メキシコ映画界の名物一家 カルドナ・ファミリー

 

 

 1960年代〜80年代のメキシコ映画界で異彩を放った映画監督ルネ・カルドナとルネ・カルドナ・ジュニア。日本では一部の映画マニアの間でしか知られていないが、ラテン特有のドギツいエロ・グロ・バイオレンス描写で世界にその名を馳せた名物親子だ。
 父親のルネ・カルドナは西部劇からコメディ、スリラーまで幅広いジャンルを手掛けた職人監督で、生涯を通じて実に140本以上もの映画を世に送り出している。初期〜中期の作品はメキシコ以外では殆ど公開されていないが、後期に発表したホラー映画やゲテモノ映画はアメリカやヨーロッパでも話題になった。また、息子のルネ・カルドナ・ジュニアはイタリアやスペインとの合作でパニック物やジョーズ物、ウェスタン、カンニバル物などを次々と生み出し、欧米でもゲテモノ系監督として知名度が高い。今回は、日本では殆ど語られることのないカルドナ・ファミリーについて、分かる範囲内の情報をもとに書き記してみたい。

 

 まずは、父親ルネ・カルドナの輝かしい(?)キャリアを振り返ってみよう。1906年10月8日、キューバのハバナに生まれたルネ・カルドナは、10代の頃に家族とアメリカのフロリダに移住している。彼の家族がマチャド将軍(後の第5代大統領)から迫害されたことが理由だったというが、その詳しい事情はあまり知られていない。少なくとも、彼が裕福な家庭の生まれであったことは間違いなさそうだ。その後、ニューヨークに単身移ったカルドナは、知人から映画関係者や俳優を紹介され、映画界に興味を持つようになる。
 ハリウッドに移ったカルドナは、ブロンドに青い瞳というキューバ人らしくない容貌であったことから俳優として活躍するようになった。さらに、幾つかの作品で助監督も経験し、1929年に“Sombras Habanera”という作品で監督デビュー。自らプロデュースも手掛けたこの作品は、ハリウッドで最初に作られたスペイン語映画とも言われている。
 その直後、アルゼンチンの俳優エルネスト・ヴィルチェスの劇団に随行してメキシコへ。そのままメキシコに居を構え、1932年に映画“Mano a mano”に俳優として出演。37年のコメディ映画“Don Juan Tenorio”が、メキシコでの初監督作品となった。以降、先述したように監督として140本以上の作品を手掛けた他、脇役俳優としても100本以上の映画に出演。メキシコ映画界の名物的存在となった。
 映画監督としてのルネ・カルドナは、文字通り何でも手掛ける職人監督だったようだ。西部劇からコメディ、ミュージカル、スリラー、ルチャ・リブレ(プロレス)物まで、その守備範囲の広さにはかなり驚かされる。日本でも有名な覆面レスラー、サントの主演作も数多く手掛けていた。また、彼はそれまでギャラが極端に安かったメキシコの俳優の為に、初めて俳優組合を立ち上げた人物としても知られている。

 さて、日本ではルネ・カルドナの作品が劇場公開される事はなかったものの、ビデオで発売された作品が2本だけある。それが、「暴行魔ゴリラー」('68)と「アンデス地獄の彷徨/航空機墜落・極限の乗客たち」('76)。どちらも、海外では非常に悪名高い怪作だ。

