ミュージカルの魔術師
バスビー・バークレイ Busby Barkeley
PART 2

 

踊る三十七年
Gold Diggers of 1937 (1936)
日本では1937年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2008 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/101分/製作:アメリカ

特典映像
短編映画The Romance of Louisia
na
クラシック・カートゥーン2編
Gold Diggers of Broadway (192
9)の現存するフィルムより2シーン
オリジナル劇場予告編
監督:ロイド・ベーコン
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
戯曲:リチャード・メイボーム
   マイケル・ウォーレス
   ジョージ・ヘイト
脚本:ウォーレン・ダフ
撮影:アーサー・エディソン
作詞:アル・ダービン
   E・Y・ハーバーグ
作曲:ハリー・ウォーレン
   ハロルド・アーレン
出演:ディック・パウエル
   ジョーン・ブロンデル
   ヴィクター・ムーア
   グレンダ・ファレル
   リー・ディクソン
   オズグッド・パーキンス
   チャールズ・D・ブラウン
   ロザリンド・マルキス
   アイリーン・ウェア

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保険会社の営業マン、ロッシ(D・パウエル)

仕事にあぶれたコーラスガールたち

ロッシと親しくなったノーマ(J・ブロンデル)

ノーマは保険会社の秘書として雇われた

 ワーナー製作のゴールドディガーズ・シリーズはこれで5作目。バスビー・バークレイが携わった作品としては、これが3本目に当たる。保険金を巡るちょっとバチ当たりなドタバタ劇を主軸としつつ、不景気な世の中で図々しくも逞しく生きる人々の姿をユーモアたっぷりに描いたミュージカル・コメディだ。
 主人公は保険会社に勤める若者ロッシ。営業マンでありながら仕事そっちのけで歌や遊びにうつつを抜かす彼のもとに、あるとき大口の契約が舞い込んだ。しかし、これにはとんでもない裏があった。契約主はブロードウェイの大物製作者J・J・ホバート。だが、保険の契約を勧めたのは彼の右腕であるモーティとトムだった。というのも、彼らは勝手に会社の資金を株に注ぎ込んで大損してしまい、高齢で体の弱いJ・Jなら老い先短いだろうと踏んで多額の生命保険をかけようと考えたのだ。その企みにはコーラスガールのジュヌヴィエーヴが絡んでいた。J・Jがさっさと死んで保険金が入れば、自分の出演する新作ミュージカルが製作できるからだ。で、そのジュヌヴィエーヴの元仕事仲間であるノーマが保険会社の秘書をしており、そのノーマの恋人が営業マンのロッシだったというわけである。
 そんな裏事情があるとはつゆ知らず、労せずして大口の顧客を確保できたと有頂天のロッシ。ただ、会社としては少しでも多く掛け金を欲しいので、J・Jには長生きしてもらわなくては困る。一方のモーティたちは一刻も早くJ・Jにくたばってもらいたい。そんな両者があの手この手を使って駆け引きを演じる傍ら、会社が破産寸前であることを知らないJ・Jは新作ミュージカルの製作に取り掛かる。果たして、事の顛末やいかに…?
 というわけで、モーティたちの邪まな思惑とは裏腹に、生命保険の審査に合格したことで自分の健康に自信を持ったJ・Jがどんどん若返ってしまうという皮肉がなかなか面白い。そんな彼をなんとかして早死にさせようとするモーティたちのドタバタぶりと、楽天的というにはあまりにもすっ呆けているロッシのお調子者ぶりが、ナンセンスでスラップスティックな笑いを生んでいくというわけだ。まどろっこしい説明などを一切省いたスピーディな展開や、世間の弱肉強食を茶化した毒のあるユーモアも効果テキメン。能天気なようでいて、実はけっこうシビアな目で人間を描いている点は評価されて然るべきだろうと思う。
 ただ、肝心のミュージカル・シーンに関して言うと、少々物足りなさが残ることは否めないだろう。当時はアステア&ロジャースのRKOミュージカルに人気が集まり、バスビー・バークレイの得意とした豪奢でシュールレアリスティックなミュージカル演出は流行遅れとなりつつあった。そのためだろうか、クライマックスのレビュー・ショーだけはバークレイらしさを辛うじて残しているものの、それ以外のミュージカル・シーンはいずれも独創性に欠けて小ぢんまりとした印象。そのバークレイらしいクライマックスにしたって、以前の作品に比べてみると大幅なスケールダウンは一目瞭然だったりする。そういった意味では、やや期待外れな作品かもしれない。

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株で大損をして頭を抱えるモーティ(O・パーキンス)

J・J(V・ムーア)に生命保険加入を勧めるモーティたち

大口の契約を取り付けて意気揚々とするロッシ

健康診断の結果を知らされて元気を取り戻したJ・J

 生命保険会社グッドライフに勤める営業マン、ロッシ(ディック・パウエル)は、仕事は出来ないけれど歌だけは得意な若者。親友ブープ(リー・ディクソン)はダンスの名手で、2人ともいつかはブロードウェイの舞台に立ちたいと考えている。が、不況の世の中ではなかなか人生のやり直しをすることは難しい。アトランティック・シティで行われた会社の会合へ出席した彼らは、大勢の同僚たちと一緒にニューヨーク行きの列車へ乗り込む。
 一方、アトランティック・シティの鉄道駅では、仕事にあぶれたコーラスガールたちがニューヨーク行き列車の出発を待っていた。その中には、真面目でしっかり者のノーマ(ジョーン・ブロンデル)、美人でやり手のジュヌヴィエーヴ(グレンダ・ファレル)、能天気で明るいサリー(ロザリンド・マルキス)、皮肉屋で気位の高いアイリーン(アイリーン・ウェア)の姿も。コーラスガールたちは保険会社社員の男性たちに夕食を奢ってもらおうと隣の車両へ押しかけるが、平社員などに興味がないジュヌヴィエーヴとアイリーンはエグゼグティヴ専用の後部車両へと移動し、そもそも他人にたかる趣味などないノーマは一人で座席に残っていた。
 ところが、女性にあぶれた男性陣がノーマを狙って殺到。ビックリした彼女は列車内を逃げまくり、たまたまドアの鍵が開いていた男性専用の洗面所へと身を隠す。そこでは先客のロッシが髭を剃っている最中だった。ユーモアのセンスがあって紳士的なロッシに好感を持つノーマ。彼女が仕事に困っていることを知ったロッシは、ニューヨークへ戻ったら自分の職場を訪ねるように勧める。秘書の仕事で空きがあるはずだったからだ。
 その頃、後部車両へ向かったジュヌヴィエーヴとアイリーンは、身なりのいい中年紳士モーティ(オズグッド・パーキンス)とトム(チャールズ・D・ブラウン)の2人と知り合う。彼らはブロードウェイの大物製作者J・J・ホバート(ヴィクター・ムーア)の部下だった。そうと知ったジュヌヴィエーヴは目の色を変え、作り笑いを浮かべながらモーティに取り入る。
 ニューヨークへ戻ったノーマは、グッドライフ保険の秘書として雇われることとなった。モーティたちのコネでミュージカル出演の決まったジュヌヴィエーヴたちはノーマのことも誘おうとするが、せっかく手堅い仕事を得ることができた彼女はもうショービジネスの世界に未練などない。それに、彼女はロッシのことも本気で好きになっていた。ジュヌヴィエーヴたちはそんなノーマの気持ちを察する。
 ところが、大変な問題が発覚してしまう。というのも、モーティとトムは勝手にJ・Jの金を株に運用して大損してしまったのだ。もはや新作ミュージカルどころの状況ではない。かといって、J・Jに正直に話したら会社をクビになってしまう。頭を抱えるモーティとトムだったが、その話を聞いたジュヌヴィエーヴは妙案を思いつく。J・Jの年齢は59歳で、いつも体調の不良を訴えている。いつ死んだっておかしくはないだろう。ならば、今のうちに生命保険へ加入させて、わざと寿命を縮めるような工作をすれば、さっさとくたばってくれるに違いない。保険金が下りれば、心置きなく新作ミュージカルを上演することも出来る。モーティとトムはそのアイディアに飛びついた。
 早速、グッドライフ保険で電話をかけ、営業マンをよこすようノーマに頼むジュヌヴィエーヴ。普段から社長のキャラハン氏(ウィリアム・B・デヴィッドソン)から睨まれているロッシの力になりたいと考えていたノーマは、迷うことなく彼をJ・Jのもとへと向かわせる。もちろん、彼らはこの件の裏事情など知る由もない。
 モーティとトムから保険の加入を勧められたJ・Jだが、本人は全く乗り気ではない。そもそも会社の事業は順調なはずだから、生命保険に入る必要などないのだ。そこへやって来たロッシは保険の利点をなんとか説明しようとするが、なにしろ会社で一番成績の悪い営業マンなだけに、かえってJ・Jを不安にさせてしまう始末。だが、演劇界の宝であるJ・Jが保険に入ることでまだまだ元気だということを証明できれば、みんなに希望を与えることが出来るというマーティの少々苦しい説得にいたく感銘を受けて、J・Jは100万ドルという超破格の契約を結ぶことに同意をする。
 これで一躍会社でもヒーローになったロッシ。有頂天となった彼は自らの営業ぶりを得意げに自慢してみせるが、キャラハン社長はJ・Jの年齢を聞いて顔色を変える。59歳というのは高齢だ。健康診断にパスするかどうか分からない。営業マンのくせに保険に医療審査があるとは知らなかったロッシは、思わずショックで気を失ってしまう。すぐさまJ・Jのもとへ医師団が送り込まれる。固唾をのんで結果を待つロッシたち。なんと、J・Jはすこぶる健康だということで、なんら問題なく審査に合格することが出来た。とはいえ、高齢であることは紛れもない事実なので、ロッシとブープはお互いに手分けしてJ・Jの健康管理や身の安全をチェックすることにする。
 で、J・Jに一刻も早く死んでもらいたいモーティとトムは、パーティの席でJ・Jをプールへ突き落したり、ジュヌヴィエーヴを使って激しいダンスを踊らせたりして、なんとか寿命を縮めてやろうと画策する。だが、年齢のわりにすこぶる健康だということを知らされたJ・Jはすっかり元気になってしまい、ロッシやブープを相手に卓球や組体操などを楽しむように。困ったモーティたちはジュヌヴィエーヴをJ・Jの愛人にして、息の根を止めるように指示を出す。
 しかし、J・Jの人柄の良さに惚れ込んだジュヌヴィエーヴは、モーティたちと縁を切ることを決意する。そして、仕事へのやる気を取り戻したJ・Jは新作ミュージカルの製作に乗り出した。だが、銀行にお金はもうほとんど残っていない。ジュヌヴィエーヴはそのことを正直に話すのだったが、あまりのショックにJ・Jは心臓発作を起こして倒れてしまった。
 病院へ急遽運ばれたJ・J。もはや生きる気力すら失ってしまっている。そんな彼を元気にするため、ロッシはキャラハン社長にかけあって資金を調達し、なんとかミュージカルを上演しようと奔走するのだったが…。

