バーブラ・ストレイサンドは本当に歌が上手いの?

 

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 バーブラ・ストレイサンドは果たして本当に歌が上手いのか?というのは、ボクの長年の大きな疑問だったりする。バーブラと言えば、アメリカのショー・ビジネス界の女王。泣く子も黙るスーパー・スターだ。ブリトニー・スピアーズからマライア・キャリー、セリーヌ・ディオンに至るまで、バーブラを目標にしていると公言して憚らないスターは数多い。しかし、ボクはバーブラのヒット曲で好きなものはあっても、彼女がそこまで優れたボーカリストだと感じたことがない。
 確かに、普通に上手い人だとは思う。でも、オクターブの幅は決して広くはないし、自信たっぷりに歌うわりには声量も平均的。高音になると明らかに無理して声を搾り出しているし、勢いで歌いきろうとするから非常に荒っぽい印象を受ける。要は大味なのだ。歌の上手さという点で言うならば、テクニック、表現力、声質など彼女よりも優れた女性ボーカリストはいくらでもいるはず。
 映画女優としても賛否は分かれるところだと思う。アカデミー主演女優賞に輝いた「ファニー・ガール」('68)や「ハロー・ドーリー!」('69)のように、コメディエンヌとしての才能は買うものの、昔ならバーグマンやヴィヴィアン・リー辺りが演じたであろう「追憶」('74)のヒロインに至っては、その顔でよくそこまで美女気分に浸れるもんだと違った意味で感心したもんだった。自ら監督・主演を務めた「愛のイエントル」('83)はフェミニズム映画として非常に優れた作品で、ボク自身もとても好きな映画の一つだが、バーブラの男装には正直失笑を禁じえなかった。
 この自己陶酔の域にまで達したような自我の強さ、自己顕示欲の強さというのが、アメリカ人の共感を呼ぶのだろうか。あたしが!あたしが!あたしが!といった強烈なエネルギーこそが、バーブラ・ストレイサンドというスターの人気の秘密のような気がしてならない。そういえば、私生活から何から売り物にしてしまうブリトニー・スピアーズ、ジェシカ・シンプソンなど、アメリカのショー・ビズ界を賑わせるスーパー・スターは揃いも揃って自己顕示欲の塊のような人が多い。自己主張こそが美徳とされるお国柄ゆえなのか。

 その一方で、素顔のバーブラは意外にも(?)コンプレックスの塊だったりする。もともと、ブルックリンで生まれ育った彼女は、生後15ヶ月で実の父親を失ってしまった。義理の父親との仲は良くなく、母親もショー・ビジネス界に憧れる娘に“お前はブスだから諦めなさい”と消極的。容姿に自信がなく、人前に立つのが苦手だった彼女は、オーディションの際に審査員に背を向けて歌ったという逸話まで残されている。オフ・オフ・ブロードウェイでキャリアをスタートさせ、ブロードウェイで大成功を収めた彼女だが、その陰では常に舞台恐怖症と闘っていた。それ故に、93年の全米ツアーまで27年間もコンサート・ツアーを行っていなかった。そうした、ハンデを克服して成功を手に入れた苦労人的側面も、アメリカ人好みの浪花節的趣味にマッチしているのかもしれない。
 また、アメリカにおけるバーブラ人気はゲイを抜きにしては語れない。だいたい、アメリカでバーブラのファンだと公言する男性がいたら、まずゲイだと思って間違いないだろう。もしくは、ヘテロの日本人男性がアメリカに行って、何も知らずにバーブラのファンだと言ったら、真っ先にゲイだと勘違いされる。それくらい、アメリカではゲイの間でバーブラ人気が高い。熱狂的なゲイのファンが、サンフランシスコに彼女の博物館を建ててしまったのは有名な話だ。ポール・レダー監督の推理サスペンス映画「引き裂かれた遺言状/アカプルコ殺人事件」('83)では、バーブラの物真似をするニュー・ハーフまで登場する。コンプレックスをバネにしてしまう気の強さ、“アタシはブスじゃなくてユニークなだけよ!”とでも言わんばかりの反骨精神とポジティブさが、社会から偏った目で見られることの多いゲイの人々の琴線に触れるのだろう。しかも、彼女の息子である俳優ジェイソン・グールドはゲイであることを公言しており、バーブラ自身も息子と共にゲイの人権活動に積極的に参加している。