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クラルマン博士と息子フリオ
「暴行魔ゴリラー」より

人気覆面レスラーのルーシーと恋人アルトゥーロ
「暴行魔ゴリラー」より

息子にゴリラの心臓を移植するクラルマン博士
「暴行魔ゴリラー」より

 まずは「暴行魔ゴリラー」。何とも適当な感じの邦題だが、まあ、中身を見れば納得といったところだろうか(笑)。つまり、ゴリラの心臓を移植された男がゴリラ人間に変身して人々を襲うというだけの話。それを、当時としてはかなり凶悪なスプラッター・シーン、おっぱいポロリのお色気シーン、そして何故だか女子プロレス・シーンまで交えながら見せていく。まさに、エロ・グロ・ナンセンス満載の見世物映画というわけだ。
 主人公は美人女子レスラーのルーシー(ノルマ・ラザレーノ)。彼女にはアルトゥーロ(アルマンド・シルヴェストレ)という刑事の恋人がいる。今日もアルトゥーロのキスにパワーをもらって、リングの上に立つルーシー。だが、対戦相手の女子レスラーをリングの外に投げ飛ばし、意識不明の重体にさせてしまった。罪の意識に苛まれるルーシーを、アルトゥーロが優しく慰める。
 その頃、病院ではクラルマン博士(ホセ・エリアス・モレノ)が深刻な顔つきで悩んでいた。息子フリオ(アグスティン・マルティネス・ソアレス)の心臓病が悪化し、もう長くはない状態だからだ。長年、心臓移植の研究をしてきたクラルマン博士は、息子を救うために重大な決断をする。動物園からゴリラをさらってきて(!)、その心臓を息子の身体に移植するのだ。
 手術は見事に成功。しかし、フリオはクラルマン博士の目の前で、見る見るうちにゴリラ人間へと変身していく。それは、心臓移植の副作用だった(?)。すっかり正気を失ったフリオは街中へと飛び出し、次々と人間を襲っていく。服を剥ぎ取られて八つ裂きにされる女性、喉元を掻っ切られる男性、目玉をくり抜かれる老人などなど・・・。
 何とか息子を生け捕りにしたクラルマン博士は、意識不明で入院している女子レスラーに目を付ける。ゴリラの心臓ではなく、彼女の心臓を移植すればいいのだ。早速手術に取り掛かろうとする博士。一方、ライバルが忽然と姿を消した事を知ったルーシーとアルトゥーロは、必死になってその行方を捜す。果たして、2人はクラルマン博士の手術を阻止する事が出来るのか・・・!?

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ゴリラ人間に変身してしまったフリオ
「暴行魔ゴリラー」より

最初の犠牲者
「暴行魔ゴリラー」より

目玉をくり抜かれる犠牲者
「暴行魔ゴリラー」より

 ということで、ゴリラの心臓を移植したらゴリラ人間になるという発想そのものがバカバカしいわけだが、よくよく考えればかつてのモノグラムやPRCといったハリウッドのB級専門スタジオでも似たようなゴリラ映画は数多く作られていた。この作品自体もカルドナ監督が1962年に作った“Las Luchadoras contra el medico asesino(女子レスラー対殺人医師)”という作品のリメイクに当たり、基本的には非科学的な古典B級ホラーにルーツのある作品と言えるだろう。
 その一方で、本物の心臓移植手術シーンを見せたり、目玉をくり抜くという超過激なスプラッター・シーンを見せたりと、かなり時代を先駆けたグロテスク描写も満載。もちろん、ゴリラ人間が女性を襲う場合は、ひとまず服は脱がせるというサービス精神も忘れてはいない(笑)。ちなみに、公園で女性が襲われるシーンでは、逃げようとする女性の力が強すぎて人工芝が剥がれ、スタジオの床が見えてしまっているのがご愛嬌。
 欧米では“Night of the Bloody Apes”のタイトルで公開されたこの作品は、そのナンセンスな悪趣味とグロテスク描写が話題となり、イギリスでは上映禁止の憂き目にも遭っている。B級ホラー・ファンなら一度は見ておきたい怪作だ。

 そして、もう一本の作品が「アンデス地獄の彷徨/航空機墜落・極限の乗客たち」。これは、1972年にアンデス山中で起きたウルグアイ航空機墜落事件を題材にした作品で、ハリウッドでもフランク・マーシャル監督によって「生きてこそ」('93)というタイトルで映画化されている。
 この事件は、ウルグアイの大学生フットボール・チームのメンバーなどを乗せた旅客機がアンデス山中に墜落し、16人の生存者たちが死者の肉を食べて生き延びたというもの。「生きてこそ」が人間の尊厳を問う感動的なヒューマン・ドラマとして事件を描いていたのに対し、このカルドナ版はショッキングな実録ものスタイルで撮られているのが特徴だった。ゆえに、内臓を取り出したり、人肉を食ったりといったグロテスクな描写も満載で、究極のゲテモノ映画に仕上がっている。
 この見世物小屋的作風は当時から賛否両論で、ルネ・カルドナ作品の中でも特に悪名が高い。しかし、それだけに話題性も高く、メキシコでは大ヒットしたらしい。アメリカでも英語吹替版が劇場公開され、当時はかなり話題になったようだ。ちなみに、この作品の全米配給を担当したパラマウント映画は、後に「生きてこそ」の製作・配給にも携わっている。

