1612 (2007)
〜ロシアの超大作プロパガンダ映画〜

 

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(P)2009 E1 Entertainment (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド/音声:ロシア語/字幕:英語/地域コード:A
LL/143分/製作:ロシア

特典映像
メイキング・ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編
フォト・ギャラリー
監督:ウラジーミル・ホチネンコ
製作:ニキータ・ミハルコフ
   レオニド・ヴェレスシャギン
脚本:アリフ・アリエフ
撮影:イリヤ・ジョーミン
音楽:アレクセイ・リブニコフ
出演:ピョートル・キスロフ
   アルチュール・スモリャニノフ
   ミハウ・ジェブロフスキー
   ヴィオレッタ・ダヴョドフスカヤ
   アレクサンドル・バルエフ
   マラート・バシャロフ
   ラモン・ランガ
   ミハイル・ポレシェンコフ
   ワレリー・ゾローツキン

 

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モスクワへ侵攻するポーランド軍

ボリス・ゴドノフの妻と息子が暗殺される

 ロシアでは2005年、それまで国民にとって最大の祝日だった11月7日の「革命記念日」を廃止し、その代わりに11月4日を「国民団結の日」として新たな祝日に制定した。なぜ11月4日なのかというと、この日はかつて帝政ロシアの主権を揺るがしたロシア・ポーランド戦争において、国民軍が激しい戦いの末にポーランド軍からモスクワを開放、近代ロシアにおける大国化の礎を築いたという歴史的に重要な日だからだ。帝政ロシア時代にも制定されていたこの祝日を復活させたことの背景には、ロシアを再びソビエト時代のような大国にという当時のプーチン政権の思惑が当然のことながら見え隠れする。そして、この「国民団結の日」の意味することを改めて現代へ伝えようという映画こそ、2007年にロシア全土で大々的に劇場公開された歴史スペクタクル映画“1612”というわけだ。
 舞台は“動乱の時代”と呼ばれた17世紀初頭のロシア。ボリス・ゴドノフの死によって中央の権力が弱体化したロシアでは、ツァーリ(皇帝)の座を巡って様々な陰謀が渦巻いていた。この機に乗じたポーランド・リトアニア共和国とバチカンは、ロシアの支配とカトリックの布教のためにモスクワへ侵攻。しかし、新しいツァーリとして担ぎ出されたポーランド皇子ヴワディスワフが不在のまま戴冠式が行われ、ポーランド軍の統治支配は決して安定したものではなかった。
 そこで、時は1612年、ポーランド軍は秘かにボリス・ゴドノフの娘クセーニヤをモスクワへと送り込み、裏から思いのままに操ることのできるロシア人の女帝(ツァリーナ)として擁立しようと画策する。その道すがら、クセーニャの前にアンドレイという一人の若者が現れる。彼は幼少時代に両親をポーランド軍によって殺害され、ゴドノフ一家の暗殺とクセーニャの誘拐を目の当たりにし、それからというもの彼女の行方を探すことだけを目的に生きてきた青年だった。彼は戦闘で殺されたスペイン人の傭兵に成りすまし、親友のコーシカと共にポーランド軍へ潜入する。
 さらに、クセーニャを誘拐して城塞都市ナヴォロークへと避難したアンドレイとコーシカだったが、たちまちポーランドの大軍によって町を包囲されてしまった。ポーランド側から次々と浴びせられる大砲の砲弾にライフル銃の銃弾。圧倒的に不利な状況の中、アンドレイとコーシカ、そしてナヴォロークの住民たちは愛国心のもとで心を一つにし、決死の覚悟で血みどろの壮絶な戦いに挑む…。

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ロシア行きを命じられるカトリック僧ラヴィツキー(V・シャミロフ)

ツァーリ不在のまま行われた戴冠式

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ボルガ河で船を引く奴隷たち

ラヴィツキーに付き添われた皇女クセーニャ(V・ダヴョドフスカヤ)

