諜報部員077シリーズ

 

 007シリーズの大成功をきっかけに世界中で盛り上がったスパイ映画ブーム。ヒット作をパクることにかけては世界一流だったイタリア映画界も、そのブームに乗って数多くのパチもの007映画を世に送り出した。その代表的な作品が、コード・ネーム077のディック・マロイ・シリーズだ。
 ディック・マロイ役を演じるのはアメリカ人俳優ケン・クラーク。もともとハリウッドでデビューし、「ならず者部隊」('56)や「南太平洋」('58)などに脇役として出演していたものの、なかなか芽が出なかった。そこで、同じくハリウッドでは脇役一筋だったスティーヴ・リーヴスが、イタリア産スペクタクル史劇で大成功したのを見てイタリア行きを決意。「ヘラクレス/モンゴル帝国の逆襲」('60)などのスペクタクル史劇に次々と主演し、マカロニ・ウェスタン・ブームが到来すると「ネブラスカの一匹狼」('65)などで活躍した。
 さらにスパイ映画ブームが到来すると、コードネ−ムFX18を演じた“Coplan, agent secret FX 18”('64)やFBI捜査官ロバート・リストンを演じた“FBI chiama Istanbul”('64)に主演。そんな彼の代表作となったのが、この077シリーズだったというわけだ。

 077シリーズの特徴は、ジェームズ・ボンドだけではなくマット・ヘルムやデレク・フリント、ヒュー・ドラモンドといった亜流スパイ・シリーズからも積極的にパクっていること。3度の飯よりも女が大好きなディック・マロイの軟派ぶりはジェームズ・ボンドというよりもマット・ヘルムに近いし、2人組の女スパイ相手に戦う「077/地獄の挑戦状」('66)はヒュー・ドラモンド・シリーズ1作目「キッスは殺しのサイン」('66)のパクりだ。そのイタリア映画らしい商魂の逞しさが微笑ましい。
 なので、ストーリー・テリングの巧みさやオリジナリティに期待してはいけない。基本的にストーリーなんてあってないようなもの。どう考えても行き当たりばったりにしか思えないディック・マロイの諜報活動なんてのもご愛嬌。辻褄なんか合わなくて当たり前なのだ。
 次々と登場する美人女スパイのお色気やファッション、パリやローマ、マドリードなどを舞台にしたゴージャスでレトロなロケーション、ドリフのコントみたいなオヤジ・ギャグ満載のちょっとHなユーモアなどを楽しむのが、このシリーズの正しい鑑賞法。当時のイタリア産パチものスパイ映画にしては予算も十分にかけられているので、アクション・シーンもなかなか見応えがある。スパイ映画には欠かせないガジェットが若干地味なのは残念だが、身体を張ったスタント・シーンは盛りだくさんだ。
 スパイ映画ファンだけではなく、60年代のトレンドやファッションが好きな人、モンドでお洒落なラウンジ・ミュージックな好きな人などにも是非オススメしたいシリーズだと思う。

 

077/地獄のカクテル
Agente 077 missione Bloody Mary (1965)
日本では1966年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2004 Dorado Films (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイド・スクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/91分/製作:イタリア・スペイン・フランス

映像特典
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
ケン・クラーク バイオグラフィー
ヘルガ・リーネ フィルモグラフィー
監督:セルジョ・グリエコ
製作:エドモンド・アマーティ
脚本:サンドロ・コンティネンザ
    レオナルド・マルティン
    マルチェッロ・コスチア
撮影:フアン・フリオ・バエーニャ
音楽:アンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノ
出演:ケン・クラーク
    ヘルガ・リーネ
    フィリップ・エルセン
    ミツコ
    ウンベルト・ラホー
    シルヴァーナ・ハシーニョ
    アントニオ・グラドーリ
    アンドレア・スコッティ
    ミルコ・エリス
    エリカ・ブラン