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主人公を演じるエリック・デル・カスティッロ
La isla de los hombres solos ('74)より

ドン役を演じるマリオ・アルマダ
La isla de los hombres solos ('74)より

主人公の妻をレイプするドン
La isla de los hombres solos ('74)より

 そんなカルドナ監督にとって、忘れてはならない作品がもう一本ある。それが、日本未公開の“La isla de los hombres solos(彷徨える魂の島)”。これはホセ・レオン・サンチェスの書いた同名小説を映画化したもの。原作は南米で大ベスト・セラーとなった大河小説で、本作も当時メキシコ映画史上最大のヒットを記録。カルドナ監督の代表作となっている。
 舞台はメキシコの貧しい漁村。主人公の青年(エリック・デル・カスティッロ)は、村を牛耳るドン(マリオ・アルマダ)に目の前で恋人をレイプされる。殺されなかっただけマシだという周囲の言葉に渋々納得し、ドンの子供を孕んだ恋人と結婚する青年。しかし、女好きのドンは再び彼女をレイプし、絶望した妻は幼子を抱えて入水自殺してしまう。復讐に燃える青年はドンを殺害し、20年の服役を言い渡される。しかし、彼が送り込まれた監獄は、この世の場所とは思えないような生き地獄だった。看守を務める将軍(ウォルフ・ルビンスキス)はサディスティックな暴君で、囚人を劣悪な環境に置くばかりか、見せしめの為に殺すようなことも日常茶飯事。そうした中で、囚人たちの怒りと不満は次第に高まっていく・・・。
 社会派ドラマの体裁を取りながらも、随所に見世物的な要素を散りばめていくのはカルドナ監督ならでは。ドロドロとした人間模様や刑務所の凄まじい様子などをリアルに描いていく一方で、スプラッター映画も顔負けな殺人シーンや刑務所内での同性愛も含めた露骨な性描写など、かなりドギツイ内容に仕上がっている。社会派の人間ドラマとして評価するべきか、きわどいゲテモノ映画と見なすべきか非常に難しいところだが、いずれにしても見終わった後に強烈なインパクトを残す作品ではある。

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主人公に復讐されるドン
La isla de los hombres solos ('74)より

刑務所では想像を絶する過酷な運命が・・・
La isla de los hombres solos ('74)より

酷使され続ける囚人たち
La isla de los hombres solos ('74)より

 さて、晩年は監督業よりも俳優業の方が忙しかったというルネ・カルドナ。人気テレビ・ドラマ“Rosa salvaje(野バラ)”出演直後の1988年4月25日、癌のためメキシコ・シティの病院で息を引き取っている。

 

 さて、そのルネ・カルドナの息子であるルネ・カルドナ・ジュニア。父親のもとで修行を積んでいた彼は、「暴行魔ゴリラー」や「アンデス地獄の彷徨/航空機墜落・極限の乗客たち」で製作・脚本を手掛けていた。父カルドナの作風が60年代末からエログロ路線に走ったのは、もしかしたらこの息子の影響だったのかもしれない。カルドナ・ジュニアのフィルモグラフィーは、まさにエロ・グロ・ナンセンスのオンパレード。センセーショナリズムを売りにするスタイルは彼の独壇場だったと言えるだろう。

