アンジェリカ・ヴァルム Anjelika Varum

 

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 なんとも可憐なベビーボイスの持ち主。まさしく、名前の通り“天使”のような歌声だ。もともとは、ロシア音楽界にありがちなダンスポップ系のアイドル・シンガーだった。しかし、現在のダンナでもある鬼才シンガー・ソングライター、レオニド・アグチンとの出会いをきっかけに、ジャズやラテン風味の洒落たポップスを歌う大人のボーカリストへと転身。まあ、そうは言ってもディスコやロック、ヒップホップにまで手を出したりもするのだが、その辺はロシア人らしい雑食さということで大目に見ておきたいところか(笑)。ただ、自身の音楽性を大筋ではわきまえており、基本的な路線に関してはこの10年ブレていない。あどけない声で囁くように歌うボサノヴァなどは絶品。極端に入れ替わりの激しいロシア音楽界において、20年以上のキャリアを誇っているというだけでも立派なもんだ。
 1969年5月26日、ウクライナ共和国の古都リヴィウに生まれたアンジェリカは、本名をマリヤ・ユレフナ・ヴァルムという。父親のユーリは作曲やアレンジ、プロデュースを手掛ける多才な音楽家。母親のガリーナは舞台演出家だった。両親は公演活動などのため家を留守にすることが多く、彼女は祖母の手で育てられたのだという。幼い頃から家の中には音楽や芸術が溢れ、アンジェリカも5歳の頃からピアノを習い始めた。父親は当時のソビエトで一般的だったルールだらけの音楽教育に強く反発しており、娘には自由な発想を持たせようとクラシックからジャズ、民族音楽、ロックまで幅広いジャンルの音楽を積極的に聴かせたという。
 義務教育を終えたアンジェリカは、音楽の高等教育を受けるためにモスクワへ。しかし、学校の勉強に満足できず中退し、父親の仕事現場でセッション・シンガーを務めるようになった。そして、自ら作詞作曲を手掛けたシングル“Полуночный ковбой(真夜中のカウボーイ)”で90年にソロ・デビュー。さらに、翌年のシングル“Good Bye, мой мальчик(さよなら、私の彼氏)が爆発的なヒットとなり、アンジェリカはロシア音楽シーンのトップに躍り出る。
 その後もヒット曲を続々と発表し、95年には早くもベスト盤CDがリリースされるほどの活躍ぶりを見せたアンジェリカ。その人気は、彼女の名前を冠した香水まで発売されるほどだった。96年にはサンクトペテルブルグで開催された大規模なソロ・コンサート“アンジェリカの夢”も大成功。97年には舞台女優としてもデビューし、その年の演劇賞“チャイカ”の最優秀女優賞を獲得した。
 そして、この頃からロシア内外で高い評価を得ていた男性シンガー・ソングライター、レオニド・アグチンと付き合うようになる。2人は99年に結婚し、長女エリザベータが誕生した。レオニドとは仕事上でもコラボレートを組むようになり、アンジェリカの楽曲も明らかに変化していく。それまでのユーロ・トランス的なダンス・ポップから脱却し、時にはバーシア、時にはスウィング・アウト・シスター、時にはシャデーのように、ジャズやラテン、ブラジルなどの香り漂う洒落たポップ・ナンバーを中心に歌うようになったのだ。2000年には夫婦共演のデュエット・アルバムもリリース。2人はロシア音楽界きってのおしどり夫婦となった。
 2001年には自らの音楽レーベル、ヴァルム・レコーズ・カンパニー(VRC)を設立。その第一弾として翌年に発売された9枚目のアルバム“Стоп, любопытство(ストップ、好奇心)”からは同名曲及び夫とのデュエット曲“Римские каникулы(ロマンス・バケーション)”が大ヒットを記録。その後しばらくは、夫と共にヨーロッパ各地や北米などをコンサート・ツアーで巡り、女優として映画にも出演するなど、音楽以外での活動が中心となる。
 しかし、2007年には2枚組の大作アルバム“Музыка(音楽)”で久々に音楽シーンの第一線に復帰。ここからは女性ヒップ・ホップ・トリオ、スリフキーと組んだシングル“Лучшая(最高)”が大ヒットしている。また、今のところ最新作に当たる09年のアルバム“Если он уйдет(もしも彼が去ったら)”も話題となった。

