アニー・ベル Annie Belle

 

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 初主演作となったソフト・ポルノ『愛の妖精アニー・ベル』(76)でセンセーションを巻き起こし、主にイタリアを拠点にして活躍したセクシー女優アニー・ベル。ブロンドのショート・ヘアが似合うユニセックスなベビー・フェイス、グラマラスな肉体を惜しげもなくさらして見せる自由奔放な大胆さ。まさしく“愛の妖精”という言葉がふさわしい、天使のように汚れを知らないセックス・シンボルだった。

 1956年12月10日、フランスはパリの生まれ。本名をアニー・ブリヤンという。父親はエンジニアで母親は専業主婦。芸能界とは全く無縁の中流家庭に生まれた彼女だったが、リベラルでオープンな両親のおかげでのびのびとした少女時代を過ごしたという。特に思春期の成長過程で自分の性に自信が持てたのは、両親の教育方針のおかげだったと語っている。
 “私はプチ・ブルジョワ家庭に育って、父親はとても厳しい人だったけど、4人の子供たちを性的に抑圧するようなことは全くなかったわ。裸やセックスは悪いことや汚らわしいことではなかった。とても自由な気風の家庭だったのよ。私が初潮を迎えた時も、両親は避妊のことなどを率直に語って私を安心させてくれた。恋人が出来たら心配しないでお父さんに言いなさい、ちゃんとピルを使いなさいって。そういう両親のもとで育ったら、セックスを屈折した目で見るようなことなどないわ。だから映画で服を脱ぐことに躊躇しなかったのかもしれないわね(笑)”
 女優を志すようになったアニーは、パリのルー・ブランシェ演劇学校で演技を学び、18歳の時にジャン・ロラン監督のヴァンパイア映画『血に濡れた肉唇』(75)で映画デビュー。主人公の初恋の相手である女ヴァンパイアを演じた。当時の彼女が世話になっていた男性マネージャーはもともと音楽畑の人で、彼がマネージメントを手掛けていた女優はアニーただ一人だったらしいが、それだけに売り込みやイメージ作りには力を注いでくれたという。アニー・ベルという芸名やブロンドのショート・ヘアも彼のアイディアだったようだ。
 そうした努力はすぐに実を結び、マッシモ・ダラマーノ監督のイタリア映画『愛の妖精アニー・ベル』の主役に抜擢されることに。当時19歳の彼女が演じたのは、17歳の処女アニー。愛人でもある義理の父親に連れられて香港へ行ったアニーが、自由奔放な性体験を経て大人の女性としての自我に目覚めていく姿が描かれる。これがヨーロッパ各国はもとより日本でも大変な話題となり、彼女はシルヴィア・クリステルやラウラ・ジェムサーに続くソフト・ポルノ・スターとして一躍脚光を浴びることとなった。

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『血に塗れた肉唇』より

 矢継ぎ早に作られた主演作第2弾『卒業生』(76)では、自由奔放な快楽の果てに新たな人生を探し求める女性ローラ役を好演。フェリーニ映画の脚本家として有名なブルネッロ・ロンディが監督を手掛けた“Velluto nero”(76)では、ラウラ・ジェムサーとレズビアン・シーンを演じて話題を集めた。
 だが、当時の彼女はまだ若くて世間知らずだったこともあり、すぐにキャリアの行き詰まりを感じるようになったという。まず、『愛の妖精アニー・ベル』への出演が決まる前に、彼女はイギリス人の映画プロデューサー、ハリー・アラン・タワーズと3年間のマネージメント契約を結んだ。そのおかげでスターダムにのし上がることができたわけだが、以降も紹介される仕事は同じような役柄ばかり。これが彼女には不満だった。“『エマニエル夫人』のように優れたエロティック映画ならいいけど、私が出演する映画はオッパイやお尻を見せるだけのものばかりだった”ことから、1年半で一方的に契約を破棄した。
 それでも、彼女のもとに舞い込むのは脱ぐことだけが重要視されるような映画が大半。“私は裸を見て過剰反応するような偽善者とは違う”としながらも、当時のことを彼女はこう回想している。“私はとても若かったし経験も浅かったから、映画の中で脱いだということだけでレッテルを張られるなんて考えてもみなかったのよ。撮影が終われば私はただのアニー・ブリヤン。映画の登場人物とは全くの別人なのに、それを理解してくれない人もいたわ。私生活でも同じような振る舞いをしているように思われるのよ”と。