 1939年5月11日、メキシコで生まれたルネ・カルドナ・ジュニアは、10代の頃から父親の作品に出演していた。その後、父の助監督などを経験したジュニアは、1964年に監督デビューを果たす。マカロニ・ウェスタンに影響を受けたバイオレンス西部劇“Sette Colt per sette carogne(7人の強盗の7挺のコルト銃)”('67)やイタリア風のセックス・コメディ“24 horas de placer(24時間の快感)”といった娯楽映画を次々と発表して注目を集めたという。
 そんな彼の名前が初めて国際的に知られるようになったのが「ロビンソン・クルーソー」('70)。カルドナ・ジュニア作品の常連であるメキシコの大物スター、ヒューゴ・スティグリッツがロビンソン・クルーソーを演じる作品で、日本でもテレビ放送されている。
 さらに、72年の猟奇ホラー“La noche de los mil gatos(1000匹の猫の夜)”も話題になった。これはハリウッドから人気女優アンジャネット・カマーを迎えた作品。ヒューゴ・スティグリッツ扮する大金持ちの青年が若い女性たちを自宅の豪邸に招き、次々と殺してはその首をコレクションとして飾り、残った胴体をペットである1000匹の猫たちに食わせるという話。当時のイタリアのジャッロに影響を受けた作品で、ドイツ産スパイ映画やイタリア産セックス・コメディでもお馴染みのドイツ人女優クリスタ・リンデールも顔を出していた。

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無法者コンビを演じるP・アルメンダリスとR・ゲッラ
“Las viboras cambian de piel”('74)より

女たらしの賞金稼ぎを演じるホルヘ・リヴェロ
“Las viboras cambian de piel”('74)より

娼婦たちとエッチなカード・ゲームに興じる主人公
“Las viboras cambian de piel”('74)より

 また、74年に発表したマカロニ・ウェスタン風西部劇“Las viboras cambian de piel(毒蛇は脱皮する)”もマニアに人気の高い作品。主演は「リオ・ロボ」('72)でジョン・ウェインと共演して注目された、メキシコを代表する2枚目俳優ホルヘ・リヴェロ。彼が扮する女たらしの賞金稼ぎが2人の無法者と組んで、修道院に身を隠している汚職保安官を狙うというストーリー。保安官の首にかかっている賞金を頂いて、拳銃稼業から足を洗おうというわけだ。
 全体的にはセルジョ・コルブッチやセルジョ・ソリーマ辺りを思わせる、骨太でユーモア精神溢れるバイオレンス・ウェスタン。主人公に群がる娼婦たちのアッケラカンとしたお色気もユニークで、負けたら一枚ずつ服を脱いでいくという野球拳ノリのカード・ゲームも愉快だった。
 しかし、何といっても最大の見ものは、スローモーションを駆使したクライマックスの銃撃戦だろう。明らかにサム・ペキンパーの「ワイルド・バンチ」を意識・・・というよりもほぼパクっているのだが、血糊の噴射具合など非常に芸が細かい。スケール的には「ワイルド・バンチ」のド迫力に及ぶべくもないが、まずまずの努力賞ものと言っていいだろう。
 このように、ルネ・カルドナ・ジュニアの作品は、どちらかというとヨーロッパ産娯楽映画からの影響が色濃い。特にイタリア映画からインスパイアされた部分は非常に大きいと言えるだろう。イタリア映画がハリウッド映画を独自の文法でパクっていた事を考えると、より興味深く彼の作品を見ることが出来るかもしれない。

 そんなカルドナ・ジュニアにとって、初めての世界的ヒットとなった作品がイギリスとの合作「タイガーシャーク」('77)である。これは、彼にとって日本で劇場公開された唯一の作品でもあった。タイトルからも想像できるように、「ジョーズ」の亜流として作られた人食いザメ映画。しかし、サメに襲われるパニック・シーンはほんの少しだけで、あとは風光明媚なリゾート地を舞台に繰り広げられる男女の三角関係を描いた恋愛ドラマ的要素が強い。
 主演はお馴染みのヒューゴ・スティグリッツに、やはりカルドネ・ジュニア作品の常連となった2枚目俳優アンドレス・ガルシア(18人の子供がいるというメキシコ映画界きっての種馬スター)。さらに、イギリスからはスーザン・ジョージにフィオナ・ルイス、ジェニファー・アシュレイといった当時売れっ子の美人スターが登場。まだブレイクする直前のハリウッド女優プリシラ・バーンズもチョイ役で顔を出している。
 ストーリーはいたって単純。メキシコの避暑地で働く二人のサメ・ハンター(スティグリッツとガルシア)が、美しいイギリス人旅行客ガブリエラ(スーザン・ジョージ)を巡って恋のさや当てを繰り広げる。そこへガブリエラの友人パトリシア(フィオナ・ルイス)らが絡んで、ほろ苦い大人の恋愛が展開するというわけだ。で、サメはどうしたのかというと、恋に破れたパトリシアが一人で海に飛び込んだところを襲ってきたりする。パトリシアにとっては全く踏んだり蹴ったりとしか言いようがない(笑)。
 いずれにせよ、「ジョーズ」の亜流映画というよりはトロピカル・ビーチを舞台にした「突然炎のごとく」といった感じ。なので、人食いザメ映画を期待すると全く裏切られてしまうわけだが、これが何故だか世界中でヒットしてしまった。まさに“ジョーズ・ブーム”様々である。

