アラベスク Arabesque
ディスコ・アーティスト列伝<6>



 

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 70年代から80年代にかけて日本で最も売れた洋楽アーティスト。邦楽が圧倒的に強い日本のマーケットで、10曲ものオリコン・トップ40入りシングルを生み出している。それも、洋楽チャートではなく総合チャートでだ。これは同時代のアバやオリビア・ニュートン・ジョンを上回る記録であり、いかに彼女たちが日本で絶大な人気を誇っていたかが分かる。しかし、その人気が日本だけのものだったというのも、今となっては有名な話だ。
 実際に、彼女たちの母国ドイツ(当時は西ドイツ)におけるトップ10ヒットは1曲のみ。日本ではシングル・カットされなかったバラード“Marigot Bay(哀愁のマリゴット)”だ。当然、ヨーロッパ各国でも彼女たちのレコードは殆ど発売されることはなく、ほぼ無名の存在だったのである。ただし、ロシア(当時のソヴィエト)では闇マーケットで彼女たちのレコードが流通しており、実はかなり人気があった。実際に、当時ソヴィエトではスケート・リンクなどの公共施設でもBGMとして彼女たちの曲が流されており、一般的な認知度は決して低くなかった。ボクの家に出入りしていたピアノ教師の娘さんもアラベスクの大ファンで、テープをコピーさせてくれなんて頼まれたもんだった。その後、1983年になってようやくオフィシャルなロシア盤アルバムがリリースされている。
 このように、あくまでも日本限定のスーパー・グループだったアラベスクだが、皮肉なことに解散後の80年代後半になってヨーロッパで注目される事になる。リード・ボーカリストだったサンドラがソロ・デビューし、85年にシングル“Maria Magdalena”がヨーロッパ各国のヒット・チャートで1位を獲得、瞬く間にヨーロッパでもトップ・クラスのスーパー・スターとなった。これがきっかけで、そのサンドラが所属していたグループとしてにわかに話題となったのだ。おかげで、リリース当時は全く売れなかったためプレス枚数も少なかった彼女たちのレコードは、マニアの間で高値で取り引きされるようになる。中でも12インチ・シングルは極端にプレス枚数が少ないため、現在でもプレミアム・アイテム扱いされている。
 アメリカで出版されたディスコ研究本“Saturday Night Forever”でも、日本における彼女たちの人気が特異な現象として大きく紹介されており、今では伝説的なディスコ・グループとしてカルト的な人気を集めているのだ。

 ユーロ・ディスコの王道を行くベタなサウンド、極端に訛りが強い奇妙な英語など、しばしば嘲笑の的となる彼女たちの楽曲だが、改めて聴いてみると実に巧みに計算されたポップスであり、決して出来の悪い作品ばかりではないことに気付く。確かに、アバやボニーM、ブロンディなど当時の大物アーティストのヒット曲を明らかにパクったような作品も多く、その辺りが本国やヨーロッパで低く見られた要因の一つだろう。“Hello, Mr. Monkey(ハロー・ミスター・モンキー)”なんかはモロにボニーMの“Rasputin(怪僧ラスプーチン)”のパクりだし、ドイツでのみシングル・カットされた“City Cats(シティ・キャッツ)”もブロンディの“Call Me”の露骨なパクり。“Marigot Bay(哀愁のマリゴット)”や“Indio Boy(インディオ・ボーイ)”はアバの“Fernando”や“Chiquitita”のパクりだとも言える。しかし、それらは非常に良く出来たパクりであり、決して安っぽいキワモノなどではなかった。
 また、当時の日本のビクター・レコードが洋楽ディスコに非常に力を入れていたのと対照的に、ドイツでの所属レコード会社EMI及びMetronomeが彼女たちのセールスに積極的でなかった事も災いした。ディスコ路線を前面に押し出したビクターのセールス展開と違って、ドイツやヨーロッパではバラードやポップ・ナンバーを中心とした平均的なコーラス・グループとして売り出されている。決して歌唱力に恵まれているわけではない彼女たちにとっては、ちょっと荷が重かったかもしれない。どんなに優れた楽曲を作っても、宣伝不足と誤ったマーケティングというハンデがあっては売れなくても仕方がないだろう。
 ヒット曲というのは優れた楽曲と十分な宣伝力、的確なマーケティング、そして適切なタイミングが揃ってこそ初めて生まれるものであり、日本とヨーロッパにおけるアラベスクの極端なレコード・セールスの差はその証拠と言えるかもしれない。
 さらに、“Make Love Whenever You Can”を“メイク・ラブ・ウェネヴァル・ユー・カン”などと発音してしまうトンチンカンな英語力も大きな問題だった事は否めない。ドイツに行ったことがある人なら分かると思うが、ドイツ人はビックリするくらいにキレイな発音の英語を話す人が多い。英語が殆ど喋れない日本人には違和感ないのかもしれないが、ドイツ人にしてみれば失笑ものだったに違いない。
 ちなみに、デビュー当初のメンバーはメリー、ミシェーラ、カレンの3人。数度のメンバー・チェンジを経て、サンドラ、ジャスミン、ミシェーラの3人に落ち着いた。解散後はサンドラがソロ・アーティストとして大成功する一方で、ジャスミンとミシェーラがルージュというグループを結成したものの全く売れなかったのも皮肉だった。

