。愛する人が遠い異国の地へ旅立つことを悲しむケイだったが、日本企業との大きな商談を任されるということでビルは大喜び。日本行きの船に乗り遅れまいと二人は急いで港へと馬車を走らせる。
 すると、港には偶然(?)スコットが見送りに来ていた。愛人のキャンパネラ伯爵夫人(ベティ・ロウフォード)がハワイへ旅行に行くのだという。それぞれビルと伯爵夫人を送り出したケイとスコットは、帰宅がてら寄り道して食事をすることにした。
 そこでスコットは事の次第を正直に話した。ビルを日本へ転勤させたのは自分だと。ビルの勤める会社を丸ごと買収して日本企業との商談を持ち込み、その担当者として彼を指名したのだ。もちろん、愛人の伯爵夫人を同時期にハワイへ送り出したのも計算ずく。一度にまとめて厄介払いをし、ケイに自分の気持ちを受け入れてもらいたかったというわけだ。
 その告白を聞いたケイは激怒。なんでも自分の思い通りになると思ったら大間違いよ!とばかりにレストランを飛び出し、船上のビルに宛てて真実を暴露する電報を打った。その足でバーへ入ったケイは、アメフト部の大学生集団にナンパされる。そこへ、後をつけてきたスコットが割って入り、たちまち殴り合いの大乱闘となった。駆けつけた警察に学生たちもろとも逮捕されたケイとスコット。乱闘の最中に殴られたケイは片目に真っ黒なアザが出来てしまった。
 翌朝、二日酔いと怪我で気分最悪のケイのもとへ、ビルから電報の返事が届く。それでも日本との商談は出世のチャンスだから、頑張って仕事してくるよ!という期待外れなものだった。
 とにかく、この目のアザを何とかしたい。ケイは美容サロンを予約するが、なぜかそこには美容師を買収したスコットが待っていた。そればかりか、連日大量の花を贈りつけたり、彼女が嫌いだというペキニーズを送ってよこしたりと、冗談なのか本気なのか分らないスコットの猛烈アタックが続く。
 ケイが趣味の乗馬を楽しんでいると、どこで聞きつけたのかスコットが登場。ケイはイタズラをしてスコットを落馬させるが、逆に自分の馬を取られてしまい、仕方なく通りすがりの自転車をヒッチハイクする羽目に。
 さらに、ケイは仮装パーティへ行くつもりで同伴者のスチュアートを待っていたところ、なぜかスコットが出迎えに現れた。そのうしろには泥酔状態のスチュアートが。事前にスコットがしこたま酒を飲ませてしまったのだ。
 仕方なくスコットとパーティへ出かけたケイ。そこで彼女は仕返しのいたずらをして、スコットに恥をかかせる。そこまで自分のことが嫌なのか。落胆したスコットは、自ら身を引くと言って立ち去ってしまった。
 だが、それも彼の作戦のうち。案の定、スコットからの連絡が途絶えたケイは寂しくなり、泣いて過ごすようになった。だが、スコットのことを好きだなんて認めたくはない。メイドの日本人ユキ(ミア・イチオカ)は女性が男性に求められるのは幸せなことだと諭すが、ケイはそんな古風な女にはなりたくなかった。
 そこで、彼女は大胆なアイディアを思いつく。スコットのことなんか愛してはいない。でも、そんなに自分のことを好きなら、結婚してあげてもいい。ただし、これはあくまでも契約だ。スコットもそれを了承し、この結婚契約は意外にもすんなり成立する。
 二人の婚約を一番喜んだのはケイの母(ジャネット・ビーチャー)だった。実は、彼女はスコットのことが大のお気に入り。これまでケイの予定をスコットが先回りしていたのも、母親が裏で逐一情報を流していたからだったのだ。ところが、スコットはケイを焦らすために結婚の日取りを先送りし続け、またもやプライドを傷つけられたケイは怒って婚約をご破算にしてしまう。
 ついに観念したのか、スコットはビルに辞令を出して帰国させた。キャンパネラ伯爵夫人も戻ってきた。ケイは改めてビルと婚約し、レストランなどでスコットとばったり出くわしても、まるで毛嫌いするかのように避ける。
 そんなある週末、ケイとビルは沖でボート遊びをすることに。その近くでは、ケイの母の入れ知恵でスコットが豪華客船でクルージングをしている。小さなボートよりも客船で過ごしては?というスコットの誘いを断固として拒否するケイ。だが、そこへ激しい嵐がやって来て・・・。