 077シリーズの記念すべき(?)1作目。ブラッディ・マリーと呼ばれるアメリカの新型核爆弾が秘密組織によって盗まれ、CIAの腕利き諜報部員ディック・マロイがその行方を追うというのが筋書き。そこへ、ブラッディ・マリーを狙う中国やソヴィエトのスパイも絡んでくるわけだが、基本的には単なる追いかけっこ。これっぽっちも頭脳戦に至らないというのがミソだ。
 撮影はパリとマドリード、アテネで行われており、行く先々で待ち構えている女スパイたちのお色気や、各地の華やかな観光名所などが存分に楽しめる。中でも、パリの美しい街並みが見渡せる屋上での派手な追撃シーンは、スケールが大きくて見応えたっぷり。パチものスパイ映画としては十分に合格点の仕上がりだと思う。

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CIAの凄腕スパイ077ことディック・マロイ(K・クラーク)

3度のメシよりも女が大好きなディック・マロイ

 アメリカが開発したばかりの小型核爆弾ブラッディ・マリーが、謎の犯罪組織ブラック・リリーによって盗まれた。CIAの長官ヘストン(フィリップ・エルセン)は、腕利き諜報部員ディック・マロイ(ケン・クラーク)をブラック・リリーの拠点であるパリへと送り込む。パリでマロイは同僚の女スパイ、エルサ・フリーマン(ヘルガ・リーネ)と接触。エルサはブラック・リリーが隠れ蓑にしている整形美容医院の医師として潜入していたのだ。
 一方、ブラック・リリーの黒幕であるベッツ教授(ウンベルト・ラホー)は、盗んだブラッディ・マリーを中国政府に売り渡そうとしていた。その晩、ナイト・クラブにエルサを伴ってやって来たマロイは、クアン(ミツコ)という中国人のダンサーと知り合う。クアンはブラック・リリーの一員で、中国政府との架け橋的役割を果たしていた。
 翌日、マロイのもとにクアンから電話が入る。ブラッディ・マリーの行方について話したい事があるというのだ。しかし、マロイがクアンのアパートに着いた時には、既に彼女は殺害されていた。現場にはブラック・リリーの差し向けた暗殺者たちが待ち構えており、屋上へ逃げ出したマロイと壮絶な銃撃戦が繰り広げられた。さすがに多勢に無勢では不利かと思われたが、そこへフランス人スパイのレスター(アンドレア・スコッティ)が助っ人として現れる。
 この一件でCIAに追われているという事に気付いたブラック・リリーは、ブラッディ・マリーを安全な場所へと移動する事にする。それを知ったマロイは一路マドリードへと先回りする。そこには、パリで姿を見かけたKGBのスパイも来ていた。そこで彼はKGBの情報を入手しようとする。酒場のホステスとして潜入している女スパイから、KGBの男が飲んだくれているという情報を得たマロイは、わざとイタリア人の船員に喧嘩をふっかける。たちまち酒場は大乱闘のパニックに。そのどさくさに紛れて、彼はKGBの男の懐から機密情報を盗み出した。
 こうして、アテネ行きの貨物船にブラッディ・マリーが隠されている事を知ったマロイは、その貨物船に潜入する。だが、船員に気付かれてしまい、命からがら船を脱出。泳ぎ着いた海岸でタクシーを拾い、アテネ市内へと向った。
 アテネではエルサが彼を待っていた。レスターの協力で工事現場にブラッディ・マリーが隠されているという事を知ったマロイは、作業員に扮して工場内に潜入。見事にブラッディ・マリーを奪い返すことに成功した。だが、隠れ家で待機していたレスターがブラック・リリーに殺害されてしまう。
 さらに、パリへ戻ったマロイをブラック・リリーの一味が待ち構えていた。そこで彼は衝撃的(?)な事実を知る事になる・・・。

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秘密組織に潜入した女スパイ・エルサ(H・リーネ)

ブラック・リリーの黒幕ベッツ教授(U・ラホー)

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謎の中国人ダンサー・クアン(ミツコ)

