アリーシャ Alisha
ディスコ・アーティスト列伝<9>

 

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 マドンナ・ブームの吹き荒れる80年代半ば、ティーン・エージャー版マドンナとしてデビューしたのがアリーシャだった。当時15歳とは思えない落ち着いた歌唱力、マドンナの“Holiday”や“Lucky Star”路線のポップでダンサンブルな楽曲、そして隣の女の子的な親しみやすいルックスでダンス・チャートを中心に人気を集めたが、ポップ・シーンではビッグ・ネームになることが出来なかった。
 当時は、マドンナに続けという感じでアルメンタ、レジーナなど似たようなタイプの女性アーティストが次々と現れたダンス・ミュージックの世界。その殆んどが1〜2曲のヒットで消えていってしまった。そうした中、10年以上も第一線で生き残ることが出来ただけでも立派だったのかもしれない。

 1969年ニューヨークはブルックリンに生まれたアリーシャ。幼い頃から歌手を目指し、7歳から歌のトレーニングを始めた。ジュニア・ハイ・スクール時代には、地元のクラブでソロ・ステージをこなすほど人気があったという。そんな彼女の才能に目を付けたのがマーク・ベリー。当時ヴァンガード・レコードのエンジニア兼A&Rマンとして活躍していたベリーだが、その一方でプロデューサーとしてもリー・プレンティスやトゥー・シスターズなどを手掛けていた。しかし、どれもいまひとつ地味でパッとせず。それだけに、アリーシャのようなアイドル性の高いボーカリストは、まさに金の卵だったのだろう。
 84年にリリースされたデビュー曲“All Night Passion”はビルボードのダンス・チャートで4位を記録。ポップ・チャートでは103位止まりだったが、若干15歳の新人アーティストとしてはまずまずの成績だったと言えるだろう。翌年にリリースされたセカンド・シングル“Too Turned On”も再びダンス・チャートで6位をマーク。
 さらに、ファースト・アルバム“Alisha”がヨーロッパ先行で発売され、サード・シングル“Baby Talk”がダンス・チャートで1位を記録。ポップ・チャートでも68位にランクされ、彼女にとって最大のヒット曲となった。

 87年には大手のRCAへ移籍。第一弾シングル“Into My Secret”がダンス・チャート9位、ポップ・チャート97位をマークし、セカンド・アルバム“Nightwalkin'”もリリースされた。また、大ヒット映画「マネキン」('87)のサントラにも参加。しかし、メジャー級のヒットを掴むことは出来ず、これを最後にマーク・ベリーとは袂を別つことになる。ベリーの方もアニモーションやボーイ・ジョージ、デュラン・デュラン、デヴィッド・ボウイなどのリミックス・ワークで忙しくなり、プロデュースを手掛けたスード・エコーが大ブレイクしたことから、アリーシャの売り出しに専念することが難しくなったのだろう。
 その後、マルティカをブレイクさせた敏腕プロデューサー、マイケル・ジェイと組んだアリーシャは、90年にサード・アルバム“Bounce Back”をMCAからリリース。同名シングルはダンス・チャートで10位、ポップ・チャートでは54位というスマッシュ・ヒットになったものの、その後のシングルが続かず、アルバムも全米166位止まりだった。
 96年には久々のシングル“Wherever the Rhythm Takes Me”をユーロ・ディスコ系の老舗クリティーク・レコードからリリース。さらに、99年にはコメディ映画「スーパースター 爆笑スター誕生計画」('99)の主題歌“You Wanna Be A Star”をジェリービーン・レコードからリリース。しかし、どちらもヒットには至らなかった。
 一時期は子育ての為に引退していたアリーシャだが、昨年辺りからクラブのステージに立ったり、“All Night Passion”のリメイクを自主制作するなど、本格的なカムバックに意欲を見せているようだ。

 

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Baby Talk/All Night Passion

Alisha (1985)

All Night Passion (Remix) (1986)

Stargazing (1986)