 

 

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※アルバム・タイトルはロシア語を英語アルファベットで表記し、その英語訳を併記してあります。楽曲タイトルは全てロシア語を英語アルファベットで表記しました。

OSENNII_DJAZ.JPG TOLKO_ONA.JPG ZVEZDNAYA_SERIYA.JPG STOP.JPG

Osennii Djaz (1994)
Autumn Jazz

Tolko Ona... (1998)
Only Her...

Zvyezdnaya Seriya
Star Series

Stop, Lyubopitstvo! (2002)
Stop, Curiosity!

(P)1994 S.B.A. Records (Russia) (P)1999 Studio Soyuz (Russia) (P)2000 Star Records (Russia) (P)2002 CD Land (Russia)
1.Osennii Djaz ビデオ
2,Svecha
3,Ptichka
4,Osennii Djazz (Instrumental)
1,Kolibelnaya ビデオ
2,Sostoyaniye Jizni
3,Tolko Ona
4,Chetirye Shaga v Oblakah
5,Fevral ビデオ
6,Piramidi
7,Chetirye Lilii
8,Ona-Ona
9,Tango
10,Dojdlivoye Taksi ビデオ
11,Koroleva ビデオ
1,Vse v Tvoih Rukah ビデオ
2,Prosyai ビデオ
3,Fevral
4,Zimiyaya Vishiya ビデオ
5,Koroleva
6,Dohdlivoye Taksi
7,Privokzalnaya
8,Kolivelnaya
9,Tolko Ona
10,Ona-Ona
11,Osennii Djaz
12,Goodbye, Moi Malchik
13,Lya Lya Fa
14,Tvoi Glaza ビデオ
15,Dojdik
16,Pochemu
17,Gorodok ビデオ
18,Chelovyek-svistok ビデオ
19,Hudohnik, Chto Risuyet Dojd ビデオ
1,Budyesh Ryadom
2,Lyetnye Ogni
3,Zinmniye Sni
4,Ti Nye Sprosnil
5,La-La-Lai
6,Lao ビデオ
7,DJ
8,Yesli Ti Kogda-Nibud
         Menya Prostish ビデオ
9,Bayechka
10,Stop, Lyubopitstvo! ビデオ
11,V Drugom Izmeryenii
12,Do Svidonya, Lyeto
 売れ線を狙ったダンス・ポップ系の初期作品はあまり好きじゃないんですが、このシングルはちょっと例外。サウンド・プロダクションのチープさはいかんともしがたいものの、“秋のジャズ”というタイトルに相応しいセンチメンタルなメロディとあどけないアンジェリカのボーカルがマッチした、なかなかの小品佳作です。作曲とプロデュースは父親のユーリ。似たような路線の#2も悪くありませんが、エース・オブ・ベースを露骨にパクッた#3はちょっと頂けなかったかな…(笑)  翌年に結婚するレオニド・アグチンからの音楽的な影響がモロに現れたアルバムかもしれません。なんといっても特筆すべきは#10でしょう。作曲を手掛けたのは父ユーリですが、仕上がりはビックリするくらいにアグチン風。それも、かなり上出来の。メロウでロマンティックでキャッチー。Swing Out Sister辺りが好きな人なら確実にハマるはずです。そのアグチンが書いた抒情感溢れるバラード#5も名曲です。ただ、アルバムの完成度としては及第点。出来不出来の粗が目立ちます。  ラジオ局傘下のレーベル、スター・レコードが企画したアンジェリカのベスト盤。前半は98〜00年の作品で占められており、選曲のバランスとしてはちょっと偏っているような印象を受けますが、とりあえず90年代の主なヒット曲はこれ1枚で揃うかと。なんといっても最高なのは、夫レオニド・アグチンが作詞作曲を手掛けた#1。ラテン風味を程よく加えたセンチメンタルなアコースティック・ポップといった感じで、実に胸キュンなナンバー。いつもこればっかり聴いてます(笑)  全体的にクラブ・ジャズ的なアプローチを試みた作品で、それまでのメロウ&センチメンタルな乙女路線からクールなアダルト路線へとシフトしたアルバムと言えるかもしれません。ダンサンブルな楽曲が増えた分、ある意味でサウンド的には若返ったのかな。ラテン、アフロ、ジャズ、ハウスなどが程よくブレンドされ、非常にスタイリッシュ。ただ、メロディ的なインパクトのある楽曲に乏しく、なんとなく物足りない印象です。ちなみに、ダンナとのデュエット#8は大ヒットしました。