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海洋学者を演じるジョン・ヒューストン
“The Bermuda Triangle”('78)より

イタリアのセクシー女優グロリア・グイダ
“The Bermuda Triangle”('78)より

フランスの名女優マリナ・ヴラディ
“The Bermuda Triangle”('78)より

 この「タイガーシャーク」の成功で勢いづいたカルドネ・ジュニアが次に手掛けたのが、イタリアとの合作“The Bermuda Triangle”('78)。主演はハリウッド映画史に残る大物映画監督ジョン・ヒューストン。その他、元ボンド・ガールのクロディーヌ・オージェやマリナ・ヴラディ、当時人気絶頂だったイタリアのセクシー女優グロリア・グイダ、そしてアンドレス・ガルシアにヒューゴ・スティグリッツというオールスター・キャストを揃えたパニック映画だ。しかも、音楽を手掛けるのはイタリアの名匠ステルヴィオ・チプリアーニで、お得意のイージーでグルーヴィーなサウンドを聴かせてくれる。しかし・・・だ。これだけ豪華な面々が揃いながら、何とも収拾のつかない変な作品に仕上がっている。
 主人公は海洋探検家のエドワード(ジョン・ヒューストン)。親子ほど年の離れた妻シビル(クロディーヌ・オージェ)と幼い子供たち、前妻との間の娘ミシェル(グロリア・グイダ)、そしてやはり年の離れた異母兄弟アラン(アンドレス・ガルシア)とその妻キム(マリナ・ヴラディ)を引き連れて、バミューダ海域に眠っている古代都市の探索に出かける。乗り込んだクルーザーを指揮するのは船長ブリッグス(ヒューゴ・スティグリッツ)だが、迷信深いメキシコ人の船員たちはバミューダへの航海を恐れている。
 やがて、バミューダ海域に入ると、海上に人形が浮いているのをエドワードの幼い娘が発見する。それを拾い上げたところ次々と不思議な現象が起こり、娘は悪霊に憑依されてしまう。さらに、凄まじい嵐が巻き起こり、クルーザーは難破してしまうのだった・・・。
 他にも、バミューダ海域の上空を飛んでいた飛行機が墜落したり、海底の古代都市を発見したり、人食いザメに襲われたりと、とにかく何でもかんでも盛りだくさん。当時流行していたオカルト映画にパニック映画、ジョーズ映画、アドベンチャー映画など、ありとあらゆるジャンルを詰め込んだ結果、とんでもなく支離滅裂な映画に仕上がってしまった。

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ボートに乗り込んだ観光客たち
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