(P)1995 ZYX-Music (Germany) (P)1986 King Record (Japan) (P)1986 High Fashion (Holland) (P)1986 Vanguard (USA)
1,Baby Talk (Special Remix) 6:44
2,All Night Passion (Club Mix) 6:49

produced by Mark Berry
1,All Night Passion - Original Version 6:50 ビデオ
2,Stargazing 5:25
3,Baby Talk 5:42 ビデオ
4,Too Turned On 6:20
5,Boys Will Be Boys 3:34
6,One Little Lie 4:32
7,All Night Passion - Special Album Remix 7:07

produced by Mark Berry
mixed by Shep Pettibone
Side 1
1,All Night Passion (New Mix) 7:05 # ビデオ
Side 2
1,Dub All Night 7:05
2,Beat All Night 1:23

produced by Mark Berry
# remixed by Ben Liebrand
Side One
1,Stargazing 5:45
Side Two
1,Stargazing (Dub) 7:11

produced by Mark Berry
mixed by Shep Pettibone
 アリーシャの2大ヒットをカップリングしたCDシングル。もちろん12インチ・バージョンでの収録です。アイドル系ダンス・ポップでありながら、しっかりとファンキーなアーバン・ディスコに仕上がっているのが成功の秘密なんだろうと思いますね。どちらも名曲ですが、個人的にはドラマチックで哀愁感のある“All Night Passion”の方が好き。マドンナのエピゴーネンとしては最高の出来映えだと思います。  いやあ、これを聴くと高校時代に思いっ切りタイムスリップしますね。当時お気に入りの一枚でした。収録曲の大半がシングルな上に曲数も少ないので、殆んどミニ・アルバム的な内容ですけど。一番の目玉は、今や大御所となったシェップ・ペティボーンによる入魂のスペシャル・リミックス#7ですね。サンプリングとエフェクトをバンバンに使った派手な仕上がりです。ちなみに、#6は元アバのフリーダのカバーです。  オランダを代表するDJ兼キミサー、ベン・リーブランドが手掛けたオランダ盤限定のリミックス・バージョンです。オリジナルよりもBPMが若干高めですが、基本的にはあまり変わりありません。リーブランドは常にオリジナル・バージョンを大切にするリミキサーで、アバの“Lay All Your Love On Me”とかラム・ジャムの“Black Betty”とか素晴らしい仕事をしていますが、本作は平均点的な仕上がりだと思います。  マドンナでいうところの“Borderline”的なポジションにある哀愁系ミディアム・ナンバー。他のシングルに比べると比較的地味な印象ですが、メロディ・ラインはかなり良く出来ていると思います。この12インチ・ミックスはアルバム・バージョンを尊重しつつ、よりベース・ラインを強調しており、つなぎ易さを重視した仕上がりと言えるでしょう。ちなみに、ダンス・チャートでは最高16位と残念な結果でした。

INTO_MY_SECRETS.JPG NIGHTWALKIN.JPG I_DON'T_KNOW_WHAT.JPG BOUNCE_BACK.JPG

Into My Secret (1987)

Nightwalkin' (1987)

I Don't Know What Comes Over Me (1987)

Bounce Back (1988)

(P)1987 RCA/BMG (USA) (P)1987 RCA/BMG (USA) (P)1987 Metronome (Germany) (P)1988 MCA Records (USA)
Side A
1,Into My Secret
  (Special New Brooklyn Remix) 7:04
2,Into My Secret (New Edited Version) 4:00
Side B
1,Into My Secret (Special Extended Club Mix) 8:40
2,Do You Dream About Me 3:38

produced by Mark S. Berry
side A mixed by Mark Berry and Omar Santana
side B mixed by Lew Hahn and Mark Berry
1,Into My Secret
2,Love You Up
3,Girls Don't Lie
4,Play With Boys
5,Let Your Heart Make Up Your Mind
6,Nightwalkin'
7,I Don't Know What Comes Over Me
8,Do You Dream About Me
9,Save A Little Love
10,Into The Night

produced by Mark S. Berry
I Don't Know What Comes Over Me (Club Mix) 7:40
2,I Don't Know What Comes Over Me
  (House Mix) 3:46
3,Let Your Heart Make Up Your Mind #
  (Club Mix) 5:53
4,Love You Up 3:11

