エイミー・スチュワート Amii Stewart
ディスコ・アーティスト列伝<12>

 

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 1979年にエディ・フロイドの傑作R&Bナンバー“Knock On Wood”をディスコ・カバーし、全米チャート・ナンバー・ワンに送り込んだ女性シンガー。フロイドのバージョンは全米最高30位だったので、本家を遥かに上回る大ヒットを記録したというわけだ。この曲はデヴィッド・ボウイをはじめ、アイク&ティナ・ターナー、オーティス・レディング&カーラ・トーマスなど、様々なアーティストにカバーされているが、やはりエイミーのバージョンはダントツにカッコ良かった。
 プロデュースを担当したのは、もともとパイ・レコードでイージー・リスニング/ラウンジ系の楽曲を手がけていたバリー・レング。彼が初めてプロデュースしたディスコ・アーティストがエイミー・スチュワートだった。で、デビュー曲に当たるこの“Knock On Wood”だが、最大の勝因はその大胆で見事なアレンジにあるといえるだろう。
 オープニングからトライバルでヘヴィーなドラムの乱れ打ち。ミディアム・テンポの渋いR&Bだった原曲からは想像もつかないようなド派手さ。それでいて、オリジナルの“黒さ”をしっかりと残した、ソウルフルでファンキーなグルーヴ感。有名曲のディスコ・バージョンというと、往々にして原曲が骨抜きにされてしまう事が多いものの、この“Knock On Wood”はオリジナル・バージョンのファンも十分に納得できるような完成度の高さだった。
 そして、ボーカルを担当するエイミー・スチュワートの圧倒的な歌唱力。もともと舞台のミュージカル女優だったエイミーだが、単にディスコ・シンガーという枠には収まらない実力の持ち主だった。誤解を恐れずに言うと、ディスコ・シンガーにしておくには勿体ないくらいのボーカリストだったと言えよう。

 1956年1月29日、ワシントンに生まれたエイミー。義理の姉は80年代に活躍したハイエナジー系歌手ミケール・ブラウンで、同じく80年代に活躍したポップ・スター、シニッタは姪に当たる。父親はペンタゴンのブラス・バンドに所属し、幼い頃から子供たちに音楽を教えていたという。ワシントンのハワード大学でダンスを学んだ後、ミュージカル女優として舞台“Bubbling Sugar Brown”に出演。そのロンドン公演でバリー・レングと知り合い、アリオラ・レコードとレコーディング契約を結んだ。
 79年のデビュー曲“Knock On Wood”は全米ナンバー・ワンの他、イギリスで6位、オーストラリアで2位、ドイツで13位など世界各国で大ヒットを記録。続くドアーズのカバー“Light My Fire”は全米69位と奮わなかったものの、全英チャートで5位をマークしたほか、ヨーロッパ各国では売れまくった。
 その後も、“Jealousy”、“The Letter”などのシングルをリリースし、ヨーロッパを中心に活躍。特にイタリアでの人気が根強く、80年代半ばからはイタリアに活動の拠点を置くようになった。84年にリリースしたシングル“Friends”はイタリアでナンバー・ワンを記録したほか、イギリスでも12位をマーク。さらに、85年には“Knock On Wood”のリミックス・バージョンが全英7位まで上がっている。
 そして、88年にリリースしたアルバム“Time For Fantasy”をきっかけに、ダンス・ミュージックから正統派のポップスへと路線を変更。90年のアルバム“Pearls”ではイタリアの巨匠エンニオ・モリコーネをプロデューサーに迎え、モリコーネの名曲の数々をカバーした。さらに、93年と94年には2年連続でバチカンのクリスマス式典に出席し、ローマ法王の前で歌声を披露。イタリアではすっかり一流のボーカリストとして尊敬されるようになった。
 99年には“Knock On Wood”のリミックス・バージョンをリリース。同時発売されたアルバム“Unstoppable”では久々にダンス・ナンバーにチャレンジし、古くからのファンを喜ばせてくれた。
 ここ数年は、再びミュージカルの世界に戻り、2000年には『ジーザス・クライスト・ザ・スーパー・スター』でマグダラのマリア役を、2003年にはビリー・ホリデイの伝記ミュージカル“Lady Day”でビリー・ホリデイ役を演じている。また、2001年からはユニセフの親善大使を務めており、エイズ撲滅キャンペーンなどの活動に従事しているという。
 ちなみに、エイミー自身はデビュー当初からディスコ・ミュージックには全く興味がなかったらしい。

