バーバラ・ディクソン Barbara Dickson
イギリスで最も愛されている女性ボーカリスト
イギリスで最も多くの楽曲をレコーディングした女性ボーカリストと言われており、国民的に愛されているスターである。フォーク歌手としてキャリアをスタートし、ロンドンで「ブラッド・ブラザーズ」や「エヴィータ」といったヒット・ミュージカルに主演して絶賛され、バラード・シンガーとして数多くのアルバムをリリースしてきた。しかし、その活動はあくまでもイギリス国内に限定されているため、日本やアメリカでは殆ど知られていない。
初めて彼女を知ったのは1976年のヒット曲“Answer
Me”。50年代にフランキー・レインが歌って大ヒットした作品のカバーだが、オリビア・ニュートン・ジョンの「そよ風の誘惑」を思わせる爽やかでメロウなカントリー・ポップ風のバラードで、とても好きな曲だった。さらに、84年にはアバのビヨルンとベニーがティム・ライスと組んで作ったミュージカル「チェス」の挿入歌である“I
Know Him So
Well”をUKミュージカルの女王エレーヌ・ペイジとデュエットで歌い、全英チャート1位を獲得した。これも素晴らしいバラードだった。
レコーディング・アーティストとしてのバーバラ・ディクソンのキャリアは、大きく3つに分けることが出来る。まず、70年代半ばまでのフォーク歌手時代。この頃の作品はカントリー&ウェスタンやリズム&ブルースの影響が強く、渋くて味わいのある楽曲が多い。そして80年代初頭までのエピック・レコード所属時代。アラン・ターネイやマイク・バットといったUKポップスを代表する名プロデューサーのもと、AOR的要素の強い爽やかで美しいポップ・バラードを数多く生み出した。そして、80年代半ばから現在に至るまでの王道時代。彼女自身が愛する新旧のヒット・ソングのカバーを中心にレコーディングしており、あくまでも“歌い手”という立場に徹しているのだが、彼女の歌声やパーソナリティに強い思い入れがなければピンと来ないだろう。
ボーカリストとしては非常に個性の強い声質の持ち主で、かなり独特のハスキーな歌声をしている。日本でいうと、ちょうど高橋真梨子辺りに近いような感じだろうか。好き嫌いの分かれるタイプのボーカリストだが、常に根強いファンに支えられている。特に大人の女性からの人気は非常に高い様子。時代のトレンドとは全く関係のない所で、良質な名曲を歌い続けている正統派の女性ボーカリストと言えるだろう。
1947年9月27日、スコットランドはダンファームラインの生まれ。4歳からピアノを学ぶようになり、独学でギターを習得した。18才の頃から地元のフォーク・クラブでギターを片手に歌うようになり、1969年にレコード・デビューを果たす。なかなかヒットに恵まれなかった彼女に転機が訪れたのは1974年のこと。当時まだ駆け出しだった名戯曲家ウィリー・ラッセルと知り合ったバーバラは、ラッセル作のミュージカル“John,
Paul, George, Ringo...and
Bert”に出演。ビートルズを題材にしたこの舞台は当時話題になり、同じくラッセルが手掛けたミュージカル「ブラッド・ブラザーズ」に主演。この作品でウェスト・エンド劇場協会の最優秀ミュージカル女優賞を受賞して、一躍時の人となったのだった。さらに、これに注目したアンドリュー・ロイド・ウェッバーの抜擢で、76年に「エヴィータ」の初演キャストとして出演。彼女の歌った“Another
Suitcase, Another Hall”はUKチャート17位をマークするヒットとなった。
一方、同じ76年には先述したシングル“Answer
Me”が全英チャートで9位を記録するヒットとなり、さらに80年には“January
February”が全英11位をマークする。バーバラにとって、この時期がキャリアの全盛期と言えるかもしれない。優れたオリジナル作品にも数多く恵まれ、完成度の高いアルバムを次々とリリースしている。
84年にはエレーヌ・ペイジとデュエットした“I
Know Him So
Well”が全英1位となり、さらに年間チャートでも2位にランクされるというメガ・ヒットを記録。しかし、デビュー以来突っ走るように歌い続けてきたバーバラは、95年に歌手活動を一時中断することを決意する。この時期に出演したのが問題作として話題になったテレビのミニ・シリーズ“Band
of
Gold”。自宅を娼婦たちのために貸す鼻っ柱の強い女性役を演じて高く評価された。
その後、1998年に歌手活動を再開したバーバラは、現在ではライブを中心とした活動を続けている。2002年には大英帝国勲章を授与されており、今やイギリスを代表する大御所ボーカリストの一人である。ただ、個人的には70年代半ばから80年代初頭にかけてのエピック時代が彼女のベストだと思う。惜しむらくは、この頃のアルバムが残念ながら殆どCD化されていないことだろう。ブリティッシュ・ポップスの良心とも言うべき素晴らしい楽曲を数多く生み出した時期なだけに、CD化による再発を強く望むところである。
All For A Song
(1982) Heartbeat
(1984) Gold (1985) The Best of Barbara
Dickson
(P)1982 Epic/CBS Records
(UK)
(P)1984 Epic/CBS Records
(UK)