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『愛の妖精アニー・ベル』より

 その一方で、『愛の妖精アニー・ベル』と『卒業生』の2本は、彼女の人生において重要な位置を占める二人の男性との出会いをもたらした。一人は俳優のアル・クライヴァーことピエルルイジ・コンティ、そしてもう一人は俳優兼プロデューサーのチロ・イポリートである。
 『愛の妖精アニー・ベル』で美術商フィリップ役を演じたピエルルイジは、ジョー・ダマート監督やルチオ・フルチ監督の作品で知られるカルト俳優だが、当時は新進気鋭の若手二枚目スターだった。劇中で濃厚なセックス・シーンを演じた二人だが、私生活でもたちまち恋に落ちた。とはいえ、アニーは当時まだパリ在住で、ピエルルイジはローマ在住。撮影が終われば離れ離れになることは分かっていたため、あまり深入りはしなかったという。
 ところが、その直後に『卒業生』でも二人は共演することに。現場でアニーの顔を見たピエルルイジは、“こんなところで何をやってるんだ!?”といって驚いたという。この再会によって二人の関係は急速に深まり、撮影が終了するとアニーはローマへ移り住むことを決意。すぐに二人はローマのアパートで同棲するようになった。
 その後も数多くの作品で共演し、周りからはおしどりカップルと見られていたアニーとピエルルイジ。しかし、二人の同棲生活には深刻な問題があった。もともと酒癖の悪いことで有名なピエルルイジだったが、その影響からかアニーも次第にアルコールに溺れていくようになったのだ。そのため私生活は荒れ放題。二人は撮影現場で喧嘩することも珍しくなくなった。もうやっていけない、そう考えたアニーは、ある日突然思い立ったように荷物をまとめてアパートから出て行ったという。およそ2年間の、長いようで短い蜜月だった。

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『真夜中の狂気』より

 ピエルルイジと別れたアニーは、ジュゼッペ・コリッツィ監督のコメディ映画“Switch”(79)に主演。これは彼女にとって初めての非ソフト・ポルノ映画であり、言うなれば女優として演技開眼をした記念すべき作品だったという。さらに、ルッジェロ・デオダート監督の『真夜中の狂気』(80)ではレイプ魔に復讐するヒロインを、ジョー・ダマート監督の“Rosso Sangue”(81)では殺人鬼に殺される看護婦を、そして巨匠エットーレ・スコラ監督の名作“La nuit de Varennes”(82)では少ない出番ながら妖艶な娼婦役で顔を出した。
 だが、年齢と共に役柄が小さくなっていくのはセクシー女優の宿命みたいなもの。アニーもその例に漏れなかったわけだが、そんな折に再会したのが『愛の妖精アニー・ベル』で共演したチロ・イポリートだった。もともと俳優としてキャリアをスタートしたものの、70年代後半からプロデューサーや脚本家、そして監督としても活躍するようになったイポリート。たまたま街で偶然すれ違ったことから改めてイポリートとの親交を深めたアニーは、彼が監督を務めたコメディ映画“Pronto...Lucia”(82)でヒロインである鉄火肌のナポリ女ルチア役を好演。これがイタリア国内で大ヒットしたことから、ようやく女優として真っ当な評価を得ることとなった。
 私生活でも良きパートナーとなった二人は、イタリアのバンド、スコーラーの同名アルバムをモチーフにしたコメディ映画“Uccelli d'Italia”(84)でも再びタッグを組み、イポリートが製作を手掛けた巨匠マウロ・ボロニーニ監督の宮廷劇『薔薇の貴婦人』(86)でもアニーが女中役で出演。さらに、アニーはマット・ディロン主演のアメリカ映画『初恋物語』(82)やジョー・ダマート監督のソフト・ポルノ『欲望の小部屋』(84)などにも顔を出した。
 しかし、そのイポリートとも80年代末には関係を解消。その後も映画出演の話はたびたびあったものの、いずれも脱ぎ役ばかりだったことから断り続け、91年には女優引退を決意するに至った。“(最後のオファーを断ったのは)いつも通りのエロティック映画だったからよ。私だってもう若くはなかったし、いつまでも服を脱ぐような気分じゃなかった。映画の仕事が嫌になったわけじゃないけど、私にとって意味のある役柄や興味深いような脚本が必要だったのよ”

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“Rosso Sangue”より

 故郷のパリへ戻ったアニーは、ソーシャル・ワーカーの助手を務めながら大学で心理学を専攻。結婚して一人娘ヴァレンチナをもうけたものの離婚し、現在もパリでソーシャル・ワーカーの仕事を続けているという。そんな彼女は、女優として活躍していた頃のことをこう振り返っている。“私はただ楽しむことだけに興味があって、友達と遊びに出かけるのが好きで、仕事は二の次だったわ。俳優はキャリア志向でなくてはいけないけど、私は違った。あるとき、新聞にこんな記事が載っていたの。私が記者会見にノー・メイクで、しかも洗った髪を乾かさないまま現れたって。そういうことには全く無頓着だった。自己顕示欲を満たすために仕事をしていたわけじゃないんだもの”と。

