バーバラ・スティール Barbara Steele

 

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 イタリア映画界が生んだ世界的なホラー映画の女王。それまでベラ・ルゴシやボリス・カーロフなど、“ホラー映画の帝王”だったら何人も存在したが、女王と呼ばれるような女優は彼女が初めてだったように思う。それは、ホラー映画におけるヒロイン像が、単に悲鳴をあげてヒーローの助けを待つか弱い存在という受動態から進化したことを意味する。
 長い黒髪にほっそりとした彫りの深い顔立ち、そして吸い込まれそうなくらいに大きな目。そのエキゾチックで妖艶な美しさは、闇の世界に棲む魔性の女にも、勇敢で気高い可憐なお姫様にもうってつけ。要は、一歩間違えると妖怪のようにも見えてしまう、実に個性的な顔をしていたのだ。出世作『血ぬられた墓標』(60年)では純真無垢な娘カーチャと邪悪な王女アーシャの二役を演じていたが、カメラの角度や表情によって全く印象が違って見える。まさに彼女のためにあるような適役だった。
 ただ、その一方で必ずしも演技の上手い人ではなかったことも事実。それだけに、ホラー映画以外に役柄の幅を広げることは出来なかった。変わった顔が大好きな巨匠フェデリコ・フェリーニは『81/2』(63年)で彼女を起用したが、その役柄自体はあまり重要なものではなかった。もっとも、フェリーニ自身は実際にバーバラ本人に会ってすっかり気に入ってしまい、彼女のパートを増やすことも考えていたらしい。ただ、スケジュールの調整がつかず、仕方なく断念せざるを得なかったという。その後も、フェリーニは幾度となくバーバラの起用を検討したが、その度にお互いのスケジュールがかみ合わなかったようだ。フェリーニであれば恐らく彼女の個性を存分に生かすことが出来ただろうにと考えると、二人のコラボレーションが実現しなかったのはつくづく残念でならない。

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『血ぬられた墓標』より

 1937年12月29日、イギリスはチェルシャー州バーケンヘッドの生まれ。ただし、本人はインタビューの中でアイルランド出身と語っていたことがある。また、かつてAIPが作成したプレス資料にはリヴァプールの出身とも書かれており、いまひとつはっきりとしていない。はっきりしているのは、彼女の生家がバーケンヘッドにあるということ、そして彼女の家族がアイルランド系であるということだ。
 彼女の祖母は大変な演劇好きで、自宅の敷地内に小さな劇場を持っていたという。バーバラ自身も7歳の時に、その劇場で初舞台を踏んだ。演劇への道を志した彼女は、ロンドンの演劇芸術アカデミーに学び、さらにチェルシー美術学校とパリのソルボンヌ大学で美術も学んだ。
 その後、舞台女優として活動するようになったバーバラは、グラスゴーの舞台に出演している際、大手映画会社ランク・オーガニゼーションのキャスティング・ディレクターによってスカウトされる。58年にラブ・コメディ『大学は花ざかり』で映画デビュー。しかし、なかなか役柄に恵まれず、会社側でも個性の強い彼女をどう売ったら良いのか考えあぐねていた。
 結局、ランク・オーガニゼーションは彼女の契約をアメリカの20世紀フォックスへ売却。かくして、バーバラは一路ハリウッドへ向うことになる。ところが、20世紀フォックスも彼女を使いあぐねてしまった。給料は支払われるが仕事は全くないという日々が続き、彼女自身相当なフラストレーションが溜まっていたらしい。その不満が爆発したのか、ようやく決まったハリウッド・デビュー作『燃える平原児』(60年)の撮影現場で、ドン・シーゲル監督と大喧嘩。そのままセットを歩き去った彼女は、フォックスとの契約を破棄してしまった。
 そんな折にイタリアの映画会社からオファーされたのが『血ぬられた墓標』だったというわけだ。これはアメリカやヨーロッパ各国でも興行ランキング1位をマークし、彼女は一躍世界的なホラー映画スターとなる。『幽霊屋敷の蛇淫』(64年)や『亡霊の復讐』(65年)などのイタリアン・ホラーで活躍したほか、アメリカではAIPの傑作『恐怖の振子』(61年)にも出演。ただ、彼女自身はホラー映画ばかりの仕事に内心辟易していたという。
 そこで、一念発起した彼女は1968年に活動の拠点をアメリカに移す。だが、翌年に脚本家のジェームズ・ポーと結婚し、女優としては半ば引退状態になってしまった。ちなみに、ジェームズ・ポーは『80日間世界一周』(56年)や『熱いトタン屋根の猫』(58年)などで知られる大御所脚本家。彼の手掛けた名作『ひとりぼっちの青春』(69年)でスザンナ・ヨークが演じた妊婦は、もともとバーバラの為に書かれた役柄だった。ところが、バーバラ自身が実際に妊娠してしまい、映画への出演が不可能に。代わりに出演したスザンナ・ヨークはオスカーにノミネートされ、お姫様女優からの脱皮に成功したわけだから、なんとも皮肉な話ではある。
 ジョナサン・デミ監督の『女刑務所・白昼の暴動』(74年)でカムバックしたバーバラだったが、ホラー映画の女王という経歴は何の役にも立たず、その後の出演作はいずれも端役ばかり。クローネンバーグの『シーバース』(75年)では怪しげなレズビアン・シーンを演じ、『プリティ・ベイビー』(78年)では売春婦役として顔を出している。
 だが、78年に夫と離婚したバーバラは、それをきっかけにダン・カーティス監督のプロダクションに入社。女優活動の傍らで製作業にも携わるようになった。彼女がプロデュースしたテレビのミニ・シリーズ『戦争の嵐』(83年)は空前の大ヒットとなり、その続編『戦争と追憶』(88年)ではエミー賞の作品賞を受賞。最近ではアメリカで話題になったリアリティ番組“Queer Eye for the Straight Guy”の製作にも参加している。
 また、今年はホラー・コメディ映画“Her Morbid Desires”で久々に女優復帰も果たした。もうすぐ71歳の誕生日を迎えるバーバラだが、これからは往年のホラー・クィーンに相応しいような役柄があってもいいように思う。ティム・バートン辺りが企画してくれると嬉しいのだが。

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『恐怖の振子』より

 

 

Lo spettro (1963)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 Retromedia (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/97分/製作:イタリア

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:リカルド・フレーダ
製作:ルイジ・カルペンティエーリ
脚本:オレステ・ビアンコーリ
    リカルド・フレーダ
撮影:ラファエレ・マスチオッキ
音楽:フランコ・マンニーノ
出演:バーバラ・スティール
    ピーター・ボールドウィン
    エリオ・ヨッタ
    ハリエット・ホワイト
    キャロル・ベネット
    ウンベルト・ラホー

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ヒッチコック博士の妻マーガレット(B・スティール)

