80年代カルト映画セレクション
アップル
The Apple
(1980)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売
(P)2004 MGM Home Entertainment
(USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ・サラウンド/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/86分/製作:アメリカ
特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:メナハム・ゴーラン
製作:メナハム・ゴーラン
ヨーラム・グローバス
脚本:メナハム・ゴーラン
撮影:デヴィッド・ガーフィンケル
振付:ナイジェル・ライスゴー
音楽:コビー・レクト
歌詞:アイリス・レクト
ジョージ・クリントン
出演:キャサリン・メリー・スチュワート
ジョージ・ギルモア
グレイス・ケネディ
アラン・ラヴ
ジョス・アックランド
ヴラデク・シェイバル
レイ・シェル
ミリアム・マーゴリース
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若者を熱狂させるダンディ(A・ラヴ)とパンディ(G・ケネディ) |
無名の新人アルフィー(G・ギルモア)とビビ(C・メリー・スチュワート) |
80年代のハリウッド映画を語る上で欠かすことの出来ない映画会社キャノン・グループ。その親分であるメナハム・ゴーラン自らが演出と脚本を手掛けたロック・ミュージカル『アップル』。当時のプレミア上映では怒った観客が会場で貰ったサントラLPを次々とスクリーンに投げつけ、そのあまりの趣味の悪さから今では“キャンプ(悪趣味)・クラシック”として一部の映画マニアから熱烈(?)に愛されているカルト映画だ。
舞台は派手な商業主義ロックによって社会が支配された近未来。素朴なラブ・ソングを引っさげて登場した男女デュオ、アルフィーとビビの二人は、悪の権化である巨大音楽会社社長ブーガロウにスカウトされる。しかし、それは自分たちが本当にやりたい音楽を諦め、悪魔に魂を売ることを意味していた。
富と名声の甘い誘惑に負け、商業主義という禁断の果実(=アップル)をかじってしまうビビ。一方、自分の信念を貫いて契約書へのサインを断ってしまったアルフィー。やがて権力を拡大したブーガロウは、その派手で空虚な音楽によって世界中の人々を洗脳していく。果たしてアルフィーは愛するビビをブーガルーの魔手から救い出し、世界に平和をもたらすことが出来るのか・・・?
とまあ、見ているこっちが思わず赤面してしまうような恥ずかしいストーリー。“アダムとイブ”に“ファウスト伝説”を絡めたのは分るのだけど、この自己満足以外のなにものでもないデタラメさは、ほとんど高校生の自主映画レベルの発想と言っていいだろう。
振り返ってみれば、70年代半ばから80年代にかけてのハリウッド・ミュージカルは実に混沌としていた。『ファントム・オブ・パラダイス』(74)や『トミー』(75)、『ロッキー・ホラー・ショー』(75)のような新感覚のロック・ミュージックが成功を収めたかと思えば、ピーター・ボグダノヴィッチの“At
Long Last
Love”(75)やマーティン・スコセッシの『ニューヨーク・ニューヨーク』(77)みたいに古き良きミュージカルを再現しようとした大作映画は大コケ。
その一方で『サタデー・ナイト・フィーバー』(77)や『グリース』(78)の成功に誘発され、ビートルズのヒット曲を盛り込んだ『サージャント・ペッパー』(78)やヴィレッジ・ピープルのヒット曲で構成された『ミュージック・ミュージック』(80)、オリヴィア・ニュートン・ジョンを主演に迎えた『ザナドゥ』(80)、『ロッキー・ホラー・ショー』のスタッフが再結集した『ショック・トリートメント』(81)などなど、ロックやポップスを垂れ流すだけの安易なミュージカルが横行。これがまた揃いも揃って酷い出来栄えだった。
中でも、この『アップル』が公開された1980年というのは、『ザナドゥ』に『ミュージック・ミュージック』といずれ劣らぬ悪趣味ミュージカルが揃った奇跡的な1年。それにしても、いったいなぜ70年代以降のミュージカル映画はかくも無残な出来栄えの作品が多いのか?
一つには、経験の浅い映画監督がミュージカルへの憧れだけで作ってしまった、つまり質の良いミュージカル映画を生み出すような製作体制がもはやハリウッドに存在しなくなっていたことが挙げられる。さらに、往年のミュージカルがミュージカルたり得たエスケーピズムが意味をなさなくなっていたこと、時代のトレンドを盛り込もうとした製作者たち自身がトレンドをよく理解していなかったことなどなど、様々な理由があったと言えよう。
この『アップル』という作品にしても、それまで戦争映画やギャング映画ばかりを撮っていたゴーラン監督の、ミュージカルに対する憧れとファンタジーに対する理解力不足が大きく裏目に出てしまっている。
さらに、『ファントム・オブ・パラダイス』や『ロッキー・ホラー・ショー』から多大なる影響を受けたであろうことは一目瞭然で、そこへディスコという時代のトレンドを盛り込もうとしたあざとさも見え隠れする。しかし、80年といえばディスコ・ブームが死滅した年。トレンドを読むタイミングの悪さが、そのまま作品のクオリティにも反映されてしまったと言えよう。
ただ、その恥ずかしくなるようなバカバカしさこそ、この作品がカルト映画として親しまれている所以でもある。ディスコにロック、レゲエ、フォークまで幅広いジャンルをカバーしたキャッチーな音楽の出来栄えもなかなか悪くない。日本にもかつて『だいじょうぶマイ・フレンド』というとんでもないミュージカル・ファンタジー映画があったが、少なくともあれよりは遥かに安心して楽しめる作品だ。って、なんの褒め言葉にもなってないか(笑)
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音楽業界を牛耳る大物ブーガロウ氏(V・シェイバル) |
ブーガロウ氏の経営するBIMの本社 |
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アルフィーとビビの前に契約書が提示される |
ブーガロウ氏の片腕シェイク(R・シェル) |