 

 

愛の妖精アニー・ベル
La fine dell'Innocenza (1976)
日本では1977年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2003 ハピネット・ピクチャーズ (Japan)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル・ステレオ/音声:イタリア語・日本語/字幕:日本語/地域コード:2/82分/製作:イタリア・イギリス

映像特典
なし
監督:マッシモ・ダラマーノ
製作:ハリー・アラン・タワーズ
   フルヴィオ・ルチサーノ
脚本:マルチェロ・コスチア
   マッシモ・ダラマーノ
   ハリー・アラン・タワーズ
撮影:フランコ・デッリ・コッリ
音楽:ビクシオ/フリッツィ/テンペラ
出演:アニー・ベル
   チロ・イポリート
   アル・クライヴァー
   フェリシティ・デヴォンシャイア
   チャールズ・フォーセット
   イネス・ペレグリーニ
   リク・バッタリア
   マリア・ローム
   リンダ・ホー

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義理の父親と休暇を過ごす少女アニー(A・ベル)

香港行きの飛行機でリンダ(F・デヴォンシャイア)と知り合う

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実は、義理の父マイケル(C・フォーセット)は愛人だった

リンダの友人グループと合流することになったアニーたち

 アニー・ベルの記念すべき主演第1作目。純粋すぎるゆえに自由奔放な17歳の少女が、異国情緒溢れる香港で様々なセックスを経験する中で、次第に女性としての自我に目覚めていく姿を描く。言うなればロリータ版『エマニエル夫人』。ここ日本でも当時は大変な評判となり、少年のようにあどけない顔立ちとスレンダーな肉体を持つアニー・ベルは、元来ロリータ趣味の傾向が強い日本男子のハートをがっちりと捉えた。
 主人公は修道院学校に通う17歳の美少女アニー。愛人でもある義理の父親と香港へやって来た彼女は、その妖精のようなルックスと小悪魔的なまなざしで、たちまち上流階級の人々を虜にする。それも、男女関係なく。性欲に駆られた大人たちを前に自由奔放にふるまって見せるアニーだが、中身はまだまだ純情可憐な少女。だが、ある晩何者かによって無理やり処女を奪われてしまう。
 それをきっかけに、より大胆な行動に出るアニー。本当の愛を求めて様々な人々と自由奔放なセックス体験を重ねていく彼女だったが、いつも心は満たされないまま。誰もが私をおもちゃのように扱う。なぜ?そんな時、アニーは一人の尼僧と出会う。仏教の教えに魅了されて尼僧と旅に出た彼女は、やがて生きることの意味と無償の愛について学んでいく…。
 監督はジャロの傑作として名高い『ソランジェ 残酷なメルヘン』(72)やモンドなアート・ポルノ『毛皮のビーナス』(69)で知られる名匠マッシモ・ダラマーノ。『エマニエル夫人』の設定をそのままなぞっただけのようなストーリーは底が浅いものの、香港のエキゾチックなロケーションを存分にフィーチャーしたスタイリッシュな映像は悪くないし、なによりもアニー・ベルの魅力を最大限に生かすことに焦点を絞った演出はそれなりに手堅いと言えよう。脇を固める多彩なキャストもいいし、ジェーン・バーキンを彷彿とさせるウィスパー・ボイスが印象的な甘いテーマ・ソングも素敵。決してダラマーノ監督の代表作とは呼べないものの、70年代ユーロ・エロスの魅力を十分に楽しめる作品ではあると思う。

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アニーはハンサムな古美術商フィリップ(A・クライヴァー)に惹かれる