大人の駆け引きを楽しむマロイとエルサ

 監督はテレンス・ハサウェイの変名でも知られるセルジョ・グリエコ。史劇から戦争アクションまで何でもこなす職人監督で、この077シリーズが代表作と言っていいだろう。古い建物が密集するパリの屋根の上で展開する銃撃戦や、夜行列車の中での格闘シーンなど、アクションの見せ方もリズム感があって小気味良い。全体的にそつがないという感じだ。映像に関して言えば、フアン・フリオ・バエーニャの撮影も構図がとてもしっかりしていて、美しいロケーションの見せ方をちゃんと心得ている。ちなみに、オープニングもしっかりシルエット処理で007をパクってくれているのが嬉しい。
、脚本を手掛けているのは「七人のあばれ者」('63)や「さいはての用心棒」('66)のサンドロ・コンティネンザ、「死神の骨をしゃぶれ」('73)のレオナルド・マルティン、そして「血ぬられた墓標」('60)や「悪魔の墓場」('74)のマルチェロ・コスチアの3人。正統派のスパイ映画というより、どちらかというとパロディ的なものを目指していたのではないかと思う。KGBのスパイが大酒飲みの役立たずだったりとか、喧嘩っ早いシチリア人が出て来たりとか、明らかにスパイ・テクニックよりもギャグやアクションに神経が注ぎ込まれている。その辺りで好き嫌いが分れてくるかもしれないが、パチもの映画としては正しい開き直り方だろう。所詮、俺たちがやってるのはパクりだからさ、というお気楽さ加減が好感触だ。
 そしてスパイ映画で重要な音楽を手掛けているのはアンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノ。主にスペクタクル史劇や戦争ドラマの音楽で知られる作曲家だが、ここではジョン・バリーさながらの洒落たラウンジ・ジャズを聴かせてくれる。さらに、「ロシアより愛をこめて」をパクったような主題歌は、あのエンニオ・モリコーネがアレンジと指揮を担当。是非、サントラ盤のCD化を望みたいところだ。

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パリの街を一望できる屋根上での銃撃戦

お洒落なナイト・スポットも大きな見どころ

 で、今回のヒロイン役はヘルガ・リーネ。60〜70年代のヨーロッパ産娯楽映画ではお馴染みのスペイン女優だ。スパイ映画はもちろんのこと、ホラーからアクション、マカロニ・ウェスタンまで数え切れないくらいのB級映画に出演しまくっていた。アクが強くてキツい感じの妖艶な美貌が印象的で、カルト女優として世界的な人気を誇っている。そういえば、ペドロ・アルモドヴァルの初期作品にも出演していたっけ。
 中国人ダンサーのクアン役で登場するミツコは、フランス生まれの日系ストリップ・ダンサー。当時のヨーロッパ産スパイ映画に数多く出演していて、本家「007/サンダーボール作戦」('65)にもチラリと顔を出している。また、イタリア映画ファンにはお馴染みのセクシー女優エリカ・ブランが、CIAの秘書役で冒頭にチョロッと出てくるのも見逃せない。
 マロリーの上司であるヘストン役を演じているフィリップ・エルセンはフランスの俳優だが、主にイタリアで活躍した人。「マラソンの戦い」('60)や「勇者ヘラクレスの挑戦」('64)などスペクタクル史劇に多く出演していた。そして、ブラック・リリーの黒幕ベッツ教授役のウンベルト・ラホーは、イタリア映画ファンなら誰でも知っている名バイプレイヤー。特にB級ホラーやサスペンスの悪役としてはお馴染みの顔。ダリオ・アルジェントの「歓びの毒牙」('69)ではエヴァ・レンツィ扮する画廊オーナーのダンナ役をやっていた。とても懐かしい俳優だ。
 なお、本作のDVDはドレイド・フィルムスというアメリカの超マイナーなメーカーからリリースされている。画質はギリギリの合格点。ただ、縦横の比率が間違っているみたいで、せっかくのスクィーズ収録にもかかわらず、微妙に縦長になってしまっているのが残念。

 