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一刻も早くJ・Jに死んで欲しいモーティたち

J・Jは新作ミュージカルの製作に取り掛かる

モーティらに反旗を翻すジュヌヴィエーヴ(G・ファレル)

倒れたJ・Jのためにもミュージカルを成功させたいロッシ

 ドラマ・パートの演出は『四十二番街』や『フットライト・パレード』でもバークレイと組んだロイド・ベーコン監督が担当。もともとチャップリンのもとで修業を積んだ人なだけに、この手のナンセンスなコメディの演出はお手のものと言った感じで、実にテンポ良く無駄のない語り口で楽しませてくれる。
 原作は1935年にブロードウェイで初演された舞台劇“Sweet Mystery of Life”。その作者の中には、後に007シリーズの脚本家として有名になるリチャード・メイボームの名前も含まれている。脚色を手掛けたのは、当時ワーナーで他にも『流行の王様』や『カリアンテ』などのミュージカルに参加していたウォーレン・ダフ。後に『夜の人々』('54)でオスカーにノミネートされるトム・リードが脚本アシスタントを務めている。
 撮影監督は『フランケンシュタイン』('31)や『カサブランカ』('42)などで有名な大御所カメラマン、アーサー・エディソン。さらに、『民衆の敵』('31)や『毒薬と老嬢』('44)のマックス・パーカーが美術デザインを、ワーナーの名作映画には欠かせないオリー=ケリーが衣装デザインを担当している。
 そして、ミュージカル・ナンバーを手掛けたのがアル・ダービン&ハリー・ウォーレンの名コンビと、『オズの魔法使い』('39)の名曲「虹の彼方に」で知られるE・Y・ハーバーグとハロルド・アーレンの2人。中でもハーバーグ&アーレンらしい軽快でキャッチーなメロディが魅力の“Speaking of the Weather”は良かった。

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いよいよステージの幕が上がる

手旗を応用したマスゲーム的レビュー

こちらも手旗を使ったスペクタクル

ロッシの親友ブープ(L・ディクソン)もステージに

 すっ呆けた保険営業マン、ロッシ役を演じているのは、口ひげをたくわえてイメージ・チェンジを図った永遠の好青年ディック・パウエル。まあ、実際のところいつもの明朗快活な好青年路線であることに変わりはないのだが、ほとんどあり得ないくらいの能天気なおバカさんぶりはなかなか笑える。どう転んでも憎めないという、彼ならではの個性を上手いこと生かした絶妙なキャスティングだろう。
 その相手役としてしっかり者のノーマを演じるのがジョーン・ブロンデル。こちらも、なかば定番のような配役と言えばそれまでだが、いつもの鼻っ柱の強い鉄火肌女とはちょっと違った奥ゆかしさのあるところが新鮮。ただ、中盤以降は共演のグレンダ・ファレルに見せ場の殆どを持っていかれ、全体的に見るとあまり印象に残らないという損な役回りだったかもしれない。
 で、そのノーマの親友でやり手のコーラス・ガール、ジュヌヴィエーヴ役を演じているのが、『ゴールド・ディガーズ36年』でも悪女役を演じていたグレンダ・ファレル。ただ、このジュヌヴィエーヴという女性、確かに計算高くて狡賢いところはあるのだが、決して根っから悪い女というわけではない。世間の常識やモラルに縛られないだけ。なので、彼女が子供のように素直なJ・Jに惚れ込み、モーティたちに反旗を翻すあたりから俄然と存在感を強めていく。粋ですれっからしなファレルの好演も手伝って、なかなかユニークで魅力的なキャラクターとなった。
 そして、小さな子供がそのまま老人になったような、無邪気で我がままで心配性なブロードウェイ製作者J・Jを演じるヴィクター・ムーアがすこぶる上手い。ブロードウェイで名を成した伝説的な名優で、ニューヨークには現在も彼の名前を冠したバス停留所が残されているほどの人物。自分が病気だと思い込んで常にオロオロとしているJ・Jの情けなさや、健康に問題がないと知った途端にはしゃぎまわる可愛らしさなど、これこそ正真正銘の芸達者だと言わんばかりの巧みな演技で観客を楽しませてくれる。考えてみれば、ヒュー・ハーバートやユージン・パレット、ライオネル・バリモアなど、当時のハリウッド映画界には彼のような名脇役が沢山いたもんだった。
 そのほか、アンソニー・パーキンスの父親としても有名なオズグッド・パーキンス、『大いなる眠り』('46)や『殺人者』('46)などフィルムノワールの脇役として活躍したチャールズ・D・ブラウン、ボリス・カーロフとベラ・ルゴシ主演のホラー映画『大鴉』('35)でヒロインを演じたアイリーン・ウェア、名作『猟奇島』('32)の船長役で知られるウィリアム・B・デヴィッドソンなどが出演。また、後のオスカー女優ジェーン・ワイマンやキャロル・ランディスがコーラスガールとして顔を出している。

 

大学祭り
Varsity Show (1937)
日本での公開年不明
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2008 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/80分/製作:アメリカ

特典映像
エドガー・バーゲン主演短編映画
クラシック・カートゥーン1編
オリジナル劇場予告編
監督:ウィリアム・キーリー
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
原案:ウォーレン・ダフ
   シグ・ハーツィグ
脚本:ジェリー・ウォルド
   リチャード・マコウレイ
   ウォーレン・ダフ
   シグ・ハーツィグ
撮影:ソール・ポリート
   ジョージ・バーンズ
出演:ディック・パウエル
   フレッド・ウォーリング
   テッド・ヒーリー
   ローズマリー・レイン
   プリシラ・レイン
   ウォルター・キャトレット
   ジョニー・デイヴィス
   スターリング・ホロウェイ
   メイベル・トッド
   リー・ディクソン
   バック&バブルス

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ミュージカルのリハーサルに余念がない大学生たち

クラシック以外認めないビードル教授(W・キャトレット)

学生たちはブロードウェイの人気演出家を招くことにする

このところ失敗作が続いているチャック(D・パウエル)

 旧態然とした学校のやり方に不満を感じた大学生たちが、ブロードウェイの人気演出家を招いて学生ミュージカルを上演する。実に他愛ないストーリーではあるものの、まあ、当時のミュージカルってのは大抵そんな感じだから仕方あるまい。ただ、肝心のミュージカル・シーンまで他愛ないものになってしまったのは残念だった。
 舞台は格式を重んじる名門ウィンフィールド大学。とはいえ、流行に敏感な学生たちは今時のジャズに夢中だ。理解のある音楽教師メイソンの協力もあって、彼らはジャズをメインにした学生ミュージカルを企画していた。ところが、監督役を務めるビードル教授はクラシック音楽以外を一切認めない堅物。助手であるメイソンには残念ながら決定権がない。そこで、学生たちはブロードウェイの人気演出家で大学の先輩でもあるチャック・デイリーに力を貸してもらおうと考える。彼ほどの有名人であれば、大学側も口をはさむことはないだろうというわけだ。
 で、このところ失敗作が続いていたチャックも、いい小遣い稼ぎになると考えて学生たちからのオファーを引き受けることにした。ところが、学園内の風紀を乱すという理由で大学側は猛反発。学生たちと交流を深めていたチャックだったが、自分がいてはみんなに迷惑がかかると考えてニューヨークへ戻ってしまう。そして、彼が財政的に困っていることを知った学生たちは、恩返しをせねばならないということで、自分たちのミュージカルをブロードウェイで上演しようと計画する。
 ノリとしてはこの数年後に大ブレイクするミッキー・ルーニー&ジュディ・ガーランドの青春ミュージカルを先駆けたような感じ。出てくる学生たちの中にひねくれた不良や一匹狼が一人もいないというのは時代ゆえのことであろうが、それにしても善意の塊みたいな明朗快活で健全な若者ばかりなのはちょっと気持ち悪い。まあ、なにしろ第二次世界大戦前の映画なのだから、その点に関しては致し方ないだろう。
 ただ、やはりミュージカル・シーンまでどれも平凡で型通りのものばかりなのは大いに不満。とりあえずバスビー・バークレイが演出を手掛けたのはクライマックスのレビューのみらしいのだが、これとてありきたりな舞台ミュージカルの枠を出ることのないまま終わってしまう。つまり、バークレイ的なファンタジー描写に著しく欠けてしまっているのだ。マスゲームを応用した群衆シーンも地味。唯一、当時の人気黒人芸人コンビ、バック&バブルスによる見事なタップ・ダンスを堪能できることくらいが救いといったところだろうか。青春コメディとして見ても、ルーニー&ガーランドの『青春一座』('39)や『ストライク・アップ・ザ・バンド』('40)の方が優れている。

