Borderland (2007)

 

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(P)2007 Lionsgate (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/105分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
モデル事件のドキュメンタリー
監督・スタッフ・俳優の音声解説
監督:ゼヴ・バーマン
製作:ローレン・ミュース
   ランドール・エメット
   ジョージ・フーラ
   エリサ・サリナス
脚本:エリック・ポッペン
   ゼヴ・バーマン
撮影:スコット・キーヴァン
特殊メイク:KNB EFX
音楽:アンドレ・レヴィン
出演:ブライアン・プレスリー
   ライダー・ストロング
   ジェイク・マックスワーシー
   ショーン・アスティン
   マルタ・イガレダ
   ダミアン・アルカザール
   べト・クエヴァス
   マルコ・バクッツィ
   フランチェスカ・ギヨン

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古い屋敷へ潜入するウリセス刑事とゾロイ刑事

そこにはカルト宗教の儀式を行った形跡が

 卒業旅行でメキシコへやって来たテキサスの大学生グループが、人間を生贄にするカルト教団に命を狙われるというサスペンス・ホラー。ドキュメンタリー・タッチのリアルな実録ドラマ・スタイルに、『悪魔のいけにえ』を彷彿とさせるモダン・ホラー的な味付けを施したユニークな作品だ。
 主人公はテキサス大学に通う男子学生エド、ヘンリー、フィルの3人。卒業を目前に控えた彼らは、学生最後の思い出にハメを外そうとメキシコ国境近くの町を訪れる。そこはアメリカからの旅行者を相手にした怪しげな店が立ち並び、金とドラッグとセックスが蔓延る無法地帯。地元の若い女性ヴァレリアと親しくなった彼らは、卒業後の進路に対する不安を抱えながらも、残り少ない青春を思う存分謳歌する。
 ところが、真夜中に一人で別行動をしたフィルが、人通りの少ない街角で近づいてきた集団に拉致されてしまう。いつまで経っても戻らないフィルのことを心配したエドとヘンリー。地元警察に捜索願を出すが、凶悪犯罪の後を絶たないメキシコではなかなかまともに取り合ってもらえない。
 やがて明らかになる犯罪組織の存在。麻薬王サンティランをボスとするその組織はカルト宗教を信仰し、麻薬の密輸を成功させるために人間を生贄として捧げていた。町の周辺では未解決の行方不明事件が多発し、それがサンティラン一味の犯行であることは地元住民も気付いている。しかし、町ではそこかしこに組織のメンバーが潜んでおり、報復を恐れる住民たちは誰もそれを口にしようとはしない。そればかりか、警察までもがその強大な組織力を恐れて手出しを出来ないでいるのだ。
 なんとかして親友を救い出せないかと奔走するエドやヘンリーたち。そんな彼らに、サンティラン一味によって相棒を惨殺された刑事ウリセスが協力を申し出る。ところが、その動きを察知した組織は、一人また一人と関係者を恐るべき手段で惨殺していくのだった・・・。
 凶悪犯罪や汚職の蔓延るメキシコであれば、いかにもありそうな話・・・と思ったら、なんと実際に起きた事件を基にしているのだという。