マイケルが逮捕されてリンダの家へ身を寄せたアニー

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暗闇で何者かにレイプされてしまうアニー

大切な処女を奪われてショックを受けるアニーだったが…

 修道院学校に通う17歳の少女アニー(アニー・ベル)は、裕福な投資家である義理の父親マイケル(チャールズ・フォーセット)と共に休暇を過ごすこととなった。二人はまずスイスのアルプスへと向かうが、ゲレンデで若い男子に囲まれてチヤホヤされるアニーを見たマイケルは落ち着かない様子。そこで、彼は仕事にかこつけて香港へ彼女を連れて行くことにした。
 香港行きの飛行機の中で、二人はリンダ(フェリシティ・デヴォンシャイア)という大富豪の女性と知り合う。彼女は夫アンジェロ(チロ・イポリート)と共に香港に暮らしているという。夫婦はマイケルとアニーを夕食に誘うが、アニーと二人きりで過ごしたいマイケルはにべもなく断った。実は、マイケルとアニーは愛人関係にあったのだ。だが、実の親子以上に年の離れたマイケルは男性機能が不能。片や、年頃のアニーには“本当の男性”が必要だった。
 アニーのご機嫌をとって食事に連れ出したマイケル。だが、そこでリンダとアンジェロの夫妻と再会し、彼らの友人たちと夜遊びに繰り出すこととなった。刺激的な上流階級の大人たちと触れ合って目を輝かせるアニー。中でも、彼女は若くてハンサムな古美術商フィリップ(アル・クライヴァー)に魅力を感じる。
 アニーが自分の手元から離れていくことを恐れて嫉妬に駆られるマイケルだったが、ホテルに戻ったところを警察に逮捕されてしまう。外貨の違法取引に関わっていたのだ。警察はアニーが実の娘でないことから彼女を放置し、ホテルからも追い出されてしまうこととなった。そこで、アニーはリンダとアンジェロの夫妻を頼ることにする。
 リンダの豪邸に身を寄せることとなったアニー。二人は実の姉妹のように仲良くなった。彼女によると夫アンジェロはリンダの莫大な財産が目当てであり、夫婦の間には愛も情熱的なセックスもないという。一方のアニーはまだまだ初心なところがあり、愛する人に処女を捧げたいと願っていた。そんな彼女に、リンダは愛人ハリーとの馬小屋でのセックスを見せつける。
 その晩、リンダの自宅でパーティが開かれた。招待客の注目の的はアニー。誰もがそのコケティッシュな美貌と若い肉体に目が釘付けだった。ところが、愛犬ボボを探して屋敷内をさまよっていたアニーが、何者かによってレイプされてしまう。誰なのか分からない相手に処女を奪われてショックを受けるアニー。だが、彼女は翌朝仕事に出かけるアンジェロの指輪を見て、犯人が彼であることに気付いた。
 自由で逞しいリンダの励ましもあって、すぐにショックから立ち直ったアニー。彼女はかねてから気になっていたフィリップのギャラリーを訪れ、展示品のベッドの中で激しいセックスに溺れる。彼こそ私が求めていた男性だと確信したアニーは、フィリップと共に駆け落ちすることにした。これに動転したのがリンダ。彼女はアニーのことを本気で愛するようになっていたのだ。そこで、アンジェロが一計を案ずることにする。
 フィリップの元恋人スーザン(マリア・ローム)を手籠めにして、二人の行き先を聞き出したアンジェロは、仏教寺院を見学中のフィリップとアニーの前に現れる。5000ドルでアニーと手を切らないかとフィリップに申し出るアンジェロ。金に困っていたフィリップは小切手を受け取り、愛する人の裏切りにアニーは怒りを爆発させた。
 結局リンダの自宅へ連れ戻されたアニー。リンダは物質的にも肉体的にも最大限の愛情を彼女に捧げるが、またいつ彼女が出て行ってしまうかと考えると心配でならない。すると、アンジェロが秘策を思いつく。アニーの肉体は女だけでは満足できない。この屋敷に彼女を満足させる男がもう一人いればいいのだ。つまり、アンジェロとリンダが交互にアニーの夜のお供をするのである。
 しかし、アニーはまるで玩具のように自分を扱う夫妻に強い不満を抱くようになっていた。彼女の中に自我が芽生えつつあったのだ。刑務所で久々に再会したマイケルは、そのアニーの変化にいち早く気付いた。もはや彼女は世間知らずの少女ではない。彼女には若さを謳歌することが必要なのだ。そう感じたマイケルは、ようやく彼女を手放すことにする。
 やがて香港映画に女優として出演することになったアニーは、今度は共演のアクション俳優チェンと駆け落ちをする。東洋の神秘的なセックスに溺れ、香港の他愛ない庶民生活を身近に感じ、夜の違法ギャンブルで危険な冒険のスリルを楽しんだアニー。だが、またもや警察に捕まってリンダとアンジェロのもとへ連れ戻されてしまう。
 自我の目覚めを意識しながらも、生きる目的を見いだせないでいるアニー。そんな時、彼女は自宅のそばを通りがかった仏教の尼僧サラ(イネス・ペレグリーニ)に魅了され、彼女について旅へ出ることとなる…。