 

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左から ジャスミン サンドラ ミシェーラ

 

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Deluxe

The Best Of Vol.T

The Best Of Vol.U

(P)1995 Victor Entertainment (JP) (P)2003 Monopol Records (Germany) (P)2004 Monopol Records (Germany)
Disc 1
1,Hello, Mr. Monkey
2,Fly High Little Butterfly
3,Someone Is Waiting For You
4,Buggy Boy
5,Friday Night
6,Peppermint Jack
7,In The Heat Of A Disco Night
8,Rock Me After Midnight
9,Lucifer's Lover
10,Hell Driver
11,High Life
12,Jingle Jungle Joe
13,Roller Star
14,Marigot Bay
15,Parties In Penthouse
16,Once In A Blue Moon
17,Make Love Whenever You Can
18,Keep The Wolf From The Door
19,I Don't Wanna Have Breakfast With You
20,Midnight Dancer
Disc 2
1,In For A Penny, In For A Pound
2,The Hero Of My Life
3,Indio Boy
4,Billy's Barbeque
5,Caballero
6,Why Do You Ride The High Horse
7,It's So Hard To Leave You
8,Hit The Jackpot
9,Why No Reply
10,A New Sensation
11,Young Fingers Get Burnt
12,Zanzibar
13,Loser Pays The Piper
14,Heart On Fire
15,Don't Kiss A Crocodile
16,Dance Dance Dance
17,You Better Get A Move On
18,Tropical Summernight
19,Time To Say Goodbye
20,Dreamin'
CD 1
1,Hello, Mr.Monkey
2,Buggy Boy
3,Friday Night
4,In For a Penny, In For A Pound
5,Fly High Little Butterfly
6,Caballero
7,Hit The Jackpot
8,Why No Reply
9,Zanzibar
10,Billy's Barbeque
11,In The Heat Of A Disco Night
12,Rock Me After Midnight
13,City Cats
14,Peppermint Jack
CD 2
1,Dancing In The Fire Of Love
2,Hell Driver
3,Don't Kiss A Crocodile
4,Lucifer's Lover
5,Plastic Heart
6,It's So Hard To Leave You
7,Roller Star
8,High Life
9,Once In A Blue Moon
10,Jingle Jangle Joe
11,Marigot Bay
12,Hey, Catch On
13,Take Me Don't Break Me
14,Parties In A Penthouse
CD 1
1,Dance Dance Dance
2,A New Sensation
3,Make Love Whenever You Can
4,Look Alive
5,Sunset In New York
6,Hi, Hi, Highway
7,The Rebels Of Bounty
8,Tropical Summernight
9,Run The Show
10,I Stand By You
11,Ladies First
12,The Only Night Was A Lonely Night
13,Indio Boy
14,Catch The Tiger
15,You Better Get A Move On
16,Bye Bye My Love
17,Sunrise In Your Eyes
18,For Your Smile
19,Love's Like A Symphony
20,Time To Say Goodbye
CD 2
1,Midnight Dancer
2,Young Fingers Get Burnt
3,Discover Me
4,Keep The wolf From The Door
5,Moorea
6,Nights In The Harbour
7,The Hero Of My Life
8,Dreamin'
9,Hey What A Magic Night
10,Like A Shot In Dark
11,Prison Of Love
12,Rainy Love Affair
13,The Doctor Likes Music
14,Let's Make A Night Of It
15,Heart On Fire
16,Loser Pays The Piper
17,Stop Crying For The Moon
18,Indio Boy (Version for Japan)
19,Hi, Hi Hightway (Version For Japan)
20,Time To Say Goodbye (Extended Version)
 これだけで全てのヒット曲及び代表的なアルバム・トラックが揃ってしまうお得な日本盤2枚組ベスト。後期の作品を中心に選曲されたDisc 2の方が比較的地味な内容になってしまうのは致し方ないところでしょうか。まさにGuilty Pleasure的なユーロ・ディスコの宝庫。大衆ポップスのお手本的な楽曲が揃っています。注目は泣く子も黙る大ヒット#1(Disc 1)。この盤でしか手に入らないエクステンデッド・エディットです。  ヒットが1曲しかないドイツでは、長い間サード・アルバムの“Marigot Bay”しかCD化されていなかったのですが、遂に2枚組ベストがシリーズとしてリリース。当時発売されたばかりのサンドラのベストDVDに合わせての便乗企画かと思われます。それだけ、ドイツではサンドラ人気が根強いということでしょう。しかし、面白いのはジャケットのロゴ。当時ドイツで使用されていたものではなく、日本盤と同一のものです。  さすがに第2弾では大半がアルバム・トラック。とはいえ、CD 1の#14や#18、#19、CD 2の#7などシングル・カットされてもおかしくないようなキャッチーでポップな楽曲も多く、十分に楽しめる2枚組です。今回の目玉はCD 2に収められているバージョン違い。ただ、#19なんかはどう聴いてもCD 2の#6と同じバージョンなんですけど・・・。#20はドイツでリリースされた12インチ・バージョンとも違っているので、ちょっとお得かも。