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チャックのもとを訪れた大学生たち

チャックは学生たちから熱烈な歓迎を受ける

ベティ(P・レイン)とメイソン(F・ウォーリング)

チャックはバーバラ(R・レイン)と惹かれあう


 ウィンフィールド大学では、学園祭で上演するミュージカルの準備に学生たちは余念がなかった。かつては優れたミュージカルを作ることで知られていたウィンフィールドだが、このところ学校の方針で古典的な演目しか許されなくなってしまい、その評判はすっかりがた落ちだ。先輩である音楽教師メイソン(フレッド・ウォーリング)は学生たちの意欲や不満を十分理解しており、ジャズを大胆に盛り込んだ今風のミュージカルを作り上げようとしていた。ところが、学校側から監督を任されたビードル教授(ウォルター・キャトレット)は古臭い価値観を持った堅物で、クラシック以外の音楽を一切認めようとしない。ただの講師でしかないメイソンには意見を述べる権利すら認められていなかった。
 そこで、学生たちは一計を案じる。ブロードウェイで人気の演出家チャック・デイリー(ディック・パウエル)はウィンフィールド大学の卒業生。かつて学生ミュージカルの全盛期を築き上げた人物だ。彼ならきっと力を貸してくっるに違いない、有名人が演出を手掛けることを知ったら大学側もうるさいことは言わなくなるだろう。学生時代にチャックと友人だったメイソンもその案に賛成した。彼ならきっと助けてくれると。
 一方、ブロードウェイで失敗作続きだったチャックは、正直なところ財政的にかなり行き詰まっていた。そんなところへ、学生を代表してベティ(プリシラ・レイン)、バズ(ジョニー・デイヴィス)、トラウト(スターリング・ホロウェイ)、ジョニー(リー・ディクソン)の4人がチャックを訪ねてきた。素人のステージに協力することは出来ないと突っぱねるチャック。だが、相棒のウィリアムズ(テッド・ヒーリー)はギャラが出ると聞いて目の色を変えた。こんな時に贅沢を言っている余裕などあるか、とばかりに、彼はチャックを説得。有名プロが素人ミュージカルを演出するとなればマスコミも飛びつくだろうし、いい宣伝になるはずだと言われたチャックは考えを改めた。
 到着早々に新入生と間違われるというトラブルに見舞われたものの、学生たちとすぐに打ち解けるチャック。当初は素人である彼らの実力に疑問を持っていたが、製作費を捻出するためのダンス・パーティで学生たちの歌や演奏を目の当たりにし、これはひょっとしたら行けるかもしれないと考えるようになる。中でも、美人で歌の上手いバーバラ(ローズマリー・レイン)とはお互いに惹かれあうものを感じた。
 ところが、ビードル教授は2人のことをなにかにつけて厄介者扱いする。低俗な商業演劇関係者に高尚な芸術が理解できるはずなどない、というわけだ。教授の演出する演目を見て、その子供じみた古臭さに唖然とするチャックとウィリアムズだったが、頭の堅い教授は一切聞く耳を持たない。たまたまおたふく風邪にかかったウィリアムズが、わざと教授に風邪をうつして入院させるものの、その右腕であるウォッシュバーン教授(ロイ・アトウィル)が妨害計画を実行する。いきなり模擬試験を告知することで、教授が入院している間のリハーサル時間を勉強に費やさせようというのだ。しかも、試験に落ちたら課外活動は一切禁止。つまり、ミュージカルに出ることは出来なくなってしまう。
 それでも学生たちは頑張って全員が試験にパスした。しかし、退院したビードル教授はチャックとウィリアムズの横暴な行為を学長に訴え、大学側は学園内の風紀を乱すということで2人の存在を問題視し、ビードル教授の指示通りにしなければミュージカルの上演は禁止するということを正式に決定した。これに怒った学生たちは全ての授業をボイコット。大学側は学生たちの退学処分を検討する。
 自分がいては学生たちに迷惑がかかってしまう。そう考えたチャックとウィリアムスはニューヨークへ戻ることを決意する。学生たちにはハリウッドでの仕事が決まったからと嘘をついて。しかし、学生たちは新聞のニュースでチャックが財政的に困っているということを知る。彼のために何かできないだろうか。そう考えた学生たちは、自分たちのミュージカルをブロードウェイで上演しようとニューヨークへと乗り込む。
 メイソンのコネで大きな劇場を借りることにした学生たち。だが、劇場主のカーリー(エドワード・ブロフィー)は全額前払いを要求する。もちろん、学生たちにそんな金はない。ここが踏ん張りどころとばかりに劇場で居座りを決め込む学生たち。彼らがニューヨークへ来ていることを知ったチャックとウィリアムスも加勢する。怒り心頭のカーリーは裁判所に訴えて立ち退き命令を出してもらい、それをもとに警官隊が次々と劇場へと送り込まれた。果たして、学生たちはミュージカルを無事に上演することが出来るのだろうか…?

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大学側はビードル教授の立場を支持する

ニューヨークへ戻る決心をしたチャック

学生たちはチャックを助けようと立ち上がる

ブロードウェイの劇場を占拠した学生たち

 監督は『Gメン』('35)や『特高警察』('35)などワーナーのB級ギャング映画で活躍した職人監督ウィリアム・キーリー。『踊る三十七年』に引き続いてのウィリアム・ダフと『画家とモデル』('37)のシグ・ハーツィグが原作を手掛け、『キー・ラーゴ』('46)や『愛情物語』('56)などの製作者としても有名なジェリー・ウォルドと当時彼の相棒だったリチャード・マコウレイが脚本に加わっている。
 さらに、キーリー監督演出パートの撮影監督をソール・ポリート、バークレイ監督が手掛けたファイナル・シーンの撮影監督をジョージ・バーンズが担当。『ロビン・フッドの冒険』('38)でオスカーを受賞したカール・ジュールス・ウェイルが美術デザインを、オートクチュール・デザイナーとしても有名だったハワード・シュープが衣装デザインを手掛けている。
 そして、本作がワーナー・ミュージカル映画の中でも異色なのは、複数のソングライターによる多数の楽曲をミュージカル・シーンに使用しているということ。一応、リチャード・A・ホワイティングがメインのコンポーザーを務めているものの、他にもイギリスの有名な作曲家フェリックス・パウエルやマイロ・スウィートなどの既成曲が全篇に渡って散りばめられている。こと音楽に限っては非常にバラエティ豊かな内容になっていると言えるだろう。
 なお、本作の学生コーラス隊には当時まだ無名だったロバート・ショーが参加しており、撮影終了後に主演のフレッド・ウォーリングを頼ってニューヨークへと進出。これをきっかけに、アメリカで最も有名な合唱団指揮者へと登りつめることになったのだそうだ。

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チャックも学生たちに力を貸す

次々と劇場へ到着する警官隊

その一方でミュージカルの上演が始まった

果たしてミュージカルは最後まで無事に上演できるのか?

 チャック役のディック・パウエルと並んで主演スターとしてクレジットされているのは、当時合唱団“フレッド・ウォーリングとペンシルヴァニアンズ”を率いて人気絶頂だったフレッド・ウォーリング。アメリカにおけるコーラス音楽文化の開祖みたいな人である。彼自身も大学時代にグリー・クラブへ入部を希望したものの、保守的な担当顧問と音楽のスタイルについて意見が全く合わず、それならばと自ら仲間を集めて結成した合唱団のポップなスタイルが大受けし、プロとしてのキャリアを歩み出したという経歴の持ち主だった。ということは、今人気の海外ドラマ『Glee』の原点みたいな存在だったとも言えなくはないかもしれない.ただ、やはり役者としては素人も同然。ミュージカル・シーンで聞かせる歌声は素晴らしいものの、ドラマ・シーンにおける演技はほとんど学芸会並みのお粗末さだ。
 一方、チャックの相棒でちょっとヤクザなところのあるマネージャー、ウィリアムズ役を演じているのは、三ばか大将ことスリー・ストゥージズのオリジナル・メンバーとしても知られるダミ声のコメディアン、テッド・ヒーリー。彼がまた実に面白い役者で、ミュージカル・シーンも含めヴォードヴィル芸人出身らしい幅広い芸を披露して楽しませてくれる。本作が劇場公開された1937年に41歳という若さで謎の死を遂げているのだが、実は複数の人物によって殴り殺されたのだと言われている。その犯人の中にはマフィアと並んでオスカー俳優ウォーレス・ビアリーや大物製作者アルバート・R・ブロッコリが含まれているとされ、スキャンダルを恐れた映画会社によって揉み消されたのだそうだ。
 そして、本作は'40年代にハリウッドで一世を風靡した美人姉妹、レイン・シスターズの三女ローズマリーと四女プリシラの映画デビュー作品としても知られている。ローズマリーが演じるのはヒロインのバーバラ、プリシラが演じるのはブロンドのお転婆娘ベティ。それぞれミュージカル・シーンでは柔らかな美声も披露している。主に低予算のミュージカル映画で活躍したローズマリーは日本での知名度も低いが、ヒッチコックの『逃走迷路』('42)やフランク・キャプラの『毒薬と老嬢』('44)などの名作でヒロインを務めたプリシラは日本のハリウッド・クラシック・ファンの間でも馴染みが深いだろう。
 そのほか、当時歌手として有名だったジョニー・デイヴィス、ディズニー・アニメ『くまのプーさん』のプーさん役で知られるスターリング・ホロウェイ、『踊る三十七年』に引き続いて出演のリー・ディクソン、ディズニー・アニメ『ピノキオ』のキツネの詐欺師役で知られるウォルター・キャトレットなどが登場。また、本作をきっかけにワーナー・ミュージカルのお笑い担当となるコメディエンヌ、メイベル・トッドがテッド・ヒーリーとの絶妙な夫婦漫才を見せてくれる。

 

 

映都万華鏡
Hollywood Hotel (1937)
日本では1939年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2008 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/109分/製作:アメリカ