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アニーが家を出たことから嘆き悲しむリンダ

リンダの夫アンジェロ(C・イポリート)がアニーを連れ戻す

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アニーと幸せな時間を過ごすリンダだったが…

アンジェロはアニーをつなぎとめる秘策を考える

 当時は500人の候補者の中からオーディションで選ばれたと宣伝されたアニー・ベルだったが、実際はフランス人の元マネージャーのオフィスへハリー・アラン・タワーズが訪れた際、たまたま彼女の宣材スチールを見て一目で気に入ったことから引き抜かれた…ということだったらしい。言うなればシンデレラ・ストーリーだったわけだが、彼女自身はこう振り返っている。“実際、とても簡単なことだったわ。つまり、役を得るためにはプロデューサーと寝なきゃいけないって噂が単なるゴシップだってこと。少なくとも私の場合はね”。
 そんな彼女は、マッシモ・ダラマーノ監督と本作のことについてこう述べている。“素晴らしいプロフェッショナルで、才能のある男性だった。でも、残念ながら大変な低予算で映画を撮らねばならなかったのよ。マッシモは自分の仕事をとてもよく理解していたけど、よくある話ね。どんなに才能があってもお金がなければ立派な映画は撮れないの。だから、彼は『愛の妖精アニー・ベル』みたいな作品を撮ることになってしまった。おっぱいを見せるだけの飾らない映画をね”
 製作を手掛けたハリー・アラン・タワーズはイギリス出身の映画プロデューサー。ソヴィエトのスパイや犯罪組織のボスだったという怪しげな噂もある人物で、ヨーロッパはもとよりアジアや南アフリカなど世界各国を転々としながら低予算の娯楽映画を作り続けた不思議な人物だった。イタリア側のプロデューサー、フルヴィオ・ルチサーノは、マリオ・バーヴァ監督の『バンパイアの惑星』(65)から巨匠フランコ・ゼフィレッリの『トスカニーニ』(88)まで幅広い映画を手掛けた商売人で、80年代以降はマッシモ・トロイージやファウスト・ブリッツィといった若い才能の発掘にも貢献した人物である。
 脚本に参加したマルチェロ・コスチアは『ドリアン・グレイ美しき肖像』(70)でもダラマーノと組んだ脚本家で、スパニッッシュ・ホラーの傑作『悪魔の墓場』(74)にも名を連ねていた人物。また、撮影監督には『地球最後の男』(64)や『情無用のジャンゴ』(66)といったカルト映画を手掛けたカメラマン、フランコ・デッリ・コッリが参加している。
 さらに、当時のフレンチ・ポップスを彷彿とさせる甘美な音楽スコアを手掛けたのは、フランコ・ビクシオ、ファビオ・フリッツィ、ヴィンチェ・テンペラの3人。フリッツィは『サンゲリア』(79)や『ビヨンド』(81)など一連のルチオ・フルチ作品のスコアでお馴染みであろう。それぞれにキャリアのあるコンポーザーだが、本作以外にもトリオを組むことが少なくなかった。

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リンダとアンジェロの夫妻に不満を募らせるアニー

香港のアクション俳優チェンと駆け落ちをする

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再び警察に捕まってしまったアニーだったが…

尼僧サラ(I・ペレグリーニ)はアニーに人間としての自立を促す

 最後にキャストについても触れておきたい。アニーを本気で愛してしまう女性リンダ役のフェリシティ・デヴォンシャイアは、当時イギリスの低予算セックス・コメディやソフト・ポルノに数多く出演していたセクシー女優。その夫アンジェロ役のチロ・イポリートは、先述したように脚本家やプロデューサー、監督としても活躍した人物で、後にアニー・ベルの恋人ともなった男性だ。
 アニーが最初に恋する古美術商フィリップ役を演じるアル・クライヴァーことピエルルイジ・コンティも、同じく先述したように本作での共演がきっかけでアニーの恋人となった男性。当時はまだトレードマークの髭を生やしておらず、ちょっとワルな二枚目俳優といった感じだ。
 さらに、アニーの義理の父親であり愛人でもあるという初老紳士マイケル役を演じているのは、リカルド・フレーダ監督のヴァンパイア映画“I vampiri”(56)やスペクタクル史劇『スパルタ総攻撃』(62)などイタリア映画で活躍していたアメリカ人俳優チャールズ・フォーセット。また、アニーを教え導く尼僧サラ役には、パゾリーニの『アラビアン・ナイト』(72)で知られる女優イネス・ペレグリーニが扮している。
 その他、ジェス・フランコ作品の常連で当時ハリー・アラン・タワーズの奥さんだったマリア・ローム、ハリウッドでも活躍した香港出身の中国系女優リンダ・ホーなどが共演。加えて、『河の女』(55)でソフィア・ローレンの相手役を演じた俳優リク・バッタリアが警察署長役でチラリと顔を出している。

