ミュージカル映画の魔術師
バスビー・バークレイ Busby Berkeley

 

BUSBY-1.JPG

 

 ハリウッド・ミュージカルに革命を巻き起こした伝説的な演出家兼振付師バスビー・バークレイ。それまでの平坦で演劇的なミュージカル演出から完全に脱却し、映画ならではの表現方法を用いた自由奔放な演出で一時代を築いたパイオニアだ。現実とファンタジーが巧みに混ざり合う摩訶不思議な世界観、数えきれないほどのダンサーやコーラスガールを動員した群衆ダンスの迫力、軍隊のマスゲームを応用した幾何学的で万華鏡のような振り付け、奇抜なデザインと独創的な仕掛けが施された巨大で豪華絢爛な美術セット、あらゆる角度から被写体を捉えて縦横無尽に駆け巡るカメラワーク。その斬新な発想と巧みな職人技は、今なお色褪せることはない。
 …とは言ってみたものの、実際のところ、以降のハリウッド・ミュージカルの大半がバークレイの映像スタイルを多かれ少なかれ模倣しており、なおかつ時代が下るにつれて撮影技術そのものも洗練され進化しているため、当時ほどの衝撃や驚きはもはや望むべくもないだろう。しかし、彼がいなければその後のMGMミュージカルも存在し得なかっただろうし、現在まで脈々と受け継がれるハリウッド・ミュージカルの伝統も全く違ったものになっていたであろうことは疑うべくもない。まだまだ移動撮影の技術すらおぼつかなかった時代だということを考えれば、おのずとバークレイ作品の時代を先駆けた革新性というものも理解できるのではないだろうか。

 1895年11月29日、ロサンゼルスに生まれたバークレイは、父親が舞台演出家で母親が舞台女優だった。彼自身も5歳の頃から母親と共に舞台に立っていたという。やがて若くして第一次大戦に従軍した彼は、パレードの指揮や慰安公演の演出などを任され、そこで軍隊特有のマスゲームに魅了されることとなる。
 除隊後はその経験を生かし、俳優としてのみならず助監督としても小さな劇団の舞台に携わるようになったバークレイ。ある時、ミュージカルの演出を任されることになった彼は、これこそ自分の天職だと悟るに至ったという。これをきっかけにミュージカルの本場ブロードウェイを目指した彼は、ダンサーとしての経験も振付師としての実績も全くないにも関わらず、僅か数年のうちにブロードウェイでも指折りのダンス演出家へと登りつめるのだった。
 そんな彼をハリウッドへと呼び寄せたのが、人気コメディアンのエディー・カンター。バークレイの仕事を高く評価していたカンターは、自身の主演するミュージカル映画“Whoopee!”('30)のダンス監督に彼を推薦したのだ。そして、この作品でバークレイはハリウッド・ミュージカルに最初の革命をもたらす。というのも、当時のダンス監督というのは文字通りダンス・シーンの現場監督だけに仕事が限られており、実際の撮影そのものは作品全体を演出する映画監督が実権を握っていた。これを不満に感じたバークレイは製作者サミュエル・ゴールドウィンを説得し、ダンス・シーンのカメラ演出も自ら手掛けることにしたのである。
 かくして映画界へと身を転じたバークレイだったが、運の悪いことに当時のハリウッド・ミュージカルは第一次ブームにおける粗製乱造が災いし、あっという間に低迷期を迎えてしまった。しかし、ブロードウェイへ戻ろうかどうしようか悩んでいた彼に大きな転機が訪れる。ワーナー・ブラザーズ製作のミュージカル映画『四十二番街』('33)のミュージカル演出を任されたのだ。この作品でバークレイは、従来のミュージカル映画の型にはまらない大胆かつ自由奔放な演出を披露。これが大変な評判となり、たちまちミュージカル映画人気が再燃することとなったのである。特に被写体を真上から見下ろす撮影方法は“バークレイ・ショット”と呼ばれ、他社のミュージカル映画でも頻繁に模倣されることとなった。
 ここから数年がバスビー・バークレイの全盛期と言えよう。当時のワーナーは他のメジャー・スタジオに比べると予算こそ大幅に抑えられていたものの、その代わり金銭的なリスクが少ないことから革新的な試みには極めて寛大だった。リアルな暴力描写や性描写を売りにしたギャング映画などがいい例であろう。そのおかげで、バークレイはスタジオ側からの横槍もなく思いのままに演出することが許され、大胆かつ独創的なミュージカル・シーンの数々を生み出していく。
 そう、ここで忘れてならないのは、バスビー・バークレイはあくまでもミュージカル・シーンの振り付けや演出、撮影を担当するミュージカル監督であり、作品全体をまとめる役割としての映画監督ではなかったということだ。中には彼自身が監督としてクレジットされている作品もあったが、ほとんどの場合は別に映画監督が存在したのである。にも関わらず、『四十二番街』をはじめ『ゴールド・ディガーズ』('33)や『フットライト・パレード』('33)などの代表作は、いずれも“バスビー・バークレイの映画”としてファンの記憶に刻まれている。それほどまでに、彼の手掛けたミュージカル・シーンは見る者に強烈なインパクトを与えたのだ。

 

BUSBY-2.JPG

 

 しかし、'30年代末になると再びミュージカル映画人気は下火となる。ジョン・ガーフィールド主演の犯罪映画“They Made Me A Criminal”('39)で初めてドラマ演出にチャレンジしたバークレイだったが、結局大した成果を残すことが出来なかったことから、自らの一時代を築いたワーナー・ブラザーズを去ることになったのである。
 そんなバークレイを新たに迎え入れたのは、他でもない後にミュージカル映画黄金時代を築くことになる映画会社MGM。ジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニーという当時ハリウッドで最も人気のあった若手アイドルを主演に、『青春一座』('39)や『ストライク・アップ・ザ・バンド』('40)などの青春ミュージカルを手掛けた。しかし、あくまでも映画の看板は主役の2人。十八番のバークレイ・スタイルは必ずしも求められていなかったのである。
 その上、監督の演出にも口を出すジュディ・ガーランドと揉めてしまい、『ガール・クレイジー』('43)の演出を降板させられる羽目に。かくして、たったの4年でバークレイはMGMをクビになってしまった。ただ、“For Me And My Gal”('42)で当時まだ新人だったジーン・ケリーを指導し、彼に多大な影響を与えたのはこの時代の重要な成果だったと言えるかもしれない。
 次に20世紀フォックスへと移ったバークレイ。カルメン・ミランダの強烈なミュージカル・シーンが印象に残る『バスビー・バークリーの集まれ!仲間たち』('43)で往時を偲ばせる大胆な演出を披露したものの、その後は精彩を欠くようになってしまい、ジーン・ケリーが振り付けを担当した『私を野球につれてって』('49)を最後にフォックスを去ることとなった。
 時代はMGMミュージカルの全盛期。バークレイも『アニーよ銃をとれ!』の撮影に駆り出されたが、結局彼の手掛けたシーンは編集でカットされてしまった。また、エスター・ウィリアムズ主演の水中ミュージカル『百萬弗の人魚』('52)ではフィナーレのミュージカル演出に携わったものの、もはや往年の独創性は失われてしまっていた。'50年代半ばには仕事も全くなくなってしまい、やがてバスビー・バークレイの名前は人々の記憶から忘れ去られてしまう。
 しかし、'60年代末にワーナー時代の作品が当時を知らない若い映画ファンの間で人気を呼ぶようになり、ちょっとしたリバイバル・ブームとなる。これがきっかけとなり、バークレイは'71年にブロードウェイでリバイバル上演されたミュージカル“No No Nanette”の演出を担当。しかも、主演は一連のワーナー作品で組んだ往年のミュージカル女優ルビー・キーラ―だ。同作はトニー賞で4部門を獲得し、興行的にも大成功を収めた。
 そして1976年3月14日、カリフォルニアのパーム・スプリングスで余生を送っていたバークレイは、老衰のため80歳でこの世を去っている。

 それでは、バスビー・バークレーの演出は何が特別だったのか?何か当時の他のミュージカル監督と違っていたのか?というのは、なかなか言葉だけでは表現しづらい。少なくともはっきり言えるのは、彼の創造するミュージカルの世界は映画の中でしか再現することができない、ということだろうか。
 まず知っておいて頂きたいのが、当時のミュージカル映画というのは今と違って、ドラマ部分とミュージカル部分がはっきりと区別されていたということ。つまり、登場人物がドラマの最中にいきなり歌いだすなんてことは、当時は基本的にあり得なかったのである。ではどうやって区別していたのかというと、多くの場合、登場人物を女優や歌手、演出家などの芸能関係者に設定し、演劇業界を舞台にした人間模様や恋愛模様などを描きながら、彼らの出演する歌ありダンスありのレビューショーをミュージカルとして見せていた。つまり、劇中劇としてミュージカル・シーンが処理されていたのだ。
 そしてバークレイの手掛けた作品群も、やはりこの基本的なルールを踏襲している。しかし、彼が数多のミュージカル監督と決定的に違っていたのは、この劇中劇として描かれるステージの向う側に全く別の異空間を用意していたということだろう。つまり、舞台の上で繰り広げられているはずのパフォーマンスを、現実のあらゆる法則を無視した異次元の世界にて展開させたのである。
 そこで、幾つかの代表的な例を本編のサンプル画像と共に紹介してみようと思う。

SHADOW_WALTZ-1.JPG SHADOW_WALTZ-2.JPG SHADOW_WALTZ-3.JPG SHADOW_WALTZ-4.JPG

バイオリンを奏でながら舞い踊るコーラスガールたち

暗闇の中でバイオリンだけが光を放つ

マスゲームによって無数のバイオリンが巨大なバイオリンを形成

ガラス張りの床を活用した幻想的なシーン

 これは『ゴールド・ディガーズ』('33)のワン・シーン。大胆に曲線を描いた巨大な階段セットがサウンドステージに用意され、お揃いの白いドレスを着用したコーラスガールたちがバイオリンを奏でながら舞い踊っている。その全体像を大きく捉える一方、クレーン撮影によってカメラがセットの周囲をぐるりとなめたり、セットの中を突き抜けて行ったりするのだ。
 もともと群衆ダンスはバークレイの十八番だったわけだが、中でも特に好んだのは大勢のコーラスガールを使うこと。その必須条件は容姿端麗とスマートなスタイルだ。彼の振り付けは全体のビジュアル的な統一性を最重視したため、各ダンサーの技術力や身体能力はあまり必要されなかった。そもそも、歌やダンスが上手いのは主演スターだけで十分。しかも、映画ならではのクロースアップやバストショットを織り交ぜることが多かったため、おのずとダンサーには美しい容姿の方が求められたのである。
 で、その振り付けなのだが、基本的には軍隊やスポーツのマスゲームを応用したものが多い。ここでも、暗闇の中で光り輝くバイオリンを各ダンサーに持たせ、様々な幾何学的模様を描きながら、最終的には巨大なバイオリンを形成させている。そして、それをスタジオの天井に設置した専用のカメラで真上から撮影することで、舞台では決して再現することの出来ない大がかりな群衆ダンスを見せてくれるというわけだ。
 また、鏡を多用した万華鏡のような映像というのもバークレイ作品の特徴の一つ。ここでも鏡張りの床で舞い踊るコーラスガールたちの姿を、カメラを横に寝かせながら撮影することで、驚くほどドリーミーで美しい映像を作り上げている。

FORGOTTEN_MAN-1.JPG FORGOTTEN_MAN-2.JPG FORGOTTEN_MAN-3.JPG FORGOTTEN_MAN-4.JPG

雨の降りしきる戦場を行進する兵士たち

配給の列に並ぶ失業者たち

アメリカ社会を底辺から支える名もなき人々

大恐慌を生きる庶民の心を代弁したミュージカル・シーン

 こちらは『ゴールド・ディガーズ』の最後を飾るミュージカル“Remember My Forgotten Man”の印象的なクライマックス。もともとバークレイの手掛けるミュージカル・シーンはストーリー的に本編から独立したものばかりだったわけだが、その中に独自のメッセージを持たせるというケースも少なくなかった。この『ゴールド・ディガーズ』という映画は、不況で仕事にあぶれた舞台関係者のサクセス・ストーリーを通して、大恐慌時代に生きるアメリカ庶民に勇気と希望を与えようとした作品。バークレーはその核となるテーマを活かし、アメリカ社会を底辺から支える名もなき庶民の苦悩と魂の叫びを、劇中劇の短編ミュージカルとしてまとめ上げたのである。
 実は、バークレイの演出はファシズムや社会主義を想起させると言われることが少なくない。確かに、群衆の一糸乱れぬ動作を象徴的に捉えたダンス・シーンは、レニ・リーフェンシュタールの『意志の勝利』('35)や『オリンピア』('38)を彷彿とさせるものがあるし、幾何学模様を駆使した美術セットや映像効果などは当時のロシアン・アバンギャルドと相通ずるものがあるようにも見える。特に、このミュージカル・ナンバーなどは、そのテーマだけでなくモダニズム的なセット・デザインも含めて、まさしくソビエトのプロパガンダ映画と見まごうばかりの出来栄えだ。