(P)1985 K-Tel International
(UK)
(P)1996 Epic/Sony Music
(UK)
Side One
1,Run Like The
Wind
2,Caravan Song ビデオ
3,Answer
Me ビデオ
4,The
Long and Winding Road
5,Tonight
6,With A Little Help From My
Friend
Side Two
1,January February ビデオ
2,Will You
Love Me Tomorrow
3,Take Good Care
4,I Believe In You
5,Another
Suitcase In Another Hall ビデオ
6,Surrender
To The Sun
produced by Mike Batt, Alan Tarney, Andre Lloyd Webber
& Tim Rice, Paul Bliss, Barbara DicksonSide One
1,I Don't Believe In
Miracles ビデオ
2,A World
Without Your Love
3,Stop In The Name Of Love ビデオ
4,As Time
Goes By
5,You Don't Know What You Want
6,Tell Me It's Not True ビデオ
Side
Two
1,We Were Never Really Out Of Love
2,One False Move
3,The
Crying Game
4,Keeping My Love For You
5,The Heartbeat's
Everything
6,Maccrimmon's Lament
produced by Nicky Graham, Alan
Tarney, Gus Dudgeon, David Lord, Mike Batt1,I Know Him So Well (duet w/Elaine
Paige)ビデオ
2,Missing
You ビデオ
3,Another
Good Day For Goodbye
4,Touch Touch
5,Anyone Who Had A Heart
6,A
Day In The Life
7,You Send Me
8,What Is
Love
9,Rivals
10,Soldiers ビデオ
11,Rising
Water ビデオ
12,Taking The
Next Train Home
13,If You're Right ビデオ
produced
by Pip Williams, Benny Andersson, Bjorn Ulvaeus, Tim Rice1,January February
2,The Long And
Winding Road
3,In The Night
4,Tonight (Live)
5,I Don't Believe In
Miracles
6,Stardust
7,Run Like The Wind
8,Caravan Song
9,The
Crying Game
10,Answer Me (Live)
11,Now I Don't Know
12,Can't Get
By Without You
13,It's Really You ビデオ
14,With A
Little Help From My Friend
15,Tell Me It's Not True
16,Will You Love
Me Tomorrow
17,As Time Goes By ビデオ
18,I Believe
In You
19,Drift Away (Live)
20,Stop In The Name Of Love
彼女にとって初のベスト・アルバム。もう本当にいい曲ばっかりです。A面だけでも、叙情的でスケール感のある爽やかなポップ・ナンバー#1、ロマンティックでヨーロッパ的なバラード#2、そしてオリビア・ニュートン・ジョンの「そよ風の誘惑」を思わせる大ヒット#3、といった具合で心に染み渡る名曲が目白押し。壮大でドラマチックなバラード#6(B面)も大好きな曲です。是非ともCD化して欲しい1枚。
これも素晴らしいアルバムです。UK版AORサウンドとも言うべき、ロマンティックで幻想的で美しいバラード・アルバムに仕上がっています。中でも、イギリスを代表する現代音楽作曲家であるカール・デイヴィスの作曲による、壮大でドラマチックなバラード#2(Side
One)は、ミシェル・ルグランやモリコーネを思わせる佳作。また、出世作「ブラッド・ブラザーズ」の挿入歌をリメイクした#6(Side
One)も大好きな作品。
アバのビヨルンとベニーが手掛けたエレーヌ・ペイジとのデュエット#1を含むアルバム。この頃からカバー中心の選曲に移行していきます。ジョン・ウェイトのカバー#2、ディオンヌ・ワーウィックのカバー#5、ビートルズのカバー#6、サム・クックのカバー#7、ハワード・ジョーンズのカバー#8、アバのカバー#10などなど・・・。いずれも原曲に忠実な仕上がりで、可もなく不可もなくな感じ。オリジナルでは#13が素晴らしい出来映え。