特典映像
短編歴史映画1篇
エドガー・バーゲン主演短編映画1篇
クラシック・カートゥーン1篇
オリジナル劇場予告編
監督:バスビー・バークレイ
原案:ジェリー・ウォルド
   モーリス・レオ
脚本:ジェリー・ウォルド
   モーリス・レオ
   リチャード・マコウレイ
撮影:チャールズ・ロッシャー
   ジョージ・バーンズ
出演:ディック・パウエル
   ローズマリー・レイン
   ローラ・レイン
   ヒュー・ハーバート
   テッド・ヒーリー
   ベニー・グッドマン
   ジョニー・デイヴィス
   ルエラ・パーソンズ
   アラン・モウブレイ
   メイベル・トッド
   フランシス・ラングフォード
   ジェリー・クーパー
   アリン・ジョスリン
   グラント・ミッチェル

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ハリウッドへと出発するロニー(D・パウエル)

ルエラ・パーソンズの取材を受ける女優モナ(L・レイン)

怒ったモナはプレミアへの出席を突っぱねる

モナの替え玉に選ばれたバージニア(R・レイン)

 バスビー・バークレイが一人で全ての演出を担当した作品なのだが、これはミュージカル映画というよりも音楽映画と呼ぶべきなのかもしれない。というのも、ダンス・シーンが一切ないのだ。その代わり、ベニー・グッドマン楽団の演奏やフランシス・ラングフォードの歌唱など、古いジャズ・ファンには興味深いコンサート・シーンが満載。ハリウッド黄金期の舞台裏をそつなく皮肉ったストーリーもなかなか面白いし、メイクアップ・アーティストのパーク・ウェストモアやゴシップ・コラムニストのルエラ・パーソンズといった伝説的な人物が本人役で顔を出すのも見どころ。ハリウッド・クラシックに精通した映画ファンであれば楽しめるはずだ。
 舞台となるのは、当時ハリウッド大通りのチャイニーズ・シアター並びに実在したハリウッド・ホテル。ちょうど、現在のハリウッド&ハイランド・センター、つまりコダック・シアターの入っているショッピングモールが建つ場所にあった宿泊施設だ。映画の中ではホテルということになっているが、実際はハリウッド・スターたちの仮住まいみたいな施設であり、映画業界の社交場のような場所だったという。あのルドルフ・ヴァレンチノやノーマ・シアラーもここに住んでいたそうだ。
 で、主人公の前途有望なトランペット奏者ロニーは映画会社にスカウトされ、とりあえずの宿泊先としてこのハリウッド・ホテルへとやって来る。そんな彼の初仕事は、大物スター女優モナ・マーシャルのエスコート。たちまちモナに恋してしまったロニーだったが、実は彼が会ったのは代役のソックリさんバージニアだった。我がままで気位の高いモナは希望していた映画の主演から外されてしまったことに腹を立て、プレミア会場への出席をドタキャンしてしまった。それに頭を抱えた映画会社がモナの代役を用意し、本物の彼女にまだ会ったことがないロニーをエスコート役としてあてがったというわけだ。
 この映画会社の苦肉の策に激怒したモナは、八つ当たりでロニーをクビにさせてしまった。仕方なしにドライブイン・レストランのウェイターとして働くロニー。とりあえずバージニアとはラブラブだし、次のチャンスが巡ってくるかもしれない。そう考えていた彼は、ある日レストランの客としてやって来た映画監督にその歌声を評価され、新作映画で歌わないかと誘われる。
 喜び勇んで撮影スタジオへと向かったロニー。しかし、それは歌の下手な人気俳優アレックスの吹き替えという不本意な仕事だった。しかも、完成した映画の試写会で歌声を褒められたことからすっかり勘違いしてしまったアレックスが、なんとラジオの生番組で歌うという仕事を引き受けてしまった。頭を抱えた映画会社は再びロニーに吹き替えをさせようとするのだが、さすがの彼もこれ以上他人に利用されるのは我慢がならない。そこで、彼はバージニアや友人ファジーらの協力を得て、捏造ばかりする映画会社の裏をかこうと画策する…。
 冒頭からアカデミー賞の授賞式でもお馴染みの名曲“Hooray for Hollywood”の軽快なメロディで始まり、“California Here I Come”や“Sing Sing Sing”などのスタンダード・ナンバーが目白押し。それだけでもワクワクするのだが、さらにベニー・グッドマンやハリー・ジェームズ、ジーン・クルーパ、ライオネル・ハンプトンといった名手たちの演奏を思う存分に堪能することが出来る。撮影用のセットとはいえ、ハリウッド黄金期の華やかさを如実に伝えるホテルの豪華な内装にも目を奪われるし、映画関係者たちの煌びやかなコスチュームや優雅なライフスタイル、当時ハリウッド界隈の最新トレンドだったというドライブイン・レストランの賑やかさなどなど、ノスタルジックで贅沢な雰囲気がなんとも魅力的だ。
 70年以上前のハリウッドがどんな様子だったのか、その断片を垣間見ることが出来るという点でも一見の価値がある作品ではないだろうか。

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替え玉とは知らずにモナをエスコートするロニー

プレミアに集まった人々は一様に偽者だと気付かない

お互いに強く惹かれあう2人だったが…

激怒したモナはロニーとバージニアをクビにさせる

 物語の始まりはセントルイス。映画会社にスカウトされたトランペット奏者ロニー(ディック・パウエル)は、仲間のベニー(ベニー・グッドマン)やアリス(フランシス・ラングフォード)、ジョージア(ジョニー・デイヴィス)らに見送られ、意気揚々とハリウッドへ向けて飛行機に乗り込んだ。
 ロサンゼルスの空港で待っていたのは、映画会社オールスター・ピクチャーズの宣伝部長バーニー(アリン・ジョスリン)。右も左も分からないロニーは、事務的なバーニーの対応になんとなく違和感を覚える。とはいえ、案内されたハリウッド・ホテルのスケールの大きさに圧倒され、ラジオの音楽番組が収録される豪華なラウンジ、オーキッド・ルームを目の当たりにすると興奮を隠せない。そう、ここは紛れもなく映画の都ハリウッドだった。
 その頃、ハリウッド・ホテルのスウィートルームでは、人気絶頂の映画女優モナ・マーシャル(ローラ・レイン)が、映画界で最も影響力のあるコラムニスト、ルエラ・パーソンズ(本人)のインタビューを受けていた。それも、衣装のフィッティングや請求書のサインなどの仕事をこなしながら。あまりの忙しさに嘆いてみせるモナだったが、その演劇じみた振る舞いを見れば映画スターの単なるナルシズムであることがよく分かる。そんな彼女にいつも付き合わされている秘書ジョーンズ(グレンダ・ファレル)は、モナの大袈裟なヒステリーを冷ややかに眺めていた。
 すると、オールスター・ピクチャーズ社長フォールキン(グラント・ミッチェル)からモナ宛てに電話が入る。予てからモナが出演を希望していた映画のヒロイン役が、他の女優に決まってしまったというのだ。烈火のごとく怒るモナ。フォールキンは見えすいた嘘で怒りを鎮めようとするが、かえって火に油を注いでしまい、モナはその晩に予定されている新作映画のプレミア出席を拒否してしまった。しかも、その直後に行方をくらましてしまう。
 慌てたのは映画会社だ。プレミアに主演女優が不在では格好がつかない。そこで、宣伝部長のバーニーが秘策を思いつく。ハリウッドには女優志望の美人が掃いて捨てるほどいる。その中には、モナに瓜二つの娘がいたっておかしくない。すぐさま部下に命じて候補者を集めたバーニーは、その中からバージニア(ローズマリー・レイン)という女優志望のウェイトレスをモナの替え玉としてスカウトする。これまでにも彼女は映画でモナのボディ・ダブルを務めたことがあり、その仕草や口癖なども完璧に真似ることが出来た。これでメイクやドレスさえ本人と同じようにすれば完璧だ。ただ、問題なのはプレミアで彼女をエスコートする同伴者を誰にするのかということ。さすがに既存の映画関係者では正体がバレてしまう可能性が高い。そこでバーニーが思いついたのは、まだモナ本人と一度も面識のない新人ロニーだった。
 憧れのスター、モナのエスコート役を仰せつかって有頂天になるロニー。映画界の人間関係など全く知らないもんだから、モナの部屋を訪れた恋人で映画俳優のアレックス(アラン・モウブレイ)をストーカーと勘違いして殴り倒してしまった。会場では熱狂的な映画ファンの迫力に圧倒され、思わず求められてもいないのに長々とスピーチをしてしまうロニー。そんな飾り気のなさにバージニアは親近感を覚える。プレミア試写が終わると今度は晩餐会。広間にはルエラをはじめ映画界の重鎮が顔を揃えており、さすがにモナのふりを続けることに限界を感じたバージニアは、ロニーに頼んでこっそりと会場を抜け出すことにする。そして、2人はお互いに惹かれあっていることを確認するのだった。
 翌朝、新聞で昨夜のプレミア試写を報じる記事を読んだモナは激怒。大急ぎでジョーンズやアレックスを連れて映画会社のオフィスへと乗り込み、どこの馬の骨だか分からないニセモノとチンピラをクビにしなければ会社を辞めてやると社長フォールキンに迫る。かくして、デビューも決まらないうちに解雇されてしまったロニー。しかも、たまたま鉢合わせたモナ本人から平手打ちを食らい、何が何だか分からず困り果ててしまった。
 とりあえず、今後どうするかを考えるため、専属マネージャーを名乗り出てくれた業界カメラマンのファジー(テッド・ヒーリー)と共にホテルのレストランでランチを取るロニー。すると、注文を取りに来たウェイトレスの顔を見てビックリする。それは昨晩モナの替え玉を務めたバージニアだった。ただ、事情を知らないロニーは茶化されているのかと勘違いし、腹を立ててレストランを後にする。ところが、ロビーへ出ると本物のモナが。すっかり混乱してしまったロニーだったが、昨夜のモナが替え玉だったことをバーニーから知らされて納得する。仕事の終わったバージニアをデートへ誘うロニー。2人はお互いの気持ちが本物であることを確認した。
 翌日からロニーとファジーの営業活動が始まる。各映画会社のキャスティング窓口を回るものの、収穫は全くなし。その途中でラジオ出演のためセントルイスからロスへやって来たベニーやアリスらと再会するものの、映画会社をクビになったとは言えなかった。とにかく、今は耐えるしかない。2人は流行のドライブイン・レストランでアルバイトを始める。
 そんなある日、レストランの客の前で歌声を披露したロニーは、その場にたまたま居合わせた映画監督ウォルター・ケルトン(ウィリアム・B・デヴィッドソン)から声をかけられた。撮影中の新作映画で歌わないかというのだ。思いがけないチャンスに喜びを隠せないロニーとファジーだったが、バージニアは一抹の不安を隠せない。また映画会社からいいように利用されるだけで終わるのではないかと。
 早速、ロニーとファジーは撮影スタジオへと足を踏み入れた。なんと、主演はモナ・マーシャルとアレックス。しかも、よくよく監督の話を聞いてみると、歌の下手なアレックスの吹き替えを担当して欲しいというのだ。不本意な仕事ではあったが、ロニーはぐっと我慢をして引き受けることにする。だが、完成した映画“Hope & Glory”のプレミア試写で作品を見た観客の誰もが、その素晴らしい歌声がアレックスのものだと信じて疑わなかった。
 マスコミからも絶賛され、すっかり気分が良くなってしまったアレックスは、ルエラ・パーソンズが司会を務める人気のラジオ番組に生出演するという仕事を引き受けてしまう。困ったのは映画会社社長フォールキンと宣伝部長バーニー。なんとかしてロニーを探し出し、アレックスの替え玉としてラジオ出演させなければならない。彼の居場所を教えて欲しいとバーニーらに頼まれたバージニアは、法外なギャラを要求して承諾させる。とりあえず大金が手に入れば、ロニーと2人で当面は楽な生活を送ることが出来るだろう。しかし、それではロニー自身のプライドが許さなかった。もう映画会社に利用されるのは御免だ。すると、たまたま彼らの会話を耳にした中年男性が声をかけてくる。モナの父親マーシャル氏(ヒュー・ハーバート)だった。予てからハリウッド人種のことが気に食わなかった彼は、映画会社の裏をかくための秘策を提案する…。
 そして、ラジオ番組収録の当日。いよいよコンサートが始まった。果たして、ロニーたちはどのような方法を使って映画会社の連中をギャフンと言わせようというのか…?