077/連続危機
Agente 077 dall'oriente con furore (1965)
日本では1967年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 Dorado Films (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイド・スクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/
地域コード:1/95分/製作:イタリア・スペイン・フランス

映像特典
オリジナル劇場予告編
ケン・クラーク バイオグラフィー
監督:セルジョ・グリエコ
製作:エドモンド・アマーティ
脚本:サンドロ・コンティネンザ
    レオナルド・マルティン
    アルパド・デリーソ
    ニーノ・スコラーロ
撮影:フアン・フリオ・バエーニャ
音楽:ピエロ・ピッチョーニ
出演:ケン・クラーク
    マーガレット・リー
    フィリップ・エルセン
    フェルナンド・サンチョ
    ファビエンヌ・ダリ
    エヴィ・マランディ
    ミカエラ
    フランコ・レッセル
    ヴィットリオ・サニポーリ
    エンニオ・バルボ
    アラン・コリンズ

 前作以上にお気楽ナンセンス度の増した077シリーズ第2弾。今回はユニークなガジェットも満載だし、セクシーな女優陣もゴージャスで華やか。定番のドタバタ乱闘シーンもド派手にやってくれているのが嬉しい。さらに今回はパリ、マドリードに加えてイスタンブールでもロケしており、全編を通じて観光気分も存分に味わえる。
 また、今回は音楽も前作以上にお洒落でカッコいい。何といっても、スコアを担当したのが鬼才ピエロ・ピッチョーニである。ピッチョーニお得意のスリリングでクールなジャズが全編で炸裂。クールなボサノバに仕上がった主題歌の“Before It's Too Late”もイカしてる。歌っているのはリディア・マクドナルド。シャーリー・バッシー・タイプの女性ボーカリストで、イタリア映画の主題歌を数多く歌っている女性ボーカリストである。
 そんなこんなで、60年代のお洒落でグルーヴィーな映画がお好きな人には是非ともオススメしたい一本だ。

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誘拐された博士の行方を追うディック・マロイ(K・クラーク)

組織のボス・ゴールドウィン(F・レッセル)とシモーヌ(F・ダリ)

 世界的な科学者カーツ博士(エンニオ・バルボ)が謎の犯罪組織に誘拐された。博士は物質を消滅させることの出来るレーザー光線の開発に成功しており、犯罪組織のボスであるゴールドウィン(フランコ・レッセル)はそれを武器として悪用しようと企んでいるのだ。
 CIAのヘストン長官(フィリップ・エルセン)は、酒場で美女を巡って大乱闘を演じているディック・マロイ(ケン・クラーク)をパリのCIA支部へと呼び出す。実は、ヘストンのもとにプレミンジャー博士という人物から情報提供の電話がかかってきていたのだ。博士は誘拐されたカーツ博士の親友だった。
 翌日、マロイはプレミンジャー博士と落ち合うべくパリ市内のカジノへと向う。だが、博士は彼の目の前で何者かに毒矢を撃たれて殺されてしまった。死の直前、博士はマロイに封筒を渡す。そこには半分に割られたメダルの片方が入っていた。
 プレミンジャー博士の自宅へ行ったマロイは、そこでカーツ博士の愛娘ロミー(エヴィ・マランディ)と出会う。ソヴィエトから帰国したばかりのロミーは、プレミンジャー博士のもとに身を寄せていたのだった。マロイは何者かがカーツ博士の実験ノートを狙っていた事を知る。そのノートは公証人のもとに預けられており、第3者が受け取るためには例のメダルの片割れが必要だったのだ。
 ホテルに戻ったマロイは、そこでシモーヌ(ファビエンヌ・ダリ)という美女に誘惑される。しかし、彼はシモーヌがカーツ博士の助手だったことに気付いていた。彼女が博士の誘拐に関与していると睨んだマロイは自白させようとするが、物陰に男が隠れていることに気付いて格闘になる。
 逃げていった男の後を追ったマロイは、モンマルトルの地下カフェへとたどり着く。そこには犯罪組織の仲間たちがいて大乱闘となってしまうが、威勢のいいスペイン人の観光客(フェルナンド・サンチョ)が加勢してくれてピンチを切り抜けた。
 シモーヌが関与しているということで、カーツ博士の娘であるロミーにも危険が迫っていると思ったマロイは彼女の部屋へ向う。しかし、そこには先回りしていたシモーヌと仲間たちがおり、マロイはメダルの片割れを奪われてしまう。
 メダルを奪った男たちは公証役場へ。まんまとカーツ博士の実験ノートが入った封筒を手に入れるが、隙を見たマロイがそれを奪い取った。だが相手は多勢で、困ったマロイは近くにあった棚の引き出しに封筒を隠す。ところがその棚は役場で行われている骨董品オークションの出品物だった。なんとか競り落とそうとするマロイだったが、大富豪の美女ドロレス(ミカエラ)に負けてしまった。そこで彼はドロレスに言い寄り、彼女のホーム・パーティに招待されることになる。
 パーティを抜け出して封筒を探していたマロイだったが、そこへ追ってきた男たちが武器を手に乱入してくる。大乱闘の末、マロイはドロレスと共に屋敷を脱出することに成功した。彼女の別荘で甘い一晩を過ごした2人だったが、朝起きるとゴールドウィンの差し向けた男たちが乗り込んできた。間一髪のところで仲間のスパイに助けられた二人だったが、肝心の封筒を奪われてしまう。
 組織の拠点がイスタンブールにあると知ったマロイはトルコへと向う。そこでCIAの女スパイ、イヴリン・ストーン(マーガレット・リー)と合流したマロイは、夫婦を装って敵のアジトを探ることにするのだったが・・・。

