アルシオーニ Alcione
哀愁のサンバを歌う栗色のディーヴァ
サンバと言えばリオのカーニバル。陽気で激しいリズムに乗って繰り広げられる華やかなダンスを連想させるだろう。が、サンバには様々なジャンルがあり、日本で認識されているサンバのイメージというのは実はかなり偏っているのだ。
そうしたサンバのジャンルの一つに、サンバ・カンサウンと呼ばれるものがある。サンバのリズムを基調に、叙情的で哀愁感に満ちたメロディを歌う歌謡ポップス的な音楽で、そのサンバ・カンサウンを代表するアーティストが、“マホン(栗色の娘)”の愛称でブラジル庶民に愛されている歌手アルシオーニである。彼女の名声を決定付けた大ヒット曲"Nao
deixe o samba
morrer”を是非聴いて欲しい。軽やかで心地良いサンバのリズムに乗せて奏でられる哀しいメロディ。太くて深みのあるアルシオーニの歌声は、まるで母なる大地のように逞しく優しい。黄昏時のリオの夕焼けを思わせるような、叙情的で切ない哀愁系サンバの大傑作。サンバは、ただ陽気に踊るだけの音楽ではないのだ。
アルシオーニは、1947年11月21日ブラジル北西部のマラニョン州にある港町サン・ルイスに生まれた。父親は軍警察の警察官で、マーチング・バンドのリーダー兼ピアニストでもあった。父親に音楽を学んだアルシオーニは、12〜13歳の頃から父親のバンドや学校で歌を歌うようになり、クラリネットやトランペットを学ぶ。20歳でリオ・デジャネイロに移り、ナイトクラブの歌手を経てテレビで歌うようになり、チリやアルゼンチンなどにも巡業するようになった。さらに70年からは公演でヨーロッパを巡り、72年に帰国。75年にアルバム“A
Voz do Samba”でレコード・デビューを果たした。このアルバムから、先述した“Nao deixe o samba
morrer”が大ヒットし、アルバムはゴールド・ディスクを獲得する。以降、常にブラジルの音楽シーンの第一線で活躍し続け、今や“サンバの女王”の名を欲しいままにしている。故クララ・ヌネス(アルシオーニの親友でもあった)、ベッチ・カルヴァーリョと並んで、ブラジル音楽史上最も重要な女性サンバ歌手と言っていいだろう。
冒頭でも述べたように、アルシオーニのサンバはロマンティックでもの哀しい。サンバ・カンサウンの大衆性に加えて、ヨーロピアン・ポップスやアメリカン・ポップスに影響を受けたような都会的な洗練を兼ね備えていると言えるだろう。個人的には、特に70年代の作品が琴線に触れる。80年代以降の作品が、サンバというよりはAOR的要素の濃厚なポップ・ミュージックに傾倒しているのに対し、70年代の作品にはサンバらしいリズミカルな躍動感があり、叙情的でありながらも“踊れる”作品が多い。
また、おっかさん的な包容力のある、太くて逞しいアルシオーニのボーカルも非常に心地よい。体型的にも貫禄たっぷりだが、ずっしりと重量感のある暖かいソウルフルな歌声とロマンティックで切ない楽曲はとても相性が良く、しみじみと心に響き渡るものがある。
サンバというジャンルを超えて、ブラジルの大衆ポップスを代表する大歌手となったアルシオーニ。ブラジル音楽にはちょっと疎い、という人にこそ是非とも聴いてもらいたいボーカリストである。
“Nao Deixe o Samba Morrer”のテレビ映像(1975年) ココ で見れます!(貴重!)