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改めてバージニアに好意を寄せるロニー

映画の仕事はなかなか見つからなかった

ロニーはドライブイン・レストランでバイトを始める

不本意ながらスターの吹き替えを引き受けたロニー

 もともと本作の企画アイディアを出したのは、本編中にも本人役で出演しているコラムニストのルエラ・パーソンズだったという。ルエラといえば、悪名高いゴシップ・ライターとしてハリウッドでは伝説になっている女性。中でもライバルだったヘッダ・ホッパーとの醜い争いは小説やテレビ映画のネタにもなったほど。新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの後ろ盾があったおかげで映画界に絶大な影響力を及ぼし、彼女の逆鱗に触れたがために仕事を干されてしまった業界人も少なくなかった。なので、現役時代にはハリウッドのご意見番として幅広い交友関係を誇っていたものの、その葬儀に参列した映画関係者はごく僅かだったという。
 そんなルエラの提案を基にしてストーリーを書き上げたのが、ジェリー・ウォルドとモーリス・レオ。さらに、ウォルドの盟友であるリチャード・マコウレイが脚本に参加している。生き馬の目を抜くハリウッドのダーティな側面や、一般人の目には奇異に映る映画スターの私生活など、まさにゴシップ雑誌的な視点からハリウッド業界を面白おかしく描いているのは、やはりルエラが絡んでいるゆえのものなのだろうか。
 撮影監督を担当したのは、『サンライズ』('27)や『小鹿物語』('47)でオスカーを受賞した大御所カメラマン、チャールズ・ロッシャー。ただし、音楽シーンの撮影はバークレイの右腕とも呼べるジョージ・バーンズが担当。派手な仕掛けやダンスがない分だけ、移動カメラによるリズミカルな演出によってジャズ・ナンバーの躍動感を表現している。また、ジョージ・エイミーによる小気味のいい編集も印象的だ。
 さらに、『泥酔夢』でもバークレイと組んだロバート・M・ハースが美術デザインを担当。ハリウッド・ホテルの豪華絢爛たる内装も見事だが、特に蘭の花をモチーフにしたオーキッド・ルームの華やかでエレガントなデコレーションは一見の価値ありと言えよう。また、オリー=ケリーが女優陣の豪奢なドレスをデザイン。中でも、モナ役のローラ・レインが身にまとう柔らかなゴールドのイブニングドレスが印象的だ。
 ちなみに、モナとアレックスが主演する劇中劇の映画“Hope & Glory”は、当時全米で話題を呼んでいたマーガレット・ミッチェルの大河小説『風と共に去りぬ』をパロディにしたもの。アレックスの演じる主人公の役名も、レッド・バトラーならぬキャプテン・カトラーとなっている。

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ラジオ出演を承諾したアレックス(A・モウブレイ)だが…

映画会社のやり方に腹を立てるバージニア

モナの父マーシャル氏(H・ハーバート)が妙案を思いつく

いよいよラジオの公開収録が始まった

 前作の『大学祭り』に引き続いて、ディック・パウエルとローズマリー・レインのコンビが主演。さらに本作では、ローズマリーの姉であるローラ・レインが、映画女優モナ・マーシャル役として登場する。実際、ローラとローズマリーは双子じゃないかと思うくらいに瓜二つ。姉のローラの方が若干キツそうな顔をしているというだけで、二人並んだらどっちがどっちだか分からなくなるくらいに似ている。
 で、そのローラが演じるモナというキャラクターなのだが、恐らくガルボやノーマ・シアラーなどといったハリウッド・スターのステレオタイプ的イメージをカリアチュアしたものなのだろう。ことあるごとにオーバーリアクションで相手の関心を引き、自分の思い通りに事を運ばせようとするのだが、それがいつも裏目に出てしまうという愚かしさが笑いのポイントとなっている。『札つき女』('37)の蓮っ葉だが正直で頼りになる商売女役がとても良かったローラだが、本作のスクリューボール的コメディエンヌぶりもなかなかのものだ。
 そして、ワーナーの誇る名バイプレイヤー陣と大物ミュージシャンが揃った脇の顔ぶれにも注目。本筋とはあまり絡んでこないものの、あちらこちらに出没しては素っ頓狂な騒動を巻き起こし、最後はロニーたちと協力して映画会社を出し抜くモナの父親マーシャル氏を、『フットライト・パレード』や『泥酔夢』などにも出ていたヒュー・ハーバートが好演。甲高い声を漏らしながらモゾモゾとする独特の芸風は、三ばか大将など同時代の様々なコメディアンによって模倣され、さらにはワーナーのアニメ“ルーニー・チューンズ”シリーズにも彼をカリカチュアしたキャラクターがたびたび登場するなど、戦前・戦後のハリウッドにおける名物俳優だった人だ。
 さらに、『大学祭り』でもディック・パウエルと組んだテッド・ヒーリーが、本作でも相棒役として活躍。これが彼の遺作となった。他にもグレンダ・ファレルやアラン・モウブレイ、アリン・ジョスリン、グラント・ミッチェルなどハリウッド黄金期の映画には欠かせない性格俳優が多数出演。さらには、女性歌手のフランシス・ラングフォード、バンド・リーダーのベニー・グッドマンなどジャズ界のビッグネームや、ジョニー・デイヴィスやメイベル・トッドといったワーナー・ミュージカルの常連組が脇を固めている。
 なお、プレミア会場の司会者役として、当時まだ駆け出しだったロナルド・レーガン元大統領が登場。後のオスカー女優スーザン・ヘイワードもエキストラで顔を出している。

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司会者役で登場する若き日のレーガン元大統領(左)

 

 

夜は巴里で
Gold Diggers in Paris (1938)
日本での劇場公開年は不明
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2008 Warner Home Video (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/97分/製作:アメリカ

特典映像
短編ミュージカル映画1篇
クラシック・カートゥーン2編
オリジナル劇場予告編
監督:レイ・エンライト
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
製作:サミュエル・ビショフ
着想:ジェリー・ホーウィン
   ジェームズ・シーモア
原案:ジェリー・ウォルド
   リチャード・マコウレイ
   モーリス・レオ
脚本:アール・ボールドウィン
   ウォーレン・ダフ
撮影:ソール・ポリート
   ジョージ・バーンズ
作詞:アル・ダービン
作曲:ハリー・ウォーレン
出演:ルディー・ヴァリー
   ローズマリー・レイン
   ヒュー・ハーバート
   アレン・ジェンキンス
   グロリア・ディクソン
   メルヴィル・クーパー
   メイベル・トッド
   フリッツ・フェルド
   クルト・ボウワ
   エドワード・ブロフィー
  
ザ・シュニッケルフリッツ・バンド

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ニューヨーカーに大人気の“クラブ・バレー”

オーナーのテリー(R・ヴァリー)

店が破綻寸前で驚くテリーとデューキー(A・ジェンキンス)