 

KNOCK_ON_WOOD.JPG JEALOUSY.JPG THE_HITS_LP.JPG YOU_REALLY_TOUCH.JPG

Knock On Wood (1979)

Jealousy (1979)

The Hits (1985)

You Really Touched My Heart (1985)

(P)1979 Hansa/Ariola (Germany) (P)1979 Hansa/Ariola (Germany) (P)1985 Howfree/SMS (Japan) (P)1985 Howfree/PRT (UK)
Side A
1,Knock On Wood (Long Version) 6:13 ビデオ
Side B
1,When You Are Beautiful 3:54

produced by Barry Leng
Side A
1,Jealousy (Long Version) 6:36 ビデオ
Side B
1,Step Into The Loveline 5:22

produced by Barry Leng
Side One
1,Knock On Wood 4:10
2,You Really Touch My Heart 4:15
3,137 Disco Heaven 2:46
4,Paradise Bird 5:18
5,My Guy, My Girl 4:33
Side Two
1,Light My Fire 3:56
2,Only A Child In Your Eyes 3:02
3,Step Into The Loveline 4:00
4,ASH 48 2:12
5,Jealousy 5:53 ビデオ

produced by Barry Leng
remixed by Barry Leng, Sanny X, Dave Hewson
Side 1
1,You Really Touched My Heart (12" Mix)
Side 2
1,You Really Touched My Heart (Instrumental)

produced by Barry Leng
remixed by Barry Leng
 70年代ディスコを代表する名曲。当時我が家にも父親がドイツで買って来たカセット・テープがありましたが、何度聴いても文句なしのカッコよさですね。本当に傑作です。ズンズンと腹に来るヘビーなドラムも最高ですが、ゴリゴリとうねりまくるベース・ギターもド迫力。もちろん、エイミーのパワフルなボーカルも素晴らしい。高音の伸びの良さなんか完璧ですもん。これだけ歌えるディスコ・シンガーは他に知りません。  これも個人的に大好きな作品。音的にはミュンヘン・サウンドを意識した作りで、いわゆるハイエナジー・サウンドの先駆けとも言える楽曲です。ボコボコしたヘビーなシンセサイザーのエフェクトもカッコよいですが、なんと言っても最高なのは情熱溢れまくりの哀愁メロディでしょう。アゲアゲに萌えまくります。イギリスでは58位止まりでしたが、イタリアでは4位、オランダでは5位など、ヨーロッパ各国で売れまくりました。  こちらは彼女の代表作を80年代仕様に衣替えしたリミックス・ベスト。ただ、基本的にアレンジは原曲とほぼ変わりありません。また、往年のモータウン・ヒットのカバー#5は、シングルではジョニー・ブリストルとのデュエットでしたが、ここではディオン・エスタスとのデュエットで収録されています。個人的なオススメはB面の#5。見事に80年代のハイエナジー・サウンドとして生まれ変わっています。  “The Hits”からのシングル・カットですが、もともとは79年のファースト・アルバム“Knock On Wood”に収録されていた作品。こちらはリミックス・バージョンになりますね。哀愁系の美しいメロディラインが印象的な名曲です。個人的にも大好きな作品ですが、全英チャートでは89位と、残念ながらイマイチ奮いませんでした。

THAT_LOVING_FEELING.JPG TIME_FOR_FANTASY.JPG PEARLS.JPG FRIENDS.JPG

That Loving Feeling (1985)

Time For Fantasy (1988)