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A Voz do Samba (1975) |
Sem Limite |
Almas & Coracoes (1983) |
Promessa (1992) | |
(P)2002 Universal (Brazil) | (P)2001 Universal (Brazil) | (P)2002 BMG Brasil (Brazil) | (P) BMG/RCA (Brazil) | |
1,Historia de pescador 2,O surdo 3,Acorda, que eu quero ver 4,Aruande 5,Batuque feiticeiro 6,Espera 7,Nao deixe o samba morrer 8,Etelvina, minha nega 9,E amor... deixa doer 10,Todo mundo quer 11,Ate o dia sao nunca 12,Samba em pazz / A voz do morro produced by Roberto Santana |
DISC 1 1,Gostoso Veneno 2,Estranha Loucura 3,O Surdo 4,Telegrama 5,O que Eu Faco Amanha 6,Nao Deixe i Samba Morrer 7,Valeu Demais 8,Qualquer Dia Desses 9,Conto de Areia 10,Ultima Forma 11,Menino sem Juizo 12,Cajueiro Velho 13,Mesa de Bar 14,Pedra que Nao Cria Limo 15,Saudosa Mangueira |
DISC 2 1,Nem Morta 2,Sufoco 3,Papel de Pao 4,Essa Tal Liberdade 5,O Poder da Criacao 6,Pandeiro E Meu Nome 7,Tudo Acabado 8,O Meu Amor 9,Mel na Boca 10,Alerta Geral 11,Juizo Final 12,Ronda 13,Seu Rio, Meu Mar 14,Rio Antigo (Como nos Velhos Tempos) 15,Verde e Rosa |
1,Um Ser de Luz 2,Qualquer Dia Desses 3,Mutirao de Amor 4,Que Zungu 5,Maracatu do Meu Avo 6,Questao de Fe 7,Almas & Coracoes 8,Velho Barco 9,Rapsodia da Saudade 10,Regresso 11,Amor em Tom Menor 12,A Despedida produced by Ivan Paulo |
1,Medo |
全曲オススメと言っても過言ではないデビュー作にして大傑作。素晴らしいとしか言いようがない。サンバらしいダンサンブルなリズムに乗せて歌われる哀愁感溢れるキャッチーなメロディの数々は、何とも言えない郷愁を誘う。もちろん、一番の目玉は出世作#7。パワフルでスケールの大きなアカペラに始まり、程よいサンバのリズムと哀愁感に満ちた歌謡曲風のメロディが絶妙にマッチした素晴らしい作品。真夏の夕暮れ時、ビールでも片手に聴きたい珠玉の名作である。 | 75年〜79年の作品を中心に、ユニバーサルに音源のある98年〜2000年までの楽曲(ライブ含む)を織り交ぜて構成された2枚組のベスト盤。70年代のアルバムはファースト以外CD化されていないので、初期の楽曲を手軽に聴ける貴重なアルバム。哀愁感に満ちたキャッチーなコーラスで幕を開けるDISC 1の#1やムーディーで哀しげなボサ・タッチの佳曲#11、切ないギターのメロディと軽やかなフルートに情熱的なアルシオーニのボーカルが絡む#12、シコ・ブアルキ作曲の哀愁ボサをマリア・ベターニャとのデュエットで聴かせるDISC 2の#8など、70年代の楽曲はどれも粒ぞろい。 | 軽快なサンバのリズムにドラマティックなアルシオーニの歌声が映える情熱的なナンバー#1で幕を開ける洗練されたサンバ・カンサウン・アルバム。#4や#6のような陽気でダンサンブルなナンバーもあるが、全体的にはAOR的なムードを持った叙情的でアダルトなバラードが多い。特に#11なんかはピーター・アレンやボビー・コールドウェルを連想させる雰囲気を持っている。その辺りは好き嫌いが分かれるところかもしれない。 | より都会的な雰囲気の強くなったアルバムで、AOR色は一層濃厚になっている。抜きん出た作品には欠けるものの、アルバムとしては非常にバランスの良い作品で、アルシオーニの安定したボーカルも含めて安心して聴ける仕上がり。サンバからポップ・バラードまで、全体的にメランコリックでロマンティックな楽曲で統一されており、耳障りはとても良い。 |
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Brasil de Oliveira da Silva do Samba (1994) |
Valeu (1997) |
Alcione |
Faz uma Loueura por Mim (2004) | |
(P) 1994 BMG/RCA (Brazil) | (P) 1997 Polygram/Mercury (Brazil) | (P)2001 BMG Brasil (Brazil) | (P)2004 Indie Records (Brazil) | |