 冒頭の約10分間は歴史的な背景を駆け足で説明していく。皇帝ボリス・ゴドノフの崩御によって政治的混乱に陥るロシア。そこへ侵攻してきたポーランド軍はゴドノフの妻と後継ぎの息子を虐殺し、自らをイワン雷帝の末っ子ディミトリと名乗る偽者をロシア皇帝の座に就ける。だが、この偽ディミトリは悪政のおかげで大衆の反感を買い、ほどなくして虐殺されてしまった。そこでポーランドは自国の皇子ヴワディスワフを新たに皇帝として擁立。しかし、戴冠式の席に本人の姿はなく、依然としてロシアは混とんとした無秩序な状態が続いていた…という具合に。
 ここでまず知っておかねばならないのは、本作があくまでも“歴史からヒントを得たフィクション”であるということだ。全篇を通して、史実とは異なる点が数多く見受けられる。そもそも、“動乱の時代”と呼ばれる政治的混迷はボリス・ゴドノフの統治時代から既に始まっており、ポーランド軍のモスクワ侵攻がきっかけだったわけではない。主人公のアンドレイやコーシカが完全なフィクションであることは言うまでもないし、ポーランド軍がゴドノフの皇女クセーニャを女帝に擁立しようと画策したというのも事実無根だ。実際のクセーニャは母親と弟が殺害された後に捕らわれの身となり、ツァーリの座を奪った偽ドミトリによって凌辱され続けた挙句、修道院へと追いやられている。つまり、本作のメイン・ストーリーが展開する1612年の時点で、彼女は既に修道女となっていたのだ。また、山場の舞台となる町ナヴォロークにしても、恐らく国民軍結成の地となった城塞都市ニジニ・ノヴゴロドをモデルにした架空の都市と思われる。
 さらに注目すべきなのは、意図的に歴史を湾曲したとしか思えない“書き換え”が随所でなされていることだろう。その中でも特に重要なのは、“動乱の時代”の原因をポーランドとバチカンに全てなすりつけている点だ。本作ではゴドノフ家の虐殺がポーランド軍によって行われ、ポーランドとバチカンが一方的にロシアを侵略したような印象を与えるストーリー展開がなされている。しかし、実際にボリス・ゴドノフの妻と息子を殺害したのは偽ドミトリを支持するロシア貴族たちであり、私欲に駆られた彼らがポーランド軍に手を貸したことからモスクワが占拠されてしまったのだ。そもそも、そうしたロシア貴族たちの利己主義や日和見主義が、当時の政治的混迷をさらに深刻化させていったという側面は否定できない。だが、本作ではそうしたロシア側の責任がまるで無かったことかのように書き換えられ、ポーランドとカトリックを完全な悪者へと仕立て上げているのだ。
 実はこの作品、ロシア連邦文化省の関連機関である文化映画庁が製作費を提供している。つまり、当時のプーチン政権の息がかかった作品なのだ。ここでは明らかに、ソビエト崩壊後のロシアと“動乱の時代”をなぞらえ、大国ロシアの復活へ向けて大衆の愛国心を鼓舞しようというプーチン政権の意図が見て取れる。ロシアをカトリック化させて支配しようと目論むポーランドは、すなわち資本主義によってロシアの政治と経済をどん底へ叩き落とした西側諸国を象徴するものと考えていいだろう。そして、政治的混乱と貧困によって疲弊しきっていたロシアの大衆が、アンドレイやコーシカ、そして実在の英雄ポジャルスキーの情熱によって愛国心に目覚め、一致団結してポーランド軍へ立ち向かっていく姿には、プーチン大統領の強権政治によって目覚ましい経済成長を成し遂げつつあった2007年時点でのロシアの姿が如実に投影されている。これはもう、正真正銘の立派なプロパガンダ映画だ。

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船に侵入してクセーニャの姿を確認する若者アンドレイ(P・キスロフ)

アンドレイは脱走未遂の罰として拷問を受ける

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アンドレイと親しくなる若者コーシカ(A・スモリャニノフ)