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スコットに馬を取られたケイは自転車をヒッチハイク

パーティの同伴相手まで酔い潰すスコットに呆れるケイ

だが、スコットが身を引くと知って驚きを隠せない

 ビルの転勤先が日本だったり、当時のアメリカにとって日本が少なからず重要な商売相手だったことが垣間見えたり、日本人のメイドがケイの相談相手になったりと、やけに日本絡みのネタが目立つのは興味深いところだろう。
 原作は女性向けブルジョワ・ロマンス小説で当時大人気だった女流作家フェイス・ボールドウィンの書いた短編小説。どうやら雑誌で発表されたもので、単行本として出版されたことはなかったようだ。
 その原作を脚色したのは、『アニーよ銃を取れ』など数多くのブロードウェイ・ミュージカルを手掛けた脚本家ハーバート・フィールズ。だが、実は彼以外にもプレストン・スタージェスやクロード・ビニヨンなど、名だたる脚本家たちがそれぞれに脚色を手掛けていたらしい。で、本作のためにキャロルをパラマウントから特別に借り受けたユニヴァーサルは、その契約の中で脚本の決定権を彼女に与えていた。そこで、数ある脚本の中からキャロルの選んだのが、フィールズの脚色したバージョンだったというわけだったようだ。
 他にもユニヴァーサルはキャロルの意向をかなり汲んだらしく、撮影監督のテッド・テズラフと衣装デザインのトラヴィス・バントンも、彼女の希望でパラマウントから同時に借り受けたのだそうだ。特にバントンは当時のキャロルが絶大な信頼を寄せていた人物で、彼以外のデザイナーとは絶対に組まないとさえ公言していたほどだったという。

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メイドの日本人ユキに諭されるが素直になれないケイ

女心を弄ばれてケイの堪忍袋も緒が切れた

ビルと改め婚約するも気乗りしないケイだったが・・・

 今回キャロルとコンビを組んだのは、『ポンペイ最後の日』(35)や『愛の銃弾』(35)などのヒーロー役で当時人気を集め、同時に悪役としても名演を残している個性派俳優プレストン・フォスター。いい役者ではあるのだが、やはりロマンティックなコメディ映画では役不足だったように感じられる。ただ、あくまでもキャロルの引き立て役と考えれば、悪くないのかもしれないが。
 もう一人の婚約者ビル役を演じているのは、テレビ『バットマン』の元祖ジョーカー役として有名なシーザー・ロメロ。当時の彼は20世紀フォックスのミュージカルやコメディで人気女優の相手を務めた2枚目俳優だった。ただし、普段の軟派でキザなラテン系色男というイメージとはうって変わって、本作ではかなり間抜けなダメ男。ケイにさんざん振り回された挙句、嵐に巻き込まれてずぶ濡れになる情けない後半の展開は面白かった。
 その他、『レディ・イヴ』(41)でヘンリー・フォンダの母親役をやったジャネット・ビーチャー、ルビッチやスタージェスのコメディ映画で飄々とした老人を演じたリチャード・カールなどが脇役として登場。また、『死刑執行人もまた死す』などフィルムノワール映画のタフガイ・スターとして有名になるデニス・オキーフが、アメフト部大学生の一人としてチラリと顔を出している。

 

無責任時代
Nothing Sacred (1937)
日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)1998 Slingshot/Lumivision (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/76分/製作:アメリカ

特典映像
マック・セネット監督の短編カラー喜劇(2本)
ロンバード&ゲイブル夫妻のカラー・ホーム・ムービー
監督:ウィリアム・A・ウェルマン
製作:デヴィッド・O・セルズニク
原作:ジェームズ・H・ストリート
脚本:ベン・ヘクト
撮影:W・ハワード・グリーン
音楽:オスカー・レヴァント
出演:キャロル・ロンバード
   フレデリック・マーチ
   チャールズ・ウィニンジャー
   ウォルター・コノリー
   シグ・ルーマン
   フランク・フェイ
   マーガレット・ハミルトン