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誘拐されたカート博士の娘ロミー(E・マランディ)

お洒落なパリのロケーションも満載

 セルジョ・グリエコ監督の演出は前作にも増して遊び心たっぷりだ。ディック・マロイの登場シーンからして、もうナンセンス。ほとんどチャップリンの映画みたいなドタバタの乱闘シーンが繰り広げらる。そもそも、酒場でナンパした女を巡って大乱闘を繰り広げるなんてこと自体が、スパイにあるまじき行為なのだが(笑)。
 モンマルトルの地下カフェでの乱闘シーンもバカバカしくて面白い。ここではフェルナンド・サンチョ扮するスペイン人の観光客がケッサクだ。気だるいジャズをBGMに人々が芸術やら愛やら語り合っている中、一人だけ場違いに騒いでいるオッサン。マロイが大乱闘を始めると狂喜乱舞して、“こりゃパリまで来た甲斐があった!”と一緒になって乱闘に加わってしまう。マカロニ・ウェスタンの荒くれ者として鳴らした名物俳優フェルナンド・サンチョの独壇場といった感じだ。
 また、今回はディック・マロイが使用するガジェットも結構気が利いている。ベルトに仕込まれた小型カメラから葉巻型のキー、車のバックに仕込まれたマシンガンなど、一つ一つは地味ながらも数で勝負といった感じだ。
 脚本は前作のサンドロ・コンティネンザとレオナルド・マルティンに加え、スペクタクル史劇の脚本家として知られるアルパド・デリーソとニーノ・スコラーロが加わっており、より賑やかなストーリー展開になっているのが良かった。