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両目をくり抜かれて殺されるゾロイ刑事

ウリセス刑事(D・アルカザール)はなす術もなかった

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メキシコへやって来たアメリカ人の大学生3人組

童貞のフィル(R・ストロング)に娼婦を紹介するヘンリー

 本作のモデルとなったのは、1989年春にメキシコで起きたアメリカ人学生マーク・キルロイの失踪事件。当時テキサス大学に通う学生だったマークは、春休みを利用して大学のサークル仲間たちとメキシコ国境近くの町マタモロスへ旅行に出かけた。
 アメリカでは春休みのことをスプリング・ブレイクと呼び、フロリダやカリフォルニアなどのビーチに全米から学生が大挙して訪れることで知られるシーズン。それに伴い、暴行事件や麻薬事件などが多発する時期でもある。
 実は、メキシコ国境近辺の町というのも、昔からスプリング・ブレイクの旅行先として人気が高い。というのも、メキシコはアメリカに比べて様々な規制が緩いからだ。酒は16歳から飲めるし、未成年でも風俗店には入り放題、麻薬だって簡単に手に入る。学生たちはテキサス側までは車で移動し、そこから徒歩で国境を越えてメキシコ側へと渡るのが通例だという。その方が、警備のチェックが甘いのだそうだ。
 マークと仲間たちも、同じようにして国境を越えてマタモロスへとやって来た。ひとしきり遊んだ彼らは、真夜中に再び徒歩でテキサス側へ戻ることに。マークはグループの最後尾を歩いていたが、テキサスへ着いた頃には姿を消していた。草むらで用でも足しているのだろうと考えた仲間たちは気楽に構えていたが、待てど暮らせどマークがやって来る気配はない。彼らは明け方になってようやく事の重大性に気付き、地元テキサスの警察に捜索願を届け出た。
 テキサスの警察はメキシコの警察に協力を要請したが、当初はにべもなく断られたという。後になって分かったことによると、対応に当たったメキシコ側の警官は麻薬組織に買収されていたのだそうだ。しかし、マークの父親が公務員だったことからテキサス州当局が圧力をかけ、なおかつ当時メキシコ政府が犯罪撲滅運動に力を入れており、アメリカ市民が行方不明になるという事件は対外的な影響が大きいと判断したことから、メキシコの警察はすぐに本腰を入れて捜査を開始した。
 それから数日後、麻薬密売の容疑で逮捕されていたセラフィン・エルナンデスという若者が、マークの誘拐に関わったことを告白。その供述をもとにマタモロス近郊の牧場を捜索したメキシコ警察は、地中に埋められたマークの遺体を発見した。その頭部は切断され、脳みそと骨髄が抜き取られていたという。
 そればかりか、牧場の敷地からは他にも14人の遺体が発見され、事態は大量殺戮事件の様相を呈する。この牧場の持ち主は“マタモロスのゴッドファーザー”と恐れられた犯罪組織のボス、アドルフォ・コスタンツォだった。
 母親の影響でアフリカのカルト宗教を信仰していたコスタンツォは、麻薬の密売を成功させるために生贄の儀式を行っていた。つまり、人間を生贄として捧げれば、神のご加護によって国境警備隊の目を欺くことが出来ると信じていたのである。そのため、彼はアメリカへ麻薬を密輸するたび、事前に人を拉致誘拐してきては殺していたのだという。
 ただ、それまでの犠牲者は全てメキシコ人で、なおかつ敵対する犯罪組織のメンバーばかりだった。それゆえに、事件が表面化することがなかったのである。しかし、最後に行った儀式が失敗に終わり、焦ったコスタンツォはメキシコ人ではなく白人を生贄として捧げることを決意。町中で犠牲者を物色していた手下たちの目に留まったのが、不運にもたまたまマークだったというわけだ。
 牧場は既にもぬけの殻だったが、その約1ヵ月後にメキシコ警察はコスタンツォの居場所を特定。刑務所に入ることを恐れたコスタンツォは、部下に命じて自分と恋人だった男性を射殺させた。

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エド(B・プレスリー)はヴァレリア(M・イガルデ)と親しくなる