BY_WATERFALL-1.JPG BY_WATERFALL-2.JPG BY_WATERFALL-3.JPG BY_WATERFALL-4.JPG

水着美女のクロースアップから徐々にカメラが引いていく

次第に高くなっていく巨大な人間噴水タワー

タワーの真上から捉えた万華鏡のようなダンス・シーン

辺り一面の噴水が湧きあがる派手なクライマックス

 『フットライト・パレード』('33)に登場するミュージカル“By A Waterfall”の壮大なエンディング・シーン。この圧倒的なスペクタクルこそが、バークレイ作品の真骨頂だと言えるだろう。中でも、人間噴水タワーを真上からカメラで捉えながら、コーラスガールたちの整然とした脚の動きによって万華鏡のごときファンタジックな世界を創出した映像は見事。この“万華鏡”的世界観というのが彼の最も重要なトレードマークだ。
 このナンバーでは他にも、プールの中で繰り広げられるコーラスガールたちの華麗な舞いを様々な角度から水中カメラで捉えたダンス・シーンもあり、後のMGMミュージカルにおけるエスター・ウィリアムズ主演の水中ミュージカルを先駆けた作品だったとも言えるだろう。

WEB_OF_DREAMS-1.JPG WEB_OF_DREAMS-2.JPG WEB_OF_DREAMS-3.JPG WEB_OF_DREAMS-4.JPG

仕事中に居眠りをしてしまうお針子

床に落ちた羽毛が風に飛ばされていく

その羽毛をそっと捉える女性の指先

いつの間にか、そこは夢の世界

WEB_OF_DREAMS-5.JPG WEB_OF_DREAMS-6.JPG WEB_OF_DREAMS-7.JPG WEB_OF_DREAMS-8.JPG

巨大な羽毛の扇子を手にした女性たちの舞いを下から捉える

それを上から見るとこんな感じ

羽毛の花びらが開いたり閉じたり

その真ん中から美しい女性が生まれる

 『流行の王様』('34)に登場するミュージカル・ナンバー“Spin A Little Web Of Dreams”から、印象的なシーンを2つ。まずは上段が導入部分。バークレイ作品はシーンからシーンへの繋ぎというのが実に巧みなことで知られているが、ここでもお針子が仕立てているガウンの羽毛を上手いこと次のシーンへの橋渡し役として活用している。同じ年に作られた『泥酔夢』('34)でも、化粧用のパウダー・パフや香水の霧などが繋ぎの小道具として使われていた。その洒落たセンスがバークレイ作品ならではの魅力とも言えよう。
 また、彼は被写体を上からも下からも映すことで、その統制された群衆ダンスの魅力を余すことなくカメラに収めた。下段で例に挙げたシーンは、それを見事に応用した華麗で幻想的な舞い。他にも、このナンバーでは羽毛を手にしたコーラスガールたちが組体操によって海原を進む船舶を再現するシーンなどもあり、それはそれは見応えのある素晴らしい作品に仕上がっている。

EYES_FOR_YOU-1.JPG EYES_FOR_YOU-2.JPG EYES_FOR_YOU-3.JPG EYES_FOR_YOU-4.JPG

フレームの前に立つ主演女優ルビー・キーラ―

その下には無数のルビー・キーラ―たちが

椅子が消えて一列に並ぶルビー・キーラ―たち

それが手鏡となって、ルビー・キーラ―の手に収まる

 『泥酔夢』('34)の中でも特に印象的なナンバー“I Only Have Eyes For You”のワン・シーン。このナンバー自体、主演女優ルビー・キーラ―のクローン美女が大勢出てきてダンスを繰り広げるという、非常にシュールな内容のものだった。中でもこのシーンは、ルビー・キーラ―の集団がやがて手鏡へと変身し、それを当のキーラ―自身が手に取るという、まことにけったいなもの。よく意味は分からないけどなんだか凄い、というのもバークレイ作品の面白さだと言えよう。

GANGS-1.JPG GANGS-2.JPG GANGS-3.JPG GANGS-4.JPG

暗闇に浮かぶ巨大な手首と袖飾り

袖飾りの中から光の輪が次々と飛び出す

ぐんぐんと伸びる光の輪の列をカメラが追っていく

カメラがぐるっと回り込むと、光の輪は階段のような形に

GANGS-5.JPG GANGS-6.JPG GANGS-7.JPG GANGS-8.JPG

カメラはさらに光の輪の列の下へと移動する

すると、そこには無数の女性ダンサーたちが

スッと降りてきた光の輪をつかむダンサーたち

そこからさらに群衆ダンスが始まる

 そして、これが『バスビー・バークリーの集まれ!仲間たち』('43)のエンディングを飾るナンバー“The Polka-Dot Polka”からの、実にシュールで近未来的なワン・シーン。もともとこのシーンの前には主演女優アリス・フェイと子供たちによるコミカルなポルカ・シーンがあり、ここではそこで使われた衣装の袖飾りをモチーフにしたファンタジックな映像を楽しませてくれるのだが、とにかく発想のぶっ飛び方が尋常ではない。しかも、この色彩のセンス、そして衣装デザインのセンス。ほとんどサイバーパンクの世界である。第二次世界大戦の真っただ中に、これほどモダンで斬新な映像が作られていたという事実だけでも、十分驚きと称賛に値するはずだ。やっぱりバスビー・バークレイは凄い。

 ということで、駆け足でバスビー・バークレイ作品の魅力を紹介してみたわけだが、やはり実際に動く映像を見なければそも面白さも凄さもなかなか伝わらないだろう。残念ながら今のところ日本でDVDソフトとして発売されているのは、『フットライト・パレード』と『私を野球につれてって』の2本だけ。『四十二番街』や『ゴールド・ディガーズ』など一部の作品は過去にVHSでリリースされていたが、現在では当然のことながら入手困難だし、レンタル店でも置いてあるところは極めて少ない。とりあえず衛星チャンネルで放送されることを願うしかない、というのはなかなか寂しい現実だ。

 

 

四十二番街
42nd Street (1933)
日本では1933年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

42ND_STREET-DVD.JPG
(P)2006 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/89分
/製作:アメリカ

特典映像
ヴィンテージ短編記録映画3本(作曲家ハリー・ウォーレン/ハリウッド・ニュース/ハリウッド・スタジオ視察)
作品解説
監督:ロイド・ベーコン
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
製作:ダリル・F・ザナック
原作:ブラッドフォード・ロープス
脚本:ライアン・ジェームズ
   ジェームズ・シーモア
撮影:ソール・ポリート
作詞:アル・ダービン
作曲:ハリー・ウォーレン
出演:ワーナー・バクスター
   ビービー・ダニエルズ
   ジョージ・ブレント
   ウナ・マーケル
   ルビー・キーラ―
   ガイ・キッビー
   ディック・パウエル
   ネッド・スパークス
   ジョージ・E・ストーン
   アレン・ジェンキンズ
   ジンジャー・ロジャース

42ND_STREET-1.JPG 42ND_STREET-2.JPG 42ND_STREET-3.JPG 42ND_STREET-4.JPG

ブロードウェイの天才演出家マーシュ(W・バクスター)

オーディションを受ける新人ペギー(R・キーラー)

主演女優ドロシー(B・ダニエルズ)

ペギーに思いを寄せる若手俳優ビリー(D・パウエル)

 言うなれば、ハリウッド・ミュージカルの礎を築いた記念碑的な作品。ブロードウェイの舞台裏事情を描くストーリーそのものは、ミュージカル映画第一号と呼ばれる『ブロードウェイ・メロディ』('29)とさして変わり映えはしないものの、やはりバスビー・バークレイ作品ならではのダイナミックなレビューシーンが当時としては非常に画期的だったと言えよう。
 物語は非常にシンプル。大恐慌でアメリカ経済がどん底の苦しみにあえぐ中、ブロードウェイの天才演出家ジュリアン・マーシュが久々の新作ミュージカルを発表することになる。自らも株価暴落で破産し、再起を賭けたこの作品に全身全霊を注ぎ込むマーシュ。しかし、様々な人々の思惑が入り乱れる演劇界の裏側は一筋縄ではいかず、マーシュは次から次へと余計な頭痛のタネに悩まされる。さらに、主演女優のドロシーが足をねん挫して舞台に出られなくなるという最悪の事態に。果たして、ミュージカルは無事に幕を開けることが出来るのだろうか…?というわけだ。
 ドラマ部分の演出は、戦前のハリウッドでも指折りの職人監督ロイド・ベーコンが担当。なにしろ、サイレント時代から約30年余りで実に130本もの映画を手掛けているというのだから半端じゃない。ただ、その一方でこれといった傑作がほとんど見当たらない人でもあり、本作の場合も彼が手掛けたドラマ部分は可もなく不可もなく。あえて言うならば、そつなくまとまっているといった印象だ。ブロードウェイの舞台裏を赤裸々に描いた作品というのであれば、ベティ・デイヴィスの『イヴの総て』など他に見るべき映画が山ほどあるように思う。
 やはり、この作品がハリウッド映画の歴史に名を残すことになった最大の理由は、バスビー・バークレイの演出したクライマックスの圧倒的なレビューシーンにある。後のバークレイ作品の奇想天外なエクストラヴァガンザに比べれば、まだまだ全体的に演出は控え目であるものの、舞台ミュージカルでは決して再現することのできないファンタジックなビジュアル・マジックはすでに健在だ。
 特に、ニューヨークの喧騒やそこで繰り広げられる様々な人間模様を、計算され尽くした流麗なカメラワークでスピーディに見せていくダンス・シーンは圧巻そのもの。バークレイ・ショットと呼ばれる万華鏡のような群衆ダンスや、パネルを手にしたダンサーたちがニューヨークの夜景を再現するマスゲームなども華やかで見応えがある。本作をきっかけに売り出されたルビー・キーラ―とディック・パウエルの若手ミュージカル・スター・コンビも爽やかで魅力的。その歴史的な価値も含めて、ミュージカル映画ファンなら必見の名作である。

42ND_STREET-5.JPG 42ND_STREET-6.JPG 42ND_STREET-7.JPG 42ND_STREET-8.JPG

リハーサルではマーシュのダメ出しが続く

ドロシーにはパット(G・ブレント)という恋人がいた

ひょんなことからペギーと親しくなるパット

2人を見かけたドロシーは嫉妬を抑えられない

 舞台はニューヨークのブロードウェイ。大物製作者ジョーンズ(ロバート・マックウェイド)とバリー(ネッド・スパークス)が久々に新作ミュージカルの製作を発表し、大恐慌によってすっかり活気を失っていたニューヨークの演劇界はにわかに色めき立つ。しかも、演出を手掛けるのはブロードウェイでも随一の天才ジュリアン・マーシュ(ワーナー・バクスター)だというのだから、世間の期待は嫌がおうにも高まるのだった。
 新作ミュージカルのタイトルは『Pretty Lady』。この舞台を一世一代の代表作にしようと鼻息を荒くするマーシュだったが、それには深い事情があった。実は、株価の暴落で多額の借金を抱えてしまい、今回の作品をヒットさせなければ後がなかったのである。年齢的にもハードな仕事をするのはそろそろ限界。この作品で儲けたお金で悠々自適の老後を送るというのが、彼の念願だったのだ。
 とはいえ、未曽有の大不況で製作資金を集めるのは至難の業。そこで、ジョーンズとバリーは主演女優ドロシー・ブロック(ビービー・ダニエルズ)をダシにして、彼女の熱烈なファンである実業家アブナー・ディロン(ガイ・キッビ―)からの出資を取り付けることに成功する。だが、スケベな中年親爺のアブナーは下心丸出しで、あわよくばドロシーを自分の愛人にとさえ目論んでいたのだ。
 早速、コーラスラインのオーディションが始まった。ニューヨーク中から仕事にあぶれていたダンサーたちが集まってくる。その中には、全くの新人ダンサー、ペギー・ソウヤー(ルビー・キーラ―)の姿もあった。まるで勝手の分からない彼女を親切に助けるのは、先輩ダンサーであるロレイン(ウナ・マーケル)とアン(ジンジャー・ロジャース)。さらに、ドロシーの相手役を演じる若手俳優ビリー(ディック・パウエル)の口利きもあって、ペギーは初舞台を踏むチャンスを得るのだった。
 その翌日から、マーシュによる過酷なリハーサルの日々が始まった。しかし、そこで一つ重大な問題が発覚する。ドロシーに秘密の恋人がいたのだ。その恋人とは、彼女の無名時代からの付き合いである男性ダンサー、パット・デニング(ジョージ・ブレント)。ドロシーは恩人でもあるパットのことを心から愛していた。しかし、2人の関係がアブナーに知れてしまったら出資を取り消されてしまうかもしれない。この舞台に全てを賭けているマーシュは、なにがなんでも最悪の事態を阻止せねばならなかった。そこで、彼は知人のマフィアに頼んで2人の仲を裂かせようとする。
 一方、いつまでもドロシーの影に隠れたままで寂しさを感じていたパットは、ふとしたことで知り合ったペギーに心を惹かれる。彼女の中にかつてのドロシーを垣間見たパットは、マーシュの差し向けたマフィアの脅しにこそ屈しなかったものの、自分がいてはドロシーの足手まといになると考えてフィラデルフィアへ去ることを決意。ドロシーも自分のためにキャリアを犠牲にしてくれたパットのことを考え、別れることが最善の策ではないかとの結論に落ち着く。
 いよいよ舞台の初演が迫った。なんと、初日はフィラデルフィアで幕を開けるという。嫌な予感のするドロシーだったが、興行に口をはさむような権利はない。一行はフィラデルフィアの劇場へと大移動をし、あとは初日の開演時間を待つだけとなる。それぞれが束の間の休日を過ごすために街へと繰り出した。その中に、腕を組んで楽しそうに並び歩くパットとペギーの姿を見つけたドロシーは、驚きと失望と嫉妬で思わず表情を曇らせるのだった。
 夜になるとホテルでは関係者が酒盛りを始めた。やけ酒を飲むドロシーは周囲の人々に当たり散らし、ついにはスポンサーのアブナーまで部屋から追い出す始末。プライドを傷つけられたアブナーは激怒し、ドロシーを主役から降ろさなければ出資を取りやめるとジョーンズたちに迫る。しかし、今さら主役をすげ替えるわけにはいかない。なんとかアブナーを説得したマーシュは、ドロシー本人から彼に直接謝罪させることで事態の収集をはかろうとする。
 その頃、寂しくなったドロシーは電話でパットをホテルへと呼び寄せていた。その様子を偶然見かけたペギーは、ジョーンズたちに見つかってはいけないと思って、2人に注意を呼びかけようとする。だが、嫉妬に駆られたドロシーはペギーが自分たちの仲を邪魔しようとしているものと勘違いし、猛烈な勢いで食ってかかる。そして、その拍子に足を挫いてしまい、歩くことが出来なくなってしまった。
 ドロシーが舞台に立てない。この緊急事態にマーシュは頭を抱えた。アブナーは目をつけていたコーラスガールのアンを代役に推薦するが、どう考えても実力不足だ。すると、そのアンが意外な事を口にする。ペギーならば適役だと。私に実力がないのは自分でも分かっている。でも、ペギーならばこの大役をこなせるだけの才能があるというのだ。その言葉を信じていいのかどうかは分からないが、マーシュにはもう他の選択肢はなかった。
 かくして、思いがけずドロシーの代役を務めることになったペギー。もう開演時間はすぐそこに迫っている。マーシュのスパルタ訓練を受けた彼女は、世代交代の時期を認めざるを得なくなったドロシーに勇気づけられ、一世一代の晴れ舞台へ向けて一歩を踏み出すのだった…。