ジロー(H・ハーバート)は彼らをバレエ団と勘違いする

 ワーナーのゴールドディガーズ・シリーズ第5弾にして最終作。今回は財政難に陥ったナイトクラブの芸人やコーラスガールたちが、一流バレエ団を装って花の都パリへと乗り込んでいく。もちろん、狙うは一攫千金。そこへ本物のバレエ団も合流し、追いつ追われつの騙し合いが展開していく。ストーリーそのものはどうってことないし、バークレイの手掛けたミュージカル・シーンにも往時の勢いは感じられないものの、ルディー・ヴァリーらによる軽快でユニークなジャズ・ナンバーの数々は聴き応え十分。とりあえず、そつなく仕上げられた平均的ミュージカル映画といったところだろうか。
 フランスのパリで国際ダンス博覧会が開催されることとなり、大のインディアン嫌いである役員ジローがアメリカ担当として舞踏団の誘致を任せられることとなった。ニューヨークへ降り立った彼は、有名なアメリカン・バレエ団を訪ねることにする。ところが、タクシー運転手は“バレエ”を“バレー”と聞き間違えてしまい、巷で大評判のナイトクラブ“クラブ・バレー”へと連れて行ってしまう。
 そうとは知らないジローは、クラブ・バレーのオーナー、テリーにパリ行きをオファーした。すぐさま誤解に気付いたテリーだったが、何食わぬ顔をしてダンス博覧会への参加を約束する。というのも、一見すると大賑わいで儲かっているように見える彼の店だったが、目玉であるショータイムに経費をかけすぎてしまい、経理上は破綻寸前の大ピンチだったのだ。
 かくして、アメリカン・バレエ団を名乗ってパリへとやって来たクラブ・バレーの面々。しかし、その情報を聞きつけた本物のアメリカン・バレエ団は怒り心頭だ。監督のパドリンスキーとオーナーのマイクはすぐさまパリへと乗り込み、テリーたちが偽者であることを暴露する。ホテルから追い出され、さらには国外退去命令まで出されてしまったテリーたち。だが、博覧会のコンテストで優勝金を手にしないと店は潰れてしまう。果たして、彼らは無事に出場することが出来るのか?
 コンテストへ出るためにあの手この手を駆使するテリーたちと、彼らを追い出そうとするパドリンスキーたちのイタチごっこというのがストーリーの主軸。そこへ新しく仲間になったバレリーナ、ケイとテリーのロマンスや、金に抜け目がない前妻モナとテリーの奇妙な友情などといった人間ドラマが絡んでくる。とはいっても、全体的にとても軽いノリなので、あくまでもパフォーマンスを披露するためのエクスキュースと見ていいかもしれない。
 で、随所に散りばめられたミュージカル・シーンだが、バークレイの演出にはかつての奔放な想像力やパワーがあまり感じられない。クライマックスの群衆ダンスにしてもどこか物足りなさが残る。そんな中で一際異彩を放っているのが、コミカルでクレイジーなパフォーマンスを繰り広げるジャズ・バンド、ザ・シュニッケルフリッツ・バンドの存在であろう。後の“スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズ”を彷彿とさせる彼らの演奏は、ふざけているように見えて実は非常にハイレベル。本作の撮影終了直後に解散してしまったそうだが、メンバーの1人はその後シティ・スリッカーズにも参加しており、いわゆるコミック・バンドの先駆け的な存在であったとも言えるのかもしれない。

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パリ行きの旅客船に乗り込む“クラブ・バレー”の面々

テリーの前妻モナ(G・ディクソン)も同行する

お互いに惹かれあうテリーとケイ(R・レイン)

パリで一同は盛大な歓迎を受けた

 パリで国際ダンス博覧会が開催されることとなった。各国から著名舞踏団を誘致するための担当者が選出され、モーリス・ジロー(ヒュー・ハーバート)がアメリカ担当ということでニューヨークへ向かうこととなる。ところが、ジローはインディアンが怖くて仕方ない。ニューヨークの港へ着いても、ヤンキーズとインディアンズ戦の話題を耳にし、インディアンに頭の皮を剥がされるものと思って逃げ出すような有様だ。
 タクシーへ乗り込んだジローは、運転手にバレエ団へ連れて行くよう頼む。だが、フランス語訛りの発音が分かりづらかったため、運転手は“バレエ”を“バレー”と勘違いしてしまい、ニューヨーカーに大人気のナイトクラブ“クラブ・バレー”へと案内してしまった。
 その頃、クラブ・バレーではオーナーのテリー・ムーア(ルディー・ヴァリー)とマネージャーのデューキー(アレン・ジェンキンス)が頭を抱えていた。というのも、店は連日大賑わいの大盛況なのだが、会計士に収支を計算してもらったところ、実は破綻寸前であることが判明したのだ。どうやら、ショータイムの人件費や経費などをかけ過ぎだったようだ。しかも、テリーの前妻モナ(グロリア・ディクソン)が多額の慰謝料を要求しており、訴訟も辞さない構え。
 そこへ突然ジローがやってきて、パリのダンス博覧会へ招待してくれるという。しかも、コンテストで優勝すれば多額の賞金が出るのだそうだ。話を聞いていたテリーたちは、ジローが自分たちをバレエ団のオーナーと勘違いしていることに気付く。だが、こんなチャンスは滅多にあることじゃない。2人はこのままバレエ団のふりを続け、パリでダンスコンテストへ出場することにする。
 とはいえ、バレエなど見たことすらない2人は、ひとまず短期間でダンサーたちをそれらしく仕上げるため、専門家を探すことにした。とりあえず見つけ出したバレエ教室へ上がりこむ2人。テリーはそこでただ一人の練習生ケイ・モロー(ローズマリー・レイン)と知り合う。コーチのルイ・レオーニ(フリッツ・フェルド)は少々変わり者だったが、ダンス監督を務めることに同意してくれた。もちろん、ケイも一緒にパリへ行くことになる。
 かくして、パリ行きの豪華客船へ乗り込んだ“クラブ・バレー”の面々。金の臭いを嗅ぎつけた前妻モナも同行することとなった。ところが、そのことを新聞記事で知った本物のアメリカン・バレエ団監督パドリンスキー(クルト・ボウワ)とオーナーのマフィア、マイク・クーガン(エドワード・ブロフィー)は大激怒する。すぐさまジローに電報を打って彼らがニセモノであることを知らせ、自分たちもパリへ向かうことにした。
 船旅を続ける中でお互いに惹かれあっていくテリーとケイ。ジローもコーラスガールたちとすっかり打ち解けていた。しかし、そこへパドリンスキーからの電報が届き、ジローは大慌てをする。ニセモノを連れてきたなんて上司に知れたら大変だ。しかし、テリーたちは電報を打ってきた人物こそがニセモノだとジローを説得し、なんとか事なきを得る。
 やがて船はパリの港へと到着。一行は盛大な歓迎を受けた。ところが、晩餐会の席でバンド・メンバーがアメリカ流のジャズを披露。博覧会運営委員長のルブレック(メルヴィル・クーパー)は一抹の不安を感じ、翌日のリハーサルを見学させてくれと言いだした。困ったのはテリーとデューキー。しかし、そのことをテリーから聞いたケイには妙案があるようだった。一方、デューキーはホテルのバーでマイクと知り合い、お互いに相手が何者かを知らないまま意気投合してしまう。マイクがマフィアだと知ったデューキーは、彼にルブレックを拉致するよう依頼。ところが、マイクは間違えてルイ・レオーニをボコボコにしてしまった。
 翌朝、機転を利かせたケイがルブレックの前で見事なバレエを披露。これでなんとか運営側の信頼を得ることができたわけだが、肝心のバレエを指導するレオーニが入院してしまった。再び大きな問題を抱えることになったテリーとデューキーだったが、彼らはさらに深刻な事態と直面することに。ルブレックに呼び出されて事務所を訪ねたところ、なんとパドリンスキーがパリへ来ていたのだ。自分たちがニセモノであるということもバレテしまった。ホテルを追い出された2人は、コーラスガールたちを引き連れて下町の安宿へと身を隠すことにする。
 悪いことは重なるもので、モナと親しくなったケイがたまたま見つけた古い写真でテリーとモナが夫婦だったことを知り、ショックを受けて部屋へ閉じこもってしまった。何をやっても上手くいかないと落ち込んでしまうテリー。なにか自分に出来ることはないかと考えたモナは、ルブレックのオフィスへ乗り込んでコンテストへの出場を直談判しようとする。しかし、ルブレックはなかなか首を縦に振らないばかりか、警察に頼んでテリーたちの身柄を拘束して国外退去させようとしていた。そこで、隙を見たモナは警察の手配書に細工を施し、パドリンスキーとマイクを逮捕させてしまった。
 大急ぎで宿屋へと戻り、仲間たちを集めてコンテストの会場へと向かうモナ。テリーとデューキーも駆けつけた。しかしその頃、パドリンスキーたちを移送していた警察は誤認逮捕であることに気づき、やはりコンテスト会場へと急いでいた。果たして、“クラブ・バレー”の面々は無事にコンテストへ出場を果たし、優勝することが出来るのだろうか…?