Pearls (1990)

Friends '91 Edition (1991)

(P)1985 RCA (UK) (P)1993 Elap Music/Success (UK) (P)1997 Elap Music (UK) (P)1991 Flying Records (Italy)
Side One
1,That Loving Feeling (Full Length Version)
Side Two
Fever Line

produced by Paul Micioni
1,Dusty Road 4:31
2,Window Shopping 4:15
3,Sometimes A Stranger 3:51
4,Stand 4:21
5,It's You And Me 3:53
6,You Are In My System 4:12
7,Heartache To Heartache 3:33
8,I Still Believe 3:49
9,Run In The Night 3:58
10,It's Fantasy 4:12 ビデオ
11,Dusty Road (Reprise) 1:04

produced by Greg Walsh
1,My Heart And I 4:56
2,Desire (Chi Mai) 3:41
3,Hurry To Me 4:08
4,Come Sail Away 4:49
5,Could Heaven Be 2:00
6,Song For Elena
7,One Love 4:09
8,Saharan Dream 3:07
9,Sean Sean 3:36
10,Here's To You

composed, arranged and conducted by
Ennio Morricone
Side A
1,Extended Remix 4:47
2,Stringappella Time 2:00
Side B
1,Live in Pompei 5:56
2,Instrumental 4:43

produced by Paul Micioni, Alberto Laurenti & Luigi Pellegrino
 こちらはアルバム“Try Love”からのファースト・シングル。メロウでソウルフルなミディアム・ダンス・ナンバーです。プロデュースを担当したポール・ミチオーニはイタリア人で、ガゼボの名曲“Masterpiece”やゲイリー・ロウの大ヒット曲“I Want You”を手がけたことで有名な人。程よくジャジーで大人っぽいムードの作品で、楽曲そのものの完成度は非常に高いものの、残念ながら全英チャートでは95位止まりでした。  エイミーにとって、正統派のポップ・ボーカリストへ転向するきっかけとなったアルバム。全体的にジャズ・フュージョン的なムードが濃厚で、大人のためのポップ・アルバムといった印象です。プロデュースを担当したのは、ヘブン17のプロデューサーとして有名なグレッグ・ウォルシュ。ティナ・ターナーの“Private Dancer”を手がけたのも彼ですね。#8ではブレンダ・K・スターの名曲をカバーしています。  イタリア映画界の誇る巨匠エンニオ・モリコーネの名曲を、モリコーネ自身のアレンジ・指揮でカバーしたアルバム。フル・オーケストラをバックに、エイミーが素晴らしい歌声を聴かせてくれます。モリコーネがスコアを手がけた映画『サハラの秘密』でも彼女が主題歌を歌っていましたが、このアルバムにもちゃんと収録されていますね(#8)。『ニューシネマ・パラダイス』の“愛のテーマ”#6は特にオススメです。  84年にリリースされて、ヨーロッパ各国で大ヒットした楽曲“Friends”のリミックス・バージョン。オリジナルはソフトなミディアム・ナンバーでしたが、こちらは当時流行りだったグランド・ビート風の仕上がりです。ただ、A面もB面もほぼ同じミックスというのはいかがなもんかなと(笑)。

THE_BEST_OF.JPG

THE_HITS.JPG

UNSTOPPABLE.JPG

The Best Of Amii Stewart (1996)

The Hits & The Remixes (1997)

Unstoppable (1999)