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大富豪の美女ドロレス(ミカエラ)に接近するマロイ

イスタンブールに乗り込んだイヴリン(M・リー)とマロイ

 今回のヒロイン役はマーガレット・リー。イギリス出身のブロンド・スターで、60年代から70年代にかけて数多くのイタリア産娯楽映画でヒロインを務めた女優だ。本作ではケン・クラークに次いでキャスト・クレジットが2番目だが、登場するのは本編がスタートして1時間を過ぎてから。ヒロインの出番が全体の三分の一しかないというのも珍しい。
 その代わりに、全編を通じて大活躍するのが悪女シモーヌ役のファビエンヌ・ダリ。ジャン=ポール・ベルモンド主演の「いぬ」('63)でも悪女役を演じていたフランス女優で、マリオ・バーヴァ監督の傑作「呪いの館」('66)では謎めいた霊媒師役で強烈な印象を残していた人だ。
 また、カーツ博士の娘ロミー役で登場するのは、バーヴァ監督の「バンパイアの惑星」('65)でヒロイン役を演じていたコメティッシュな女優エヴィ・マランディ。さらに、大富豪の美女ドロレス役のミカエラはスペインの有名なフラメンコ歌手で、本作でもパーティ・シーンで歌を披露している。
 そして、今回の悪玉役を演じているはフランコ・レッセル。イタリア映画ファンにはお馴染みの顔で、大きくて怪しげな瞳が強烈な印象を残す怪優。スペクタクル史劇からマカロニ・ウェスタンに至るまで、実に120本以上もの映画で悪役を演じ続けた名バイプレイヤーだった。また、マリオ・バーヴァ作品の常連として知られるアラン・コリンズが、本名のルチアーノ・ピゴッツィ名義で片目の殺し屋役として顔を出している。
 なお、本作もドレイド・フィルムスからDVDがリリースされている。今回は縦横の比率もバッチリで、画質もなんとか許せる範囲内。取り扱っているショップが少ないというのが難点だが、見つけたら迷わずゲットしておきたい。

 

077/地獄の挑戦状
Missione speciale Lady Chaplin (1966)
日本では1968年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Dorado Films (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイド・スクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:英語
/地域コード:ALL/102分/製作:イタリア・フランス・スペイン

映像特典
オリジナル劇場予告編
キャスト&スタッフ インフォメーション

監督:アルベルト・デ・マルティーノ
製作:エドモンド・アマーティ
脚本:サンドロ・コンティネンザ
    マルチェロ・コスチア
    イポリート・デ・ディエゴ
    ジョヴァンニ・シモネッリ
撮影:アレハンドロ・ウロア
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:ケン・クラーク
    ダニエラ・ビアンキ
    ジャック・ベルジェラク
    イヴリン・スチュアート
    ヘルガ・リーネ
    フィリップ・エルセン
    メイベル・カー
    アルフレド・メイヨ

 077シリーズ3作目にして、最も製作費がかけられた作品。本家007シリーズと比べても全く見劣りしない・・・とまでは言わないものの(笑)、ハリウッド映画並みのスケール感は十分に保っている。舞台となるロケ地も、ロンドン、ニューヨーク、パリ、マドリード、モロッコと国際色豊か。闘牛場でのスリリングな銃撃戦や武装ヘリによる船舶襲撃などアクションの見せ場も盛りだくさん。
 さらに、今回は敵役にダニエラ・ビアンキとイヴリン・スチュアートの2大イタリア美女を起用し、ファッション業界も絡んでくるという事で華やかな美人モデルも大挙して登場。ブルーノ・ニコライによるポップでグルーヴィーなサウンドに乗せて、スケールの大きい痛快なスパイ・アクションが繰り広げられる。

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ポラリス・ミサイルの行方を追うディック・マロイ(K・クラーク)

謎の美女レディ・チャプリン(D・ビアンキ)