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アフリカの王子を招いた新聞社のチャリティイベント

そこへ妻子が闖入して王子がニセモノだと発覚

担当した記者ウォーリー(F・マーチ)は左遷させられる

 日本では残念ながら劇場未公開に終ってしまったものの、アメリカでは'30年代を代表するスクリューボール・コメディの一つとして高い評価を受けている名作。売れっ子新聞記者と時の人になった女性を中心に、センセーショナリズムに傾倒するマスコミや安易に踊らされる一般大衆を痛烈に皮肉ったドタバタ劇だ。
 主人公は大手新聞社の花形記者ウォーリー。うっかり騙されて偽者のアフリカ王子をネタにしてしまったことから左遷された彼は、名誉挽回とばかりにラジウム被害で余命幾ばくもないという不運な女性ヘイゼルを見つけ出し、宣伝効果を期待してニューヨークへ彼女を招くことにする。
 ところが、ヘイゼルの病気は担当医ダウナーの誤診だった。つまり、病気の心配など一切ない健康体だったのである。しかし、彼女の病気は既に話題となっており、事実が知れたらダウナー医師の評判はがた落ち。しかもそこへニューヨーク行きの話が舞い込んだもんだから、ヘイゼルは真実を言うに言えなくなってしまう。
 そんなこととは露知らず、ニューヨークはおろか全米の人々が彼女の不運と勇気に感動。行く先々で歓迎されたり同情されたりするもんだから、さすがにヘイゼルもだんだん気が重くなっていく。しかも、彼女と愛し合うようになったウォーリーが、良かれと思ってラジウム治療の世界的権威である専門医をオーストリアから招いてしまった。もはや絶体絶命のピンチに立たされたヘイゼルは、入水自殺を偽装して姿をくらまそうとするのだが・・・。
 発行部数を増やすために話題性を追及する新聞社、そんなお祭り騒ぎに安々と乗っかってしまう軽薄な一般大衆。センセーショナリズムを重視することによって真実がないがしろにされ、やがて虚構にとって代わられていくという情報社会の歪みを浮き彫りにした物語と言えるだろう。
 辛口のブラック・ユーモアを織り交ぜながら鋭い風刺を効かせたベン・ヘクトの脚本は非常に良くまとまっているし、スラップスティックなビジュアル・ギャグでテンポ良く見せていくウィリアム・A・ウェルマン監督の演出も実に痛快。
 ウェルマン監督といえば、アカデミー賞の第1回作品賞を受賞した『つばさ』(27)やギャング映画の傑作『民衆の敵』(31)、ジャネット・ゲイナーにアカデミー主演女優賞をもたらした『スタア誕生』(37)など、シリアスな作品を好んで撮る巨匠というイメージが強かったりするものの、なるほどコメディも十分いけるじゃありませんかと感心させられることしきりだ。
 なお、本作はキャロルにとって最初で最後のテクニカラー作品となったわけだが、同時にテクニカラーで撮影されたスクリューボール・コメディというのも本作が初めてだったらしい。