海へ墜落した旅客機
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

荒れ狂う波に呑まれそうになるボート
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

 しかし、当時のカルドナ・ジュニアは、凄まじい勢いで作品を世に送り出していた。この“The Bermuda Triangle”と同じ年に、オールスターの海洋パニック映画をもう一本作っているのだ。それが「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」('78・日本ではテレビ放送のみ)。これもイタリアとの合作で、アーサー・ケネディにキャロル・ベイカー、ライオネル・スタンダー、オルガ・カルラトス、ステファニア・ダマリオ、そしてアンドレス・ガルシアにヒューゴ・スティグリッツ、マリオ・アルマダと、アメリカ・ヨーロッパ・メキシコのスターが一堂に会した豪華なキャスティング。しかも、今回音楽を担当するのはリズ・オルトラーニ。「世界残酷物語」のテーマ曲「モア」でアカデミー賞を受賞したイタリアの巨匠だ。
 舞台はカリブ海に浮かぶ美しい島。子犬を連れた貴婦人シーラ(キャロル・ベイカー)や牧師(アーサー・ケネディ)、妊婦のモニカ(オルガ・カルラトス)ら観光客はボートに乗り、サメが出没するという海の観光を楽しんでいる。しかし、にわかに雲行きが怪しくなり、前代未聞の巨大な竜巻が島を襲う。海は荒れ、激しい豪雨と巨大な波に家や木々が次々となぎ倒されていく。たまたま上空を飛んでいた旅客機は海に墜落し、僅かな生存者たちは救命ボートや浮き輪に乗って脱出する。観光ボートに乗っていた人々も、荒れ狂う海に呑み込まれそうになった。
 やがて竜巻が過ぎ去り、救命ボートに乗っていた機長(ヒューゴ・スティグリッツ)や初老の紳士テイラー(ライオネル・スタンダー)、乗務員のリンダ(ステファニア・ダマリオ)らは観光ボートに拾われる。しかし、浮き輪で海をさまよっていた人々は次々と人食いザメに襲われていった。島では怪我人が続々と病院に運び込まれ、観光ボートの行方を探そうにも人手が足りない。
 一方、ボート上の人々は救援隊の到着を待っているが、一向に救出される気配はない。照りつける南国の太陽。やがて飲み水は底を付き、食料もなくなった。疲労と空腹で苛立つ人々。釣り道具もないので、魚を獲ることもできない。やがて、シーラの連れていた犬が殺され、みんなの胃袋に納まった。突然の雨で飲み水は確保したものの、依然として食べるものはない。そうした中、竜巻で怪我をした観光客が息を引き取った。残された人々は、その死体を食料にしようと決めるのだったが・・・。

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海底に沈んだ旅客機に残された遺体
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

海底で静かに泳ぐ人食いザメ
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

神父役の名優アーサー・ケネディ
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

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有閑マダムのシーラを演じる大女優キャロル・ベイカー
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

妊婦モニカ役を演じるオルガ・カルラトス
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

ボートの乗組員を演じるアンドレス・ガルシア
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

 そう、父カルドナが手掛けた「アンデス地獄の彷徨/航空機墜落・極限の乗客たち」の舞台を海に移し変えたのが、この「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」という作品。そこに自然災害映画、航空パニック映画、そしてジョーズ映画を合体させているのだ。当時は大物製作者ディノ・デ・ラウレンティスが手掛けた海洋パニック大作「ハリケーン」('79)の製作が進行中だっただけに、その話題性を狙って作られたのは明白だろう。
 全体的に、“The Bermuda Triangle”よりは遥かに上手くまとまっている。それも、竜巻の被害に遭った人々のサバイバル・ドラマに焦点が当てられているおかげだろう。旅客機の墜落シーンや竜巻のパニック・シーンなども手堅く作られており、その辺りは非常に小気味いい。しかし、肝心の人間ドラマがとても冗長で、後半に進むに従ってドンドン退屈になっていくのが大きな問題。90分以下に収めるべきだったかもしれない。

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中年紳士テイラー役のライオネル・スタンダー
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