マーガレットとヒッチコック博士(E・ヨッタ)の夫婦仲は冷めていた

 同じリカルド・フレーダ監督、バーバラ・スティール主演のコンビでヒットしたゴシック・ホラー“L'orribile segreto del Dr.Hichcock(ヒッチコック博士の恐ろしい秘密)”の続編。といっても、ストーリー的な繋がりは一切ない。
 前作では、夫であるヒッチコック博士の実験台にされる可憐な新妻を演じたバーバラだが、本作では若い愛人と結託して夫ヒッチコック博士の殺害を計画する悪女役。まんまと計画は成功したかのように思えたが、やがて死んだはずのヒッチコック博士の亡霊が屋敷を彷徨うようになり、2人は狂気の淵へと追いやられるというわけだ。
 ストーリーそのものはよくある怪談話。ただ、厳密に言うと本作は幽霊譚ではなく、妻の裏切りによって殺されかけた男の復讐劇だ。死んだと思われた夫が実は生きていて、妻とその愛人に地獄の恐怖を味あわせようと様々なギミックを仕掛ける。全体的なテンポは非常にスロー・ペースだが、クライマックスの皮肉などんでん返しはなかなか面白い。
 リカルド・フレーダの演出はとても厳かで、美術セットの色彩や照明の角度などにも細心の注意が払われており、壮麗なゴシック・ムードを再現することに成功している。ヒッチコックの『レベッカ』やジョージ・キューカーの『ガス燈』を彷彿とさせるホラー・サスペンスと言えるだろう。
 もちろん、低予算映画ならではの限界も随所に見て取れる。共演者の顔ぶれも決して一流とは言えない。ヒッチコックやキューカーと比べるのはおこがましいのかもしれないが、少なくとも古典的ゴシック・ホラーのファンなら十分に満足できる作品であることは確か。未だに日本で見ることが出来ないのは残念だ。

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半身不随で生きる気力を失ったヒッチコック博士

マーガレットと医師リヴィングストン(P・ボールドウィン)は不倫関係に

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2人は共謀して博士を毒殺する

マーガレットの周囲で次々と奇妙な事件が

 舞台は1910年のスコットランド。裕福な科学者ヒッチコック博士(エリオ・ヨッタ)は病のために半身不随となり、生きる気力を失っていた。すっかり人間的に歪んでしまった彼は、近頃では死の誘惑に取りつかれている。その一方で、彼は若く美しい妻マーガレット(バーバラ・スティール)と主治医リヴィングストン(ピーター・ボールドウィン)との仲を密かに疑っていた。
 ヒッチコック博士の読みは間違っていなかった。マーガレットとリヴィングストンは、実際に不倫の関係にあったのだ。愛のない夫婦生活に疲れ果てたマーガレットは、リヴィングストンに夫の毒殺計画を持ちかける。夫を自殺に見せかけて殺し、多額の遺産を相続してリヴィングストンと共に幸せな生活を送るのがマーガレットの夢だった。
 初めは躊躇していたリヴィングストンだったが、やがてヒッチコック博士の毒殺計画を実行に移す。だが、それ以来屋敷内では奇妙な出来事が続発するようになった。博士の書斎から鳴り響く呼び鈴の音、夜中に廊下を動き回る車椅子、霊媒師であるメイドのキャサリン(ハリエット・ホワイト)に憑依する博士の霊。マーガレットとリヴィングストンは不安と恐怖に駆られる。
 いよいよ博士の遺産相続が公表された。期待に胸を膨らませるマーガレット。ところが、財産の大半がオーウェン司教(ウンベルト・ラホー)の運営する慈善団体に寄付されてしまう。彼女が相続したのは家と土地、家財道具一式だけだった。マーガレットとリヴィングストンの2人は密かに金庫を開け、宝石などの遺品を盗み出そうとする。ところが、金庫の中身は空っぽだった。
 さらに、死んだはずのヒッチコック博士がマーガレットの寝室に恐ろしい形相で現れる。次々と屋敷内で起きる怪現象。精神的に追い詰められた2人の関係はぎくしゃくしたものとなり、やがてマーガレットはリヴィングストンが金庫にあった宝石を独り占めしたのではないかと疑うようになるのだった・・・。

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死んだはずのヒッチコック博士だったが・・・?

次第にマーガレットとリヴィングストンの関係も悪化していく

 過激なショック演出を極力抑え、細かいディテールの積み重ねで恐怖を盛り上げていくフレーダ監督の演出はとても品格がある。ラファエレ・マスチオッキによるカラー撮影も大変に美しく、マリオ・バーヴァの『ブラック・サバス』や『白い肌に狂う鞭』などと比べても遜色がないほどだ。また、フランコ・マンニーノによるロマンティックで美しい音楽スコアも傑出している。
 フレーダ監督はもともとスペクタクル史劇の分野で鳴らしたベテラン職人監督だが、戦後イタリアで最初の本格的ホラー映画“I Vampiri”(57年)の監督としても有名な人物。その後ホラー映画からは遠ざかっていたが、マリオ・バーヴァの『血ぬられた墓標』の成功に刺激されて再びホラーを撮るようになった。中でも、“L'orribile segreto del Dr.Hichcock”とその続編である本作の2本は、フレーダ監督の代表作と言われている。
 脚本に参加したオレステ・ビアンコリは戦前から活躍する脚本家で、ピア・アンジェリ主演の『明日では遅すぎる』(50年)や、戦争映画の名作『大いなる希望』(54年)などを手掛けていた人物。他にもロマンティック・コメディやスペクタクル史劇など数多くの脚本を書いたビアンコリだが、ホラー映画を手掛けたのは後にも先にもこれ一本だけだった。
 撮影のラファエレ・マスチオッキはフレーダ監督お気に入りのカメラマンで、スペクタクル史劇からホラー映画に至るまで、数多くの作品でコンビを組んできた人物。また、音楽を担当したフランコ・マンニーノもフレーダ監督とたびたび組んでいるほか、ジョン・ヒューストン監督の『悪魔をやっつけろ』(53年)やルキノ・ヴィスコンティ監督の『イノセント』(76年)などの名作を手掛けている作曲家だ。
 なお、本作ではスタッフの殆んどが英語名でクレジットされている。リカルド・フレーダ監督はロバート・ハンプトン、脚本のビアンコリはロバート・デヴィッドソン、撮影のマスチオッキはドナルド・グリーン、音楽のマンニーノはフランク・ウォーレス、製作のルイジ・カルペンティエリはルイス・マン、編集のオルネッラ・ミケーリがドナ・クリスティーなどなど。

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オーウェン司教役のウンベルト・ラホー

メイドのキャサリンを演じるハリエット・ホワイト

 リヴィングストン役のピーター・ボールドウィンはアメリカ人で、もともとパラマウント映画所属のハリウッド俳優だった。だがアメリカでは芽が出ず、イタリアに招かれた『ローマの恋』(60年)で脚光を浴びた。ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『女と女と女たち』(67年)では脚本も手掛け、70年代以降はアメリカに戻ってテレビ・ドラマのディレクターとして活躍している。
 ヒッチコック博士役のエリオ・ヨッタはイタリアの舞台俳優で、映画への出演作は極めて少ない。オーウェン司教役のウンベルト・ラホーは、60年代から70年代にかけて数多くのホラー映画やアクション映画、マカロニ・ウェスタンなどに出演した名脇役だった。
 また、メイドのキャサリンを演じているハリエット・ホワイト(本名ハリエット・メディン)はアメリカの出身で、終戦直後に通訳としてイタリアへ赴き、そのまま女優となってしまったという変わったキャリアの持ち主。ロッセリーニの『戦火のかなた』(46年)やフェリーニの『甘い生活』(60年)にも出演しているが、ホラー映画で不気味なメイド役を演じることも多く、マリオ・バーヴァ作品の常連でもあった。

 

I lunghi capelli della morte (1964)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2007 Raro Video (Italy)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(イタリアPAL盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:イタリア語・英語/字幕:なし/地域コード:ALL/94分/製作:イタリア