 

 

卒業生
Laure (1976)
日本では1976年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済

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(P)2003 JVD (Japan)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:日本語/地域コード:2/91分/イタリア・フランス

特典映像
予告編
スタッフ&キャスト一覧
監督:エマニエル・アルサン
製作:オヴィディオ・G・アッソニティス
   ジョルジョ・C・ロッシ

脚本:エマニエル・アルサン
撮影:ロベルト・デットーレ・ピアッツォーリ
音楽:フランコ・ミカリッツィ
出演:アニー・ベル
   アル・クライヴァー
   オルソ・マリア・ゲリーニ
   エマニエル・アルサン
   ピエール・オードブルグ
   ミシェル・スターク

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タクシーで出会ったローラ(A・ベル)とニコラス(A・クライヴァー)

モーガン教授(O・M・ゲリーニ)夫妻と愛人ミーヤ(E・アルサン)

 日本での劇場公開の順番は前後してしまったものの、こちらがアニー・ベルの主演作第2弾。当時は『エマニエル夫人』の原作者エマニエル・アルサンが監督・原作・脚本を手掛けた上に、女優としても大胆なセックス・シーンを演じていることで話題を呼んだものの、実際には彼女の夫であるルイ・ジャック・ローレ・アドリアンヌが脚本と演出を担当。『エマニエル夫人』の原作本も実は夫が妻の名義で書いていたというのだから、これはまあ自然な流れだったのだろう。
 だが、やはり素人が映画に手を出すと大概はロクなことにならない。本作の場合も、アニー・ベルの妖精のごとき魅力は健在だし、フィリピンを舞台にしたロケーション映像も大変美しいものの、やたらと哲学的で観念的なセリフを並べた割に中身の空っぽなストーリーは酷い有様。アドリアンヌは単なるソフト・ポルノに終わらない高尚な文芸エロスを目指したらしいが、結果的に映画作品としては退屈極まりない代物となってしまった。
 アニーが演じるのは、フィリピンのマニラで暮らす牧師の娘ローラ。カメラマンの青年ニコラスと恋に落ちたものの、性的に自由奔放で解放された彼女は束縛を嫌い、ニコラスの目の前で次々と男性遍歴を重ねていく。ニコラスもまた自由恋愛を尊重し、ローラの好きなようにさせていた。しかし、幻の少数民族マーラを探し求める旅に参加した二人に少しずつ心の変化が起きていき、やがてローラは新しい自分に生まれ変わることを決意する…。
 という、分かったようで分からない内容のお話。そもそもストーリーの重要なモチーフとなるマーラ族の詳細が事実に基づいているものなのかも不明だし、ヒロインのローラがマーラ族の儀式に参加して生まれ変わることを決意するまでの心境というのもチンプンカンプン。やけに難しい言葉ばかり並べられているものの、見ている方には全く意味が伝わってこない。
 結局、印象に残っているのはアニー・ベルのヌード・シーンと、ゴージャスなロケーションを背景にしたセックス・シーン、ジャングルの大自然を捉えた美しい映像といったところ。はて、ストーリーなんてあったっけ?というのが正直な感想だ。あと、わけが分からなかったのは女装のオカマが出てくる下り。どこからどう見ても男なのに誰も彼女(?)が女装だとは気付かず、しかも女性がアフレコで声を当てているので、いったいこれはどういう設定になっているのか?と一気に頭が混乱。無理はあるけど、とりあえず女ということなのだろうか?なんて思っていたら、やっぱり最後は男でしたということが明かされ、ヘリコプターの中でローラと空中セックスを繰り広げることになる。
 果たして、これをシュールと呼ぶべきなのかどうか?そもそも、なぜオカマなのかという理由も全く見当がつかないまま。この下りをはじめ、全編を通して作り手の独りよがりと言われても仕方ないような作品だ。