 オープニングはスペイン。荒野のど真ん中にある修道院に美しい尼僧がやって来る。手に持った籠の中から機関銃を取り出した尼僧は、修道士に扮した男たちを皆殺しにして立ち去っていった。女の正体は殺し屋レディ・チャプリン(ダニエラ・ビアンキ)。相棒の美女コンスタンス・デイ(イヴリン・スチュアート)と落ち合った2人は、マドリード市内の高級ホテルへとやって来る。ここが2人の隠れ蓑というわけだ。
 一方、ニューヨークのCIA本部ではディック・マロイ(ケン・クラーク)とヘストン(フィリップ・エルセン)が大きな問題に直面していた。米海軍の軍艦が行方不明になってしまったのだ。恐らく沈没してしまったものと思われるが、16基のポラリス・ミサイルを搭載しているため一刻も早く探し出さないとならない。
 2人は海洋事業を展開する大富豪ゾルタン(ジャック・ベルジュラク)に軍艦の捜索と引き上げ作業への協力を要請するが、にべもなく断られてしまう。その頃、スペインで修道士の格好をした男たちの死体が見つかり、その中の一人が行方不明となっている軍艦の関係者であることが判明。マロイは一路マドリードへと向う。
 マドリードでは同僚の女スパイ、ジャクリーヌ(メイベル・カー)が待っていた。彼女の手引きで情報屋とコンタクトを取ったマロイだったが、突然殺し屋に襲われる。怪我を負った情報屋は病院に入院して現地警察の保護下に置かれるが、老女に成りすましたレディ・チャプリンによって暗殺されてしまう。
 病院を出て行った老女が怪しいと睨んだマロイは、老女を追跡して市内の高級ホテルへとたどり着く。そこで出会った美人ファッション・デザイナー、レディ・チャプリンこそが老女の正体だと見抜くマロイだが、確かな証拠がない。そこで、彼はホテルの女性電話オペレーターにレディ・チャプリンの会話内容を聞き出し、彼女が郊外の豪邸で開かれるパーティーへ行くことを知る。
 豪邸に忍び込んだマロイは、そこに大富豪ゾルタンの姿を発見した。屋敷内を探っていると、あやしげな研究施設を発見。しかし、ボディガードに見つかってしまい、それ以上の調査は出来なくなってしまった。さらに、軍艦の沈没場所が特定されたということで、ニューヨークへ呼び戻されることになる。
 潜水艇に乗り込んで海底へ潜ったマロイは、ポラリス・ミサイルが盗まれていることを発見。その頃、海上で待機している船が武装ヘリに襲撃され、乗組員が皆殺しにされていた。水中に沈んできた死体を見て海上の異変に気付いたマロイは秘かに潜水艇を抜け出し、船上で待ち構えている暗殺部隊を爆弾で一網打尽にする。
 ゾルタンは中東国の美女ヒルデ(ヘルガ・リーネ)にポラリス・ミサイルを売却しようとしていた。一方、レディ・チャプリンはロンドンに向かい、英国軍の軍用列車をジャック。ミサイルに積むための爆薬を盗み出した。彼女はその爆薬を繊維に織り込み、ドレスを仕立ててパリへ運ぶことにする。
 レディ・チャプリンのファッション・ショーがパリで行われる事を知ったマロイとヘストンの2人は一路フランスへ。合流したジャクリーヌをファッション・モデルとして潜入させることにする。さらにレディ・チャプリンの身辺を探るために彼女の宿泊しているホテルへ向うマロイ。結局、2人は甘い一夜を過ごすことになる。
 そしてショーの当日。赤いドレスに爆薬が織り込まれていることを知ったジャクリーヌは、そのドレスを盗もうとしたところをコンスタンス・デイに発見される。彼女を射殺したジャクリーヌはドレスを着たままショー会場を脱出。だが追っ手の撃った銃弾が命中し、マロイの目の前で爆死してしまう。
 怒りに燃えるマロイと対面したレディ・チャプリンは、ポラリス・ミサイル奪還に協力することを約束。ゾルタンと共にコルシカ島へ向うことを教える。だが、何故かヘリはモロッコへ。ゾルタンはレディ・チャプリンの裏切りに気付いていたのだった・・・。

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レディ・チャプリンの相棒コンスタンス・デイ(E・スチュアート)

陰謀を企む大富豪ゾルタン(J・ベルジュラク)