映像特典
エドゥアルド・マルゲリティ インタビュー
アントニオ・テントリ インタビュー
監督:アントニオ・マルゲリティ
製作:フェリーチェ・テスタ・ガイ
原案:エルネスト・ガスタルディ
脚色:アントニオ・マルゲリティ
    ブルーノ・ヴァレリ
撮影:リカルド・パロッティーニ
音楽:カルロ・ルスティケッリ
出演:バーバラ・スティール
    ジョルジョ・アルディソン
    アリーナ・ザレフスカ
    ウンベルト・ラホー
    ラウラ・ヌッチ
    ジュリアーノ・ラファエッリ
    ネロ・パッザフィーニ

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魔女の濡れ衣を着せられた女性アデル

長女マリー(B・スティール)は侯爵(G・ラファエッリ)に慰みものにされる

 バーバラ・スティールが名匠アントニオ・マルゲリティ(アンソニー・M・ドーソン)監督と初めてコンビを組んだゴシック・ホラー。無実の罪で焼き殺された母親の復讐を遂げる姉妹を描いた作品で、バーバラは殺された姉メアリーと謎の女性ヘレンの2役を演じている。
 登場人物たちの相関図が変に入り組んでいる上に説明が足りないため、一度見ただけでは人物関係がいまひとつ呑み込めないというのが最大の難点だが、ヨーロッパの原始宗教的な要素を盛り込んだ独特のゴシック・ムードはとても魅力的。舞台となる城の巨大な城壁やルネッサンス・スタイルの地下墓地、城内にはりめぐらされた秘密通路なども効果的に使われており、オーソドックスな幽霊譚として十分に楽しめる作品だ。
 ただ、『顔のない殺人鬼』(63年)や『幽霊屋敷の蛇淫』(64年)といったマルゲリティの代表作に比べると随所に低予算の粗が目立ち、必ずしも常に見栄えが良いというわけではないのが残念。また、上記のイタリア盤DVDが現在出回っているソフトの中では画質的に最良のものだが、それでもクオリティには若干の不満が残る。あくまでもコアなイタリアン・ホラー・ファン向けの1本。初心者には『幽霊屋敷の蛇淫』を先に見ることをオススメしたい。

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アデルを火あぶりの刑に処する司祭(U・ラホー)とクルト

クルト(G・アルディソン)はエリザベス(H・ザレフスカ)と強引に結婚

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村には疫病が蔓延する

不気味に姿を見せるマリーの遺体

 16世紀初頭の中央ヨーロッパ。とある村で、アデルという女性が火あぶりの刑に処せられようとしている。アデルはフンボルト侯爵(ジュリアーノ・ラファエッリ)の弟フランツを殺害した罪に問われ、真犯人である侯爵の息子クルト(ジョルジョ・アルディソン)によって魔女の濡れ衣を着せられたのだ。幼い娘エリザベスの見ている前で、彼女は復讐の呪いを口にしながら焼き殺される。エリザベスの姉マリー(バーバラ・スティール)は侯爵に恩赦を願い出ていたが、処女を奪われた上に殺害されてしまった。
 それから十数年の月日がたった。侯爵家の優しい乳母クリュマルダ(ラウラ・ヌッチ)に育てられたエリザベス(アリーナ・ザレフスカ)は、見目麗しい女性へと成長した。そんなエリザベスに邪まな欲望を抱いていたクルトは、彼女に結婚を強要する。さもなくば、彼女も魔女の罪を着せられてしまうのだ。
 ある嵐の日、墓地ではマリーの死体が不気味に起き上がる。その頃、教会では侯爵一家が礼拝を行っていたが、そこへ一人の女性が姿を現した。もうろうとしながら、その場に倒れこんだ女性。死んだマリーに瓜二つのその顔を見たフンボルト侯爵は、ショックのために心臓発作を起こして死んでしまった。
 城内に運び込まれたその女性はヘレン(バーバラ・スティール)と名乗り、侯爵家の遠縁に当たると説明する。その妖艶な美しさに、クルトはたちまち魅了されてしまった。一方、村では疫病が蔓延し、人々は恐怖でパニックに陥っていた。だが、村を統治するクルトは自分可愛さのあまり村人に救いの手を差し伸べようとはせず、逆に病人を次々と焼き殺すという暴挙に出る。その残忍な手口に憤慨したエリザベスは、クルトに対する憎悪を露骨に見せるようになった。
 そうした中、クルトと愛人関係になったヘレンは、彼にエリザベス殺しを持ちかける。2人は睡眠薬で眠らせたエリザベスを、地下墓地の棺に密閉して窒息死させる。その上で秘密通路を使って寝室へ戻り、ベッドの上にエリザベスの死体を横たわらせたクルトとヘレン。
 翌朝、乳母クリュマルダがエリザベスの寝室へ入っていくのを見たクルトは、彼女がエリザベスの死体を発見して騒ぐものと期待する。ところが、クリュマルダは普段と変わらないようするで寝室から出てきた。奥様はベッドでお食事をなさっています、という。寝室に駆け込んだクルトが見たものは、誰もいないベッドと空になった食器だった。
 それ以来、城の中では不可解な出来事が起きるようになり、クルトは次第に精神的なバランスを崩していく。果たして、エリザベスは本当に死んだのか?それとも、幽霊となって蘇ったのか?やがて、クルトをそそのかしたヘレンの意外な正体と、その恐るべき目的が明らかになる・・・。

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マリーと瓜二つの女性ヘレン(B・スティール)

ヘレンはエリザベスの殺害を持ちかける

 なぜ呪いをかけたアデル本人が幽霊になって現れないのか?というのが最大の疑問だが、この種の映画に合理性を求めるというのも野暮といえば野暮だろう。バーバラ・スティールを登場人物の中にはめ込むためには、やはりこうするしかなかったのではないかと思う。ストーリーの合理性よりも、ビジネス面での合理性を選んだ結果なのだ。
 原案を書いたのはイタリア産娯楽映画を代表する名脚本家エルネスト・ガスタルディ。マルゲリティ自身とブルーノ・ヴァレリーが脚色を手掛けている。また、撮影にはアクションからホラーまで様々なジャンルを得意とし、殆んどのマルゲリティ監督作品にも携わっている名カメラマン、リカルド・パロッティーニが参加。さらに、『ブーべの恋人』や『刑事』などのテーマ曲が日本でも大ヒットした名匠カルロ・ルスティケッリが音楽スコアを担当している。
 なお、本作でもスタッフの大半が英語名でクレジットされている。マルゲリティはお馴染みのアンソニー・M・ドーソン名義。原案のガスタルディはジュリアン・ベリー、脚本のヴァレリーはロバート・ボール、撮影のパロッティーニはリチャード・ティエリー、音楽のルスティケッリはエヴィラスト、編集のマリオ・セランドレイはマーク・シランドリュースといった具合だ。

