アディーヴァ Adeva
90年代を代表する元祖ハウス・ディーヴァ
ハウス・ミュージックが最先端トレンドとして注目されるようになり、日本でも徐々にクラブ・カルチャーが台頭しはじめた80年代末、彗星のごとく音楽シーンに登場した女性ボーカリストがアディーヴァだった。ショート・カットに刈り上げたインパクトの強いルックス、モダンでスタイリッシュなビジュアル・イメージなどから、“90年代のグレース・ジョーンズ”と呼ばれたこともある。ゲイの間で特に人気が高かったこともその理由の一つだろうが、ボーカリストとしての実力はグレースよりも遥かに上だった。それどころか、ダンス・ミュージックという枠の中に収めておくのが勿体ないくらいの実力の持ち主だったと言えるだろう。
ダンス・ミュージックの世界にはハウス・ディーヴァとかクラブ・ディーヴァとか呼ばれる女性アーティストが星の数ほどいて、“ディーヴァ系”なんていう名称があるくらい熱心なファンを集めている。だが、その殆んどがバカでかい声で叫ぶしか能のないデブ女ばかりというのが実態。丸太のように太ってれば声量があるのは当たり前。声を張り上げて叫んでばかりいるのはテクニックのない証拠だ。
その点、アディーヴァは声量があるだけではなく、テクニックと歌心を兼ね備えた本格派のボーカリストだった。デビュー当初は少々荒削りな歌い方が目立ったものの、作品を重ねるごとにテクニックも洗練されていった。ハウスだけではなく、ジャズやゴスペル、R&Bも十分に歌いこなせるだけの実力を持った人だったと思う。
その後、ディスコ時代から活躍するベテランのロリータ・ハロウェイやマーサ・ウォッシュ、ジョセリン・ブラウンらがハウスに移行していき、ロニー・ゴードンやウルトラ・ネイトといった新人も登場。そうした中で、いわゆる“ディーヴァ系”の雛形みたいなものが形成されていったわけだが、その礎を築いたのがアディーヴァだったと言っても過言ではないだろう。つまり、彼女こそがハウス・ミュージックにおける最初のディーヴァだったのではないかと思うのだ。
アディーヴァの本名はパトリシア・ダニエルズという。1960年ニュージャージー州のパターソンに生まれた彼女は、6人きょうだいの末っ子だった。教会の牧師だった父親は、幼い頃から歌の上手かったアディーヴァをゴスペル歌手にと考えていたらしい。本人も歌は好きだったが、ゴスペルには全く興味がなかったという。彼女が憧れたのはアレサ・フランクリンやグラディス・ナイトといったR&Bシンガーだった。
19歳でシングル・マザーとなった彼女は、大学で心理学を専攻。卒業後は子供を育てるため、高校教師の職に就いた。しかし、歌への情熱を諦める事ができず、家族に内緒でクラブのステージに立っていたという。アディーヴァという芸名を名乗るようになったのもこの頃。ゲイの友人が多かった彼女は、彼らから“ミス・ディーヴァ”と呼ばれていた。そのディーヴァという響きを気に入った彼女は、不定冠詞のaと単数名詞のdivaをくっつけてスペルを変えたAdevaという名前を考え付いたのだ。
やがてニューヨークの音楽プロデューサー、マイク・キャメロンにスカウトされたアディーヴァは、1988年にインディペンデント・レーベルEasy
Streetからリリースされたシングル“In And Out Of My
Life”でデビュー。これに注目したイギリスのクリサリス・レコードと契約を交わし、傘下のクールテンポ・レーベルからアレサ・フランクリンのカバー“Respect”をリリースした。当時はアメリカよりもイギリスやヨーロッパの方が、ハウス・ミュージックの人気は高かったのだ。
このセカンド・シングル“Respect”は翌89年に全英チャートで17位を記録。続いてリリースされた“Musical
Freedom(Free At
Last)”も全英22位をマークした。さらに、ファースト・アルバム“Adeva!”が全英6位まで駆け上がり、アディーヴァは一躍トップ・スターの仲間入りを果たす。
一方、アメリカでは90年に“Warning!”がビルボードのダンス・チャートで4位を記録。さらに91年に“It
Should've Been
Me”(グラディス・ナイトのカバー)が同じくダンス・チャートでナンバー・ワンに輝き、ハウス・ディーヴァとして広く認知されるようになっていった。
しかし、91年のセカンド・アルバム“Love
Or Lust”は全英・全米共にチャート・インを果たせず、フランキー・ナックルズと組んだ95年のサード・アルバム“Welcome To The Real
World”もセールス的に失敗。辛うじてシングルはヒットを続けたものの、99年の“In And Out Of My
Life”(リメイク版)の全英11位が最後となってしまった。
96年にはクリサリスからインディペンデントのディスティンクティヴ・レコードに移籍。さらに、98年にはドイツのインディペンデント・レーベル、コントール・レコードに移籍している。この頃にはドイツや日本での活動が中心となり、イギリスやアメリカでは半ば過去の人になりつつあった。
その後、一時期はノース・カロライナで教職に就いていたというアディーヴァ。しかし、2003年頃から音楽活動を再開するようになり、2004年にはRadical
Noiz feat.Adeva名義でシングル“In & Out”をリリースしている。
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Musical Freedom (Free At Last) (1989) |