アンドレイはコーシカの口利きで傭兵の家来となった

 ただ、純粋に映画作品として見た場合にどうなのかというと、これが文句なしに面白いエンターテインメント大作に仕上がっている。冒頭の背景説明がかなり駆け足で行われるため、歴史的な予備知識が全くないと初めは少々混乱してしまうかもしれない。しかし、主人公アンドレイとコーシカ、そして皇女クセーニャが登場すると様相は一変。敵に捕らわれたお姫様を救い出そうとする名もなきヒーローの冒険活劇と相成る。
 ここからは、まさしくジェットコースター・ライド。とにかくストーリー展開のテンポが軽妙で、アクションありロマンスありファンタジーありの壮大なスペクタクルが繰り広げられていく。中でも、城塞都市ナヴォロークを舞台にしたポーランド軍との攻防戦は迫力満点。ソビエト時代の国策映画に比べるとエキストラの規模では負けるものの、最新のビジュアル・テクノロジーを駆使したバトル・シーンのケタ外れなスケールには度肝を抜かされる。
 まずは、アンドレイの考案した手作りの革製の大砲から発射された砲丸が、ポーランド軍の武器庫に命中するシーン。たちまち砲丸の熱が火薬に引火して武器庫は大爆発し、ポーランド軍は総崩れとなる。燃え上がる巨大な炎、粉々に砕け散る丸太小屋、爆風によって吹き飛ばされる兵士たち。その姿をカメラはスローモーションで捉える。さらに、爆発によって飛び散った木片や弾丸などが次々と周辺の兵士や馬に命中。スプラッター映画も顔負けの、まさに血みどろの地獄絵図だ。
 さらに、今度は体勢を立て直したポーランド軍が、ナヴォロークの城塞へ総攻撃を仕掛ける。まずは数えきれないほどの大砲から発射される砲丸の嵐。これがもう凄いのなんのって。数千発にものぼろうかという砲丸が、一気に城塞へ向けて浴びせられるのだ。建物は次々と破壊され、逃げ惑う住民も胴体が吹っ飛んだり顔面が潰れたり。思わず呼吸が止まってしまうかと思うくらいの凄まじい臨場感だ。
 この大混乱に乗じてポーランド軍は歩兵部隊を投入。次から次へと城壁に梯子がかけられ、無数のポーランド兵たちが城塞への侵入を図る。手に手に武器を持って応戦するナヴォロークの住民たち。この大量のエキストラを投入したチャンバラがまた、えらくテンションが高くて見応え十分なのだ。しかも、城壁をよじ登るポーランド兵を撃退すべく、ナヴォローク側からも手製の爆弾が次々と投下され、あちらこちらで兵士たちが吹き飛んでいく。そのスケール感と迫力たるや、『プライベート・ライアン』のノルマディ上陸シーンにも引けを取らないと言っていいかもしれない。
 また、本作では随所にファンタジックな要素を取り込み、伝奇物語的な魅力をも兼ね備えている。“動乱の時代”に進むべき道を見失った人々へ助言を与える森の仙人、ロシアの行く末を見守るように出没するユニコーン、そして窮地に陥ったアンドレイを教え導くスペイン人傭兵アルヴァーの亡霊。これは、『ロード・オブ・ザ・リング』的な宿命の物語へと昇華させることによって、ロシアの歴史に神話的な意味を持たせようとしているのだろう。もちろん、史実と大きく異なる点をファンタジーという名目で言い逃れしようという意図も少なからずあるに違いない。それを差し引いて考えても、このファンタジー的な演出は見事に功を奏している。息を呑むほどに美しいロシアの大自然は、さながらおとぎ話の中に出てくる神の国のよう。森の仙人やユニコーン、幽霊といったファンタジックな存在が、その広大で美しいロシアの大地にさらなる神秘を与えているのだ。

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少年時代のアンドレイはゴドノフ家の領地で暮らしていた

皇女クセーニャは幼いアンドレイの憧れだった

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ポーランドの指揮官キボフスキー(M・ジェブロフスキー)