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エリザベスを殺害したクルトとヘレンだったが・・・

乳母クリュマルダを演じる戦前の人気女優ラウラ・ヌッチ

 邪悪な貴公子クルト役を演じているジョルジョ・アルディソンは、主にスペクタクル史劇やマカロニ・ウェスタンで活躍した2枚目俳優。だいたいヒーローの弟役や親友役などの2番手が多かったスターだが、本作みたいな悪役を演じるのは意外と珍しい。
 エリザベス役のアリーナ・ザレウスカもスペクタクル史劇やマカロニ・ウェスタンに数多く出演していた女優。名前から察するにポーランド系かと思われるが、詳しいプロフィールは分かっていない。ヴィスコンティの『山猫』で貴族の娘役として顔を出していたほか、マリオ・バーヴァの『バンパイアの惑星』にも女性宇宙飛行士役で出演している。
 その他、ファシスト時代の人気女優ラウラ・ヌッチが乳母クリュマルダ役で、イタリア産娯楽映画ではお馴染みの名脇役ウンベルト・ラホーが司祭役で、同じくマカロニ・ウェスタンからポリス・アクション、スペクタクル史劇まで数多くの娯楽映画に出演した名脇役ネロ・パッザフィーニが僧侶役で登場する。

 

 

幽霊屋敷の蛇淫
Danza macabra (1964)

日本では1965年劇場公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済(米盤と別仕様)

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(P)2002 Synapse Films (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・フランス語/字幕:英語/地域コード:ALL/89分/製作:イタリア・フランス

映像特典
オリジナル劇場予告編(アメリカ版)
アメリカ公開版オープニング
スチル・ギャラリー
監督:アントニオ・アルゲリティ
製作:マルコ・ヴィカリオ
    レオ・ラックス
脚本:ジョヴァンニ・グリマルディ
    セルジョ・コルブッチ
撮影:リカルド・パロッティーニ
音楽:リズ・オルトラーニ
出演:バーバラ・スティール
    ジョルジュ・リヴィエール
    マルガリート・ロブサム
    アルトゥーロ・ドミニチ
    シルヴァーノ・トランキーリ
    ウンベルト・ラホー

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エドガー・アラン・ポー(S・トランキーリ)と論議するフォスター

フォスター(G・リヴィエール)は古城で一夜を過ごすことに

 『血ぬられた墓標』と並ぶバーバラ・スティールの代表作。廃墟となった古城を舞台に、生と死、夢と現実、過去と現在が巧みに交差する幻想的でロマンティックなゴシック・ホラーである。
 主人公はイギリス人のジャーナリスト。超自然の世界に否定的な彼は、自らの信念を立証するために古城で一晩を過ごすことになる。そこに現れる謎めいた女性。その美しさに魅了された彼は、知らず知らずのうちに怪奇と幻想の世界へと引き込まれていく。廃墟だったはずの古城に突如として灯る煌びやかな明かり。かつてこの古城で暮らしていた人々が夜な夜な蘇り、自らの最期を繰り返し演じ続けているのだ。まるで日本の『雨月物語』や『怪談』の世界を彷彿とさせる、美しくも哀しいゴースト・ストーリーと言えるだろう。
 マルゲリティの演出は丁寧かつ耽美的。カメラワークや絵の構図、ライティング効果などため息が出るほど美しい。計算しつくされた編集も流麗かつ優雅。マックス・オフュールスの傑作『輪舞』を彷彿とさせるエレガンスを感じることが出来る。
 これが、たったの2日間で主要な撮影を終えてしまったというのだから驚きだ。3台のマルチ・カメラを回し、1シーンほぼ1テイクで撮影を行ったという。さすが早撮り名人のマルゲリティ。時には6台のカメラを同時に回したこともあったと言われる。
 バーバラが演じるのは非業の死を遂げたうら若き乙女。愛憎渦巻く貴族社会の陰湿な人間関係に翻弄され、成就できなかった愛を求めて暗闇の世界を彷徨う哀しい女性だ。それはまるで、中世の肖像画から抜け出てきたかのような美しさ。バーバラ・スティール・ファンのみならず、全てのゴシック・ホラー・ファンにオススメできる傑作である。

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古城にはエリザベス(B・スティール)という女性が

妖しげな雰囲気のエリザベスとジュリア(M・ロブサム)

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お互いに惹かれあうフォスターとエリザベスだったが・・・

カルムス博士(A・ドミニチ)が衝撃の真実を語り始める

 若きイギリス人のジャーナリスト、アラン・フォスター(ジョルジュ・リヴィエール)は、ロンドンに滞在中のアメリカ人作家エドガー・アラン・ポー(シルヴァーノ・トランキーリ)を探して、とあるパブへとやって来た。自分の怪奇小説は全て実際の体験談に基づいていると語るポーに、合理主義者のフォスターは真っ向から噛み付く。幽霊や呪いなどこの世に存在するはずがないと。
 そこで、ポーと彼の友人(ウンベルト・ラホー)が賭けを申し出る。ロンドン郊外のブラックウッド邸で一晩過ごすことができるか、と。ブラックウッド邸は廃墟となった古城で、幽霊が出るという噂が後を断たなかった。自らの信念を立証するため、フォスターはブラックウッド邸で一晩を過ごすことにする。
 一人で城の中に入ったフォスターは、この世のものとは思えぬほどに美しい女性の肖像画を発見する。すると、その女性と瓜二つの美女エリザベス(バーバラ・スティール)が彼の前に姿を現す。ブラックウッド邸にはまだ人が住んでいるというのだ。
 ゲスト・ルームに招き入れられた彼は、エリザベスの友人であるジュリア(マルガリート・ロブサム)と会う。それ以外にも、数人の男女が城の中にいた。だが、一様に何か隠し事があるように見える。エリザベスの美しさに魅了されたフォスターは、やがて彼女と深く愛し合うようになった。
 だが、2人が寝室でベッドを共にしていると、いきなり半裸の男が乱入してエリザベスの胸にナイフを突き刺した。次の瞬間、エリザベスの姿が忽然と消えてしまう。わけも分からず、男の後を追いかけたフォスターだったが、その男も目の前でスッと消えてしまった。
 呆然とする彼の前に、カルムス博士(アルトゥーロ・ドミニチ)と名乗る老紳士が姿を現す。彼はこの古城に住み込み、様々な怪奇現象を研究しているらしい。カルムス博士の語るには、今晩フォスターが出会った人々は死者なのだという。半信半疑のフォスターの前で、いきなり広間の明かりが灯った。そこでは華やかな舞踏会が繰り広げられている。
 やがて、エリザベスの許されない愛、そして痴情のもつれから連鎖していく殺人事件の現場が、彼の目の前で次々と展開する。こうやって、死者たちは夜な夜な蘇り、己の最期を繰り返し再現しているのだ。
 そして、それを語るカルムス博士自身も、既にこの世の人ではなかった。ブラックウッド邸に足を踏み入れた人々は例外なく命を奪われ、その最期の瞬間を夜毎繰り返すことになるのだ。自分の命も狙われていることに気付いたフォスターは、彼を真剣に愛するようになったエリザベスの手引きで城を脱出しようと試みるのだったが・・・。

