Amr Diab アムル・ディアブ
アラブ音楽史上最大のスーパー・スター

 

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 今やアラブ音楽圏で最大のスーパー・スター。1996年にリリースされたアルバム“Nour El Ain”(瞳の光)はアラブ音楽史上最大のセールスを記録したという。その人気はアラブ語圏のみならず、南米やイラン(そう、イランはアラブではありません)、インド、フランスを中心としたヨーロッパにまで及んでいる。
 彼の成功の秘密は、何と言っても従来のアラブ系男性アーティストのイメージを覆した事にあると言えるだろう。個人的にアラブ音楽を意識して聴くようになったのはここ2〜3年なので、あまり偉そうな事も言えないのだが、どうしてもアラブ系の男性アーティストというと、昭和の演歌や任侠映画の世界が似合うような濃ゆ〜いいでたちで、独特のコブシを回して歌うコッテリとした歌手というイメージがついて回る。まあ、実際に10年以上前のアラブ音楽のCDをネットでチェックしてみると、そんな兄貴どものオンパレードだったりするので、あながち間違ってはいないのだろう。
 そうしたむさ苦しい野郎どもがひしめくアラブ音楽界に革命を起こしたのが、このアムル・ディアブなのである。洗練されたファッションに精悍でモダンな顔立ち、R&Bやハウス、トランスといった西洋音楽とアラブ音楽を融合したグローバルなポップ・サウンド。そう、ちょうどトルコのタルカンがそうであったように、音楽やファッションのトレンドに国境がなくなった時代のアラブ音楽を象徴する全く新しいタイプのスターと言えるだろう。もっとも、そんな彼も最初から革命児だったわけではなくて、当初は典型的なアラブ系歌手の一人だった。

 アムル・ディアブは1961年10月11日、エジプトはポート・サイードの生まれ。父親はスエズ運河で船舶工事の最高責任者をしていた。アムルが歌手を目指すようになったのは、音楽好きだった父親の後押しがあったからだという。6歳のとき父親に連れられて行った音楽フェスティバルで初めて人前で歌ったアムルは、市長から絶賛されてギターを贈られた。
 1983年に歌手デビューを果たし、音楽活動と並行してカイロ芸術アカデミーに学ぶ。彼が国際マーケットを意識するようになったのは1990年のこと。エジプト代表として出場した音楽コンサートがCNNを通じて世界中に放送されたのだ。94年にリリースされたアルバム“Weylomony”辺りからイメージ・チェンジを図るようになり、96年の“Nour Al Ain”ではタイトル・トラックを英語バージョン(“Habibi”)でも吹き込み、ダンス・リミックスまで製作した。それが功を奏し、“Nour Al Ain”はヨーロッパや南米でも大ヒットを記録、98年にモナコで開催されたワールド・ミュージック・アワードで最優秀中東アーティスト賞を受賞した。アラブ系アーティストとして国際的な音楽賞を受賞するのは初の快挙だった。
 以降、リリースするアルバム全てがヒット・チャートで1位を記録。2002年にはアルバム“Aktar Wahed Beyhebbak”で再びワールド・ミュージック・アワードを受賞し、2004年にドバイで開催されたアラビック・ミュージック・フェスティバルでは最優秀アラブ・アーティスト賞を、2005年には衛星放送ナイル・バラエティ・チャンネルの最優秀アーティスト賞、アルバム賞など4部門を受賞している。
 なお、彼はアラブ音楽史上初めてビデオ・クリップを製作したアーティストでもある。既に40代も半ばにさしかかっているが、未だにアイドル・スター的人気を保っていられるというのもよく考えれば凄いことだったりする。ただ、最近は彼の影響で欧米的なルックスとサウンドを売り物にする若手もゾクゾク出て来ているようなので、ここらでもう一発ドカンと国際的スケールのメガ・ヒットが欲しいところかもしれない。

“Lealy Nahary”のプロモ・クリップ ココ で見れます!

ALLEM_ALBY.JPG LEALY_NAHARY.JPG KAMMEL_KALAMAK.JPG

Allem Alby (2003)

Lealy Nahary (2004)

Kammel Kalamak (2005)

(P)2003 Mondo Melodia (USA) (P)2004 Stallion (USA) (P)2005 Rotana (U.A.E.)
1,Allem Alby
2,Ana Ayesh
3,Ally Wadaa
4,Ya Kenzy
5,Te'dar Tetkalem
6,Law Ash'any
7,Khalleeny Ganbak (Instrumental)
8,Allemny Hawak
9,Habiby Ya Omry
10,Enta Ma Olfesh Leh
11,Hanneit
12,Kollohom
13,Khalleeny Ganbak

produced by Alam El Phan
1,Lealy Nahary
2,Wahashtiny
3,Tinsa Wahda
4,Khad Alby Ma,ah
5,Ye Douk El Bab
6,Dayman fi Baly
7,Khaleena Neshofak
8,Qusad Einy
9,Illa Heya
10,Rihet El Habayib
1,Kammel Kalamak
2,We Maloh
3,We Hikaytak Aih
4,Aiam We Benzeshha
5,Allah La Yehremmy Minnak
6,Oddam Eyounak
7,Mazak Bagad
8,Aywa Ana Zaref
9,Betkhaby Leh
10,Agheeb
 通算20枚目に当たるアルバムのアメリカ盤。ファースト・シングルとなった#2を筆頭に、全体的にR&Bやヒップ・ホップを意識した楽曲が多い。民族楽器を駆使したトライバル・ハウス風のダンス・ナンバー#6なんか出色の出来だが、それ以外は似たようなR&Bタイプの地味めな曲ばかりなのは残念。もう少し遊びがあっても良かったかもしれない。

 こりゃカッコいい!フラメンコ・ハウス風のトライバルなオリエンタル・ダンス・ナンバー#1からしてもう最高です。#4なんかアラビアン・レゲトンですもん。哀愁感溢れるアコーディオンのメロディと、ズンドコズンドコいうレゲトン・ビートの組み合わせが絶妙にクール。哀愁といえば、ヨーロピアンなエレガンスさえ漂わせる哀愁系ベリーダンス・ナンバー#5も素晴らしくキャッチーな仕上がり。アラビアン・ポップス初心者にも手放しでオススメしたい1枚。しかし、腕太ッ!

 リリース前にネットで音源が流出してしまったために発売日が早まったという曰く付きの最新作。基本的には前作の延長線上にあって、オリエンタルなアラビアン・サウンドをベースにラテンからボサノバ、ヨーロピアン・ポップス、R&Bまで様々なジャンルを贅沢に盛り込んだキャッチーな楽曲が並ぶ。前作に比べると全体的にアダルトな雰囲気が強く、華やかでありながら叙情感すら感じさせるのが秀逸。なかでも、シャンソン風のドラマチックな出だしが印象的なバラード#2の美しさなんか絶品。

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