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社長を説得したウォーリーは田舎町ワルシャワへ

ヘイゼル(C・ロンバード)の不治の病はただの誤診だった

真実を言えぬままニューヨーク行きを承諾するヘイゼル

 舞台はニューヨーク。大手新聞社モーニング・スターは、アフリカ某国の王子を広告塔にして大規模なチャリティー・イベントを開いた。ところが、その会場に大勢の子供を引き連れた黒人の主婦が闖入。あれはウチのダンナだと証言したことから、王子が偽者だったとばれてしまう。
 イベントの仕掛け人は同社の辣腕記者ウォーリー・クック(フレデリック・マーチ)。彼も偽者王子に一杯食わされた被害者だったが、会社としてのメンツを丸潰しにされた社長オリバー(ウォルター・コノリー)の怒りは収まらない。ウォーリーは死亡記事担当に格下げされてしまった。
 これまで散々会社を儲けさせてきたのに、たった一度の過ちで左遷されとは。納得のいかないウォーリーは社長に対し、地方紙の記事で見つけたヘイゼル・フラッグ(キャロル・ロンバード)という女性を探させてほしいと直談判する。彼女はまだ若いにもかかわらず、ラジウム被害で余命幾ばくもないのだという。彼女のエピソードは大衆の感動を呼ぶことは間違いないし、ニューヨークへ招待すれば話題になること必至だ。
 社長の許可を得て、ヘイゼルの住むヴァーモント州の田舎町ワルシャワへとやって来たウォーリー。だが、ドラッグストアの女主人(マーガレット・ハミルトン)など地元住民は都会人を毛嫌いし、なかなかヘイゼルの居場所を掴むことができない。
 その頃、ヘイゼルは主治医ダウナー(チャールズ・ウィニンジャー)の診療所を訪れていた。再度行われた診察の結果、最初にダウナー医師が出した診断書は間違えであったことが判明する。つまり、ヘイゼルは全くの健康体だったのだ。泣いて喜ぶヘイゼルだったが、はて困った。既に彼女の病気は世間の話題となっており、いまさら間違いでしたでは済まされまい。しかも、ダウナー医師の評判にも傷がつく。
 困り果てたヘイゼルが診療所を後にしたその時、幸か不幸かウォーリーとばったり出くわした。すぐに彼女がヘイゼルだと気付いたウォーリーは、是非ともニューヨークへ一緒に来てくれないかと頼む。いよいよ困ったヘイゼルだったが、飛行機に乗れると聞いて思わずオーケーしてしまった。
 万が一に備えて(?)ダウナー医師を同伴し、ニューヨークへと到着したウォーリーとヘイゼル。モーニング・スター社の宣伝で集まった大勢の人々が彼女を出迎え、ニューヨーク市長から直々に名誉市民の称号と“ニューヨークの鍵”が彼女に贈られた。
 そればかりか、街中に彼女を歓迎するディスプレイが飾られ、様々な歓迎式典も行われる。ボクシングの試合会場では、観客全員が彼女のために黙祷を捧げてくれた。そうやって歓迎されたり親切にされればされるほど、ヘイゼルは罪悪感で気が重くなっていく。
 さらに、イヴニング・スター社とニューヨーク市の共同主催で、彼女の勇気を讃える大掛かりな晩餐会が催された。会場に集まった人々の中には、ヘイゼルの姿を見て同情の涙を流す者も少なくない。その視線に耐えられなくなった彼女は、ついついカクテルを飲みすぎてしまい、式典の最中に気を失ってしまった。
 ホテルへと担ぎ込まれたヘイゼル。同席したダウナー医師の機転で真相はバレなかったものの、もちろん単なる急性アルコール中毒だ。ヘイゼルの軽率さに憤慨するダウナー医師だったが、とりあえず病気のふりを続けなくてはいけない。
 一方、一連の行事に大金をつぎ込んだ社長オリバーは、まだ彼女に死なれては困るとヒヤヒヤもの。それとは対照的に、ヘイゼルの屈託のなさに惹かれたウォーリーは、彼女の健康状態を本気で心配していた。そこで、彼はラジウム治療の世界的権威エッゲルホファー博士(シグ・ルーマン)をオーストリアから招くことにした。
 だが、それを知らされたヘイゼルとダウナー医師は大慌て。かくなる上は、自殺したふりをして姿をくらまそうと考える。港の人目につく場所で海へ飛び込み、桟橋の下で秘かに待機しているダウナー医師のボートに乗って逃げるというのが手はずだ。
 ところが、ホテルに残した遺書が予定外に早く発見されてしまい、海へ飛び込む寸前にウォーリーが駆けつけてしまう。勢い余ったウォーリーはヘイゼルと一緒に海へとダイブ。なんとか桟橋の上へと上がった二人は、お互いへの想いを燃え上がらせて熱いキスを交わすのだった。
 かくして狂言自殺は失敗し、ホテルへと戻ってきたヘイゼル。部屋にはエッゲルホファー博士と医師団が待っており、もはや彼女は観念するしかなかった。診察結果はもちろん異常なし。それを知らされた社長オリバーは、思わず気が遠くなってしまうくらいに激怒する。
 そうとは知らずにヘイゼルとの結婚を決意したウォーリーだったが、社長から事実を聞かされて愕然。ホテルの部屋へ駆け込んだ彼は、ヘイゼルと取っ組み合いの大喧嘩を演じる。とはいっても、それは彼女の体力消耗と体温上昇を促し、肺炎のふりをさせてピンチを逃げ切ろうという彼のアイディア。少なくとも病気だったらなんとでも説明がつく。
 しかし、残念ながらその策略もオリバーに見抜かれてしまった。ホテルにはニューヨーク市長をはじめ、お偉方が彼女の病気を心配して集まってきている。嘘ばかりつくことに耐えられなくなったヘイゼルは、思い余って彼らに真実を洗いざらい告白してしまった。ところが・・・?

