Black Death (2010)

 

BLACK_DEATH_BD.JPG
(P)2011 Magnolia (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★★
ブルーレイ(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:2.40:1/HD規格: 1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:A/102分/制作国:イギリス・ドイツ

<特典>
・未公開シーン集
・メイキング・ドキュメンタリー
・出演者&スタッフのインタビュー
・撮影舞台裏フッテージ集
・プロモーション映像
・オリジナル劇場予告編
監督:クリストファー・スミス
製作:ダグラス・レエ
   ロバート・バーンスタイン
   イェンス・モイラー
   フィル・ロバートソン
脚本:ダリオ・ポローニ
撮影:セバスティアン・エドシュミット
音楽:クリスチャン・ヘンソン
出演:ショーン・ビーン
   エディ・レッドメイン
   カリス・ファン・ハウテン
   ジョン・リンチ
   ティム・マッキナニー
   キンバリー・ニクソン
   アンディ・ナイマン
   デヴィッド・ワーナー
   ジョニー・ハリス

<Review>
 「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのショーン・ビーンに、「レ・ミゼラブル」('12)のエディ・レッドメインという人気スターのダブル主演ながら、日本では劇場公開はおろかソフト発売すらされないままの作品。ヨーロッパ中で疫病のペストが猛威をふるう14世紀半ばのイギリスを舞台に、邪悪な魔術師が支配すると噂される辺境の村を訪れた騎士団と若き修道士の信仰心が試される。宗教と超自然をテーマにしたホラー・タッチの時代劇アドベンチャーである。
 主人公は10代の修道士見習いオズマンド。神に仕える身でありながら、幼馴染の少女アヴェリルと密かに愛し合っている彼は、そんな己の罪深さを恥じていた。ある日、ウールリックという男の率いる騎士団が修道院に立ち寄る。彼らはプロテスタント教会の密命を受け、ペストの被害者が一人も出ていないという村を探していた。偶然にも、そこはオズマンドの故郷にほど近い場所。これを神の啓示だと直感した彼は、村までの道案内を買って出る。
 果たして、ヨーロッパ中でペストが猛威をふるう中、その村では1人の患者も出していなかった。これはきっと邪教の仕業に違いないと考えるウールリックたち。村のリーダー的存在である女性ランギヴァには、なにか超自然的な能力があるようだった。彼女こそが反キリストの魔女なのか?疑いを深める騎士団たちだが、村人も彼らが教会の手先であることを察知していた。このまま彼らを帰らせてしまえば、村が教会から弾圧されてしまう。そこで、村人たちは騎士団のメンバーとオズマンドを監禁し、信仰を捨てさせようとするのだが…。
 病気や災いが神の意思や悪魔の仕業だと本気で考えられていた時代を背景に、宗教への盲信がもたらす残酷な悲劇を描いた作品だ。冷静に考えれば、村に患者がいないのはペスト菌がまだ到達していないというだけの話だし、魔女と疑われるランギヴァの不思議な能力も彼女の演出に過ぎない、村人たちの不安や恐怖といった心理を利用しているだけなのが分かるはず。だが、人間は自分の信じたいようにしか物事を見ない。
 ましてや、医学や科学の知識が乏しかった時代にあって、聖書に記されていることが全ての基準であり、それに疑問を差し挟むこと自体が罪とされていた。ウールリックやオズマンドも、心のどこかでは魔女や魔法など存在しないと気づいてはいるものの、正しいと教えられてきた価値観が覆されるという恐怖の方が優ってしまい、結果的に最悪の選択をしてしまうことになるのだ。
 受け入れがたい残酷な現実、自分の属する社会とは異なる価値観、人間という存在そのものの罪深さ。それら全てを宗教の名のもとに拒絶し、“神”への服従に自己の正当化と現実逃避を見出したオズマンドは、純朴な若者から過激な宗教原理主義者へと変貌してしまう。現代にも脈々と受け継がれる信仰心の危うさを巧みに織り交ぜつつ、重厚感のある歴史エンターテインメントとして仕上げた作品。血みどろのバイオレンス描写を含む、ゴシック調のダークなビジュアルにも惹きつけられる。海外ではリメイク版「ウィッカーマン」('06)と比較する論評も見受けられるが、雰囲気的には「薔薇の名前」('86)に近いものがあると言えよう。日本未公開で終わらせるには惜しい佳作だ。