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誰もいないはずの古城で舞踏会が

古城では過去に陰惨な殺人事件が起きていた

 クライマックスの皮肉などんでん返しも実に見事。やはり怪談ものはこうでなくちゃ。全編に漂う薫り豊かなエロティシズムも魅力。ジュリアとエリザベスの関係にはレズビアン・チックなムードも加味されているが、それも全くいやらしく感じさせない。この品の良さこそが、本作の最大の持ち味だろう。
 脚本を書いたのはマカロニ・ウェスタンの巨匠セルジョ・コルブッチと、その盟友でもあった脚本家ジョヴァンニ・グリマルディの2人。もともと、本作はコルブッチ自身が監督も手掛ける予定だった。しかし、なかなか撮影スケジュールが折り合わず、親友のアントニオ・マルゲリティを監督として推薦したのだという。2人は普段から非常に仲が良く、お互いに困ったときは、相手の撮影現場で演出を手伝うなど助け合っていたらしい。
 撮影を手掛けたのは、マルゲリティ作品ではお馴染みのカメラマン、リカルド・パロッティーニ。そして、絢爛豪華な美術セットのデザインを担当したのは、巨匠ヴィスコンティの名作『夏の嵐』やマリオ・バーヴァの『白い肌に狂う鞭』などのコスチューム・プレイで有名なオッタヴィオ・スコッティ。ロマンティックな音楽スコアは、『世界残酷物語』でオスカーを受賞したリズ・オルトラーニが手掛けている。また、製作には『黄金の7人』シリーズなどの監督として有名なマルコ・ヴィカリオの名前がクレジットされている。
 なお、本作もスタッフのクレジットは英語名ばかり。マルゲリティのアンソニー・M・ドーソンを筆頭に、脚本のコルブッチとグリマルディはそれぞれゴードン・ウィルソン・ジュニアとジーン・グリモー、撮影のパロッティーニはリチャード・クレイマー、美術デザインのスコッティはウォルター・スコット、製作のヴィカリオはウォルター・サラ。オスカー受賞者のオルトラーニでさえ、なぜかリッツ・オルトラーニという微妙な変名を使っている。

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フォスターを逃がそうとするエリザベス

亡霊たちの魔手が迫る

 主人公アラン・フォスター役のジョルジュ・リヴィエールはフランス人だが、主にイタリア映画で活躍した俳優だった。マルゲリティ監督とは『顔のない殺人鬼』(63年)でも組んだほか、『ミネソタ無頼』(64年)のようなマカロニ・ウェスタンや、『地獄のパスポート』(65年)のようなスパイ映画にも出演。とてもダンディでハンサムな役者だったが、これといった特徴がなかったせいか、あまり大成はしなかったようだ。
 秘かにエリザベスを愛する女性ジュリア役のノルウェー人女優マルガリート・ロブサムは、イタリアの大物俳優ウーゴ・トニャッツィの奥さんだった人。映画出演の経験が少ない上に、バーバラとのキス・シーンを頑なに拒んだために、マルゲリティ監督から相当厳しく叱られたらしい。本編ではバーバラに引けを取らないくらいの存在感があり、とても美しい女優だったが、本作でプロとしての自信をすっかり失ってしまい、これを最後に女優業を引退してしまった。その後、70年代に母国ノルウェーへ戻ってからは、数本の映画に出ているようだ。
 そのほか、『血ぬられた墓標』でアーシャ姫の愛人を怪演した盟友アルトゥーロ・ドミニチがカルムス博士役を、“L'orribile segreto del Dr.Hichcock”でバーバラの相手役を演じたシルヴァーノ・トランキーリがエドガー・アラン・ポー役を、名脇役ウンベルト・ラホーがその友人役を演じている。中でも、ポー役のトランキーリは短い出番ながら強烈な印象を残す。
 なお、スタッフと同様に俳優陣の多くも英語名を名乗っており、ドミニチがヘンリー・クルーガー、トランキーリがモンゴメリー・グレン、ラホーがラウール・H・ニューマンとクレジットされている。

 

 

5 tombe per un medium (1965)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2003 Alpha Video (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★☆☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/61分/製作:イタリア・アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:マッシモ・プピッロ
製作:ラルフ・ザッカー
    フランチェスコ・メルリ
原作:エドガー・アラン・ポー
脚本:ロベルト・ナターレ
    ロマーノ・ミリオリーニ
撮影:カルロ・ディ・パルマ
音楽:アルド・ピガ
出演:バーバラ・スティール
    ワルター・ブランディ
    ミレッラ・マラヴィーディ
    アルフレード・リッツォ
    リカルド・ガローネ
    ルチアーノ・ピゴッツィ
    ティルデ・ティル

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死んだハウフ博士の悪妻クレオ(B・スティール)

弁護士コヴァック(W・ブランディ)は博士の娘コリンヌに惹かれる

 SMタッチのゴシック・ホラー『惨殺の古城』(66年)で知られるマッシモ・プピッロ監督による、ゴシック・シックスタイルのゾンビ映画。友人たちの裏切りによって殺された男性の怨念が、墓場の死者たちを蘇らせて復讐を遂げるというお話だ。とはいえ、肝心のゾンビは手だけしか出てこない。クライマックスにはゾンビの大襲来シーンも用意されているが、画面に映し出されるのはゾンビたちの影だけ。今か今かと焦らせておきながら、最後までモンスターを見せないというのはいかがなもんだろう。
 そればかりでなく、本作は全体的に不満の多い映画かもしれない。様々ないわくのある古い屋敷を舞台にしているのはいいし、そのロケーションを上手く生かした美しいショットも幾つか見ることが出来る。が、その一方でカメラワークは非常に平坦だし、編集にもリズム感がないため、サスペンスや恐怖を十分盛り上げるには至っていない。正直なところ、特に前半は退屈だ。また、撮り方によってはかなり盛り上がるであろうクライマックスのゾンビ来襲も、先述したように肝心のゾンビが全く画面に姿を見せず、しかもあっけなく退治されてしまう。観客は最後まで何のカタルシスを得ることもないのだ。
 プピッロ監督自身も本作の出来には不満であったらしく、クレジットから名前を外すように希望した。本編で監督・製作にクレジットされているラルフ・ザッカーという名前は、長いことプピッロの変名だと考えられてきたが、どうやら実在のアメリカ人製作者のことだったらしい。つまり、プピッロの名前をクレジットから外す代わりに、プロデューサーであるザッカーの名前が監督としてクレジットされたというわけだ。
 ただ、本作で殺された男性の悪妻を演じるバーバラ・スティールはすこぶる魅力的。悪女役は何度も演じていたバーバラだが、本作ではいつにも増してギラギラとした妖しげなエロティシズムを発散している。映画作品そのものは及第点だが、バーバラのダークな美しさは最高潮。そういった意味ではファン必見の作品だ。
 なお、上記のアメリカ盤DVDはパブリック・ドメイン素材を使用した粗悪品だが、今のところイタリア本国でも正規盤DVDは発売されていない。画像の輪郭はにじんでしまっているし、音声に至っては部分的に全く聞き取ることが出来ないというのは残念だ。

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真夜中に悲鳴をあげるコリンヌ(M・マラヴィーティ)

