アビガイル Abigail
世界的なフラメンコ・ダンサー、ホアキン・コルテスの主演作として話題になった映画『ジターノ』(00)。マルタ・ベラウステギ扮する歌手ロラが歌う主題歌“Gitano(ジプシー)”と“Oro
Y Plata(ゴールドとシルバー)”が大変に印象的だったが、その歌声を吹き替えていたのがこのアビガイルである。
アビガイルは本名をアビガイル・マルセットといい、1975年7月4日スペインの古都バリャドリッドに生まれた。代々に渡って俳優や歌手を生業としてきた芸能一家の出身だそうで、両親は旅回りの劇団を主宰していたという。そのため、彼女は5歳の頃から兄ルイス・アルベルトと共にステージに立って歌っていた。
やがて、見よう見まねで自ら作詞・作曲を始めた彼女は、ソロ・シンガーとしてライブ出演をこなすようになる。そんな彼女の本格的なプロ・デビュー作となったのが、先述した映画『ジターノ』の主題歌だったというわけだ。
情熱的で哀愁漂うフラメンコ風バラード“Gitano”に、ボサノバ・スタイルのメランコリックで切ないラブ・ソング“Oro
Y
Plata”。繊細でしっとりとしたアビガイルの歌声は、迫力ある熱唱型の多いラテン・ボーカルの世界においては異色の存在だが、それがまたリスナーに新鮮な印象を与えたといえよう。
この『ジターノ』でスペイン版オスカーと言われるゴヤ賞の最優秀オリジナル楽曲賞にノミネートされたアビガイルは、その主題歌2曲を含むデビュー・アルバム“Una
Parte De Mi(私の一部)”をリリース。これはスペイン国内での売り上げ20万枚を超えるヒットとなった。
その後、02年の“Alma
Enamorada(愛の魂)”、04年の“Mi
Estrella(私の星)”とコンスタントにアルバムを発表。いずれも彼女独特のソフトでエレガントなラテン・ポップスに仕上がっていたが、セールス的にはいまひとつ伸び悩んだ。ヒット・チャートの主流がラテン・ロックやダンス・ポップ、演歌的なボレロというスペイン音楽界にあって、上品で洗練されたバラードを中心とする彼女の作品は少々地味過ぎたのかもしれない。
07年には大手ソニー・ミュージック・エンターテインメントからインディペンデント系のフリー・・ミュージックへと移籍。4枚目のアルバム“Cuatro”をリリースしたものの、その後は全く音沙汰がない。
Una Parte De Mi
(2000) Alma Enamorada
(2002) Mi Estrella
(2004) Cuatro
(2007)
(P)2000 Columbia/Sony Music
(Spain)
(P)2002 Columbia/Sony Music
(Spain)
(P)2004 Sony Music (Spain)
(P)2007 Free Music
(Spain)
1,Oro Y Plata ビデオ
2,Te
Marchas ビデオ
3,Muestrame
Tu Madurez
4,Por Ti
5,Siento Celos
6,Una Parte De Mi
7,Me
Rindo, No Lo Ves?