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ニューヨークでは大勢の人々がヘイゼルを歓迎する

罪悪感でだんだんと気が重くなっていくヘイゼル

人々の注目に耐えられずカクテルを飲みまくる

 ということで、クライマックスの皮肉たっぷりなどんでん返しも大きな見どころ。結局、人間って最終的には自分の立場や世間体ばかり考えるもんなのね、といったところだろうか。もちろん、主人公たちを待っているのはハッピー・エンドなのだが、それとなく苦笑いするようなオチをちゃんとつけているのが素敵だ。
 製作を手がけた大物プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニクは、当初ヘイゼル役にジャネット・ゲイナーを考えていたらしい。ウェルマン監督の『スタア誕生』を大ヒットさせたばかりだったから、しごく当然といえば当然のキャスティングだったろう。そのセルズニクを説得して考えを変えさせたのは、意外にもウェルマン監督その人だったのだそうだ。
 原作は雑誌『コスモポリタン』に掲載されたジェームズ・H・ストリートの短編小説“Letter to the Editor”。キャロルとは『特急二十世紀』でも一緒になった名脚本家ベン・ヘクトが脚色を手掛けた。ところが、ヘクトは親友ジョン・バリモアを想定してウォーリー役を書いたものの、バリモアの起用をセルズニクから断られたことから憤慨。まだ初稿の段階で仕事を投げ出してしまった。当時のバリモアはアルコールで身を持ち崩し、ハリウッドでは評判が悪かったのだ。
 そのため、『スタア誕生』でウェルマン監督と組んだドロシー・パーカーや、『波止場』(54)や『群衆の中の一つの顔』(57)でオスカーを受賞するバド・シュールバーグなど、錚々たる顔ぶれの脚本家がノー・クレジットで加筆やリライトを手掛けたという。
 撮影監督は『オペラの怪人』(43)でアカデミー賞を獲得したW・ハワード・グリーン。『アラビアン・ナイト』(42)や『ジャングル・ブック』(42)など、初期テクニカラー作品には欠かせないカメラマンだった人物だ。
 その他、俳優としても有名なピアニストのオスカー・レヴァントが音楽スコアを、キャロル御用達のトラヴィス・ヴァントンが彼女のドレス・デザインを、セルズニックお抱えのウォルター・プランケットがキャロル以外の衣装デザインを、こちらもセルズニクの『風と共に去りぬ』(39)などで5度のオスカー受賞経験を持つライル・ホイーラーが美術デザインを担当している。
 なお、本作はディーン・マーティン&ジェリー・ルイスのコンビ主演で、『底抜けニューヨークの休日』(54)としてリメイクもされている。ただし、男女の設定が入れ替わっており、キャロルの役をルイス、チャールズ・ウィニンジャーの役をマーティンが担当し、フレデリック・マーチの役をジャネット・リーが演じた。

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式典の最中に気を失ってしまったヘイゼル

ウォーリーが専門医を手配したと知って愕然

ヘイゼルが健康だと知らされた社長オリバー(W・コノリー)