時は1994年。音楽業界はブーガロウ氏(ヴラデク・シェイバル)率いる巨大音楽会社BIM(ブーガロウ・インターナショナル・ミュージック)に牛耳られていた。業界最大のイベントであるワールドビジョン・ソング・フェスティバルも、実質的には完全な出来レース。BIMがプッシュするケバケバしい男女デュオ、ダンディ(アラン・ラヴ)とパンディ(グレイス・ケネディ)が優勝するように仕組まれていたのである。
ところが、カナダからやって来た無名の男女アルフィー(ジョージ・ギルモア)とビビ(キャサリン・メリー・スチュワート)がステージに登場すると、会場は思いもよらぬ雰囲気に包まれた。彼らの歌う素朴で優しいラブ・ソングが若者たちのハートを捉えたのである。
驚いたブーガロウ氏はスピーカーに雑音を混ぜて演奏を妨害。予定通りにダンディとパンディを優勝させ、その一方で部下のシェイク(レイ・シェル)に命じてアルフィーとビビの二人をアフター・パーティへ招待させた。華やかな世界に触れて有頂天のビビだったが、アルフィーは警戒心を強める。
その翌日、アルフィーとビビはBIM本社へと呼び出された。目の前に提示される契約書。アルバムのレコーディングからコンサート・ツアーまで既に用意されているという。喜び勇んでサインしようとするビビ。しかし、アルフィーは大いに躊躇する。
彼の目には地獄の世界が広がって見えた。金のために魂を売った醜い亡者たち。そして、その世界に君臨するブーガロウ氏は悪魔そのものだ。必死の抵抗を試みるアルフィーだが、悪魔の誘惑に負けたビビは差し出されたリンゴをかじってしまう。かくして、アルフィーとビビは別々の道を歩むこととなった。
ブーガロウ氏の強力な後押しを受けてデビューしたビビはたちまち脚光を浴び、BIMの看板を背負って立つ世界的なトップ・スターとなる。それに伴なってBIMの影響力も国家規模で拡大し、BIMマークのシールを体に貼ること、BIMの提供するラジオ放送を聴くことが国民の義務として課せられた。
一方、親切な大家のおばさん(ミリアム・マーゴリーズ)に支えられながら、自らの信念を貫こうとするアルフィー。しかし、彼の音楽は時代遅れだとして、どこのレコード会社からも門前払いを食らってしまう。意気消沈する彼は、偶然にもファンに囲まれたビビと再会。彼女に近づこうとしたものの、屈強なボディガードに叩きのめされてしまった。
彼女を本当に愛しているのなら、力ずくでも取り返して来なさいという大家のおばさんの言葉に励まされ、BIMのパーティ会場へと乗り込んだアルフィー。しかし、悪魔としての正体を現したブーガロウ氏やパンディに翻弄され、薬物を混ぜられたカクテルを飲んで意識を失ってしまう。
公園のベンチで目覚めた彼を、浮浪者のような身なりの老人(ジョス・アックランド)が救ってくれる。老人はヒッピーのリーダーだった。商業主義に毒された文化を嫌い、テレビもラジオもない質素な生活を送るヒッピーたち。そこへ、アルフィーへの愛を再認識したビビも加わった。
かくして、ヒッピーのコミュニティーの中で、ラブ&ピース、愛と平和に満ち溢れた生活を送るアルフィーとビビ。だが、そんな彼らのもとへブーガロウ氏率いるBIMの魔手が再び忍び寄る・・・。
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富と成功の甘い誘惑に負けて禁断のリンゴをかじるビビ |
ブーガロウ氏の後押しでトップ・スターとなったビビ |
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ビビに近づこうとしたアルフィーは行く手を阻止される |
アルフィーを励ます大家のおばさん(M・マーゴリーズ) |
『スターウォーズ』の宇宙服みたいな90年代ファッションも笑えるし、ブーガロウ氏の片腕シェイクをはじめBIMのスタッフやパーティ参加者がオネエキャラ&ドラッグクィーンばかりというのも『ロッキー・ホラー・ショー』の影響だろう。まったく、発想が単刀直入というか安易というか・・・(笑)
ゲイとドラッグクィーンが悪魔の手下というのは、今だったらLGBT団体から猛反発を食らいそうな気もするが、意外なことにアメリカではゲイの熱烈なファンも多いと聞く。確かに、この手の悪趣味はゲイ・ピープルの琴線に触れる部分も多いのだろう。別に目くじらを立てる必要もあるまい。
脚本を書いたのはメナハム・ゴーラン監督本人。ミュージカルの作詞と作曲を手掛けたのはコビー・レクトとアイリス・レクトというイスラエル人の夫婦だが、彼らが何者なのかはいまひとつ分らない。撮影のデヴィッド・ガーフィンケル、編集のアラン・ヤクボウィッツのどちらも、ゴーラン監督とはイスラエル時代からの付き合いなので、恐らくレクト夫妻も同様の繋がりがあったのだろう。
興味深いのは、美術デザインとセット・デザインに『キャバレー』(72)でオスカーを獲得したドイツの大物美術デザイナー、ハンス・ユルゲン・キーエバッハが参加していること。また、アンジェイ・ズラウスキー監督の怪作『ポゼッション』(81)を手掛けたイングリッド・ゾーレが衣装デザインを担当。どちらも、良い意味でキッチュかつ悪趣味な世界を披露してくれている。
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アルフィーはビビを探してBIMのパーティへ潜入する |
悪魔の正体を現したブーガロウ氏 |
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アルフィーを助けたのはヒッピーの老人(J・アックランド)だった |
ビビはアルフィーのもとへ帰ることを決意する |
ヒロインのビビ役を演じているのは、これが映画デビューだったキャサリン・メリー・スチュワート。『ナイト・オブ・ザ・コメット』(84)といい、『バーニーズ/あぶない!?ウィークエンド』(89)といい、80年代のカルト映画には欠かすことのできない女優さんと言えよう。ただ、歌の才能には乏しかったらしく、本作ではメアリー・ハイランというプロの歌手が彼女の歌を吹き替えている。
一方、アルフィー役のジョージ・ギルモアに関しては詳細が一切不明。彼も同じくこれが映画デビューだったらしいのだが、それっきり消息が分らなくなってしまっている。一説によれば、本作に出演したことを恥じて名前を変えたのだとも言われているが、果たして真相やいかに・・・?