<Story>
 舞台はペストの疫病が猛威をふるった1348年のイングランド。神に守られているから安全だとされてきた修道院にも感染者が現れ、若き見習い修道士オズマンド(エディ・レッドメイン)は匿っていた幼馴染の少女アヴェリル(キンバリー・ニクソン)を修道院から脱出させる。
 実は、彼は聖職者の身でありながらアヴェリルと深く愛し合っていた。2人は生まれ故郷の近くにある森で落ち合うことを約束して別れるが、オズマンドはこのままアヴェリルと結ばれることに深い罪悪感を抱いている。自分がしていることは神への裏切り行為だと。天罰を恐れるオズマンドは、自分はどうすべきなのかと神に問い続けていた。
 そんな折、ウールリック(ショーン・ビーン)率いる騎士団の一行が修道院を訪れた。彼らはとある村へ向けて旅をしているという。その村にはまだペストの感染者が出ていないらしく、その理由を探るためにプロテスタント教会から派遣されたというのだ。ただ、目的地へたどり着くにあたって土地感のある者がいない。そこで、誰か道案内ができる者はいないか探しているというのである。
 その話を聞いたオズマンドは、彼らの向かう村が自分の生まれ故郷のすぐそばであることに気づく。これは神からの啓示に違いない。そう考えた彼は、自ら案内役を買って出るのだった。騎士団の一行は、厳格で勇猛果敢なウールリックを筆頭に、経験豊かな賢者ウルフスタン(ジョン・リンチ)、恐れ知らずの大男モールド(ジョニー・ハリス)、血気盛んなグリフ(ジェイミー・バラード)、猜疑心の強い拷問人ダリワグ(アンディ・ナイマン)、召使代わりの聾唖者アイヴォ(ティゴ・ゲルナント)、そして剣術の達人スワイア(イーマン・エリオット)と、いずれも一癖ある男ばかり。修道院長(デヴィッド・ワーナー)は、ナイーブなオズワルドを同行させることに強い懸念を示す。
 修道院の外はまさに生き地獄だった。民衆の心は荒れ果て、か弱い女性がスケープゴートとして魔女のレッテルを貼られ、ペストを撒き散らしたという罪で処刑されていた。全く根拠のないことは明白だったが、オズマンドやウールリックらにはそれを止めることはできない。
 そうした悲惨な状況の中、オズワルドはウールリックから旅の本当の目的を知らされる。というのも、噂によるとその村にペストの感染者がいないのは、村を支配する魔術師の魔力に守られているからだというのだ。もしそれが本当であれば由々しき問題だ。魔術を使う邪教の異端者を排斥し、その信者を撲滅せねばならない。それが、教会から彼らに託された重大な使命だったのである。
 グリフがペストの犠牲になるという悲劇を乗り越え、一行はオズワルドの故郷の近くへと通りがかった。アヴェリルと再開するために森へと向かうオズワルド。だが、そこで彼が見たものは、アヴェリルの上着と大量の血痕だった。驚いて立ちすくむ彼の前に、盗賊の一味が姿を現す。慌てて仲間のもとへ逃げ帰るオズワルド、そして彼を追いかける盗賊団。たちまち、血で血を洗う壮絶な戦いとなった。
 盗賊たちを追い払った騎士団だが、残念ながらスワイアを失ってしまった。自分が森へ行かねば盗賊と遭遇することもなかった…オズワルドはまたしても自責の念に駆られる。そうこうするうちに、一行は目的地の村へとたどり着いた。そこは地上の楽園とも呼ぶべき場所で、人々は疫病の心配もなく平和に暮らしていた。だが、ウールリックはその光景に少なからず違和感を抱く。というのも、村の教会が明らかに朽ち果てているのだ。
 彼らを迎え入れたのは、ランギヴァ(カリス・ファン・ハウテン)という不思議なカリスマ性を持った女性と、その片腕とおぼしき大男ホブ(ティム・マッキナニー)。ウールリックは、2人のいずれかが魔術師に違いないと睨むのだが…。