 というわけで、バーブラ・ストレイサンドという人は、あらゆる意味で非常にアメリカ的なスターだと言えるだろう。勿論、それはいい意味で。自己主張が強くて、リベラルで、見事なまでに楽天的。特別優れた歌い手だとは思わないし、その容姿もかなり苦手な部類だが、偉大な女性であるという事実は認めざるを得ない。もちろん、「追憶」や「スター誕生愛のテーマ」、「ウーマン・イン・ラブ」など、70年代から80年代にかけてのヒット曲も大好きだ。あくまでも個人的な見解として、過大評価され過ぎているんじゃないかという気持ちはあるものの、その辺りは人それぞれの趣味の問題。バーブラ・ストレイサンドはバーブラ・ストレイサンドだからこそ、アメリカの一般大衆の心をとらえて離さないのかもしれない。

 

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Streisand Superman (1977)

Songbird (1978)

Guilty (1980)

Yentl (1983)

(P) CBS Inc (USA) (P) CBS Inc. (USA) (P) CBS/Columbia (UK) (P) CBS Inc. (USA)
1,Superman
2,Don't Believe What You Read
3,Baby Me Baby
4,I Found You Love
5,Answer Me
6,My Heart Belongs To Me
7,Cabin Fever
8,Love Comes From Unexpected Places
9,New York State Of Mind
10,Lullaby For Myself

produced by Gary Klein
1,Tomorrow
2,A Man I Loved
3,I Don't Break Easily
4,Love Breakdown
5,You Don't Bring Me Flowers
6,Honey Can I Put On Your Clothes
7,One More Night
8,Stay Away
9,Deep In The Night
10,Songbird

produced by Gary Klein
CD Audio Side
1,Guilty (duet with Barry Gibb)
2,Woman In Love
3,Run Wild
4,Promises
5,The Love Inside
6,What Kind Of Fool (duet with Barry Gibb)
7,Life Story
8,Never Give Up
9,Make It Like A Memory
produced by Barry Gibb
DVD Side
Interview with Barbra Streisand & Barry Gibb
Guilty (Duet with Barry Gibb) Live Video
What Kind Of Fool (Duet with B.Gibb) Live Video
Stranger In A Strange Land
Photo Gallery
All 9 Song in PCM Stereo
1,Where Is It Written?
2,Papa, Can You Hear Me?
3,This Is One Of Those Moments
4,No Wonder
5,The Way He Makes Me Feel
6,No Wonder (Part Two)
7,Tomorrow Night
8,Will Someone Ever Look At Me That Way?
9,No Matter What Happens
10,No Wonder (Reprise)
11,A Piece Of Sky
12,The Way He Makes Me Feel (Studio Version)
13,No Matter What Happens (Studio Version)

produced by Barbra Streisand, Alan & Marilyn Bergman
 この頃のバーブラは、本当にいい曲ばかり歌ってました。爽やかで甘酸っぱいポップ・バラード#1なんか最高です。ソフト&メロウで都会的なソウル風ナンバー#4、ポール・ウィリアムスが参加したシャンソン風の美しいバラード#5、全米1位に輝いた大ヒット・バラード#6など、素晴らしい楽曲ばかり。キム・カーンズのカバー#8やビリー・ジョエルのカバー#9も大好き。全米アルバム・チャートで3位を記録し、200万枚以上を売り上げた傑作アルバムです。  これまた都会的でメランコリックな素晴らしいアルバム。ミュージカル「アニー」の主題歌をメロウなボサノバとしてカバーした#1のフワフワとした優しさ!ニール・ダイアモンドとのデュエットで大ヒットした#5は、バーブラのソロ・バージョンでの収録ですが、デュエット・バージョンよりも秀逸な出来映えです。再びキム・カーンズのカバーに挑んだ#8やスティーブン・ビショップのカバー#7など、いわゆるAOR的アプローチが魅力的。捨て曲一切ナシ。オススメ!  世界各国でナンバー・ワンに輝き、アメリカだけで500万枚以上を売り上げたメガ・ヒット・アルバム。作曲・プロデュースを手掛けたバリー・ギブのメロディ・メーカーとしての才能が遺憾なく発揮された大傑作です。中でも、大ヒットした#2は、アバの「ザ・ウィナー」と並んで80年代前半を代表するバラードの名作。ちなみに、大橋純子の「シルエット・ロマンス」って、明らかにこの曲のバクりですよね。特にサビなんか余りにもソックリ過ぎて、最初聴いたときは大爆笑でした。  バーブラが自ら監督・主演をこなした映画「愛のイエントル」のサントラ。セミ・ミュージカル形式で、ほぼ全曲バーブラが歌っています。随所にユダヤ音楽の音階を配した美しいメロディを創り上げたのはフランスの巨匠ミシェル・ルグラン。「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」、「おもいでの夏」にも匹敵する素晴らしい仕事をしています。まるでヨーロッパ映画のような叙情性が絶品。バーブラの情熱溢れる歌いっぷりも見事で、個人的には彼女の最高傑作だと思っています。