42ND_STREET-9.JPG 42ND_STREET-10.JPG 42ND_STREET-11.JPG 42ND_STREET-12.JPG

酔った勢いでドロシーは足を挫いてしまった

アン(G・ロジャース)はペギーを主演に推薦する

マーシュによる猛特訓を受けるペギー

ドロシーは不安に押しつぶされそうなペギーを勇気づける

 実は、この作品には原作となった本がある。それが、ドラッグや同性愛などを含めたブロードウェイの内側を赤裸々に描いたブラッドフォード・ロープスの同名暴露小説。さすがにそのまま映像化できるような内容ではなかったため、過激なトーンはかなり抑えられているものの、それでもスター女優に貢ぐパトロン的なスポンサーの存在や、そのスポンサーに取り入ってのし上がろうとする若いコーラスガール、マフィアのような反社会的勢力と裏で繋がっている大物演出家などなど、ニューヨーク演劇界のダーティな側面を臆することなく描いている点は非常に興味深い。
 その脚色を手掛けたのはライアン・ジェームズとジェームズ・シーモア。ライアン・ジェームズは当時低予算のコメディ映画やギャング映画などを数多く手掛けていた脚本家で、ベティ・デイヴィス主演のホラー・サスペンス『誰が私を殺したか?』('64)の原作者としても知られる。一方のジェームズ・シーモアもB級コメディを得意としていた人で、本作を皮切りに一連のワーナー・ミュージカルの脚本を手掛けるようになった。
 撮影監督を担当したソール・ポリートは、オスカーにノミネートされた『女王エリザベス』('39)や『ヨーク軍曹』('41)のほか、エロール・フリン主演の『ロビン・フッドの冒険』('38)やジェームズ・キャグニー主演の『汚れた顔の天使』('38)など、当時のワーナー・ブラザーズの娯楽大作には欠かすことのできない名カメラマン。また、『ジャングル・ブック』('42)や『素晴らしき哉、人生!』('46)のジャック・オーキーが美術デザインを、『巴里のアメリカ人』('51)や『お熱いのがお好き』('59)などで3度のオスカー受賞経験のあるオリー=ケリーが衣装デザインを担当している。
 そして、アメリカではいまだに歌い継がれている名曲“42nd Sreet”をはじめとするミュージカル・ナンバーを手掛けたのが、作曲家のハリー・ウォーレンと作詞家のアル・ダービン。中でも、『ジーパーズ・クリーパーズ』や『チャタヌーガ・チューチュー』などのジャズ・スタンダードで有名なウォーレンの紡ぎだすメロディは大変に華やかでインパクトがあり、以降のバークレイ作品には欠かせない存在となっていく。ちなみに、ウォーレンとダービンは本編でもミュージカルの作詞・作曲家コンビとして顔を出しているので、是非とも注目してみて頂きたい。
 なお、製作費約44万ドル、撮影日数28日間という数字からも分かるように、本作は当時のハリウッドでも決してブロックバスター級の扱いではなかった。なにしろ、同じ年に作られたグレタ・ガルボ主演の『クリスチナ女王』が約112万ドル、『大帝国行進曲』が約118万ドル。メジャー・スタジオの大作映画としては予算もキャストもかなり控えめだったが、やはりミュージカル映画低迷期にあって金銭的なリスクを背負うことは難しかったのだろう。そもそも当時のワーナーは“低予算”と“革新性”によって独自のカラーを打ち出していたわけで、予算の節約には厳しかったが実験的なアイディアには柔軟だった。だからこそ、バークレイの大胆かつ奇抜なミュージカル演出も許されたのかもしれない。
 なお、本作はアカデミー賞の最優秀作品賞と最優秀録音賞にノミネートされ、トータルで約230万ドルの興行収入を稼いだ。アメリカ映画協会が'06年に選出した“最も偉大なミュージカル映画”ランキングでは、歴代13位にタイトルが挙がっている。さらに、1980年にはゴーワー・チャンピオンの振付と演出でブロードウェイ・ミュージカルとして舞台化され、トニー賞の最優秀ミュージカル作品賞など5部門を獲得した。

42ND_STREET-13.JPG 42ND_STREET-14.JPG 42ND_STREET-15.JPG 42ND_STREET-16.JPG

いよいよ幕を開けたミュージカル『Pretty Lady』

万華鏡のようにダンサーを配したバークレイ・ショット

カメラはコーラスガールたちの脚の間を駆け抜けていく

機関銃のようなタップ・ダンスを披露するペギー

 エキセントリックな鬼演出家マーシュ役を演じているのは、『懐かしのアリゾナ』('29)でアカデミー主演男優賞を獲得した名優ワーナー・バクスター。私生活とキャリアの狭間で苦しむ主演女優ドロシー役には、サイレント時代からのトップ女優ビービー・ダニエルズが扮している。ただ、確かにどちらもキャリアのある有名なスターではあったものの、当時はすでに全盛期を過ぎており、スタジオが本作のキャスティング面でもコストの削減を重要視していたことが伺えるだろう。
 その代わりとして、スタジオがプッシュする次世代のスター候補が重要な役で脇を固めている。まずは、実質的なヒロインとも言える新人ダンサー、ペギー役を演じているルビー・キーラ―。本作をきっかけに'30年代ハリウッドを代表するミュージカル女優へと成長した人だが、役柄と同じくこれが映画初出演という全くの新人だった。また、そのペギーに思いを寄せる若手俳優ビリー役のディック・パウエルも、これが初の大役。このキーラ―&パウエルのフレッシュな顔合わせはワーナー・ミュージカルの看板となり、以降も『ゴールド・ディガーズ』や『フットライト・パレード』、『泥酔夢』などで名コンビぶりを発揮していくこととなる。
 また、ドロシーの恋人でペギーにも好意を寄せる男性パット役を演じているジョージ・ブレントも、当時ワーナーが売り出しにかかっていたダンディな二枚目スターだった。本作へ出演した後にスタジオの看板女優であるベティ・デイヴィスに実力を認められ、『黒蘭の女』('38)や『愛の勝利』('39)でデイヴィスの相手役を演じることになる。
 さらに、黄金期のハリウッド映画には欠かせない名脇役女優ウナ・マーケルと、後にミュージカル映画の女王として君臨するジンジャー・ロジャースが、口は悪いが気立てのいいコーラスガール・コンビとしてコミカルな演技を披露。『スミス都へ行く』('39)など数えきれないほどの名作に出演した脇役俳優ガイ・キッビーが、コーラスガールたちの脚線美を見て鼻の下を伸ばすスケベなスポンサー、アブナー役で爆笑を誘う。
 そのほか、『模倣の人生』('34)のネッド・スパークス、『第七天国』('27)のジョージ・E・ストーン、『仮面の米国』('32)のアレン・ジェンキンス、『グランド・ホテル』('32)のロバート・マックウェイドなど、当時のハリウッド映画ではお馴染みの個性的な名脇役が勢ぞろい。また、後にB級ミュージカル映画のスター女優として活躍するトビー・ウィングやルビー・キーラーの妹ガートルードとヘレンがコーラス・ガールとして、フィルム・ノワール映画のヒーローとして有名になるデニス・オキーフがコーラス・ボーイ役として顔を出している。

 

 

ゴールド・ディガーズ
Gold Diggers of 1933 (1933)
日本では1933年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

GOLD_DIGGER_33-DVD.JPG
(P)2006 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/98分
/製作:アメリカ

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー2本
ヴィンテージ短編記録映画3本
ヴィンテージ・アニメ3本
バークレイ作品予告編ギャラリー
監督:マーヴィン・ルロイ
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
製作:ジャック・L・ワーナー
   ロバート・ロード
戯曲:エイヴェリー・ホップウッド
脚本:アーウィン・S・ゲルシー
   ジェームズ・シーモア
撮影:ソール・ポリート
作詞:アル・ダービン
作曲:ハリー・ウォーレン
出演:ウォーレン・ウィリアム
   ジョーン・ブロンデル
   アリーン・マクマホン
   ルビー・キーラー
   ディック・パウエル
   ガイ・キッビ―
   ネッド・スパークス
   ジンジャー・ロジャース