<Information>
 監督は「0:34 レイジ34フン」('04)や「トライアングル」('09)など、地味だが良質のホラー映画を作り続ける英国人監督クリストファー・スミス。もともとはティーン向けスパイ映画「アレックス・ライダー」('06)で知られるジェフリー・サックス監督にオファーされていたらしいが、題材的に考えてもスミス監督へバトンタッチされて正解だったと言えよう。
 脚本を手がけたダリオ・ポローニはイタリア系のイギリス人。小さな孤島を舞台にしたサバイバル・サスペンス「処刑島」('06)に続き、本作が劇場用長編映画2本目となる。ただ、脚本の半分くらいは撮影開始にあたってスミス監督が書き直しているらしく、特に後半の展開は全く違うものになったと言われている。
 撮影監督は、ポール・シュレイダー監督の「囚われのサーカス」('08)やマイケル・ホフマン監督の「終着駅 トルストイ最後の旅」('09)などで、風格のある映像をモノにしてきたセバスティアン・エドシュミット。また、「トライアングル」などでもスミス監督と組んだクリスチャン・ヘンソンが音楽スコアを手がけている。また、ラッセ・ハルストロム監督の「ショコラ」('00)やロバート・アルトマン監督の「ゴスフォード・パーク」('01)、スパート・サンダース監督の「スノーホワイト」('12)などで知られるジョン・フランキッシュによる厳かな雰囲気の美術デザインも要注目。「Vフォー・ヴェンデッタ」('05)で高く評価されたサラ・ホートンがセット装飾を担当している。

 ウールリック役には、「ロード・オブ・ザ・リング」三部作以降すっかり騎士役のイメージが定着してしまったショーン・ビーン。最近ではテレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ 第一章:七王国戦記」('11)も印象深いが、やはり中世の甲冑と剣が彼ほどよく似合う俳優はなかなかいない。
 実質的な主人公である若者オズマンド役を演じているのは、マリリン・モンローに魅せられる撮影見習いの青年を演じた「マリリン 7日間の恋」('11)やミュージカル映画「レ・ミゼラブル」('12)のマリウス役でブレイクしたエディ・レッドメイン。これが初の大役だったわけだが、ショーン・ビーンとの顔合わせは「薔薇の名前」のショーン・コネリーとクリスチャン・スレーターを彷彿とさせるものがあって興味深い。
 そして、村を統治するミステリアスな女性ランギヴァ役には、ポール・ヴァーホーヴェン監督の傑作「ブラックブック」('06)の主演で脚光を浴びたオランダ人女優カリス・ファン・ハウテン。本作では基本的に悪女的な役回りでありながら、実は最も冷静に状況を達観した現実主義者であり、いわば物語の“理性”を司る存在とも言えよう。
 そのほか、パット・オコナーやデレク・ジャーマンなどに愛されたアイルランドの名優ジョン・リンチ、「101」('96)シリーズや「ジョニー・イングリッシュ気休めの報酬」('11)などのティム・マッキナニー、「ドリアン・グレイ」('09)や「スノー・ホワイト」のジョニー・ハリスなど、かなり渋い役者が脇を固める。「オーメン」('76)や「タイタニック」('97)の名優デヴィッド・ワーナーが修道院長役でゲスト出演しているのも見逃せない。

 

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