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モーガン教授は幻の部族マーラについての講演会を開く

講演会の最中にも快楽を求めるローラ

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ローラはノーパンの下半身を風になびかせて街を歩く

大自然に囲まれながら結ばれるローラとニコラス

 舞台はフィリピンのマニラ。人類学研究所リップスの理事である牧師(シルヴィオ・シモネッリ)を父に持つ少女ローラ(アニー・ベル)は、乗り合いタクシーでニコラス(アル・クライヴァー)という若いカメラマンと知り合う。二人はリップスで開催されるモーガン教授(オルソ・マリア・ゲリーニ)の講演を聞きに行くところだった。その途中でモーガン教授と妻ナタリー(ミシェル・スターク)、愛人ミーヤ(エマニエル・アルサン)もタクシーに同乗。どうやらマニラの白人社会ではフリーセックスが当たり前らしく、モーガン夫妻とミーヤのトライアングル関係は周知の事実だった。
 モーガン教授は講演会で絶滅寸前の部族マーラについての研究を発表する。マーラは新太陽部族とも呼ばれており、毎年夏至が訪れると新たな人生を始めるのだという。それ以前の記憶は全て失われ、名前も家族も恋人もなにもかもが一新される。つまり、文字通り生まれ変わるのである。だが、彼らは特定の場所に落ち着くことなく移動を続けるため、いまだに分からないことが多い。モーガン教授は過去にマーラ族と寝食を共にしたことがあったものの、夏至が訪れる前に部落を去らねばならなかった。
 講演会の最中に女学生から下半身を舐められ、思わずエクスタシーの叫び声をあげてしまったローラ。彼女は牧師の娘でありながら性的に解放された少女だった。そんなローラに惹かれていくニコラス。彼もまた愛やセックスは自由だと考えている。街へショッピングに繰り出し、ノーパンの下半身を風になびかせながら通りを闊歩するローラだったが、ニコラスは全く気にすることがない。
 その晩、友人のパーティへ出席した二人。ニコラスはローラに愛を告白し、束縛されない自由な関係を築くことにする。ローラの悦びは自分の悦び。自分はローラを一筋に愛するが、彼女はいつどこで誰と寝ても構わない。それがニコラスの愛し方だった。
 パーティの帰り道にアルテミオ(ベルナルド・ベルナルド)という青年を車に乗せた二人。ローラは助手席でアルテミオとペッティングを始めるが、ニコラスは黙って運転を続ける。近くにアルテミオの友人の家があるということで、そちらへ向かうことにした。到着すると、家は移動の最中。ふと見ると、ベッドの中でローラとアルテミオがセックスをしている。ニコラスはその様子をカメラに収めた。
 そこへドリー(ピエール・オードブルグ)という家主の女性が現れた。ドリーの誘いでヘリコプターでマニラ上空を飛ぶローラとニコラス。すると、その途中でドリーは恋人の女性を拾ってヘリに乗せる。そう、ドリーは女装の男性だったのだ。そうと知ったローラはドリーとヘリの中でセックス。その様子を収めた8ミリ・フィルムを見ながら、ローラとニコラスは編集ルームで愛し合う。
 一方、モーガン教授夫妻とミーヤの関係も複雑だった。ミーヤはモーガン教授と肉体関係にありながら、その妻ナタリーとも深く愛し合っていた。3人は不思議な絆で結ばれていたのである。なおかつ、モーガン教授は若いローラにも魅力を感じていた。しかし、そのローラはニコラスと結婚することとなる。
 やがて、モーガン教授はマーラ族の行方を探す遠征隊を組織。ローラとニコラス、ミーヤも参加することとなる。4人はガイドのアラワ(エディー・ホアキン)に連れられて、川べりのホテルで一泊することにした。そこで一行はスワッピングを試みる。モーガン教授と激しいセックスを交わすローラ。隣の部屋ではニコラスとミーヤが、その歓喜の声に耳を傾けていた。
 その翌朝、一行は川を下ってジャングルへと足を踏み入れていく。その途中でクリスチャンに改宗した部族と出会った。そこで、ローラはマーラ族と寝食を共にしたというモーガン教授の貴重な体験がウソだったことを知る。さらに川を下り、ようやくマーラ族の居場所へたどり着いた一行。だが、そこでモーガン教授は気付いた。マーラ族は外部の人間と接触をしたくないから移動を続けるのだと。彼らのプライバシーを尊重することが大事だ。教授はそのまま引き返すことを提案するが、ローラだけは残ることを主張した。まさに夏至の季節が到来している今だからこそ、ここに残ってマーラ族の儀式へ参加し、新しい自分に生まれ変わろうというのだ…。

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見た目の怪しげなマダム、ドリー(P・オードブルグ)の正体は?