また、ダンディとパンディを演じているアラン・ラヴとグレイス・ケネディは、どちらもイギリス出身の有名なミュージカル俳優。アランは『トミー』のロンドン公演で主人公トミー役を演じた人で、もともとオーパル・バタフライというロック・バンドのリード・ボーカリストだった。また、グレイスは『コットン・クラブ』や『モダン・ミリー』といったミュージカルの舞台で活躍している人で、ロンドンのみならずブロードウェイでも名前を知られた女優さんだ。
そのほか、『007/ロシアより愛をこめて』(63)や『デンジャーポイント』(70)などの悪役として有名なヴラデク・シェイバルが、悪魔の化身ブーガロウ氏役で達者な歌声を披露。『リーサル・ウェポン2』(89)や『レッド・オクトーバーを追え』(90)の悪役でお馴染みのジョス・アックランドがヒッピーの老人役、『エイジ・オブ・イノセンス』(92)でオスカーを獲得した名女優ミリアム・マーゴリーズが大家のおばさん役で顔を出している。
また、エキゾチック音楽の女王として鳴らしたイマ・スマクがケバいオバちゃん歌手としてワン・シーンだけ出演。さらに、『ステイン・アライブ』(83)の悪女ローラ役で注目されたフィノラ・ヒューズがダンサーの一人として登場し、映画初出演を果たしている。
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ダンサー役で登場するフィノラ・ヒューズ |
ミラクルマスター/七つの大冒険
The Beastmaster
(1982)
日本では1983年劇場公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売
(P)2005 Anchor Bay
(USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/サラウンドEX・6.1ch
DTS
-ES/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/製作:アメリカ・西ドイツ
特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
監督と製作者の音声解説
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
タレント・バイオ集
オリジナル脚本(DVD-ROM収録)
監督:ドン・コスカレリ
製作:ポール・ペッパーマン
シルヴィオ・タベット
脚本:ドン・コスカレリ
ポール・ペッパーマン
撮影:ジョン・オルコット
視覚効果:ウィリアム・ゲスト
音楽:リー・ホールドリッジ
出演:マーク・シンガー
タニア・ロバーツ
リップ・トーン
ジョン・エイモス
ジョシュア・ミルラッド
ロッド・ルーミス
ベン・ハマー
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悪の司祭マークス(R・トーン) |
3人の魔女は国王の息子が将来マークスを滅ぼすと予言する |
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まだ赤ん坊の王子を殺害しようとする魔女だったが・・・ |
全滅した村を見て呆然と立ちつくすダール(M・シンガー) |
シュワルツェネッガー主演の『コナン・ザ・グレート』(82)が大ヒットしたおかげで、80年代はヒロイック・ファンタジー映画がちょっとしたブームとなった。『超人ヘラクレス』とか『勇者ストーカーの冒険』とか『レッドソニア』とか・・・とまあ、ブームと呼ぶには少々おこがましいような気もするが(笑)、とにかく当時はマッチョなヒーロー及びヒロインの活躍するB級ファンタジー・アクションが次々と作られたもんだった。そして、先述した『コナン・ザ・グレート』と並んでその先駆けともなったのが、この『ミラクルマスター/七つの大冒険』という作品である。
主人公は動物と交信することのできる勇敢な若者ダール。実は、彼は国王ゼッドの息子だった。しかし、赤ん坊の頃に悪の司祭マークスの手先である魔女によって誘拐され、今まさに殺されようとしているところを村人に救われた。それ以来、彼は自分が王子であることを知らないまま育ったのである。
やがて、国はマークスの魔術によって支配され、抵抗する村人は皆殺しになってしまう。ただ一人生き残ったダールは、味方である鷹とトラ、そして二匹のフェレットを従えて、憎きマークスに復讐を果たすため立ち上がる・・・というわけだ。
なんといっても、アメコミを彷彿とさせる幻想的でダークなビジュアル世界が素晴らしい。『リア王』をはじめとするシェイクスピア劇からインスパイアされた残酷で暗いストーリーもいいし、キューブリック作品で知られるジョン・オルコットの自然光を生かした撮影も独特の不思議なリアリズムがある。
もちろん、魔法や妖怪やソード・アクションが満載の賑やかな脚本も充実しているし、随所でちゃんとコミカルな要素を取り入れて息抜きさせることも忘れていない。顔は醜い老婆だけど体はセクシーなナイス・バディ、という3人の魔女もユニーク。製作費800万ドル、撮影期間3ヶ月というロー・バジェットを全く感じさせない立派な娯楽映画であり、倍以上の予算をかけた『コナン・ザ・グレート』と比べても全く見劣りのしない出来栄えと言えよう。
監督は異色のホラー・ファンタジー『ファンタズム』(79)で知られる鬼才ドン・コスカレリ。彼は近未来を舞台に動物と交信できるヒーローが活躍するSF小説“The
Beastmaster”のファンで、なおかつ少年時代からスティーヴ・リーヴス主演のイタリア産スペクタクル史劇が大好きだった。そこで、“The
Beastmaster”の設定だけを拝借したヒロイック・ファンタジーの製作を思いついたのだそうだ。
しかし、企画書を持ってMGMやパラマウントなど各スタジオを回ったものの、古代ヒーロー物なんぞ古臭いということで全く相手にされなかったという。ようやく『ファンタズム』のヨーロッパ配給を担当した人物が出資を申し出てくれたが、提示された予算では脚本の内容を映像化するに十分とは言えず、綿密な下準備を計画するために1年以上の歳月が費やされることとなった。なので、本作の劇場公開が『コナン・ザ・グレート』の直後となったのは全くの偶然だったようだ。
なお、劇場公開当時はそこそこのヒットで終ってしまった本作。しかし、その後ケーブル局HBOで繰り返し放送されて大変な高視聴率を記録し、いつしか熱狂的なファンを持つカルト映画として親しまれるようになった。その人気にあやかって91年と93年には続編映画も製作され、99年にはテレビ・シリーズ化までされている。
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大空を飛ぶ鷹に導かれて復讐の旅へ出るダール |
すばしっこくて賢いフェレットのカップル |
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獰猛なトラも心強い味方となる |