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パドリンスキー(C・ボウワ)がパリへとやって来る

テリーとモナが元夫婦だと知ってショックを受けるケイ

仲間を助けるためにモナは一計を案じる

モナの策略で逮捕されてしまったパドリンスキー

 ドラマ・パートの演出を担当したのは、『泥酔夢』でもバークレイと組んだ職人監督レイ・エンライト。ルブレックを狙うはずのマイクが間違ってレオーニを襲ってしまうまでの下りはなかなかテンポが良くて面白く出来ているのだが、それ以外に関しては脚本が薄っぺらいこともあって、いまひとつパッとしない。
 で、その脚本なのだが、『四十二番街』や『ゴールド・ディガーズ』のジェームズ・シーモアと『ストーミー・ウェザー』('43)のジェリー・ホーウィンによるアイディアを基に、『大学祭り』や『映都万華鏡』でも組んだジェリー・ウォルド、リチャード・マコウレイ、モーリス・レオが原案を作成。『ドクターX』('32)や『暗黒王マルコ』('38)のアール・ボールドウィンと『踊る三十七年』のウォーレン・ダフが脚本として仕上げている。
 撮影監督は『四十二番街』以来のソール・ポリートが手掛け、ミュージカル・シーンのみバークレイ御用達のジョージ・バーンズが担当。美術デザインには『映都万華鏡』に引き続いてロバート・A・ハースが参加しているものの、女優陣のドレスはクチュール・デザイナーとしても知られるハワード・シュープが担当した。そして、ミュージカル・ナンバーの作詞・作曲にはアル・ダービン&ハリー・ウォーレンの名コンビが久々に復活。中でも“Latin Quarter”はその後も様々なワーナー作品で引用されている名曲だ。
 ちなみに、本作の企画があがる前にちょっとしたトラブルがあったという。一連のゴールド・ディガーズ・シリーズの人気に目を付けた弱小映画会社マジェスティックが、“Gold Diggers of Paris”という柳の下のドジョウを狙ったミュージカル映画を作ろうとしたのだ。そのことを知ったワーナーはすぐさま法的手段に訴え、このニセモノ映画の製作を阻止した。そして、自らの新作映画のタイトルを“Gold Diggers in Paris”とし、ニセモノのバレエ団を巡るドタバタ劇にしたというわけだ。

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いよいよコンテストの幕が開く

フランスだけにラインダンスはお約束?

ザ・シュニッケルフリッツ・バンドによるコミカルな演奏

パリの街角をイメージした群衆ダンス

 ワーナー・ミュージカルの看板でもあったディック・パウエルに代わって主人公のテリー役を演じたのは、ソフトな甘い声でラブソングを歌う男性歌手、いわゆるクルーナーの元祖として有名な大物スター、ルディー・ヴァリー。その相手役には『映都万華鏡』に引き続いて登板のローズマリー・レインが扮している。
 テリーの相棒デューキー役には、『四十二番街』にも出ていた性格俳優アレン・ジェンキンス。当時のハリウッドでは共演する役者の演技を食ってしまうことでも知られた名脇役だ。また、インディアン嫌いなフランス人ジロー役を演じるヒュー・ハーバートも相変わらずの上手さ。この2人の演技と存在感があまりにも強烈過ぎて、すっかり主演のヴァリーやレインのお株を奪ってしまったような感じだ。
 そのほか、“They Won't Forget”('37)でクロード・レインズの相手役を演じて脚光を浴びたグロリア・ディクソン、ワーナー作品の憎まれ役担当だったメルヴィル・クーパー、アクの強い独特の芸風でアメリカ人に親しまれた喜劇俳優フリッツ・フェルド、『映都万華鏡』に引き続いてのメイベル・トッドなどが共演。また、80年以上に及ぶ俳優人生で『カサブランカ』('43)や『ベルリン天使の詩』('87)などの名作に脇役として出演し続けた名優クルト・ボウワが、エキセントリックでナルシスティックなパドリンスキー役を演じて強い印象を残す。

 

 

バスビー・バークリーの集まれ!仲間たち
The Gang's All Here (1943)
日本では劇場未公開・衛星放送のみ
VHS・DVD共に未発売

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(P)2008 20th Century Fox (USA)
画質★★★★★ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/ステレオ・モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/103分/製作:アメリカ

特典映像
バークレイ監督ドキュメンタリー
アリス・フェイ遺作“We Still Are”
アリス・フェイ出演テレビ番組
未公開シーン
オリジナル劇場予告編
スチル・ギャラリー
映画研究者D・キャスパー教授の音声解説
監督:バスビー・バークレイ
製作:ウィリアム・ル・バロン
原案:ナンシー・ウィントナー
   ジョージ・ルート・ジュニア
   トム・ブリッジス
脚本:ウォルター・ブロック
撮影:エドワード・クロンジャガー
作詞:レオ・ロビン
作曲:ハリー・ウォーレン
出演:アリス・フェイ
   カルメン・ミランダ
   フィル・ベイカー
   ベニー・グッドマン
   ユージン・パレット
   シャーロット・グリーンウッド
   エドワード・エヴェレット・ホートン
   トニー・デ・マルコ
   ジェームズ・エリソン
   シーラ・ライアン
   デイヴ・ウィロック

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大盛況の“クラブ・ニューヨーカー”

経営者フィル(P・ベイカー)と談笑するアンディ(J・エリソン)

女性歌手イーディ(A・フェイ)に一目惚れする

派手なステージで人気の歌手ドリータ(C・ミランダ)

 ワーナーを離れてからのバスビー・バークレイ作品でベストを選ぶとすれば、間違いなくこれだろう。なんといっても、あらゆる既成概念を取り払った自由奔放なミュージカル演出を、バークレイにとっては初めてとなる3色法のテクニカラーにて楽しませてくれるのだから。その奇想天外なアイディアは、ワーナーミュージカル全盛期を彷彿とさせるくらいに冴えわたる。中でも底抜けに明るくて奇抜なカルメン・ミランダのミュージカル・パートは最高。時代が時代なだけに、随所で戦時プロパガンダの匂いがするのは否めないところだが、そんなこともすっかり忘れてしまうくらいに愉快な作品に仕上がっている。
 主人公は従軍を控えた若者アンディ。彼にはヴィヴィアンという幼馴染のフィアンセがいるのだが、ある晩ナイトクラブで知り合った女性歌手イーディに一目惚れしてしまう。ケイシーという偽名でイーディと親しくなり、お互いに深く愛し合うようになったアンディ。やがて彼は太平洋戦争へと出征し、英雄となって祖国へ帰って来る。父親は息子の凱旋帰国を祝うためにチャリティ・ショーを企画し、ナイトクラブの芸人たちを自宅へ招いた。そこでイーディはヴィヴィアンと知り合い、お互いに同じ男性を愛していることに気付かないまま親しくなる。だが、ヴィヴィアンの部屋にある写真を見て、イーディはそのことを悟ってしまった。なんとか誤解を解こうとするアンディだったが…。
 という、非常に単純でひねりのないお話なわけだが、もちろん本作の場合におけるストーリーというのは大して重要な要素ではない。あくまでも、歌やダンスを盛り込むための口実みたいなもの。といいつつ、ユージン・パレットやエドワード・エヴェレット・ホートン、シャーロット・グリーンといった一流の名脇役たちによるアンサンブル演技は実に賑やかで楽しいし、随所に散りばめられたナンセンスなギャグもなかなか痛快だ。
 中でも、歌にダンスに演技にとパワフルな活躍を披露するカルメン・ミランダは絶品。ラテン人種ならではのアグレッシブな演技で見事なコメディエンヌぶりを発揮している。ヒロイン役のアリス・フェイも当時既に若くはないとはいえ、その魅惑的な低音ボーカルでしっとりとした抒情感を醸し出し、陽気で元気なミランダと上手いぐらいに対照的なバランスを生み出している。ベニー・グッドマン楽団による演奏も聴き応え十分だし、伝説的なダンサー、トニー・デ・マルコとシーラ・ライアンによる幻想的なダンス・シーンにも目を奪われる。そう考えると、曲がりなりにも主人公役を演じているジェームズ・エリソンが一番地味で目立たないという印象だ。
 そして、バスビー・バークレイの自由奔放なアイディアをこれでもかと盛り込んだミュージカル・シーンの素晴らしさ。中でも、カルメン・ミランダをメインにした“The Lady in the Trutti Frutti Hat”は最大の見所だ。彼女のトレードマークにもなったフルーツ盛り合わせの帽子や衣装の奇抜さもさることながら、巨大なバナナを抱えたコーラスガールたちによる群衆ダンスが実にシュール。アッと驚くスペクタクルなクライマックスにも思わずニンマリさせられる。アメリカではドラッグクィーン・ショーの定番として真似されているそうだが、なるほど、このビザールなセンスはクイアーな人々の琴線に引っかかること間違いなしだろう。ちなみに、コーラスガールたちが巨大なバナナを持つシーンは猥褻なイメージを連想させるということから、バナナを腰から下に降ろしてはいけないという条件付きで撮影が許可されたという。
 なお、本作は2007年に初めてアメリカでDVD化されたものの、フィルムの経年退色や傷がそのままだったことからユーザーのクレームが殺到した。発売元の20世紀フォックスは、翌年に改めて修復されたフィルムを基にリマスター盤DVDを再リリース。DVD購入を検討の際は発売年に注意してほしい。