クセーニャはキボフスキーの愛人だった

 確かに政治的な意図の隠しようがない作品ではある。その点において賛否両論があってもおかしくはないだろう。都合の良い勝手な歴史解釈にも批判があって然るべきだ。ただ、この手の歴史湾曲は何も今に始まったわけではないし、当然のことながらロシアの専売特許というわけでもない。戦いに勝った者が歴史を好きなように書き換えるというのは、世の東西を問わず世界中で行われてきた儀式みたいなもの。そもそも、ロシア・ポーランド戦争という歴史的事件そのものが、過去数百年に渡って両国でプロパガンダに利用されてきたという事実がある。言ってみれば、お互いさまみたいなものだ。
 どの国家や民族にだって、己の歴史やルーツに誇りを持つ権利も義務も必要もあることだろう。それはともすると異民族に対する差別や排斥へつながりかねないという危険性を孕んでいるわけで、そのことを我々は常に肝に銘じておかねばならない。そうした観点からすれば、本作の持つアンチ・ポーランド的な側面は非難されるべきだろう。
 その一方で、ロシア人のロシア人たる所以を美化することなく描いている点には、ロシアで育った人間として非常に興味をひかれるものがある。人望のあるアンドレイを次期ツァーリに担ぎ上げようと考えたナヴォロークの指揮官ニキリッチとロシア正教の司祭たちが、歴史学者を使って彼の“高貴な家系図”をねつ造する下りなんかは、したたかさといい加減さと逞しさが混在したロシア人という民族の面白さを的確に物語っていると言えよう。
 また、いくら権力者を味方につけて布教活動をしてもロシア人に受け入れられないカトリックの僧侶ラヴィツキーに対して、森の仙人が述べる言葉というのがまたロシア人の民族性を上手く表現している。曰く、髭を生やして、コサックの服を着て、強い男らしく振る舞えば、ロシアの民も耳を傾けてくれるだろう。そう言われたラヴィツキーだが、最終的には“こんな野蛮で理解不能な国とは一生関わりたくない”とバチカンへ逃げ帰っていく。半ば自嘲的ではあるものの、誰もこの“野蛮な”ロシア人を変えることなんてできやしない、という強い民族の誇りみたいなものが描かれているのだ。ロシアの国民的な画家レーピンの代表作「ボルガの船引き」をそのまま引用したシーンにも、製作サイドの自国ロシアの歴史と文化へ対する深い
愛情が感じられる。
 結論を言えば、ロシアの歴史や民族性に対する予備知識がなくても、十分に娯楽映画として楽しめる作品ではある。だが、その歴史的な背景や事実、ロシア人のなんたるかを多少なりとも勉強した上で見れば、より客観的に作品の世界を理解することが出来るだろうし、良い点も悪い点も含めてロシアという国と民族の面白さを改めて教えてくれるに違いない。非常に良くできたプロパガンダ映画である。

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盗賊一味に襲撃される傭兵たち

アンドレイの主アルヴァー(R・ランガ)も殺されてしまう

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木の上でロシアの行く末を案じる森の仙人(V・ゾローツキン)

クセーニャは仙人に助言を求める

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城塞都市ナヴォローク

憂国の士ポジャルスキー(M・ポレシェンコフ)は民衆を決起させる

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スペイン人のアルヴァーに成り代わったアンドレイ

アルヴァーの亡霊がアンドレイに剣術を教える

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ロシアの運命を託すかのようにアンドレイを見守るユニコーン

ロシア側へ寝返るようクセーニャを説得するアンドレイだったが…

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ナヴォロークに接近するポーランド軍

レイプされそうになった村の少女をかばうアンドレイ

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クセーニャを連れて城塞内部へ避難したアンドレイとコーシカ

アンドレイの秘策に半信半疑の指揮官ニキリッチ(M・バシャロフ)