美しい女性キリ(T・ロバーツ)は神殿に仕える奴隷だった |
舞台は太古の世界。国王ゼッド(ロッド・ルーミス)は邪悪な司祭マークス(リップ・トーン)を追放する。しかし、マークスは国王の息子が将来自分を滅ぼす運命にあると知り、3人の魔女を使って王妃の胎内にある赤ん坊を誘拐。一人目の魔女が赤ん坊を殺そうとするが、そこへ通りかかった農夫(ベン・ハマー)が間一髪で救出し、赤ん坊を村へ連れ帰って育てることとなる。
それから20年以上の歳月が流れ、ダール(マーク・シンガー)と名づけられた赤ん坊は立派な若者に成長した。武術の達人である義父から様々な技を受け継いだ彼は、さらに周囲の人々に知られていない隠された才能がある。実は、赤ん坊の頃に誘拐された際、魔法で母親の胎内から牛の胎内へと移殖されたため、あらゆる動物とテレパシーで会話が出来るようになったのだ。もちろん、彼自身はその理由を知らないのだが。
ある日、黒づくめの不気味な騎士団ジュンズが村を襲撃する。勇敢に立ち向かった義父は切り殺され、村人も次々と血祭りにあげられた。農作業に出ていたダールも急いで駆けつけ応戦するが、多勢に無勢で打ち負かされてしまう。とどめを刺されようとした彼を救ったのはペットの愛犬だった。
意識を取り戻したダールは、焼け野原になった村と串刺しにされた村人たちを目の当たりにして復讐を誓う。義父から受け継いだ剣を手にした彼は、大空を飛ぶ鷹の導きで旅に出る。その間、人間に捕えられたトラを救い、底なし沼にはまったところを2匹のフェレットに助けられた。動物たちはダールの心強い味方となる。
さらに、ダールは旅の途中でキリ(タニア・ロバーツ)という美しい女性と知り合う。彼女は首都アルクの神殿に仕える奴隷だった。その美貌に魅了されたダールは、彼女を奴隷の身から解放することを誓う。
やがて、ダールと動物たちは不気味で薄暗い場所へ到着する。そこは鳥人間たちの住処だった。無言で立ちつくす鳥人間たちは、その翼で人間を捕えてドロドロに溶かしてしまう恐ろしい妖怪だ。しかし、彼らの王者こそ、ダールをここへ導いた鷹だった。そこで、鳥人間たちはダールに仲間の証であるメダルを授ける。
かくして、ダールと動物たちは王国の首都アルクへとたどり着く。彼は騎士団を指揮する張本人が司祭マークスであることを知る。マークスは国王ゼッドを幽閉して自ら権力を手中に収め、神のお告げだとして幼い子供たちを次々と生贄にしていた。その生贄の儀式を目撃したダールは、鷹を使って幼い少女を救う。
魔女のお告げによってダールの正体を知ったマークスは、すぐさま追っ手を差し向ける。絶体絶命の危機に追いつめられたダールを救ったのは、セス(ジョン・エイモス)という戦士とタール(ジョシュア・ミルラッド)という少年だった。
実はタールは国王ゼッドの息子、つまり王位継承者であり、セスはその従者だった。奴隷として捕えられているキリも王族の女性だという。そこで、ダールは彼らと共にキリを救出。さらに、神殿内部の様子を知る彼女の案内で幽閉された国王ゼッドの救出にも成功し、それを阻止しようとした二人目の魔女も殺害した。
ところが、ダールのことを自分の実の息子だと知らない国王ゼッドは、命の恩人であるにもかかわらず彼のことをよそ者として追放する。そして、すぐにでも神殿を急襲してマークスを亡き者にしようと無謀な計画を立てるのだが、全てはマークスと3人目の魔女によって見透かされていた。
翌朝、目を覚ましたダールは国王とタール、セス、そしてキリの4人がマークスによって捕えられてしまったことを知る。神殿へ向かった彼は兵士たちを次々となぎ倒し、生贄にされようとしていたキリを救出。さらに3人目の魔女も退治するが、ようやく実の親子であると知った国王ゼッドを目の前で殺害されてしまう。復讐の鬼と化したダールは、遂に宿敵マークスを倒すことに成功する。
しかし、安心するのはまだ早かった。最強の敵が残っている。そう、村人たちを皆殺しにした黒づくめの騎士団ジュンズだ。彼らは魔術によって不死身の肉体を与えられた屈強な戦士たち。果たして、ダールたちはいかなる方法でジュンズに立ち向かっていくのか・・・!?
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鳥人間たちの棲み家へとやって来たダール |
ついに王国の首都アルクへとたどり着く |
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マークスは幼い子供たちを次々と生贄にしていた |
勇者セス(J・エイモス)と少年タール(J・ミルラッド)と知り合う |
当初メキシコの古代遺跡を使ってロケ撮影するはずだったが、予算が折り合わずカリフォルニアの砂漠に巨大なセットを組んで撮影することとなった。美術デザインを担当したのは、新藤兼人監督の日本映画『地平線』(84)にも携わった経験のあるコンラッド・E・アンゴーン。インディアンにアステカ、インカ、ローマ帝国など様々な古代文明の要素を盛り込んだ無国籍的なデザインは、なんともいえない独特のミステリアスな雰囲気を醸し出している。
コスカレリ監督と共に脚本を書き、製作を手掛けたのはポール・ペッパーマン。二人は少年時代からの友人で、自主制作から一緒に映画を作ってきた仲間だった。本作のアイディアの源となったアンドレ・ノートンの小説“The
Beastmaster”も、実は二人の共通の愛読書だったらしい。
撮影を手掛けたジョン・オルコットは、スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』(75)でオスカーを獲得した大御所カメラマン。他にも『2001年宇宙の旅』(68)や『時計じかけのオレンジ』(71)、『シャイニング』(80)といったキューブリック作品で知られる人物だ。ちょうど当時、彼がハリウッドに活動拠点を移すと聞いたコスカレリ監督とペッパーマンは、文字通りダメもとで本作の仕事を依頼したという。ところが、意外にもオルコットは送られてきた脚本をいたく気に入り、逆に喜んで仕事を引き受けてくれたのだそうだ。
さらに、音楽スコアにはテレビ『こちらブルームーン探偵社』のテーマ曲で知られ、『ミスター・マム』(84)や『スプラッシュ』(84)など80年代ハリウッド・コメディに欠かせないコンポーザーだったリー・ホールドリッジが参加。ここでは壮大で美しいシンフォニックなスコアを聴かせ、なかなか印象深い仕事をしている。
そのほか、『シンドバッド黄金の航海』(74)や『シンドバッド虎の目大冒険』(77)などのロイ・ワッツが編集を、『怪人スワンプシング』(82)や『バタリアン』(85)のウィリアム・マンズが特殊メイク・デザインを、『スタートレック』(79)のウィリアム・ゲストと『復活の日』(80)のマイケル・マイナーが視覚効果を担当している。
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幽閉された国王を救うため神殿へ忍び込むダールたち |