GOLD_DIGGER_33-1.JPG GOLD_DIGGER_33-2.JPG GOLD_DIGGER_33-3.JPG GOLD_DIGGER_33-4.JPG

不況のあおりでミュージカルが中止に追い込まれる

仕事にあぶれたコーラスガールたち

仲間のフェイ(G・ロジャース)が吉報をもたらす

大物製作者バーニー(N・スパークス)が新作を準備してた

 『四十二番街』が予想を超える大ヒットを記録したことから、文字通り矢継ぎ早に作られたのがこの作品。タイトルにも使われている“コールド・ディガーズ”とは“金持ち男から金品を巻き上げる女たち”のことなのだが、本作では仕事にあぶれたコーラスガールたちが新作ミュージカルに情熱を注ぐ姿を通して大恐慌時代のアメリカの過酷な庶民生活をリアルに描きつつ、彼女らとリッチな男性たちの恋のさや当てをユーモアたっぷりに描くことで、未曽有の不況に苦しむ当時の観客にささやかな夢を与える社会派タッチのエスケイプ・ムーヴィーとして仕上げられている。
 主人公はブロードウェイのコーラスガール、キャロルとポリー、トリクシーの3人。数々のヒット・ミュージカルに出演してきた彼女たちだったが、大恐慌のあおりを受けてブロードウェイではどの劇場も閉鎖状態。すっかり仕事にあぶれてしまった彼女たちは、狭い安アパートで侘しい共同生活を送っていた。そんな折、昔なじみの大物製作者バーニーが新作を準備しているという噂が舞い込む。
 これでやっと仕事にありつける!と色めき立つキャロルたちだったが、その喜びもつかの間。確かにバーニーは新作ミュージカルのアイディアこそあったが、それを実現するための資金がなかったのだ。すると、キャロルたちと同じアパートに住む売れない作曲家ブラッドが資金の提供を申し出る。売れない作曲家にどうしてそんなお金があるのか?首を傾げるキャロルたちだったが、ミュージカルを製作できるのであれば細かいことは気にするまい。
 しかも、ブラッドは作曲家として大変な才能の持ち主だった。その実力に惚れ込んだバーニーは、ブラッドに新作ミュージカルの作曲を任せることを決める。加えて、ブラッドはボーカリストとしても類い稀な歌声を持っていた。バーニーは作曲だけではなく主演俳優として舞台に立つことも勧めるが、なぜかブラッドは人前に立つことを頑なに拒むのだった。
 やがて、舞台は初日を迎える。ところが、その直前になって主演男優が腰痛で動けなくなってしまった。関係者の誰もがこの舞台に生活を賭けている。上演を中止させることなど出来ない。この窮地を救うべく、ブラッドは代役としてステージに立つことを決意した。その甲斐あって、ミュージカルは見事に大成功。すると、舞台を見に来ていた金持ちの紳士たちがあることに気付く。なんと、ブラッドはボストンの由緒正しい名門ブラッドフォード家の御曹司だったのである。
 新聞のニュースを見て、ブラッドの兄ローレンスがニューヨークへと駆けつける。汚らわしいショービジネスの世界なんぞに足を突っ込むなど言語道断だというのだ。しかも、ブラッドがコーラスガールのポリーと恋仲であることを知ってさらに激怒。どうせ財産目当てで金持ち男に近づく“ゴールド・ディガー”だろう。何としてでも2人の仲を裂かねばならないと考えたローレンスは、金で片を付けるためにポリーの暮らすアパートへと乗り込む。
 ところが、ローレンスは対応に出てきたルームメイトのキャロルをポリーと勘違いしてしまった。ローレンスの失礼極まりない態度に腹を立てたキャロルは、そのままポリーのふりをして彼を騙すことに。人のことを寄生虫扱いするんだったら、お望み通りたっぷりと搾り取ってやろうじゃないの、というわけだ。しかし、ポリーやトリクシー、ブラッドと口裏を合わせてローレンスをコテンパンにとっちめてやるつもりだったキャロルだが、やがて2人は意外にも本気で愛し合うようになってしまう…。
 家主の家賃催促も平気で無視するわ、隣の家の牛乳を当たり前のように盗んで飲むわと、冒頭から逞しいことこの上ないヒロインたちの生活ぶりにしばし感服。一見すると能天気にも思える彼女たちの生き様だが、その強靭なサバイバル本能に大恐慌時代の庶民生活の現実がまざまざと浮かび上がる。コミカルでありながらも本質的にはかなりシリアスなのだ。
 後半のローレンスとキャロルのロマンスなんぞにしても予定調和と言ってしまえばそれまでだが、頑固で偏見に満ちた保守的な金持ち男を庶民の女が骨抜きにしてしまうばかりか、まんまと“改心”させた上で玉の輿に乗ってしまうわけだから、ある意味で社会格差の不公平に不満を募らせていた当時の一般庶民の声を代弁したストーリー展開だとも考えられる。ある種の社会派的要素を含んだミュージカル・コメディだと言えよう。
 その極め付けとも言えるのが、ドイツ表現主義やロシアン・アヴァンギャルドの影響をモロに受けたクライマックスのミュージカル・ナンバー“Remember My Forgotten Man”。まるで当時のドイツやソビエトのプロパガンダ映画のごとく、虐げられる庶民の苦しみや哀しみを象徴的スペクタクルの中に描いたこのナンバーは、本作のあらゆるテーマやメッセージを集約した圧巻の傑作だ。もともと本編の中盤で挿入される予定だったはずが、その出来栄えにいたく感動したジャック・ワーナーとダリル・F・ザナックの判断でフィナーレへと移動されたのだという。それも大いに納得の見事な出来栄えである。
 他にも、ネオンライトを仕込んだバイオリンを手にコーラスガールたちが幻想的な舞いを披露する“Shadow Waltz”や、おませな赤ん坊を狂言回しに公園で愛を交わす恋人たちの様子をちょっとHなユーモアで描いた“Pettin' in the Park”など、斬新なアイディアの光る素晴らしいミュージカル・ナンバーが目白押し。ドラマ・パートとの絶妙なバランス感覚も含め、前作『四十二番街』以上に見応えのある傑作となっている。

GOLD_DIGGER_33-5.JPG GOLD_DIGGER_33-6.JPG GOLD_DIGGER_33-7.JPG GOLD_DIGGER_33-8.JPG

売れない作曲家ブラッド(D・パウエル)

ポリー(R・キーラー)はブラッドに好意を寄せている

ブラッドの用意した大金でミュージカル上演が実現

トリクシー(A・マクマホン)はブラッドを犯罪者と疑う

 ブロードウェイの大物製作者バーニー・ホプキンス(ネッド・スパークス)の新作ミュージカルが、リハーサルの段階で突如キャンセルされてしまった。借金の返済期日を守らなかったことから、大道具から衣装まで全て差し押さえられてしまったのだ。そもそも、大恐慌のあおりでどこの劇場も閉鎖状態。せっかく仕事にありついたと喜んでいたコーラスガールたちも、またもや無職へ逆戻りだとため息をつく。その中には、姉御肌のベテラン、キャロル(ジョーン・ブロンデル)や真面目で優しいポリー(ルビー・キーラー)、口は悪いがハートは暖かい毒舌コメディエンヌのトリクシー(アリーン・マクマホン)の姿もあった。
 3人は狭い安アパートで共同生活を送っていた。かつては金持ちのパトロンもいて、ショービジネス界の華やかな生活を満喫していた彼女たちだったが、それも今となっては遥か昔の話。仕事がないから家賃は滞納するばかりだし、朝食の牛乳だって隣の家から盗まにゃならない。そんなある日、仕事仲間のフェイ(ジンジャー・ロジャース)が興奮気味でアパートを訪ねてきた。バーニーが新作の準備を進めているらしいというのだ。
 とりあえず、その噂が本当なのかどうかバーニー本人に確かめるキャロル。なんと、バーニーは本当に新作の準備を進めていた。しかも、昔なじみのコーラスガールは全員雇うつもりだという。そうと聞いて狂喜乱舞するキャロルたち。アパートを訪ねてきたバーニーを取り囲み、彼女たちは喜びと興奮を抑えきれなかった。
 すると、どこからかピアノの音色が聞こえてくる。向かいの部屋に住む売れない作曲家ブラッド(ディック・パウエル)だった。そのメロディを聴いたバーニーはいたく興味を掻き立てられ、キャロルたちの部屋に彼を呼び寄せる。自信作をなにか聴かせてくれ。そうバーニーから頼まれ、おもむろにピアノを奏でながら歌いだすブラッド。その素晴らしい楽曲と歌声にバーニーは感動する。これこそ自分が求めていた作品だ、不景気に苦しむ庶民の声を代弁する歌だ、と。
 バーニーは新作ミュージカルの作詞・作曲をブラッドに任せることを決めた。どうせならミュージカル俳優としてステージに立ってはどうか、その声なら必ずや観客に受けるはずだ。しかし、ブラッドは作詞・作曲については喜んで引き受けたものの、ステージに立つことだけは頑なに拒む。いずれにせよ、ブロードウェイ・ミュージカルが夢だったブラッドにとっては大きなチャンスだったし、彼に好意を寄せるポリーにも嬉しいニュースだった。
 しかし、バーニーはまだ誰にも言っていない問題を抱えていた。ミュージカルを上演するための資金がなかったのだ。そのことを知らされ、一同はガックリと肩を落とす。せっかく久しぶりの仕事だと喜んだのに。すると、その話を聞いていたブラッドが恐る恐る口を開く。手付金として1万5千ドルだったら用意できるかもしれないと。売れない作曲家にそんな大金が用意できるはずないだろう。こんな時にそんな趣味の悪い冗談を言うなんて、とキャロルやトリクシーは腹を立てる。
 ところがその翌日、ブラッドは本当に1万5千ドルの現金を持ってバーニーの事務所に現れた。どこからどうやって手に入れた金だか分からないが、これでミュージカルを上演できるんだったら願ったり叶ったりだ。それからしばらくして、新作ミュージカル“Forgotten Melody”のリハーサルが始まった。
 誰もがこの舞台に生活を賭けていた。これが念願の処女作となるブラッドも歌の指導に熱が入る。だが、相変わらずステージに立つことだけは頑なに拒み続けるのだった。その様子を見ていたトリクシーは、ブラッドが犯罪者なのではないかと勘繰る。というのも、ちょっと前の新聞記事に大金を持ち逃げした銀行員のニュースが載っていたのだ。信用すると余計なトラブルに巻き込まれるよ、とトリクシーはポリーに忠告するのだった。
 そして、ついにミュージカルは初日を迎える。ところが、その直前になって主演男優が腰痛で動けなくなってしまった。代役を務めてくれないかとブラッドに頼み込むバーニー。しかし、それだけは勘弁してくれとブラッドは拒否する。その様子を見ていたトリクシーは、あんたはみんなをまた路頭に迷わせるつもりなのかと食ってかかった。あたしたちは命を張ってこの仕事をしてるんだよ、と。ブラッドは自分の身勝手さを恥じ、ステージに立つことを決意する。
 かくして舞台は無事に幕を開けた。その見事な演出とパフォーマンスに観客は魅了される。幕間の休憩時間、観客たちの話題は作詞・作曲と主演を兼ねる天才的新人ブラッドに集中していた。すると、その中の1人があることに気付く。あの青年をどこかで見たことがあると。
 翌朝、新聞にはミュージカル“Forgotten Lady”の大成功が一面で報じられ、その立役者であるブラッドのことが詳細に述べられていた。彼はボストンの由緒正しい名門ブラッドフォード家の御曹司だったのである。ようやく謎と疑惑が解けて安堵の表情を浮かべるポリー。ブラッドは彼女に自分の素直な気持ちを打ち明け、2人は結婚することを約束するのだった。
 だが、すぐさま彼らの前途に暗雲が立ち込める。新聞を読んだブラッドの兄ローレンス(ウォーレン・ウィリアム)がニューヨークへ飛んできたのだ。一家の専属弁護士ピーボディ(ガイ・キッビ―)を従えたローレンスは、今すぐにでもショービジネスの世界から足を洗うよう弟に迫る。さもなくば、一族の財産は1セントたりとも渡さないと。上流階級意識の強いローレンスにとって、ショービジネスなどという下賤な商売に足を突っ込んだブラッドは名門一家の恥さらしだったのだ。
 しかし、金に一切の執着がないブラッドにとって、そんな兄の脅しなんぞ“暖簾に腕押し”も同然。愛するポリーと結婚して幸せになるから、どうぞご自由に勘当でもなんでもして下さいと言いのける。その言葉にローレンスは激高。しかも、ポリーがコーラスガールだと知って怒りは頂点に達する。コーラスガールなんぞ娼婦も同然の卑しい商売だ。一族の財産が目当てですり寄って来たに決まっている。若い頃コーラスガールに入れ込んで痛い目に遭ったピーボディもローレンスに同調。なんとしてでも、2人の仲を裂かねばならないとローレンスは決意する。
 すぐさま、ローレンスとピーボディはポリーの住むアパートへと乗り込んだ。しかし、彼らは応対に出たキャロルをポリーと勘違いしてしまう。最初は何のことだか分からなかったキャロルだったが、面と向かってコーラスガールなんてのは寄生虫だ、幾ら欲しいのか言ってみろ、と失礼な言葉をたたみ掛けるローレンスに怒り心頭。これは徹底的に懲らしめてやらねばなるまいと、そのままポリーのふりをしてローレンスを騙すことにするのだったが…。

GOLD_DIGGER_33-9.JPG GOLD_DIGGER_33-10.JPG GOLD_DIGGER_33-11.JPG GOLD_DIGGER_33-12.JPG

開演の直前に主演俳優が腰痛で動けなくなってしまう

代役として舞台に立ったブラッドとポリー

“Pettin' in the Park”のワン・シーン

ちょっとセクシーな描写も

 原作となったのは、1919年にブロードウェイで初演された大ヒット・ミュージカル“Gold Diggers”。1923年と29年にもハリウッドで映画化されており、そのため本作では“Gold Diggers of 1933”と年号をタイトルに付け加えることで、過去の映画化作品との混同を割けるよう配慮されている。脚色にはアステア&ロジャースの『有頂天時代』('36)やリタ・ヘイワースの『カバーガール』('44)などのミュージカル映画で知られるアーウィン・S・ゲルシー、そして前作『四十二番街』に引き続いてのジェームズ・シーモアが携わり、“A Guy Named Joe”('43)でオスカー候補になったデヴィッド・ボーエムがセリフを加筆した。
 ドラマ・パートの演出を手掛けたのは、グリア・ガーソン主演の『心の旅路』('42)でアカデミー監督賞にもノミネートされた名匠マーヴィン・ルロイ。ヴィヴィアン・リーの『哀愁』('40)やガーソンの『キュリー夫人』('43)、エリザベス・テイラーの『若草物語』('49)などドラマ映画のイメージが強いルロイ監督だが、エスター・ウィリアムズの『百萬弗の人魚』('52)や本作のようなミュージカル映画も実は手掛けていた。もちろん、ミュージカル演出自体はバスビー・バークレイの仕事。とはいえ、本作のある種オフビートで皮肉の利いたドラマ・パートはなかなか痛快なものがあり、バークレイのド派手なミュージカル・シーンと比べても面白さに遜色がない。
 撮影監督は『四十二番街』に引き続いてソール・ポリートが担当。衣装デザインもオリー=ケリーが再び手掛けているものの、美術デザインはエロール・フリンの『海賊ブラッド』('35)や『シー・ホーク』('40)のアントン・グロットにバトン・タッチされている。冒頭のステージ全体にコインをあしらった“We're in the Money”やエキストラのシルエットを効果的に使った“Remember My Forgotten Man”のセット・デザインなどは一見の価値ありだ。
 そして、アル・ダービンとハリー・ウォーレンのコンビが再び作詞・作曲を担当。ゴスペルやリズム&ブルースをモチーフにしたナンバー“Remember My Forgotten Man”はやはり出色の出来映え。バークレイの演出や美術セットの迫力にも全く引けを取っていない。