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巨大なバナナを使ったシュールな群衆ダンス

バークレイ・ショットも健在

なんともスペクタクル(?)なクライマックス

アンディの猛アタックに心揺れるイーディ

 ニューヨークで人気のナイトクラブ“クラブ・ニューヨーカー”は今日も大盛況。サンバのリズムに乗って歌い踊る看板スター、ドリータ(カルメン・ミランダ)のド派手なショーや、全米にその名を轟かせるトニー・デ・マルコ(本人)の華麗なダンスが人気の秘密だ。親友であるオーナーのフィル・ベイカー(本人)と談笑していた兵士アンディ・メイソン(ジェームズ・エリソン)は、客の中に意外な二人組を発見する。会社経営者である父親メイソン氏(ユージン・パレット)とそのパートナー、ポッター氏(エドワード・エヴェレット・ホートン)だ。気風のいいメイソン氏は夜遊びにも慣れているが、潔癖症で堅物のポッター氏は生まれて初めて足を踏み入れるナイトクラブに怯えた様子。こんな汚らわしい場所から一刻も早く逃げ出したいというわけだ。そんなポッター氏をからかってみせるアンディだが、実はそのポッター氏の娘ヴィヴィアン(シーラ・ライアン)と婚約中。とはいえ、幼い頃から気心の知れた相手ゆえに、本人たちは特に恋愛感情があるわけではなかった。
 そうした中、アンディは一人の女性に心を奪われる。最近雇われたばかりだという女性歌手イーディ(アリス・フェイ)だ。すっかり彼女に夢中になってしまったアンディは、イーディがボランティアで参加しているブロードウェイ・キャンティーンに顔をだし、それとなく偶然を装って接近。とりあえずヴィヴィアンに対する引け目もあってか、アンディ・ケイシーという偽名を名乗った。
 当初は社交辞令的に相手をしていたイーディだったが、やがてアンディの熱意に心が揺らいでいく。だが、これまで恋愛で本気になって後悔したことしかない彼女は、アンディに心を開いて良いものかどうか迷っていた。“クラブ・ニューヨーカー”でのステージも終え、自宅までの夜道をアンディに送ってもらうイーディ。いつしか2人の心の距離は急接近をしていた。
 やがて、アンディは太平洋戦争へと出征する。涙ながらに駅で見送るイーディ。それからしばらくして、戦場での功績を讃えられて勲章を授与されたアンディがニューヨークへ帰って来ることとなる。息子の凱旋帰国を喜んだメイソン氏はチャリティー・ショーを企画。最初はクラブ・ニューヨーカーでの貸切りパーティを考えたのだが、あいにく店は改装のため閉店していた。そこで、彼はフィルに直談判し、クラブ・ニューヨーカーの芸人たちを自宅へ招くことにする。とりあえずリハーサルはメイソン家で行い、チャリティー・ショーは隣家のポッター家で開催することに。ポッター家の庭の構造がショーの上演に最適だからだ。もちろん、ポッター氏は大反対。芸能関係者なんぞを自宅に入れるなんてもってのほかだと嫌がるが、押しの強いメイソン氏には到底敵わなかった。
 そのチャリティー・ショーに出演することとなったイーディは、すぐにヴィヴィアンと意気投合する。お互いの恋人のことなども話し合う仲になるが、本人たちはそれが同一人物であるということに気付いていなかった。ひとまずリハーサルは順調に進行。実はポッター夫人(シャーロット・グリーンウッド)はかつて大変有名なダンサーだった女性で、フィルとコンビを組んでパリ社交界にも名を馳せたスターだった。だが、その事実を知っているのは夫のポッター氏だけ。彼は邪悪な芸能界から妻を救ってあげたのだと勘違いしている。しかし、ポッター夫人の才能は娘のヴィヴィアンが確実に受け継いでいるようで、ヴィヴィアンはトニー・デ・マルコのパートナーとしてショーへ出演することになった。
 そんなある時、ドリータはヴィヴィアンの部屋でアンディの写真を発見してしまう。イーディを傷つけてはいけないと考えた彼女は、こっそりとその写真を隠してしまった。だが、結局はイーディに見つかってしまい、アンディがヴィヴィアンのフィアンセだと知ったイーディは大変なショックを受ける。そんなところへアンディが自宅に戻って来た。イーディとヴィヴィアンが一緒にいることを知ったアンディは慌てる。メイソン氏はすぐに事情を察知し、本意ではないにせよ二股をかけてしまった息子のことを強く戒めた。
 もちろん、アンディが本当に愛しているのはイーディ。しかし、何も知らないヴィヴィアンを傷つけるのもためらわれる。父親の後押しでイーディに事情を説明しようとしたアンディだったが、彼女の失望と悲しみはあまりにも大きすぎた。そうこうしているうちにチャリティ・ショーは開幕。果たして、アンディはイーディと結ばれることが出来るのだろうか…?

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アンディにはヴィヴィアン(S・ライアン)という許婚がいた

涙ながらに出征するアンディを見送るイーディ

メイソン氏(E・パレット)は息子のためにショーを企画

ポッター夫人(C・グリーンウッド)とフィルは旧知の仲

 もともとは“Girls He Left Behind”というタイトルで製作がスタートした本作。バスビー・バークレイは当時まだMGMと契約していたものの、ジュディ・ガーランドと喧嘩したために『ガール・クレイジー』の演出を降板させられてしまい、人件費がもったいないからという理由で20世紀フォックスに無料で貸し出されたのだという。つまり、形としてはMGMが彼のギャラを肩代わりしたというわけなのだが、おかげでフォックスからの横槍などがほとんどなく、バークレイは自由に撮影を進めることができたのだそうだ。ただし、例の巨大なバナナに関しては検閲で引っかかるという理由から、コーラスガールたちの腰から下に降ろしてはいけないというお達しが出たのだが。
 ナンシー・ウィントナー、ジョージ・ルート・ジュニア、トム・ブリッジスの書いた原案を脚色したのは、シャーリー・テンプル主演の『天晴れテムプル』('38)や『テンプルちゃんの小公女』('39)を手掛けたウォルター・ブロック。ミュージカル映画の作詞家としても知られる人物だ。
 撮影監督を担当したのは、エルンスト・ルビッチ監督の傑作『天国は待ってくれる』('43)などのテクニカラー作品でアカデミー賞にノミネートされたエドワード・クロンジャガー。さらに、『オクラホマ!』('55)や『野郎どもと女たち』('55)のジョセフ・C・ライト、『エデンの東』(’55)のジェームズ・バセーヴィ、『アンナとシャム王』('46)や『キリマンジャロの雪』('52)のトーマス・リトルが美術デザイン及びセット・デザインを担当し、アカデミー賞最優秀美術デザイン/インテリア装飾のカラー部門賞にノミネートされている。
 そして、オリジナル・ミュージカル・ナンバーの作曲を手掛けたのは、バークレイとは『四十二番街』以来の付き合いとなるハリー・ウォーレン。もともと「チャナヌーガ・チュー・チュー」などでもコンビを組んだマック・ゴードンが作詞を手掛ける予定だったが、最終的には『紳士は金髪がお好き』などで知られるレオ・ロビンが担当することとなった。他にも、シナトラやザビエ・クガートらのレコーディングで有名なサンバの名曲「Brazil」などが使用されている。

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堅物のポッター氏(E・E・ホートン)もドリータにメロメロ?

同じ男性を愛していると知らないイーディとヴィヴィアン

息子にけじめをつけるよう忠告するメイソン氏

イーディに事情を説明しようとするアンディだったが…

 ヒロインのイーディ役を演じているのは、『シカゴ』('37)や『世紀の楽団』('38)など、タイロン・パワーとのコンビで有名なミュージカル女優アリス・フェイ。日本では劇場公開作の少ない人だが、戦前・戦中のアメリカでは大変な人気を誇っていた。撮影当時は妊娠中だったことから、本作では激しい動きを必要としないバラード・ナンバーで歌声を披露している。低音の落ち着いた、それでいてどこか妖艶な歌声が大変魅力的だ。
 気が強くてお節介なブラジル人女性歌手ドリータ役には、そのド派手なコスチュームとパワフルな歌声、陽気なキャラクターで全米を熱狂させた“ブラジルの爆弾娘”ことカルメン・ミランダ。ストーリーの本筋にはほとんど絡んでこない役柄であるにも関わらず、目玉となるミュージカル・シーンの殆どで彼女がメインを務めており、ほぼ主演と呼んでもいいような扱いだと言えよう。コメディエンヌとしても堂々とした演技を披露しており、実に芸達者である。
 で、彼女たちが勤める“クラブ・ニューヨーカー”のオーナーを演じているのが、当時ラジオの音楽番組の司会としても人気を集めていたエンターテイナー、フィル・ベイカー。本作では本人役としての出演だ。また、ベニー・グッドマンも本人役で自らの楽団と共に出演しており、ミュージカル・シーンではソフトな歌声も披露している。さらに、当時アメリカで大変な人気だった男性ダンサー、トニー・デ・マルコも本人役で登場。ダンスのみならずコミカルな演技にも挑戦している。
 そんな当時のハリウッド・ショービズ界を代表する大物スターたちを脇で支えるのが、これまたハリウッド映画黄金期を語る上で欠かせない個性的な名優たち。アンディの父親メイソン氏には、その迫力ある巨体とギョロ目、ダミ声の強烈なインパクトを武器に、『上海特急』('32)や『襤褸と宝石』('36)、『オーケストラの少女』('37)、『スミス都へ行く』('39)など数多くの名作に出演したユージン・パレット。共同経営者であるポッター氏には、アステア&ロジャースのミュージカル映画やエルンスト・ルビッチ作品の常連として活躍し、小心者のインテリを演じさせたら天下一品だったエドワード・エヴェレット・ホートン。その妻ポッター夫人役には、ブロードウェイのミュージカル女優として一世を風靡し、『オクラホマ!』('55)にも顔を出していたシャーロット・グリーンウッド。そして、アンディの親友ケイシー役には、ベティ・グレイブル主演の『ピンナップ・ガール』('44)など、当時の20世紀フォックス作品で陽気な若者役を数多く演じていたデイヴ・ウィロックが扮している。
 そして、ストーリー上の主人公である若者アンディ役を演じているのは、B級西部劇やロマンティック・コメディで活躍した俳優ジェームズ・エリソン。すっかり存在感が霞んでしまっているという印象だが、これだけの豪華なスターに囲まれていてはそれも致し方なかろう。その点では、アンディのフィアンセであるヴィヴィアン役を演じたシーラ・ライアンは、出番の少ない役柄であるにも関わらず、強い印象を残している。特に、トニー・デ・マルコとの共演で披露する華麗なダンスはなかなか良かった。本作以外ではフィルムノワールの隠れた名作『偽証』('47)のヒロイン役くらいしか代表作のない女優さんだが、もっとミュージカルの分野で活躍しても良かったのではないだろうか。
 そのほか、『ドリー・シスターズ』('45)や『虹の女王』('47)などのミュージカル映画に主演したジューン・ヘイヴァー、『ステート・フェア』('45)のヒロイン役で一躍スターダムにのし上がるジーン・クレインが、コーラスガールとしてチラリと顔を見せている。

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誤解の解けぬままチャリティ・ショーが始まる

ソフトな歌声を披露するベニー・グッドマン

癒えない心の傷を歌に託すイーディ

トニー・デ・マルコと華麗なダンスを披露するヴィヴィアン

 

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