第二の魔女を退治することにも成功 |
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国王たちがマークスに捕えられてしまった |
マークスを倒したダールに最強の敵が迫る・・・ |
主人公ダール役は、日本でも大ヒットした青春映画『ジョーイ』(77)やテレビ・シリーズ『V』(83)でお馴染みの2枚目スター、マーク・シンガー。彼はもともとシェイクスピア劇で高く評価された舞台俳優だ。正統派の演劇的バックグランドと美しい肉体美、ハンサムな顔立ちを兼ね備えており、コスカレリ監督曰く“これ以上ないくらいの適役”ということで、企画段階からダール役として白羽の矢が立っていたという。いわゆるボディビル系の大味なマッチョ俳優にはない、少年のような繊細さと美しさを持ち合わせたヒーローぶりが魅力的だ。
一方、奴隷美女キリ役でセミ・ヌードまで披露するのは、テレビ『チャーリーズ・エンジェル』の後期メンバーとしても知られるセクシー女優タニア・ロバーツ。本作のインパクトが強かったせいか、『シーナ』(84)ではヒロインのジャングルの女王シーナ役を大熱演。80年代版ウルスラ・アンドレスかラクエル・ウェルチかといった勢いだったが、『007/美しき獲物たち』(85)のボンドガール役を引き受けてしまったがために、その後はすっかり伸び悩んでしまった。なお、コスカレリ監督とペッパーマンの二人は、当初無名時代のデミ・ムーアをキリ役に推していたという。
さらに、黒魔術を使う悪徳司祭マークス役には、『クロスクリーク』(83)でアカデミー助演男優賞にノミネートされた渋い名優リップ・トーン。どちらかというと硬派なアクション映画や社会派ドラマの悪役という印象が強い彼にとって、このようなファンタジー映画への出演というのは非常に珍しいと言えるだろう。
そのほか、『ルーツ』(77)や『ダイハード2』(90)、最近ではドラマ『ホワイトハウス』の参謀本部議長役などでお馴染みの黒人名優ジョン・エイモス、近年は映画監督として活躍する子役ジョシュア・ミルラッド、ドラマ『ロー&オーダー』の判事役でも知られるベン・ハマーなどが脇を固めている。
なお、『フラミンゴ・キッド』(84)でマット・ディロンの相手役を演じ、『コーラスライン』(85)にも出演していた女優ジャネット・ジョーンズが、第3の魔女役として登場。ただし、特殊メイクで顔を隠しているため、セクシーな肉体しか拝むことが出来ないので悪しからず(笑)
ボディ・ロック
Body Rock
(1984)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売
(P)2007 Anchor Bay
(USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/94分/製作:アメリカ
映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:マーセロ・エプスタイン
製作:ジェフリー・シェクトマン
脚本:デズモンド・ナカノ
撮影:ロビー・ミューラー
音楽監修:フィル・ラモーン
音楽:シルヴェスター・リヴェイ
出演:ロレンツォ・ラマス
ヴィッキー・フレデリク
キャメロン・ダイ
レイ・シャーキー
ミシェル・ニカストロ
ジョセフ・ウィップ
グレイス・ザブリスキー
ラロン・A・スミス
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ストリート集団ボディ・ロック・クルーのリーダー、チリー(L・ラマス) |
仲間と夜な夜なクラブに集まってはブレイクダンスを楽しんでいる |
80年代のポップ・カルチャーといえばMTVにブレイクダンス、ストリートアートなどを思い浮かべる人も多いだろう。当時は、そうしたトレンドをわれ先にと取り入れた低予算のティーン・ムービーがゴロゴロと存在した。成功例としては『フラッシュダンス』(83)や『フットルース』(84)といったところだろうか。そのものズバリの『ブレイクダンス』(84)、グランドマスター・フラッシュも顔を出した『ワイルド・スタイル』(83)、ランDMCやファット・ボーイズが出演した『クラッシュ・グルーブ』(85)なんてのも、当時のストリート・カルチャーをリアルに取り込んだという点で見るべきものの多い作品だった。
しかし、その一方で作り手がトレンドを全く理解しないまま金に目がくらんで作ってしまったがために、とんでもない勘違い映画に仕上がってしまったという例も少なくなかった。名優シドニー・ポワチエが監督した『ファスト・フォワード』(85)、“第2のフラッシュダンス”を狙った『ヘブンリー・ボディーズ』(84)、シンディ・ローパーのヒット曲にあやかった『ハイスクールはダンステリア』(85)などなど。今見るとこっ恥ずかしいことこの上ないような作品のオンパレードなのだが、中でもそのイタ過ぎる内容ゆえにカルト映画として愛されるようになってしまったのが、この『ボディ・ロック』という作品だ。
この映画の何がイタいのかって、ただでさえカスみたいだった『ステイン・アライブ』(85)のプロットをパクッた上に、『フラッシュダンス』や『フットルース』からもチョコチョコと美味しそうな要素を拝借、さらにブレイクダンスやらヒップ・ホップやらストリートアートやらのトレンドをやみくもに盛り込み、最終的に80年代版『サタデー・ナイト・フィーバー』を目指してしまったという点に尽きるだろう。
主人公はブロンクスの貧しいストリート・キッド、チリー。年老いて寝たきりの母親と暮らす彼は、仲間と近所のクラブでラップやブレイクダンスに熱中して日頃の憂さを晴らしている。仲間と共にショービジネスの世界で成功したい。そう考えたチリーは人気クラブの経営者にアプローチするが、スカウトされたのは彼一人だけだった。友人の理解と後押しもあって、人気クラブの看板スターへと上りつめるチリー。しかし、仲間や恋人との距離は遠のくばかりだった。
ブロンクスでの日々を懐かしく思いながらも、チリーは退廃的で空虚なセレブの生活に溺れていく。ところが、連れて行かれたゲイ・バーで殴った相手がクラブのスポンサーだったことから、パフォーマーの仕事をクビになってしまう。失意のどん底で慰めてくれる友人や恋人もいない。果たして、彼は失った仲間との友情を取り戻し、恋人との関係を修復し、再びスターの座に返り咲くことが出来るのか・・・!?
という、正直言ってどーでもいいお話が、ラップやブレイクダンス、ダンサンブルなBGMと共に描かれていくというわけだ。とりあえず、物語のスケールのちっちゃいのなんのって。スターダムにのし上がるとかなんとか言っても、せいぜい収容人数2〜300人程度のニューヨークの片隅にあるクラブでのお話だ。
しかも、人気者になったチリーが地元のブロンクスへ戻ってみんなに自慢する“成功の証”ってのが、ヨーロッパの最新トレンドだとかいうテカテカの黒いレザー・コート一着のみ。安い、とにかく安すぎる!