 1604年のワルシャワ。ポーランド王ジグムント3世は、逃亡した修道士グリゴリー・オトレピエフを、ロシアのイワン雷帝の息子ディミトリであると認めた。この偽ディミトリはカトリックへと改宗し、ポーランドの支援を受けてモスクワへと侵攻する。1605年6月1日、故ボリス・ゴドノフの妻と息子が侵略者たちによってモスクワで殺害された。それから一か月後、ロシアの“動乱の時代”が始まる。
 1605年の秋、ローマ。ポーランド人の僧侶ラヴィツキー(ヴィクトル・シャミロフ)がバチカンの大司教に呼び出され、モスクワ行きを命ぜられた。新大陸アメリカへ布教活動に行くつもりだったラヴィツキーは当惑するが、これはカトリックにとって大変重要な使命であると諭される。蛮族の国ロシアでカトリックを広めるのだ。
 1606年、ツァーリの座に就いた偽ディミトリ(ディミトリ・ウリャノフ)は、わが世の春を謳歌していた。しかし、その民衆を馬鹿にした態度と横暴な政治でポーランド人からもロシア人からも嫌われ、無残にも殺されてしまう。遺体は民衆の見ている前で焼却され、その遺灰は大砲に詰められてポーランドの方角へと発射された。
 1610年のモスクワ。ポーランド皇子ヴワディスワフがツァーリとして即位する。だが、その戴冠式に本人の姿はなかった。見守る民衆の中であからさまに疑問を呈する若者は排除された。新しいツァーリの誕生を祝う歓声が虚しく響き渡る中、裏では秘かに疑問を呈した若者が剣で舌を切り取られる。その様子を見ていたカトリック僧ラヴィツキーは、暗澹たる表情を浮かべるのだった。
 そして1612年。ボルガ河のほとりで奴隷の船引きたちが一艘の船を引いている。その船に乗っているのは、ポーランド軍に金で雇われた傭兵たちと、ラヴィツキーに付き添われた一人の女性。その女性こそ、ボリス・ゴドノフの娘クセーニャ(ヴィオレッタ・ダヴョドフスカヤ)だった。ポーランドの捕虜となっていた彼女は、次期ツァリーナ(女帝)として擁立されるべく祖国へ戻ってきたのだ。その姿を一目見た船引きの若者アンドレイ(ピョートル・キスロフ)はハッとする。
 その夜、奴隷の鎖を秘かに外したアンドレイは、泳いで船へと忍び込む。クセーニャの姿を間近で目にした彼は、何かを確信したようだった。だが、その気配に気づいたクセーニャが騒いだことから、傭兵たちに捕らわれてしまう。罰として激しい拷問を加えられるアンドレイ。その猛烈な痛みに耐え続ける彼の姿を、スペイン人の傭兵アルヴァー(ラモン・ランガ)は感心しながら見ていた。
 船は目的地に到着した。傷を負ったアンドレイを、アルヴァーの家来であるタタール人の若者コーシカ(アルチュール・スモリャニノフ)が親切に介抱してくれた。そんなコーシカにアンドレイは、自分を買い取ってくれるようアルヴァーにかけ合ってくれないかと頼む。アルヴァーは快く引き受け、アンドレイは彼の家来となった。
 実は、アンドレイは幼い頃にゴドノフ一家の領地で暮らしていた。彼の父親は、若くしてツァーリとなったボリス・ゴドノフの息子フョードル2世の剣術指導を行っていたのだ。彼は優しく接してくれるクセーニャに、子供ながら淡い恋心を抱いていた。だが、ある日ポーランド軍がモスクワへ侵攻し、彼の目の間で両親は惨殺されてしまった。そして、フョードル2世とその母親も暗殺され、クセーニャは連れ去られてしまった。それ以来、アンドレイはひたすら彼女の行方を捜していたのである。
 一行はポーランド軍の駐屯地へとたどり着く。そこには司令官キボフスキー(ミハウ・ジェブロフスキー)の姿もあった。キボフスキーの顔を見たアンドレイは思わず凍りつく。彼こそが自分の両親を殺害し、クセーニャを連れ去った張本人だったからだ。キボフスキーはクセーニャの誇り高さと美しさに心を奪われ、祖国のポーランドへと連れ帰った。二人の間にはユーリヤという娘までいた。彼女がツァリーナの座に就くことを承諾したのも、実は娘と会わせてくれるというキボフスキーの約束との交換条件だったのだ。2人が男女の関係にあることを知ったアンドレイは愕然とする。
 翌朝、ポーランド軍はモスクワへ向けて旅立つ。その途中でクセーニャは寄り道のために一行を離れ、キボフスキーやラヴィツキーも彼女に付き添うこととなる。アンドレイとコーシカは、主人アルヴァーや傭兵たちと共に次の駐屯地へと先に向かった。ところが、その途中でオシーナ(アレクサンドル・バルエフ)率いる盗賊団が待ち伏せをしていた。ポーランド軍が橋へさしかかったところを襲撃する盗賊団。傭兵たちはたちまち皆殺しにされ、剛腕で鳴らすアルヴァーも裏切り者によって不意打ちされてしまう。主を失ったアンドレイとコーシカは途方に暮れるものの、2人はアンドレイがアルヴァーと背格好の似ていることに気付く。鎧のサイズもピッタリだ。アンドレイは道中でスペイン語を独学で学んでいた。ようやく見つけたクセーニャをポーランド人から取り返さねばならない。アンドレイはアルヴァーに成り代わることにし、コーシカも彼と運命を共にすることを決意する。