8,Hilar Tan Fino ビデオ
9,Llorare
10,Gitano ビデオ
11,Nadando
12,Jardines
De Plomo
dirigida y realizada por Juan Luis Roman1,Besame El Alma ビデオ
2,Si Hay
Suenos Hay Caminos ビデオ
3,Pideme Un
Beso ビデオ
4,Lindo
5,Si
Me Queres Tu, Mas Yo
6,Noches Y Dias
7,Alma Enamorada
8,Piel De
Azucar
9,Todo
10,Alcoba De Fuego ビデオ
11,Aquella
Noche
dirigida y realizada por Teo Cardalda1,Desde El Acantilado ビデオ
2,Di Que
Si ビデオ
3,Mi
Vida Es Mia
4,Tiembla Mi Piel ビデオ
5,Hasta Que
Apagues Tu Sed ビデオ
6,Locura
7,Un
Beso En El Aire ビデオ
8,Hablo De
Ti
9,Amor De Locos
10,Para Sentime Amada
11,Di Que Si (Version
Salsa)ビデオ
dirigida
y realizada por Paco Ortega1,Huele A Traicion On El
Aire
2,Tengo Abierto El Corazon ビデオ
3,Perdona Mi
Rigor
4,Lluvia
5,Por Una Noche Mas ビデオ
6,Amor Que No
Se Almenta
7,Bendicion Y Castigo
8,Soy Feliz
9,Una De Esas
Sonrisas
10,El Sol Fugaz De La Manana
11,Un Par De
Besos
dirigida y realizada por Angel Fernandez, Abigail Marcet y
Javier Barrado
映画『ジターノ』の主題歌#1と#10を含むファースト・アルバム。個人的には、ボサノバ調のメロウ&スウィートなラブ・ソング#1がダントツに素晴らしいと思いますね。映画を見て惚れまくってしまい、血眼になってCDを探したもんです。なにしろ、当時はスペイン盤そのものが入手困難でしたし、他のアーティストと違って彼女は南米マーケットへの進出もしていませんでしたから、スペイン国外では殆んど注目されていなかったんですよね。全体的には日本人好みのソフトで爽やかなアコースティック系ラテン・ポップス。かなり女性受けする内容です。
前作に引き続き、ソフトで甘いメロディと爽やかなアコースティック・サウンドが印象的なセカンド・アルバム。決定打と言えるような楽曲が見当たらないのは少々物足りなく感じられるものの、全体的にハズレのない上質な出来栄えだと思います。中でも、70年代ヨーロピアン・ポップスを彷彿とさせるキャッチーで爽やかなメロディと軽快なフラメンコ・ギターの音色が印象的な#2やノスタルジックなラテン・バラード#3、エレガントでフェミニンなボサ系ポップ#8辺りは、日本人の琴線にもバッチリと触れまくるはず。とても完成度の高い1枚です。
パコ・デ・ルシアやニーニャ・パストリといったフラメンコ・アーティストへの楽曲提供でも知られる有名なシンガー・ソングライター、パコ・オルテガと組んだサード・アルバム
。これまでのアコースティックなポップ路線を踏襲しつつ、よりフラメンコ色の濃厚なサウンドに仕上がっています。もちろん、甘く切ないメロディ・ラインも健在。官能的なボレロのリズムに乗って情熱的に歌い上げる#2や哀愁溢れるフラメンコ風ポップ・バラード#4、哀しげなバイオリンの音色がノスタルジックなムードを醸し出す#5など、それはそれは良質な楽曲が揃っています。 インディペンデントへ移籍して発表された4枚目のアルバムですが、基本的な路線はソニー時代とほぼ変わっておりません。ただ、楽曲的に抜きん出た作品が見当たらず、なんとなくマンネリ気味に感じられてしまうのもまた事実。サウンド的にもデビュー当初の爽やかなアコースティック系ポップスへと戻った感じ。前作で良い感じに進化しつつあったことを考えると、この原点回帰はちょっと残念なような気もします。キャッチーで爽快感のあるポップ・ナンバー#7はかなり好感触ですが、それ以外は地味な印象を受けることは否めないかもしれません。
Oro Y Plata
(2000)
(P)2000 Columbia/Sony Music
(Spain)
1,Single Remix 3:40 ビデオ
2,Extended
Remix 5:15
3,Dub Mix 5:15
4,Album Version 3:08
remixed by
David Ferrero & Pedro del Mor
al
映画『ジターノ』の主題歌をクラブ仕様にリミックスしたマキシ・シングル。プロモ限定リリースの超激レア盤です。原曲のイメージを大切にしつつ、哀愁感溢れるミディアム・テンポのラテン・ハウスに仕上げています。ただ、ハウスのリズムにボーカルのメロディがいまひとつ馴染んでおらず、微妙に違和感があるのは否定できないかもしれません。なので、ボーカルを適度にサンプリングしたインスト仕様のダブ・ミックス#3がおススメ。まあ、あくまでもノベルティと考えるべき1枚でしょうね。
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