 まさに見せ場に次ぐ見せ場の連続といった感じで、実にテンポ良くストーリーが展開していく。2作目までのセルジョ・グリエコに代わって演出を手掛けたのはアルベルト・デ・マルティーノ。スペクタクル史劇からホラーまで幅広く手掛けた一流の職人監督だが、中でもアクション映画にかけては天下一品の腕前だった。「アッパー・セブン神出鬼没」('66)や「ドクター・コネリー/キッド・ブラザー作戦」('67)のようなスパイ映画はもちろんのこと、戦争アクションの佳作「アルデンヌの戦い」('68)やマフィア映画「シシリアン・マフィア」('72)、ポリス・アクション「ビッグ・マグナム77」('76)など、非常に質の高いアクション映画を数多く残している人物だ。
 脚本に参加しているジョヴァンニ・シモネッリはデ・マルティーノ監督とも数多くの作品で組んでおり、本作の賑やかさは彼に追うところも大きいのかもしれない。裏切りのばれたレディ・チャプリンがヘリから突き落とされるシーンでは、彼女のドレスがパラシュートに早変わりするという気の効いた展開まで用意されていて、スパイ映画ファンなら思わずニンマリさせられるはず。こういう遊び感覚は大歓迎だ。
 撮影を手掛けたのはアレハンドロ・ウロア。セルジョ・コルブッチの傑作マカロニ・ウェスタン「豹/ジャガー」('68)や「ガンマン大連合」('70)、エンツォ・G・カステラーリ監督の戦争スペクタクル「空爆大作戦」('69)、そしてデ・マルティーノ監督の「アルデンヌの戦い」('68)など、スケールの大きなアクション映画を得意とする名カメラマンだ。
 そして、音楽を担当したのはエンニオ・モリコーネの盟友としても知られるブルーノ・ニコライ。お洒落でポップなスコアを書かせたらウミリアーニやトロヴァヨーリにも負けない、イタリアを代表するマエストロである。特にスパイ映画のスコアは得意中の得意で、本作でもそのセンスが十二分に発揮されている。しかも、主題歌を歌うのはカンツォーネのトップ・スター、ボビー・ソロ。パワフルでダンサンブルな素晴らしいポップ・ナンバーに仕上がっているのが嬉しい。

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マドリードでは闘牛場で銃撃戦を繰り広げる

シリーズ初のニューヨーク・ロケも敢行

 オリジナル・タイトルにもなっているレディ・チャプリンを演じているのは、「007/ロシアより愛をこめて」('63)のボンド・ガールとして有名なイタリア女優ダニエラ・ビアンキ。当時、スパイ映画には引っ張りだこだったが、どちらかというと清楚で大人しいタイプのヒロインを演じる事が多かった。しかし、今回は筋金入りの悪女ということで機関銃片手に大暴れ。尼僧から老女まで変装やコスプレもたっぷり披露しており、ケン・クラークも影が薄くなってしまうくらいの活躍を見せてくれる。
 その相棒であるコンスタンス・デイを演じているのはイヴリン・スチュアート。数多くのマカロニ・ウェスタンでヒロインを務めた女優だが、本名をイーダ・ガリというれっきとしたイタリア人。ヴィスコンティの「山猫」('63)やフェリーニの「甘い生活」('60)にも出演していた。
 また、CIAの女スパイ・ジャクリーヌ役で登場するメイベル・カーはスペイン映画で活躍したアルゼンチン女優で、名優フェルナンド・レイの奥さんだった人。さらに、シリーズ1作目「077/地獄のカクテル」でヒロインを務めたヘルガ・リーネが黒幕的な役柄でゲスト出演しているのも見逃せない。
 大富豪ゾルタン役を演じているジャック・ベルジュラクは、ハリウッドの大女優ジンジャー・ロジャースのダンナだったフランス人俳優。「魅惑の巴里」('57)などのハリウッド映画で2枚目役を得意としていたが大成せず、60年代末には映画界を引退してレヴロンの重役になったらしい。

 なお、アメリカ盤DVDにはシリーズ姉妹編とも言えるスパイ映画「皆殺しのダイヤモンド」('67)の予告編が収録されており、一時はドレイド・フィルムスのDVD発売予定にもタイトルが挙がっていた。だが、その後一向にリリースされる気配はナシ。セルジョ・グリエコ監督、ケン・クラーク主演というお馴染みのコンビで、予告編を見る限りではかなり面白そう。どこか他のメーカーで代わりに取り上げてくれないもんだろうか・・・。

 

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