遊園地でハメを外す若者たち

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エドとヴァレリアはお互いに愛し合うようになった

夜道を一人で歩くフィルに接近する車

 当時、学生だったゼヴ・バーマン監督は、同じようにメキシコを仲間と旅してきたばかりだったという。アメリカの常識が通用しない無法地帯、カトリックと土着信仰の融合した摩訶不思議な宗教観。そうしたメキシコの独特の風土に魅了されながらも、同時に不安や恐ろしさも感じたというバーマン監督。それだけに、このアメリカ人学生失踪事件は、当時の彼に強烈な印象を残したようだ。
 本作では、そうしたバーマン監督の実体験に基づく不思議の国メキシコの裏側を垣間見ることが出来る。それはエキゾチックかつ幻惑的であると同時に、醒めることのない悪夢のように恐ろしくも異質な世界だ。カメラは幻想的でファンタジックな夜の世界をため息の出るような美しさで捉えたかと思えば、ドラッグでトリップした若者たちの目線で歓楽街の狂乱をサイケデリックに映し出し、荒涼とした昼間の町や砂漠の風景を荒々しく描いていく。ざらついたフィルムの質感が、より一層のことリアル。『セブン』をお手本にしたと見られる部分も多々あるが、そこから一歩踏み込んだオリジナリティをしっかりと見せてくれるのは好感が持てる。
 また、場面の舞台やシーン展開によって、映像の色調や雰囲気を全く変えてしまう演出もユニークで、それが逆にドキュメンタリーのような臨場感を生み出すことに成功していると言えよう。中でも、裸電球がポツポツと灯っただけの薄暗いホテル内で、鉈を手に持った組織の集団にヘンリーが追い掛け回されるシーンは、リアリズムに満ちた恐怖という点で出色の出来栄え。さらに、同じく組織の集団に囲まれたエドとヴァレリアが、人里離れた一軒家に立て篭もるクライマックス・シーンでのバイオレンスの応酬と皮肉な展開には、誰もが日常と悪夢の表裏一体を実感させられることだろう。
 監督自身は本作を必ずしも純粋な意味でのホラー映画とは捉えていないようだが、それこそがこの“Borderland”という作品の強みなのかもしれない。ホラーという側面を強調すれば、恐らく『悪魔のいけにえ』やリメイク版『テキサス・チェーンソー』の2番煎じにしかなり得ないだろうし、かといって実録路線に傾倒してしまえば本作の核心である非日常的な恐怖が薄れてしまうだろう。ファンタジーとリアリズムの境界線を絶妙なバランスで保っているからこそ、凡百の低予算映画にはないパワフルな説得力が生まれたのだと言える。
 アメリカ本国では映画祭の特殊上映のみでDVD発売され、日本でも未だ未公開のままの本作。確かに、ストレートなホラー映画ではないので、低予算のB級映画としてはマーケティングが難しいのかもしれない。しかし、このまま埋もれさせてしまうにはあまりにも惜しい佳作だと思う。

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謎の集団によって拉致されてしまったフィル

アメリカから逃亡してきた凶悪犯ランドール(S・アスティン)

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地元警察に相談するエドとヘンリー(J・マックスワーシー)だったが