しかし、なによりも致命的だったのは、主人公チリー役を演じる当時26歳のロレンツォ・ラマスがこれっぽっちもストリート・キッズに見えないということだろう。往年のラテン系ハンサム俳優フェルナンド・ラマスを父親に持ち、当時人気のあったプライムタイム・ソープ“Falcon
Crest”の金持ちプレイボーイ役でブレイクしたロレンツォ。恐らく『サタデー・ナイト・フィーバー』の頃のジョン・トラボルタに顔が似ているということもあってキャスティングされたのだろうが、身に着けたバンダナやストリート・ファッションの似合わないことといったら!ただの若作りしたオヤジホストにしか見えないのだ。
そのうえ、ラップもブレイクダンスも下手っクソ、挿入歌を歌わせたって音程を保つのがやっとというボンクラぶり。よくもまあ、これで当時レコードを出していたもんだと思うが、それにしてもここまでダサくてカッコ悪い青春ヒーローというのもいかがなもんだろうか。
ただ、ゲストで登場するストリートダンサーたちのブレイクダンスはなかなかのもの。アッシュフォード&シンプソンやローラ・ブラニガン、ロバータ・フラックなどの豪華アーティストを揃えたサントラも悪くない。ヒップ・ホップというよりはエアロビダンス的な内容に偏ってはいるものの、どの楽曲もポップかつキャッチーでとても楽しめる。これで監督とカメラマンにもう少しセンスがあったら、ダンス・シーンくらいは見応えのあるものになっただろうに。
とりあえず、ダサくて恥ずかしくてちょっぴり懐かしい80年代がめいっぱい詰まった一本。思いっきり顔を赤らめながら楽しみたいもんである。
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人気クラブの経営者テレンス(R・シャーキー)に売り込むチリー |
天才ブレイクダンス少年マジック(L・A・スミス)から猛特訓を受ける |
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意気込んでオーディションに臨んだチリーと仲間たちだが・・・ |
思い悩むチリーを恋人ダーリーン(M・ニカストロ)が慰める |
舞台はニューヨークの下町ブロンクス。ヒップ・ホップやブレイクダンス、スプレー落書きに興じるストリート集団ボディ・ロック・クルーのリーダー、チリー(ロレンツォ・ラマス)は、この界隈ではちょっと名の知れた人気者だ。
しかし、いつまでたっても定職に就く気もなく、病気で寝たきりの母親(グレイス・ザブリスキー)をかかえて貧しい生活を送っている。それでも、いつかきっとビッグになってやるという夢を抱いて、夜な夜な近所のクラブで仲間たちとラップやブレイクダンスに青春のエネルギーを燃やしていた。
そんなある日、彼はアップタウンの人気クラブを経営する実業家テレンス(レイ・シャーキー)にボディ・ロック・クルーを売り込む。ちょうどショウ・タイムのパフォーマーに空きができたということもあり、テレンスが彼らのパフォーマンスを見てくれることになった。
さっそく、ストリートの天才ブレイクダンサーである少年マジック(ラロン・A・スミス)からブレイクダンスの手ほどきを受け、来る日も来る日も血の滲むようなトレーニングを重ねるチリー。ところが、そのオーディションの結果、人気クラブと契約することになったのはチリーただ一人だけだった。
愛する仲間と成功を掴みたいと思っていたチリーは思い悩む。しかし、親友のDJイージー(キャメロン・ダイ)は、こんな絶好のチャンスを逃す手はない、お前が有名になって俺たちを雇ってくれればいいじゃないか、と背中を押してくれる。イージーの妹で恋人のダーリーン(ミシェル・ニカストロ)も応援してくれた。
かくして、セレブの集まる人気クラブでパフォーマンスをするようになったチリーは、たちまち店の看板スターへと上りつめていく。ヨーロッパの最新モードであるレザー・コートや、広い高級アパートまで買い与えてもらった。
しかし、成功には代償がつきもの。テレンスや有名ダンサーのクレア(ヴィッキー・フレデリク)といったセレブたちとの付き合いを強要され、苦楽を共にしてきた仲間たちとは縁遠くなってしまった。ダーリーンとも滅多に会えなくなり、その一方でクレアとの情事に溺れるようになる。
さらに、スターは付き合うべき相手を選ばなくてはならないということから、テレンスはボディ・ロック・クルーの面々をチリーの周辺からシャットアウトしてしまう。仲間たちを自分のブレインに入れようと考えていたチリーだったが、当然のことながら却下された。イージーやダーリーンたちは裏切られた気持ちで、チリーの成功を苦々しく思うようになる。
クラブでのパフォーマンスが終った後は、来日も来る日もテレンスやクレアたちの享楽的な夜遊びに付き合わされる毎日。そんなある晩、ゲイ・バーへ連れて行かれたチリーは、クレアのパトロンである金持ちの中年男性ドナルド(ジョセフ・ウィップ)にキスをされて反射的に殴ってしまう。
ところが、このドナルドはクラブのオーナーでもあった。彼の反感を買ってしまったチリーは、あえなく店をクビになってしまう。高級アパートからも締め出されてしまった。失意のどん底で街をさまようチリー。慰めを求めてダーリーンのもとを訪れるが冷たく追い返され、かつての仲間たちにも会わせる顔がない。
一方、天才ブレイクダンス少年として脚光を浴びるようになったマジックがテレンスのクラブに出演することとなり、イージーやダーリーンたちも観客として店を訪れた。ステージではチリーが歌うはずだった曲をクレアが歌っている。ふと天井を見上げたダーリーンは、今まさにステージへと飛び降りようとしているチリーの姿を発見する。果たして、彼は何をするつもりなのか・・・!?
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人気クラブのステージに立ったチリー |
その奇抜なパフォーマンスが人気を集める |
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店の看板スターになって意気揚々とするチリー |
有名ダンサー、クレア(V・フレデリク)との情事に溺れる |
監督のマーセル・エプスタインは、モトリー・クルーやベルリンといったロック・バンドのプロモーション・ビデオを手掛けた人物。MTV出身の監督の殆んどに共通して言えることなのだが、映画というものの撮り方、ストーリーの見せ方というものを全く分かっていない。ダンス・シーンやラブ・シーンはそれなりにカッコよく撮ることができるものの、肝心のドラマ・パートは素人丸出しも甚だしいのだ。
しかも、ロック・ビデオ出身ということもあってか、ブレイクダンス・シーンの撮影はまるっきりの紋切り型。せっかくハイレベルなダンサーのパフォーマンスを撮っているにも関わらず、これっぽっちも躍動感が伝わってこないのはなんとも悲しい。
そして、半径1キロ・メートル規模のサクセス・ストーリーを臆面もなく描いた脚本を担当したのは、日系人のインディペンデント映画作家デズモンド・ナカノ。お金のために引き受けた仕事であろうことは想像に難くないが、それでもあの傑作『ブルックリン最終出口』(89)の脚本を書いた人と同一人物が書いたとは到底思えないような出来栄えに、ショービジネス業界の怖さを痛感せざるを得ない・・・なんていったら大袈裟か(笑)
しかも、撮影を手掛けたのはヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュ作品で高く評価され、ラース・フォン・トリアーの『奇跡の海』(96)で各映画賞を総なめにした名カメラマン、ロビー・ミューラー。いや、これは彼のフィルモグラフィーで最大の汚点かもしれない。そもそも、こんなMTV系ティーン・ポップ・ムービーに一番向かないカメラマンだと思うのだが、なんでまた引き受けてしまったのか。まさか、シャレじゃないよね・・・?