GOLD_DIGGER_33-13.JPG GOLD_DIGGER_33-14.JPG GOLD_DIGGER_33-15.JPG GOLD_DIGGER_33-16.JPG

ブラッドの兄ローレンス(W・ウィリアム)

ローレンスの失礼極まりない態度に憤慨するキャロル

キャロルはポリーのふりをしてローレンスを騙そうとする

いつしか本気で恋に落ちていく2人だったが…

 今回主演としてクレジットされているローレンス役のウォーレン・ウィリアムは、当時人気絶頂だったハリウッドの二枚目スター。ダシール・ハメットの『マルタの鷹』の2度目の映画化“Satan Met a Lady”('32)でサム・スペード役を演じたことでも知られ、クールなヒーローから冷酷な悪人まで幅広く演じることのできた渋い名優だ。本作はそんな彼の個性を実に上手く生かしており、スノッブで憎たらしい金持ち男が次第に頑なな心を開いていく様を、ちょっとトボケた味わいを織り交ぜながらユーモラスに演じて好感が持てる。
 一方、鼻っ柱の強い姉御肌のコーラスガール、キャロル役でストーリーの後半を引っ張るジョーン・ブロンデルも、当時ワーナーのギャング映画やコメディ映画に欠かせなかったトップ女優。決して飛びぬけた美人とは言えなかったものの、気風の良い現代女性をスマートに演じて右に出る者がなかった人だ。クライマックスの“Remember My Forgotten Man”では情感溢れる見事な歌声も披露し、ミュージカル女優としても十分イケることを証明している。
 そして、ストーリーの前半を牽引するのがルビー・キーラーとディック・パウエルの爽やかな若手コンビ。さらに“Dragon Seed”('44)でアカデミー助演女優賞候補になったアリーン・マクマホンが毒舌家のコメディエンヌ、トリクシー役を演じ、なかなかの芸達者ぶりを見せてくれる。こういうアクは強いが粋で洒脱なところのある女優さんは大好きだ。
 そのほか、前作に引き続いてジンジャー・ロジャースやガイ・キッビ―、ネッド・スパークスが登場。また、『オズの魔法使い』('39)や『ウィロー』('88)などにも出ていた有名な小人俳優ビリー・バーティが、ミュージカル・ナンバー“Pettin' in the Park”の狂言回しの赤ん坊役として大活躍。さらに、後のオスカー女優ジェーン・ワイマンがコーラスガールの一人として顔を出している。

 

 

フットライト・パレード
Footlight Parade (1933)
日本では1934年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済
※DVDは日本盤と北米盤と別仕様

FOOTLIGHT_PARADE-DVD.JPG
(P)2006 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/104分/製作:アメリカ

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
ヴィンテージ短編記録映画2本
ヴィンテージ・アニメーション2本
オリジナル劇場予告編
監督:ロイド・ベーコン
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
製作:ロバート・ロード
脚本:マヌエル・セフ
   ジェームズ・シーモア
撮影:ジョージ・バーンズ
作詞:アル・ダービン
   アーヴィング・カール
作曲:ハリー・ウォーレン
   サミー・フェイン
出演:ジェームズ・キャグニー
   ジョーン・ブロンデル
   ルビー・キーラー
   ディック・パウエル
   フランク・マクヒュー
   ルース・ドネリー
   ガイ・キッビ―
   ヒュー・ハーバート
   クレア・ドッド

FOOTLIGHT_PARADE-1.JPG FOOTLIGHT_PARADE-2.JPG FOOTLIGHT_PARADE-3.JPG FOOTLIGHT_PARADE-4.JPG

トーキー映画ブームで舞台関係者も映画へ鞍替え

プロローグ商売で成功したチェスター(J・キャグニー)

頼もしい秘書のナン(J・ブロンデル)

チェスターは次々と新作に取り組んでいく

 ワーナー・ブラザーズの誇る永遠のトップ・スター、ジェームズ・キャグニーを主演に迎えて作られた作品。これも一応はショービジネス界の内幕を暴露したようなストーリーではあるものの、従来のようなブロードウェイの舞台裏を描いているのではなく、かつて映画館で本編の前座として上演されていた“プロローグ”という今はなき興行形態を題材にしている点が興味深い。
 主人公はブロードウェイの演出家チェスター。折からのトーキー映画ブームで舞台に客が入らなくなり、仕事がすっかりなくなってしまった彼は、映画の前座としてミニ・ミュージカルを見せる“プロローグ”という商売を始めて大当たりをとる。コストを抑えるために全米でチェーン展開をしたことから、チェスターは次から次へと新作を考えなければならないという超多忙な毎日を送る。
 しかし、後発のライバル会社が秘かにスパイを送り込み、彼のアイディアを片っ端から盗んでいくため、順調だった会社の経営は窮地に追い込まれてしまう。そんな折、大手映画館チェーンから仕事のチャンスが舞い込んだ。だが、これがとんでもない難題だった。というのも、一日に3か所の映画館でそれぞれ異なる演目をやらなければならないというのだ。これが失敗すれば、契約はライバル会社に持っていかれてしまう。果たして、チェスターは短期間で無事に3種類のミュージカルを完成させ、なおかつライバル会社の妨害を防ぐことが出来るのだろうか…?
 という、なんとも他愛のないお話。チェスターが締め切りのギリギリになって妙案を思いつく辺りの流れなんか結構強引で、全体的にご都合主義的な展開が必要以上に目立つのは気になるところだ。ロイド・ベーコン監督の演出もスピーディでオフビートなところはいいのだけれど、それ以外に特筆すべきところはあまり見当たらない。
 ただ、やはりバスビー・バークレイによるミュージカル・シーンはいずれも文句なしに素晴らしい。ダービン&ウォーレンの小気味良いメロディとバークレイのユーモアを効かせた演出が痛快な“Honeymoon Hotel”、エスター・ウィリアムズの水中ミュージカルを先駆けたドリーミーでゴージャスな“By a Waterfall”、そしてキャグニーとルビー・キーラーの見事なタップダンスが冴えわたる“Shanghai Lil”。これぞハリウッド・ミュージカルの醍醐味だと言わんばかりの、スケールが大きくて遊び心に溢れた映像と音楽のコラボレーションは見応えが十分だ。日本版DVDが発売されている数少ないバークレイ作品の一つなので、是非ともレンタルなどで探して見て欲しい。

FOOTLIGHT_PARADE-5.JPG FOOTLIGHT_PARADE-6.JPG FOOTLIGHT_PARADE-7.JPG FOOTLIGHT_PARADE-8.JPG

軟派なスコット(D・パウエル)と堅物のビア(R・キーラー)

悪友ヴィヴィアン(C・ドッド)がナンの部屋に上がりこむ

チェスターの元助手トンプソンはスパイを送り込んでいた

ヴィヴィアンに肩入れするチェスターに不満のナン

 トーキー映画の普及は演劇界に少なからず影響を与えていた。多くの観客が映画館へと殺到する一方、演劇やミュージカルを上演する劇場では客足が遠のいてしまったのだ。ブロードウェイの製作者サイラス・グールド(ガイ・キッビ―)も映画館経営へさっさと鞍替えし、彼のもとで仕事をしていた演出家チェスター・ケント(ジェームズ・キャグニー)は職を失ってしまう。贅沢好きな妻シンシア(ルネ・ホイットニー)も、金の切れ目が縁の切れ目だとばかりに家を出て行ってしまった。
 しかし、トーキー映画がどれほどのもんかと確かめに行ったチェスターは、映画の幕間にプロローグと呼ばれるショーが上演されているのを見てアイディアがひらめく。映画のジャンルに合わせたミニ・ミュージカルをやったら受けるに違いない。しかも、それをドラッグストア・チェーンのように全国展開すればコストを抑えられるため、全米の映画館から引き合いがあるのではないかと考えたのである。
 その目論みは見事に当たり、チェスターはサイラスの出資でプロローグ専門の製作会社を立ち上げた。ビジネスは大成功。全米各地の映画館からオファーが殺到し、多忙を極める毎日を送るようになった。顧客の様々な要望に応えるため次から次へとアイディアを考えなければならず、しかも一度に複数のユニットを各地へ派遣しなければならない。その全てを指揮しなければならないチェスターも大変だが、歌や振り付けを手掛けるダンス監督フランシス(フランク・マクヒュー)も常にきりきり舞いの状態。しかも、近頃では後発のライバル会社グッドストーンがチェスターのアイディアを次々と盗み、ビジネスを脅かしつつあった。
 そんな彼の心強い味方が、しっかり者で頭の切れる秘書ナン・プレスコット(ジョーン・ブロンデル)。嵐のようなオフィスをテキパキと切り盛りしてくれる。一方、無能なくせに出しゃばりな助手トンプソン(ゴードン・ウェストコット)にはほとほと困らされ、ついに堪忍袋の緒が切れたチェスターは彼をクビにしてしまう。ところが、このトンプソンこそライバル会社グッドストーンのスパイだった。
 さらに、チェスターのもう一つの悩みの種は、公私混同も甚だしいサイラスの妻ハリエット(ルース・ドネリー)。なにかと現場に顔を見せてはしゃしゃり出るオバサンなのだが、今度はお抱えの若い無名歌手スコット(ディック・パウエル)を売り出して欲しいと押し付けてくる。軟派なスコットはナンのお堅い助手ビア(ルビー・キーラー)に色目を使うものの、彼女の方はブルジョワ・マダムのヒモなんかをしているスコットを冷ややかな目で見るのだった。
 とにかく、ライバルには負けていられない。猫をモチーフにした奇抜なアイディアを考えたチェスターは、文句ばかりたれる怠け者のマネージャー、チャーリー(ヒュー・ハーバート)をクビにし、新作の準備に取り掛かる。出来栄えはなかなかのもの。だが、専属ダンサーの1人がトンプソンの仕込んだスパイであることをチェスターは知る由もなかった。
 仕事を終えてヘトヘトになったナンが自宅アパートへ帰ると、ハリウッドで女優になったはずの悪友ヴィヴィアン(クレア・ドッド)が勝手に上り込んでいた。知性や教養のない映画界は退屈だからニューヨークへ戻って来たとうそぶくヴィヴィアンだが、本当のところは単に仕事にあぶれただけなのは見え見え。すぐにでも追い返そうとするナンだったが、そこへチェスターが訪ねてくる。彼が売れっ子の演出家だと知ったヴィヴィアンは露骨に色目を使い、美人に目のないチェスターはたちまちその気になってしまう。
 翌日、すっかり恋人気取りでチェスターとオフィスへ同伴出勤したヴィヴィアン。なんと、チェスターは彼女をスタイリング部門の責任者にするのだという。秘かに彼のことを愛しているナンは複雑。その表情を見てヴィヴィアンは勝ち誇ったかのように微笑んでみせる。一方、自分に歌手としての才能がないと感じたスコットは、チェスターの助手を自ら志願。その素直な潔さにビアは好感を抱く。そして、彼女もまた自分らしく生まれ変わろうと考える。というのも、実は彼女はもともと舞台のコーラスガールだったのだ。ナンの協力で見た目のイメージチェンジを図った彼女は、チェスターの計らいでダンス・コーチに転職することとなる。
 そして、チェスターとナンはある日素晴らしいアイディアを思いついた。新聞で話題になっているお蔵入りミュージカルを40分に短縮し、映画と舞台の2本立て興行を打とうというのだ。しかも、料金は映画1本分と同じで。さっそく、サイラスが大手映画館チェーンのオーナー、アポライナリス氏(ポール・ポルカーシ)に売り込みをかける。ところが、なんとライバルのゴールドストーン社からも同じオファーが先にあったというのだ。またもやアイディアが盗まれたと憤怒するサイラス。事情を察したアポライナリス氏は、もし次の土曜日の夜までに3種類のミュージカルを用意できて、なおかつ観客の受けが良ければ、ゴールドストーン社よりも優先的に独占契約を結んでも構わないと申し出る。
 この願ってもないチャンスに燃えるチェスター。しかし、内部にスパイが潜んでいることは疑いの余地がない。そこで、彼は土曜日の本番まで誰一人としてスタジオを出ることを許さず、スタッフもキャストも寝食を共にしながらリハーサルを行うと宣言する。嫌なやつは出て行けと。一瞬うろたえる一同だったが、誰一人としてその場を立ち去るものはなかった。
 かくして始まった合宿リハーサル。誰もが無我夢中になって練習に励んだ。チェスターの指導にも熱が入る。ところが、別れたはずの妻が突然オフィスへ現れ、慰謝料として2万5千ドルを要求する。プロローグ・ビジネスが儲かっていることを耳にしたのだ。その様子を見ていたナンが機転を利かせる。というのも、彼女はサイラスがチェスターのギャラを誤魔化していることに気付いており、それをネタにゆすって2万5千ドルをゲットしたのだ。ところが、その事情を知ったチェスターは裏切られたと思って激怒し、仕事を投げ出してスタジオから出て行ってしまう。後を追いかけるナン。果たして、舞台は無事に幕を開けることが出来るのだろうか…?