 そして、今回キャロルとコンビを組んだのは、『ジキル博士とハイド氏』(32)と『我等の生涯の最良の年』(46)で2度のアカデミー主演男優賞に輝く名優フレデリック・マーチ。まさに演技派の王道を行く大スターがお相手ということで、キャロルの熱演にも見るからに気合が入っている。
 ただ、彼は取っ組み合いの大喧嘩シーンでも一切手加減をしなかったらしく、キャロルは全身のあちこちに傷や痣を作って撮影を一日休まねばならなくなってしまった。そこで一計を案じたキャロルは、衣装の下にゴム製のディルドを装着。それを見た生真面目なマーチはビックリして、すっかり演技に集中できなくなったのだそうだ。いやはや、発想が凄い。恐るべしキャロル・ロンバード(笑)。
 そんな二人を取り囲む脇役もクセモノの個性派揃い。ダウナー医師役には、『青春一座』(39)や『ステート・フェア』(45)といったミュージカルやコメディの陽気な父親やお爺ちゃん役として親しまれた名脇役。欲が深くて間抜けな新聞社社長オリバー役には、『特急二十世紀』でもキャロルと共演したウォルター・コノリー。また、『ニノチカ』(39)や『生きるべきか死ぬべきか』(42)などルビッチ作品に欠かせないコメディ俳優シグ・ルーマンが、エッゲルホファー博士役で少ない出番ながら強烈なインパクトを残す。
 その他、『オズの魔法使い』(39)の西方の魔女役で有名な怪女優マーガレット・ハミルトン、本作では格闘シーンのコーチも務めた元ボクサーのマキシー・ローゼンブルーム、舞台の大物俳優フランク・フェイ、『風と共に去りぬ』(39)の女中役でアカデミー助演女優賞を獲得した黒人女優ハッティ・マクダニエルなどがチラリと顔を出している。

 

真実の告白
True Confession (1937)
日本では1939年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Universal Studios (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/85分
/製作:アメリカ
※『街の紳士』『恋と胃袋』『春を手さぐる』『姫君海を渡る』『処女散歩』を同時収録

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:ウェズリー・ラッグルズ
製作:アルバート・ルウィン
戯曲:ルイ・ヴェルヌイユ
   ジョルジュ・ベル
脚本:クロード・ビニヨン
撮影:テッド・テズラフ
音楽:フレデリック・ホランダー
出演:キャロル・ロンバード
   フレッド・マクマレイ
   ジョン・バリモア
   ウナ・マーケル
   リン・オーヴァーマン
   ポーター・ホール
   エドガー・ケネディ

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正直すぎて仕事がない弁護士ケン(F・マクマレイ)

妻のヘレン(C・ロンバード)は虚言癖の持ち主

ついつい妻を甘やかしてしまうケン

 常軌を逸した変人が奇想天外なドタバタ劇を演じるというのはスクリューボール・コメディの定石だったりするが、やりすぎるとこんなことになっちゃいますよ、という見本みたいな作品がこれだ。虚言癖のある人妻が売れない弁護士の夫を有名にするため、自らついつい殺人事件の容疑者になってしまうというとんでもないお話。ご都合主義も甚だしい展開に賛否両論分かれるはずだが、いい意味でも悪い意味でも強烈な印象を残す実にヘンテコな映画である。
 主人公は正直すぎて仕事がない弁護士ケンと、その妻で発想が独創的すぎて全く売れない女流作家のヘレン。しかも、ヘレンは極端なくらいのお人よしで、他人を思いやり過ぎるがために次々と嘘をついてしまうという悪い癖がある。
 生活費に困って秘書のアルバイトを始めたヘレンだったが、運悪く雇い主が殺されてしまい、さらに運の悪いことに彼女が第一容疑者となってしまう。もちろん、彼女が犯人なわけはないのだが、困り果てた担当刑事に同情して思わずやってもいない殺人を自白してしまった。
 しかも、夫が弁護を担当することを知った彼女は、陪審員たちの前で見事な弁護を繰り広げる夫の姿を想像して興奮。いつの間にか本当に自分が殺人犯のような気になってしまい、正当防衛を主張して裁判で検察と争うこととなる。果たして、裁判の行方はどうなるのか?さらに、彼女の潔白を知る謎の男チャーリーが登場。いったい彼は何者なのか・・・?
 とまあ、あり得ないような展開の連続と、これまた都合が良すぎてあり得ないエンディングに、思わずキョトンとしてしまう作品。そのあり得なさを楽しめればいいのだが、そうでなければ頭に来ること間違いなしといったところだろう。
 なので、アメリカのクラシック映画ファンの間では、“キャロル・ロンバードのワースト主演作”などという声も少なからずあったりするらしい。ま、それはそれで理解できるのだが、このハチャメチャさを一刀両断してしまうのは惜しいような気もする。ひとまず百聞は一見にしかず。機会があれば是非ご覧頂きたい。