機長を演じるヒューゴ・スティグリッツ
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

ボートの上で解体される死体
「大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機」より

 その後、アンドレス・ガルシア主演で中東を舞台にしたテロ・アクション“Carlos el terrorista(テロリストのカルロス)”('79)をメキシコでヒットさせたカルドナ・ジュニアは、矢継ぎ早に問題作「ガイアナ人民寺院の悲劇」('79・日本ではビデオ発売のみ)を発表する。これは当時世界を震撼させた宗教団体“人民寺院”の信者912人の集団自殺事件を題材にした作品。事件が起きたのが1978年の11月28日なので、かなり急ぎ足で製作されたと考えていいだろう。鉄は熱いうちに打てではないが、事件の記憶が鮮明なうちに作ってしまえば話題になること間違いなしだ。
 世界中を驚かせた事件なだけに、一応は当時の詳細な記録をもとに作られている。とはいえ、そこはカルドナ・ジュニアのこと。セックス禁止令を破ったカップルを公衆の面前で全裸にひん剥いて拷問したり、視察団や取材陣を皆殺しにしようとしたりと、セックス&バイオレンス、そして残酷描写がてんこ盛りだ。同じ事件を題材にした作品としてイタリアのウンベルト・レンツィ監督による「食人帝国」('80)という作品があったが、あれほど脚色しまくってはいないものの、かなりセンセーショナリズムを狙った作品であることは間違いない。
 そんなキワモノ映画に集まったキャストの面々が、今回もまた豪華絢爛。教祖ジョンソン役には往年のタフ・ガイ俳優スチュアート・ホイットマン、信者を救い出そうとする議員役には「バット・マスターソン」や「バークにまかせろ!」などで有名な往年のダンディ俳優ジーン・バリー、教団の弁護士役には「市民ケーン」や「第三の男」などの名優ジョセフ・コットン、その他ジョン・アイアランドやイヴォンヌ・デ・カルロ、ブラッドフォード・ディルマンなど往年のスターが勢ぞろい。当時はハリウッド全盛期のスターたちが仕事にあぶれていた時代だっただけに、B級映画とは思えないようなオールスター・キャストが集められた。
 その翌年には、再びスチュアート・ホイットマンを主演に迎えたアクション映画「破壊捜査線」('80・日本ではビデオ発売のみ)をイタリア・スペインとの合作で製作したカルドネ・ジュニア。こちらはプエルトリコやパナマ、イタリア、スペインなど各国を舞台にしたスパイ映画で、「地獄の門」のイタリア女優アントネッラ・インテルレンギ、往年のセクシー女優マリーザ・メル、スペインの名優フランシスコ・ラバル、イタリアの名優ジャンニ・マッキアなど玄人好みのキャストが揃っていた。
 この辺りまでが、カルドネ・ジュニアの全盛期と言えるかもしれない。その後、メキシコ国内向けにコメディ映画を立て続けに撮った彼は、1984年に久々の海外マーケット向け作品「アマゾンの秘宝」('84・日本ではビデオ発売のみ)を発表。これはジャングルを舞台にアメリカ人の探検家と宿敵のドイツ人が秘宝を巡って争うという冒険アクション。といいながら、人食い族が出てきたり、動物を殺すシーンが出てきたりとグロテスクな描写も多く、ホラー映画な要素が濃厚だ。主演は再びスチュアート・ホイットマン。さらにドナルド・プリーゼンスやジョン・アイアランド、ブラッドフォード・ディルマンらベテラン老優が顔を揃えている。
 さすがにこの頃になるとB級映画そのものが世界的に不況で、本作もメキシコやフランス以外ではビデオ発売のみで終わってしまった。87年にはクリストファー・アトキンスとミシェル・ジョンソンを主演に起用した動物ホラー「バード・パニック」('87・日本ではビデオ発売のみ)をスペイン・イタリアとの合作で製作するも、こちらは劇場公開されることすら無かった。
 その後はメキシコ国内向けにコメディやミュージカル、ファミリー・ドラマを作り続けたカルドナ・ジュニア。2003年2月5日に亡くなるまで、年に2〜3本のペースで映画を撮り続けていたのは賞賛に値するだろう。

 こうして親子二代に渡って大量の娯楽映画を作り続けたメキシコの名物監督ルネ・カルドナとルネ・カルドナ・ジュニア。実は、その伝統を受け継いでいる人物が存在する。それが、ルネ・カルドナ・ジュニアの息子ルネ・カルドナ三世。若い頃からアル・コスタの名前で父や祖父の作品に俳優として出演していた人物で、1988年の監督デビュー以来、既に60本近くの映画を手掛けている。こちらも、アクションからコメディ、ホラー、メロドラマ、子供向けアニメなど何でもござれの職人肌。どれも低予算映画ばかりで、メキシコ以外ではビデオ発売すらされていないために、どんな作品なのか全く分からないのが残念。とりあえず、カルドナ一族の伝統が守られているのは一安心・・・かな(笑)?