それ以外にも、編集には『ロッキー』(76)でオスカーを獲得したリチャード・ハルセイ、美術デザインには『マスク』(94)や『キングダム・ホスピタル』(04)のクレイグ・スティーンス、衣装デザインには『JFK』(91)や『21グラム』(03)のマーリン・スチュワートといった具合に、スタッフの顔ぶれは豪華そのもの。これだけの才能が集まって、いったいぜんたいなんでこんなバカ映画になってしまったのか?これは80年代ハリウッド最大の謎である(笑)
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チリーの周辺から仲間たちがシャットアウトされてしまう |
ロレンツォ・ラマスは自慢(?)のノドも披露 |
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クレアたちに連れられてゲイ・バーへ行ったチリーだが・・・ |
オーナーを殴ったために店をクビになってしまう |
先述したように、主演のロレンツォ・ラマスは当時アメリカでそこそこブレイクしていたラテン系2枚目マッチョ俳優。ただ、種馬的ルックスと体力以外にこれといった魅力も才能もなく、その後は『コブラ・キラー』シリーズやら『殺人核弾頭キングコブラ』(93)といったB級アクション路線まっしぐら。いったいどこで需要があるのかは分らないが、とにかく出演作だけはハンパじゃないくらいに多い。
その相手役を演じているミシェル・ニカストロはアニメの声優として成功しているらしく、アメリカではアニメ『スワン・プリンセス/白鳥の湖』シリーズのオデット姫役でお馴染みなのだそうだ。
また、チリーを弄ぶ人気ダンサー、クレア役には『カリフォルニア・ドールズ』(81)や『コーラス・ライン』(85)で知られるダンサー出身のアマゾネス系女優ヴィッキー・フレデリクが登場。人気クラブの経営者テレンス役には、『ノー・マーシイ/非情の愛』(86)や『ネオン・エンパイア』(90)の悪役俳優レイ・シャーキーが扮している。
そのほか、親友イージー役にはローラ・サン・ジャコモのダンナだったキャメロン・ダイ、チリーの母親役にはドラマ『ツイン・ピークス』のサラ・パーマー役で有名になった怪女優グレイス・ザブリスキー、クラブのオーナーであるゲイの金持ちドナルド役には『スクリーム』(97)で保安官役をやっていたジョセフ・ウィップ。
デス・オブ・ザ・ニンジャ/地獄の激戦
Nine Deaths of
the Ninja (1985)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売
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(P)2007 BCI Eclipse Company (USA) |
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆ |
DVD仕様(北米盤DVDボックス) カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/94分/製作:アメリカ ※アクション映画8作品収録 特典映像 なし |
監督:エメット・オルストン 製作:アショク・アムリトラジ 脚本:エメット・オルストン 撮影:ロイ・H・ワグナー 音楽:セシル・コライコ 出演:ショー・コスギ ブレント・ハフ エミリア・クロウ ブラッキー・ダメット レジーナ・リチャードソン ヴィジャイ・アムリトラジ ケイン・コスギ シェイン・コスギ リサ・フリードマン アイコ・カウンデン ソニー・エラン |
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007もどきの華麗なる(?)オープニング |
観光バスを襲ったテロ組織のボス、ハニー・ハンプ(R・リチャードソン) |
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事件の報告を受けたスパイク(S・コスギ)とゴードン(B・ハフ) |
黒幕である麻薬組織のボス、アルビー(B・ダメット) |
80年代のアメリカでニンジャ映画ブームを巻き起こした日本人アクション・スター、ショー・コスギ。その主演作の中でも特に荒唐無稽でバカバカしくて楽しいのが、この『デス・オブ・ザ・ニンジャ/地獄の激戦』という作品である。
主人公は元ニンジャの日本人捜査官スパイク・シノビ率いる対テロリスト・チームの面々。フィリピンで起きたバス・ジャック事件を解決するために送り込まれた彼らが、人質を解放すべく反政府組織や麻薬組織、売春組織などを相手に壮絶な戦いを繰り広げるというのがざっとした粗筋だ。
これはズバリ、“ニンジャ版007”といったところだろうか。シャーリー・バッシー風のテーマ曲をバックにショー・コスギとセクシー・ダンサーが絡むオープニングからして、まんまジェームズ・ボンド映画のパクリといった按配。タイトルとなっているニンジャは冒頭とクライマックスで申し訳程度に出てくるだけで、あとは堅物捜査官スパイク・シノビと女好きの軟派捜査官ゴードンによるスパイ・アクションがユーモアたっぷりに描かれていく。
さらに、チームのマスコット的存在の女性捜査官ジェニファーや上官のセクシー秘書マリサ、マダム・ウーピー率いる売春婦ゲリラ軍団といった女性陣が、ボンド・ガールよろしくお色気を添えるというわけだ。
加えて、おバカさん丸出しな悪党たちのキャラクターもなかなか強烈。007のドナルド・プレザンスをパクッたとおぼしき麻薬組織のボス“残酷アルビー”は、車椅子に乗って女物の手袋とアクセサリーを身にまとったヒステリックな髭面のオカマちゃん。その恋人であるテロリストのラージは、なにがあってもウッハッハと笑い続けるだけの陽気でバカでかいウドの大木だ。
さらに、残酷アルビーとタッグを組む反政府組織の女ボス、ハニー・ハンプは、まるでアニメから出てきたかのような魔女顔のヒステリックなレズビアン。しかもこいつらが呆れるくらい結束力ゼロで、しょっちゅう仲たがいをして墓穴を掘った挙句、最後はほとんど自業自得の自滅状態で退治されてしまうのである。
もともとショー・コスギのニンジャ映画というのは荒唐無稽が身上。しかし、その殆んどが単なる日本文化への無理解や勘違いから生まれた偶発的なものであったのに対し、本作は最初っからお笑いとアクション満載のおバカなパロディ映画を目指したのが潔かった。まあ、ニンジャ映画である必要はさらさらないのだけど(笑)
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頭脳明晰な女性捜査官ジェニファー(E・クロウ) |
司令官ランキン(V・アムリトラジ) |
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テロリストのラージ(S・エラン)が釈放される |
スパイクの操縦するヘリが麻薬組織の一味にジャックされた |
フィリピンを観光中のアメリカ人団体客を乗せたツアー・バスがテロリスト集団にジャックされた。すぐさま、アメリカから対テロリスト・チームが送り込まれる。元ニンジャの日本人捜査官スパイク・シノビ(ショー・コスギ)、女好きの軟派な捜査官ゴードン(ブレント・ハフ)、そして頭脳明晰な女性捜査官ジェニファー(エミリア・クロウ)の3人だ。