コヴァックはネメック医師(A・リッツォ)と共に謎を追う

 とあるゴシック様式の邸宅にアルバート・コヴァック(ワルター・ブランディ)という弁護士が訪れた。彼は、ここに住むジェラナマス・ハウフ博士からの手紙を受け取り、遺書を作成するためにやって来たのだった。ところが、彼を迎え入れた後妻クレオ(バーバラ・スティール)と義娘コリンヌ(ミレッラ・マラヴィーディ)によると、博士は1年前に他界してしまったという。だが、博士からの手紙は数日前に書かれたもので、筆跡も博士自身のものだった。
 狐に鼻をつままれたような気分のコヴァックだったが、天候が荒れ模様になってきたこともあり、屋敷で一晩を過ごすことにした。コリンヌは父親が生前に超自然的な研究を行っており、手紙は何か不吉なことが起きる予兆ではないかと心配する。しかし、義母のクレオはそれを一笑に付すのだった。彼女は亡き夫に対してあまり良い感情を抱いていない様子だ。
 その晩、屋敷内にコリンヌの悲鳴が響き渡った。彼女は死んだ父親が寝室に現れたという。かつて15世紀、この建物は疫病患者のための病院だった。当時、疫病は悪魔の仕業と考えられており、患者の多くが言われなき悪魔崇拝の罪で処刑され、屋敷の傍にある墓地に埋葬された。ハウフ博士はその死者を蘇らせる研究を行っていたらしい。
 翌朝、コヴァックは村役場へ行って手紙の封印が本当にハウフ博士のものかどうか鑑定してもらうことにした。役場ならば資料が残っているはずだ。彼は手紙が単なる悪戯だとは思えなかったのだ。車が故障していたため、彼は村医者のネメック(アルフレード・リッツォ)の馬車に乗せてもらった。ネメックに連れられて村長に会いに行ったが、そこで彼らは村長の死体を発見する。
 ネメックが検死したところ、村長は心臓発作だった。だが、役場の人間はハウフ博士の呪いだという。というのも、村長は博士が転落死した現場に居合わせた5人の目撃者のうちの一人だったのだ。しかも、5人中既に3人が亡くなっている。偶然にしては不可解だ。
 その翌日、4人目の犠牲者が出た。残るはあと一人。しかし、その人物の名前が記録に残されていない。だがコヴァックには心当たりがあった。というのも、もともと博士からの手紙は彼宛てではなく、同僚の弁護士ジョセフ・モーガン(リカルド・ガローネ)に届いたものだった。コヴァックはモーガンの代理人としてやって来ただけだったのだ。そのモーガン自身が屋敷に到着する。
 実は、モーガンはクレオと不倫の関係にあった。その他の犠牲者たちも、ハウフ博士に何かしらの弱みを握られていた。彼らは結託して博士を殺害し、転落死に見せかけたのだった。この日は博士の一周忌。墓を掘り起こしてみたところ、棺の中は空っぽだった。コヴァックとネメック医師は、ハウフ博士がまだ生きているのではないかと疑う。
 博士の遺体を盗み出したのは、忠実な召使クルト(ルチアーノ・ピゴッツィ)。彼は博士の恐ろしい呪いを知っていた。屋敷にいる者はみな殺されてしまう。罪のないコリンヌだけは助けたいと考えたクルトだったが、博士の呪いは彼の身にも降りかかった。
 博士は疫病で死んだ患者たちの死体を蘇らせ、屋敷内の人々をペスト菌で皆殺しにしようというのだ。響き渡る博士の不気味な声。亡霊となって現れた博士は、墓地に眠る死体を次々と蘇らせる。クレオもモーガンも疫病で悶絶死する。クルトやメイドのルイーズ(ティルデ・ティル)も犠牲になった。迫り来るゾンビたちの影。果たして、残されたコヴァックとコリンヌ、ネメック医師の運命やいかに・・・?

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博士の忠実な召使クルト(L・ピゴッツィ)

クレオと弁護士モーガン(R・ガローネ)は愛人関係にあった

 一応、クレジット上はエドガー・アラン・ポーの小説の映画化ということになっているが、これは勝手に名前を拝借しただけ。具体的に作品名は挙げられていないし、原典となるような小説も存在しない。脚本を書いたロベルト・ナターレとロマーノ・ミリオリーニによるオリジナル作品と見ていいだろう。2人はプピッロ監督の『惨殺の古城』やマリオ・バーヴァの傑作『呪いの館』などを手掛けた脚本家コンビだ。
 注目すべきは、あのカルロ・ディ・パルマが撮影監督を務めているということ。彼は『赤い砂漠』(64年)や『欲望』(66年)といった巨匠ミケランジェロ・アントニオーニの作品で有名になり、『ハンナとその姉妹』(86年)以降はウディ・アレン作品の撮影監督として鳴らした大物カメラマン。これはかなり意外だ。
 一方、音楽を手掛けたアルド・ピガは主にB級スペクタクル史劇のスコアを手掛けた人物で、ピエロ・レニョーリ監督の『グラマーと吸血鬼』(63年)などのホラー映画にも何本か参加している作曲家。これといって重要な仕事を残している人ではないものの、本作ではロマン派スタイルの非常に美しいオーケストラ・スコアを聴かせてくれる。
 なお、本作もスタッフのクレジットは英語名。脚本のナターレとミリオーニの2人は、それぞれロバート・ネイサン、ロビン・マクローリンに変えられている。撮影のディ・パルマはチャールズ・ブラウン、製作のフランチェスコ・メルリはフランク・マール、編集のマリアーノ・アルディティはロバート・アーディスといった具合だ。

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疫病に冒されて悶絶死するクレオ

コヴァックにゾンビの影が迫る


 主人公の弁護士コヴァックを演じているワルター・ブランディは、『グラマーと吸血鬼』など初期のイタリアン・ホラーで活躍した俳優で、当時はイタリア版クリストファー・リー的なポジションにあった。ただ、いかんせん見た目も演技も平凡そのもの。ホラー俳優としてのカリスマ性はゼロに等しく、60年代末にはプロデュース業へ転向してしまった。
 彼と恋仲になるハウフ博士の娘コリンヌ役を演じているミレッラ・マラヴィーディは、カルロ・リッツァーニの『殺して祈れ』(67年)にも出ていたグラマー女優。また、ネメック医師を演じているアルフレード・リッツォは主にマカロニ・ウェスタンや戦争映画の悪役として活躍した俳優で、英語が堪能だったことから『ローマの休日』(53年)や『戦争と平和』(56年)などのハリウッド映画にも顔を出していた。
 その他、フェリーニの『崖』(55)や『甘い生活』(60年)、ジョセフ・ロージーの『エヴァの匂い』(62年)などで知られ、ハリウッド映画にも出演した名優リカルド・ガローネが弁護士モーガン役で登場。マリオ・バーヴァやアントニオ・マルゲリティ作品の常連としてお馴染みの名脇役ルチアーノ・ピゴッツィ(別名アラン・コリンズ)が、博士の忠実な召使クルト役を怪演している。
 なお、バーバラとワルター・ブランディ以外のキャストは英語名を使用。マラヴィーディはマリリン・ミッチェル、リッツォはアルフレッド・ライス、ガローネはリチャード・バレットとクレジットされている。

 

 

亡霊の復讐
Gli amanti d'oltretomba (1965)

日本では劇場未公開・テレビ放送
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済(アメリカ盤とは別仕様)

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(P)2003 Retromedia (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/100分/製作:イタリア

映像特典
スチル・ギャラリー
監督:マリオ・カイアーノ
製作:カルロ・カイアーノ
脚本:ファビオ・デ・アゴスティーニ
    マリオ・カイアーノ
撮影:エンツォ・バルボーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:バーバラ・スティール
    ポール・ミュラー
    ヘルガ・リーネ
    マリーノ・マゼ
    ジュゼッペ・アッドバティ
    リク・バッタリア

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精神病院を退院したジェニー(B・スティール)

前妻を殺害した科学者アロースミス博士(P・ミュラー)