FOOTLIGHT_PARADE-9.JPG FOOTLIGHT_PARADE-10.JPG FOOTLIGHT_PARADE-11.JPG FOOTLIGHT_PARADE-12.JPG

大変身を遂げたビアはダンス・コーチに起用される

斬新なアイディアもライバル会社に盗まれてしまう

新聞を眺めていたチェスターは名案を思いつく

ライバル会社よりも先に新作を提案しなくてはいけない

 本作のストーリー自体はオリジナルのものだが、主人公のチェスター・ケントには実在のモデルがいる。当時のブロードウェイで名を知られた演劇プロデューサー、チェスター・ヘイルという人物だ。さらに、ロサンゼルス界隈に実在したプロローグ専門の製作会社ファンチョン&マルコが、チェスターの働くスタジオのモデルになっているという。
 脚本にはブロードウェイ出身のマヌエル・セフと『ゴールド・ディガーズ』に引き続いてのジェームズ・シーモアが参加。また、プロデューサーのロバート・ロードがノー・クレジットで原案に携わっているという。撮影監督はヒッチコックの『レベッカ』('40)でオスカーを受賞したジョージ・バーンズ。ルドルフ・ヴァレンチノの『荒鷲』('25)やイングリッド・バーグマンの『聖メリーの鐘』('45)、ヒッチコックの『白い恐怖』('45)にジョージ・パルの『宇宙戦争』('53)などなど、サイレント映画の時代から数多くの名作を手掛けた大御所カメラマンだ。なお、ヒロイン役の女優ジョーン・ブロンデルは彼の妻である。
 さらに、『四十二番街』のジャック・オーキーと『ゴールド・ディガーズ』のアントン・グロットが本作では共同で美術デザインを担当。当時ゴールドウィン社からワーナーへ引き抜かれたばかりだったミーロ・アンダーソンが衣装デザインを手掛けている。
 そして、ミュージカル・ナンバーの作詞・作曲として、お馴染みのアル・ダービン&ハリー・ウォーレンの名コンビに加え、ジャズ・スタンダードとして有名な“I'll Be Seeing You”のアーヴィング・カール&サミー・フェインが参加。フェインは『ふしぎの国のアリス』('51)や『ピーターパン』('53)などディズニー・アニメのコンポーザーとしても知られる人物だ。とはいえ、やはり目玉はダービン&ウォーレンの手によるナンバー。中でも、ラストの“Shanghai Lil”は戦前の日本でも大変な評判となり、ディック・ミネなどの歌手が日本語でカバー。戦後には『上海帰りのリル』という日本独自のアンサー・ソングまで生まれている。
 なお、本作はハリウッドの検閲制度ヘイズ・コードが施行される前に作られているということもあり、サイラスの妻ハリエットが息子ほど年の離れた若い無名男性歌手を囲っていたり、ラストのミュージカル・ナンバー“Shanghai Lil”で売春婦が大勢出てきたりと、直接的ではないにせよセクシャルな内容を多分に含んでいる。水中ミュージカル“By a Waterfall”でも、水着姿のコーラスガールたちの局部を接写するなど、けっこう刺激的な映像が少なくない。そのため、ヘイズ・コードが実施された'34年から撤廃される'68年までの間、本作はアメリカ国内でも滅多に見ることが出来なかったようだ。

FOOTLIGHT_PARADE-13.JPG FOOTLIGHT_PARADE-14.JPG FOOTLIGHT_PARADE-15.JPG FOOTLIGHT_PARADE-16.JPG

初日まで誰一人としてスタジオから出ることを禁じられる

スコットとビアの2人もステージへ立つことに

寝食を共にしながらリハーサルに励む人々

チェスターはサイラスに裏切られていたことを知る

 主人公チェスター役を演じているのはご存知、ワーナー・ブラザースの歴史に燦然と輝くスーパー・スター、ジェームズ・キャグニー。『民衆の敵』('31)の大ヒットでエドワード・G・ロビンソンと並ぶギャング映画の帝王となったキャグニーだったが、もともとヴォードヴィル芸人の出身ということで歌もダンスもお手のもの。ギャング映画にも相通ずるようなパンチの利いた演技でドラマを引っ張りつつ、クライマックスの“Shanghai Lil”では華麗なステップも披露している。
 そのチェスターに秘かな想いを寄せるタフな女性秘書ナン役には、『民衆の敵』以降幾度となくキャグニーの相手役を演じている鉄火肌女優ジョーン・ブロンデル。バークレイ作品には前作『ゴールド・ディガーズ』に引き続いての出演となるわけだが、本作ではドラマ・パートのみに徹しており、彼女の歌やダンスを楽しむことは出来ない。とはいえ、江戸っ子にも通じる小股の切れ上がった姉御っぷりは実に痛快だ。
 このいろんな意味で大人な主演コンビの存在感に比べると、本作で3度目の競演となるルビー・キーラーとディック・パウエルの2人はちょっと分が悪い。しかしながら、ラストでキャグニーと一緒に迫真のタップ・ダンスを披露するキーラーは頑張っているし、爽やかなオール・アメリカン・ボーイからの脱皮を図ろうとしたかのようなパウエルの茶目っ気溢れる演技も悪くはないだろう。
 そのほか、ワーナー・ミュージカルには欠かせない顔となったガイ・キッビ―、私生活ではキャグニーの大親友だったフランク・マクヒュー、ブロードウェイ出身の名喜劇女優ルース・ドネリー、本作を皮切りにワーナー・ミュージカルの常連となるヒュー・ハーバートなどの芸達者が脇を固め、ワーナーのB級映画専門だったブロンド美女クレア・ドッドも憎まれ役として強い印象を残している。
 また、小人俳優ビリー・バーティが『ゴールド・ディガーズ』に引き続いてミュージカル・ナンバーの狂言回しとして登場。後の大物人気女優ドロシー・ラムーアとアン・サザーンがコーラス・ガールに加わっているほか、ドラッグストアでキャグニーの応対をする店員役としてバスビー・バークレイ自身がチラリと顔を見せる。

 

 

泥酔夢
Dames (1934)
日本での劇場公開時期は不明
VHS・DVD共に日本未発売

DAMES-DVD.JPG
(P)2006 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/90分
/製作:アメリカ

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
ヴィンテージ短編記録映画3本
ヴィンテージ・アニメーション2本
ラジオ用プロモーション音声
オリジナル劇場予告編
監督:レイ・エンライト
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
製作:ハル・B・ウォリス
脚本:デルマー・デイヴィス
撮影:ジョージ・バーンズ
   シドニー・ヒコックス
   ソール・ポリート
作詞:アル・ダービン
   アーヴィング・カール
   モート・ディクソン
作曲:ハリー・ウォーレン
   サミー・フェイン
   アリー・ウルーベル
出演:ルビー・キーラー
   ディック・パウエル
   ジョーン・ブロンデル
   ザスー・ピッツ
   ガイ・キッビ―
   ヒュー・ハーバート
   アーサー・ヴィントン

DAMES-1.JPG DAMES-2.JPG DAMES-3.JPG DAMES-4.JPG

大富豪エズラ(H・ハーバート)に呼び出されたホレイス

ジミー(D・パウエル)とバーバラ(R・キーラー)は恋人同士

エズラはホレイスの暮らしぶりを見にニューヨークへ

自分のベッドに若い女性が寝ていてビックリのホレイス

 なぜに邦題が『泥酔夢』なのかは大きな謎だが、原題の“Dames”とは“ご婦人方”という意味。ショービジネスの世界を目指す若い世代のカップルと、そんな彼らに堅苦しいモラルを振りかざしてみせる旧世代のカルチャー・ギャップをコミカルに描きつつ、文字通り美しい“ご婦人方”を総動員したバスビー・バークレイによる煌びやかなレビュー・ショーの数々で魅せるミュージカル映画だ。
 主人公は裕福な一族の親戚同士に当たる若いカップル、ジミーとバーバラ。ジミーはブロードウェイを志しており、バーバラもそんな彼を陰ながら応援している。しかし、一族のドンである大富豪エズラはショービジネスの世界を蔑視しており、ジミーから遺産相続の権利を取り上げてしまった。そればかりか、彼は堕落した大都会ニューヨークへと乗り込んで市民団体を立ち上げ、アメリカ的モラルの復活を目指そうとする。
 一方、バーバラの父親ホレイスはそんなエズラにおべっかばかり使っている。なにしろ、彼の機嫌を損ねたら自分まで遺産相続から外されてしまうかもしれないから。欲だけは深いが気弱な男なのだ。なので、ニューヨーク行きの列車で見知らぬ若い女が自分のコンパートメントに忍び込んでいることに気付いても、強気で彼女を追い出すことなど当然のことながら出来ず、かといって寝室に女を泊めていることがエズラにバレたらまずいため、他言は無用と口止め料を支払うのが精いっぱいだった。
 で、その若い女というのがコーラスガールのメイベル。ひょんなことからジミーと意気投合した彼女は、ホレイスがバーバラの父親であることを知って妙案ひらめく。ジミーはミュージカルの製作に情熱を注いでいたが、エズラから勘当されてしまったために製作資金の当てがなかった。ならば…ということで、メイベルはジミーと組んで一計を案じ、“あの晩”のことをエズラに知られたくなければミュージカルの製作費を出せと脅すのだった。
 やがて、ジミーのミュージカルがブロードウェイで上演されることに。まさか身内の人間がその製作費を出していることなど知らないエズラは、ふしだらで汚らわしい舞台をコテンパンにぶっ潰してやろうと、大勢の手下たちを従えて劇場へと乗り込むのだったが…。
 ちょうどヘイズ・コードが施行される端境期に製作された作品ということもあり、ストーリーそのものは旧態然としたモラルの偽善を笑い飛ばすリベラルなセックス・コメディ的要素が濃厚である一方、ミュージカル・シーンにおけるコーラス・ガールたちの露出度は以前に比べてちょっと控え目。とはいえ、ルビー・キーラーのソックリさんが大挙して舞い踊る“I Only Have Eyes For You”のシュールなスペクタクルは見応え十分だし、朝目覚めてからシャワーを浴びて化粧をしてといった美女たちの生態をエレガントかつスタイリッシュな映像美で見せるタイトル・ナンバー“Dames”の群衆ダンスもゴージャスそのもの。ある意味で、後のウーマン・パワーやフリー・セックスを先駆けた作品とも言えよう。
 ドラマ・パートの演出を手掛けたのは、ジョー・E・ブラウンの喜劇映画やB級ウェスタンで鳴らした職人監督レイ・エンライト。もともと『化石の森』('36)のアーチ―・メイヨにオファーされていたらしいが、ここはオフビートな笑いに手腕を発揮するエンライトで大正解だったろう。堅物オヤジのエズラや風見鶏のホレイスといった偽善的な大人たちの滑稽さを、これでもかこれでもかと徹底的なまでにおちょくっているのが痛快だ。ミュージカル・シーンを担当したバークレイの奇想天外かつ斬新なアイディアも絶好調で、全体的なバランスという意味でもこれが最も充実した作品だと言えるかもしれない。