ニコラスとの結婚に踏み切れないローラだったが…

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ミーヤは教授夫人ナタリー(M・スターク)とも愛し合っている

幻の部族マーラを探して冒険の旅に出るローラたち

 いや、あなた気付くのが遅すぎますよ…という人類学者にあるまじきモーガン教授のトンチンカンぶりに苦笑。主人公のローラとニコラスにしても、自由恋愛を推奨&実践するわりには結婚という概念にこだわってみたり。なんだかあちこちで設定の矛盾や穴が散見される脚本は、まさに突っ込みどころ満載といった塩梅だ。
 製作を手掛けたのは『デアボリカ』(74)や『テンタクルズ』(77)でもお馴染みの商売人オヴィディオ・G・アッソニティス。明らかに『エマニエル夫人』の二番煎じを狙ったのだろう。一説によると彼も演出に参加していると言われるが、真偽のほどは定かではない。少なくともアニー・ベルのインタビューによると、演出を手掛けたのはやはりルイ・ジャック・ローレ・アドリアンヌだったそうだ。
 ただ、最終的にアドリアンヌは製作のアッソニティスとウマが合わず、出来上がった作品から自分の名前を削除することを要求。そのため、本編では監督のクレジットが“匿名”となっている。また、本作は主演のキャスティングを巡っても大きなトラブルがあった。実は、もともとヒロインのローラ役に抜擢されていたのはアニー・ベルではなく、アメリカのハードコア・ポルノ女優リンダ・ラヴレースだったのだ。
 今や伝説と化したハードコア映画『ディープ・スロート』(72)で知られるラヴレースだが、ドラッグ中毒を経て宗教に目覚め、当時はハードコアの世界から足を洗っていた。これが彼女にとって本格的な一般作デビューとなるはずだったのだが、クランク・インした途端にどういうわけかカメラの前で裸になるのを拒み出したのだ。恐らく宗教的な理由があったのであろう。困った製作陣は彼女を解雇し、代役としてアニー・ベルを起用したというわけだ。
 脚本の執筆は監督のアドリアンヌが兼任。公開当時はエマニエル・アルサンの書いた小説が原作ということになっていたが、該当する小説が存在するのかどうか定かではない。また、一説によるとオヴィディオ・G・アッソニティス作品でたびたび脚本のリライトなどを手掛けているソニア・モルテーリという女性が参加しているのだという。
 撮影監督を担当したのは、アッソニティス作品には欠かせないカメラマン、ロベルト・デットーレ・ピアッツォーリ。また、『デアボリカ』でもアッソニティスと組んだ名匠フランコ・ミカリッツィが音楽スコアを手掛け、まるでセルジュ・ゲンズブールを彷彿とさせるジュテーム・モワ・ノン・プリュなおフレンチ・メロディを聴かせてくれる。しかも、主題歌を歌っているのはエマニエル・アルサンとミカリッツィ本人だ。
 さらに、美術デザインとセット装飾には、後に『イングリッシュ・ペイシェント』(96)などハリウッド映画を手掛けることになるアウレリオ・クルノーラとフランコ・フマガッリが参加。主演のアニー・ベルも“魔法のように美しいセットだった”と絶賛している。
 ただし、作品そのものに対するアニーの評価はかなり辛口。“ストーリーはまあまあだった。製作費も十分にあったし、俳優も揃っていたけど、全てが無駄に使われてしまったわ。もっといい作品になるはずだったのに”と厳しい意見を述べている。

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旅を続けるうちにローラにも変化が…?

様々な部族の風習を目の当たりにしていく一行

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さらにジャングルの奥地へとボートを進めていく

生まれ変わるためにマーラの儀式へ参加するローラ

 主人公のローラとニコラスを演じるアニー・ベルとアル・クライヴァーだが、前作では共演時間が少なめだったことから気にならなかったものの、本作ではカップルとしての説得力に欠ける…というか、両者の間のケミストリーのようなものがいまひとつ伝わってこないような印象を受ける。実生活でもカップルであったことは周知の事実だが、それがかえってお互いの演技にマイナス効果をもたらしてしまったのだろうか。
 人類学者のモーガン教授を演じているオルソ・マリア・ゲリーニは女優カトリーヌ・スパークのダンナさんで、『ボーン・アイデンティティー』(02)などハリウッド映画への出演も少なくない渋い役者。その妻ナタリー役のミシェル・スタークは、ラウラ・ジェムサー主演の『ラスト・エマニュエル/異国の情事』(76)にも顔を出していた。
 そして、モーガン教授夫妻の愛人ミーヤを演じているのが、リアル・エマニエル夫人ことエマニエル・アルサン。過去に『砲艦サンパブロ』(68)にチョイ役で出演したことはあるものの、女優としてはほとんど素人も同然。演技はお世辞にも上手いとは言えないものの、とりあえず端麗な容姿と脱ぎっぷりの良さだけは合格点といったところだろうか。ミシェル・スタークとの濃厚なレズビアン・シーンも堂に入っている。

 

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