脱走したものの再び捕えられてしまうフィル

 物語の始まりはメキシコ・シティ。メキシコ警察のウリセス刑事(ダミアン・アルカザール)と相棒のゾイロ刑事(ホセ・マリア・ヤズピク)の二人は、とある古い屋敷へと潜入する。既にもぬけの殻となった屋敷内には、カルト宗教の儀式を行ったと見られる形跡が残されていた。
 生贄にされた動物の死体が散乱する中で、彼らは人間の体の一部と見られる骨も発見する。ところが、ウリセス刑事がちょっと目を放した隙に、ゾロイ刑事がどこからともなく現れた男たちに捕えられてしまう。
 椅子に縛り付けられ、片腕を切り落とされて悶絶するゾロイ刑事。さらに、男たちは彼の両目を1つずつナイフでくり抜いていく。両手足を縄で縛られ、その様子を無理矢理見せられるウリセス刑事。やがてゾロイ刑事は喉元を鉈で切り裂かれて絶命し、残されたウリセス刑事の耳元で男たちのリーダー格グスタヴォ(マルコ・バクッツィ)が囁く。“お前は警察へ戻って、俺たちに手を出すんじゃないと仲間に伝えろ”と。
 舞台は移ってアメリカはテキサス州。大学の卒業を間近に控えたエド(ブライアン・プレスリ)とヘンリー(ライダー・ストロング)、フィル(ジェイク・マックスウォーシー)の3人は、それぞれ今後の進路について様々な不安や悩みを抱えていた。気晴らしにメキシコへ行って派手に遊ぼうと提案するやんちゃ坊主のヘンリー。お坊ちゃま育ちで素直なフィルも賛同するが、真面目な優等生のエドは気が進まない。しかし、学生生活最後の思い出になればと、3人は国境近くの町へと出かけることにした。
 町中をひとしきり見て回った彼らは、ここからが遊びの本番とばかりに、怪しげなストリップ・クラブへと入る。いまだに童貞だというフィルのために売春婦を調達するヘンリー。しかし、その売春婦は子持ちのシングル・マザーで、子供好きのフィルは変に感情移入してしまい、セックスどころの話ではなくなってしまった。
 一方、エドは店のバーテンダーをしているタフでしっかり者の女性ヴァレリア(マルタ・イガレダ)と親しくなる。翌日、ヴァレリアと待ち合わせをしたエドたちは、彼女の従姉妹ルーペ(フランチェスカ・ギヨン)を交えて繁華街を練り歩き、遊園地へと繰り出す。
 マジック・マッシュルームを食べてすっかりハイになり、遊園地のアトラクションを楽しむ若者たち。町中も“死者の祭り”で賑わっており、華やかに飾られた墓地でデートを楽しむエドとヴァレリアは、いつしかお互いを愛するようになる。
 一方、昨晩の売春婦母子のためにお土産を買ったフィルは、人気の少ない真夜中の街角を一人で歩いていた。すると、マリオ(ウンベルト・ブスト)という人懐っこそうな若者に声をかけられ、夜道は危ないから車で送ろうと勧められる。ためらいながらも近づいてきた車に乗り込むフィル。運転席に乗っていたのはグスタヴォ。車内の怪しげな雰囲気に、フィルは強い不安を感じる。
 翌朝になって、フィルがホテルへ戻ってこないことを心配したエドとヘンリー。二人は地元の警察に相談するが、対応に出てきた警官は真剣に取り合ってはくれない。途方に暮れる彼らの目に入ってきたのは、頻発する行方不明者の捜索を訴える地元住民のデモ行進だった。
 一方、その頃フィルは牧場らしき場所の納屋に監禁されていた。天井から吊り下げられた縄で両手を縛られた状態のフィル。その彼の前に現れたのは、ランドール(ショーン・アスティン)という名のアメリカ人だった。どうやら、彼は凶悪事件を起こしてアメリカから逃亡してきた犯罪者らしい。隙を見て納屋を逃げ出したフィルは、牧場のあちこちに散乱する人間のバラバラ死体を見て戦慄する。それでも彼は必死になって逃げたが、馬に乗って追いかけてきた男に捕えられてしまった。
 町で商店を経営するルーペによると、相次ぐ行方不明事件の犯人は麻薬王サンティラン(べト・クエヴァス)の率いる犯罪組織だという。彼らはカルト宗教を信仰し、犯罪の成功を祈願するために人間を生贄として捧げていたのだ。多くの住民がその事実に勘付いているが、組織からの報復を恐れて口をつぐんでいる。町中には組織のメンバーが数多くうろついているからだ。
 ふと気付くと、商店の前に組織のメンバーらしき男たちの車が停まっていた。どうやら、こちらを監視しているようだ。血気盛んなヘンリーは手に持った鉄の棒で車を破壊しようとするが、逆に拳銃で首筋を撃たれてしまう。そこへ警察のパトカーが通りがかり、エドが大声で助けを求めるが、事態を察したパトカーは急いで逃げ去ってしまった。警察も組織を恐れているのだ。
 怪我を負ったヘンリーを病院へ担ぎ込んだエドとヴァレリア。彼らの前にウリセス刑事が現れる。サンティラン一味を追ってこの町へやって来たウリセス刑事だったが、地元警察からは相手にされず孤立無援の状態だった。フィルを救い出すことを約束する代わりに、彼はこれまで集めたサンティラン一味の資料をFBIへ渡して欲しいとエドたちに頼む。
 数時間後にホテルで落ち合うことを約束し、ウリセス刑事と別れたエドたち。ヘンリーをホテルの部屋に残し、エドはヴァレリアを彼女の家へと送り届ける。ところが、そこには首を切断されたルーペの死体が。彼女の首はヤギの首とすげ替えられていた。
 その頃、ホテルに残されたヘンリーは、辺りの異様な雰囲気に気付いていた。建物内の電気が消され、受付にもロビーにも人っ子一人いなくなったのだ。暗闇の中をうごめく人影の集団。それはサンティラン一味の暗殺団だった。手に鉈を持って追いかけてくる男たち。必死で逃げまどうヘンリーだったが、屋根の上で一味に囲まれ、鉈でズタズタに体を裂かれて殺されてしまう。
 ホテルでヘンリーの無残な死体と対面したエドとヴァレリア。二人はウリセス刑事と共に、フィルを救出するため牧場へ向かうことにする。その頃、牧場では生贄の儀式が始まろうとしていた・・・。

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ルーペ(F・ギヨン)によると犯人はカルト信仰の犯罪集団だという