produced by Mark S. Berry
remixed by Mark S. Berry
# remixed by Steve Rimland
Side One
1,Bounce Back (LP Version) 3:53
2,Bounce Back (7" Radio Remix) 3:48
Side Two
1,Bounce Back (12" Vocal Remix) 7:07
2,Bounce Back (12" Techno-Bonus Dub) 7:12

produced by Michael Jay
remixed by Justin Strauss
 “Baby Talk”の路線を踏襲しつつも、当時ブームだったフリースタイルを意識したダンス・ポップ・ナンバー。リミックスにアーサー・ベイカー門下生のオマー・サンタナが参加しているのが象徴的です。ただ、ミックスとしてはアリフ・マーディン一派のリュー・ハーンが手掛けたB面の方がメリハリが効いていてカッコいいですね。いずれにせよ、楽曲的には“Baby Talk”などよりも地味な印象でした。  メジャー・ヒットを狙って製作されたセカンド・アルバム。ダイアン・ウォーレンやブルース・ロバーツ、アレクサンドラ・フォーブスなどのヒット・メーカーを揃えたソングライター陣の顔ぶれを見ても、その力の入れようが分りますね。ただ、全体的には凡庸なダンス・ポップ・アルバムという感じです。幾つかいい曲はあるんですけどね。トニー・グリーンとシンディ・ヴァレンタインが書いた#10なんかは名曲だと思います。  セカンド・アルバムの中で最も良く出来た作品で、サード・シングルとしてヨーロッパでのみリリースされました。思い切りラテン色の強いフリースタイル系ナンバーで、キャッチーなサビのメロディも秀逸だったと思います。ただ、リミックスはユルいハウスという感じで、原曲の良さを全く生かすことが出来ていません。カップリングの#3はセカンド・シングルですが、ラテン・フュージョン風のミックスはまずまずの出来映え。  当時マルティカで大当たりを取っていたマイケル・ジェイがプロデュースを手掛けた作品。超キャッチーなマイアミ風ラテン・フリースタイルです。もともとジェイがプロデュースしたファイアー・オン・ブロンドという女性アーティストが歌っていた作品。リミックスは90年代ポップ・ハウスの帝王ジャスティン・ストラウス。デペッシュ・モードからデビー・ハリーまで幅広く手掛けていた人ですが、ツボを心得たキラキラと派手な仕上がり。

WHEREVER_THE_RHYTHM.JPG YOU_WANNA_BE_A_STAR.JPG

Wherever The Rythm Takes Me (1996)

You Wanna Be A Star (1999)

(P)1996 Critique/Fever (USA) (P)1999 Jellybean Records (USA)

1,Radio Edit 4;27
2,Extended Dance Mix 6:36
3,Extended Euro Dance Mix 6:18
4,Progressive Soul Radio Edit 4:23
5,Album Version 5:30

produced by Chris Barbosa

1,That Kid Chris Mix 8:05
2,TKC and Kato Groove Dub 7:42
3,B&B "Get Up" Dub 7:35
4,Padula and Macaluso "Reach For The Stars" Mix 5:55
5,Album Version 5:20 ビデオ

produced by Jellybean & Soul Solution
#1 remixed by Chris Starpoli
#2 remixed by Chris Starpoli & Juan Kato
#3 remixed by Peter Bailey & Joe Buzz
#4 remixed by Greg Padula & Mike Macaluso
 フリースタイルの総本山フィーバーに移籍したアリーシャが、ユーロ・ディスコの老舗クリティークのディストリビュートでリリースしたシングル。派手派手のキャッチーな哀愁ユーロ・ハウスで、スリリングなシンセ・リフと爆音エフェクトがインパクトの強い作品。ただ、バック・トラックのアレンジは秀逸ですが、楽曲としてはかなり凡庸。プロデュースはシノンの“Let The Music Play”を手掛けたクリス・バーボサです。  SNL出身のコメディエンヌ、モリー・シャノン主演のコメディ映画「スーパースター」の主題歌。ただ、#5のアルバム・バージョン以外は全てインスト・ダブ。一向にアリーシャのボーカルが現れないのでビックリしました。しかも、蓋を開けてみれば凡庸なポップ・ハウス。リミックスもありきたりなプログレッシブ・ハウスで、全くいいところナシ。プロデュースはジェリービーンとソウル・ソルーションですが、適当な仕事してます。

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