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クレイラー氏のセクハラに逃げまどうヘレン

親友デイジー(U・マーケル)と連れて職場へ戻ると・・・

なんとクレイラー氏が射殺されていた

 ヘレン・バートレット(キャロル・ロンバード)は売れない女流作家。親友のデイジー(ウナ・マーケル)曰く、発想があまりにも独創的すぎて誰もついていけないのだそうだ。そんなヘレンの夫ケン(フレッド・マクマレイ)は仕事のない弁護士。やる気だけは十分なのだが、誠実であることをモットーにしすぎてしまうのが問題。
 当然のことながら、家計は火の車。肉屋のツケをチャラにしてもらえるからと、ヘレンはハム泥棒で逮捕された肉屋の従兄弟の弁護をケンに頼むものの、当人が本当にハムを盗んでいたことが分ったため、生真面目なケンはせっかくの仕事を断ってしまう。もう少し融通がきかないもんかとため息をつくヘレン。
 だが、そんなヘレンにはもっとたちの悪い癖があった。それは虚言癖。誰かに同情したり自分が困ったりしたときなどに、ついついウソや作り話を口走ってしまう癖があるのだ。しかも、一度嘘をついてしまうと歯止めがきかなくなり、どんどんと話を膨らませてしまうのだから困ったもの。
 今日なんぞは取立て屋が借金のかたに大切なタイプライターを取り上げようとしたもんだから、ヘレンは夫のケンが重度の精神病患者で、タイプライターのことを自分の子供だと思っている、あなたのことを殺しちゃうかもしれない!と大騒ぎ。そこへ何も知らないケンが帰宅したもんだから、取立て屋はビックリ仰天して逃げ帰ってしまった。ウソの大嫌いなケンはヘレンに厳しく注意するものの、大切な妻のことゆえに結局は許してしまうのだった。
 とにもかくにも、我が家にはもうお金がない。ケンは夫婦共稼ぎに大反対なので、ヘレンは彼に黙って亡き父の友人クレイラー氏(ジョン・T・マレー)の個人秘書を務めることにした。ところが、このクレイラー氏というのがとんでもないセクハラオヤジで、初日早々からヘレンに抱きつこうとする。ビックリしたヘレンは思わずクレイラー氏の腹にパンチを食らわせ、大慌てで逃げ去ったのだった。
 だが、上着やハンドバッグをクレイラー氏の自宅兼事務所に置き忘れてしまった。そこで、ヘレンは親友デイジーに付き添ってもらい、私物を取り返しに戻ってくる。ところが、なんとそこへ警官隊が到着。実はクレイラー氏が何者かに射殺され、現金12000ドルが盗まれたのだ。
 当然のことながら、警察はヘレンを容疑者として連行。警察で尋問が行われる。だが、盗まれたはずの現金はクレイラー氏のデスクから見つかった。犯行に使われた拳銃は行方不明。頭を抱える刑事を見てついつい同情してしまったヘレンは、やってもいない殺人の詳細を作り話でベラベラと喋りだしてしまう。さらに、ヘレンの自宅から銃弾使用済みの拳銃が発見され、彼女の犯行が立証されてしまった。
 ただちに逮捕起訴されてしまったヘレン。拳銃は2ヶ月前に田舎で使ったもの。ちゃんとした専門家に鑑定してもらえれば分るはず。面会に訪れたケンに真実を話して無罪を主張しようとしたヘレンだったが、またもや悪い癖が頭をもたげてしまう。
 君のために僕が全力で弁護するよ、という言葉を聞いたヘレンは思わず感動。夫が法廷で勇ましく弁護する姿を想像し、世間から素晴らしい弁護士だと注目される様子を思い浮かべているうちに、すっかりその気になってしまったのだ。ごめんなさい、あたしがやったの!と涙ながらに告白するヘレン。二人はクレイラー氏のセクハラに対する正当防衛を主張することにした。
 その頃、場末の飲み屋では“最も偉大な犯罪学者”を自認する酔っ払いチャーリー・ジャスパー(ジョン・バリモア)が、ヘレン・バートレットは殺人犯であるはずがない!とバーテンダー(リン・オーヴァーマン)に力説していた。自分だけが真実を知っているとうそぶいてみせる彼は何者なのか?
 いよいよ裁判が始まり、傍聴人席にはデイジーやチャーリーの姿もあった。あの手この手でヘレンの有罪を主張する検察官(ポーター・ホール)に対し、ストレートに正当防衛と無罪と力説するケン。さらには、ヘレンと一緒になって犯行の詳細を寸劇として実演し、法廷内でドタバタの珍騒動を巻き起こす。この前代未聞のトンチンカンな弁護が逆に功を奏し、ヘレンは見事無罪を勝ち取ることが出来た。
 ところが、これに怒ったのがチャーリーだった。もともと殺人なんて犯してもいないくせに、裁判で有名になってがっぽり金を儲けるとはけしからん!俺にも分け前をよこせ!というのだ。そこで、彼はケンとヘレンの夫婦が海辺に購入した豪邸へ乗り込み、真実を世間にばらすぞと脅迫する・・・。