ウリセス刑事がフィルの救出に協力を申し出る

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帰宅したヴァレリアの見たものとは・・・

首を切断されたルーペの死体だった

 監督のゼヴ・バーマンは、ドミニク・スウェインとヘンリー・トーマス主演の犯罪スリラー“Briar Patch”(03)で注目を集めたインディペンデント系映像作家。これが劇場用長編映画2作目に当たる。いかにもポスト・デヴィッド・フィンチャー的な映像センスは評価の分かれるところかもしれないが、単なるエピゴーネンに終始することのない実験精神には様々な可能性を感じる。低予算を感じさせない風格のある演出も悪くない。これからが期待できる若手監督の一人ではないかと思う。
 そのバーマン監督と共に脚本を手掛けたエリック・ポッペンは、『ヒルズ・ハヴ・アイズ2』(07)で知られるマーティン・ワイズ監督の最新作“Clock Tower”(10)の脚本に起用されている。
 また、撮影監督を担当したスコット・キーヴァンは、イーライ・ロス監督の『キャビン・フィーバー』(02)で頭角を現し、レニー・ハーリン監督の『ザ・クリーナー 消された殺人』(07)やポール・W・S・アンダーソン監督の『デス・レース』(08)、リメイク版“Fame”(09)など近年はメジャー映画でも活躍しているカメラマン。
 そのほか、『リーサル・ウェポン4』(98)や『トゥーム・レイダー』(01)などのエリック・ストランドが編集を、『フィラデルフィア』(93)や『クイズ・ショウ』(94)などのティム・ギャルヴィンがプロダクション・デザインを、ハリウッドを代表するSFX工房K.N.B. EFXが特殊メイク及び特殊効果を手掛けている。

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カルト集団に追いつめられたヘンリー

ヘンリーの体に次々と鉈が振り下ろされる

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フィルの救出に参加することを決意したエドとヴァレリア

今まさに生贄の儀式が執り行われようとしていた・・・

 さらに、本作は主演の若手俳優たちのキャスティングがなかなかいい。それぞれ演技力と個性に恵まれた役者を揃え、観客が素直に感情移入できる複雑な若者像を描き出したのは賢明だったと言えよう。その点も、本作が単なるホラー映画とは一線を画する重要な要素だ。
 主人公エド役を演じているブライアン・プレスリーは、アメリカの昼メロ・ドラマ“Port Charles”(00〜03)の主演で人気を集めた2枚目俳優。映画ではサミュエル・L・ジャクソン主演の『勇者たちの戦場』(06)で、若きイラク帰還兵トミー役を演じて注目された。繊細で陰のある魅力的な役者だ。一貫して暴力には否定的だったエドが、文字通り悪夢のような経験を通じて、己の中にも眠る野獣的な本能に目覚めて困惑するクライマックスは印象的だった。
 一方、その悪友である今どきの若者ヘンリー役を演じているジェイク・マックスワーシーは、インディペンデント映画を中心に活躍する若手俳優。いかにも悪ガキ風で血気盛んな若者ヘンリーが、生まれて初めて経験する本物の恐怖を目の前にして、等身大の素直な自分をさらけ出していく姿は感動的ですらあった。それだけに、その無残な最期が観客の同情を誘う。
 そして、彼らの弟分的な存在であるフィル役を演じたのは、人気テレビ・ドラマ『ボーイ・ミーツ・ワールド』(93〜00)のショーン役でティーンの人気アイドルとなったライダー・ストロング。見るからに素朴で心優しい好青年のフィルが、自らの置かれた状況に戸惑いと恐怖を感じながらも、やがて生存本能と闘争本能に目覚めていく様子を迫真の演技で見せてくれる。
 そのほか、キアヌ・リーヴスと共演した『フェイク・シティ ある男のルール』(08)でハリウッド・メジャーに進出したメキシコ女優マルタ・イガレダがヴァレリア役を、『グーニーズ』(85)や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのサム役でお馴染みのショーン・アスティンがイカれたサイコ・キラーのランドール役を、チリ出身の人気ロック・バンド、ラ・レイのリード・ボーカリストであるべト・クエヴァスが麻薬王サンティラン役を演じている。
 また、『ナルニア国物語:第2章:カスピアン王子の角笛』(08)のソペスピアン卿役で知られ、メキシコのアカデミー賞であるアリエル賞の主演男優賞を4回、助演男優賞を3回も受賞している名優ダミアン・アルカザールが、麻薬王サンティランを執拗に追うウリセス刑事役で強烈な印象を残す。

 

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