エピック時代のアルバムは1枚もCD化されていないため、このようなベスト盤は非常に有難いものがあります。バーバラの最も脂が乗っていた時期の作品ばかりを集めた究極の1枚。ただ、版権の関係からか、代表作の#10はオリジナル・バージョンではなく、ライブ音源での収録なのが残念。全ての女性ボーカル・ファンにオススメです。初心者の方は是非ともここから挑戦して下さい。
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The World of Barbara Dickson |
Now And Then (1991) |
For The Record (2001) | |
(P)1996 Karussell International (UK) | (P)1991 Connoiseur (UK) | (P)Eagle Records (UK) | |
1,Answer Me 2,Here Comes The Sun 3,Lover's Serenade 4,Morning Comes Quickly 5,Deep Into My Soul 6,High Tide 7,Who Was It Stole Your Heart Away 8,My Man 9,Driftaway ビデオ 10,People Get Ready 11,From The Heart 12,When You Touch Me This Way 13,I Could Fall 14,There's A Party In My Heart 15,Stolen Love 16,It Makes Me Feel Good 17,Lean On Me 18,The Long And Winding Road |
1,Follow You Follow Me 2,Fine Partly Cloudy 3,I Think It's Going To Rain Today ビデオ 4,Friend In Need 5,It Might Be You 6,Fortress Around Your Heart 7,If You Go Away 8,Same Sky ビデオ 9,September Song 10,If You're Right 11,Peter 12,The West Coast Of Clare 13,I Don't Believe In You 14,Angie Baby 15,Who Are You Anyway 16,Caravans 17,No Milk Today 18,Thousands Are Sailing 19,Dream Of You 20,It's Raining Again Today |
1,I Will Wait For You 2,Answer Me 3,All The Pretty Little Horses 4,The Times They Are Changin' 5,Blowing In The Wind 6,I Know Him So Well 7,A Day In The Life 8,Farewell To Whisky 9,She's Leaving Home 10,I Think It's Going To Rain Today 11,Anyone Who Had A Heart 12,Dark End of the Street 13,Tell Me It's Not True 14,Sule Skerry 15,Guess I'll Hang My Tears Out To Dry 16,Falling In Love Again/Love For Sale 17,Easy Terms 18,January February 19,If You Go Away |
1,Caravans |
70年代のRSOレコード時代の作品を集めたコンピレーション・アルバム。この時代の作品はアナログでも手に入りにくいので、非常に貴重かつ興味深い1枚です。カーティス・メイフィールドのカバー#10やジョージ・ハリソンのカバー#2といったラインナップからも分かるように、この時代の作品はソウルやロックからの影響が強く、なかなか渋い味わいがあります。バーバラ自身が作曲した#6も、ソウルフルかつメランコリックで素晴らしい出来映え。どれも地味ながら、心に染み渡る秀逸な楽曲ばかり。 | こちらは、エピック・レコードから独立後の作品の中から選曲されたベスト盤。いい意味でも悪い意味でも中道路線のAOR的内容で、カバーが多いという点でも好き嫌いが分かれてしまうかもしれません。アレンジにしても、基本的には原曲に忠実なので新鮮味に乏しい。しかも、スタンダードとも言える有名曲ばかり取り上げているので、彼女の熱心なファンでなければオーソドックスすぎて面白みに欠けるかもしれません。 | 自らの代表作のリメイク及びスタンダード・カバーを集めたDisc 1と、コンサートの模様を収録したDisc 2で構成された2枚組アルバム。相変わらずのオーソドックスなアレンジは、ある意味では安心して聴けるのかもしれないけど、なんだかカラオケを聞かされているような気分にもなってしまうんですよねー。ただし、Disc 1の#6はエレーヌ・ペイジとデュエットしたオリジナル・バージョンを収録しています。きっちりとリマスターされているので、ちょっと得した気分。 |