 これまた、バーバラ・スティールが善と悪の2役を演じ分けるゴシック・ホラー。一部ファンの間ではかなり人気の高い作品のようだが、残念ながらあまり出来がよろしいとは思えない。そもそも、ストーリー自体があまりにも凡庸だ。愛人と共に殺された悪妻が地獄から蘇り、瓜二つの妹を使って犯人である夫に復讐を遂げるという物語は、ほとんど『血ぬられた墓標』の安易なパクり。それに、似たような話は他の映画でも散々語り尽くされてきた。
 さらに、美術セットやロケーションなどは決して悪くないのだが、マリオ・カイアーノの演出センスはいまひとつ。ゴシック・ホラーに必要なエレガンスが全く感じられないのだ。カメラワークも平坦で想像力に欠ける。ほとんど、主演のバーバラ・スティールの存在だけに頼りきってしまっているという印象だ。その点に関して言うならば、バーバラは相変わらず美しいし、悪女役を演じるときの妖艶でダークな存在感も素晴らしい。結局、彼女の魅力だけで持っている映画といっても過言ではないだろう。

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アロースミス博士は財産目的でジェニーと再婚する

夜な夜な悪夢や怪奇現象に悩まされるジェニー

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メイドのソランジェ(H・リーネ)は博士の愛人でもあった

ジョイス医師(M・マゼ)がジェニーの治療に当たる

 城の実験室で若返りの研究を行っているアロースミス博士(ポール・ミュラー)は、メイドのソランジェ(ヘルガ・リーネ)の協力で妻ミュリエル(バーバラ・スティール)が庭師デヴィッド(リク・バッタリア)と密通している現場を発見する。怒りと嫉妬に燃えた博士は2人を拷問した上に殺害し、ミュリエルの血液をソランジェに移植した。ミュリエルの心臓を取り出して記念に保存し、残された遺体は焼いて捨ててしまう。世間にはミュリエルが病死したことにし、葬儀も密葬で済ませた。
 ところで、夫の異常性に気付いていたミュリエルは、財産の相続権を全て腹違いの妹ジェニー(バーバラ・スティール)に託していた。城も財産も全てミュリエルのものだったのである。ただ、ジェニーは精神病を患っており、長いこと入院をしていた。
 そこで、アロースミス博士は病院を訪ね、すっかり全快したジェニーと結婚する。彼には秘策があった。見違えるように若返ったソランジェと結託し、ジェニーを狂わせてしまおうというのだ。その上で彼女に財産の管理能力がないことを立証し、合法的に財産を自分のものにすることを企てたのである。
 城にやってきて以来、ジェニーは夜な夜な悪夢や幻覚に悩まされるようになる。初めは環境の変化がジェニーの精神を狂わせているものと思われたが、ソランジェはそれが違うらしいことに気付いた。どうも、彼女はミュリエルが殺された時の様子を追体験している様子だ。しかも、時折ミュリエルが憑依したかのように性格が変わってしまう。だが、アロースミス博士はソランジェの不安を一笑に付した。
 やがて、博士はジェニーの精神異常を立証するため、治療と称して精神病院の担当医だったジョイス医師(マリーノ・マゼ)を招く。初めはジェニーの症状が悪化したものと考えていたジョイス医師だったが、次第に彼女の悪夢や幻覚に根拠があるのではないかと考えるようになった。
 そんなジョイス医師の存在に危険を感じたアロースミス博士は、彼を電気ショックで殺害しようと画策するが、誤って執事のジョナサン(ジュゼッペ・アッドバティ)を殺してしまう。いよいよジョイス医師の疑いは濃くなった。だが、アロースミス博士の入れ知恵でジョイス医師に不信感を抱くようになったジェニーは、彼の治療を拒否する。
 仕方なく城を後にするジョイス医師。博士はすぐさまジェニーを監禁し、老化の始まったソランジェのために彼女の血を輸血しようとする。その頃、城を出るふりをしたジョイス医師が戻ってきた。彼は広間の医師に描かれた心臓のマークを怪しんでいたのだ。その石を動かすと、中からアルコール漬けにされたミュリエルの心臓が出てくる。すると、ミュリエルとデヴィッドの亡霊が不気味な姿を現すのだった・・・。

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城の中を徘徊するジェニー

ジョイス医師は博士の陰謀を疑うようになる

 監督のマリオ・カイアーノは60年代から70年代にかけて数多くの低予算娯楽映画を手掛けた人物で、主にスペクタクル史劇やマカロニ・ウェスタンで知られる。ただ、あまり上手い人ではなく、大半の作品は安っぽいC級映画ばかり。この作品なんかも、彼のフィルモグラフィーの中ではかなり良く出来た部類に入ると言えるだろう。ちなみに、本作ではアラン・グリューネワルドという変名を使っている。
 そのカイアーノと共に脚本を書いたファビオ・デ・アゴスティーニは、サイコロジカル・ホラーの傑作“Nelle pieghe della carne”(70年)を手掛けた人物で、『口笛をふけば』(56年)という監督作もある。
 また、撮影にはE・B・クラッチャーの名前でマカロニ・ウェスタンの監督としても活躍したエンツォ・バルボーニが、音楽にはイタリア映画界の誇る巨匠エンイオ・モリコーネが参加している。特に、モリコーネによる甘美でロマンティックなテーマ曲はなかなか秀逸。

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絶体絶命の危機に追い詰められるジェニー

前妻ミュリエルと愛人デヴィッド(R・バッタリア)の亡霊が蘇る

 若返りの研究に没頭しているマッド・サイエンティスト、アロースミス博士役を演じているポール・ミュラーは、これまでに200本以上の映画やドラマに出演している名脇役。スイス出身の俳優だが、その出演作の殆んどがイタリア映画だ。また、ジェス・フランコ監督作品の常連俳優でもあり、『ヴァンピロス・レスボス』(70年)や『吸血のデアボリカ』(70年)、『恍惚の悪魔 アカサヴァ』(71年)などに出演している。一度見たら二度と忘れられない、非常に個性的なマスクをした俳優である。
 その助手であり愛人でもあるメイド、ソランジェ役を演じているのはスペインを代表するセクシー女優ヘルガ・リーネ。ホラー映画のみならず、スパイ映画やマカロニ・ウェスタン、ソフト・ポルノなど、ありとあらゆる娯楽映画で活躍したスターだった。
 そして、ジェニーと惹かれあう精神科医ジョイスを演じている俳優だが、本編のクレジットや様々な資料でもローレンス・クリフトとしか記述されておらず、imdbでチェックすると出演作はこれ一本だけしかない。しかし、イタリア映画ファンならば本編の映像を見て、この俳優が紛れもなくマリーノ・マゼであることは一目瞭然だろう。マゼは60年代初頭から活躍する2枚目俳優で、アメリカのテレビ・ドラマ『ジェリコ』でメイン・レギュラーを務めたこともあるスターだった。『地獄の戦場コマンドス』(68年)や『エイリアンドローム』(80年)のような準主演クラスの大役もあれば、ワン・シーンのみの端役なんかも数多くこなしており、役者としては非常に微妙なポジションにあった人だ。
 冒頭でミュリエルと共に殺される庭師デヴィッド役を演じているのは、『河の女』(55年)でソフィア・ローレンの相手役を演じたリク・バッタリア。一時期は『大遠征軍』(57年)や『ハンニバル』(59年)、『ソドムとゴモラ』(61年)などのスペクタクル史劇で主演・準主演クラスを数多く演じたが、60年代半ば以降はもっぱら脇役・端役専門に。彼もかなり微妙なポジションにある俳優だった。
 そして、電気ショックで誤って殺されてしまう執事ジョナサン役には、マカロニ・ウェスタン『真昼の用心棒』(66年)でフランコ・ネロの父親役を演じたジュゼッペ・アッドバティが登場する。
 なお、上記アメリカ盤は英語バージョンで収録されており、バーバラ・スティールの声は本人自身が吹き替えをしている。バーバラ本人が吹き替えしている作品は滅多にないので、これはかなり珍しいケースと言えるだろう。なお、日本盤DVDは声優の吹き替えによるイタリア語バージョンでの収録だった。