1,Certas coisas 2,To com saudade 3,Saudade so 4,Onde o rio e mais baiano 5,Febre de amar 6,Fla x flu 7,Coracao da sanfona 8,Brasil de oliveira da silva do samba 9,Paixao bandida 10,Zanga de amor 11,Asas de carcara 12,Munca mais 13,Tereco 14,Usa e abusa Artistic Direction by Miguel Plopschi |
1,Valeu Demais 2,Quem de Nos 3,Telegrama 4,Timidez 5,Essa Tal Liberdade 6,Luz do Desejo 7,Nosso Sonho Nao E Ilusao 8,Te Amo 9,Entidade 10,Paixao em Verde-e-Rosa 11,So Jalta Voce 12,A Ultima em Sua Vida 13,Sempre Sera 14,Namorada do Sol produced by Jorge Cardoso & Jose Americo |
DISC 1 1,Nem Morta 2,Pior e Que eu Gosto 3,Meu Vicio e Voce 4,Pu Ela Ou Eu 5,Pisa na Fulo 6,Mar de Carinhos 7,Ara-Keto 8,Estranha Loucura 9,De Teresina a Sao Luts 10,Mesa de Bar 11,Ela x Flu 12,Obrigado Bateria 13,Overjoyed 14,Um Ser de Luz |
DISC 2 1,Garoto Maroto 2,Autonomia 3,Mangueira Estacao Primeira 4,Suave e a Noite 5,Qui Nem Gilo 6,Dona Zica e Dona Neuma 7,Forrofiar 8,Mocidade Independente 9,Brasil de Oliveira da Silva do Samba 10,O que Eu Faco Amanha? 11,Forro do Xenhenhem 12,Onde o rio e Mais Baiano 13,Estacao Derradeira 14,Nao da Mais pra Segurar |
1,Faz uma loueura por
mim 2,Enquanto houver saudade 3,Eo amor 4,Na mesma proporcao 5,Primo do jazz 6,Queda de brago 7,Na hora da raiva 8,Mais um bareo 9,Nao pense em mim 10,Aque mais deixa saudade 11,Contra a correnteza 12,Asangue frio 13,Razao e nostalgia 14,Deus me livre de vocee 15,Solfadorelami 16,Toeaia 17,Voce me vira a cabega produced by Jorge Cardoso |
AOR風のポップなサンバ・カンサウンの最良型とも言える充実した内容の好盤。何と言っても、本作の目玉はCaetano Velosoと共演した#4だろう。その他にも、ハーモニカのもの悲しいメロディが印象に残るジャジーな雰囲気のバラード#1や都会的な哀愁感を漂わせたキャッチーなメロウ・サンバ#3、ボサ・ノヴァに近い雰囲気の叙情的でメランコリックな#5、そこはかとないノスタルジックなムードが心地よい哀愁サンバ#8など、洗練された良質な楽曲が揃っている。 | ここまで来るとサンバと呼んでいいのかどうか分らなくなってしまうような、ポップでジャジーでメロウな作品。ほのかにサンバやボサのリズムを漂わせながらも、あくまでも優雅で叙情的なポップスが展開する。ストリングスやホーン・セクションを従えたサウンド・プロダクションもゴージャス。非常にロマンティックで完成度も高い。完全にサンバというカテゴリーを超越し、より幅広いリスナー層を意識した内容になってると言えるだろう。 | アルシーニがBMGに残した80年代半ばから90年代にかけての作品から選曲された2枚組のベスト盤。いわゆるサンバ的な音を期待するとガッカリするかもしれないが、ブラジリアン・ポップスとして聴けば、非常にメロディアスでアダルトな雰囲気に溢れた良質な作品が楽しめる。それこそ、ピーター・アレンやバリー・マニロウ、ボビー・コールドウェル辺りの、程よいブラジル風味を加えたAORポップスが好きな人にはたまらない内容だろう。ソウルフルで情熱的なアルシオーニの歌声も素晴らしい。 | あまりにも叙情的で、あまりにもロマンティックで美しい、洗練された大人のためのブラジリアン・ポップス。都会的な哀愁感に溢れたゴージャスでメロウなバラード#2、程よいサンバのリズムにもの悲しくも情熱的なメロディが薫り立つ#3、メランコリックなアコーディオンとピアノのメロディに優雅なリズムがラテン的な雰囲気を醸しだす美しいバラード#7など、じっくりと耳を傾けたい熟成された楽曲が並ぶ。アルシオーネのボーカルも豪快で、まさに貫禄。 |