DAMES-5.JPG DAMES-6.JPG DAMES-7.JPG DAMES-8.JPG

エズラは不届き者のジミーを追い返す

ミュージカル製作を夢見るジミーとバーバラ

いよいよ製作が決まったかに思えたが…

ジミーとメイベル(J・ブロンデル)は意気投合する

 ニューヨークの実業家ホレイス・ヘミングウェイ(ガイ・キッビ―)は、妻マチルダ(ザスー・ピッツ)の従兄弟に当たるエズラ・オンス(ヒュー・ハーバート)に呼び出された。エズラは全米でも有数の大富豪で、由緒正しい名門オンス家の家長だ。20年ぶりにエズラのもとを訪れたホレイスは緊張気味。どんな話題を切り出されるのかとソワソワしていると、おもむろにエズラは遺産相続について話し始めた。大の女嫌いで独身を貫いてきた彼は、そろそろ遺産の分配について決める時期だと考えていたのである。ホレイスに提示された金額は1000万ドル。目玉の飛び出すような数字だ。ただし条件がある。清く正しい生活を送っていることをエズラに証明しなくてはならないのだ。少しでもモラルに反するような行いが見受けられた場合は、遺産相続の権利そのものがはく奪される。16番目の甥っ子ジミー(ディック・パウエル)などがそのいい例だ。なにしろ、彼は俳優などという下賤で汚らわしい職業に就いているのだから。
 しかし、皮肉なことにそのジミーとホレイスの娘バーバラ(ルビー・キーラー)は恋人同士だった。売れない俳優生活を続けているジミーは、自ら脚本と演出を手掛けるミュージカルを上演することが夢。実際に“Sweet and Hot”という素晴らしい作品が手元にあるものの、肝心の資金が一銭もなかった。
 一方、エズラはヘミングウェイ家の暮らしぶりをチェックするため、ホレイスや用心棒バルガー(アーサー・ヴィットン)を伴い夜行列車でニューヨークへ向かうことにする。だが、彼にはもう一つの目的があった。腐敗の巣窟であるニューヨークで市民団体を発足し、アメリカ的モラルの復権を全米に広めようというのだ。なんとしてでも遺産の相続にあずかりたいホレイスは、その計画へ全面的に協力することを約束する。
 ところが、エズラと別れて自分のコンパートメントへ戻ったホレイスはビックリ仰天。見ず知らずの若い女性がベッドで寝ていたのだ。女性の名前はメイベル・アンダーソン(ジョーン・ブロンデル)。コーラスガールの彼女は舞台のギャラをピンハネされ、ニューヨークへ戻るために仕方なく夜行列車へ忍び込んだのだ。おどおどしながら部屋を出ていくよう言うホレイスだったが、鼻っ柱の強いメイベル相手では全く歯が立たない。仕方なくソファーで一晩を過ごした彼は、若い女と同じ部屋にいたことがエズラにバレたら困ると心配し、寝ている彼女の枕元に口止め料を置いて列車を降りる。ただ彼が間抜けだったのは、自分の名刺の裏にメモ書きを残したことだった。
 その晩、ヘミングウェイ家ではエズラを迎えて晩餐会が開かれた。そこへ、エズラが経営する保険会社の営業マンを名乗る若い男が押しかけてきた。その正体はジミー。ミュージカルの製作費を出してくれないかと売り込むジミーだったが、その慇懃無礼な態度に激怒したエズラによって屋敷を追い出されてしまった。
 しかし、そんなことで凹むジミーではなかった。それからほどなくして、彼のミュージカルに興味を示す製作者が現れた。15パーセントのロイヤリティを受け取るということで契約は成立。これで遂に夢が実現すると喜ぶジミーとバーバラ。すると、そこへ怒り心頭のメイベルが乗り込んできた。というのも、ギャラをピンハネされた元凶はこの製作者のインチキな契約が原因だったからだ。
 お互いに事情を知ったジミーとメイベルは意気投合し、一緒にミュージカルをやろうということで話がまとまる。蚊帳の外に置かれたバーバラは内心気が気でない。とはいえ、これでまた製作費の当てがなくなってしまった。その時、メイベルはバーバラの父親がホレイス・ヘミングウェイであることに気づき、ある妙案を思いつく。例の寝台列車での一件をネタに脅迫すれば、まとまった金を出すはずだ。鼻持ちならない金持ちからは搾り取るだけ搾り取ればいいのだ。
 ヘミングウェイ家で行われた市民団体の発足式へ紛れ込み、こっそりとホレイスの寝室へと忍び込むジミーとメイベル。寝室へ戻ったホレイスは、またもやメイベルがベッドに寝ている姿を見て慌てふためくのだった。例のことをエズラにばらされたくなければ25000ドルを用意しなさい、さもなくばこの場で悲鳴を上げるわよ、と脅しをかけるメイベル。ホレイスは仕方なく現金を用意することにした。
 一方、ジミーがミュージカルを製作すると知ったエズラは、見せしめのためにも舞台を潰してやろうと画策する。もし自分が製作費を出していることがバレたら大変だと震え上がったホレイスは、なんとか公演を中止するようジミーにかけ合うものの、楽屋からつまみ出されてしまう始末。その上、娘のバーバラが舞台に出演することを知って途方に暮れるのだった。
 そして、ついにミュージカル“Sweet and Hot”の初日がやって来た。エズラは用心棒バルガーに命じ、大勢のチンピラを雇っていた。彼らを一階の観客席へ配置し、合図がしたら一斉に暴れ出すよう計画していたのだ。自らはホレイスとマチルダを従えて、2階席から高みの見物をしようというのである。内心気が気でないホレイス。やがて舞台は幕を開けるのだったが…。

DAMES-9.JPG DAMES-11.JPG DAMES-10.JPG DAMES-12.JPG

ホレイス(G・キッビ―)を脅迫するメイベル

エズラはジミーの舞台を妨害しようと計画する

用心棒バルガーはチンピラを大勢用意する

エズラが二階席から合図して暴動を起こす手はずだった

 脚本を手掛けたのは、後に監督として『折れた矢』('50)や『決断の3時10分』('57)などの傑作西部劇を手掛ける名匠デルマー・デイヴィス。『避暑地の出来事』('59)をはじめとするワーナーの青春映画でもお馴染みの人だが、当時は本作以外にもルビー・キーラー&ディック・パウエルのコンビが主演した『お姫様大行進』('34)などのミュージカル・コメディを数多く任されていた。
 製作を担当したのはワーナーの制作主任ハル・B・ウォリス。さらに、『四十二番街』や『ゴールド・ディガーズ』のソール・ポリート、『フットライト・パレード』のジョージ・バーンズに加え、『脱出』('44)や『三つ数えろ』('46)などのハードボイルド映画で有名なカメラマン、シドニー・ヒコックスが撮影監督に加わっている。なかなか錚々たるメンツだ。
 そのほか、『流行の王様』や『ワンダー・バー』でもバークレイと組んだウィリー・ポガニー、『汚れた顔の天使』('38)や『マルタの鷹』('41)のロバート・M・ハースが美術デザインを担当。『四十二番街』以来ワーナー・ミュージカルに欠かせないオリー=ケリーが衣装デザインを手掛けた。
 そして、お馴染みのアル・ダービン&ハリー・ウォーレン、『フットライト・パレード』に引き続いてのアーヴィング・カール&サミー・フェインに加え、“Bye Bye Blackbird”などのスタンダードで有名なモート・ディクソンと映画『南部の唄』('47)の主題歌でオスカーを獲得したアリー・ウルーベルが挿入歌“Try To See It My Way”を提供している。

DAMES-13.JPG DAMES-14.JPG DAMES-15.JPG DAMES-16.JPG

いよいよミュージカルの幕が開く

ルビー・キーラーのソックリさんを配した群衆ダンス

美しきご婦人方の日常を再現したタイトル・ナンバー

次から次へとカメラの方へ向かって飛び出す美女たち

 本作でようやくクレジット上でも堂々の主役に昇格したディック・パウエルとルビー・キーラー。『フットライト・パレード』でも単なる爽やかな好青年に収まらない部分を強調していたパウエルが、本作ではさらに必要とあらば脅しや詐欺も辞さない、それでいて悪びれたところの全くない、ちょっと一筋縄ではいかない若者をパワフルに演じている。一方のキーラーはドラマ・パートでこそ存在感が若干薄いものの、後半のミュージカル・ナンバーでは大活躍。中でも、数えきれないほどのルビー・キーラーが群衆ダンスを繰り広げる“I Only Have Eyes For You”(必ず一番手前に彼女本人がいる)などは、まさに彼女へのトリビュートとも言うべき仕上がりだ。
 一方、そのパンチの利いた演技と存在感でドラマ・パートを引っ張るのが、コーラスガールのメイベル役を演じるジョーン・ブロンデル。実は彼女をメインにしたミュージカル・ナンバーも準備されていたらしいのだが、その内容があまりにも際どかったため、ヘイズ・コードに引っかかることを恐れたスタジオ側の判断で削除されたらしい。
 そのほか、サイレント時代から活躍するハリウッド黄金期の名物コメディエンヌ、ザスー・ピッツ、すっかりワーナー・ミュージカルにおけるダメ親父専門となったガイ・キッビ―、『フットライト・パレード』に引き続いてのヒュー・ハーバートといった名脇役が抱腹絶倒のとぼけた演技を披露。また、'40年代にB級映画のヒロインとして活躍するヴァージニア・グレイ、連続活劇『フラッシュ・ゴードン』シリーズのデイル・アーデン役で知られるジーン・ロジャースがコーラスガールとして顔を出している。

 

 

ゴールド・ディガーズ36年
Gold Diggers of 1935 (1935)
日本では1935年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

GOLD_DIGGER_35-DVD.JPG
(P)2006 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/95分
/製作:アメリカ

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
ヴィンテージ短編記録映画1本
ヴィンテージ・アニメーション2本
ラジオ用プロモーション音声
オリジナル劇場予告編
監督:バスビー・バークレイ
ミュージカル監督:バスビー・バークレイ
製作:ロバート・ロード
脚本:マヌエル・セフ
   ピーター・ミルン
撮影:ジョージ・バーンズ
作詞:アル・ダービン
作曲:ハリー・ウォーレン
出演:ディック・パウエル
   アドルフ・メンジュー
   グロリア・スチュアート
   アリス・ブラディ
   ヒュー・ハーバート
   グレンダ・ファレル
   フランク・マクヒュー
   ジョセフ・カウソーン
   グラント・ミッチェル
   ドロシー・デア
   ウィニー・ショー

GOLD_DIGGER_35-1.JPG GOLD_DIGGER_35-2.JPG GOLD_DIGGER_35-3.JPG GOLD_DIGGER_35-4.JPG

真面目で優秀な受付係ディック(D・パウエル)

高級リゾート・ホテルに客が集まってくる

上得意であるプレンティス家の人々

子供たちに対して理不尽なプレンティス夫人(A・ブラディ)

 60年代末にバースビー・バークレイが全米の若者たちに再評価された際、真っ先にリバイバル公開されたのが『フットライト・パレード』と本作だった。それもそのはず。バークレイ自身が初めてドラマ・パートも含めた全ての演出を手掛けているということもあるが、とにかく最初から最後まで彼のユニークな個性とスタイルが貫かれた見事な作品。中でもクライマックスを飾るミュージカル・ナンバー“Lullaby of Broadway”は不朽の名作だ。
 今回の舞台は避暑地の豪華なリゾート・ホテル。全米から集まってくる大金持ちたちの懐を狙って、ホテルのボーイや詐欺師などがてんやわんやの大騒動を繰り広げる。そこに真面目なホテルの受付係ディックと富豪令嬢アンの爽やかなラブ・ストーリーが絡み、さらにはアンの母親が主催するチャリティー・ショーを巡って様々な人々の思惑が交錯するといった按配だ。
 冒頭からミュージカル仕立てのリズミカルでスタイリッシュな演出が目を引く。これまでのワーナー・ミュージカルにはなかった展開だ。さらに、レビュー・ショーの舞台だけではなく、ドラマ・パートの中にもさりげなくミュージカル・シーンが挿入される。これまた当時のミュージカル映画としては珍しい趣向。それもこれも、バークレイが全篇に渡って演出を任されたおかげと言っていいだろう。
 いつにもまして他愛のないドラマ・パートではあるものの、バークレイはミュージカル・シーンのごときリズム感とスピード感によって、欲にまみれた人々の繰り広げるハチャメチャな騒動をスラップスティックかつクレイジーに描いていく。これが初のドラマ演出だとは思えないほどの腕前だ。さらに、主演はいつものディック・パウエルだが、そこに当代きっての名優アドルフ・メンジューを絡ませ、さらにはあえてミュージカル女優ではないグロリア・スチュアートをヒロインに据えることで、よりドラマとミュージカルのバランスを絶妙なものにしている。特に、ドラマ・パートにおけるミュージカル・シーンで、パウエルには歌とダンスを、グロリアには演技とスタイルをといった具合に、それぞれの役割を明確にすることで日常から非日常への行き来を自然なものにしたのは賢かった。
 そして、最大の見所である後半のミュージカル・シーン。美女の奏でる白いグランド・ピアノがズラーッと列をなし、それが時にうねったり、時に幾何学的なラインを描きながら、文字通り自由自在に動き回るという“The Words are in My Heart”は圧巻のスケール。散り散りになっていたグランド・ピアノが一つにまとまり、その上を美女が華麗に舞うというシーンでは、フィルムの逆回しによって実にシュールなムードを醸し出している。しかも、そこからカメラがグーッと引いていくと、手前の小窓のさらに手前には巨大な鍵盤が。実は全てグランド・ピアノの中で繰り広げられていたんですよ、という粋なオチが付くわけだ。
 さらに、クライマックスを飾る“Lullaby of Broadway”。暗闇の奥から一人の美女が、歌を歌いながらだんだんと近づいてい来る。浮かび上がるのは彼女の顔だけ。おもむろに美女が仰向けになると、その顔がシルエットへと変化し、そこにニューヨークの夜景が浮かび上がる。なんともスタイリッシュな導入だ。そして、カメラはその夜景の中へと飛び込んでいき、夜の大都会に生きる一人の女性の享楽的な一日を映し出していく。華やかさと悲哀に満ちたそのストーリーがまた実にいい。ナイトクラブで繰り広げられる群衆タップ・ダンスも圧倒的だ。まるで神殿のように広々としたダンスフロア。男女それぞれ同じ衣装を身にまとった無数のダンサーたちが一面を埋め尽くし、狂ったようにタップを踊り続ける。ほとんど古代宗教の儀式だ。アカデミー賞を獲得した楽曲そのものも素晴らしいが、それ以上にバークレイの神がかったような演出は凄いの一言。これを見ずにバスビー・バークレイは語れまい。

GOLD_DIGGER_35-5.JPG GOLD_DIGGER_35-6.JPG GOLD_DIGGER_35-7.JPG GOLD_DIGGER_35-8.JPG

アン(G・スチュアート)はモズレーと結婚させられる運命

プレンティス夫人はディックをアンのお守り役に指名する

買い物三昧で束の間の自由を謳歌するアン

ロシア人の演出家ニコレフ(A・メンジュー)