 

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暴行魔ゴリラー(1968)
Night of the Bloody Apes

Island of Lost Souls (1974)
La isla de los hombres solos

Blood & Guts (1974)
Las viboras cambian de piel

大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機(1978)
Cyclone

(P)2006 BCI (USA)

(P)2006 VCI Entertainment (USA) (P)2006 VCI Entertainment (USA) (P)2005 VCI Entertainment (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ 画質★★★★☆ 音質★★★☆☆ 画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆ 画質★★★★☆ 音質★★★☆☆

DVD仕様(北米盤2枚組)
カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:スペイン語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/82分/製作:メキシコ
(以上「暴行魔ゴリラー」の仕様)

カップリング収録
“Munecos Infernals”(1960)

映像特典
NG映像集
オリジナル劇場予告編
テレビ・スポット集

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/
95分/製作:メキシコ

映像特典
オリジナル劇場予告編
バイオグラフィー集

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイド・スクリ−ン/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/
98分/製作:メキシコ

映像特典
オリジナル劇場予告編
バイオグラフィー集

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/
100分/製作:メキシコ・イタリア・アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
バイオグラフィー集

監督:ルネ・カルドナ
製作:ギリェルモ・カルデロン・ステル
脚本:ルネ・カルドナ
    ルネ・カルドナ・ジュニア
撮影:ラウル・マルティネス・ソアレス
音楽:アントニオ・ディアス・コンデ
出演:アルマンド・シルヴェストレ
    ノルマ・ラザレノ
    ホセ・エリアス・モレノ
    カルロス・ロペス・モクテズマ
    アグスティン・マルティネス・ソアレス
    ノエリア・ノエル
監督:ルネ・カルドナ
製作:ルネ・カルドナ・ジュニア
原作:ホセ・レオン・サンチェス
脚本:ルネ・カルドナ
    イサロ・チスネロス
撮影:ダニエル・ロペス
音楽:ラウル・ラヴィスタ
出演:マリオ・アルマダ
    エリック・デル・カスティッロ
    ウォルフ・ルビンスキス
    アレハンドロ・チャンゲリティ
    マリアナ・ロボ
監督:ルネ・カルドナ・ジュニア
製作:ルネ・カルドナ・ジュニア
    シドニー・T・ブルックナー
脚本:フェルナンド・ガリアーナ
撮影:ホセ・オルティス・ラモス
音楽:ラウル・ラヴィスタ
出演:ホルヘ・リヴェロ
    ペドロ・アルメンダリス
    ロゲリオ・ゲッラ
    ズルマ・ファイアオ
    キンティン・ブルネス
    ルネ・カルドナ
監督:ルネ・カルドナ・ジュニア
製作:ルネ・カルドナ・ジュニア
脚本:カルロス・ヴァルデマール
    ルネ・カルドナ・ジュニア
撮影:レオン・サンチェス
音楽:リズ・オルトラーニ
出演:アーサー・ケネディ
    キャロル・ベイカー
    ライオネル・スタンダー
    アンドレス・ガルシア
    ヒューゴ・スティグリッツ
    マリオ・アルマダ
    オルガ・カルラトス
    ステファニア・ダマリオ
 ビックリするくらいの高画質で収録されたDVDです。残念なのは、英語版とスペイン語版が音声切替え収録ではなく、両面で別々に収録されていること。両面ディスクって傷が付きやすくて、取扱いに神経を使うから、あまり好きじゃないんですよね。とはいえ、映像特典も充実していて、コレクターなら大満足。カップリング作品もグッドです。  B級映画の宝庫VCIからのリリースということで、画質は非常に良好。一部フィルムの傷が散見されるものの、ほとんど気になりません。ただ、英語吹替えバージョンのみの収録というのは残念ですね。オリジナルのスペイン語バージョンも収録して欲しかった。あと、映像特典が予告編だけというのも不満が残るかもしれません。

 画質はギリギリ合格点ながら、スクイーズ収録というのが嬉しい1枚。さすがVCI。これで6ドル弱というのは破格値です。ただ、やっぱり英語吹替えのみの収録なんですよねえ〜。せっかくDVDなんだから、せめて音声切替でスペイン語バージョンを収めて欲しかったですね。ちなみに、出演のペドロ・アルメンダリスはジュニアの方です。

 こちらも画質的には全く問題なしの1枚。それに、この作品はもともと英語で撮影されているので、音声も問題なし。同時期のイタリア映画みたいに、有名スターの声を別人が吹替えているというような不自然は一切ありません。それにしても、このキャストの顔ぶれ。イタリア映画かと思いますよね。賛否両論ですが、個人的には好きな作品です。

 

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