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The Best Of Vol.V

Arabesque (1978)/
Arabesque U(1979)

Radio Arabesque (1983)/
Time To Say Goodbye (1984)

(P)2005 Monopol Records (Germany) (P) CD-Maximum (Russia) (P) CD-Maximum (Russia)
CD 1
1,Tall Story Teller
2,Six Times A Day
3,Ecstasy
4,The Man With The Gun
5,Rock'n Roll Fan
6,Love Is Just A Game
7,I Don't Wanna Have Breakfast With You
8,Don't Fall Away From Me
9,Squaw
10,Fools Paradise
11,Give It Up
12,A Flash In The Pan
13,Pack It Up
14,Black Out
15,You Win, Hands Down
16,Surfing Bahama
17,Tough And Go
CD 2
1,The Smile Of A Clown
2,Stupid Boys
3,Bye Bye Superman
4,Angel Face
5,Why Do You Ride The High Horse
6,Born To Reggae
7,Don't Wait For A Sailor
8,Someone Is Waiting For You
9,The End Of The Show
10,Hit Medley Part One
11,Hit Medley Part Two
12,Squaw (Extended Version)
13,Ecstasy (Long Version)
14,Time To Say Goodbye (Long Version)
1,Hello, Mr.Monkey
2,Fly High Little Butterfly
3,Someone Is Waiting For You
4,The Man With The Gun
5,Six Times A Day
6,Buggy Boy
7,Friday Night
8,Catch Me Tiger
9,Give It Up
10,Love Is Just A Game
11,Peppermint Jack
12,In The Heat Of A Disco Night
13,Rock Me After Midnight
14,Lucifer's Lover
15,Dancing In The Fire Of Love
16,It's So Hard To Leave You
17,Hell Driver
18,City Cats
19,Don't Kiss A Crocodile
20,Platsic Heart
21,Hello, Mr. Monkey