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困った刑事を見かねてウソの自白をしてしまうヘレン

夫には本当のことを告白しようとしたのだが・・・

自称“最も偉大な犯罪学者”チャーリー(J・バリモア)

 監督のウェズリー・ラッグルズはアカデミー作品賞を受賞した西部劇『シマロン』(31)で知られる名匠で、キャロルとは『心の青空』(32)や『ボレロ』(34)でも組んだことのある仲。当時はライトなコメディ映画を中心に活躍し、クローデット・コルベール主演の『輝ける百合』(35)のような名作も撮っている。
 原作はアメリカでも人気の高かったフランスの劇作家ルイ・ヴェルヌイユとジョルジュ・ベルが書いた戯曲“Mon Crime”。確かに演劇的といえば演劇的な内容かもしれない。その戯曲を脚色したのは、『輝ける百合』でもラッグルズ監督と組んだ脚本家クロード・ビニヨン。
 また、音楽スコアにはドイツ出身の名匠フレデリック・ホランダーが参加。あのディートリッヒ主演の名作『嘆きの天使』(30)の主題歌“Falling In Love Again”の作曲者としてあまりにも有名な人物だ。
 そのほか、撮影のテッド・テズラフ、衣装デザインのトラヴィス・バントンと、キャロル・ロンバード御用達の一流職人スタッフが参加している。

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やけっぱちな弁護が功を奏して無罪を勝ち取った

有名になったおかげで豪邸を購入したケンとヘレン

真相を知るチャーリーがヘレンを脅迫する

 『春を手さぐる』で初共演して以来、これが4度目のコンビ作となったキャロルとフレッド・マクマレイ。二人の半ば悪ノリに近いような演技を見ていると、撮影現場でも息がピッタリであったろうことは容易に想像できる。実に楽しそうだ。それが作品の完成度に直結しなかったのは残念だが。
 さらに、『特急二十世紀』以来3年ぶりの共演となるジョン・バリモアとの顔合わせも楽しい。見るからに素性の怪しい飲んだくれのオジサンを嬉々として演じるバリモアの、そのアグレッシブで迫力あるコメディ演技は何度見ても絶品。当時のバリモアはかなり重度のアル中で、どこの映画会社も彼を使うことはためらっていたらしいが、本作ではキャロルの強い要望で共演が実現したのだそうだ。
 そして、ヘレンの親友デイジー役にはウナ・マーケル。ハリウッド黄金期のコメディ映画には欠かせない愛すべきコメディエンヌだ。筆者も大ファン。彼女が出てくるだけでなぜかホッとしてしまう、まさに癒し系の可愛らしい女優さんである。
 その他、『スミス都へ行く』(39)の上院議員役で知られるポーター・ホール、『特急二十世紀』でもキャロルと共演したエドガー・ケネディなどが登場。また、『処女散歩』でスコットのご意見番役を飄々と演じていた老優リチャード・カールが裁判所判事役、『風と共に去りぬ』のハッティ・マクダニエルが女中役でチラリと顔を出している。

 

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