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Muzika (2007)
Music

Yesli On Uidyet (2009)
If He Leaves

(P)2007 Kvadro Disc (Russia) (P)2009 Tempstar Records (Russia)
CD 1
1,Dva Krila ビデオ
2,Iyul
3,O, Varumi
4,Vasilki
5,Dvye Dorogi, Dva Puti ビデオ
6,Yabloki
7,Svyet Ot Ognya ビデオ
8,Belii Snyeg
9,Muzika ビデオ
10,Ti i Ya ビデオ
bonus video
1,Ti i Ya
CD 2
1,Gdye Ti ? ビデオ
2,Kraski
3,Nyepogoda
4,Minutka
5,Odye Jye Ti ?
6,Tayu, Tayu
7,Pojar ビデオ
8,Luchsyaya (duet w/Via Slivki) ビデオ
9,Poimi Menya ビデオ
10,A Muzika Zvuchit
11,Rassvyeti
bobus videos
1,Pojar
2,Luchsyaya
1,Skaju Tyebe <<Da>>
2,Rai
3,Nye Uhodi
4,Ona
5,Dyen Opyat Pogas ビデオ
6,Davai Zabudyem ビデオ
7,Moi Mir
8,Esli On Uidyet ビデオ
9,Yetyud
10,Luna
 オリジナル・アルバムにして2枚組という野心作。5年ぶりの新作という事で、その間に発表したシングルに新曲を加えた構成となっています。全体的にはジャズやボサを基調にしたメロウでセンチメンタルな仕上がり。冒頭の#1からして、それはもうとろけそうなくらいに甘くて切ないボサノバ・ナンバーで、その洗練されたアレンジといいアンジェリカのキュートな歌声といい、文句のつけようがないです。ロマ風味の哀愁バラード#5も切ないし、流麗なピアノの音色が軽やかにスイングする#9の煌びやかさもいい。  こちらは、よりクラブ・ジャズ的な色合いを強めた2枚目。#2ではアンダーグランドなガラージ・ハウス、#4では70年代ジャズファンク風のディスコ・ハウス、人気ガール・グループのヴィア・スリフキと組んだ#8ではラテンジャズ・スタイルのディスコ・ハウスといった具合に、ダンサンブルな楽曲も聴き応え十分です。その一方で、ロシアの大御所作曲家イーゴリ・クルトイの手掛けた#5ではメロウなボサ・バラードを堪能させてくれたりと、実にバラエティ豊か。全ての女性ボーカル・ファン必携の名盤です。  こりゃまた思い切ったと言いますか、これまで以上にジャズ・ファンク色を全面に打ち出した、非常にアーバンでファンキーなアルバムに仕上がっています。サウンド的には極めてエッジーかつ辛口。アンジェリカの歌声も従来のロリータ的な甘さがすっかり抜け、逞しくも力強いディーヴァ・ライクな貫録を感じさせます。中でもドラマチックかつエクスペリメンタルなバラード#5は迫力満点で聴き応え十分。また、ヒップホップの黒いグルーヴにアコースティックなロマ・サウンドを乗せた#10も傑出しています。

 

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