Warning! (1989) |
Beautiful Love (1989) |
Treat Me Right (1990) |
(P)1989 Chrysalis/Cooltempo (UK) | (P)1989 Capitol-EMI (USA) | (P)1989 Chrysalis/Cooltempo (UK) | (P)1990 Chrysalis/Cooltempo (UK) |
A 1.Musical Freedom (Free At Last) (Extended Freedom Mix) 6:18 * ビデオ B 1,Musical Freedom (The Original) 7:56 ** 2,Musical Freedom (Simpson Treatment) 5:10 produced by Paul Simpson * mixed by Pablovia RaBan ** mixed by Paul Simpson & Danny D' |
Side 1 1,Warning! (You've Been Warned! Mix) 5:00 2,Warning! (Serious Lies Mix) 6:23 3,Warning! (The Emergency Mix) 3:06 Side 2 1,Warning! (Final Warning! Mix) 5:41 * 2,Warning! (Dub-Strumental) 5:00 ** 3,Love To See You Dancin' (LP Version) 3:45 produced by Smack Productions mixed by Smack Productions * mixed by Tony Humphries ** mixed by Dave Shaw |
A 1,Beautiful Love (Extended) 5:10 * ビデオ B 1,Promises (Extended) 5:59 2,Beautiful Love (Instru-mental) 6:13* produced by Smack Productions * mixed by Frankie Knuckles |
A 1,Treat Me Right (Smack Mix) 6:38 AA 1,Treat Me Right (Big Jam Mix) 5:24 * 2,Love Is Special 4:14 produced by Smack Productions * remixed by Nigel Lowes & Dan Mirchell |
ポール・シンプソンとのコンビで全英22位をマークしたガラージ・ハウスの名曲。シンプソンは80年代半ばから活躍するアーティストで、初期のニューヨーク・ハウス・シーンを代表する重鎮。ソウルフルで洗練されたサウンドが心地良い作品ですが、特にA面#1はクールでお洒落な仕上がり。ミックスを手掛けたパブロヴィア・ラバーンは、当時のシンプソン作品には欠かせないミキサーでした。 |
全英チャートで17位、ビルボードのダンス・チャートでも4位に輝いたヒット曲 。アディーヴァのタフな個性を前面に押し出した、パワフルでエネルギッシュなガラージ・ハウスです。Side 1の#1と#3は、いかにもアメリカ受けを狙ったC&C Music Factoryタイプのファンキーな仕上がり。フリースタイルっぽい音です。トニー・ハンフリーズが手掛けたSide 2の#1はUK盤のZanzibar Mixと一緒。こちらはグルーヴィーでエレガントな出来。 |
90年代ハウスを代表する大御所フランキー・ナックルズがミックスを手掛けたソウルフルなミディアム・ナンバー。後半に絡んでくる美しいピアノの音色なんかはナックルズらしいセンスですね。情感溢れるアディーヴァのボーカルも秀逸。一転してB面のカップリング曲はパワフルなガラージ・ハウス・ナンバー。こうした静と動のメリハリをきっちり分けられるというのも彼女の実力だと思います。全英では57位でした。 | ほど良くジャジーでファンキーなガラージ・ハウスの佳作。彼女の初期作品の中でも特に好きな一曲です。タイトで無駄のないメロディとアグレッシブなサウンドはカッコいいの一言に尽きますね 。B面のリミックスもディスコティックな雰囲気で煌びやか。ツボを心得たホーン・セクションの挿し込み方もクールです。リミックスを手掛けたのはナイジェル・ロイス。後にディナ・キャロルのプロデュースで有名になった人ですね。 |
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The 12inch Mixes (1990) |
Don't Let It Show On Your Face (1992) |
Don't Let It Show On Your
Face |
Until You Come Back To Me (1992) |
(P)1990 BMG Ariola (Germany) | (P)1992 Chrysalis/Cooltempo (UK) | (P)1992 Chrysalis/Cooltempo (UK) | (P)1992 Chrysalis/Cooltempo (UK) |