(P)1996 Hot Productions (USA) (P)1997 Snapper Music (UK) (P)1999 G&G/Universal (France)
1,Knock On Wood 6:13 ビデオ
2,You Really Touch My Heart 4:29 ビデオ
3,Light My Fire/137 Disco Heaven 8:26 ビデオ
4,Bring It On Back To Me 3:56
5,My Guy, My Girl
6,Get Your Love Back 3:56
7,The Letter 6:58 ビデオ
8,Jealousy 6:09 ビデオ
10,Right Place, Wrong Time 5:07
11,Step Into The Love Line 5:23
12,Who'd You Have To Be So Sexy 5:20
13,Where Do Our Love Go 4:26
14,Friends ビデオ
1,Knock On Wood 6:21
2,Light My Fire/137 Disco Heaven 8:30
3,Jealousy 6:41
4,Paradise Bird 6:34
5,The Letter 7:01
6,Bring It On Back To Me 3:56
7,Closest Thing To Heaven 3:44
8,A, I Losing It? 3:21
9,Get Your Love Back 3:57
10,Paradise Found 2:26
1,Knock On Wood 4:10
2,You Really Touch Me Heart 4:15
3,137 Disco Heaven 2:47
4,Paradise Bird 5:19
5,My, Guy My Girl 4:33
6,Light My Fire 3:57
7,Only A Child In Your Eyes 3:03
8,Step Into The Loveline 4:00
9,ASH 48 2:13
10,Jealousy 5:53
1,Knock On Wood (70's Revisited) 3:44
2,Can I Come Home? 3:45
3,Untoppable 3:24
4,Friends 4:49
5,Light My Fire 3:55
6,Jealousy 3:36
7,The Letter 4:06
8,Why 4:32
9,Private Dancer 4:36
10,Knock On Wood
  (99 East Coast Road Edit) 3:38
11,Lady Marmalade 3:32
12,Every Breath I Take 3:36
13,How Could I Know 4:15
14,Song For Daddy 4:21
15,Warm Embrace 3:56
16,Knock On Wood
  (99 Heavy Groove Club Mix) 5:49

produced by The Unstoppable, Andy Whitmore,
Supernova, RTI Music, Perle Nere, Charlie Rapino
 エイミーのベスト盤CDは何種類か出ていますが、一番のオススメがこのホット・プロダクション版。代表作の殆どがこれ一枚で網羅されてます。#1はフル・バージョンでの収録。他のベスト盤では短くエディットされている場合が殆どなので。また、#8は12インチ・バージョンのエディット、#16はアメリカ盤12インチ・バージョンでの収録。それ以外は、全てアルバム・バージョンです。  イギリスでリリースされた2枚組ベスト。この1枚目はオリジナル・バージョンだけで構成されています。とはいえ、収録曲はファースト・アルバムとセカンド・アルバムからのみ。ベスト盤としてはちょっと片手落ちかもしれませんね。また、#1はフル・バージョンでの収録ですが、あとは全てアルバム・バージョン。#3も残念ながら地味なアルバム・バージョンです。  こちらの2枚目は、85年のリミックス・ベスト“The Hits”を丸ごと収録。できれば、12インチ・バージョンをボーナス・トラックとして入れて欲しかったとこですね。  新曲と名曲カバー、そして往年の代表曲のリメイク・バージョンで構成されたアルバム。今回はイタリアではなく、イギリスとフランスで制作されたようです。オリジナルとカバー曲は可もなく不可もなく。ラベルのカバー#11なんかは、さすがの貫禄。で、やはり目玉はセルフ・リメイク。いずれも上手く今風に料理してますが、中でも哀愁ハイエナジーに仕上げた#6は上出来。

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Knock On Wood 99 (1999)

(P)1999 G&G/Universal (France)
1,70's Revisited 3:44
2,99 Single Dance Mix 3:57 *
3,99 East Coast Club Mix 5:54 **
4,99 Heavy Groove Club Mix 5:49 *

produced by The Unstoppable
* remixed by Charlie Rapino
** remixed by Lorren G.
 基本的にセルフ・リメイクやリミックスってのはオリジナルを超えることが至難の業。こちらも、その点では成功していると言い難いシングルだとは思います。それでも、オリジナルを忠実に再現した#1はまずまずの出来。エイミーのボーカルも全くパワーが衰えておりません。ユーロ・トランス風に仕上げた#2と#4は、ちょっと無理があり過ぎ。オリジナルのアレンジを活かしつつ、ガラージ・ハウス風に衣替えした#3は悪くないですね。

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