 湖のそばに建つ高級リゾート・ホテル、ウェントワース・プラザでは、サマー・シーズンを目前に従業員が開店準備に忙しい。ここは全米から裕福な上流階級の人々が集まる場所。チップで生計を立てている従業員たちにとっても、夏はまさに書き入れ時だ。マネージャーのランプソン氏(グラント・ミッチェル)が檄を飛ばすと、スタッフ一同もなお一層のことやる気に燃える。
 そんなホテルで受付の顔を任されているのが、アルバイトの医大生ディック(ディック・パウエル)。礼儀正しく真面目で頭の良い彼は客からの評判もすこぶる良く、ランプソン氏もその仕事ぶりを高く評価している。しかし、卒業試験の準備で忙しくなることから、アルバイトも今年の夏が最後。客室案内係のアーリーン(ドロシー・デア)とは恋仲で、大学を卒業したら結婚することを約束している。ランプソン氏は一度に優秀なスタッフが2人もいなくなると嘆くのだった。
 そして、サマー・シーズンがいよいよ始まった。次々とロビーに到着する裕福な顧客たち。その中に、上得意の大富豪プレンティス夫人(アリス・ブラディ)と、その放蕩息子ハンボルト(フランク・マクヒュー)、そして難しい年頃の娘アン(グロリア・スチュアート)の姿もあった。
 プレンティス夫人はとにかくドケチ。お金は木になっているわけじゃないが口癖で、チップの金額も最低レベルなもんだから従業員には大不評だ。息子のハンボルトは大の女好きで、これまでに4度の離婚歴がある。そのたびに多額の慰謝料を払わされてきたプレンティス夫人は、またいつ息子がお相手を見つけてくるやもしれぬと考えると気が気じゃない。もう2度と結婚なんかさせるもんですか、というわけだ。
 一方、娘のアンはまだ20歳。恋に遊びにと好奇心旺盛な年頃のはずだが、プレンティス夫人はこと娘のことに関しては厳しかった。変な虫がついたらいけないからと、服装も髪型も地味そのもの。お洒落なんかしたらハンボルトみたいな男が寄って来るだけ、なんにもいいことはない。しかも、夫人は勝手に娘の婚約者まで決めてしまった。お相手は、親子ほど年の離れた大金持ちモズレー・ソープ3世(ヒュー・ハーバート)。まだ恋もしたことないのにと嘆くアンだったが、結婚には恋愛なんてかえって邪魔よ、というのが夫人の持論。大切なのは財産。お金さえあれば、たとえ嫌いな相手でも慣れるもの。娘の幸せを一番に考えてのこと、という自負があるだけに、いくらアンが反抗してみても無駄だった。
 そして、その婚約者のモズレーもウェントワース・プラザへやって来る。彼がまた相当の変人で、趣味にしている嗅ぎタバコのこと以外は一切興味がない。ホテルに到着してからも、自費出版する予定の“嗅ぎタバコ研究書”を執筆するために部屋へこもってばかり。ホテルが手配した速記者ベティ(グレンダ・ファレル)も、彼の奇人変人ぶりに顔をしかめる。
 とにかく、そんな相手が婚約者なもんだから、アンの失望と嘆きは大きかった。プレンティス夫人は無理やり二人っきりにさせて、なんとか娘をその気にさせようとするものの、かえってアンの不満と怒りは爆発。そのあまりの剣幕に、モズレーは“なにか悪いものでも食べたのかい?”とオロオロするばかりだ。さすがに根負けしたプレンティス夫人は、もしモズレーと結婚することを誓うのであれば、夏休みの間はお洒落でもなんでも自由にしていいと約束する。
 ただし、変な虫がつかないようにお守り役が必要だ。そこで夫人が目をつけたのは、真面目で気の利くディックだった。そんな金持ちのお嬢様のお守りなんてまっぴら御免だと断るつもりだったディックだが、チップの500ドルは魅力だった。それだけあれば残りの学費が払える。よくよく考えた末、彼はアンのお守り役を引き受けることにした。
 さっそくホテルのショッピング街で買い物を楽しむアンとディック。ドレスに帽子、靴、ガウン、ジュエリーなど気に入ったものを片っ端から買いまくったアンだったが、その請求書の金額を目にしたプレンティス夫人は悲鳴を上げて気を失う。それでも約束は約束。アンはこれが最後になるかもしれない青春の1ページを、楽しい思い出で埋め尽くすつもりだったのだ。
 一方、ホテルには招かれざる客が訪れていた。その人物の名はニコライ・ニコレフ(アドルフ・メンジュー)。かつては鬼才として名を轟かせたロシア人の舞台演出家だ。しかし、その変人ぶりが災いして仕事を干されてしまい、今では借金で首が回らない状態。それでも一度覚えた贅沢はやめられず、毎年この時期になるとウェントワース・プラザに泊まっては宿代を踏み倒し、レストランの食事に文句をつけては無銭飲食を繰り返していた。しかも、ちゃっかり銀食器などを盗んで持ち帰る始末。今回もレストランの食事代を踏み倒すつもりだ。去年の宿泊代や食事代も未払いのまま。頭を抱えるランプソン氏だったが、ふと妙案がひらめく。
 実は、プレンティス夫人は毎年ホテルでチャリティー・ショーを開催するのが恒例だった。その演出をニコレフにさせようというのだ。夫人だったら大金を支払ってくれるに違いない。そこからホテル代などを差し引けばいいのだ。しかも、ランプソン氏は抜け目のない男で、自分が夫人を紹介するのだからと、残額からさらに半分を手数料として徴収するつもりだった。さすがのニコレフも文句は言えず、渋い顔をしながらも承諾する。
 早速、ニコレフは舞台美術デザイナーのシュルツ(ジョセフ・カウソーン)を呼び寄せ、プレンティス夫人と製作費やギャラの調整に入った。ところが、彼らの予想とは裏腹に夫人はかなり予算をケチろうとする。しかも、そこへ銀行から連絡が入り、夫人の投資していた会社の株が暴落し、なんと6000万ドル以上の損失が発生したと判明。夫人はチャリティー・ショーを中止しようとする。
 だが、中止されて困るのはニコレフとシュルツ。せっかく掴んだ金づるを逃すわけにはいかない。そこで、彼は製作費を3分の1に縮小することを提案。しかも、チャリティーの名目であれば税金が免除されるから、実質的には全額戻ってくることになる。…と聞いた途端に夫人の目の色が変わった。集まった金額によっては儲かるかもしれない。ニコレフはしめしめとほくそ笑む。
 さらに、彼はさらなる金づるを見つけた。モズレーである。速記者のベティは色仕掛けでモズレーを落とそうとし、その現場をニコレフが目撃してしまったのだ。口止め料として大金を要求するニコレフ。ベティも自分の分け前を要求する。さらに、偶然通りかかったランプソン氏やシュルツもそれぞれ自分の取り分を主張し、てんやわんやの大騒ぎとなるのだった。
 その頃、ディックとアンはお互いの気持ちを確認し、深く愛し合うようになっていた。ただ、ディックには結婚を約束したアーリーンがいる。ところが、アーリーンはアンの兄ハンボルトとすっかりいい仲になっていた。医者の妻として苦労するよりも、お金持ちのボンボンと結婚する方が自分には向いているかもしれない。2人は話し合って友人関係に戻ることとなった。かくして、心置きなくアンと付き合える。とはいえ、プレンティス夫人には言い出せない。
 やがて、チャリティ・ショーのリハーサルが始まった。アンとモズレーがすっかり疎遠になっていることを心配したプレンティス夫人は、アンに捧げるラブソングをショーで発表するようモズレーに提案する。その気になったモズレーは、ベティのアイディアを借りてラブソングの詩を書き上げた。ところが、ベティはその紙にモズレーのサインを入れさせ、勝手に結婚誓約書を偽造してしまう。それをネタにして強請ろうというのだ。
 そしてショーの当日。ディックとアンが付き合っていることを知ったプレンティス夫人は激怒し、さらにハンボルトとアーリーンが秘かに結婚していたことを知って卒倒寸前。さらに、モズレーがベティに結婚を誓っていたことまで知らされて大パニックに陥る。果たして、ディックとアンは無事に結ばれることは出来るのか?そして、チャリティ・ショーの行方やいかに…?

GOLD_DIGGER_35-9.JPG GOLD_DIGGER_35-10.JPG GOLD_DIGGER_35-11.JPG GOLD_DIGGER_35-12.JPG

ディックとアンは愛し合うようになっていく

分け前を巡って言い争うニコレフたち

ベティ(G・ファレル)はモズレーの財産を狙っている

いよいよチャリティ・ショーの当日

 脚本を書いたのは『フットライト・パレード』にも携わっていたマヌエル・セフと、『ケンネル殺人事件』('33)や『殺人鬼と光線』('34)などのサスペンス映画で知られるピーター・ミルン。ストーリーの原案には製作者のロバート・ロードも参加していたようだ。登場人物が多くて複雑な人間関係をすっきりと上手くまとめており、なおかつそれぞれの利害や欲が絡み合うストーリーを実に面白く描いている。
 撮影監督はすっかりバークレイ作品に欠かせない存在となったジョージ・バーンズ。美術デザインのアントン・グロット、衣装デザインのオリー=ケリーと、バークレイ作品の常連スタッフが名を連ねている。中でも、今回はオリー=ケリーのデザインしたエレガントなドレスが全編に散りばめられており、中でもグロリア・スチュアートのために作られたナイトガウンは実にゴージャス。さすが、エイドリアンやトラヴィス・バントンと肩を並べるだけの実績を残した人物だ。
 そして、ミュージカル・ナンバーを手掛けたアル・ダービン&ハリー・ウォーレンの名コンビ。先述したようにクライマックスの“Lullaby of Broadway”はアカデミー賞の最優秀オリジナル歌曲賞を受賞しており、アメリカでは現在でも歌い継がれている珠玉の名曲である。

GOLD_DIGGER_35-13.JPG GOLD_DIGGER_35-14.JPG GOLD_DIGGER_35-15.JPG GOLD_DIGGER_35-16.JPG

ディックとアンの関係を知って激怒する夫人

さらに息子ハンボルト(F・マクヒュー)まで結婚を

ミュージカルの幕が上がる

無数のピアノをフル活用したミュージカル・ナンバー

 今回はいつもの正統派オール・アメリカン・ボーイを演じてみせるディック・パウエル。歌にダンスにと見せ場が存分に用意されており、実質的に単独主演と見ていいだろう。一方、その相手役を演じているグロリア・スチュアートは、『タイタニック』('97)のローズ役としてもお馴染み。やはりバークレイがミュージカル監督を手掛けた『羅馬太平記』('33)に続いてのミュージカル出演だったが、もともとミュージカル畑の人ではないため、わずかに申し訳程度のダンスを披露してみせるだけ。しかしながら、当時は女優としての脂が最も乗っていた時期でもあり、その貴族的な美しさとも相まって、なんとも言えないキラキラとした魅力を放っている。
 そして、狡猾な変人そのものいった感じの演出家ニコレフ役を演じているアドルフ・メンジュー。『モロッコ』('30)や『オーケストラの少女』('37)など、温厚で知的な紳士役を演じさせたら右に出る者のいない名優中の名優だったが、こうしたエキセントリックな役柄だってお手のもの。ジョン・バリモアも真っ青の怪演ぶりが実に楽しい。
 また、アンの母親プレンティス夫人を演じているアリス・ブラディの強欲でドケチでヒステリックなマダムぶりも抱腹絶倒だ。もともとブロードウェイの大物女優で。映画でも『シカゴ』('38)でアカデミー助演女優賞を獲得した演技派。『襤褸と宝石』('36)では世間ずれした有閑マダムのすっとぼけぶりをコミカルに演じていたが、こうした浮世離れした役柄がなんとも巧い。いや、巧すぎる。
 そのほか、『犯罪王リコ』('31)のギャングの愛人や『肉の蝋人形』('33)のタフな女性記者など蓮っ葉で鉄火肌な女性を得意としたグレンダ・ファレル、『泥酔夢』では憎まれ役エズラを演じていたヒュー・ハーバート、『フットライト・パレード』のダンス監督役が印象的なフランク・マクヒュー、『じゃじゃ馬馴らし』('29)のジョセフ・カウソーン、『スミス都へ行く』('39)や『怒りの葡萄』('40)のグラント・ミッチェルなどが出演。また、当時ワーナーと契約したばかりだったブロードウェイのミュージカル女優ウィニー・ショーが、クライマックスのミュージカル・ナンバー“Lullaby of Broadway”でヒロインを演じている。さらに、ジョン・フォード映画の常連名優ウォルター・ブレナンやB級映画の名脇役E・E・クライヴがホテルの従業員役として顔を出しているのにも注目したい。

Lullaby of Broadwayのオープニング

LULLABY-1.JPG LULLABY-2.JPG LULLABY-3.JPG LULLABY-4.JPG

遠くからだんだんと歌いながら近づいてい来る女性

仰向けになってタバコをくわえる

そのシルエットがニューヨークの夜景に

カメラはその夜景の中へと入りこんでいく…

 

戻る