 

 

シービースト
La sorella di Satana (1966)

日本では劇場未公開・テレビ放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2003 Alpha Video (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★☆☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ(トリミング)
/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/82分/製作:イタリア・イギリス

映像特典
なし
監督:マイケル・リーヴス
製作:ポール・マスランスキー
脚本:マイケル・リーヴス
撮影:ジョアッキーノ・ジェンガレッリ
音楽:ラルフ・フェラーロ
出演:バーバラ・スティール
    ジョン・カールセン
    イアン・オギルヴィー
    メル・ウェルス
    ジェイ・ライリー
    リチャード・ワトソン
    ルクレチア・ラヴ

 ヴィンセント・プライス主演の“Witchfinder General”(68年)というカルト映画の傑作を残し、25歳という若さでこの世を去ってしまったイギリスの映画監督マイケル・リーヴスによるオカルト映画。これが信じられないくらいに出来が悪い。
 現在のルーマニアを舞台に、200年前に殺された魔女が若い旅行者の女性に乗り移って復讐を繰り広げるという話で、どうやらホラー・コメディとして作られたらしい。随所に共産主義を皮肉るようなジョークが散りばめられているが、どれも使い古されたベタなギャグばかりで、残念ながらちっとも笑えないのだ。しかも、ストーリーのテンポはのろいし、役者の演技は大袈裟だし、退屈なことこの上ない。
 さらに、主演であるはずのバーバラ・スティールの出番が少ないこと!魔女に体を乗っ取られてしまう旅行者の女性を演じているのだが、変身してからは特殊メイクをした別の役者が演じており、バーバラ本人は冒頭の20分くらいで姿を消してしまう。これはいくらなんでも酷いだろう。
 ただ、この魔女の特殊メイクはなかなか強烈。技術的にどうのこうのというよりも、ハンパじゃないくらいのインパクトなのだ。特殊メイクの技術としては恐らく素人レベル。かなりいい加減で大雑把な仕上がりなのだが、その醜さときたら悪魔的なくらいに強烈だ。これだけは評価しておきたい。
 また、バーバラ自身も出番が少ないとはいえ、珍しく当時のポップなブリティッシュ・ファッションに身を包んでおり、とてもキュートでセクシー。ひとまず、熱心なバーバラ・スティール・ファンと、さらに熱心なホラー・マニアならば、一生に一度くらいは見ておいても損はない作品かもしれない。まあ、積極的にお薦めはしないけれど(笑)
 ちなみに、上記のアメリカ盤DVDはやはりパブリック・ドメイン素材を使った粗悪品で、画質は本当にもう最悪。しかも、テレビ放送用に左右をトリミングしてあるため、主人公のカップルが会話するシーンのアップでは、2人とも画面から切れちゃっていたりする。ただ、この作品も正規盤DVDは発売されておらず、過去にも海賊盤ビデオでしかリリースされたことがない。ちゃんとしたマスターを使用すれば、もうちょっと見栄えも良くなるだろうに。

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魔女を退治するために村人が立ち上がる

人々の前に姿を現した魔女

若いイギリス人の旅行者が村にやって来る

 18世紀半ばのトランシルヴァニア地方。恐ろしい形相の魔女が子供を殺したという容疑をかけられ、怒り狂った村人たちによって処刑された。魔女は今わの際に呪いの言葉を吐き、いつかこの世に戻って復讐を果たすと誓う。村人たちは、そのまま魔女の遺体を湖に沈めた。
 それから200年の歳月が過ぎた。ルーマニアは共産主義国家となっており、トランシルヴァニア地方の生活は相変わらず貧しい。イギリス人の若いカップル、ヴェロニカ(バーバラ・スティール)とフィリップ(イアン・オギルヴィー)の2人は、新婚旅行でトランシルヴァニアの小さな村を訪れた。
 彼らは地元の小さな宿に泊まることにしたが、宿の主人(メル・ウェルス)は覗きが趣味の変態。2人がベッドで愛し合っている様子を、窓の外からしげしげと眺めていた。それに気付いたフィリップは激怒。2人は宿を飛び出し、夜道に車を走らせた。ところが誤って道を外れてしまい、近くの湖に車ごと転落。フィリップは自力で助かったが、ヴェロニカは行方不明になってしまった。
 翌日、捜索隊がヴェロニカの死体を引き上げる。それを見たフィリップは我が目を疑った。まるで別人のような醜い姿になっていたのだ。どう見てもヴェロニカではないと主張するフィリップだったが、共産主義国家の警察や役人は何から何まで杓子定規だ。
 やがて、そのヴェロニカの死体が蘇り、村の人々を次から次へと襲い始める。混乱するフィリップに力を貸したのが、ヴァン・ヘルシング教授(ジョン・カールセン)だ。彼はあのドラキュラ退治で有名なヴァン・ヘルシングの子孫だという。教授の語るところによると、湖に眠っていた200年前の魔女がヴェロニカの体を乗っ取ったのだという。かくして、フィリップと教授は協力して魔女を倒し、ヴェロニカを救おうとするのだったが・・・。

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ヴェロニカ(B・スティール)とフィリップは新婚さん

命拾いしたフィリップは妻を捜索するが・・・

ヴェロニカは別人のように変わり果てていた

 イギリスとイタリアの合作映画だが、撮影はユーゴスラヴィアで行われている。製作は『ポリス・アカデミー』シリーズで有名なポール・マスランスキーが担当。彼はアメリカ人だが、当時はイタリアを拠点に活動していた。
 また、撮影を手掛けたジョアッキーノ・ジェンガレッリはサイレント時代に活躍したカメラマンで、戦後はこれが唯一の仕事だった様子。音楽を担当したラルフ・フェラーロは、SFポルノ『フレッシュ・ゴードン』(74年)を手掛けた作曲家だ。

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フィリップ役のイアン・オギルヴィー

ヴァン・ヘルシング役のジョン・カールセン

蘇った魔女が復讐を開始する

 バーバラ・スティールの夫役を演じているイアン・オギルヴィーはイギリスの2枚目スターで、マイケル・カコヤニス監督の『魚の出てきた日』(67年)が有名。70年代にはテレビのスパイ・ドラマ“Return of the Saint”に主演し、一時期はジェームズ・ボンド役の候補にも挙がっていたという。
 ヴァン・ヘルシング役のジョン・カールセンもイギリスの俳優だが、主にイタリア映画で活躍した人。『バンボーレ!』(65年)ではモニカ・ヴィッティの夫役を演じていた。スパイ映画やホラー映画への出演も多い。
 そして、覗きが趣味という宿屋の主人を演じているのが、ロジャー・コーマンの『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(60年)で花屋の店主を怪演していた名脇役メル・ウェルス。本作でもオフビートな演技を披露しているが、残念ながらいまひとつ生かされていない。

 

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