 一方、クセーニャは森の仙人(ワレリー・ソロニーツィン)を訪ねていた。仙人は“動乱の時代”が始まって以来、ずっと木の上に体を縛りつけたまま暮らしている。ロシアの行く末を案じて、神に祈りを捧げているのだ。そんな仙人に、クセーニャは自分が何をすべきなのか尋ねる。その様子を見ていたラヴィツキーは、森の仙人などただの偽物だと考える。そんな彼に、仙人はロシア人の心を開きたければ、自らがロシア人の心を知るべきだと教え諭す。そして、インディアンの国アメリカへ行った方が良かったのではないかと。ラヴィツキーはその言葉を聞いて驚き、ポーランド軍の元を離れて下野することを決意した。
 その頃、ポーランド軍が近くに迫っていることを知った城塞都市ナヴォロークの人々は揺れていた。民衆はその場しのぎのためにポーランドへ協力しようと考えていたが、憂国の士ポジャルスキー(ミハイル・ポレシェンコフ)はそんな彼らの事なかれ主義を強く戒める。今こそ祖国のために立ち上がる時だ。ナヴォロークの司令官ニキリッチ(マラート・バシャロフ)も同様に民衆を説得。人々は一丸となってポーランド軍に抵抗することを決意する。
 ポーランド軍の一行はナヴォローク近郊の駐屯地へ到着した。アルヴァーとその家来に成りすましたアンドレイとコーシカは、傭兵としてポーランド軍に潜入する。その晩、駐屯地では盛大な晩餐会が開かれ、旅芸人の一座が招かれた。クセーニャに近づいたアンドレイは、ようやく自らの素性を明かし、祖国のためにロシア側へ寝返るよう説得する。だが、クセーニャにとって、もはやロシアもポーランドもなかった。今の彼女は、生きる目的も理由も失った、ただの抜け殻。既に祖国のために尽くすような気力など残されていなかった。
 すると、旅芸人の一座が武器を手にクセーニャの暗殺を謀る。実は、オシーナの率いる盗賊団が旅芸人に扮装していたのだ。彼らはただの盗賊ではなく、祖国のために戦うプロの暗殺団でもあった。しかし、アンドレイは決死の覚悟でクセーニャを守り、目的が果たせないと悟ったオシーナたちは足早に逃げ去っていく。
 翌日、ポーランド軍はナヴォロークの隣村を襲撃する。次々と惨殺されていく罪なき村人たち。アンドレイはレイプされそうになった少女を救ったところ、キボフスキーによって捕らわれてしまい、さらに正体までバレてしまった。しかし、コーシカの協力で脱走に成功し、睡眠薬を飲まされたクセーニャを誘拐。コーシカと恋に落ちた村の娘リザヴェッタの案内で、秘密の通路を使ってナヴォロークの城塞内部へと逃げ延びる。
 クセーニャが連れ去られたと知ったキボフスキーは、大軍を率いてナヴォロークを包囲した。ポーランド軍に対抗すべく、住民総動員で臨戦態勢に入るナヴォロークの人々。だが、ポジャルスキーの遠征軍に提供してしまったため、町には大砲が一つもない。そんな時、これまでにも夢の中で剣術を教えてくれたり、様々な場面でアンドレイを助けてくれたアルヴァーの亡霊が現れ、重要なヒントを与えてくれた。それは、町で大量に見かける革製のバケツ。これを使って、アンドレイは手作りの大砲を一晩で作り上げた。あとは、運を天に任せるばかり。
 ところが、交換条件を求めるキボフスキーの声明によって、クセーニャの素性を知った民衆が一斉に抗議の声を上げた。ポーランドに身を売った裏切り者のために、自分たちは命を賭けなくてはならないのか?人々の憎悪の目がクセーニャに注がれる。必死に彼女を守ろうとするアンドレイだったが、人々の怒りに圧倒されるばかりだ。しかし、ここでもまた司令官ニキリッチが人々を説得する。我々にはポーランド軍の足を食い止める責任と義務があるのだと。
 かくして、ナヴォロークの人々はポーランド軍を迎え撃つこととなる。アンドレイは手製の大砲を使い、ポーランド軍へ向けて砲弾を発射した。果たして、効果はあるのか?すると、砲弾は敵方の武器庫に命中。たちまち火薬に熱が伝わり、武器庫は巨大な炎をあげて大破した。爆風で一気に吹き飛ばされるポーランド軍の兵士たち。その大量の犠牲者を目の前にして、自らも傷を負ったキボフスキーは呆然と立ち尽くすばかりだった。
 その翌日、体勢を立て直したポーランド軍はナヴォロークへの総攻撃を仕掛ける。容赦なく降り注ぐ大量の砲弾。ナヴォロークの町は深刻な損害を被り、大量の死傷者が出た。このパニックに乗じて、ポーランド軍は大勢の歩兵隊を投入。次々と城壁に梯子がかけられ、兵士たちが城塞内部への侵入を図った。繰り広げられる壮絶な戦い。果たして、アンドレイたちはポーランド軍を撃退してナヴォロークを守りきることが出来るのだろうか…!?