テロリスト集団を率いるのは麻薬組織のドイツ人ボス“残酷アルビー”(ブラッキー・ダメット)と反政府組織の女ボス、ハニー・ハンプ(レジーナ・リチャードソン)。人質をジャングルの奥地へと移動させた彼らは、アルビーの恋人で刑務所に捕らわれている凶悪テロリスト、ラージ(ソニー・エラン)の釈放と、フィリピン国内にいるアメリカの麻薬捜査官の一斉退去を要求する。フィリピン政府の高官でスパイクらの司令官であるランキン(ヴィジャイ・アムリトラジ)は、人質の安全を最優先して仕方なしにラージの釈放を許可した。
スパイクとゴードンは麻薬組織のアジトとおぼしきアジア文化博物館を捜索し、小人のカンフー軍団と死闘を繰り広げるが、犯人グループの居場所へとつながる証拠は見つからなかった。そこで、彼らは刑務所を出たラージを尾行したものの、あと一歩のところで見失ってしまう。
ところが、本部に戻ろうとしたスパイクのヘリが、ラージと麻薬組織一味にハイジャックされてしまった。なんとか彼らを海へ振り落としてヘリを奪還したスパイクは、ラージとアルビーの無線連絡からマダム・ウーピーの売春組織が関与していることを知る。恐らく、売春組織を探ればアルビーとハニー・ハンプが人質を監禁している場所が分るに違いない。
途中でゴードンを拾ったスパイクは、ヘリの上から沖合いに停泊するマダム・ウーピーの豪華売春ボートを発見する。素潜りで秘かにボートへ潜入するスパイク。乗組員からアルビーたちの潜伏場所を聞きだした彼は、マダム・ウーピー率いる売春婦軍団の攻撃をかわして、ジャングルで待つゴードンと合流した。
かくして、アルビーとハニー・ハンプの居場所を突き止めたスパイクとゴードンは、人質を解放するためにジャングルへと入っていく。一方、ジェニファーもフィリピン政府軍を率いて現地へと向かった。
その頃、ジャングルではアルビーとハニー・ハンプがお互いのエゴをむき出しにして対立を繰り返していた。人質たちは洞窟の中に捕えられている。その中の勇敢な幼い日本人兄弟シェイン(シェイン・コスギ)とケイン(ケイン・コスギ)の二人は、監視の目を盗んで行動を起こす。
一方、スパイクとゴードン、ジェニファーたちが洞窟へと到着し、いよいよ人質救出作戦を開始する。ところが、彼らの前になぜか黒装束のニンジャ軍団が立ちはだかる。さらに、巨漢のラージもテロ軍団に加わり、激しい戦いが繰り広げられていく・・・。
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テロリストたちの居場所を突き止めるスパイク |
売春婦軍団を率いるマダム・ウーピー(J・ウィルソン) |
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ジャングルへと乗り込んでいくゴードンたち |
一目散に逃げまどうテロ組織の面々 |
一応、冒頭の方でスパイクがニンジャ軍団を破門になった過去のあることが描かれており、クライマックスではそのニンジャたちがスパイクを葬り去るために登場する。もちろん(?)、いったいなぜこのタイミングで?どうやってスパイクがジャングルにいることが分ったの?といった説明は一切なし(笑)
理屈なんてどうでもいいから、とにかく賑やかしで何でもぶっこんじゃえ!という作り手側の開き直りっぷりが、いろんな意味で清々しく感じられる・・・はず(笑)
監督と脚本のエメット・オルストンは、クズ映画の極みとも言うべきSFゾンビ・ホラー『エイリアン・ゾンビ』(87)でマニアの間でも悪名高い(?)人物。この作品がそこそこ当たったおかげか、その後“3
Little Ninjas and the Lost
Treasure”(90)など3本の子供向けニンジャ映画を撮っている。
一方、撮影監督のロイ・H・ワグナーは、これがDPとして最初に手掛けた仕事。その後テレビ『美女と野獣』でエミー賞を獲得し、『張り込みプラス』(93)や『ニック・オブ・タイム』(95)などのメジャー映画も手掛けるようになり、近年は『CSI:科学捜査班』や『Dr.HOUSE』といった人気ドラマの仕事もしている。
なお、製作を担当したアショク・アムリトラジはインド出身の映画プロデューサーで、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ダブル・インパクト』(91)やサンドラ・ブロック主演の『シャッフル』(07)といったハリウッド映画のみならず、アイシュワイリヤ・ライ主演の大ヒット作『ジーンズ/世界は2人のために』(98)のようなインド映画も手掛けている人物。本作に出演している往年の世界的テニス・プレイヤー、ヴィジャイ・アムリトラジは彼の叔父さんなのだそうだ。
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テロリストたちに立ち向かう幼い兄弟シェインとケイン |
仲間割れをしてばかりのアルビーとハニー・ハンプ |
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スパイクの前に立ちはだかるニンジャ軍団 |
最終攻撃に臨むゴードンとジェニファー |
さてさて、主人公のスパイクとゴードンを演じるショー・コスギとブレント・ハフ。クールでスマートなスパイクと軟派でお茶目なゴードンというキャラクターには、恐らくジェームズ・ボンドの二面性というものがそれぞれ反映されているのだろう。スーツにネクタイでピシッと決めているショー・コスギというのも、なかなかカッコいいもんである。
一方のブレント・ハフも、いかにもヤンキーなプレイボーイといった風情でまずまずの当たり役。ジュスト・ジャカン監督のエロ・ファンタジー大作『ゴールド・パピヨン』(83)のヒーロー役を引き受けちゃったのが運の尽きで、それ以降はB級アクション一筋の役者人生を歩んでしまった人だ。一時はイタリア産の戦争アクションにも出ていたっけ。近頃では映画監督としても活躍しているみたいだが、相変わらずB級路線まっしぐらなのはお気の毒というかなんというか(笑)
美人女性捜査官ジェニファー役のエミリア・クロウは、SFファンタジーの隠れた名作『グランド・ツアー』(91)でタイムトラベラーの女性リーヴス役を好演していた女優さん。なかなか雰囲気のあるキレイな人だったが、あっという間に映画界から消えてしまった。
そして、猛烈に中途半端な女装と大仰な演技が失笑と爆笑を同時にさらう“残酷アルビー”役のブラッキー・ダメットは、コメディ映画やアクション映画でチンピラや麻薬の売人などのチョイ役を演じていた人。しかし、なんといっても彼はロック・バンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのリード・ボーカリスト、アンソニー・キーディスの実の父親として有名だろう。残念ながら役者としては大根そのものと言わざるを得ないのだが、その個性的過ぎるマスクだけはインパクト強烈だ。
そのほか、『シティ・ヒート』(85)などに出ていた黒人女優レジーナ・リチャードソンが反政府組織の女ボス、ハニー・ハンプ役を、往年の世界的テニス選手ヴィジャイ・アムリトラジが司令官ランキン役を、キャスティング・ディレクターとして知られるジュディ・ウィルソンがマダム・ウーピー役を演じている。
さらにファン注目なのが、様々なアイディアでテロリストに悪戯をしかけるちびっ子兄弟役として、ショー・コスギの実の息子シェインとケインが出演していることだろう。中でも、今や立派なアクション俳優となったケインがクライマックスで見せるカンフー・アクションはなかなかの見物だ。