EMOTION.JPG GUILTY_TOO.JPG COME_TOMORROW.JPG NIGHT_OF_MY_LIFE.JPG

Emotion (1984)

Guilty Too (2005)

Come Tomorrow (2005)

Night Of My Life (2005)

(P) CBS Inc. (USA) (P)2005 Comubia/Sony/BMG (UK) (P)2005 Columbia/Sony/BMG (UK) (P)2005 Columbia/Sony/BMG (USA)
1,Emotion
2,Make No Mistake, He's Mine
  (diet with Kim Carnes)
3,Time Machine
4,Best I Could
5,Left In The Dark
6,Heart Don't Change My Mind
7,When I Dream
8,You're Step In The Right Direction
9,Clear Sailing
10,Here We Are At Last

produced by Richard Perry, Bill Cuomo & Kim Carnes,Maurice White, Charles Koppleman & Barbra Streisand, Jim Steinman, Abby Galuten, Richard Baskin

CD Audio Side
1,Come Tomorrow (duet with Barry Gibb)
2,Stranger In A Strange Land
3,Hideaway
4,It's Up To You
5,Night Of My Life
6,Above The Law (duet with Barry Gibb)
7,Without Your Love
8,All The Children
9,Golden Dawn
10,(Our Love) Don't Throw It All Away
11,Letting Go
produced by Barry Gibb & John Merchant
DVD Side
Interview
Above The Law (duet with Barry Gibb) video
Hideaway video
Stranger In A Strange Land video
Letting Go video
All 11 songs in PCM Stereo

1,Come Tomorrow (duet with Barry Gibb)
2,Night Of My Life
  (Love To Infinity Master Mix) 6:43

produced by Barry Gibb & John Merchant.
#2 remixed by Love To Infinity

1,Junior Vasquez Roxy Anthem Remix 7:54
2,L.E.X. Club Mix 8:50
3,John Luongo 12" Mix 9:05
4,John Luongo 7" Mix 3:48

produced by Barry Gibb & John Merchant
 バーブラにとって80年代最後のポップ・アルバムとなった作品。大御所リチャード・ペリーからアース・ウィンド&ファイアのモーリス・ホワイトまで、豪華なプロデューサー陣を揃えた力作ながら、セールス的にはイマイチでした。確かにボニー・タイラーの「愛の陰り」の焼き直しのようなシングル#5やEW&Fの「愛のファンタジー」そっくりの#7など、ヒット・チャートを意識しすぎた印象は否めないものの、いかにも80年代的な出来映えは嫌いじゃないですね。  “Emotion”以来21年ぶりのポップ・アルバムにして、“Guilty”以来25年ぶりにバリー・ギブと組んだ作品。前作のようなマジックは残念ながら消えてしまったものの、#3なんかは「ウーマン・イン・ラブ」を彷彿とさせるバリー・ギブらしい美しいメロディが印象的な佳作。しかし、ジャケットではイマイチ分からないけど、DVDサイドを見たらバリー・ギブのお爺ちゃんぶりに愕然。よくよく考えたら、もう60歳なんですよね、彼。バーブラもすっかり年寄りの声になってます。  “Guilty Too”からのファースト・シングル。目玉はバーブラにとって恐らく初と思われるハウス・リミックス#2。ただ、リミックスを手掛けたのが、個人的に昔から苦手なLove To Infinityなだけに期待していなかったのですが、まあ案の定といった感じ・・・。原曲も特にインパクトのある作品ではないんですけどね。ちなみに、アルバム“Guilty Too”はアメリカでは“Guilty Pleasure”のタイトルでリリースされています。  こちらはプロモ盤のみでリリースされたクラブ・ミックス集。何といっても目を引くのは、ダン・ハートマンの“Relight My Fire”やピーター・シリングの“Major Tom”など、70年代から80年代にかけて数多くの名リミックスを手掛けた大ベテラン、ジョン・ルオンゴの名前。ちょっと古めかしいミックスですが、いかにもディスコティックで煌びやかな出来映えはまずまず。キャッチーでトライバルなハード・ハウスに仕上がった#2も結構好き。

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