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ナヴォロークを包囲したポーランドの大軍

クセーニャの素性を知って怒り狂う民衆たち

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民衆に一致団結を呼びかけるニキリッチ

手作りした革製の大砲が火を噴く

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武器庫の大爆発で吹き飛ばされるポーランド兵たち

たった一発の砲弾でポーランド軍は総崩れとなった

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阿鼻叫喚の地獄絵図を目の当たりにして茫然自失のキボフスキー

コーシカとリザヴェッタの結婚は人々に笑顔を取り戻させる

 最後にスタッフとキャストについても紹介しておこう。監督のウラジーミル・ホチネンコは、ソビエト時代を舞台にした戦争アクション大作“72メートル”(04・日本未公開)で、ロシア版ゴールデン・グローブ賞とも言うべき“黄金の鷹”賞の最優秀フィクション作品賞を獲得した人物。巨匠ニキータ・ミハルコフの助監督を経て80年代半ばから活躍するベテランで、俳優としてミハルコフ作品に出演したこともある。
 そして、その師匠であるミハルコフが本作のプロデュースを担当。セルゲイ・ボドロフ監督の名作『コーカサスの虜』(96)でロシア版オスカーのニカ賞を獲得したアリフ・アリエフが脚本を手掛けている、撮影監督のイリヤ・ジョーミンは、ホチネンコ監督作品の常連カメラマンだ。また、『ナイト・ウォッチ』(04)や『デイ・ウォッチ』(06)を手掛けたイリヤ・チュリノフと弟子のイーゴル・チトフがビジュアル・エフェクトを担当。彼らは最近になってハリウッド映画も手掛けるようになったコンビで、本作では『デイ・ウォッチ』や『ナイト・ウォッチ』と比べても遥かに迫力のある壮大なスペクタクルを披露してくれている。
 主人公アンドレイ役を演じているピョートル・キスロフは、本作で映画デビューした若手俳優。もともとロシア人というのは非常に芸達者な民族だが、彼もまた新人らしからぬ腰の据わった演技で物語を立派に引っ張っている。さらに、その相棒であるお茶目なタタール人の若者コーシカを演じているアルチュール・スモリャニノフがいい。彼はソビエト側の視点でアフガン戦争を描いたフョードル・ボンダルチュク監督の大ヒット作“第9歩兵中隊”(05・日本未公開)で主演を務めた役者で、ニキータ・ミハルコフの最新作でも重要な役を演じている注目の若手スターだ。
 一方、悪役であるポーランドの司令官キボフスキー役には、『戦場のピアニスト』(02)で主人公の友人ユーレクを演じていたポーランドの名優ミハウ・ジェブロフスキー。また、盗賊団のリーダーであるオシーナ役として、『ピース・メーカー』(97)や『ディープ・インパクト』(98)などハリウッド映画にも多数出演している個性的な名優アレクサンドル・バルエフが渋い魅力を光らせている。
 その他、『シベリアの理髪師』(98)にも出ていたマラート・バシャロフ、映画監督としても活躍するミハイル・ポレシェンコフ、『宮廷画家ゴヤは見ていた』(06)などにも出ているスペインの俳優ラモン・ランガ、ソビエト時代の国民的な人気コメディ俳優ワレリー・ゾローツキン、本業は映画監督のヴィクトル・シャミロフなどが脇を固めている。

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ポーランド軍の反撃に備えるアンドレイたち

いよいよ敵からの総攻撃が始まった

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砲弾が命中して上半身を吹き飛ばされる住民

次から次へと砲弾が発射される

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容赦なく降り注ぐ砲弾の嵐に、逃げ惑う人々と破壊される建物

城壁も砲弾によって次々と破壊されていく

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戦闘の混乱が続く中で神に祈りを捧げるクセーニャ

大勢の歩兵部隊がナヴォロークに近づく

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次から次へと城壁をよじ登っていくポーランド兵たち

決死の覚悟で闘うアンドレイだったが…

 

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