1,I Thank You (Club Mix) 6:01 ビデオ 2,Warning! (Zanzibar Mix) 5:41 ビデオ 3,Love Is Special 4:14 4,Treat Me Right (Trumped Mix) 6:39 5,Respect (Dancin' Danny D Remix) 8:27 6,Beautiful Love (Extended) 5:13 7,Promises (Broken Mix) 5:58 8,Beautiful Love (Instru-mental) 6:16 |
1,7" Perfecto Mix 3:58 * 2,Full Length Perfecto Mix 5:48* 3,Full Length Smack Mix 4:42 produced by Smack Productions * remixed by Paul Oakenfold & Steve Osborne |
A 1,Don't Let It Show On Your Face (Joey Negro Remix) 6:07 * 2,Don't Let It Show On Your Face (Joey Negro Jeep Mix) 6:08 * AA 1,Independent Woman (12" Smack Mix) 7:35 2,Independent Woman (Tony Humphries Mix) 5:05 ** produced by Smack Productions * remixed ny Dave Lee ** remixed by Tony Humphries |
1,Until You Come Back To
Me (7" Version) 4:19 ビデオ 2,Until You Come Back To Me (12" Version) 6:38 3,You've Got The Best (Of My Life) (Frankie Foncett Club Mix) 6:27 * 4,Until You Come Back To Me (Lovers Overture) 4:15 produced by Smack Productions mixed by Frankie Knuckles * produced by Troy Patterson * remixed by Frankie Foncett |
ファースト・アルバムからのシングル・カット曲を一通り収録した12インチ・コレクション。アルバムを買うよりも、こっちの方がお得じゃないかと個人的には思います。ただ、それぞれがベストのトラックを選んでいるかというと疑問かもしれません。まあ、その辺りは個人の好みというのもあるので一概には断言できませんけど。CDの容量的に考えると、もうちょっとレアなミックスを加えても良かったかも。 | そこはかとなく哀愁感の漂うガラージ・ハウスの名作。優雅で煌びやかなシンセのアレンジもお洒落です。リミックスを担当したのはポール・オークンフォールドとスティーブ・オズボーン。ネネ・チェリーからU2、スマ・パンまで幅広く手掛けているUKハウス界の名コンビです。彼らは奇をてらわない洗練された音作りが魅力。それに比べると、オリジナル・バージョン#3は泥臭くてチープな印象です。全英34位。 | 70年代風のファンキーなガラージ・サウンドを得意とするジョーイ・ネグロことデイヴ・リーが手掛けたリミックス盤。ワウワウ・ギターとヴィブラフォンを使った洒脱なアレンジは彼ならではのセンスで、とてもクールです。カップリングはアメリカでのシングル・カット曲。こっちの方は、残念ながら個人的にあまり好みじゃありませんでした。ファンキーなアシッド・ジャズ風のトニー・ハンフリーズ・ミックスは悪くないですけど。 |
こちらはソウルフルなR&Bバラード・ナンバー。60年代のバーバラ・メイソンやリン・コリンズなんかを彷彿とさせる渋い作品です。どちらかというと地味な印象ですが、全英チャートでは45位にランキングされました。カップリングの#3はミディアム・スタイルのガラージ・ナンバー。リミックスを手掛けたのはDes'reeの“You Gatta Be”やThe Chimesの“Heaven”などで知られるフランキー・フォンセット。可もなく不可もなくです。 |
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I'm The One For You (1992) |
Respect! (The Remixes) (1993) |
All The Hits In Ya Face! (1995) |
Where's The Love? (1997) |
(P)1992 Chrysalis/Cooltempo (UK) | (P)1994 Club Tool/Edel (Germany) | (P)1995 Sound And Media (UK) | (P)1997 Distinctive Records (UK) |
1,I'm The One For You (Edit)