1,Hello, Mr.Monkey
2,Why Do You Ride The High Horse
3,Six Times A Day
4,Pack It Up
5,Dance Dance Dance
6,Why No Reply
7,Marigot Bay
8,Sunrise In Your Eyes
9,The Rebels Of The Bounty
10,Surfing Bahama
11,Moorea
12,Tropical Summernight
13,Time To Say Goodbye
14,Ladies First
15,Ecstasy
16,Love's Like A Symphony
17,Dreamin'
18,Stop Crying For The Moon
19,The Smile Of A Clown
20,Sunset In New York
21,Squaw
22Hi Hi ,Highway ('81 Version)
23,Marigot Bay (Special Version)

 前2作がよほど好評だったのか、これでもかとばかりにリリースされた2枚組第3弾。これで彼女たちの作品が全て揃うという事で、もうベスト盤とは呼べないですよね。実際シングル曲はCD 1の#1と#3だけだし。それでも、CD 1の#6や#10、#11など結構好きな曲もあり。またまたCD 2ではレアな音源を収録しているものの、容量的に余裕があるのだから“In For A Penny”の12インチ・バージョンなんかも入れれば良かったのに。何となく詰めの甘さが気になる企画ではあります。  ロシアで発売された、ファーストとセカンドをカップリングしたブートCD。日本盤のジャケットを使用しているので、もしかしたら日本盤CDをコピーしたのかもしれません。ボーナス・トラックには日本盤の2枚組ベスト“Deluxe”に収録されていたバージョンが収録されているし。ただ、中のブックレット等にはドイツ盤のアートワークも使用されており、印刷も大変良好。なかなか芸が細かいです。  こちらもロシアのブート盤ながら、内容的には非常にオイシイもの。そもそも、“Radio Arabesque”は日本でもドイツでもCD化されていない企画盤。単なるノンストップ・メドレーでなく、メンバーのトークが入るというのが売りでした。また、ボーナス・トラックとしてバージョン違いを収録。特に#23は非常に入手困難な12インチ・バージョンで、ファンには嬉しい選曲です。音質も大変良好で、全くブートだとは思えない品質なのはある意味で立派。って、褒めちゃマズいか(笑)。

TAKE_ME_DONT_BREAK_ME.JPG IN_FOR_A_PENNY.JPG ECSTASY.JPG

Take Me Don't Break Me (1980)

In For A Penny (1981)

Ecstasy (1986)

(P)1980 Metronome (Germany) (P)1981 Metronome (Germany) (P)1986 ZYX Records (Germany)
Side 1
1,Take Me Don't Break Me
  (Special Long Version) 4:54
Side 2
1,Once In A Blue Moon (Special Long Version) 4:30
Side 1
1,In For A Penny (Special Long Version) 4:04
Side 2
1,I Don't Wanna Have Breakfast With You
Side 1
1,Ecstasy 5:12
Side 2
1,Ecstasy (Another Version) 3:52
 アラベスクの激レア12インチの一つ。タイトル・トラックは日本ではシングル・カットされなかった作品で、個人的にもあまり好きでじゃない曲。目玉はSide 2の“Once In A Blue Moon”、日本語タイトル「愛はゆれて」の12インチ・バージョン。「ハロー・ミスタ・モンキー」や「ミッドナイト・ダンサー」路線のキャッチーなユーロ・ディスコ。単なるエクステンデッドではなく、微妙にディスコ・リミックスが施されています。これが非常にカッコいい。  これを探している人も多いことでしょう。日本ではむちゃくちゃヒットした「恋にメリーゴーランド」の12インチです。日本の市場では2万円〜3万円で取り引きされている激レア・アイテム。海外でも100ドル近くします。ただ、基本的には単なるエクステンデッド・エディットで、ディスコ・リミックスなんかを期待すると大いに肩透かしを食らう危険性あり。ただ、もともとが2分58秒しかないので、キャッチーなサビやシンセ・リフをもっと聴いていたいという人にはオススメかも・・・!?  アラベスクが既に解散してしまった86年、サンドラの人気にあやかってリリースされてしまった12インチ・シングル。もともとはラスト・アルバムに収録されていた作品で、特にこれといった特徴のない楽曲。ただ、この12インチ・バージョンでは、ハイエナジーとテクノの中間辺りを狙ったニュー・ウェーブ的なアプローチを聴かせており、オリジナル・バージョンよりは出来がいいです。あくまでも比較論ですけど。

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