3:40 2,I'm The One For You (Shelter Me Mix) 7:19 * 2,I'm The One For You (Original Smack Mix) 5:50 4,Megamix 7:48 ** Musical Freedom Repect Don't Let It Show On Your Face I Thank You I'm The One For You produced by Smack Productions * remixed by Roger Sanchez ** sequenced by The Comission |
1,Fast Forward Mix 8:06 * 2,Fast Forward Single Mix 3:41 * 3,Club Vocal Remix 6:42 ** 4,Milton's Slutty Mix 6:35 ** produced by Smack Productions * reconstructed by The Loop! ** remixed by Mental Instrum |
1,Respect 7:42 2,Musica Freedom (Moving On Up) (Extended Freedom Mix) 6:20 3,Warning (High On Hope Mix) 6:17 3,I Thank You (The Philadelphia Mix) 6:43 4,Beautiful Love 5:09 5,Treat Me Right (Trumped Mix) 8:32 6,Ring My Bell vs Monie Love (Touchdown Mix) 5:45 7,It Should've Been Me (Touchdown Mix) 6:55 8,Don't Let It Show On Your Face (Perfecto Mix) 5:47 9.I'm The One For You (Shelter Me Mix) 7:00 10,Until You Come Back To Me 6:33 11,Ring My Bell vs Monie Love (Radio Edit) 3:30 ビデオ 12,I Thank You (Radio Edit) 3:16 |
1,Where's The Love? (K-Klass Radio Edit) 3:56 |
アディーヴァらしいジャジーでクラッシーなガラージ・ナンバー。悪くはないけれど、これといって特筆するべきところもない作品です。ロジャー・サンチェスによるリミックス#2も、彼としてはごく平均的な仕上がり。全英51位というのは健闘だったと思います。とりあえず、このシングルの目玉はカップリングのメガミックス#4かもしれません。とはいえ、そつなく仕上げたノンストップ・ミックスという感じですけどね。 | 93年にリリースされたリミックス盤をベースに、ドイツのDJチームThe Loop!のリミックス#1と#2をを加えたマキシ・シングル。これは賛否両論かもしれません。このドイツ盤のみ収録の#1と#2はバリバリのスピード・ガラージ。特に後半はBPM150くらいまで突っ走るので要注意(笑)。ただ、メンタル・インストラムによる#3と#4は正統派のディープ・ハウスなのでご安心を。なので、通常のUK盤で十分だと思います。 | インディペンデント・レーベルへのライセンス貸しで企画された12インチ・コレクション。本家からリリースされたベスト盤よりも遥かに気が利いてます。なんてったって、ダンス・ミュージックは12インチ・バージョンが基本ですからね。さすがにヒット曲全てを網羅するわけにはいかなかったみたいですが、ちゃんと選曲のツボは押さえています。ただ、最後の2曲でラジオ・エディットをダブらせた意味は分りかねますけど・・・。 | シェールやホイットニー・ヒューストンなどのリミックスを手掛け、当時超売れっ子だったK-Klassのプロデュースによるガラージ・ハウス。オリジナルは平凡な出来ですが、エディ・フィンガーズによるリミックス#3はオススメ。パワフルで切れの良いサウンドがとてもスリリングです。MARK!ことマーク・ピチョッティの手掛けたカップリング曲もまずまず。全英チャートでは54位でしたが、もっと売れても良かったと思います。 |
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Don't Think About It (1997) |
(P)1997 Distinctive Records (UK) |
1,Original D-Influence Mix (Radio
Edit) 2,Nu Birth Vocal * 3,Nu Birth Dub * 4,Murk Club Mix ** 5,Da Funkstarz Full Boogie Vocal Mix *** 6,Hybrid Mix **** produced by D-Influence * remixed by Danny Harrison & Julian Jonah ** remixed by Oscar Gaetan & Ralphi Falcon *** remixed by Danny J.Lewis & Daz Que **** remixed by Mike Trueman |
UKソウルやアシッド・ジャズで人気を集めたD-Influenceのプロデュースによるサルソウル風ディスコ・ガラージ。70年代っぽいレトロなアレンジがクールです。リミックスは可もなく不可もなく。とりあえず、原曲のディスコティックな雰囲気を生かしたグルーヴィーなミックス#5は悪くないです。 |